幼児 の歌声分析
〜発声指導 の手 がか りを求 めて
An Analysis of p reschool Children's Singing
― With Vocal Teaching in View
武 田 道 子
Michiko TAKEDA
(平 成 13年 10月 9日 受理 )
I序 論
五月のある日、たまたま通 りかか った幼稚園か ら子供たちの元気いっぱいの歌声が聞 こえてきた。
どうや ら園歌を歌 っているらしい。 もっと大 きなお口をあけて ! 元気な声で歌 いま しょう !"―
指導 している先生の姿が日に浮んで くるようである。その歌声 は先生の期待 に答えようと頑張 って声 を張 り上 げ、それは叫び声のようにわた しの耳 に聞 こえてきたか らである。
以上の様な事例 は、幼児の歌唱指導の現場でよ く見 られる光景である。 楽 しく "・ 元気で "・ の
びのびと "・ 口を大 きくあけて"な ど、歌唱指導 に必ず用い られる合言葉である。
さて、幼児の柔 らかい声帯を保護 しなければな らない時期 に、果た して この様な言葉がけは有用な のであろうか。
蓑島 (1969)は 、 日本人年令別性別声帯長 (mal)に ついて、次のように示 している。
2歳 男 6.8 女 6.7 7歳 男 11.5 女 9.0
16歳 男 14.7 女 13.3
成人 男 20。 7(24.0‑17.0) 女 16.1(22.0‑15。 0)
また颯田 (1976)は 「 日本 ほど、幼少年の音声 について無関心な国は珍 しい。月ヽさいものが、 どん なに驚 くべき金切 り声を出 して叫ぼうとあたりは全 く気にしない。 これでは繊細な喉頭はめちゃめちゃ だ。〜」 そ して更 に「 日本の子供の大部分が小児頃声の患者であることだ。気がつかなければ うそで ある。」 と述べている。また、品川 (1955)も「子供の咽喉は、 トランペ ットで もなければ、軍隊 ラッ パで もない。」 と警告を発 している。
さて、幼稚園教育要領の領域「表現」 に音楽教育に関わる内容が包含 されるようになって 10余 年の 年月を経過 している。そ して、 ここでは特 に歌声 に関す る指導内容 は一切見当 らない。
しか し、平成元年度以前のその ものには、音楽教育 に関する内容 は、領域「音楽 リズム」 として独 立 して立て られていた。その為、かなり詳細な指導内容が盛 られていたのである。歌声指導に関 して も、 「 すなおな声、 はっきりとしたことばで音程や リズムに気をつけて歌 う。」 とある。更 にそのキ 旨導 の具体的ね らいの項 には、「〜 この事項 は、 いろいろな歌を歌 うことを楽 しむ うちに、発声、発音、
音程、 リズム等を、幼児 自身が しだいに気をつけるように し、音楽についての基礎的な技能を養 うこ
とをね らっている。 はじめは、思 う存分歌わせ るように しむけ、 しだいに、 口をはっきりあけ、 どな
256 武 田 道 子
らないで楽な声で歌 うように し、 さらに進んでは、発声に気をつけたり、音程や リズムに気をつけな が らなるべ く正 しく歌お うとするように導 く。」 と明記 され、幼児期における歌 う活動に関する大切 な内容が網羅 されている。
そ して現在、前述の事例 に戻 って考えてみれば、颯田の警告の通 りに、今 また何の反省 もな く無 自 覚な指導が繰 り返 されているのである。 しか し、以前の教育要領の中で育 った子供たちは特 に発声指 導 という側面で少な くともなん らかの指導を受 けていたのではないだろうか と思 うのである。
そこで、当時 (1980年 代 )の 幼児の歌声を 発声"と いう視点か ら分析す ることにより、発声指導 への手がか りが得 られるのではないかと考えたのである。現代の子供たちの歌声指導は、今正に早急 に求め られる課題であり、その意味で主題設定の意義 は大 きいと思 う。
Ⅱ 調査方法 と内容
1981年 当時の幼児の歌声 (筆 者が収録 したテープによる録音 )を 分析資料 とする。
1対 象
静岡 (4園 )0東 京 (1園 )の 保育園児
年長児 145名 (男 75名 0女 70名 ) 年中児 146名 (男 72名 ・ 女 74名 )
2 手続き
課題曲 ことりの歌 (与 田準一作詞 0芥川也寸志作曲 )
暗唱出来 るまで、 テープ (筆 者が D― DURで 歌 った )を 遊 びの中で流 し、 さらに指導 も加える。
収録 は、 しゃ音 された個室での個別調査で、開始音を与えず無伴奏の自由唱 とした。
3 歌声の分析内容
・ 声域
・ 胸声 (地 声 )と 頭声的発声
・ 起声 (歌 い始め )と 止声 (歌 い終わ り )
・ その他、呼吸 (息 つ ぎ )な ど発声 に関わる内容
注 )こ こでは、 リズムや音程また発音などの分析 は、特に対象 としない。
Ⅲ 結 果
1声 域
(1)曲 の歌い始めか ら歌い終わりまでの最低音 と最高音。
1)最 高音 1点 G#以 下の者 註「○内は頭声的発声で歌 った者の内数」
譜 1
﹁
1 0 0 0
が
o
o
︲
o
︐ 0 0 1 0
︐
0 0 1 0
一 ク
o
︲
o
o
︐ 一 0 0 1 0 年長 '40
年中
男 1
女 0 男 0
女 0
1 0 2 0
0 2 0 0
0 ① 3
2 0
1 1 2 1
1 l ① l
O ① 1 0
0 3 2 譜 2
譜 3
譜 4
譜 5
,
3 3 2 0
や
0 1 0 0
τ
2 1 2 2 1
0 0 1
2 0 0 0
0 0 1 1
0 0 2 0
2 0 1 0
1 0 0 0
0 0 1 0
1 1 2 0
1 0 2 0
1 0 4 0
1 0 1 0
1 0 5 2
2 1 1 0
0 3 ① 5 2 0 1 3 1 1
0 ① 2 ① 2
F
① l
0 0 0
1 2 1 1
O ① l
0 0
び "
1 1 0 2
l ① l
O ② 4 一 一 一
1 0
① l
0
0 0 0 1
0 0 0 1
年長 男 0
女 0
年 中 男 0
女 1
0 6 2 ① l
O ① l ① 6 ② 3
1 0 1 1
0 1 ② 7 1
3 ⑤ 5
2 ② 3
3 ① 4 0 2
4 ① 5
2 ① l
3 ② 4
0 0
l ① l 0 0
l ① 2
1 1 0 0 1
2)最 高音 1点 B以 下の者
l ③ 5 ① l O ① l ① l
O ⑥ 6 ② 2 0 013 0
① l ① 3 ① l
③ 4 ③ 6 ② 2
武 田 道 子
① l ① 1 0
① 2 1 0
0 0 0
② 2 ① 2 ① l
艶 旧
鬱 )最 低音か ら最高音の声域
1)最 高音 1点 G#ま での者
減 3 減 4 完 4 増 4 減 5 完 5 増 5 短 6 長 6 増 6
年長 男 0101151553
年長 男 0
女 ① l
年中 男 0
女 1
女 年 中 男
0 0① 1 0
0 ② 3 0 ① l 1 0 0 0
0 ① 2 1 0
0 0 0
0 ① l ② 2
0 0 1
① 1 0 0
0 0
① 1 0
0 0
l ① l
0001 1025
0 1 1
3 11 0
2 3 2
5 10 1
女 0 0 1 o l
減 7 短 7 長 7 減 8 完 8 増 8以 上 2 4 9 0 13 2
1660103
1 8 3 1
0560
2)最 高音 1点 A#ま での者
3 1
完 5 短 6 短 7 長 7 完 8 増 8以 上 年長 男
女 年中 男 女
5 3 4 5
3)最 高音 2点 D#以 下の者
3)最 高音 1点 Bま での者
長 6 減 7 短 7 減 8 完 8 増 8以 上 年長 男 0 0 1 0 8 2
Jて 0 0 0 0 13 3 年中 男 1 0 0 1 4 0
女 011485
4)最 高音 2点 C#ま での者
短 7 減 8 完 8 増 8以 上 年長 男 0 0 1 0
女 1031
年中 男 0 1 0 0
女 1031
5)最 高音 2点 D以 上の者
ここでは、減 8度 と完全 8度 と更 にオクターブ以上の音程を持ち、 これに該当するのは年長女児 4
名、年中女児 2名 、年中男児 1名 であった。
2 胸声 と頭声の分析 (1)頭 声の表われた音高
B Ci C;# D' D'# E: F' F'# G G'# A; B!
qFf議 り5 0 0 0 1 1 1 11 5 0 1 1 0 女 0103151026010
年中 男 1000o0520000
女 010324917011
鬱 )頭 声的発声で歌えた幼児
年長男児 75名 中 21名 (約 28%)、 年長女児 70名 中 29名 (約 41%) 年中男児 72名 中 8名 (約 11%)、 年中女児 74名 中 29名 (約 39%)
尚、 ここでは最高音だけのほんの 1音 だけが頭声的発声であったものも含 まれている。
残 りの幼児 は全員、 いわゆる地声で歌 う胸声発声である。
3 起声 (歌 い始め )と 止声 (歌 い終わ り )
(1)起 声の不確実な割合
年長男児 75名 中 35名 (約 47%)、 年長女児 70名 中 27名 (約 39%) 年中男児 72名 中 22名 (約31%)、 年中女児 74名 中 15名 (約 20%)
9)止 声の不確実な割合
年中男児 75名 中 29名 (約 39%)、 年長女児 70名 中 23名 (約 33%) 年中男児 72名 中 32名 (約 44%)、 年中女児 74名 中 20名 (約 27%)
4 その他、呼吸 (息 つぎ )な ど発声に関する内容
この項 目では、声のかすれやどなり声 またブレスなどについて精査 した。その結果、それぞれの表
われる原因が、互 に関連 していることが多い。 ここでの数値 は、複数集計である。
武 田 道 子
年長男児 年長女児 年中男児 年中女児
かすれ声 息切れ
一本調子 0平坦 大声 0重 たい声・ 他
10 27 12 5
1 2 9 6