FASB財務会計概念構造の特徴
FASB財務会計概念構造の特徴
−FASB財務会計概念ステイトメント第2号について−
今田正
I は じ め に
1980年5月にアメリカ財務会計審議会(Financial Accounting Standards Board : FASB)は,財務会計概念ステイトメソトの第2号として『会計情 報の質的特徴』 (Qualitative Characteristics of Accounting Information) を発表した1)。このステイトメントは FASBの財務会計および報告の概 念構造に関するプロゼクトの刊行物シリーズの第2号となるものである。こ れらステイトメント・シリーズの目的とするところは「財務会計および戟告 基準の開発にとって基礎となる目的および概念的基礎を設定することを企図 している2)」という。 「目的」とは,財務報告の目標を識別することであり,
「概念的基礎」とは,財務会計の基礎をなす諸概念,すなわち認識すべき取 引,事象,および環境の選択や利害関係者にそれらを要約し,伝達する手段 を導きだす概念のことである。したがって,この種の概念は,それからその 他の概念が導きだされるという意味で基礎的であり,会計および報告基準の 設定,解釈,また適用にあたって繰返し参照されることが必要となる3)。か かる意味での概念的基礎の構築を計るというのである。すなわち,この目的 および基本的概念に関する概念構造(conceptual framework)の構築は, 目的設定,基礎的概念の識別という一連の論理的作業を通じて,会計情報の 作成者のみならず会計基準の設定主体(FASB)にとっての会計基準の開発, 解釈および通用における共通的な基礎や基礎的論理枠を構築せんとするもの とみられるのである。
つまり, 「ステイトメント」自身が述べるごとく, 「財務会計概念ステイト
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メント」の役割は特定の会計項目や事象についての会計子続を規定する基準 の設定(それは FASBの財務会計基準ステイトメントによって行われている一今回〉
にあるのではなく,将来および既存の基準及び実務の評価の基礎となる概念 および諸関係を述べたものとなっている4) 。したがってまた, r当 審 議 会 は,現行の一般に認められた会計原則が,このステイトメント・シリーズに 述べられた目的および概念と一致しない点があるかもしれないということは 認めているD しかしながら,この財務会計概念ステイトメントは, (a)現 行 の一般に認められた会計原則の転換を求めるものでも, (b)財務会計基準,
FASB注解, APBオピニオン,または現在も有効である会計手続委員会公 報を修正,解釈するものでもない」と述べるごとし5) このステイトメント の狙いは直接に一般に認められた会計原則の設定にではなく,概念的枠組み を確立することによって現在及び将来にわたって一般に認められた会計原則 を論理づけ,権威ずける論理枠の構築にあるとみられるo
いうまでもなしこのような概念的基礎構造開発の計画は程々の会計公準 論にみられるごとく, AICPA, AAAの双方によって1930年代以降幾度と試 みられたところであり,ペイトン=リトノレトン『会社会計基準序説』も早い 時期におけるその試みの一つであった6)。また会計原則審議会 (APB)によ るAPBステイトメント第4号『企業の財務諸表の基礎をなす基礎的概念お よび会計原則7)jも比較的近年における試みであるO では,ここでとりあげ る FASBによる新たな概念構造構築の試みはどのような特徴と意味をもっ ているであろうか,ここでは「ステイトメント第2号J (以下,単に「ステイ トメント」と呼ぶ〉について,それに至る経緯も含めて内容を考察することと するO
。(註)FinancialAccounting Standards Board, Statement of Financial Accou‑
nting Conceρts No. 2 : Qualitative Characteristics of Accounting lnformation, May, 1980.
2) 3) Ibid., 4) 5) Ibid., ii
FASB財務会計概念構造の特徴 113
6) Yuji Ijir ,i An lntroduction to Carporate Accounting Standards A Reviw, Accounting Review, Vo1. LV, No. 4, October, 1980, p. 622. 7) AICPA, APB Statement No. 4 : Basic Concepts and Accounting Princiρles
Underlying Financial Statements of Business Enterprises, October, 1970.
E
財務会計概念ステイトメント第
2号公表の経緯と目的財務会計および報告に関する概念構造の構築は財務諸表の目的を考察する ことで始まったとされる。たとえば,会計原則審議会(AccountingPrinciples Board)は, 1970年に APBステイトメント第4号『企業の財務諸表の基礎 をなす基本概念および会計原則j (Basic Concepts and AccouJlting Prin‑
ciples Underling Financial Statements of Business Enterprises)を公表し たが,これは,その発表時における基準や実務の基礎をなす目的や概念を 規定したものであった。また, FASBが設立された年の1973年10月に, ト
ゥーノレプラド委員会報告書『財務諸表の目的1)j (Objecti<ves of Financial Statements)が AICPAによって公にされたo
FASBはこの委員会報告書の実現にむけ1974年6月6日 付 け を も っ て 討 議資料『会計および報告の概念構造:財務諸表の目的についてのスタディー
・クツレープ報告の考察2)j (Conceptual Framework for Accounting and Reporting Consideration of the Report of the Study Group on the Objectives of Financial Statements)を発行し,周年9月,同討議書に基づ
き財務諸表の目的についての公聴会を開いた。そうして,乙の公聴会の志見 および回答をうけて, 1976年12月2日付で発行されたのが,次の三つの文古:
であった。
『企業の財務諸表の目的についての軒定的結論j (T entative Conclusions on Objectives of Financial Statements of Business Enterprises)
rFASB討議資料,財務会計および報告の概念構造:財務諸表の要素と その測定j (FASB Discussion Memorandum, Conceptual Framework for Financial Accounting and Retorting Elements of Financial State‑
ments and Their Measurement)
114 平 主 品 」 可 J :%. ~'1- み叉むとifi寺
『概念構造プロゼクトの範囲と;な味j (Scope and lmplications of the Conceptual Framework Project)
そうして,さらに FASBは『企業の財務諸表の目的についての暫定的結 論』および他の討議資料について1977年8月1,2日,ならびに1978年1月 16"‑'18日の2回にわたって公聴会を行っているo その結果をうけ, FASB は, 1977年12月29日に公開草案『企業の財務報告の目的と財務諸表の要素3)~
を公表したのであるが,この公開草案の財務報告の目的を扱った最初の部分 が, 1978年11月に発行されたところの FASB財務会計概念ステイトメント
第 1 号『企業による財務報告の目的~4) (Ob jecti ves of Financial Reporting
by Business Enterprises)となったのである口だが,その際,当ステイト メントから公開草案(1977年12月)において主題に含められていた「企業の 財務諸表の要素」および有用な財務情報の「質的特徴」は省かれ,別個の改 訂公開草案の主題とされたのであるが,その後者の「質的特徴」がここでと り上げる『財務会計概念ステイトメント第2号:会計情報の質的特徴』とし て公表されたのである。
このように,本「ステイトメント」は, FASBの概念構造プロゼクトに 関する公刊シリーズの一環であるが,このステイトメント 2号は,その目的 を情報を有用たらしめる会計情報の特徴を検討することであるとし,ステイ
トメント第l号 r企業の財務報告の目的」とひき続き発表されることにな る「財務諸表の要素とその認識,測定および表示」に関してや,その他のス テイトメントへの橋渡しとみられるべき位置を占める。
すなわち,目的についてのステイトメントが財務報告の目的に関するもの であったのに対して,後者のステイトメントはいかにそれらの目的が達成せ られるべきかという問題に関するものであるという。たとえば,財務会計審 議会が発表する会計基準はまさにこの目的を達成せんとするものであるか ら,会計基準に要求される情報の諸特徴,すなわち,より有用な会計情報の 諸特徴を明らかにすることが,ここでの目的であると的, このように展開す るのであるD
FASB財務会計概念構造の特徴 115 (註)
1) AICP A, Objectives 0/ Financial Statements, 1973.
2) FASB Discussion Memorandum, Conceρtual Framework /or Accounting αnd Reporting Consideration 0/ the Report 0/ the Study Group on the Ob‑
jectives 0/ Financial Statements.
3) FASB Exposure Draft, Objectives 0/ Financial Reporting and Elements
0/ Financial Statements 0/ Business Enterprises, December 29, 1977. 4) FASB, Statement 0/ Financial Accounting Concepts No. 1 Objectives 0/
Financial Reporting by Business Enterprises, N ovember, 1978. 5) FASB, Statement 0/ Financial Accounting Concepts No. 2, p. 1.
m Iス テ イ ト メ ン ト 」 の 内 容
1. 論 理 の 枠 組 み
さて,ステイトメント 2号の論理構築はどのようになっているのか,その 内容の検討に入ろう。
「ステイトメント」はその冒頭に, I基本的結論の要約」として,つぎの ように述べている。 Iすべての財務報告は程度の差はあれ意思決定と関連し ている。投資,信用供与,その他の志思決定が基づくべき情報要求が財務報 告の目的の基礎をなしているo情報の有用性はそれが役立てられる目的との 関連において評価されねばならないし,また財務報告の目的は志思決定にお ける会計情報の利用に焦点がおかれる1) 」とo かくて Iこのステイトメン トにおいて論じられる情報の特徴ないし特質は情報を有用たらしめる諸要素 であり,またそれは会計選択がなされる時に考慮されるべき特質である2」〉
と,このように述べているo
みられるごとく,ここにはこのステイトメントの基本的論理枠組みが示さ れている。それは AAAr会計理論及び理論承認3)j (Accounting Theory and Theory Acceptance I 1977)が志思決定一有用性(怠思決定モデノレ) アプローチとよんだ論理枠であり,志思決定のための有用な情報提供,とい う仮定のもとで,情報要求→そのための目的設定→その目的に!日{らしての有
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用性基準とは何か,という論理枠組みがとられているoつまり,それは,芯 思決定ということに中心的役割がおかれ,このことが会計における選択の主 要な規準となるO このよりよい会計選択とは利用可能な代替的情報の中から 意思決定にとって最も有用な情報を提示することである,という論理の展開 である口そこで,以下,本ステイトメントの論理の展開にそって,その内容 の骨子を抽出しようO
まず「ステイトメント」は rこのステイトメントの目的は情報を有用た らしめる会計情報の諸特徴を検討することである4) 」としているo rこのス テイトメントは会計情報を有用たらしめる特質を識別また定義することによ って, FASBにとっても, 財務諸表の作成者にとっても, またその他すべ ての財務報告の利害関係者にとって有用となる会計選択のためのいくつかの 一般化ないし指針を開発する5) 」というわけであるo すなわち, FASBにと っては,有用な会計情報の特質は財務報告の目的と一致した会計基準の開発 においての指針を提供すべきものとなるものであり,財務情報の作成者にと っては,経済的事象の表示において代替的会計方法問の選択や基準が明確に 規定していない場合の取扱いの指針となり,また,財務報告によって提供さ れる情報の利用者にとっても有用となるべきものである6) とし, これら三 者を包括する会計選択を行うにあたっての指針を示すというのであるo
ここでは,従来の会計公準論にはみられなかった会計基準設定主体の立場 が強調され,情報の作成者,および情報の利用者と同一次元に於て論ぜら れ,これら三者が有用なる会計選択という概念で統括されているのであるD
では r会計選択」とはどのようなことか rステイトメント」はいう口 会計情報の有用性を極大化するためには,代替的会計方法聞の選択を要求す
るo これらの選択は「有用性」に貢献する要素がよく理解されていれば,よ り賢明に行われうるD まさに,このステイトメントにおいて討議される情報 の特徴ないし特質こそ情報を有用たらしめる構成要素であるD したがって,
これらの構成要素は会計選択が行われる場合に求められる特質であるの,と このようにいうo
たとえば rステイトメント」は会計選択は二段階において行われるとい
FASB財務会計概念構造の特徴 117
うo一つは,企業をして特定の方法で報告することを要求したり,望ましく ないと考える方法を禁止する権限を有する FASBないしその他の機関によ って行われるものである。また,会計選択は個々の企業において行われるO
たとえば,それについて基準が制定されていない代替的方法聞の選択や基準 の実施方法における選択といった報告を行う企業としてなされねばならない 多くの会計上の決定があるo具体例についてみれば,先づ最初に,資産,負 債または収益,費用の性質ないし定義,またはその認識規準についての意思 決定がなされねばならない。さらに,歴史的原価か,現在原価か,売却価値 か,正味実現可能価値か,あるいは将来キャッシュ・フローの現在価値か,
といった資産の測定されるべき属性 (attributeof asset to be measured) についての選択がなされねばならないという8)。
いずれにしても,このような会計選択において, [""ステイトメント」は FASBの水準であれ,個々の財務報告の作成者であれ,二つの会計方法聞 の選択についての基本的規準はどちらの方法がよりベターか,すなわち,よ り有用な情報であるかという聞いを意味する。そうして,この有用な情報を 区別する特質は主要には目的適合性と信頼性とであるというD つまり,会計 上の意思決定は奉仕すべき目的にとって適合的で,かつ信頼性のある会計情 報をっくり出すことであるからである9) と,このようにいうのであるo要 するに会計選択は有用性に照らして行われ,その有用性の主たる規準は目的 適合性と信頼性とであるというのであるo
2. 会計情報の諸特質
先に,財務会計概念ステイトメント第l号は,財務報告の目的を論じて,
「財務報告は報告それ自体が目的でなく,経営および経済的意思決定に有用 な情報を提供することを意図している10)Jと述べた。以上にみたように,ス テイトメント第2号においても意思決定の中心的役割が強調されている。す なわち,すべての財務報告は程度の差はあれ怠思決定に関係しているo投資,
信用供与その他の窓思決定が依拠すべき情報の必要性が財務報告の基礎を なしている。つまり,このような意思決定のもつ中心的役割こそ会計選択の 判断においての主要な規準となるoすなわち,より良い選択とは選択的な情
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報の中から意思決定にとって最も有用な情報をとりだすことであるとし11)
この意思決定にとっての有用性概念を中心として,次に示すような,会計J情 報の特質の階層図を示しているのである12)。
会計情報の 利 用 者
全般的拘束 利用者固有 の 特 質
主要な意思 決定に固有 な 特 質
認識の境界
【第1図】 会 計 特 質 の 階 層
!意思決定者とその特徴│
(例、理解力または事前知識) 便益>費用
重 要 性
以上のように,情報の諸特徴は芯思決定にとっての有用性に関する諸特質 の階層として示されるD
まず rステイトメント」は,志思決定に固有の特質として,会計情報の 有用性の主たる特質に目的適合性と信頼性とをおいているO また,この目的 適合性と信頼性とはいくつかの構成要素に分解できるO 目的適合的であるた めには,情報は適宜的であるとともに予測価値(predictivevalue)とフィー ド・パック価値 (feedbackvalue)の両方を有しなければならない。また,
信頼性あるためには,情報は表示上の正確性や検証可能かつ,中立的でなけ ればならない。また,継続性を含む比較可能性は第二次的特質であって,情 報が有用であるために目的適合性と信頼性とに相互に作用し合うものであ るD 最後に,図表には二つの拘束が示されている口情報は有用かつ提供の価
FASB財務会計概念栴造の特徴 119 イ直があるためには,情報の便益はそのコストを超えなければならない。ま た,すべての特質は重要性の関係を条件とすることが示されているo
以上がこの会計的諸特質の構成である。このような諸特質の構造において 注意されねばならないことは,各特質は単なる階層としてではなく,各特質 が相互に対照的に配置されていることであるD すなわち,諸特質は相互に相 対的重要性とトレード・オフの関係として概念的に配置され,このことが強 調されている。その中心をなしているのが目的適合性と信頼性のトレード・
オフ関係である rステイトメント」は, r財務情報が有用であるためには 目的適合的で,かつ信頼性のあるものでなければならないが,情報は両者の 性格をさまざまの程度に有するものである。目的適合性と信頼性とはそのど ちらか一方を全く抜きにするというところまではないとしても,目的適合性 を信頼性と,あるいはその逆に交換することは可能であるD また情報は図に 示したようなその他の諸特徴をさまざまの程度に有しているが,その他の諸 特徴間における相互交替も必要であり有益である13) 」と, このようにいう のである。では,各諸特質はどのように定義されるであろうか。
目的適合性 (relevance) まず,目的適合性についていうO 会計情報が 投資家や債権者,その他投資や債権の意思決定に係わる者にとって有用であ るためには,その情報は過去,現在および将来の事象を予測し,あるいは予測 価値を確かめ,あるいは修正することによって意,思決定における区別ができ るものでなければならない14) ,とoすなわち,情報が意思決定にとって目 的迎合的であるかどうかを識別するのは情報のもつ「区別をつける」能力で あるというのである。つまり,情報は意思決定者の予測の能力を改善し,ま た彼等の以前の予想を確かめたり,修正することによって意思決定に区別を つけることができるO 一般には,情報は同時にその両方を行なうo なんとな れば,すでに行われた行為の結果についての知識は一般に将来の同様の行為 の結果についての志思決定者の能力を改苦することになろう。たとえば,情 報の開示の要請は常に予測と以前における予測の確認ないしは修正を助ける というこつの目的を有しているという15)。このように, 目的適合性はその 椛成要素にフィード・パック価値と予測価値とを含んだ概念であるとするの
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である。
このように,ここでは,目的迎合的情報の識別においてフィード・パっ,ク 価値と予測価値ということが強調されたのであるが rステイトメン卜」は
目的適合性の内容に「適時性」をあげている。
適時性 (timeliness)は目的適合性の一つの補助的側面であるというD つ まり,もし'情報が必要とされる時に得られず,報告された事象がもはや将来 の行動に何らの価値をもたなくなった後になって得られるとすれば,それは 適合性を欠くことになるO ここで適時性とは,情報はそれが意思決定に影響 を及ぼす能力を失う以前に役立つことを志味するo適時性だけでは情報を適 合的たらしめることはできないが,適時性を欠くことは情報から適合性を奪
うことになる16) とこのようにいうO
つぎに,主要な要素の他の一つである「信頼性」については,つぎのよう に述べるo
信頼性 (reliability) まず,測定の信頼性は検証を通じて利用者に保証 を与えることと同時にそれが伝えんとすることの表示上の正確性に依存する というo つまり,会計情報の信頼性は二つの特徴,すなわち正確性と検証可 能性の二つから生ずる。また,情報の中立性がこれら二つの特質に相互に作 用し,その有用性に影響を及ぼすという17)。
表示上の正確性 (representationalfaithfulness)とは,それが表示せ んとする現象とその測定ないし記述の間の一致のことである18) というD
つぎに,検証可能性 (verifiability)については,それは, 同ーの測定方 法を用いる独立した測定者間に高い程度の合意を得ることによって証明され る特質である19)。つまり,検証の目的は会計測定が表示せんとすることに ついてかなりの程度の保証を与えることであるから,検証可能性の特質は会 計情報の特質に貢献する,という。ただし,一方,検証可能性は複数の測定者 が同じ尺度を得ょうとすることを志味するにすぎない,というo それは基本 的には会計的尺度をめぐる不確実性から生じる測定問題を克服する手段であ るD したがって,会計情報の検証は情報が高い程度の表示上の正確性を有し ていることを保証するものではなく,また,高度の検証可能性をもっ尺度が
FASB財務会計概念構造の特徴 121 かならずしも意思決定に適合的,すなわち有用であるとは限らなし120〉,と いうo
すなわち,以上から, rステイトメント」は信頼性と目的適合性とは相互 に対立するという。信頼性は適合性を得るために会計方法が変更されること によって損われるかもしれないし,逆の場合もあるO たとえば,現在原価会 計の支持者は現在原価に基づく継続的操業利益が歴史的原価基準に基づいて 計算された営業利益よりも営業成績のより適合的な尺度となると信ずる。ま た,彼等は,もし過去の期間に発生した保有利得および損失が個別に表示さ れる場合には,現在原価に基づく継続的操業利益は営業成績をよりよく表示 することになると信ずる。しかしながら,現在原価の決定をめぐる不確実性 が考慮されねばならないし,またその金額の見積りにおける変動が予期され る。この変動性の故に,信頼性を構成する検証可能性や表示上の正確性が減 ぜられるかもしれない。情報利用者にとって利益があるかどうかは,目的適 合性と信頼性への比重のおきかたの如何にかかっている21) と, このよう にいうのである。ここでは,目的適合性と信頼性とのトレード・オフ関係が 具体的な例をもって強調されている。
では,つぎに中立性 (neutrality)については, どのように定義される で あ ろ う か rステイトメント」はいう。中立性とは,会計基準の正式化 ないしは実施にあたっては,新規則が特定の利害関係者に与えられる効果に ではなく,情報がもたらす目的適合性及び、信頼性に第一義的関心が払われる ことを意味すると22)。すなわち,ここでは「会計における中立性は財務報 告の作成において基準を適用する者にとってよりも,会計基準の設定者にと ってより大きな意味をもっている23〉」と,会計基準設定主体の側にかかわ る概念として強調される点に注意されねばならない。つまり,中立性とは,
会計情報は,中立的であるためには,経済的活動を可能なかぎり正確に報告 し,特定の方向へ行動に影響を与える目的をもって伝達されるイメージを着 色してはならないということを意味する。したがって,中立的でない情報は 信頼性を失なうのであるから,会計における中立性は,それによって会計政 策を判断する上で主要な規準となるoつまり,もし'情報が検証可能で,か
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つ,それが表示せんとすることに正確に依拠できーまた,報告事項の選択に ついて侃向がないとすれば,それは,ある特定の利害関係者に有利に傾くこ とにはならなし124〉,という論理である。このように,中立性概念は会計政 策から中立な,もっぱら会計情報の目的適合性と信頼性に係わる概念として 論理化されているO
つぎに Iステイトメント」は比較可能性 (comparability)について,
つぎのようにいう。 r広義に定義すれば,比較可能性はある一定の特徴を共 通に有している特質ないし状態をいい,その比較は通常は共通な特徴の数量 的評価である25)JとD 企業に関する情報はそれが他の企業についての類似 の情報や同一企業における他の期間または時点における類似の情報が比較可 能であれば大きな有用性を獲得することができるO したがって,特に数量的 情報の意義は,かなりの程度それを他の基準と比較する利用者の能力の如何 に依存しているD また,明らかに,確実な比較は用いられる尺度が比較の対 象である特徴を確実に表わしている場合にのみ可能である26) というので あるO ただし,比較可能性は目的適合性や信頼性と同じ意味の情報の特質で はなく,それは,二つないしそれ以上の各情報聞の関係にかかわる特質であ るD もし,二つの測定聞の比較を確保するために,そのうちの一つがより低 い適合性や信頼性の情報を生みだす方法によって得られるとすれば,比較可 能性の改善をはかることが検証可能性または信頼性を損うこともある27)
というのであるD
一方,継続性 (consistency)についてはつぎのようにいう。一定ω会 計 期間にわたる会計方法の適用は会計数値をより有用たらしめる重要な特質と みなされてきた。たとえば,監査報告書の標準椋式は財務諸表が「継続して 適用された一般に認められた会計原則に準拠して」作成された旨を述べてい るO かつて,会計原則審議会は APBオピニオン No. 20 I会計の変更」
(Accounting Change) においてつぎのように述べた。 r財務諸表の作成 にあたって一度適用された会計基準は同種類の事象または取引について会計 方法の変更があってはならないという前提がある。ある会計期間からある会 計期間への会計基準の継続的適用は比較可能な会計資料の分析や理解を容易
FASB財務会計概念構造の特徴 123 にすることによって利用者にとっての有用性を高める28)JとD ただし,
I
ス テイトメント」はつぎのようにいうo継続性は,目的適合性や信頼性が数字 そのものの特質であるのと異って,比較可能性と同様に二つの数字聞の関係 についての特質であるO 会計方法の継続的使用ということは,それがある会 社における一会計期間,あるいは会社聞のある会計期間におけるそれであれ,比較可能性の必要条件であっても十分条件ではない。たとえば,真の比較可 能性を欠いた継続性の例はインフレーション時の貨幣単位を用いた時系列資 料がそうである,とこのようにいうのである。つまり
I
会計原則のある会 計期聞から他の会計期間への継続的適用も極端に推し進めれば,会計の進歩 を抑制しかねない」という29)のであるO ここにも比較可能性と継続性とのトレード・オフ関係が論理的に設定されているとみられる。
つぎに, Iステイトメント」は重要性 (materiality)についてつぎのよう に述べているO すなわち,重要性は質的諸特徴,特に目的適合性と信頼性と に係わる包括的概念であるo重要性と目的迎合性とは共に意思決定者に対し ていかなる影響ないし区別をつけさせるかとの関係で定義できるが, しか し,二つの用語は区別できる。たとえば,ある情報が開示されないという芯 思決定が行われたとした場合,投資家がその程の情報要求をもたないという 理由であれば,それは目的適合的でないからであり,あるいは,その金額が 区別をつけるには少額に過ぎるという理由であれば,それは重要性をもたな いということである。しかし,金額の大きさそれ自体は,その項目の性質ま たは判断がなされるべき環境に関係がなければ,一般的には重要性の判断の 十分な基礎とはならない。いずれにしても,当審議会 (FASB)の現在の立場 は,経験ある人聞の判断に入りこむすべての点を考慮に入れた一般的な主要 性基準を公式化する乙とはできないということである,と,このようにいう
のである30)。
最後に Iステイトメント」は情報伝達における賀用と便益 (costand benefit)の概念について述べるO つぎのようにいうのであるO 会計情報は それが有用であるためには,d.:,る最低水準の目的迎合性と信頼性とを達成し なければならない。この段低水準を超えた場合,利用者は目的迎合性を犠牲
124 経 営 と 経 済 にして信頼性に比重を置くことによってか,あるいは信頼性を犠牲にして目 的適合性に比重を置くことによって,便益を得るか,ある会計方法の変更が 両方の便益をもたらすであろうO それぞれの利用者が各特質‑にたいする相対 的価値を受け取ることになるO 最終的には,会計基準設定主体がその規定化 において他のために一つを犠牲とするといった社会全体としての要求に見合 った最善を尽さねばならないし,また,その賀用と便益との計算をたえず承 知していなければならない31) とこのようにいうのであるO こ の 賀 用 と 似 益の概念、もまた会計基準設定の全体に係わるトレード・オフの関係を強調す
る概念であるとみられるのであるo
(註)
1) 2) F ASB, Statement of Financial Accounting Concepts N o. 2 Qualitative Characteristics of Accounting lnformation, ix.
3) AAA Committee, Statement on Accounting Theory and Theory Acceρtance, AAA 1977.
4) FASB, Statement of Financial Accounting Concepts No. 2, p. ,1 5) 6) lbid., pp. 4‑5.
7) lbid., pp. 2‑3.
8) lbid., pp. 3‑4.
9) lbid., p. 6. FASB, FASB lnvitation to Comment, FinancjaI Statements and Other Means of Financjal Reporting, May, 1980, pp. 6 ‑7 . 10) FASB, Statement of FinanciaZ Accounting Concepts No. 1, pargrah 9. 11) FASB, Statement of Financial Accounting Concepts No. 2, pp. 12‑13.
12) lbid., p. 15. 13) lbid., p. 19. 14) 1 bid , .p. 21. 15) Ibid., p. 22. 16) lbid., p. 25. 17) lbid., p. 26. 18) 1 bid , . p. 27.
19) 20) 1 bid., pp. 34‑37.
21) lbid., pp. 37ー38.