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糖尿病合併例と非合併例の比較検討

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(1)

3 次元光干渉断層図法でみた急性冠症候群患者にお ける冠動脈壁内マクロファージ集積分布について:

糖尿病合併例と非合併例の比較検討

日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系循環器内科学専攻

向後 隆章

修了年 2018 年

指導教員 廣 高史

(2)

目次

① 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1

略語集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3

③ 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4

④ 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

13

⑤ 対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

13

⑥ 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

20

⑦ 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

27

⑧ 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

34

⑨ 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

35

⑩ 表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

36

⑪ 図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

42

⑫ 図説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

52

⑬ 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

56

⑭ 研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

66

(3)

1

概要

目的:冠動脈の動脈硬化性プラークにおけるマクロファージ集積は プラークの不安定性に関与するとされている。本研究の目的は急性 冠症候群患者の冠動脈壁におけるマクロファージ集積の

3D

空間分 布の特徴を血管内超音波検査(

IVUS

)ならびに3次元光干渉断層図 法(

OCT

)を用いて糖尿病患者と非糖尿病患者で比較し、その臨床的 意義を検討することにある。

対象と方法:日本大学医学部附属板橋病院にて入院した、一定の基 準を満たした急性冠症候群の患者

40

名を糖尿病群

20

名と非糖尿病 群

20

名に分けた。

冠動脈壁におけるマクロファージ集積は

OCT

において縞状の影を引 く線状の高輝度領域と定義した。そして左前下行枝の入口部から

20mm

以内のマクロファージの集積体積を計測した。計測した領域は 左回旋枝側のずり応力の高い部位と反対側のずり応力の低い部位に

2

分した。

OCT

で計測したマクロファージの集積体積を

IVUS

にて 測定したプラーク体積で除することにより、マクロファージ集積密 度を算出した。

(4)

2

結果:非糖尿病群のマクロファージ密度はずり応力の高い部位は低 い部位と比較して有意に高かった

(7.1(1.4-16.5) vs 1.5(0.5-4.5) [×10- 4×mm

3

/mm

3

], p=0.033)

。糖尿病群ではずり応力の高い部位と低い部位 で密度の有意差は認めなかった

(5.6(1.1-18.8) vs 6.5(4.4-15.1) [×10

-

4

×mm

3

/mm

3

], p=0.565)

。ずり応力の低い部位のマクロファージ密度は 非糖尿病群と比較して糖尿病群で有意に高かった

(6.5(4.4-15.8) vs 1.5(0.5-4.5) [×10

-4

×mm

3

/mm

3

], p=0.003)

結論:糖尿病合併急性冠症候群患者の冠動脈におけるマクロファー ジ集積は非糖尿病患者と比較して分布の違いが認められた。このこ とにより糖尿病の有無により急性冠症候群の発症機序や動脈硬化の 病態に差異があることが示唆された。

(5)

3

略語集

ACE-I

Angiotensin- converting enzyme inhibitor

アンギオテンシン変換酵 素阻害剤

ACS

Acute coronary syndrome

急性冠症候群

ARB

Angiotensin

receptor blocker

アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬

BMI

Body mass index

体格指数

CRP

C-reactive protein C

反応性蛋白

DPP-4

Dipeptidyl peptidase - 4

ジペプチジルペプチダーゼ

-4 eGFR

Estimated glomerular filtration rate

推算糸球体濾過値

HDL-cholesterol

High-density lipoprotein cholesterol

高密度リポタンパク コレステロール

HMG-CoA

3-hydroxy-3-methylglutaryl-Coenzyme A

ヒドロキシメチルグル タリル

CoA

IVUS

Intravascular ultrasound

血管内超音波検査

LAD

Left anterior descending coronary artery

左冠動脈前下行枝

LCX

Left circumflex coronary artery

左冠動脈回旋枝

LDL-cholesterol

Low-density lipoprotein cholesterol

低密度リポタンパクコ レステロール

MCP-1

Monocyte chemoattractant protein-1

単球走化性因子

M-CSF

Macrophage-colony stimulating factor

マクロファージコロニー刺激 因子

MMPs

Matrix metalloproteinase

マトリックスメタロプロテアーゼ

OCT

Optical coherence tomography

光干渉断層図法

VCAM-1

Vascular cell adhesion molecule-1

血管細胞接着分子

-1

(6)

4

緒言

近年わが国で急激に増加する動脈硬化性疾患のなかで突然の生命 を奪う可能性のある急性冠症候群

(acute coronary syndrome; ACS)

の主因は、冠動脈プラークの破綻とそれに続く血栓形成である

[1]

。 以前は動脈硬化の進展により徐々にプラークが肥厚し、最終的に冠 動脈狭窄に至った結果として

ACS

は発症すると考えられていた。し かし現在では血管壁に脂質が蓄積しプラーク(粥腫)が形成され、そ のプラークの表面が破れて血栓が形成され、血管内腔が閉塞ないし 狭窄が出現することによって

ACS

が発症すると考えられている。そ のため、急性心筋梗塞、不安定狭心症、虚血性突然死のいずれもこの プラーク破綻が主因であり、血栓形成の多寡に応じて表現型が違う だけの共通した病態が基礎にあるとの認識から、これらを総称して

ACS

と呼ぶようになった。

Naghavi

らを含む多くの研究者により、「

ACS

を発症しやすいプ

ラーク」を列挙し、

vulnerable plaque

と呼んでその定義付けや分類 がなされた

[2]

。それによれば、易破綻性(もしくはすでに破綻した)

プラークだけでなく、プラーク表面にびらんを起こしたプラークと 起こしそうなプラーク、プラーク内出血、結節状石灰化を有するプラ

(7)

5

ーク、高度狭窄病変なども

vulnerable plaque

として掲げられている

(

1)

。しかし破綻しやすいプラークだけに限定したとしても、その 病理学的特徴は画一的ではない。破綻しやすいプラークの組織学的 特徴というのは、①薄い線維性被膜や大きな脂質コアを有する偏心 性プラーク、②炎症細胞の集積、③陽性リモデリングの存在、④

spotty

な石灰化の存在などがあげられている。

不安定プラークは責任病変以外にも同一患者内に多数存在する

[3]

ことがありうることがわかっているが、その要因の一つとして血管 壁における慢性炎症が考えられている。慢性炎症が持続する原因は 完全には解明されていないが、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの 危険因子の集積が重要であると考えられている

[4]

動脈硬化性プラークの形成は冠危険因子を背景とした血管内皮細 胞 の 病 的 反 応 な ら び に 内 皮 機 能 障 害 が 初 端 と 考 え ら れ て い る

[4][5](

2)

。動脈硬化進展過程においては血管内皮細胞において

VCAM-1

などの接着因子の発現が亢進し、単球を主とした白血球お

よび血小板の内皮細胞への接着が促進される。接着した白血球はケ モカインの作用および内皮機能障害により内皮細胞間隙を通過し内 膜下に遊走する。なかでも重要とされる単球は、活性化した血管内皮

(8)

6

細 胞 に お い て 産 生 さ れ る 単 球 走 化 性 因 子

(monocyte chemoattractant protein-1

MCP-1)

に対して遊走し、

macrophage- colony stimulating factor(M-CSF)

により活性化されることでマクロ ファージへと分化する。単球

/

マクロファージは透過性の亢進した内 皮細胞間隙を通過し内膜下に存在する酸化

LDL

を貪食し泡沫化す る。この過程を経て動脈硬化性プラーク形成の早期過程である脂肪

線条

(fatty streak)

が形成される。ついで、炎症細胞と細胞外基質が

集積し動脈硬化性プラークのコアを形成し、それを覆うように平滑 筋細胞とタイプⅠ、Ⅲコラーゲンを豊富に含む細胞外マトリックス からなる線維性被膜が形成され動脈硬化性プラークが形成される。

プラーク内ではとくにプラークの立ち上がり部位、線維性被膜直 下や脂質コアの底部に、マクロファージや

T

リンパ球の浸潤を強く 認める。とくにマクロファージはプラーク破綻にも深く関与すると されている

[6]

。プラークの脂質コアの大きさや線維性被膜の厚さは 経時的に変化し、さまざまな因子により動的バランス(産生と分解)

が保たれ、簡単には破綻しないようになっている。しかしながら、プ ラーク内の慢性炎症が持続すると、マクロファージからのマトリッ クスメタロプロテアーゼ

(matrix metalloproteinase

MMPs)

の産生

(9)

7

分泌に伴い線維性被膜が菲薄化し、プラークが破綻しやすくなると 考えられており

[7][8]

、マクロファージはプラークの不安定性に関与 するといわれている

[9]

。マクロファージはまた、外因系凝固反応の 開始因子として凝固カスケードを促進し、フィブリン網による止血 血栓の形成に関与する組織因子を発現し、局所的な凝固亢進をもた らし、

ACS

の発症に寄与する。急性心筋梗塞で死亡した患者の病理 学的検討では、プラーク破綻あるいはびらん(プラーク破綻を認めな いものの血栓付着を伴う内皮の被覆欠如を認める部位)のいずれに おいても、マクロファージを伴う炎症の関与が示されている

[10]

。ま た、

ACS

患者のプラークは、安定狭心症患者のプラークよりもマク ロファージの密度が高いことが示されている

[11]

以上のようにマクロファージはプラークの不安定化や

ACS

発症に 大きく関与しているわけであるが

[6]~[11]

、血管壁内へのマクロファ ージ浸潤は決して血管全体に均等に起こるのではなく、局所性があ る。その重要な規定因子の一つがずり応力(

shear stress

)であると されている。

shear stress

とは、血管内皮細胞表面をずらすように、あるいは変

形させるように働く血液の流れによって生まれる応力の一つと定義

(10)

8

される。その値は、血流速度を血管壁からの距離で微分したものに、

血液の粘性度を掛けることで算出される。つまり、壁から離れるにつ れ、急激に流速が高まっているようなところでこの値が増加する。た とえば、血管分岐部では、分岐側では

shear stress

が高く、その対 側では

shear stress

は低くなる

[12]

。この

shear stress

が動脈硬化 の進展に影響を及ぼすことについては、過去に多くの報告がある

[13]~[22]

。さらに

shear stress

とマクロファージ集積の関連につい

ては、

shear stress

が強い領域でマクロファージ集積を多く認めたと

の報告や

[23]~[25]

、狭窄部の上流にマクロファージ集積が多いこと

が示されてきた

[26] [27]

。しかし、マクロファージ集積の血管壁内の 分布が、糖尿病の有無を含めて基礎疾患の違いにより変化するのか については過去に明らかにはされていない。

糖尿病は冠動脈疾患の発症の独立した危険因子である

[28]~[30]

。 糖尿病患者は心筋梗塞または死亡の発症率が

2

5

倍高いことが報 告されている

[31][32]

。そして、

7

年間のフォローアップ中に虚血性 イベントの再発が

2

倍になるとされている

[31]

。そして、欧米では糖 尿病患者における初発の心筋梗塞の発症頻度は、非糖尿病患者にお ける心筋梗塞再発の頻度に相当することが報告されている

[31]

。糖尿

(11)

9

病患者は、

ACS[33]~[35]

、経皮的冠動脈インターベンション

[36][37]

、 および外科的血行再建

[36][38]

においては非糖尿病患者に比しより 不良な転帰をとるとされている。その理由として、糖尿病における高 血糖、過剰遊離脂肪酸、およびインスリン抵抗性が、内皮細胞内で代 謝障害を引き起こし、内皮機能を損ない、動脈硬化の様々な機序を促 進するからであると報告されている

[39]

。しかし、特に

ACS

を呈し た患者について、冠動脈壁内のマクロファージの集積分布を糖尿病 合併例と非合併例の間で比較検討した研究は過去にはない。

血管内イメージング

血管内イメージングとは、直径約

1

ミリメートルのカテーテルを 生体で直接血管内に挿入し、先端から超音波や光を発信して血管内 腔や血管壁の状態を描出することのできる検査法の総称である。冠 動脈プラークの状態ならびにマクロファージの集積に関しては、血 管内超音波法ならびに光干渉断層図法が有用な方法である。

1)血管内超音波検査

(intravascular ultrasound:IVUS)

について

IVUS

は高周波超音波探触子(

20

60MHz

)を先端に擁した直径

(12)

10

1mm

3 French size

)のカテーテルを生体の血管内腔に挿入し血 管壁の短軸断層像を抽出する方法である。すなわち先端から超音波 を発信させ、血管壁の各部分から返ってきた超音波を、距離と強度に よって血管断面を

360

度に展開して画像化するものである。図

3

に その

1

例を示す。

1989

年に米国で初めて臨床応用され、わが国では 特に経皮的冠動脈インターベンションの約

8

9

割の症例で使用さ

れている

[40][41]

。この

IVUS

により、プラークの断面積や体積が計

測できる。

冠動脈壁は内膜、中膜、外膜の三層構造からなる。内膜の局所肥厚 をプラークと呼んでいるが、

IVUS

では中膜と内膜の境界は判別困難 であることが多いため、

IVUS

では内膜・中膜の複合体を便宜上プラ ークとして計測する。血管断面積の計測に当たっては、中膜―外膜境 界の断面積(この境界には通常外弾性板が存在しているため、外弾性 板面積とも呼ばれる)で測定する。この中膜―外膜境界断面積から内 腔―内膜境界断面積(いわゆる血管内腔断面積)を引き算したものが プラーク面積(内膜・中膜複合体面積)となる。

IVUS

カテーテルは 一定速度で引き抜きながら一定時間間隔で短軸断面像が撮像できる ので、それを積分することで、一定区間内のプラーク、内腔、血管の

(13)

11

総体積をそれぞれ計算することができる。

IVUS

により得られる情報は白黒で得られ、

grey-scale

と呼ばれる 画像で構成される。

grey-scale IVUS

ではプラーク内の成分の中で、

とくに石灰化が容易に同定できる。石灰化は

IVUS

では後方に音響 陰影を引く高輝度領域として描出され、その診断感度は

78

80

%と 優れる

[42]

。石灰化があると音響陰影を引くため後方の情報が欠落す るが、小さな石灰化である場合は後方のプラークの境界については 近傍の情報から外挿して推定する。しかしカテーテルの中心から仰 角が

90

度以上陰影があると近傍の情報からの推定が困難となりプ ラークの境界は同定困難となる。

2

)光干渉断層図法

(Optical coherence tomography:OCT)

について

光 干 渉 断 層 図 法

(Optical coherence tomography:OCT)

は 波 長

1300nm

の近赤外線を用いた高解像度の画像診断装置である。原理

は超音波検査と似ていて、血管壁の各部分から返ってきた光信号を 距離と強度によって

360

度に表現して血管断面を描出する検査方法 である。

OCT

の特徴は

10

20

μ

m

という高い解像度であり、

IVUS

の約

(14)

12

10

倍に相当する。そのため、血管構造やプラークの性状を高次元で 描出可能である。プラーク破綻の前駆病変は、大きな脂質性壊死性コ アと

65

μ

m

未満の薄い線維性被膜、線維性被膜へのマクロファージ の浸潤、偏心性プラーク、血管の陽性リモデリングにより特徴づけら れ、

thin-cap fibroatheroma(TCFA)

と称されているが、

OCT

はその 高い解像度により

TCFA

の薄い線維性被膜を同定でき

(

4 a)

、その 厚さを正確に測定できるほか、脂質に富んだ領域も同定できる。さら に

OCT

ではマクロファージの集積は線状の高輝度領域として観察 され、その背部には光シグナルの縞状の高度な減衰が認められると されている

[43]

。図

4b

にその

1

例を示す。

Tearney

らはプラーク内 マクロファージの集積と

OCT

画像の相関を検討し、その結果、剖検 例から得られた脂質性プラークの線維性被膜内における

CD68

陽性 細胞の染色率と

OCT

シグナル輝度のばらつきが相関することを報 告している

[43]

。この検討により、

OCT

は線維性被膜内のマクロフ ァージ集積度を評価できる可能性が示された。さらに、

ACS

患者の プラークではマクロファージの集積密度が高く、プラーク破綻部位 では非破綻部位と比較してよりマクロファージの集積密度が高かっ たとする報告もある

[44]

(15)

13

OCT

の短所として、近赤外線は深達度が

2mm

と浅く、血栓や脂質 成分など減衰の強い組織の背側と大きな血管では血管全体の描出が 困難である。脂質性プラークの背側では血管壁を同定できないため、

OCT

により脂質コアのサイズを定量評価することは困難であり、脂 質性プラークの占める領域を血管内腔中心から測定した角度で半定 量的に評価することが多い。

目的

本研究の目的は初発

ACS

患者の冠動脈壁内におけるマクロファー ジ集積の

3D

空間分布の特徴を血管内超音波検査

(IVUS)

、光干渉断 層図法(

OCT

)を用いて糖尿病患者と非糖尿病患者で比較し、その 臨床的意義を検討することにある。

方法と対象

対象患者

2016

3

月までに日本大学医学部附属板橋病院において初発の

ACS

の診断にて経皮的冠動脈インターベンションを目的として心臓 カテーテル検査が施行され、冠動脈造影、ならびに血管内超音波検査

(16)

14

IVUS

)、光干渉断層法(

OCT

)を施行した患者で、かつ後述する ように左前下行枝

(LAD)

の入口部(左回旋枝分岐直後)から

20mm

の範囲にマクロファージ集積を認めるものを対象とした。急性冠症 候群は

LAD

の入口部 から連続したところには責任病変がない

ST

上昇型急性心筋梗塞、非

ST

上昇型心筋梗塞、不安定狭心症のいずれ かとした。急性心筋梗塞は、

CK

値が基準値上限の

2

倍以上を超えて いるか、心筋トロポニン値が健常者の上限

99

パーセンタイルを超え ていて、いずれかが一過性に上昇し下降する急性変化を認めること を必須条件とし、そして心筋虚血の存在に矛盾しない症状、新規の

ST

上昇(≧

0.1mV

)または新規の左脚ブロック(

Left bundle branch block

LBBB

)や病的な

Q

波の出現などの心電図変化、または心筋 虚血の存在を支持する心エコー、心筋シンチもしくは心臓カテーテ ル検査の画像所見、の少なくとも一つを伴った心筋虚血が明らかで あるときに診断した。これらのうち、有意の

ST

上昇を認めたものを、

ST

上昇型急性心筋梗塞とし、そうでないものを非

ST

上昇型心筋梗 塞とした。不安定狭心症は、狭心症様胸痛が認められ、以下のうちの

1

つを満たすものとした:①最近

1

カ月以内に発症した狭心症、② 最近

1

カ月以内に悪化した狭心症、③持続する安静時の狭心症、ま

(17)

15

たは,日常生活が著しく制限される狭心症。その上で、心臓カテーテ ル検査にて冠動脈に虚血を起こしうる所見を認めたものとした。一 方、

1

ヶ月以上前に冠動脈疾患の既往のあるもの、明らかな脳卒中の 既往や、治療を要する慢性心不全、大動脈疾患、腎臓病、透析患者、

肝臓病、悪性疾患を伴うもの、甲状腺疾患、家族性高コレステロール 血症、コントロール不良の高血圧症を有する患者、さらに

LDL

アフ ェレーシスを含む血液浄化、免疫・化学療法中、ステロイドや非ステ ロイド性抗炎症薬を常用している患者は除外した。なお、脂質異常症 は日本動脈硬化学会編日本動脈硬化性疾患予防ガイドライン

2017

年版

[45]

に基づき

LDL

コレステロールが

140mg/dl

以上、

HDL

コレ ステロールが

40mg/dl

以下、中性脂肪が

150mg/dl

以上のいずれか を認めるものとした。肥満は入院時の

BMI

25

以上であるものと した。

さらに対象者は糖尿病群と非糖尿病群の

2

群に分け、

2016

3

月 より後ろ向きに連続で抽出しそれぞれの群で

20

名を対象とした。糖 尿病の有無は、

ACS

急性期での研究であるため、糖負荷試験は行わ ず、入院時の

HbA1c

値が

6.5%

以上、糖尿病治療薬の使用、過去に 担当医により糖尿病と診断された既往などから判断した。なお糖尿

(18)

16

病前駆状態である耐糖能異常の患者は含めなかった。

なおこの研究は臨床上保険適応に基づいて施行した

OCT

IVUS

のデータを後ろ向きに抽出して比較検討したものであるが、日本大 学医学部附属板橋病院臨床研究倫理審査委員会の審査を受けその許 可のもと(承認番号

RK-170804-3

)、かつ、ヘルシンキ宣言にのっと り施行している。

心臓カテーテル検査と

IVUS

OCT

の施行

心臓カテーテル検査において冠動脈造影を施行したのち、冠動脈 枝の末梢までガイドワイヤーを挿入し、そのガイドワイヤーを経て 以下の血管内イメージングを行った。この検査の直前に

1.5mg

の硝 酸イソソルビドを冠動脈注入した。観察範囲は各モダリティを可能 な限り末梢まで挿入し同部位を開始点とし、入口部を終了点にし、自 動定速度引き抜き装置にて引き抜きながら観察した。

IVUS

OptiCross ™ Imaging Catheter(iLab ™ System

Boston

Scientific

社製

)

を用いた。引き抜き速度は

0.5mm/

秒であり、撮像レ ートは

30

フレーム

/

秒である。

OCT

Dragonfly ™ JP Imaging

Catheter(ILUMIEN

™、

OPTIS

™、

St. Jude Medical Japan

)

を用い

(19)

17

た。引き抜き速度は

40mm/

秒、撮像レートは

180

フレーム

/

秒であ る。また、いずれの検査においても、画像の質が悪いものや測定範囲 内で仰角

90

度以上の石灰化があるものなど解析に不適当である症 例は除外した。

解析対象となる血管部位は左前下行枝(

LAD

)の入口部から

20mm

とし、その範囲に画質が不良な部位や

culprit region

が含まれるもの はその部分を除外して解析した。また、入口部から

20mm

の範囲に ステントが含まれる場合はステントおよびステントエッジから

5mm

以内の部位は除外して解析した。

IVUS

による計測

Grey scale IVUS

では解析対象部位について血管総断面積、血管

内腔断面積を測定しプラーク面積を血管総断面積と血管内腔断面積 の差(内膜・中膜複合体面積)から算出した。一定速度で引き抜いて、

1

秒ごと、すなわち

0.5mm

ごとに撮像した各断面積の総和に

0.5mm

(各フレーム間の距離に相当する)を乗じ、当該枝全体の血管総容積、

内腔総容積、プラーク総容積を算出した。

OCT

による計測

(20)

18

OCT

による解析対象部位についてのプラークの組織性状に関する 計測として、観察冠動脈枝での最小線維性被膜厚を測定した。さらに 脂質コアが認められたときに、観察冠動脈枝の中で最も大きな脂質 コアの仰角、すなわち最大脂質コア仰角も求めた(図

5

)。

マクロファージの集積分布の

3

次元解析

本研究ではマクロファージ集積の存在は

OCT

で判定したが、その 定義は冠動脈壁に存在する線状高輝度で縞状の

shadow

を引くもの

(図

4b

[43]

とし、アーチファクトの混入を防ぐため、その所見が

OCT

上連続

3

フレーム以上に認められるものとした。マクロファー ジ集積の同定は三次元画像解析ソフト

AVIZO ™ (ver 6.2.1

、マックス ネット社、東京

)

を使用して、このソフトに装備されている一定の輝 度以上の領域を自動抽出して既定の色で表示するアルゴリズムを用 いて徐々にその閾値を変化させながら、マクロファージの集積部分 と思われる後方に縞状の

shadow

を引く高輝度線状領域を抽出した。

さらに、目視によりマクロファージと同輝度である血栓等の誤抽出 部分等を修正したのち、その面積を自動測定した

(

6)

。さらにその 領域を3

D

的に表示

(

7)

して解析を行い、最終的に当該領域におけ

(21)

19

るマクロファージ集積領域の容積を算定した。

糖尿病群、非糖尿病群で解析対象部位についてそれぞれマクロフ ァージ集積の総体積、単位長さあたりの体積、プラークあたりのマク ロファージ集積の体積を比較した。また、

LAD

入口部より

20mm

の 範囲の冠動脈を左回旋枝(

LCX

)の分岐部をみて、分岐側半分とその 反対側に

2

分割し、それぞれを

high shear

領域、

low shear

領域と し、この

2

領域について長軸方向にマクロファージ集積の容積を測 定した

(

8)

2

分割の方法であるが、

LAD

LCX

分岐部において、

両者の直径が最も大きくなる断面を描出し、両血管枝の重心同士を まず直線で結んだ。この直線と直行し、かつ

LAD

の内腔重心を通る 直線を次に引き、その直線によって、

LAD

壁を

LCX

分岐側と反対 側の

2

領域に分けた。そして

LCX

側を

high shear

領域、反対側を

low shear

領域とした。この

2

領域についてマクロファージ集積領域

の体積を測定した。また、このマクロファージの集積体積をプラーク 体積で除することにより、マクロファージ集積密度を算出した。プラ ークの体積については、

OCT

の近赤外線は深達度が

2mm

と浅く、

血栓や脂質成分など減衰の強い組織の背側と大きな血管では血管全 体の描出が困難となる。そのため

OCT

で観察した部位に一致した部

(22)

20

位の

IVUS

画像で求めた。すなわち

IVUS

における内膜・中膜複合 体領域の体積をプラーク体積とし、それを観察領域全体、

high shear

領域、

low shear

領域についてそれぞれ求めた。

統計方法について

2

群間の比較は、カテゴリー変数はχ検定を、連続変数は

t

検定 を行った。連続変数が正規分布をきたしていない場合はマン・ホイッ トニ検定を行った。また二群間で、ある項目を比較するときにその項 目の分布の違いの検定においてマン・ホイットニ検定を使用した。ま た、多変量解析においては、従属変数が

2

値を獲る場合は、二項ロ ジスティック回帰分析を行った。この際、説明変数に関しては、単変 量解析で

P

0.2

となった因子で、かつ明らかに交絡するものを除外 して、多変量解析に算入した。

統計解析は統計ソフト

IBM SPSS Statistics 24.0

IBM

New York City

USA

)を用いて検定し、算出された

p

値が、

0.05

未満を統計 学的有意と判定した。

結果

(23)

21

患者背景ならびに血液生化学所見(表

1

初発

ACS

患者で

LAD

OCT

を施行した患者で入口部から

20mm

の範囲にマクロファージを認めた患者は、糖尿病群では

65

名中

20

名で非糖尿病群では

97

名中

20

名であった。

平均年齢、性別は

2

群間で差を認めなかった。

ST

上昇型心筋梗塞は 非糖尿病群で有意に多かった

(p=0.01)

が、非

ST

上昇型心筋梗塞、不 安定狭心症の頻度は

2

群間で差を認めなかった。冠危険因子も

2

群 間で差を認めなかった。内服薬は糖尿病治療薬を除き、

2

群間で差を 認めなかった。

一方血液生化学所見については、

HbA1c

は糖尿病群で

8.0±2.4(%)

、 非 糖 尿 病 群 で

5.7±0.2(%)

で あ り 、 糖 尿 病 群 で 有 意 に 高 か っ た

(p=0.001)

。その他の項目は

2

群間で差を認めなかった。

IVUS

解析結果(表

2

観察距離は糖尿病群が

13.1(9-19.3)mm

(中央値、括弧内は四分位 範囲で示す。以下同様)、非糖尿病群が

16.5(14-20)mm

で有意差は なかった。

(24)

22

Grey scale

による解析では糖尿病群は血管内腔容積が

81.5(55.5- 121.5)mm

3、血管容積が

225.7(137.4-285.5)mm

3、プラーク容積が

131.3(80.4-160.4)mm

3であった。プラークを

high shear

領域と

low shear

領域に二分すると、

high shear

プラーク容積は

58.7(35.6- 73.7)mm

3

low shear

プラーク容積は

63.5(51.9-89.9)mm

3であった。

非糖尿病群では血管内腔容積が

138.1(123.8-195.8)mm

3、血管容積が

269.0(216.8-388.4)mm

3、プラーク容積が

129.1(95.9-164.7)mm

3

high shear

プラーク容積は

58.8(35.9-68.9)mm

3

low shear

プラー ク容積は

67.1(51.1-92.2)mm

3であった。血管内腔容積のみ、糖尿病 群で有意に小さかった

(p=0.004)

。しかしながら血管内腔容積、血管 容積、プラーク容積、

high shear

プラーク容積、

low shear

プラーク 容積をそれぞれ解析距離で除して標準化したところ、

1mm

あたりの 容積を求めたところ、いずれの指標についても

2

群間で有意差は認 めなかった。

OCT

解析結果(表

3

最 小 線 維 性 被 膜 厚 は 糖 尿 病 群 で

81.5±17.3μm 、

非 糖 尿 病 群 で

99.5±29.8μm

と糖尿病群で有意に薄かった

(p=0.025) 。また、 high

(25)

23

shear

領域の最小線維性被膜厚は糖尿病群で

94±23.5μm

、非糖尿病

群で

104±39.8μm

で有意差はなかったが、

low shear

領域の最小線 維性被膜厚は糖尿病群で

92±20.9μm

、非糖尿病群で

125±29.8μm

と 糖尿病群で有意に薄かった

(p

0.001)

。最大脂質コア仰角は糖尿病群 の血管全体もしくは

high shear

領域で大きい傾向(

p

0.1

)がみら れたが、

2

群間で有意差を認めなかった。

マクロファージ集積体積の解析結果

(

4,5)

データが正規分布しないため、表の数値は中央値、括弧内は四分位 範 囲 で 表 示 し た 。 マ ク ロ フ ァ ー ジ の 総 集 積 体 積 は 糖 尿 病 群 で

10.1x10

-2

(4.8x10

-2

-18.1x10

-2

)mm

3、非糖尿病群で

4.6x10

-2

(2.3x10

-2

- 21.4x10

-2

)mm

3で有意差を認めなかった。

high shear

領域のマクロ ファージ集積体積は糖尿病群で

2.4x10

-2

(0.5x10

-2

-10.9x10

-2

)mm

3、非 糖尿病群で

2.6x10

-2

(0.9x10

-2

-13.2x10

-2

)mm

3 と有意差を認めなかっ

たが、

low shear

領域のマクロファージ集積体積は糖尿病群で

4.5x10

-2

(1.7x10

-2

-10.1x10

-2

)mm

3、非糖尿病群で

0.9x10

-2

(0.4x10

-2

-

3.9x10

-2

)mm

3と糖尿病群で有意に多かった

(p=0.009)

(26)

24

1mm

あたりでの解析ではマクロファージの総集積体積は糖尿病 群 で

9.5x10

-3

(4.2x10

-3

-12.5x10

-3

)mm

2、 非 糖 尿 病 群 で

2.9x10

-

3

(1.4x10

-3

-11.3x10

-3

)mm

2と糖尿病群で有意に多かった

(p=0.015)

。ま

た、

1mm

あたりの

high shear

領域のマクロファージ集積体積は糖

尿 病群で

1.9x10

-3

(0.4x10

-3

-7.8x10

-3

)mm

2、 非糖尿 病群で

2.1x10

-

3

(0.5x10

-3

-8.0x10

-3

)mm

2と有意差を認めなかったが、

low shear

領域 のマクロファージ集積体積は糖尿病群で

4.0x10

-3

(2.2x10

-3

-9.7x10

-

3

)mm

2、非糖尿病群で

0.8x10

-2

(0.2x10

-3

-2.1x10

-3

)mm

2と糖尿病群で 有意に多かった

(p=0.002)

全マクロファージ集積密度は糖尿病群

9.9x10

-4

(4.1x10

-4

-12.9x10

-

4

)

、非糖尿病群

4.5x10

-4

(2.1x10

-4

-11.9x10

-4

)

で有意差はなかった。ま た、

high shear

領域のマクロファージ集積密度も糖尿病群

5.6x10

-

4

(1.1x10

-4

-18.8x10

-4

)

、非糖尿病群

7.1x10

-4

(1.4x10

-4

-16.5x10

-4

)

で有意 差はなかったが、

low shear

領域のマクロファージ集積密度は糖尿病 群

6.5x10

-4

(4.5x10

-4

-15.1x10

-4

)

、非糖尿病群

1.5x10

-4

(0.5x10

-4

-4.5x10

-

4

)

と糖尿病群で有意に高かった

(p=0.003)(

9)

また、糖尿病群では

high shear

領域のマクロファージ集積密度は

5.6x10

-4

(1.1x10

-4

-18.8x10

-4

)

low shear

領域のマクロファージ集積

(27)

25

密度は

6.5x10

-4

(4.5x10

-4

-15.1x10

-4

)

で有意差は認めなかったが、非糖

尿病群は

high shear

領域のマクロファージ集積密度は

7.1x10

-

4

(1.4x10

-4

-16.5x10

-4

)

low shear

領域のマクロファージ集積密度は

1.5x10

-4

(0.5x10

-4

-4.5x10

-4

)

high shear

領域のマクロファージ集積 密度が有意に高かった

(p=0.03)(

10)

また

high shear

領域と

low shear

領域の間でのマクロファージ集 積密度のかたよりについては、各領域でマクロファージ浸潤がゼロ とみなされる場合があるため、単純に

2

群間でマクロファージ集積 密度を除して求めることができない。そこで本研究では、

(high shear

領域のマクロファージ集積密度-

low shear

領域のマクロフ ァージ集積密度

)/

(全領域のマクロファージ集積密度)の値をマク ロファージ集積のかたより度として求めた。その結果、糖尿病群は

- 0.09±1.41

、非糖尿病群で

0.79±1.47

と糖尿病群ではかたより度が 低い傾向を認めた

(p=0.061)

マクロファージ集積分布のかたよりの決定因子に関する多変量解析

(表

6

マクロファージ集積密度のかたよりについて、すなわち

(high

(28)

26

shear

領域のマクロファージ集積密度-

low shear

領域のマクロファ

ージ集積密度

)/

(全領域のマクロファージ集積密度)

の規定因子について以下のような多変量解析を行った。この中央値 よりの大小の

2

群間で種々の背景因子について比較した結果

p

0.2

となった因子で、かつ明らかに交絡しうるものを除外して、説明変数 として①糖尿病の有無、②高尿酸血症の有無、③

HDL

コレステロー ル値④

low shear

領域の最小線維性被膜厚⑤

low shear

領域のプラー ク体積

/1mm

⑥血管総容積

/1mm

を選択し、かたより度が中央値に比 しての大小を目的変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。

その結果、糖尿病の有無のみが有意な規定因子となった(

p=0.033

)。

low shear

領域のマクロファージ集積密度の規定因子について(表

7

さらに

low shear

領域のマクロファージ集積密度について糖尿病

群と非糖尿病群の間に有意差が認められたため、この値の規定因子 について多変量解析を行った。すなわち、この値の中央値の大小でわ けた

2

群間で種々の背景因子で比較した結果

p

0.2

となった因子 で、かつ交絡を考えて、説明変数として①糖尿病の有無②カルシウム 拮抗薬の内服の有無③

HDL

コレステロール値④

low shear

領域の最

(29)

27

小線維性被膜厚ならびに⑤プラーク体積

/1mm

をとり、

low shear

領 域のマクロファージ集積密度の中央値に比しての大小を目的変数と した二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果、糖尿病の有無 のみが有意な規定因子となった(

p=0.022

)。

考察

本研究では糖尿病を合併した急性冠症候群症例と非糖尿病合併例 についてマクロファージの集積体積及び集積分布の違いを比較検討 した。その結果、

1)

糖尿病群ではマクロファージ集積分布のかたよりが認められなか ったが、非糖尿病群ではマクロファージ集積分布が

high shear

領域と

low shear

領域の間で有意に差異が認められたこと。また

その理由は特に糖尿病群での

low shear

領域でのマクロファー ジ集積が有意に高かったこと

2)

多変量解析の結果、マクロファージ集積分布のかたよりは糖尿病 の有無に規定されること

が判明した。このことは糖尿病を合併した急性冠症候群では動脈硬 化の病態が非糖尿病例とは異なることを示唆する。

(30)

28

糖尿病とマクロファージ

糖尿病患者の冠動脈プラークの特徴は過去に多くの報告がある。

剖検での検討では、非糖尿病患者と比較して、糖尿病患者はより大 きな壊死性コアおよびマクロファージ浸潤の亢進を認め、壊死性コ アのサイズは

A1c

レベルと正の相関があった

[46]

とされ、別の剖検 の検討では糖尿病患者の線維性被膜の菲薄化を報告している

[47]

。 糖尿病の冠動脈は

IVUS

を用いた検討では粥腫量が多く

necrotic core

が大きいこと、線維性被膜がより菲薄化していることが明らか になっている

[48][49]

。同様に

IVUS

を用いた検討では糖尿病患者 では

percent atheroma volume(PAV)

total atheroma

volume(TAV)

ともに大きく、糖尿病患者では血管径は変わらない

が、内腔は小さいとされる

[50]

。不安定狭心症患者を対象とした

OCT

での検討では、石灰化プラークは糖尿病群で有意に多く、解 離は糖尿病群で有意に多いことが示されている

[51]

。すなわち、糖 尿病では、冠動脈プラークがより破綻しやすい不安定なプラークで あり、その背景にマクロファージ浸潤を主体とした炎症反応がより 高度であることを示唆する。本研究では、糖尿病例においては、非

(31)

29

糖尿病例に比し、最小線維性被膜厚が有意に薄く、1

mm

あたりの マクロファージ集積体積が有意に大きく、これらの知見を支持する 結果であった。さらに、非糖尿病例ではマクロファージの集積が

high shear stress

の領域に有意に大きいのに比し、糖尿病群ではそ

の差は消失し、びまん性にマクロファージが集積することが示唆さ れた。その理由として特に

low shear stress

領域のマクロファージ の集積が非糖尿病例に比べて有意に増加したことによる。血管壁に びまん性にマクロファージが浸潤しているということは、非糖尿病 群に比し、プラークがよりびまん性に不安定になりやすいことを示 していて、これは

ACS

の将来の発症率を高める可能性がある。さ らに本結果は脂質低下療法のプラーク退縮効果を規定しているかも しれない。たとえば、

IVUS

を用いた多施設臨床試験である

JAPAN-ACS

のサブ解析によると、糖尿病合併

ACS

患者では、ス

タチンによる脂質低下療法が非糖尿病群と同程度に

LDL-

コレステ ロール値を下げているにも関わらず、プラークの退縮の程度は糖尿 病群で有意に低いことが示されているが

[52]

、本研究の結果はその 理由を示唆している可能性がある。すなわち、脂質低下療法により プラークの退縮がもたらされていると同時に、びまん性に浸潤した

(32)

30

マクロファージが一方で動脈硬化を進展させ、その総和としてプラ ークの退縮が抑制されている可能性がある。

ずり応力とマクロファージ

過去の研究では、低い

shear stress

がアテローム性動脈硬化症を 促進することが動物の

in vitro

及び

in vivo

の実験で示されており

[13]

、臨床では低い

shear stress

が冠動脈プラークの進行と内腔狭 窄をより促進することが示されている

[14]

。しかし、プラークの不安

定化と

shear stress

の関係はまだ未解明の点が多い。動物実験では

低い

shear stress

が細胞外マトリックスの分解や

fibrous cap

の菲薄 化をもたらすことが示されている

[15][16]

。一方で、高い

shear stress

がプラークの不安定化をもたらすとの指摘もある

[17]

。プラークの不 安定化を引き起こす重要な生物学的因子としての高せん断応力が重 要な役割を果たしていることについての系統的レビューがある

[17]

。 コンピュータを用いた流体力学的解析では頸動脈

[18]

と冠動脈

[19]

でそれぞれ高い

shear stress

によると思われるプラーク破綻を認め

ている。また高い

shear stress

の領域のプラークが高い歪みを示し、

より脆弱であることが示されている

[20][21]

。プラークの経過をみた

(33)

31

報告では高い

shear stress

が壊死組織を増加し、線維性組織を減少 させより脆弱なプラークに変換することが示されている

[22]

。また、

頸動脈の検討では、高い

shear stress

領域でマクロファージを多く 認めたとの報告がある

[23]~[25]

。動物での検討では狭窄の上流にマ クロファージが多いことが示されている

[26][27]

本研究では非糖尿病群では

high shear

領域で有意にマクロファ ージ密度が高かったが、これは先行する

shear stress

とマクロファ ージの研究に矛盾しない結果である。一方、糖尿病群では

high

shear

領域と

low shear

領域の間でマクロファージの集積の程度に

有意差はみられなかった。 とくに

low shear

領域でのマクロファ ージの集積密度が非糖尿群に比し、有意に高かった。さらに全領域 でみた場合、1

mm

あたりのマクロファージの集積体積は糖尿病群 で有意に増加し、また集積密度も高い傾向にあった。その理由とし て糖尿病における内皮機能障害がその一因としてあげられる

[53]~[55]

。血管内皮細胞は

NO

などの様々な生理活性物質を分泌

し、血管の拡張、血管平滑筋の抗増殖、抗凝固作用、抗炎症作用、

抗酸化作用を有し動脈硬化の進展を抑制する働きを担っているが、

糖尿病ではその機能が低下しているとされる。糖尿病における血管

(34)

32

内皮機能障害の機序は各種の報告がある

[53]~[55]

shear stress

は 内皮機能と密接な関係があるとされ、糖尿病群では内皮障害のため に、全領域でみると、マクロファージは浸潤しやすい状態となり、

かつ

shear stress

の差異がマクロファージ集積に及ぼす影響が減弱

し、その集積の偏在性が失われびまん性に浸潤するようになったの ではないかと推察された。その意味でマクロファージ集積と内皮機 能との直接的な関係は今後の検討課題である。

本研究の臨床的意義について

本研究の結果、急性冠症候群における冠動脈プラーク内のマクロ ファージ集積分布は、糖尿病と非糖尿病では異なることが判明し、

このことは、急性冠症候群の発症機序が2群間で異なる可能性を示 唆し、治療や2次予防戦略を別に考えるべきであることを意味して いる。すなわち、糖尿病群の方がびまん性にマクロファージが浸潤 しており、非糖尿病群に比し、プラークがびまん性に不安定になり やすいことを示している。また脂質低下療法などによる

2

次予防の 効果についても糖尿病群では異なっている可能性がある。従って、

そのことを考慮して、より積極的な治療や予防戦略を考える必要が

(35)

33

あるであろう。また本研究で用いたマクロファージの集積分布に関 する各指標は本研究独自の指標であり、プラークの不安定性の評 価、ひいては急性冠症候群の治療戦略の参考指標に有用である可能 性が示唆された。

本研究の限界について

本研究の限界として、まず症例数が

40

例と少数であることがあ げられる。本研究は内服治療の影響が低いと考えられる初発

ACS

症例を対象とした。また、解析部位は彎曲の影響が比較的少ないと 考えられる左前下行枝近位部のみを対象とした。また、

ACS

症例で あるため、血栓を完全に排除してイメージングを行うのは困難であ り、画像が不鮮明なため使用できない症例があったため、症例の抽 出に一定の限界がある。

また、対象血管を

shear stress

の高いと推察される部位と低い部 位に二分して解析を行ったが、実際にソフトウェア等を用いてずり 応力を評価したわけではないため、

shear stress

がどれだけ違う群 の間での比較かは不明である。

また、本研究では多くの研究で採用されている方法として縞状の

(36)

34

shadow

を引く線状の高輝度領域をマクロファージと仮定して解析

を行ったが、

OCT

所見と病理標本の対比を行った最近の研究で は、その一致率は感度

46%

、特異度

76%

であったとする報告があ る

[56]

。そのため、実際にはマクロファージ集積でないものをマク ロファージ集積としている場合もありうるが、糖尿病群と非糖尿病 群の間で本研究で指標に有意差を認めたことから、なんらかの病的 意義があることは否定できず、本研究でも用いた指標の実質的意味 についてはさらなる検討が必要である。

結語

糖尿病合併急性冠症候群患者の冠動脈壁内におけるマクロファー ジ集積分布は非糖尿病患者と比較して有意に差異を認めた。このこ とは糖尿病の有無により急性冠症候群の発症機序や動脈硬化の病態 に差異があることが示唆される。

(37)

35

謝辞

稿を終えるに臨み、研究に際しご指導、ご校閲を受け賜りました 平山篤志教授に深く謝意を表すとともに、本研究遂行に際し直接ご 指導いただきました廣高史診療教授、高山忠輝准教授、ならびに多 くの教室員に心からの感謝の意を表します。

(38)

36

1

患者背景

糖尿病群(n=20) 非糖尿病群(n=20) p

年齢 64.2±12.1 66.6±15.9 0.593

性別, 男性 (%) 15 (75) 12 (60) 0.311

ST上昇型心筋梗塞, n (%) 8 (40) 16 (80) 0.010 ST上昇型心筋梗塞, n (%) 5 (25) 1 (5) 0.091 不安定狭心症, n (%) 7 (35) 3 (15) 0.137 冠危険因子

高血圧症, n (%) 13 (65) 10 (50) 0.337

脂質異常症, n (%) 10 (50) 12 (60) 0.525 高尿酸血症, n (%) 4 (20) 1 (5) 0.342

肥満, n (%) 8 (40) 4 (20) 0.168

喫煙歴, n (%) 11 (55) 8 (40) 0.342

家族歴, n (%) 4 (20) 2 (10) 0.661

内服薬

アスピリン, n (%) 4 (20) 1 (5) 0.342 カルシウム拮抗薬, n (%) 6 (30) 7 (35) 0.736

ACE/ARB, n (%) 9 (45) 4 (20) 0.091

β受容体遮断薬, n (%) 4 (20) 0 (0) 0.106

利尿薬, n (%) 1 (5) 1 (5) 1.000

HMG-CoA還元酵素阻害薬, n (%) 5 (25) 3 (15) 0.695

糖尿病治療薬, n (%) 11 (55) 0 (0) N/A スルホニル尿素薬, n (%) 4 (20) 0 (0) N/A

DPP-4阻害薬, n (%) 8 (40) 0 (0) N/A

インスリン, n (%) 1 (5) 0 (0) N/A 血液検査所見

ヘモグロビン (g/dl) 13.3±2.2 13.0±2.4 0.751 クレアチニン (mg/dl) 0.93±0.45 0.75±0.16 0.116

尿素窒素 (mg/dl) 19.0±11.7 14.1±4.4 0.091

eGFR (ml/min/1.73m2) 68.7±23.6 76.6±23.2 0.296

総コレステロール (mg/dl) 206.0±50.7 206.8±42.0 0.957 HDL-コレステロール (mg/dl) 39.8±8.1 45.1±13.7 0.157

(39)

37

LDL-コレステロール (mg/dl) 131.1±44.8 132.5±33.3 0.916

中性脂肪 (mg/dl) 173.6±119.9 111.1±70.7 0.058 ヘモグロビンA1c(NGSP) (%) 8.0±2.4 5.7±0.2 0.001 尿酸 (mg/dl) 5.8±1.8 5.5±1.5 0.550

高感度CRP (mg/dl) 0.21±0.15 0.21±0.37 1.000

数値は平均±標準偏差で表示。( )内は%をあらわす。

(40)

38

2 IVUS

結果

糖尿病群 (n=20) 非糖尿病群 (n=20) p 観察距離 13.1(9-19.3) 16.5(14-20) 0.063 lumen volume (mm3) 81.5(55.5-121.5) 138.1(123.8-195.8) 0.004 vessel volume (mm3) 225.7(137.4-285.5) 269.0(216.8-388.4) 0.096 plaque volume (mm3) 131.3(80.4-160.4) 129.1(95.9-164.7) 0.925 high shear領域の

plaque volume (mm3) 58.7(35.6-73.7) 58.8(35.9-68.9) 1.000 low shear領域の

plaque volume (mm3) 63.5(51.9-89.9) 67.1(51.1-92.2) 0.620 lumen volume/1mm (mm3/mm) 7.3(5.8-9.2) 8.4(6.8-11.2) 0.174 vessel volume/1mm (mm3/mm) 16.5(14.3-22.2) 15.4(13.6-20.4) 0.758 plaque volume/1mm (mm3/mm) 9.5(7.4-12.0) 7.8(6.1-9.7) 0.068 high shear領域の

plaque volume/1mm (mm3/mm) 4.3(3.4-5.6) 3.2(2.7-4.8) 0.072 low shear領域の

plaque volume/1mm (mm3/mm) 5.8(3.5-6.9) 4.5(3.4-5.5) 0.081

数値は中央値、括弧内は四分位範囲で表示。

Lumen volume

=血管内腔容積

Vessel volume

=血管総容積

Plaque volume

=プラーク容積

(41)

39

3 OCT

結果

糖尿病群 (n=20) 非糖尿病群 (n=20) p 最小線維性被膜厚 (μm) 81.5±17.3 99.5±29.8 0.025 high shear領域の

最小線維性被膜厚 (μm) 94±23.5 104±39.8 0.339 low shear領域の

最小線維性被膜厚 (μm) 92±20.9 125±29.8 <0.0001 最大脂質コア仰角 (degree) 146.6±35.2 127.4±27.8 0.063 high shear領域の

最大脂質コア仰角 (degree) 105.8±32.6 85.5±36.2 0.070 low shear領域の

最大脂質コア仰角 (degree) 119.8±39.0 110.5±37.1 0.446

数値は平均±標準偏差で表示。

(42)

40

4

マクロファージ解析結果

1

数値は中央値、括弧内は四分位範囲で表示。

MC=Macrophage

5

マクロファージ解析結果

2

数値は中央値、括弧内は四分位範囲で表示。

MC=Macrophage

数値は中央値、括弧内は四分位範囲で表示。

MC=Macrophage

糖尿病群 (n=20) 非糖尿病群 (n=20) p値

high shear領域 MC集積体積 (mm3) 2.4x10-2(0.5x10-2-10.9x10-2) 2.6x10-2(0.9x10-2-13.2x10-2) 0.862 low shear領域 MC集積体積 (mm3) 4.5x10-2(1.7x10-2-10.1x10-2) 0.9x10-2(0.4x10-2-3.9x10-2) 0.009 全MC集積体積 (mm3) 10.1x10-2(4.8x10-2-18.1x10-2) 4.6x10-2(2.3x10-2-21.4x10-2) 0.081 1mmあたりのhigh shear領域 MC集積体積(mm3/mm) 1.9x10-3(0.4x10-3-7.8x10-3) 2.1x10-3(0.5x10-3-8.0x10-3) 0.999 1mmあたりのlow shear領域 MC集積体積(mm3/mm) 4.0x10-3(2.2x10-3-9.7x10-3) 0.8x10-3(0.2x10-3-2.1x10-3) 0.002 1mmあたりの全MC集積体積(mm3/mm) 9.5x10-3(4.2x10-3-12.5x10-3) 2.9x10-3(1.4x10-3-11.3x10-3) 0.015 high shear領域 MC集積密度 5.6x10-4(1.1x10-4-18.8x10-4) 7.1x10-4(1.4x10-4-16.5x10-4) 0.779 low shear領域 MC集積密度 6.5x10-4(4.5x10-4-15.1x10-4) 1.5x10-4(0.5x10-4-4.5x10-4) 0.003 全MC集積密度 9.9x10-4(4.1x10-4-12.9x10-4) 4.5x10-4(2.1x10-4-11.9x10-4) 0.060

糖尿病群

high shear (n=20) low shear (n=20) p値 1mmあたりのMC集積体積(mm3/mm) 1.9x10-3(0.4x10-3-7.8x10-3) 4.0x10-3(2.2x10-3-9.7x10-3) 0.314 MC集積密度 5.6x10-4(1.1x10-4-18.8x10-4) 6.5x10-4(4.5x10-4-15.1x10-4) 0.565

非糖尿病群

high shear (n=20) low shear (n=20) p値 1mmあたりのMC集積体積(mm3/mm) 2.1x10-3(0.5x10-3-8.0x10-3) 0.8x10-3(0.2x10-3-2.1x10-3) 0.096 MC集積密度 7.1x10-4(1.4x10-4-16.5x10-4) 1.5x10-4(0.5x10-4-4.5x10-4) 0.030

(43)

41

6

マクロファージ分布のかたよりの決定因子に関する多変量解 析

Variables オッズ比 p

糖尿病 0.086 0.033

高尿酸血症 0.278 0.338 HDLコレステロール 0.993 0.853 low shear領域の

最小線維性被膜厚 0.97 0.069 low shear領域の

プラーク体積/1mm 0.086 0.777 血管総容積/1mm 0.777 0.060

7 low shear

領域のマクロファージ集積密度の規定因子

Variables オッズ比 p

糖尿病 9.074 0.022

カルシウム拮抗薬 0.306 0.214 HDLコレステロール 0.973 0.521 low shear領域の

最小線維性被膜厚 1.007 0.715 プラーク体積/1mm 1.353 0.092

(44)

42

図 図

1

参考文献

[2]

より引用

2

参考文献[6]より引用

(45)

43

3

プラーク 内膜

内膜

中膜 外膜 ガイドワイヤーのアーチファクト

内弾性版

血管内腔 内膜-内腔境界 中膜-外膜境界

内膜

中膜 外膜

(46)

44

4

a

b

菲薄化した線維性被膜 脂質コア

(47)

45

5

a

b

α

内腔重心

(48)

46

6

(49)

47

7

(50)

48

8

high shear 領域

high shear 領域 low shear 領域

LADの内腔重心

LCXの内腔重心

LAD

LCX

(51)

49

9

糖尿病群と非糖尿病群におけるマクロファージ集積密度の比 較

a

b

high shear領域

p=0.779 p=0.060

全領域 マクロファージ集積密度

マクロファージ集積密度

(52)

50 c

p=0.003

low shear領域 マクロファージ集積密度

(53)

51

10 high shear

領域と

low shear

領域におけるマクロファージ 集積密度の比較

a

b

糖尿病群

p=0.030 p=0.565

非糖尿病群

high shear領域 low shear領域

high shear領域 low shear領域 マクロファージ集積密度

マクロファージ集積密度

図 10  high shear 領域と low shear 領域におけるマクロファージ 集積密度の比較 a  b  糖尿病群 p=0.030p=0.565 非糖尿病群

参照

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