巻 2012
ページ 184‑325
発行年 2014‑02‑28
URL http://hdl.handle.net/10502/5050
2
研究および共同利用概観
本館の研究は2004年度の法人化以降、「機関研究」「共同研究」「各個研究」という 3 種類の研究を柱としている。
「機関研究」とは近年の研究動向や問題の所在を調査した上で、研究テーマを設定し、本館が全館規模で取り組む研 究活動である。2010年 4 月より法人化第 2 期を迎えるにあたり、2009年10月から新たな研究領域「包摂と自律の人 間学」と「マテリアリティの人間学」を設定し、研究プロジェクトを開始した。
「共同研究」はある共通の研究テーマの下に複数の研究者が集まって研究会などを開催し、共同で研究を行う活動 で、本館の研究活動の柱の 1 つであるとともに、大学共同利用機関としての「共同利用」の一環でもある。機関研 究が研究テーマの設定やプロジェクトの選定から、その運営、成果の公表まで本館主導で行うのに対して、共同研 究は研究テーマと組織について、館員のみならず、本館を共同利用する研究者の自主的な提案に基づく。すなわち、
館員(客員教員を含む)を対象とした館内募集に加えて、公募も行っている。応募された共同研究の提案は、公募、
館内募集の区別なく共同利用委員会で審査され、選定される。また、2010年度から「若手研究者による共同研究」
が制度化され、一般の共同研究と同様に公募している。さらに、2004年度以来、当の共同研究会のメンバーだけで はなく研究者、学生、一般への研究会の公開を推進している。
「各個研究」は館員(客員教員を含む)が自主的にテーマを設定して、個人で実施する研究活動である。すなわ ち、館員個人の研究活動も、申請することによって館の公的な研究活動の一環に組み入れているわけである。
また、本館が属する人間文化研究機構が主催する研究として「連携研究」が2005年度から本格的に始動した。連 携研究は人間文化研究機構を構成する 6 機関(国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館、国立国語研究所、国際日 本文化研究センター、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館)が連携してさらに高次の研究を目指すもので、
「アジアにおける自然と文化の重層的関係の歴史的解明」と「『人間文化資源』の総合的研究」という 2 種類の大型 プロジェクトが実施されている。
館の研究活動である「機関研究」や個々の研究者による「各個研究」を資金面でサポートするのが館長のリーダ ーシップ支援経費と科学研究費補助金などの外部資金である。前者では特に機関研究の推進のために「機関研究推 進経費」という枠組みがあり、大規模なシンポジウムの準備と開催のためにこの経費を使用することができる。同 じくリーダーシップ支援経費には「研究成果公開プログラム」という枠組みもある。機関研究プロジェクト以外の 大規模なシンポジウムの実施をはじめ、共同研究や各個研究の成果を公開するための研究フォーラムや国外の学会、
研究集会での発表を支援するものである。
しかし、 7 件の機関研究プロジェクト、42件の共同研究、客員教員や外国人研究員、機関研究員などを含めると 100を超える各個研究の研究資金を運営交付金だけから捻出することは到底できない。さらに研究に客観性、社会性 を担保していく上でも、科学研究費補助金などの競争的外部資金の導入を積極的に行っている。そのほか、学振以 外の独立行政法人が募集する助成金や民間の助成団体による奨学寄付金なども積極的に受け入れている。
また、これら外部資金に付随する間接経費も貴重な研究支援経費となっており、それらを使用した館内の研究環 境整備事業が実施されている。なお、リーダーシップ支援経費の「事業調査経費」という枠組みも同じ目的で使わ れる。
本館における研究成果公開の一環である刊行物に関しては、2012年度には『国立民族学博物館研究報告』37巻 1
〜 4 号が刊行されるとともに、SES(Senri Ethnological Studies)、SER(『国立民族学博物館調査報告』または Senri Ethnological Reports)、『国立民族学博物館論集』、『民博通信』、『研究年報2011』が刊行され、外部出版制度を利用 した成果公開も行った。さらに、研究成果を広く市民に公開するための学術講演会が、東京と大阪で開催されてい る。
2004年度に共同利用に関してその強化を目的とする改革を行った結果、本館の共同利用では共同研究の公募、公 開の推進と資料・設備の共同利用の促進を強調するようになった。なお、従来から、共同利用を積極的に推進する ために、「外来研究員」「特別共同利用研究員」といった研究員制度を設けている。
本館の資料は2004年度より標本資料、映像音響資料、文献図書資料、民族学研究アーカイブズ資料に大きく 4 分 類されている。それぞれの整備および利用状況をみると、まず標本資料は、文化資源プロジェクトの一環として海 外資料収集が行われており、寄贈等により新たに加わった資料もある。映像音響資料の収集も文化資源プロジェク トの一環として行われている。文献図書資料に関しては、継続的な事業として国立情報学研究所 NACSIS CAT(全 国共同利用総合目録データベース)への登録作業を推進しており、日本語をはじめとし、ロシア語、英語、ドイツ 語、フランス語などの図書資料や難解語図書などの遡及入力を行った。遡及入力事業で登録された所蔵情報は、本 館の図書システムの蔵書データベースとして、インターネットを介して検索するシステム(OPAC)により、広く 一般に公開され利用されており、本館所蔵の図書資料の相互利用での貸出受付が2012年度は1,091件、文献複写受付
研究および共同利用
は2,414件と、共同利用に貢献していることがわかる。さらに、2008年 9 月より館外貸出を開始し、一般利用者にも 館外貸出利用可とした。
2007年度より民族学研究アーカイブズの共同利用を促進するため、ホームページを開設し、各アーカイブの目録 を公開してきた。2012年度は、木内信敬アーカイブ資料について整理を終えた。また、土方久功アーカイブ資料の うち、ノート全40冊のデジタル化を完了した。
2006年度に「民族学資料共同利用窓口」を設置し、利用に関する多様な問い合わせを 1 つの窓口で対応できるよ うにし、利用者に対するサービス向上を図った。2012年度には422件の問い合わせに対応し、利用促進に寄与した。
共同利用を促進させるために、実査を兼ねた資料 ID ラベルと不正持ち出し防止用磁気テープの貼り付けを2010年 度より 3 か年計画で進めている。2012年度にはその第 3 期として約20万冊を処理した。また、書架資料落下防止テ ープ貼付、書庫階段部壁塗装、図書館シャッター改修、書庫エレベーター内へのレスキューキャビネットの設置な どを行った。
そのほか、大学や研究機関等の研修・授業、あるいは学会の開催のために、展示場や講堂、セミナー室などの本 館の施設が利用されている。
2 1 みんぱくの研究 機関研究
●機関研究の意義
本館では、現代世界が直面する学術的かつ社会的に重要な諸課題に、文化人類学・民族学の立場から組織を挙げ て重点的に取り組む機関研究として、共同研究や国際研究集会などを組み合わせた、大型で公開性の高いプロジェ クトを実行している。この機関研究には、全国の大学や研究機関に所属する研究者も参加するなど、大学共同利用 機関、さらには我が国における文化人類学・民族学の研究拠点としての機能を高める役割も果たしている。また、
実施プロジェクトの内容は、大学・研究機関等の外部者からの意見を取り入れつつ研究戦略センター会議や機関研 究運営会議において検討しており、大学共同利用機関として研究者コミュニティの意見が十分に反映されるような 体制がとられている。
2009年度に学術的かつ社会的な要請に基づいて、「包摂と自律の人間学」と「マテリアリティの人間学」という 2 つの研究領域を機関研究として新たに設定し、国際性と機関間連携を重視した館全体が取り組む重点型の共同研究 として位置づけた。前者は人と人の関係に、後者は人とモノの関係に研究の焦点をあわせつつ、新たな社会観や人 間観の創出をめざして関連諸分野の研究者と協力しながら研究を実施している。2012年度には、研究領域「包摂と 自律の人間学」では「支援の人類学―グローバルな互恵性の構築に向けて」(代表者:鈴木 紀)、研究プロジェク ト「近代ヒスパニック世界における国家・共同体・アイデンティティ―スペイン領アメリカの集住政策の研究」
(代表者:齋藤 晃)、「ケアと育みの人類学」(代表者:鈴木七美)、「中国における家族・民族・国家のディスコー ス」(代表者:韓 敏)の 4 つの研究プロジェクトが、研究領域「マテリアリティの人間学」では「モノの崇拝―
所有・収集・表象研究の新展開」(代表者:竹沢尚一郎)、「布と人間の人類学的研究」(代表者:関本照夫)、「民族学 資料の収集・保存・情報化に関する実践的研究―ロシア民族学博物館との国際共同研究」(代表者:佐々木史郎)
の 3 つの研究プロジェクトが実施された。
研究領域「包摂と自律の人間学」では、2012年 7 月にオーストリアにおいて国際シンポジウム『スペイン領南米 における集住政策と先住民社会へのその効果』、同年11月に国際シンポジウム『ヒーリング・オルタナティヴス―
ケアと養生の文化』、同『中国の社会と民族―人類学的枠組みと事例研究』、2013年 3 月にはアメリカ合衆国にお いて国際ワークショップ『グローバル支援の人類学―市民社会間で互恵的紐帯をいかに形成するか』など合計 8 件の研究集会を開催した。また、成果の一部として Nanami Suzuki (ed.)
(SES No.80, 2012, National Museum of Ethnology)などが出版された。
研究領域「マテリアリティの人間学」では、2012年11月に国際ワークショップ『アジアの布と生きる』、2013年 1 月にはフランスにおいて国際シンポジウム『21世紀の民族学博物館』、国際ワークショップ『民族学資料の保存と修 復―博物館バックヤードの利用効率向上と自然素材資料の修復』、同年 3 月には『博物館は悲惨な記憶をどう展示 するか』など合計 6 件の研究集会を開催した。
2012年度機関研究一覧
領域 プロジェクト 代表者 研究年度
1 包摂と自律の人間学
(領域代表:岸上伸啓)
支援の人類学―グローバルな互恵性の構築に向けて 鈴木 紀 2009〜2012 近代ヒスパニック世界における国家・共同体・アイデ
ンティティ―スペイン領アメリカの集住政策の研究 齋藤 晃 2011〜2013
ケアと育みの人類学 鈴木七美 2011〜2013
中国における家族・民族・国家のディスコース 韓 敏 2012〜2014
2 マテリアリティの人間学
(領域代表:寺田𠮷孝)
モノの崇拝―所有・収集・表象研究の新展開 竹沢尚一郎 2009〜2012 布と人間の人類学的研究 関本照夫 2010〜2012 民族学資料の収集・保存・情報化に関する実践的研究
―ロシア民族学博物館との国際共同研究 佐々木史郎 2012〜2014
●機関研究の領域とプロジェクト
1 「包摂と自律の人間学」 領域代表:岸上伸啓
グローバル化が進む状況において人と人の関係を、人類学を核としつつ学際的に再検討して、新しい社会の構築を 展望する。現代社会においては、マイノリティの自律性を保つとともに、社会的公正をめざす思想や方策が求めら れている。具体的には、公共圏や市民運動、ネットワーク、トランスナショナル、無国籍・重国籍、福祉、支援な どが主要な研究テーマとなる。
「支援の人類学―グローバルな互恵性の構築に向けて」
代表者:鈴木 紀 2009〜2012 研究目的
本研究は 2 つの目的をもつ。第 1 に、経済と情報のグローバル化がすすむ現代世界を読みとくキーワードとして
「支援」に着目し、グローバル化の弊害にたいするさまざまな支援の在り方を民族誌的に比較検討しながら、地球規 模の互恵性の在り方を構想することである。第 2 に、その互恵性の中に人類学者の営為自体をも取り込み、人類学 者による支援研究が実際の支援活動にどのような貢献ができるかを問うことにより、問題解決の実践的ツールとし ての人類学の性質を研磨することである。
本研究で支援に着目する理由は、機関研究の領域 1 包摂と自律の人間学の方法論を明確にするためである。包摂 と自律という課題は、社会から排除されたマイノリティをマジョリティに包摂しつつも、マイノリティの自律性を 維持し、同時にマジョリティの在り方自体にも変容をもたらすことを求めるものである。本研究は、このようなマ イノリティの包摂と自律、およびマジョリティの変容のための学習の契機として、個別具体的な支援活動を想定す る。そして支援の現場に焦点をあて、そこに関与する支援者と被支援者の関係性を民族誌的に解明することにより、
包摂と自律の過程を実証的に把握し、それが達成される条件を考察することが可能になる。
また本研究で人類学の実践性を重視する理由は、前機関研究「文化人類学の社会的活用」を継承発展させるため である。前研究では、『みんぱく実践人類学シリーズ』にて、主として開発途上国の社会、経済問題に対する文化人 類学の活用を提示したが、本研究では、先進国と開発途上国双方に関わる、まさにグローバルな取り組みを必要と する領域へと研究対象を広げていく。
実施状況
1) 2012年 6 月23日、第46回日本文化人類学会研究大会(広島大学)の分科会の形で、『グローバル支援の人類学―
支援研究から人類学的支援へ』ワークショプを開催した。ワークショップでは、プロジェクトリーダーの鈴木 紀 の趣旨説明に続き、岸上伸啓「カナダにおける都市先住民イヌイットをめぐる支援活動」、関根久雄(筑波大学)
「人類学的評価という協働―ある『支援』の試み」、白川千尋「青年海外協力隊をめぐる支援活動」、鈴木 紀
「フェアトレードの『支援の言説』と人類学的支援」、および陳 天璽「日本における無国籍者をめぐる支援活動」
の 5 つの研究発表をおこなった。これに対し亀井伸孝(愛知教育大学)と清水 展(京都大学)がコメントした。
会場には約50名の参加があった。
2) 2012年12月15日、国立民族学博物館にて国際ワークショップ『グローバル支援のための実践人類学―研究と実 践のキャリア・プランニング』を開催した。鈴木 紀の趣旨説明の後、リオール・ノラン(パデュー大学)
「Practicing Anthropology: Challenges, Rewards, and Career Planning(実践人類学―挑戦、報酬、キャリア・
研究および共同利用
プランニング)」、佐藤 峰(JICA 研究所)「当事者の声を反映させる小さな仕組み作り―開発実践・援助実務・
学際研究での試み」、福武慎太郎(上智大学)「日本の国際協力 NGO の課題と未来―東ティモールにおける NGO 活動の経験から」、藤掛洋子(横浜国立大学)「国際協力の実践と研究の往還を超えて―パラグアイとの 20年間の関わりを振り返る」の 4 つの発表をおこなった。最後の総合討論では、参加者との質疑応答がおこなわ れた。参加者は41名。
3) 2013年 3 月21日、第73回応用人類学会(Society for Applied Anthropology)(米国コロラド州デンバー市)の分 科会の形で、国際ワークショップ『グローバル支援の人類学―どのように市民社会間に互恵的絆を育むか?
(Anthropology of Global Supporting: How Can We Forge Reciprocal Bonds between Civil Societies?)』を開 催した。鈴木 紀の趣旨説明の後、岸上伸啓「カナダ都市部のイヌイット・ホームレス―モントリオール調査の 結果から(Homeless Inuit in Urban Centers of Canada: Results from Montreal Research)、陳 天璽「無国籍 者の調査と支援―人類学の役割(Research and Support of Stateless People: The Role of Anthropology)」、
内藤直樹(徳島大学)「長期滞在するソマリア難民と地元ケニア人コミュニティとの社会経済的関係―下から の 平 和 構 築 に 学 ぶ(The Socioeconomic Relationships between Somali Protracted Refugees and Host Com- munities in Kenya: Lessons from Peace Building Practices from Below)」、鈴木 紀「フェアトレード観光―
市場主導の倫理的消費からグローバル市民間の倫理的出会いへ(Fair Trade Tourism: From Market-Driven Ethical Consumption to Ethical Encounter between Global Citizens)」の 4 つの発表をおこなった。
成果
本年度は研究 4 年目、最終年度にあたり、第 2 の研究目的、すなわち人類学的研究の支援活動への貢献について、
過去 3 年度にわたる研究成果を振り返りながら検討してきた。 6 月23日のワークショップでは、主として人類学者 が研究成果をどのように支援活動に反映させるか、人類学者ならではの貢献はなにかをめぐって議論した。フィー ルドワーク、文化相対主義、民族誌などの人類学の方法論を支援のツールとして活用すること、調査と支援の不可 分性、および長期にわたる情報提供者との付き合いの重要性などが指定された。2012年12月15日の国際ワークショ ップでは、実践人類学者(支援活動を専門に行う人類学者)に焦点をあて、そうしたキャリア形成の方法と、実践 人類学者の役割としての支援事業に関連した「異文化」間翻訳、実務批判、学術的活動への貢献などの論点が提示 された。
2013年 3 月21日の国際ワークショップでは、これらの論点を整理して再提示し、国際的な場で議論をおこなった。
機関研究に関連した成果の公表実績 1) 実施状況でのべた 3 回のワークショップ
2) 鈴木 紀「機関研究のアウトリーチ―みんぱくワールドシネマの試み」『民博通信』138: 2 7, 2012 3) 鈴木 紀「人類学的支援とは」『民博通信』140: 10 11, 2013
「近代ヒスパニック世界における国家・共同体・アイデンティティ―スペイン領アメリカの集住政策の研究」
代表者:齋藤 晃 2011〜2013 研究目的
集住政策とは、広範囲に分散する小規模な集落を、計画的に造られた大きな町に統合する政策であり、16世紀以 降、スペイン統治下のアメリカ全土で実施された。その目的は、先住民のキリスト教化を促進し、租税の徴収と賦 役労働者の徴発を容易にすることだが、それに加えて、人間は都市的環境でのみ、その本性を発現する、という考 え方が背景にある。およそ 3 世紀にわたって数百万の人びとを数千の町に強制移住させたこの政策は、スペインに よるアメリカ支配の基礎を固めるとともに、在来の居住形態、社会組織、権力関係、アイデンティティを大きく変 えたといわれている。
本研究は互いに関連するふたつの目的をもつ。
1) 集住政策の先住民社会への影響の解明。この点に関しては、研究者のあいだでいまだ合意ができていない。先住 民の多くが新設の町から逃亡した事実をもって、政策は失敗したと唱える者がいる反面、同政策は地域ごとに多 様だった先住民社会を画一化し、今日の共同体構造の基礎を築いたと主張する者もいる。本研究では、さまざま な地域の事例を比較検討することで、集住政策が先住民社会に与えた影響の全貌を解明する。
2) ヒスパニック世界における国家と共同体の関係の解明。アメリカにおいて集住政策が実施されていたとき、スペ イン本国では、中央集権国家の建設が進むとともに、中世以来の自治共同体が根強く存続していた。本研究で は、集住政策をスペイン帝国版図における国家と共同体の緊張関係の一局面ととらえる。そして、スペイン本国 や南米以外の植民地の事例も参照しながら、両者の関係について新たな像を構築する。
実施状況
以下の実施状況には、機関研究経費に頼らず外部資金のみで実施した事業も記載されている。
2012年 6 月30日、国立民族学博物館において、集住化の成否をテーマとした国内研究集会を開催した。
2012年 7 月15日から20日にかけて、ウィーン(オーストリア)のウィーン大学において、第54回国際アメリカニ スト会議の一環として、『La política de reducciones y sus impactos sobre la sociedad indígena en los dominios españoles de Sudamérica』(日本語訳:スペイン領南米における集住政策と先住民社会へのその効果)と題する国 際シンポジウムを開催した。
2012年 8 月23日、リマ(ペルー)の教皇庁立ペルーカトリカ大学において、同大学大学院アンデス研究プログラ ムとの共催で、Roberto Tomichá(Universidad Católica Boliviana)を講師として、『La política de reducciones y sus efectos en la sociedad chiquitana (siglos XVII XVIII)』(日本語訳:チキタノ社会における集住政策とその効 果(17〜18世紀))と題する公開セミナーを開催した。
2012年 9 月 6 日、リマの教皇庁立ペルーカトリカ大学において、同大学大学院アンデス研究プログラムとの共催で、
Steven Wernke(Vanderbilt University)を講師として、『Un orden improvisado: el emplazamiento y la construcción de una reducción en el Valle del Colca (Arequipa, Perú)』(日本語訳:即興の秩序―コルカ渓谷(ペルー、ア レキパ)のある集住区の位置と建築)と題する公開セミナーを開催した。
2012年12月27日、国立民族学博物館において、集住化と社会空間の変容をテーマとした国内研究集会を開催した。
成果
2012年 7 月にウィーンで開催した国際シンポジウムは、国際共同研究員を含めたメンバーが一堂に会し、それま での研究の成果を発表し、直接議論を交わす重要な機会だった。このシンポジウムでは、数日にわたる集中的な討 議を通じて、スペイン領南米の集住政策の効果について、通説とは異なる新たなモデルを構築することができた。
従来の研究では、集住政策は南米の先住民の社会と文化を全面的に否定し、西欧的な制度や価値を強制するものと みなされてきた。そして、その効果はもっぱら攪乱や破壊などの否定的なものだったと考えられてきた。しかし、
本研究では、しばしば先住民が集住政策の客体から主体へと転身し、本来抑圧的な制度を飼い慣らし、支配と被支 配の狭間で自分たちの利益を追求したこと。そして、集住政策により先住民に押しつけられた制度や価値が、在来 の制度や価値と予想外のかたちで接合し、そこから社会の再編と文化の再生の複雑なプロセスが生じたことを、さ まざまな事例の検討を通じて明らかにすることができた。
機関研究に関連した公表実績 1) 出版
Diez, Alejandro (ed.)
. Lima: Cisepa / Dpto de CCSS, PUCP, 2012.
Diez, Alejandro
.
Lima: Movimiento Manuela Ramos/Ciudadanía, 2012.
Diez, Alejandro
Gobierno comunal entre la propiedad y el control territorial: el caso de la comunidad de Catacaos. En Raúl Asencio, Fernando Eguren y Manuel Ruiz (eds.) , Lima:
Sepia, pp. 115 148, 2012.
Diez, Alejandro
Nuevos retos y nuevos recursos para las comunidades campesinas. En Alejandro Diez (ed.)
. Lima: Cisepa/Dpto de CCSS, PUCP, pp. 14 38, 2012.
Glave Testino, Luis Miguel y Roberto Choque Canqui
(1646 1663). Sucre: FCBCB/ABNB, 2012.
松森奈津子
「近代スペイン国家形成と後期サラマンカ学派―ルイス・デ・モリナの権力論を中心に」孝忠延夫・安武真隆・
西平 等編『多元的世界における「他者」(上)』大阪:関西大学マイノリティ研究センター,pp. 239 260,2013。
Moreno Jeria, Rodrigo
Reformismo borbónico y el extrañamiento de los jesuitas: consecuencias misionales en Chiloé.
122, 2012.
研究および共同利用
齋藤 晃
「国際共同研究の枠組みの構築―機関研究:近代ヒスパニック世界における国家・共同体・アイデンティティ
―スペイン領アメリカの集住政策の研究」『民博通信』138: 10 11, 2012。
Saito, Akira
Resettlement Policy and Its Impact on Native Society in Spanish South America.
35: 14, 2012.
Takeda, Kazuhisa
Cambio y continuidad del liderazgo indígena en el cacicazgo y en la milicia de las misiones jesuíticas:
análisis cualitativo de las listas de indios guaraníes. 23, 2013.
Wilde, Guillermo
Relocalisations autochtones et ethnogenèse missionnaire dans la frontière sud des empires ibériques: le cas des réductions Guarani au Paraguay (1609 1768). 41(2 3): 13 28, 2011.
Wilde, Guillermo
Indios misionados y misioneros indianizados en las tierras bajas de América del Sur: sobre los límites de la adaptación cultural. En Salvador Bernabeu, Christophe Giudicelli y Gilles Havard (coords.)
( ), Sevilla:
CSIC/EEHA/EHESS/Editorial Doce Calles, pp. 291 310, 2012.
Zuloaga Rada, Marina
(1532 1610), Lima: IEP/
IFEA, 2012.
2) 公開シンポジウム
国際シンポジウム『La política de reducciones y sus impactos sobre la sociedad indígena en los dominios españoles de Sudamérica』(日本語訳:スペイン領南米における集住政策と先住民社会へのその効果)、2012年 7 月15〜20日、
ウィーン大学(ウィーン、オーストリア)、実行委員長:齋藤 晃、Claudia Rosas Lauro
「ケアと育みの人類学」
代表者:鈴木七美 2011〜2013 研究目的
近年、ウェルビーイングに配慮した生活の場のありかたが、国家単位の福祉のみならず、人々の権利を視野に収 めたグローバルな視点に基づく市民社会の目的という観点から注目され、ウェルビーイングの指標も提示されてい る。だが、ウェルビーイングは多様であり、また、終わりの見えない紛争や著しい格差拡大など、「よい状態」や
「幸福」・「希望」を思い浮かべることすら難しいという状況を考えると、画一的な「ウェルビーイング」を目指すだ けでは、人々が希望を失わず安心して生きる場を共有する道を拓くことには繋がらない。
そこで私たちは、個々人の状況や望むことがらを掬いとる人類学研究として、「ケア」という言葉で表現される領 域に注目している。「ケア」は、人々が、他者とは限らず、自分や環境について、思いを馳せる、配慮するという意 味で使われてきた。これら「ケア」は、「良い・正しい」という価値観に基づくものではなく、気にする、大切に思 う等、固執する人々の姿を照らし出す。したがって、多様なケアの検討は、人々が守りたいものや価値観、そして、
それらが齟齬や争いを引き起こす過程や共存する姿に迫るものである。
本研究の目的は、個々人の生をめぐる関心やこだわりとしての多様な「ケア」を出発点として、これらが表現さ れ議論される機会を得ることによって、生きる場を共有することに繋がる幾つもの道を、生命を継承してきた各地 域の葛藤と共生の軌跡から探ることである。
実施状況
1) エイジングから考える「養生」時間
2012年度は、第 1 に、「年を重ねること」「養生」という意味をもつ “aging” について議論を深め、論文集 , (Senri Ethnological Studies (SES) No.80), 2013においてその成果を提 示した。
この論文集の特徴は、心身の変化や移動によって新たな文化に遭遇する高齢期へのケア(関心・配慮)が、さ まざまな世代の人々や環境へのケアへと展開する様相を、国内外のフィールドワークと第 1 次資料に基づいて描 き出すことにある。生活環境を問い直し整える共同作業としての高齢期ケアが、新たな地域文化を生み出す過程
を照射し、すべての世代の人々が、人生時間の使い方を柔軟に選択できることによって、差異を活かし、多様な 希望に応える生活環境を構想する可能性について明示した。
2) 教育の現場から考える「養生」空間
2012年度は、第 2 に、多様な人々が文化を創造しつつ共存する方途を構想できるのかという教育の人類学のテー
マについて検討し、論文集 の原稿を
まとめた。この論文集の目的は、急速に多文化化が進行しつつある社会で、人々のウェルビーイングと、社会に おける価値観を基盤とした次世代育成を目指す実践との関係および課題について、検討することである。各論文 は、一方で自律、平等、包摂など現代市民社会において重視される価値観に基づく教育が、多文化社会の教育現 場において排除の要素を生み出している現状を指摘し、他方で、エスニシティに関わる文化的価値観を次世代に 継承することを明確な目的として掲げている教育の場にあっても、議論に開かれた空間を生み出す可能性につい て、具体的な情報を提示している。
3) 「ヒーリング・オルタナティヴス」における養生と選択
2012年度は、第 3 に、国際シンポジウム『ヒーリング・オルタナティヴス―ケアと養生の文化』(2012年11月 11日)を開催し、地域の歴史のなかで、ヒーリング・オルタナティヴスの位置づけと果たしてきた役割を検討す ることをとおして、近代的な「治療」に包括されないケアと養生の考え方、および実践の多様性とその変動に関 し考察を加えた。現代の科学知識によって薬剤の有効性が十分に確認され得なくても、治療が有効であるという 経験が蓄積されているケースにおいて、この治療法を選択する人々の「自由」を尊重する場合の具体的な方法に 関しても知見を深めた。
4) 紛争と「宗教的社会運動」から考える共生と希望
2012年度は、第 4 に、国際シンポジウム『グローバル化における紛争と宗教的社会運動―オセアニアにおける 共生の技法』(2013年 1 月26日 企画代表者:丹羽典生、企画協力者:藤本透子)を開催した。このシンポジウ ムの目的は、近年のグローバル化のなかで生起している紛争や宗教運動を、〈人々の生きる場を確保する運動〉
と捉え、多元化の波にさらされている人々が共生の空間をいかに形成しているのか、その特質と過程を、「希望」
などをキーワードとして検討した。この成果の出版(SES)に向けて、編集作業を進めた。
5) 抗議レパートリーによる知識・実践・アイデンティティの創出と共生
2013年度に開催する国際シンポジウム『東アジアにおける社会運動の人類学』(2014年 2 月開催予定 企画代表 者:平井京之介)の準備をおこなった。このシンポジウムでは、国家統治や資本主義の拡大によって生じた矛盾 に抵抗する幅広い形態の集合的実践(抗議レパートリー)について、知識や実践、アイデンティティの生産媒体 という観点から、議論する。
6) 多様な文化的存在を活かす空間デザインの思想と実践
2011年度におこなった国際シンポジウム『インクルーシブ・デザインとはなにか―ケアと育みの環境を目指し て』国際ワークショップ『包摂した社会空間の実現にむけて―課題とインクルーシブ・デザインの解決モデ ル』(2012年 3 月 3 日〜 4 日 企画代表者:野林厚志)の成果を、学術論集(日本語)として出版する準備を進 めた。この学術論集では、多文化共生に向けた環境の創出という観点から、インクルーシブ・デザインの思想と 具体的実践について検討する。本研究の特色は、1980年代後半にアメリカで提唱されたユニバーサルデザインの ような共通項を見いだす立場とは異なり、多様な文化的存在を活かして新たな共存の場を構想しようとすること である。本研究は、博物館や美術館における経験の共有のためのプログラムや展示デザイン、障害者の自立を支 援から協働へと変えていく社会的なデザインについて、思想と実践について情報を蓄積し考察を加える。
成果
プロジェクト「ケアと育みの人類学」は、グローバル化・多様化する社会において、人生のみちゆきにおける諸 課題に応えるために育まれてきた文化に焦点をあて、共生の軌跡を辿り、共有可能なかたちで具体的に提示するこ とを目指している。人々の多様なウェルビーイングに応える環境を醸成するために、一人ひとりのニーズを十分に 活かす方法を考察することは、社会の福祉(ウェルフェア)を考えるうえでも重要なテーマとなっている。
本研究では、第 1 に、「ウェルビーイングの人類学」を検討することの意義について、人間文化の多様性という観 点に留まらず、とくに20世紀半ば以降、人々の権利との関わりで提示されてきた「ウェルビーイング」の画一性に 関わる問題点について、「ウェルビーイング」の歴史的意味の変遷の検討とフィールドワークをとおして指摘してい る(Suzuki ed. 2013)。
そのうえで、生活者のウェルビーイング観を掬いとる方法として、配慮する、気にする、拘るなどの広い意味を 有する「ケア」の考え方と実践について、調査研究の対象として重視している(藤田 2005; 鈴木 2005; 工藤 2009 等)。1980年代以降、とくに社会の高齢化の認識のもとに、「ケア」は 2 者間の関係性として把握され検討される傾
研究および共同利用
向が顕著となっている(上野『ケアの社会学』等)。だが、本研究は、「ウェルビーイング」観の検討の成果でもあ る「生きて今日あることの喜び」に向けた「養生」が、すべての年代の人々に開かれる社会を、地域に生きる人々 が対面的・非対面的な関係性や環境との関わりのなかで創り続けることができるのか、をテーマとしている。
「豊かな」「よりよい生活」を目指す高齢者の「ケア」の展開に注目した Suzuki (ed.) 2013では、高齢者が望むこ とを実現しようする試みが、他の世代の人々にも、影響を与える変革となることを明示した。
現在編集中の Suzuki (ed.) 2014は、問題や文化葛藤を抱える高齢者や子どもたちの生活の場に注目し、ホスト社 会の中心的な価値観に基づく「ウェルビーイング」への「同化」的対処では、多様な文化的背景をもつ高齢者や子 どもたちのニーズに応えることが困難であること、またその困難さとジェンダーとの関わりについて指摘した。
宗教的社会運動に関するシンポジウムでは、グローバル化する社会において、「独自の文化」を守り生かすために 紡がれてきた生活全般をめぐるコミュニケーション技法について議論を深めた。表現手段を持つ人々以外の声を聴 くことやそれを反映した研究のありかたが、課題として指摘された。本観点については、2013年度に予定している シンポジウムにおいても、課題として共有される。また、インクルーシブ・デザインに関する研究においても、同 様の問題に関わる実践について、考察を続けている。
また、ウェルビーイングにおける養生という観点と、近年の生涯教育への注目に関わる問題群に関しても、2013 年度の課題として考察を深める。本観点に関する基礎的視点については、ヒーリング・オルタナティヴスに関する 研究においても、提示してゆく。
シンポジウムの成果に関しては、英語の論文集を出版し、全体構想に関しては、日本語の文献として提示する。
機関研究に関連した公表実績 1) 出版
Suzuki, Nanami (ed.)
2013
(Senri Ethnological Studies 80). Osaka: National Museum of Ethnology.
2) 公開シンポジウム
① 国際シンポジウム『ヒーリング・オルタナティヴス―ケアと養生の文化』
(2012年11月11日 国立民族学博物館)
主企画メンバー:鈴木七美・沢山美果子・白水浩信 主催:国立民族学博物館
共催:同志社大学人文科学研究所
協力:Institute for the History of Medicine of the Robert Bosch Foundation (Germany)
The Section of the History of Medicine at the Yale University School of Medicine (U. S. A.)
後援:日本医史学会、日本文化人類学会
② 国際シンポジウム『グローバル化における紛争と宗教的社会運動―オセアニアにおける共生の技法』
(2013年 1 月26日 国立民族学博物館)
主企画メンバー:丹羽典生・藤本透子 主催:国立民族学博物館
後援:日本文化人類学会・日本オセアニア学会
「中国における家族・民族・国家のディスコース」
代表者:韓 敏 2012〜2015 研究目的
家族・民族・国家は、人類の普遍的現象である。特に中国において、家・族・民族・国・国家などの概念は、複 合的社会関係を生み出す仕組みとして機能してきた。また、中国の歴史を貫き、社会構造の連続性と非連続性を作 りだす重要な要素でもある。上記の概念の中に家、族、国のような、歴史において中国人が自ら形成したものもあ れば民族、国家のような外部から導入され、制度化されたものもある。王朝体制から共和制、社会主義国家へ、農 耕社会から工業化・情報化社会への移行の中、上記の 2 種類の概念は複数の主体によって様々な状況に応じて再構 築されている。グローバル化が進む近年、これらの概念は開発、福祉、移動、観光、文化遺産化などにおいて、人 びとの関係や行動パターンを規制するディスコースとして再構築される局面をむかえている。
本研究の目的は、日本、中国、韓国、アメリカの中国研究者による国際共同研究を通して、中国の国民国家の成 立と社会主義政権の誕生以降の家族・民族・国家の概念と動態を検討するところにある。またグローバルな観点か
ら、中国の家族・民族・国家のディスコースの特殊性と普遍性の議論を通して非欧米型の人類学の視点と理論を構 築する作業も射程に入れる。
実施状況
今年度は予定通りに 2 つの企画を実施した。
1) 準備会合の実施
2012年 5 月19日民博で開催された機関研究の初回研究会において、国内のメンバーが集まり、代表の韓 敏が本 機関研究プロジェクトの趣旨、問題意識および方法論について、説明をおこなった後、各メンバーが趣旨に沿っ て今後どのように個別の研究を展開していく予定であるかを報告した。
機関研究のメンバー、鄧 暁華客員教授から「世界文化遺産客家土楼からみる家族と国家のインタラクション と競合」の発表があり、メンバー約30名が議論・検討をおこなった。
また2012年度11月開催の国際シンポジウム『中国における家族・民族・国家のディスコース』の内容と形式に ついて議論した。
2) 国際シンポジウムの実施
2012年11月24日〜11月25日、日本文化人類学会の後援を得て、中国社会科学院民族学・人類学研究所と韓国のソ ウル大学から研究者を招き、国際シンポジウム『中国の社会と民族―人類学的枠組みと事例研究』を、国立民 族学博物館の第 4 セミナー室で開催した。
成果
1) 2012年 5 月19日民博で開催された機関研究の初回研究会において、問題意識の共有、ならびに研究の役割分担の 明確化がおこなわれた。各メンバーがどのように研究を進めていくかについて認識や展望を交換でき、各自の方 向性を確認することができた。またプロジェクトメンバーとの意見交換の機会を持つことができ、本機関研究の 今後の新しい展開の一助となった。
2) 2012年11月24日〜11月25日、 2 日間にわたり開催された国際シンポジウムでは、中国、韓国および日本各地から 幅広い年齢層の94名の研究者と参加者が集り、家族・民族・国家の概念やその動態を扱う人類学的な方法につい て、理論的な枠組みを検討し、再構築を図った。さらに、民族に焦点を当て、華夷秩序、近代国家、社会主義国 家における民族の生成、およびグローバル化における民族文化の再構築について、各地の事例を通して検討をす すめた。
本国際シンポジウムの開催において、中国の社会関係に関する主要な概念である家、民族、国家について、歴史 的かつ民族誌的な視点から研究をおこない、さらに日本・旧ソ連・西洋との比較を通してより広い視野で近代とグ ローバル社会における国家と社会、民族とエスニシティという普遍的な課題について国際共同研究を展開すること ができた。
同時に中国およびアジアにおける人類学の研究連携とそのネットワークを強化し、アジアおよび世界の人類学・
民族学研究に関する本館のプレゼンスを示すことができた。
シンポジウムの参加者が口頭で発表したものについては論文にまとめている段階である。国立民族学博物館の Senri Ethnological Studies の 1 冊として中国語で研究成果を出版することを準備している。
機関研究に関連した公表実績 韓 敏
2012a 「家族・民族・国家のディスコース―社会の連続性と非連続性を作りだす仕組み」『民博通信』137: 8 9。
2012b 「国際シンポジウム 中国の社会と民族―人類学的枠組みと事例研究」『民博通信』139: 31。
2 「マテリアリティの人間学」 領域代表:寺田𠮷孝
グローバル化が進む状況においてモノと人の関係を、人類学を核としつつ学際的に再検討して、新しい人間観の構 築をめざす。モノと人の関係を、産業化や都市化、越境化などの脈絡で問い直し、また長期的時間軸を視野にいれ て歴史的にも究明する。物神化の問題、人によるモノの収集と所有の問題、人工知能や情報技術など先端的科学技 術と人の関係などが主要な研究テーマとなる。
「モノの崇拝―所有・収集・表象研究の新展開」
代表者:竹沢尚一郎 2009〜2012 研究目的
後期近代ないし大量消費社会の到来とともに、規格化された製品が世界中にあふれている。その反面、「モノの崇 拝」とも呼ぶべき、モノの所有・収集・表象に関する異常な熱意が存在するのも事実である。モノの収集・展示・
研究および共同利用
評価に特化した施設としての博物館が世界中で増殖していること、アート作品に対する常軌を逸した価格の付与、
文化遺産に関する世界的な関心の高まりや、ブランド品に対する異常なまでの嗜好は、どのように考えればよいの か。さらに、整形医療やピアス、タトゥー等の身体加工の流行は、人間の身体を操作可能なモノとみなし、過剰な までに関心と情緒を投入する身体=モノ崇拝の一形態ではないのか。
本研究は、後期近代において新たな形態をとりつつある人間とモノとの関係性について、多角的かつ斬新な視点 から理解を深めようとするものである。とりわけ、モノに対して特権的価値が付与される場としての博物館、モノ とその記憶、アートとアーティファクトの関係性等について、一段と深い理解を得ることを目的とするものである。
実施状況
2012年 5 月26日に、日本アフリカ学会と共催で国際シンポジウム『アートと博物館は社会の再生に貢献しうる か?』を国立民族学博物館で実施した。
2013年 1 月15〜16日に、パリ人間科学館で国際シンポジウム『21世紀の民族学博物館』を実施した。
2013年 3 月24日に国立民族学博物館で、国際シンポジウム『博物館は悲惨な出来事をどう展示するか』を実施した。
成果
5 月26日のシンポジウムからは、アートが社会のなかでどのように生きることが可能であり、とくに平和構築に どのように貢献しうるかについて、アフリカ・モザンビークの事例から多くの示唆と理解を得られた。
1 月15〜16日のシンポジウムでは、ヨーロッパの民族学博物館の関係者 9 名の発表が行われ(私も加えれば10名)、
ヨーロッパの民族学博物館の抱える課題と今後の展示の方向性等について掘り下げた議論がなされた。
「布と人間の人類学的研究」
代表者:関本照夫 2010〜2012 研究目的
この共同研究は、モノと人との関係を布に焦点を当てて考察する。参加者はいずれも世界の各地において、伝統 染織、それに関連する工芸、あるいは衣服の研究を行い、個々に研究成果を発表してきた。こうした成果を総合し、
国際的な学術集会、実践家・愛好者等を加えたワークショップ、さらにこの領域で人類学上新たなスタンダードと なるような書物の刊行、マルチメディア的な資料集の公開を通じ、布から出発しモノと人の関係を論ずる新たな人 類学的領域を築く。現代世界における布・衣服について生産、流通、消費の諸相にわたって検討することにより、
人の身体性、環境規定性、実践的・状況的知識、地域性、人と人、モノと人のネットワークについて、新たで具体 的な知見を生み出すことが目標である。
実施状況
1)国際ワークショップ「アジアの布と生きる」を2012年11月 3 日に本館講堂で開催し、全国から170人の参加者が あった。
2)国際シンポジウム「布を作る人、布に包まれる身体」を2013年 2 月23日に本館第 4 セミナー室で開催し、全国か ら57人の参加があった。
3)本プロジェクトのメンバーによる成果公開のための 2 回の準備会合を、2012年 7 月21〜22日および2013年 3 月22
〜23日に本館で開催し、それぞれ11月と 2 月の国際ワークショップ、国際シンポジウムのための準備討議と役割 の分担、その後の成果公刊などについて討議した。
4)2012年11月27日〜12月26日のあいだ、本機関研究プロジェクトの国際共同研究員である中国・蘭州大学の王 建新 教授が、外国人研究員客員として本館に滞在し、中国雲南省・貴州省少数民族の刺繍布作りを巡って討議を交わ したほか、人類学におけるモノ研究についても、中国・日本その他の国々での研究状況を互いに確認し、今後の 方向を議論した。
成果
今年度は 2 回の公開シンポジウム、ワークショップを開催した。11月の国際ワークショップ「アジアの布と生き る」では、大学・研究機関に身を置かず在野の研究や実践を行っている 6 人の方々(内インドネシアから 2 人、オ ーストラリアから 1 人)を招き、現代アジア太平洋地域における伝統染織の展開と今後の方向について、実践と理 念・価値観をつなぐ議論を行った。伝統染織の製作・流通・マーケッティングに関わる人々、愛好家が多く会場に 集まり、研究者、院生と 1 つの場で議論を行って、新しいつながりを作った。 2 月の国際シンポジウムでは、文化 人類学者と並んでファッション史・ファッション研究の専門家など 6 人の発表を受け、「着る」ことの現象学、「フ ァッション」概念の解剖が行われた。これは今後テキスタイルと衣服を巡る人類学研究を進める重要なステップと なるものだった。これらの成果は英文ないし日本語での出版を準備している。
機関研究に関連した公表実績 1)出版
関本照夫
「今日のインドネシアバティック産業」窪田幸子・松井 健編著『アジア工芸の<現在>―工芸と人類学の基礎 研究』pp. 65 70,東京大学東洋文化研究所,2012。
関本照夫
「捨てるもの、捨てられないもの―国際ワークショップから」『民博通信』138: 12 13,2012.
Ogawa, Sayaka
Regaining ʻFashionʼ Value: The Transborder Trading of Second-hand Clothing in East Africa.
35: 9 10, 2012.
Sekimoto, Teruo
Consuming Textiles through their Uses and Reuses, International Workshop, February 7 8, (Conference Report). 34: 14 15, 2012.
Sekimoto, Teruo
Discardable and Undiscardable Textiles and Clothing. 35: 1 3, 2012.
Sugiura, Miki
Shifting Functions of Two Major Second Hand Clothing Markets in 17th 18th Century Edo: Tomizawa and Yanagihara. 35: 5 7, 2012.
Tamura, Ulara
Sacred Rag, Shoddy Rag. 35: 7 8, 2012.
van Damme, Ilja
Urban Transformations in the Value of Used and Old Textiles. 35: 3 4, 2012.
2)公開ワークショップ、シンポジウム
国際ワークショップ「アジアの布と生きる」2012年11月 3 日、国立民族学博物館講堂
国際シンポジウム「布を使う人、布に包まれる身体(からだ)」2013年 2 月23日、国立民族学博物館第 4 セミナー室
「民族学資料の収集・保存・情報化に関する実践的研究 : ロシア民族学博物館との国際共同研究」
代表者:佐々木史郎 2012〜2015 研究目的
本研究プロジェクトの目的は、民族学資料(標本資料と映像音響資料から構成される)の収集、保存、修復、情 報化、そして利活用までを包括する総合的研究と実践を通じて、本館の大学共同利用機関としての機能と博物館と しての機能を高め、その存在感を向上させることにある。そして、この目的を達成するために、2010年度に協定を 締結したロシア民族学博物館(ロシア連邦サンクトペテルブルク市)との国際共同研究を実施する。
実施状況
2012年 6 月 3 日にサンクトペテルブルクに出向き、 4 日、 5 日、 6 日の 3 日間にわたって、ロシア民族学博物館 側との協議とバックヤード視察を行った。それに続き、当博物館の紹介により、 7 日と 8 日には同市にある人類学 民族学博物館、エルミタージュ美術館のバックヤードも視察し、研究者と意見交換を行った。
さらに、2013年 1 月24日〜28日の日程で、ロシア民族学博物館から 3 名の研究員を招聘して、元興寺文化財研究 所での修復作業の実演と、奈良国立博物館と国立民族学博物館でのバックヤード視察を交えた国際ワークショップ
『民族学資料の保存と修復―博物館バックヤードの利用効率向上と自然素材資料の修復』を実施した。
成果
サンクトペテルブルクでの視察と意見交換、そして奈良と大阪でのワークショップを実施した結果、民族資料あ るいは民族学資料の保存と修復の基本方針について、ロシア側と日本側との間で議論と意見交換が行われ、相互に 新しい知見を得るとともに、情報を共有することができた。
機関研究に関連した公表実績
奈良と大阪で実施した国際ワークショップのアブストラクト集を編集するとともに、その主要な内容を Web で公 開した。
研究および共同利用 共同研究
2012年度の応募・採択状況
課題 1 :文化人類学・民族学および関連諸分野を含む幅広い研究 課題 2 :本館の所蔵する資料に関する研究
研究会の区分 2012年度
研究代表者 課題区分 申請 採択 継続 計
一般
館 内
課題 1 5 4
11 16
課題 2 1 1
客 員
課題 1 1
3 3
課題 2
公 募
課題 1 8 2
14 16
課題 2
若手 ※10 課題 1 6 3
4 7
課題 2
計 21 10 32 42
共同研究課題一覧
○印は公募による実施課題、□印は特別客員教員(申請時)による実施課題、●印は若手による実施課題
研究課題 研究代表者 課題
区分 研究年度 朝鮮半島北部地域の民俗文化に関する基礎的研究 朝倉敏夫 1 2009〜2012 言語の系統関係を探る―その方法論と歴史学研究における意味 菊澤律子 1 2009〜2012 オセアニアにおける独立期以降の<紛争>に関する比較民族誌的研究 丹羽典生 1 2009〜2012
○ サファリングとケアの人類学的研究 浮ヶ谷幸代 1 2009〜2012
○ プラント・マテリアルをめぐる価値づけと関係性 落合雪野 1 2009〜2012
○ アジア・アフリカ地域社会における〈デモクラシー〉の人類学
―参加・運動・ガバナンス 真崎克彦 1 2009〜2012
○ 映像の共有人類学―映像をわかちあうための方法と理論 村尾静二 1 2009〜2012 中国における民族文化の資源化とポリティクス
―南部地域を中心とした人類学・歴史学的研究 塚田誠之 1 2010〜2012 驚異譚にみる文化交流の諸相―中東・ヨーロッパを中心に 山中由里子 1 2010〜2013
□ 人類学における家族研究の新たなる可能性 小池 誠 1 2010〜2013 日本の移民コミュニティと移民言語 庄司博史 1 2010〜2013
手織機と織物の通文化的研究 吉本 忍 1 2010〜2013
○ 非境界型世界の研究―中東的な人間関係のしくみ 堀内正樹 1 2010〜2013
○ 日本の「近代化」をアジア・アフリカ諸社会との比較で再検討する 川田順造 1 2010〜2013
○ 海外における人類学的日本研究の総合的分析 桑山敬己 1 2010〜2013
○ 日本におけるネイティブ人類学/民俗学の成立と文化運動
―1930年代から1960年代まで 重信幸彦 1 2010〜2012
● 映像資料を活用したイスラームの多様性に関する地域間比較研究 吉本康子 1 2010〜2012
● 交錯する態度への民族誌的接近―連辞符人類学の再考、そしてその先へ 岩佐光広 1 2010〜2012