拡張する調べ学習 : 図書館から図書館を超える
著者 天野 由貴
雑誌名 同志社図書館情報学
号 19
ページ 1‑10
発行年 2008‑07‑31
権利 同志社大学図書館司書課程
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011811
拡張する調べ学習
―図書館から図書館を越える―
天 野 由 貴
「総合的な学習の時間」の定着により、学校図書館の中で「調べ学習」が 日常的に行われるようになった現在、「調べ学習」 は「探求する学習」 へと 進化しはじめている。生徒の学習が変化するに伴って、学校図書館専門職の 役割も、生徒の学びを拡張するために、情報リテラシーの育成を支援すると 共に、図書館を越えて外の学習空間へ「はしご」をかけるという役割が出て きた。また、情報リテラシーを活用するための、より高次なメタ認知能力の 育成を行うことの重要性も考えられ、生徒の学びを拡張するためには、学校 図書館の機能も共に成長しなければならない。
1.はじめに
「総合的な学習の時間」の始まりから、学校図書館において、さまざまな
「調べ学習」が数多く実施されてきた。また、平成15年に12学級以上の学校 において司書教諭が配置され、「総合的な学習の時間」 と言えば学校図書館 というように、様々な研究会や研修会で、学校図書館を活用した様々な実践 報告がなされてきた。 しかし、「総合的な学習の時間」 が始まる以前から、
学校図書館関係者は、どうやって学校図書館を活用してもらおうかと、試行 錯誤しながら、「調べ学習」 を展開してきた。 その経験から、 やっと学校図 書館が注目され、利用されるようになってきたこの機を逃してはいけないと、
一気に学校図書館を学びの中核に位置づけるため、すべての「調べ学習」、「総 合的な学習の時間」を学校図書館の中で実施しすぎてはいないだろうか。
確かに、横断的な「調べ学習」、「総合的な学習の時間」のために、学校図 書館は必要である。しかし、すべての学びは、学校図書館の中だけで完結す るはずがない。
2.調べ学習の限界と発展
現在、 一学期間など、 ある程度の期間で区切って行われる、「調べ学習」
の多くは、調べてまとめる範囲や課題が設定され、テーマ等があらかじめ決 まった学習である。これらの「調べ学習」を繰り返すことで、情報収集のス キルや情報源についての知識などを身につけることは可能であるが、このよ うな学習には、限界があると考えられる。情報リテラシーを身につければ、
与えられた課題を解決していくことは容易になる。しかし、容易になること と、使いこなしていくことは異なる。使いこなすためには使いこなすための 能力が必要になる。
生徒が、自立した学習者になるためには、生徒自らが設定したゴールや課 題を解決し、生徒が主体的に学んでいくための能力を身につけさせることが 重要である。また、生徒自らが設定したゴールに向けての主体的な学習は、
学校図書館の中だけで完結する学習ではなく、図書館から広がり発展してい く、探求する学習である。
文部科学省[1]が、新しい学習指導要領の答申の中で、
平成19年6月に交付された学校教育法の一部改正により、小・中・高等 学校等において「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な 知識及び技能を習得させると共に、これらを活用して課題を解決するた めに必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に 学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と 定められたことを受けて、学力の重要な要素を、①基礎的・基本的な知 識・技能の習得、②知識・技能を活用して課題を解決するために必要な 思考力・判断力・表現力等、③学習意欲である
と明確に示している。この中の、②知識・技能を活用して課題を解決するた めに必要な思考力・ 判断力・ 表現力等にある、「思考力や判断力」 が、 これ からの生徒が身につけていかなければならない能力であり、学校図書館が支 援してきた情報リテラシーの育成と共に、支援しなければならない能力であ る。生徒が情報リテラシーを、自ら組み立て、コントロールし、使いこなす 能力を身につけることで、生徒の学びの空間は、拡張していくのである。
3.拡張する学びとは
生徒の学びの空間が拡張する、ということの具体的な内容は以下の図1に 示す。図1が示すように、生徒の学びは円の内側で示す学校だけで完結する ものではない。もちろん、学校の中に含まれる、学校図書館の中でも完結は しない。
生徒は、従来自分が持っている知識に、授業などから新しく得た知識を統 合することで、学びの空間を拡張していく。学びの始まりには、学校の中で 与えられ、学校図書館の中で解決できていた課題も、生徒の学びの空間が拡 張していくにしたがって、その範囲を拡大し、学校を超えたところにも、自 らの解決すべき課題を見つけるようになる。
また、学校図書館は、生徒の学びを支援する役割を担い、その役割とは、
図1 拡張する学び(著者作成)
さまざまな知識や情報源を利用し活用する知識や方策を提供することである。
その役割から、多くの学校図書館では、生徒の情報リテラシーを育成するた めのさまざまな知識や方策を提供してきた。そのような機会を得ることで、
学校図書館は活性化し、日常的にさまざまな授業を、学校図書館の中で行う という学校も少なくはない。
ただ、ここで気をつけなければいけないのは、生徒の学びは、学校の中だ けでは完結しないということを、学校図書館に関わるものは忘れてはいけな いということである。学校図書館は、将来的に、今、目の前にいる生徒が自 立した学習者になるために、その学びを支援していくことが役割である。そ れは、生徒自らが自分の解決すべき課題を見つけ、ゴールを設定し、そのゴー ルを目指して、今まで得た知識や方策と新しく得た知識や方策を統合しなが ら解決できるための土台を、学校図書館の中で完成させるということである。
その土台になる知識は、情報リテラシーに関するものやスキルだけではなく、
より効果的に情報リテラシーを組み立てる能力をも含む。卒業してから先の 将来、生徒が学びの空間を拡張していくための、情報リテラシーと共に、情 報リテラシーを管理できる能力を身につけることが重要なのである。
4.探索行動を自分で管理する
生徒が、今までに得た知識と新しく得たさまざまな分野の知識を統合し、
問いに答えながら、一つのテーマを探求する学習をよりスムーズに行うため には、生徒自らが自分の認知行動を自分で管理できるようになることが重要 になる。
自らの認知行動を自分で管理する能力を、メタ認知能力という。このメタ 認知能力とは、John Flavell[2]がいう、“思考についての思考する能力 であり、問題解決者としての自分自身に意識的に気づく能力”のことを言い、
複数の領域に渡って応用できる能力である。また、John T. Bruer[3]に よれば、メタ認知能力とは、「自らの問題解決行動の結果を予測する能力」、「自 らの行動の結果を評価する能力(うまく解決できたか)」、「自分の進行をモ ニターする能力(自分はどのように解決しているのか)」、「自分の活動と解
決方法がどの程度合理的か確かめる能力(意味があるのか)」 であるという。
Bruerは、これらのメタ認知能力を「自分自身の問題解決に批判的になる能
力」と考えている。ここでいうメタ認知能力とは、問題解決者としての自分 自身に意識的に気づく能力、そして自分の認知行動を監視・抑制・管理する 能力をいう。具体的には、知識をどのように利用するか、認知作業をどの過 程、どの時期に行うかなどの意思決定をコントロールすると共に、認知行動 の先にあるゴールを設定し、そのゴールに至るまでの戦略を組み立て、計画 実行する能力のことをいう。また、情報リテラシーを育成する際に、メタ認 知能力の育成を行えば、生徒自らが認知過程全体を意識的に評価し、より適 切で最適な認知行動を選択修正できるようになり、その過程を繰り返すこと で情報リテラシーをより高めることが可能と思われる。
学校図書館メディアプログラムにおいて、先進国である米国では、学校図 書館ガイドライン、「インフォメーション・パワー」(1998)[4][5]の情 報リテラシー基準における、熟達のレベルに、B. S. Bloom[6]の教育目 標の分類である、タキソノミーの認知領域を採用している。また、このタキ ソノミーの認知過程を基に構成された、情報問題解決アプローチには、有名 なBig6アプローチ[7]もある。さらに、2001年にはBloomのタキソノミー は改訂され、「メタ認知」が新たな知識として導入された[8]。カナダ、ア ルバータ州においても、教員養成時に使用される探求学習のテキスト、“Focus on inquiry”「9」の探求モデルにおいて、メタ認知能力が核として置かれ ている。すでに、情報探索行動、情報リテラシーの育成を考えるとき、メタ 認知能力の育成は必須なのである。
生徒が、メタ認知能力を身につければ、生徒自身が学習体験の記憶を応用 できるようになり、自らの記憶を応用し、生徒自身で学習環境を拡張できる ようになる。また、過去の記憶や体験からの推測が、戦略を立てることに有 効に働き、より効果的な学習経験を得ることになる。
ここで重要なのは、生徒が、自分の探索行動を管理し評価する時、その結 果に対する感情をも含めて管理することに意味があるということである。そ れは、自分の探索行動の結果に「不満」を持つことは、自分の探索行動に対 する要求が満たされていないことが原因であることが多く、その「不満」が、
次の探索行動をより良いものにするための動機づけとして、かなり能動的な 動機づけとなるからである。
情報探索過程のメタ認知能力に関する先行研究として、V. H. Harada[10]
が、情報探索過程で生徒が記録した記述から、認知的な側面と感情に関する 側面のデータを収集し、分析を行っている。
Harada の調査では、感情に関する分析に、Kuhlthau[11]の調査にお
ける分析のレベルを利用し探索過程記録と共に分析している。この感情に関 する分析において、自らの探索過程や成果に「不満」と答えた生徒は、探索 過程や成果の自己評価で、さらに高度で効果的な戦略や成果を目指したいと いう感情を「不満」と表す、という結果があげられている。このことからも、
生徒が試行錯誤できる学習の機会をつくり、時には失敗することも重要で、
必ずしも、満足のいく結果が得られる課題ばかり与えないということが重要 である。課題の設定から生徒に任せ、試行錯誤の過程において「不満」の感 情を抱かせるぐらいのほうが、次の良い探索行動を生む強い動機づけを生む ことになる。
なぜ、自分の探索行動に対して「不満」なのか、探索行動中の記録に、自 分の感情も含めて記録し、その記録を分析することは、生徒自らが、より効 果的な探求学習を生む動機づけをすることになり、ここで生まれた動機づけ は、他者からの働きかけでは生まれない、新しい学習に対するかなり強固な 動機づけとなる。
5.「学校」図書館専門職
では、「学校」 図書館専門職であるためには、 今後どのような役割を担う ことが重要になるのか。
これは、学校図書館に限ったことではないが、図書館専門職は、利用者に とっては「知のナビゲーター」である。学校図書館においても同様で、生徒 の知的好奇心を満足させ、さらに知的好奇心の幅を広げていくための方策や 知識を与えるナビゲーターの役割を担っている。また、生徒の学習空間にお いて、学校図書館を1つのゲートウェイとし、図書館を通じて、生徒の様々
な要求と、生徒が求める情報源等に「はしご」をかけ、生徒の学習空間を拡 張するという重要な役割をも担う。
ゲートウェイとは、それぞれ規則や言語が違うネットワーク上で、その中 にある情報を相互に変換して伝達することを可能にする機器のことを言うが、
学校図書館でのゲートウェイ機能とは、生徒が学校図書館から新たな知識を 得るために、学校を取り巻くさまざまなネットワークを利用し情報を探索す るとき、学ぶために必要な知識や方策を図書館専門職が提供し、他の情報源 からの情報を入手しやすく、また入手した情報を利用できるよう、読み解く 方法やそのための知識を提供することをいう。情報を入手し、読み解き、そ して加工、発信する能力を身につけた生徒は、生徒自身が自らの「学び」を 拡張していく。図書館専門職は、生徒の新しい知識の統合が活発にそして発 展的に行われるよう支援するだけではなく、生徒自らが、必要な能力を育成 できるような枠組みを提供していく必要がある。
生徒の「学び」は学校の中だけでは終わらない。生徒自身が自らの「学び」
を拡張できる能力、すなわち生徒が自立した学習者になるための、メタ認知 能力を身につけるよう支援することが重要なのである。
6.図書館から図書館を越える
学校図書館を活用した取り組みが、かなり活発に行われている現在、総合 的な学習の時間だけでなく、さまざまな教科の授業においても、日常的に学 校図書館が利用される、ということが当たり前になっている。そのため、学 校図書館は整備され、図書館専門職として、学校司書や司書教諭が配置され、
さまざまな取り組みが提供されてきた。
では、学校の中にすばらしい学校図書館がなくては、良い調べ学習ができ ないのか、というとそうではない。どんなにすばらしい図書館があっても、
どのようにその図書館を活用していけばよいのか、その方法や知識を提供で きなければ、その図書館は十分活用されず、知の宝庫ではなくただの書庫と なる。
ましてや、現代にはインターネットがあり、どこからでも情報を検索する
ことが可能で、ある意味情報は氾濫し、探さなくても与えられる。こういう 時代だからこそ、情報を自らの力で選び、読み解いていくことに意味がある。
ランガナタンの『図書館学の五法則』[12]に「図書館利用者の時間を節約せ よ」とあるように、図書館専門職は、生徒の学習時間をより深く内容の濃い ものにするために、必要な知識や方法を提供することで、生徒の情報探索に さく時間を合理的に節約できるよう、意識しなければならない。生徒が、学 習のための情報探索に、かなりの時間を費やしているのなら、その時間を短 縮できるような方法や知識を提供しなければならない。
現代の学校図書館に課せられている使命は、すばらしい図書館を作ること ではなく、生徒の学習を拡張していくために必要な知識や方策を提供できる、
図書館専門職を育成し、全ての学校図書館に配置していくことである。図書 館専門職であっても、図書館という枠にとらわれず、図書館のゲートウェイ 機能と、将来的に自立した学習者になるための知識や能力、そしてその知識 や能力を活用していく能力、メタ認知能力を育成していくことに重点をおき、
どこまでも無限に学習空間を拡張できる能力の育成に取り組むべきである。
先に書いた、ランガナタンの図書館学の五法則には、「図書館は成長する有機 体である」ともある。図書館は、図書館を生かしていく人がいてこそ、有機 体になる。そこにいる図書館専門職や図書館を利用する利用者が成長するこ とにより、図書館は真の成長する有機体になる。学校図書館も、成長する有 機体なのである。
学校図書館専門職であるためには、そろそろ学校図書館という囲いを越え て、もっと自由に柔軟に学習環境を拡張していかなければならない時期に来 ているのではないだろうか。
7.おわりに
学校図書館専門職は、学びのコミュニティの担い手でもある。生徒が、学 びのコミュニティの一員となる第一歩が学校であり、学校図書館専門職も、
その成長を支援し育成する一員となる。生徒が、自立した真の学習者になる ための知識を、なるべく早い時期に身につけられるかどうかということは、
その後の生徒の学びの拡張と学習者としての成長に多大な影響を与える。そ れは、学校という枠組みの中だけではなく、生徒を取り巻く環境を学びのコ ミュニティ、学習環境にできるよう、図書館専門職が、図書館から外に広が る、生徒にとっては未知の学習領域に、「はしご」をかけ、生徒が上手に渡っ ていけるよう、図書館から図書館を超えていけるように支援できるか、その 重要な役割を果たせるかどうかにかかっている。
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(あまの ゆき。2008年5月7日受理)