• 検索結果がありません。

幼児 の歌声分析

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "幼児 の歌声分析"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

幼児 の歌声分析

〜発声指導 の手 がか りを求 めて

An Analysis of p reschool Children's Singing

― With Vocal Teaching in View

武 田 道 子

Michiko TAKEDA

(平 成 13年 10月 9日 受理 )

I序   論

五月のある日、たまたま通 りかか った幼稚園か ら子供たちの元気いっぱいの歌声が聞 こえてきた。

どうや ら園歌を歌 っているらしい。 もっと大 きなお口をあけて !  元気な声で歌 いま しょう !"―

指導 している先生の姿が日に浮んで くるようである。その歌声 は先生の期待 に答えようと頑張 って声 を張 り上 げ、それは叫び声のようにわた しの耳 に聞 こえてきたか らである。

以上の様な事例 は、幼児の歌唱指導の現場でよ く見 られる光景である。 楽 しく "・ 元気で "・

びのびと "・ 口を大 きくあけて"な ど、歌唱指導 に必ず用い られる合言葉である。

さて、幼児の柔 らかい声帯を保護 しなければな らない時期 に、果た して この様な言葉がけは有用な のであろうか。

蓑島 (1969)は 、 日本人年令別性別声帯長 (mal)に ついて、次のように示 している。

2歳    男  6.8    6.7 7歳     11.5   女   9.0

16歳     14.7   女  13.3

成人    男  20。 7(24.0‑17.0)   女 16.1(22.0‑15。 0)

また颯田 (1976)は 「 日本 ほど、幼少年の音声 について無関心な国は珍 しい。月ヽさいものが、 どん なに驚 くべき金切 り声を出 して叫ぼうとあたりは全 く気にしない。 これでは繊細な喉頭はめちゃめちゃ だ。〜」 そ して更 に「 日本の子供の大部分が小児頃声の患者であることだ。気がつかなければ うそで ある。」 と述べている。また、品川 (1955)も「子供の咽喉は、 トランペ ットで もなければ、軍隊 ラッ パで もない。」 と警告を発 している。

さて、幼稚園教育要領の領域「表現」 に音楽教育に関わる内容が包含 されるようになって 10余 年の 年月を経過 している。そ して、 ここでは特 に歌声 に関す る指導内容 は一切見当 らない。

しか し、平成元年度以前のその ものには、音楽教育 に関する内容 は、領域「音楽 リズム」 として独 立 して立て られていた。その為、かなり詳細な指導内容が盛 られていたのである。歌声指導に関 して も、 「 すなおな声、 はっきりとしたことばで音程や リズムに気をつけて歌 う。」 とある。更 にそのキ 旨導 の具体的ね らいの項 には、「〜 この事項 は、 いろいろな歌を歌 うことを楽 しむ うちに、発声、発音、

音程、 リズム等を、幼児 自身が しだいに気をつけるように し、音楽についての基礎的な技能を養 うこ

とをね らっている。 はじめは、思 う存分歌わせ るように しむけ、 しだいに、 口をはっきりあけ、 どな

(2)

256 武 田 道 子

らないで楽な声で歌 うように し、 さらに進んでは、発声に気をつけたり、音程や リズムに気をつけな が らなるべ く正 しく歌お うとするように導 く。」 と明記 され、幼児期における歌 う活動に関する大切 な内容が網羅 されている。

そ して現在、前述の事例 に戻 って考えてみれば、颯田の警告の通 りに、今 また何の反省 もな く無 自 覚な指導が繰 り返 されているのである。 しか し、以前の教育要領の中で育 った子供たちは特 に発声指 導 という側面で少な くともなん らかの指導を受 けていたのではないだろうか と思 うのである。

そこで、当時 (1980年 代 )の 幼児の歌声を 発声"と いう視点か ら分析す ることにより、発声指導 への手がか りが得 られるのではないかと考えたのである。現代の子供たちの歌声指導は、今正に早急 に求め られる課題であり、その意味で主題設定の意義 は大 きいと思 う。

Ⅱ   調査方法 と内容

1981年 当時の幼児の歌声 (筆 者が収録 したテープによる録音 )を 分析資料 とする。

1対   象

静岡 (4園 )0東 京 (1園 )の 保育園児

年長児  145名 (男 75名 0女 70名 )   年中児  146名 (男 72名 ・ 女 74名 )

2  手続き

課題曲   ことりの歌 (与 田準一作詞 0芥川也寸志作曲 )

暗唱出来 るまで、 テープ (筆 者が D― DURで 歌 った )を 遊 びの中で流 し、 さらに指導 も加える。

収録 は、 しゃ音 された個室での個別調査で、開始音を与えず無伴奏の自由唱 とした。

3  歌声の分析内容

・ 声域

・ 胸声 (地 声 )と 頭声的発声

・ 起声 (歌 い始め )と 止声 (歌 い終わ り )

・ その他、呼吸 (息 つ ぎ )な ど発声 に関わる内容

注 )こ こでは、 リズムや音程また発音などの分析 は、特に対象 としない。

Ⅲ      果

1声   域

(1)曲 の歌い始めか ら歌い終わりまでの最低音 と最高音。

1)最 高音 1点 G#以 下の者     註「○内は頭声的発声で歌 った者の内数」

1

1 0 0 0

︐   0 0 1 0

︐  

0 0 1 0

一 ク

︐ 一 0 0 1 0 年長 '40

年中

男 1

女 0 男 0

女 0

(3)

1 0 2 0

0      2 0     0

0  ① 3

2      0

1 1 2 1

1  l  ① l

O  ① 1  0

0      3      2 譜 2

3

4

5

,

3 3 2 0

0 1 0 0

τ

2 1 2 2 1

0 0 1

2 0 0 0

0 0 1 1

0 0 2 0

2 0 1 0

1 0 0 0

0 0 1 0

1 1 2 0

1 0 2 0

1 0 4 0

1 0 1 0

1 0 5 2

2 1 1 0

0  3  ① 5 2      0       1 3       1       1

0  ① 2  ① 2

F

l

0 0 0

1 2 1 1

O  ① l

0      0

び  "

1       1 0       2

l  ① l

O  ② 4 一 一 一

1 0

l

0

0 0 0 1

0 0 0 1

年長   男  0

女 0

年 中   男  0

女 1

0  6  2  ① l

O  ① l  ① 6  ② 3

1       0       1      1

0  1  ② 7  1

3  ⑤ 5

2  ② 3

3  ① 4 0     2

4  ① 5

2  ① l

3  ② 4

0     0

l  ① l 0     0

l  ① 2

1       1 0 0 1

2)最 高音 1点 B以 下の者

l  ③ 5  ① l O  ① l  ① l

(4)

O  ⑥ 6  ② 2 0  013    0

① l  ① 3  ① l

③ 4  ③ 6  ② 2

武 田 道 子

① l  ① 1  0

① 2  1  0

0      0      0

② 2  ① 2  ① l

艶 旧

鬱 )最 低音か ら最高音の声域

1)最 高音 1点 G#ま での者

減 3  減 4  完 4  増 4  減 5  5  増 5  短 6  長 6  増 6

年長 男 0101151553

年長   男  0

女 ① l

年中   男  0

女  1

女 年 中   男

0  0① 1  0

0   ② 3   0   ① l 1      0     0     0

0  ① 2 1  0

0      0     0

0  ① l  ② 2

0      0      1

① 1  0  0

0      0

① 1  0

0       0

l  ① l

0001 1025

0      1      1

3    11    0

2     3     2

5      10      1

女 0 0 1 o l

減 7  短 7  長 7  減 8  完 8  増 8以 上 2     4     9     0    13    2

1660103

1      8      3      1

0560

2)最 高音 1点 A#ま での者

3 1

完 5  短 6  短 7  長 7  完 8  増 8以 上 年長   男

女 年中   男 女

5   3   4   5

3)最 高音 2点 D#以 下の者

(5)

3)最 高音 1点 Bま での者

長 6  減 7  短 7  減 8  完 8  増 8以 上 年長     0  0  1  0  8  2

Jて     0     0     0     0    13    3 年中     1  0  0  1  4  0

女 011485

4)最 高音 2点 C#ま での者

短 7  減 8  完 8  増 8以 上 年長     0  0  1  0

女 1031

年中   男   0  1  0  0

女 1031

5)最 高音 2点 D以 上の者

ここでは、減 8度 と完全 8度 と更 にオクターブ以上の音程を持ち、 これに該当するのは年長女児 4

名、年中女児 2名 、年中男児 1名 であった。

2  胸声 と頭声の分析 (1)頭 声の表われた音高

B  Ci C;# D' D'# E:  F' F'#  G  G'# A;  B!

qFf議    り5  0     0     0     1     1     1    11    5     0     1     1     0 女 0103151026010

年中 男 1000o0520000

女 010324917011

鬱 )頭 声的発声で歌えた幼児

年長男児 75名 中 21名 (約 28%)、 年長女児 70名 中 29名 (約 41%) 年中男児 72名 中 8名 (約 11%)、 年中女児 74名 中 29名 (約 39%)

尚、 ここでは最高音だけのほんの 1音 だけが頭声的発声であったものも含 まれている。

残 りの幼児 は全員、 いわゆる地声で歌 う胸声発声である。

3  起声 (歌 い始め )と 止声 (歌 い終わ り )

(1)起 声の不確実な割合

年長男児 75名 中 35名 (約 47%)、 年長女児 70名 中 27名 (約 39%) 年中男児 72名 中 22名 (約31%)、 年中女児 74名 中 15名 (約 20%)

9)止 声の不確実な割合

年中男児 75名 中 29名 (約 39%)、 年長女児 70名 中 23名 (約 33%) 年中男児 72名 中 32名 (約 44%)、 年中女児 74名 中 20名 (約 27%)

4  その他、呼吸 (息 つぎ )な ど発声に関する内容

この項 目では、声のかすれやどなり声 またブレスなどについて精査 した。その結果、それぞれの表

われる原因が、互 に関連 していることが多い。 ここでの数値 は、複数集計である。

(6)

武 田 道 子

年長男児 年長女児 年中男児 年中女児

かすれ声 息切れ

一本調子 0平坦 大声 0重 たい声・ 他

10 27 12 5

1   2   9   6

12 25 27 19

2 15 10 21

Ⅳ     1  声域について

自由唱であったこともあるが、予想に反 して 1点 G#を 最高音 として低音 に向 って声域が開いてい ることが分か った。切替一郎・ 沢島敏行の声域調査 (譜 9)に 照 して見 ると、今回の結果の方が更に 低音に向 っての広が りが見 られる。

9 (中 間の音 は話 し声の高 さをあ らわす )

特に最低音が G#以 下を発声 した者が年長男児 39名 (52%)、 年長女児 21名 (30%)、 年中男児 22名 (約 31%)、 年中女児 18名 (約 24%)と なっている。 これは、声域をどの様 に捉えるかという問題で も ある。 また、切替 らの調査 は平均の声域 としているのに対 して、本論の分析 は、個々の子供一人一人 が出 し得た音高を忠実に採譜 したものである。 このあたりの違いが、 この結果に出たものと思われる。

さて、 (Ⅲ 結果 1(1)1)に 見 るように最高音 1点 G#か ら下行する音域の広が りの中に位置する幼児 の割合 は、年長男児約 69%、 年中男児約 79%が ここに属 している。そ して、年長女児 51%、 年中女児 50%と これ も半数が ここに含 まれることになる。

そ して女児については、最低音 G〜 最高音 1点 Bま での音域 (Ⅲ 結果 1(1)2))の 中に、年長女児 が約 36%、 年中女児が約 41%含 まれている。そ して、年長男児 29%、 年中男児 は 18%で ある。

また更 に、最低音 B♭ 〜最高音 2点 D#(Ⅲ 結果 1(1)3))ま でに、年長女児約 13%、 年中女児約

9%が 含 まれているのに対 して、男児 はそれぞれ 1〜 3%以 下 に過 ぎない。

つまり音域の幅で見ると、年中よりも年長が、男児よりも女児の方が広が っている。 このことか ら、

声域の広が りは経験の差 に比例 していると考え られる。

声域を広げる観点か ら言えば歌 う体験 は多ければ多い程良いということになろう。

2  胸声 (地 声 )と 頭声的発声について

頭声発声 と胸声発声について品川 は、次の様 に声帯の状況を表示 し、児童発声の場合、厳密な意味 では少 し飛躍 し過 ぎると断わ りなが ら、 「頭声即 ファルセ ット」 「 ファルセ ット即頭声」 と述べている。

同 じ高 さで強弱二様 に歌 う

A.強 声で歌う

①   声帯は肥厚する

②   声帯の運動範囲大

③   声門の巾大

B.弱 声で歌 う

①   声帯は肥厚 しない

②   声帯の運動範囲小

③ 声門の巾小

(7)

同 じ高 さで胸声頭声二様 に歌 う a.胸 声で歌 う

①   声帯は肥厚する

②   声帯は短 くなる

③   声帯は全長全幅全厚振動する

b.頭 声で歌 う

①   声帯は薄 くなる

②   声帯は長 くなる

③   声帯の辺縁部 とこれに接する部分だけ振動 する (こ れを声帯の全長半幅半厚振動 とい

う )

筆者 自身 も幼児の歌声を分析 してみて、頭声 とファルセッ ト (仮 声 )の 判定が、特に録音を通 して の分析であるということにも関連 して、その区別が困難な事例があった。

つまり幼児の場合、頭声 とファルセ ッ トの区別 は非常に微妙であり、 はっきりと断定す る事 はむず か しいと言えよう。そこで ここでの表記 は、頭声的発声 ということに した。

以上のことか ら、幼児期の歌声指導 は、頭声的発声への導入 として柔 らかい声、優 しい声、強声よ りも弱声で歌 う習慣をつけることが重要であろう。

更に、 この指導の効果 は頭声的発声で歌われていた幼児が、ある特定の園に集中 していたことを考 える時大 きな示唆を与えて くれるものである。逆を言えば、ある園では地声そのもので、大変元気よ

く大 きな声で歌い切 っているという子供の集団であったのである。

これは、歌 う活動のね らいが態度面か技能面かの重点のおき方 に関連 していると考え られる。 これ は双方 ともが必要なのである。 しか し、幼児期 は楽 しく、元気 よ く歌えればよいと言 う態度面のね ら いが強調 される風潮がある。

更 に、 元気 よ く・ 楽 しく "の 言葉の受 けとめ方 にも非常 に大 きな巾がある。頭声的発声が出来 る ようになった時点で、 元気 よ く 。楽 しく "が 使われるのと、 それ以前の地声の段階で使われるのと では大 きな違 いが出て くるのである。

弱声〜頭声発声 に主眼をおきなが ら、幼児に声を出す美 しさ、そ して楽 しさを味わわせる指導の重 要性を改めて痛感 させ られた。 そ して柔 らか く、 きれいな声で歌えるこの段階にきて始 めて、 のび のびと 。心を解放 して "の すば らしさが体感出来 るものと思 うのである。

特に幼児の場合、集団できれいに歌 うということはなかなか難 しいことである。その為には、題材 の選択が重要 となろう。

例えば、題材 すず らんの鈴 "QJ武 明彦詞・ 曲 )の 「 リンロン」や こおろぎ "(関 根栄一詞・ 芥 川也寸志曲 )の 「 チロチロ リン」など、美 しい音色や鳴 き声を一人ずつ分担 しなが ら歌 うなどが有効 であろう。

また キラキラ星 "(フ ランス童謡 )の A・ BOAの B部 4小 節を、 2小 節ずつに分 けて「近 くの お星 さまと遠 くのお星 さまが優 しい声でお話を しています。」 の導入の言葉がけで、一人ずつ分担 し て歌わせ るという方法 もあろう。 もし出来れば、最初の 2小 節 は、頭声発声で歌 っている幼児に分担 させればなお良い。

また、わ らべ うたも最適である。歌いなが ら遊ぶ と言 うことは喉の緊張を和 らげる働 きがあるか ら である。例えば、 ひ らいたひ らいた "の 曲であれば、優 しい声での掛 け合 いも有効であろう。そ し て、 この時の柔 らかい歌声が一番素敵な声であることに気づかせる保育者の言葉がけが、頭声発声に 向かわせるキーワー ドであると言 うことである。

では次に、胸声区か ら頭声区への転換区について考察することにする。

(8)

武 田 道 子

一番多か った音 は、年長年中男女合わせて 1点 F音 である。 この F音 あたりか らを頭声区 とする多 くの先行研究に照 した時、妥当な線であろう。

さて、頭声的発声 は、最高音が 1点 B♭ か ら 2点 D#ま で発声出来た幼児の中に多 く表われている。

このことは今後の指導への重要な示唆を与えている。

逆に、半数以上の幼児が最高音 1点 G#ま での音域の中に含 まれている。そ して ここでは胸声発声 で 1点 G#ま で発声 し、更に最高音 G#以 上の声域 にいる幼児で も驚 くことに 2点 Dま で胸声発声 し ていることが分かる。 このことは、課題曲の歌い始めが「 ど〜み〜そ〜 ら〜ど」 と一気に一オクター ブ上行する旋律線で作 られている。 この為、最初の出だ しの発声に左右 されることが考え られる。つ まり、胸声でそのまま歌い切 った結果、高音 まで胸声発声に至 ったものであろう。

このことか ら、頭声発声に導 くには 1点 F以 上の音高か ら発唱する教材の選択を考える必要があろ う。

例えば、 ちょうちょう "(ド イツ曲 )や ぶんぶんぶん "(村 野四郎曲 0ボ ヘ ミヤ民謡 )を 、 「 お空 を飛んでいるちょうち ょう」 ・「赤ちゃんはち」など、高音に移調 してそこか ら下行する旋律線をもつ 曲が適 しているであろう。 また、わ らべ うたも最適である。

そ してこの様な指導の中で、柔 らかい声、優 しい声で歌 っている幼児に対 して、どんどん褒めなが ら、

少 しずつ きれいな歌声 に気づかせるようにすることが大切である。

3  起声 (歌 い始め )と 止声 (歌 い終わ り )に ついて

幼児の歌を分析 していると、 まず歌い始めの音が落ち着 きのない、つまり息 もれや雑音が混ざって 発声 されている。品川 は、 これを気息的起声 と名付 けているが この例が一番多か った。つまり、 ミニ マル・ ルフ ト (呼 気全体を声 にす る )が 完全に出来ないのである。

この調査の収録 は、名前を言 ってか ら歌 う約束で始めたが、それに対 し、名前を言 ったかと思 うとす ぐに歌いだす子、名前を言 って「 サ ンハイ」の合図でようや く歌 いだす子、 しば らく黙 っていて突然 歌いだす子など、その起声 (歌 い始め )は 、様々であった。歌 い始めるまで じっくり待つ という手続 きで収録 したのであるが、特 に低音を出発音 に した幼児 に、 この ミニマル・ ルフ トの不完全な例が多 か った。

また、止声では、声を急激 に切 って しまう例が一番多 く見 られた。 この歌の最終音の歌詞が、小鳥 のなき声で終 っており、その発音 は「 ピイ」である。それが最高音である事 と胸声発声である為、高 音発声が苦 しく急激な切 り方で歌い終わると言 う結果に至 ったものであろう。

この起声 と止声 については、幼児期の歌声指導にあたって筆者 自身 もいままであまり留意 していな か った内容である。

幼児 と言 う段階で起声の指導を考える時、 まず保育者 自身が幼児の歌い始めの発音 と発声 に対 して 注意深 く耳が向けられることが大切であろう。特に、子音の発音については、保育者の支えが必要で

ある。

また止声については、声を極端 に切 って終 ると言 うことだけは避 けたい。

幼児に対する指導については、例えば、 とんぼのめがね "(額 賀誠志詞・ 平井康三郎曲 )の 最終 2 小節を使 って、 とんぼが高 い空に飛んでい く様子を、一本の曲線で示 しなが ら歌わせるなどは有効で あろう。 この事 は、幼児一人一人が持 っている素敵な声に気づかせることにつながるのである。

更に、保育者の止声に対す る意識 と幼児 に対す る言葉がけひとつで柔 らかで滑 らかな止声が生 まれる

と考え られる。

(9)

4  その他、発声に関する内容について

ここでは、頃声 (し わがれ声 )、 音域狭小、息洩れ、 どなり声など、その原因は殆 ど全てが関連 し 合 って表われている。そ して、 この中で特に目立 った事 は、息洩れ、つまり呼吸法に関するものであ る。その中身 は、一 フレーズを一息で歌えない、吸気 に際 して大 きな気息音が入 る、息が洩れて声が かすれるなどの ものである。

地声で大声を出すか ら、息が不足 したリー本調子で平坦な声になったりの悪循環が繰 り返 されてい ると考え られる。 また、子供の歌声を リズムや音程その他総合的に聞いていると、その子の音楽感覚 の鈍 さや、 また音楽感覚 は良いが声帯の反応が鈍いため、 自分の考えた声が出てこないなどの要因が 挙 げられる。

頃声や音域狭小児については、 いわゆる医学的な音声異常であると断定できる幼児 は、 ここに収録 された歌声を聞 く限 りでは見 られなか ったことは救いである。つまり、何の感動 もな くただ大声で歌 う (叫 ぶ )だ けの習慣の繰 り返 しで、感覚的に洗練 されていないという事である。 この子 らの表現す る喜び、 自信をあたたか く見守 り育ててい く様な保育者の援助 は欠かせないものである。 また、教材 もわ らべ うたなど声域に合 う歌か ら、だんだんに柔 らかい歌声 に気づ くという指導へ と向 ってい くよ うにということである。

V  結    論

子供たちは、 この収録の為 に一生懸命歌 って くれた。そ して、 この子供たちは 20年 経 って現在 24歳

〜 26歳 になっている。出来 ることな ら今の歌声を聞いてみたい

!

幼児期の歌遊 びの思い出を綴 った学生の記録を見 ると、歌いなが ら踊 ったことや曲名についての思 い出が多い。また、保育者の範唱への憧れ も思い出としてあげられている。

保育者の歌声の美 しさに気づ く幼児期に、鋭敏な耳 と幼児 自身が持 っているそれぞれの声を大切に 見守 り、 また育ててい くよう最大限努力す ることが、大切であることを今回痛感 したのである。

楽 しく、のびのびと、柔 らかい声で歌 う子供たちの姿を目指 して努力す る価値 は大 きい。そ して、

これは一朝 に して成 らずであり、気長にゆっくりと取 り組むことになろう。

更 に、発声 は発音 と密接 に関連 していることがわかる。そ して この発音の指導 には、 お口を大 き くあけて "の 言葉が使われて きた。 口を大 きくあけて歌 う"と いう事 について、多 くの音声学者や 生理学者 は、 日本人の口蓋の特徴についてあげ、発声の基礎 においてはむやみに口をひ らくことの弊 害を説 いている。そ して、 日を開 くことが重要であればあるほど、適切な時期つまり共鳴についての 一般的な技術が身についた時にこそなされるべ きとしている。

また幼 い幼児 にとって、 この 口を大 きく"と 言 う言葉の響 きは、 どなり声 にも繋が ってい くのであ る。弱声〜頭声発声の歌声の聞 き分 けの中で、 はっきりとした言葉で歌 うという指導が配慮 されるよ うにすることでよいのではないだろうか。

さて、幼児の歌声を分析 してみて見えて きた事 は、歌唱指導の中で、 元気 よ く " 楽 しく " 自由 にのびのびと " 大 きなお口をあけて "の 合言葉の陰で、幼児 自身が 自分の声 に耳を澄 ませなが ら歌 うという体験が、なおざりにされていなか っただろうか ということであった。 これは先の教育要領の 中で求め られた内容であり、年長児 にあっては大切な学習内容なのである。 しか し、発声練習 と称 し て、歌遊びの楽 しさを半減 して しまう様なことがあってはならない。 まして児童や大人に対するよう な指導をということは言語道断である。

今回の幼児への発声指導の結論を、子供への言葉がけにかえて纏める事 に したい。        

(10)

264 武 田 道 子

「 みなさんは、一人一人素敵な楽器を持 っています。 それは喉の奥に大切に しまわれています。 こ の楽器 はきれいな声を出 した くて ワクワクしています。みんなが きれいな声を出 したいと思 って声を 出す と声の楽器 は大喜びです。カスタネ ットやタンブ リンだ って ものす ごい力で叩 くときたない音が でますね。柔 らか く叩 くときれいな音 になります。みんなの持 っている素敵な楽器で、柔 らか く、 き れいな声を出 してみま しょう。」

柔 らかい歌声 は心を落 ち着かせ、友達の声 と自分 自身の声 に じっと耳を傾 けることが出来 るのであ る。

さて、 いつか通 りかか った幼稚園の教室 一一今度 は、 ここか ら響 きのある柔 らかい歌声が聞 こえて くることを願 って稿を終 ることにする。

参考 0引 用文献

品川二郎 ,1955「 児童発声」 音楽之友社 ,119

葛西英昭 ,1981「 幼児の歌唱指導」 ひか りの くに 寛三智子 ,1977「 子供の発達 と音楽」 音楽之友社 小林美実 ,1977「 音楽 リズム」 JII島 書店

颯田琴次 ,1976「 かたい声 ,や わ らかい声」 日本放送出版協会 ,131,67

浜野政雄 ,1982「 戦後音楽教育 は何を したか (児 童発声 )」 音楽之友社 簑島   ,1969「 音楽生理学 ,音 楽之友社」 213‑220

文部省 ,1971,幼 稚園教育指導書   領域編   「音楽 リズム」 文部省

渡辺陸雄他 ,1976「 児童発声の研究 と合唱指導」 明治図書

参照

関連したドキュメント

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

られてきている力:,その距離としての性質につ

市場を拡大していくことを求めているはずであ るので、1だけではなく、2、3、4の戦略も

を軌道にのせることができた。最後の2年間 では,本学が他大学に比して遅々としていた

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

と歌を歌いながら止まっています。電気きかん車が、おけしようを

 音楽は古くから親しまれ,私たちの生活に密着したも

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー