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第 4 分科会図書館情報学教育 学校図書館専門職員養成のこれから IFLA 学校図書館ガイドラインを踏まえて 基調報告 IFLA ガイドラインとこれからの人の養成 岩崎れい ( 京都ノートルダム女子大学 ) 報 告 学校図書館の現場から考える IFLA ガイドラインと人の養成庭井史絵 ( 慶應義塾普

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第 4 分科会 図書館情報学教育

学校図書館専門職員養成のこれから

―IFLA 学校図書館ガイドラインを踏まえて―

基調報告

IFLA ガイドラインとこれからの人の養成

岩崎れい(京都ノートルダム女子大学)

報 告

学校図書館の現場から考える IFLA ガイドラインと人の養成

庭井史絵(慶應義塾普通部)

報 告

日本の学校図書館における読書活動の支援と人の養成

鈴木佳苗(筑波大学図書館情報メディア系)

分科会概要

2015 年8月に国際図書館連盟(IFLA)より『IFLA 学校図書館ガイドライン』(IFLA School Library Guidelines,以下「ガイドライン」)が改訂・公表されました。改訂されたガイドラインでは,これまでと 同様,読書や学校のカリキュラムへの言及とともに,新たにラーニング・コモンズや電子情報資源の役割 拡大,さらにはアドヴォカシーの重要性などにも言及しています。新たなガイドラインでは,教育のニー ズの変化にともなって,学校図書館も発展するべきとの考えが貫かれています。 日本においては,2015 年より文部科学省に「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」が設 けられ,学校司書の資格と養成のあり方等について検討されています。これは,2014 年の学校図書館法改 正時の附則に基づくものです。この調査研究協力者会議のもとには「学校司書の資格・養成等に関する作 業部会」が設けられ,学校司書の資格・養成のあり方について集中的に審議されています。 第4分科会では,2014 年の学校図書館法改正により,司書教諭と学校司書という二つの職が併存するこ とになった日本の学校図書館の状況を踏まえた上で,ガイドラインという世界的動向も視野に入れた学校 図書館に関わる「人」の養成のあり方について議論し,認識を共有していきたいと考えています。とりわ け,司書教諭・学校司書という二つの職の養成制度や教育内容を丁寧に議論することにより, 将来に向け た養成のあり方について認識を深めることを目指します。 こうした目的を設定したのは,つぎの理由によるものです。 学校図書館の職務は多岐にわたっています。現在,それらの職務を,司書教諭が発令されていない学校 図書館では学校司書が,学校司書が任用されていない学校図書館では司書教諭が,それぞれ主に担ってい ることでしょう。司書教諭が発令され,学校司書が任用されている学校図書館であれば,相互に協働しつ つ職務を担っていると想定されますが,この場合でも任用の条件によって協働の実態は,個々の図書館の 状況に応じたものになると考えられます。このように,現在の日本においては,発令や任用の状況が多様 であり,具体的な職と職務を明確に区分した上で,それぞれの職の養成のあり方を議論するのが困難な状 況にあります。 そこで,今回の分科会では,学校図書館に携わる職員(司書教諭であれ,学校司書であれ)に,全体と してどのような知識・技能が求められるかに焦点を合わせた議論をしていきたいと考えています。

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具体的には,まず基調報告として,ガイドラインの改訂に携わった岩崎れい氏(京都ノートルダム女子 大学)より,ガイドラインの概要と,そこで求められている学校図書館の専門職員の知識・技能について 報告していただきます。 つぎに,庭井史絵氏(慶應義塾普通部)より,ガイドラインを踏まえた上で,専任司書教諭という立場 から見た,学校図書館の現場で求められる知識・技能と,司書教諭や学校司書の養成課程で学ぶべき内容 について,報告していただきます。 最後に,鈴木佳苗氏(筑波大学図書館情報メディア系)より,読書研究の知見に基づいて,現在の日本 の学校図書館の「人」の養成において欠けている点や今後期待される点について,報告していただきます。 以上の報告をもとに,ガイドラインが求める学校図書館,そしてそれを有効に機能させる専門職として の学校図書館の専門職員の養成のあり方について,日本的文脈を意識しつつ,登壇者間で討論をし,また, 会場の参加者からの質問に答えながら,将来に向けた課題を議論していきたいと考えています。 (松本直樹:大妻女子大学社会情報学部)

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基調報告

IFLA ガイドラインとこれからの人の養成

岩崎れい(京都ノートルダム女子大学)

1.IFLA 学校図書館ガイドライン改訂の概要 IFLA の学校図書館部会では,学校図書館の理念,サービス,人的資源の専門性,評価の方法などにつ いて,世界各国の多様性を鑑みながらも,共通する基準を探るべく,2015 年に『IFLA 学校図書館ガイド ライン』の改訂をおこないました。 今回改訂されたガイドラインの構成は以下のとおりです。 1章 使命と学校図書館の目的 2章 学校図書館の法的・財政的枠組 3章 学校図書館の人的資源 4章 学校図書館の印刷資料とデジタル資料 5章 学校図書館のプログラムと活動 6章 学校図書館の評価とPR 2002 年版には特に詳しくは言及されていないか,まったく触れられていなかった項目として,新しく2 章に法的・財政的枠組が,6章に学校図書館自体の評価と広報活動に関する内容が,視点を変える形で追 加されました。 また,学校図書館の定義を明記し,学校図書館は学校教育の一部を担う存在として,児童生徒の読書や 学習の支援,教師の教材準備の支援など直接のサービスと,それを後方から支える資料組織やコレクショ ン構築など多岐にわたる役割を果たすことができるとしています。 今回は,その中でも学校図書館の専門職が学校教育で果たす役割とそのための養成という観点から議論 をしていきたいと考えています。 2.学校図書館の役割と学校図書館員の専門性 ガイドラインの3章では,学校図書館の人的資源について,専門職と準専門職とボランティアに分けて, その役割を説明しています。特に専門職については,教育的指導,マネジメント,リーダーシップと連携, コミュニティへの参加,図書館プログラムとサービスの促進の5項目に分けて述べています。その中で教 育的指導の役割に関しては,‘literacy’と‘reading’の促進,情報リテラシー,探究型学習,技術統合, 教師の専門性向上に関わるものであるとしています。これらは,互いに深く関連し合っています。 学校図書館に人が配置されているかどうかは重要なポイントでとされ,2002 年版にも比較的詳しく触れ られています。改訂版では,豊かで質の高い学校図書館プログラムを提供するためには学校図書館内外の 人材の確保が必要であると述べ,学校図書館は教えたり学んだりする機能を持つため,学校図書館プログ ラムは教師と同レベルの教育やその準備ができる専門職によって提供されるべきであるとしています。ま た,その専門職が指導や運営などに専念できるよう事務的・技術的サポートをするスタッフの必要性も示 唆しています。 この専門職についての記述を決めるときに議論になったのが,どのような用語でその専門職を表すかと いうことです。国や時代によって表現が違い,現在でも各国の言語で,school librarian 以外に,school

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library media specialist, teacher librarian, professeurs documentalistes などの用語が使われているこ とから,このガイドラインではどの用語を使うかを検討しましたが,結果として librarian という語が, 教師の資格の有無にかかわらず,また館種にかかわらず,世界中でもっとも汎用的に使われている語であ ろうということになり,今回はこの語が使用されることになりました。 また,学校図書館のプログラムと活動について記した5章をはじめとする他の章でも,学校図書館の役 割について論じていますので,その人的資源である専門職がどのような知識や技術を持っているかという 事項とも深い関わりが生じています。たとえば5章では,学校図書館は学校での学びにおいて不可欠な要 素であり,児童生徒の主体的な学習への参加や多様な学習者の受け入れや幅広いコミュニティと関わるこ となど社会的な目標にも貢献する必要があるとしています。その上で,学校図書館の目標は,リテラシー やカリキュラムに基づいた学習やシチズンシップの育成といった学校自身の目標に沿っているべきであり, その実施の基礎となるのが情報資源と人的資源であると述べています。 それらの役割も踏まえながら,特に学校図書館における読書・学習の支援を充実させていく上で,学校 図書館の専門職がどのような知識・技術を必要とし,またそのための養成に求められる要素とは何かを中 心に考えていきます。 3.ガイドラインにみる読書に関する学校図書館の役割 日本でも,子どもたちの読書力をどのように育成し,どのように読書習慣をつけていけばよいのか,と いう議論が常に行われています。20 世紀後半には,文庫活動など民間の取組や公共図書館における児童サ ービスが子どもの読書活動に寄与してきましたし,特に近年は,2001 年に「子どもの読書活動の推進に関 する法律」が制定されたのをはじめとし,子どもの読書活動促進のための行政施策が力を入れて行われる ようになりました。行政施策の充実は,学校図書館の充実の気運にもつながってきてはいますが,学校図 書館をどのように学校教育に生かすのか,また,そのために必要な人材はどのような力を備えた人か,と いった議論はまだ途上の段階です。 学校図書館の役割のひとつである読書の支援についても同様で,長い間,この活動は学校図書館の重要 な役割とされてきたにも拘らず,読書の定義,意義,また支援の方法などは,まだ十分に共通の土台を築 いていない点があります。そのことも踏まえながら,ガイドラインでは読書をどのように捉えているかを 見ていきたいと思います。同時に,「読書」と‘reading’が必ずしも同義ではないことにも言及しておき ます。 ガイドラインの序文では,国によってさまざまな事情があることを踏まえたうえで,読書に関する学校 図書館の役割は本質的な部分では共通であるとしています。たとえば,熱心で力のある読者を育てること について,‘reading promotion,’‘reading widely,’‘free voluntary reading,’‘leisure or recreational reading,’‘reading for pleasure’などの表現が使われますが,どの国においても学校図書館のプログラ ムや活動においてよく読める読者を育てることが重要であることは共通であり,その点では‘bibliographic instruction’や‘user education’についても同様で,現在は‘information literacy’や‘inquiry’との 関連が深くなってきていると述べています。

また,ガイドラインの5章では,研究によると,読書力と学習成果との間には密接な関係があり,読書 材に接することは熱心で力のある読者を育てる大事な鍵になることが明らかになっている,と述べていま す。学校図書館の専門職は,実際的かつフレキシブルに,利用者に読書材を提供し,読者の読みたいもの

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を読むことや読書材を選択する個人的な権利を認識することをサポートするべきであるとしています。読 むことに困難を覚える子どもたちのニーズに合わせた支援も含めた読書権の保障と支援が,言語力の育成 に影響を与えるとして,学校図書館の専門職が担う役割の重要性に言及しています。 上記の内容をもとに,日本の学校図書館が子どもの読書において果たすことのできる役割とそのために 学校図書館の専門職がどのような知識や技術を備えていなければならないかを考えてみます。 4.ガイドラインにみる学習に関する学校図書館の役割 学習と読書は不可分の存在ではありますが,ここでは主に学校におけるカリキュラムとの関わりについ て考えてみたいと思います。すでに述べたように,ガイドラインにおいても,読むことと探究することと の関連は深くなりつつあることに言及しています。また,学校教育が‘教授中心から学習中心へ’と変化 していることから,‘資料中心から学習者中心へ’と図書館が発展するためには,資料の多様化によって利 用者の学習及び個人的ニーズを支えること,情報技術の活用によって図書館内・開館時間内にとどまらな いサービスを実現すること,‘ラーニング・コモンズ’などの新しい概念のスペースを提供していくことな どに触れていますが,施設や情報環境の整備においては地域差の大きいことが改訂作業中にも指摘されま した。 ガイドラインの5章で述べられている探究型学習のモデルに関する節では,探究型学習の指導モデルは 一般的に,学問の世界と現実世界をつなぎ,教科の枠を超える学習プロセスを提供する方法として使われ ているとしています。すでに存在する指導モデルに共通の土台となる概念として,探究型学習ができると いうことは,得た情報から意味を構築することができ,適切なプロセスをふんでよい作品を創り出すこと ができ,一人でもグループでも学習する方法を習得しており,責任をもって倫理的に情報や情報技術を使 いこなすことができるということが基本にあると考えられています。 日本でも探究型学習は注目されていますが,一部の学校での取り組みが進んでいるものの,まだ十分に 方法論が確立しているとはいえません。日本では,このような児童生徒の主体的な学びを尊重する学習を 充実させるために,学校図書館の専門職はどのような役割を果たすのかを考えてみたいと思います。 5.日本におけるガイドラインの適用の可能性と課題 IFLA の学校図書館部会では,ガイドラインの改訂で議論してきたいくつかのポイントの中でも,2017 年度に向けたアクションプランとして,読書文化の醸成と学校図書館職員の専門性向上のための教育・研 究に焦点を当てようとしています。 この2点は近年の日本でも注目されているテーマでもあります。現在他の国々でも重要なテーマとして 捉えられていることから考えると,日本の教育制度や法律,文化に即した課題解決が不可欠であり,同時 に国際的な動向を見据えた議論が求められているのではないかと思います。その点からしても,今回の改 訂されたガイドラインを日本でどのように活かしていくかを検討していくことは,課題解決に向けてのひ とつの方法とすることができるのではないでしょうか。 参考文献:

The IFLA School Libraries Section Standing Committee. IFLA School Library Guidelines. 2nd revised edition. June 2015.

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報 告

学校図書館の現場から考える IFLA ガイドラインと人の養成

庭井史絵(慶應義塾普通部)

1.はじめに 学校司書の法制化に伴って,その資格や養成制度が議論されている。そこでは常に,学校司書と司書教 諭を比較し,両者の共通点と相違点を整理しようという努力がみられる。現に二職種が存在している日本 の学校図書館では,役割分担を前提とした制度設計が喫緊の課題であると言えるが,一方で,現場におけ る協働の実態がさまざまである以上,学校図書館を担うために必要な知識や技能を,総合的に検討するこ とも重要である。

そこで本発表では,昨年改訂された『IFLA 学校図書館ガイドライン』が示す School Librarian の定義 を手掛かりに,司書教諭と学校司書の別なく図書館業務全般を担ってきた経験から感じた,日本の「学校 図書館員」に求められる知識や技能について報告する。

2.IFLA ガイドラインが描く School librarian 像

2015 年 8 月に発表された『IFLA 学校図書館ガイドライン』の第 3 章 Human Resources for a School Library をみると,School librarian は,学校図書館における授業や生徒の学びを促進するために,教員と 同じレベルの教育を受けた専門職であること,かつ,彼らが専門的な職務(教育活動,管理運営,協働, リーダーシップ等)に従事するために,訓練された事務的技術的スタッフであるParaprofessional school library staff のサポートが必要,とされている。 また,School librarian は,学校図書館全般と,教室での教育活動という二つの専門教育を受けること によって,学校図書館の運営,読書力やリテラシーの向上,教員とのコラボレーションといった難しい職 務を果たし,教育活動に参画できることが,50 年以上にわたる研究の結果明らかになったとしている。そ のような養成課程を有する国の例として,フランスの中学高校レベルの School librarian(ドキュマンタ リスト教員)が,教科教員と同様のプロセスを経て免許を取得し,教員と同じ地位にあることが紹介され ている。 翻って,日本の学校図書館を担う司書教諭や学校司書が,IFLA ガイドラインに示されたような専門性 を身につけることは非現実的だと捉えられるかもしれない。しかし,先進的とされる学校図書館の事例を 見ると,司書教諭であれ学校司書であれ,学校図書館の管理運営はもちろん,教員と協力して指導案を設 計し,読む力や書く力の教育に携わり,情報リテラシーを育み,さまざまな社会的リソースを学校のなか に取り込みながら,図書館活動を学校全体の教育活動に位置付けている。すなわち,IFLA が示す School librarian 像と,概ね,同じ能力を発揮して,図書館業務にあたっていると言える。 3.司書教諭と学校司書の意識 2014 年から 2016 年にかけて実施している「学校図書館職員の技能要件と資格教育のギャップに関する 実践的研究」(科学研究費補助金,平成26-28 年度,研究代表者:小田光宏)のなかで,充実した活動実績 のある司書教諭や学校司書に対し,司書教諭/司書の養成課程で取り扱う知識や技能と,現場で求められ る知識や技能とのギャップについてインタビューを行った。まず,養成課程で用いられるテキストブック に取り上げられている知識や技能の一覧を作成し,(1)これらを現場で用いているかどうか,また,資格取 得にあたって学ぶ必要があるかどうか,さらに,(2)養成課程で取り扱われていない知識や技能で,現場で

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仕事をするうえで必要と感じられるものは何か,について答えてもらった。 (2)の質問に対して,司書教諭と学校司書それぞれが,学校現場で必要と考える知識や技能を挙げた。例 えば,インタビューに答えた学校司書全員が「教育や学習に関する知識」,具体的には,教育課程,学習指 導要領,カリキュラム,教育心理学などが必要と答え,その他にも,学校組織,情報メディアと情報環境, デザインといった項目が挙がった。また,司書教諭が必要と考える知識や技能は,学校図書館活動計画の 立て方,教育課程における図書館の位置づけ,最新の教育動向と学校図書館の関係,ICT,児童文学など についてであった。

これらは,『IFLA 学校図書館ガイドライン』が示す,School librarian に必要な専門教育の内容と一致 しており,日本の司書教諭や学校司書も,学校という文脈に根差した知識や技能の必要性を感じているこ とが分かる。 4.学校図書館専門職員としての仕事 筆者は,私立男子中学校の専任司書教諭として,学校図書館の業務全般を担っている。ここで言う専任 とは,教科の授業を担当しながら学校図書館の仕事もしている「充て司書教諭」ではないという意味で用 いる。専任司書教諭として,学校図書館の運営と,図書館利用教育や読書教育に専ら携わりながら,各教 科における情報リテラシー教育や探究学習の計画や実施に関わり,一方で,他の教科教員が授業以外に分 担している業務-例えば,担任,クラブ顧問,学校行事引率,校務分掌等-を同じように行っている。そ の結果,図書館に「常駐」できるわけではなく,サポートスタッフである非常勤の司書に多くの業務を依 存しつつ,図書館を運営している。 このような職務を担う「司書教諭」を本校が募集した際(2000 年当時)の条件は,「修士号」「司書教諭 の資格(教科は問わず)」「司書の資格」「学校図書館における実務経験」「情報教育に携われること」であ った。これは,学校図書館の専門家であると同時に,教科教員と同じ立場で教育活動に携わることを求め られていたことを示している。教育活動の中には,前述したように,図書館に直接関わらないような業務 も含まれるが,学校図書館員が学校の教育活動に積極的に携わるためには,そのような資格や能力が必要 と,学校側が考えていたと言える。 実際に働いてみて,図書館全般に関する(司書課程で学ぶような)知識や技能が必要であったのはもち ろんだが,教員と一緒に授業を作ったり,生徒の指導にあたったりする時には,教職課程で学んださまざ まな知識が役立った。特に,授業のねらいや成果について議論するとき,教員と同じ「言語」で語ること ができる利点ははかりしれない。 日本にも,筆者のような「学校図書館員」は存在している。彼らは採用形態こそ,司書教諭であったり 司書であったりするが,図書館学と教育学の両方を学んでいる場合が少なくない。また,大学院に進学し たり,教育関係の学会や研修会に参加したりして,自らの知識や技能を広げようとしている。 5.まとめ

本稿では,『IFLA 学校図書館ガイドライン』における School Librarian の定義を踏まえて,日本の学校 図書館員に必要な知識や技能について,現行制度の枠にこだわらず述べてきた。そして,このような知識・ 技能が,机上の空論でも理想論でもなく,日本の学校教育に図書館を活かそうとする多くの司書教諭や学 校司書が獲得しようとしている能力であることも示した。

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ガイドラインの3 章 5 節に挙げられた「学校図書館専門職が果たす中心的役割」,すなわち,教育活動, マネジメント,リーダーシップ,コラボレーション,地域社会との連携に必要な能力は日本の学校図書館 員の養成にも大いに参考になると言える。現場の人間として,現在議論がすすんでいる学校司書の養成や, 既存の司書教諭養成の課程においても,このような知識や技能が獲得できるようになることを期待する。

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報 告

日本の学校図書館における読書活動の支援と人の養成

鈴木佳苗(筑波大学図書館情報メディア系)

はじめに 読書には,本を読むこと自体を目的とした読書と,特定の知識や情報を得ることを目的とした読書があ る 1)。これまで,学校教育のなかでは「本を読むこと自体を目的とした読書」を「読書」という言葉で表 現することが多かった。しかし,調べ学習(さまざまな資料から必要な情報を収集し,整理・分析し,ま とめること)や探究的な学習(自分で課題を設定し,さまざまな資料から必要な情報を収集し,整理・分 析し,まとめること)の増加に伴って「特定の知識や情報を得ることを目的とした読書」の機会が増えて きている。 1. 読書支援に求められる学校図書館の役割 2015 年 6 月に改訂された『IFLA 学校図書館ガイドライン』によれば,学校図書館は,読書や探究的 な学習などの場として位置付けられている。学校図書館の活動においては,1) 熱心な読み手や優れた読み 手を育てること,2) 情報を活用できる人を育てることが重要であると述べられている。1)は,「はじめに」 で述べた「本を読むこと自体を目的とした読書」,2)は「特定の知識や情報を得ることを目的とした読書」 の機会にそれぞれ関連していると考えられる。日本においても,学校図書館が熱心な読み手や優れた読み 手,情報を活用できる人を育てる機能を重視している。2014 年 3 月に公表された『これからの学校図書 館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)』によれば,「読書セ ンター」としての学校図書館は「児童生徒が楽しんで自発的かつ自由に読書を行う場」であり,そのため に学校図書館職員は「読書活動の拠点となる環境整備」を行い,「学校における読書活動の推進及び読む力 の育成のための取組」を司書教諭と協力して行うことが求められている。また,「情報センター」としての 学校図書館は,児童生徒の情報活用能力の育成のために「図書館資料を活用して児童生徒や教員の情報ニ ーズに対応する」ことや,「必要な教材・機器や授業構成等について,教員と事前の打合せを行う」ことが 求められている。 2. 熱心な読み手や優れた読み手を育てるための支援と人の養成 学校図書館職員が児童生徒に対して「本を読むこと自体を目的とした読書」への支援を行う際,個人に 対して行う支援と,集団に対して行う支援がある。また,教員が同様の活動を計画し,実践する際の支援 も行う。 個人の児童生徒に対する支援では,熱心な読み手,優れた読み手を育てることに共通して,それぞれの 児童生徒の能力,性格,嗜好に適した「適書」を薦めることが重要である。一般的,社会的に価値が高い とみなされた「良書」はすべての児童生徒の「適書」であるとは限らない。適書を薦めるためには,「良書」 や,それぞれの児童生徒の能力,性格,嗜好を知り,児童生徒とのコミュニケーションのためのスキルな ども備えた人材の育成が必要になる。 集団に対する支援では,主な目的が「熱心な読み手」を育てることか,「優れた読み手」を育てることか によって目的に対応した方法を決めて準備し,実践を行うことができる人材の養成が必要である。「熱心な 読み手」を育てる方法の例としてはブックトーク(あるテーマに沿って複数の本を順序立てて紹介する方 法)がある。ブックトークでは,難易度やジャンルの異なる本を異なる方法で紹介するため,取り上げる

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テーマ,本,子どもたちの年齢に応じた読む力や嗜好などに関する知識,本を紹介する方法に関する知識 やスキルなどが求められる。 「優れた読み手」を育てる方法の例としては読書へのアニマシオン(あらかじめ児童・生徒が指定した 本を読み,この本に対する創造的な遊び(作戦)を行う指導法)がある。読書へのアニマシオンは,使う 本や作戦の内容によって難易度が異なるため,アニマドール(子どもたちの読む力を引き出す仲介役)は 対象となる子どもたちの読む力を見て作戦を決め,準備を行う。そのため,アニマドールには,本,児童 生徒の年齢に応じた読む力に関する知識,さまざまな作戦に関する知識やスキルなどが必要になる。また, 事前に児童・生徒が本を読むためには人数分の本が必要になるため,複本の準備も行う必要がある。 3. 情報を活用できる人を育てるための支援と人の養成 『IFLA 学校図書館ガイドライン』によれば,学校図書館では,メディアや情報を活用し,教員と一緒 に学校図書館を活用した活動を計画し実践を行い,学校図書館の資料を充実させることなどができる人材 が求められている。メディアや情報の活用に関しては,日本でも,次期の学習指導要領の検討のなかで, 図書やインターネット上の情報のビジュアル化が進んでいる状況を踏まえて,学校図書館がテキストだけ ではなく,さまざまなメディアを用いて児童生徒の情報活用能力の育成を支援していくことが期待されて いる2 )『IFLA 学校図書館ガイドライン』でも,こうした支援はメディア・インフォメーション・リテラ シーの育成として取り上げられている。 教員と一緒に学校図書館を活用した活動を計画し実践を行っていくうえで,探求的な学習の過程で児童 生徒が難しいと感じる段階を把握することも重要である。探求的な学習の過程では,児童生徒が自分で課 題を絞り込む段階が非常に難しいとされる。この段階では,学校図書館職員や教員がコミュニティの専門 家(公共図書館員,学芸員など)と連携し,さまざまな情報源を利用した探索を支援するだけでなく,探 索から得たアイデアについて深く考えるための方法(ワークシートに書き出すなど)を提案していくこと なども求められている3) 4. 今後の読書支援に向けて 「熱心な読み手や優れた読み手を育てる」ためには,学校図書館職員が「良書」や「適書」に対する理 解を深め,目的や学年に応じた読書活動の方法や内容に関する知識や,実践のためのスキルを身につける ことが求められる。読書活動の方法や内容に関する知識は優れた事例から学ぶこともできるが,今後は, 児童生徒が発達段階に応じてどのような読書材に興味を持つのか,どのくらいの読む力があるのかを体系 的に理解し,読書活動の方法や内容を決める際に応用していくことが期待される。このような知識や,実 践のスキルの獲得によって,学校図書館専門職員が目的に応じてさまざまな方法(ブックトークやアニマ シオンなど)を選択できるようになると考えられる。また,「熱心な読み手や優れた読み手を育てる」ため には,1 度のみの活動ではなく,継続して実施し,長期的な効果を評価することも重要である。 「情報を活用できる人を育てる」ためには,探求的な学習の計画を立てるための知識(テーマやテーマ に関連した参考資料,コミュニティの情報源,探求的な学習の過程,メディアの特徴など),メディアや情 報を活用するスキルなどが求められる。学校図書館の資料の整備に関しては厳しい状況が続いており,急 に団体貸出などの物流ネットワークを形成することは難しい場合もある。このような場合でも,教員やコ ミュニティの専門家と連携した学習支援チームの形成は,学習の支援に大きな役割を果たすことが期待さ

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れるだろう。

引用文献

1) 池田茂都枝 (2002). 読書指導の実際 朝比奈大作(編) 読書と豊かな人間性 樹村房 pp.61-80. 2) 堀田龍也 (2016). 教育の情報化の動向と学校図書館の役割 学校図書館, (790), 16-17.

3) Kuhlthau, C. C., Maniotes, L. K., & Caspari, A. K. (2012).Guided inquiry design: A framework for inquiry in yourschool. Santa Barbara, CA: Libraries Unlimited.

第102 回全国図書館大会ホームページ 掲載原稿 URL:http://jla-rally.info/tokyo102th/

2016 年 9 月 21 日 作成 2016 年 10 月 4 日 更新

参照

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