複占市場における企業間の 費用情報の交換について
−寡占市場理論の情報経済学的再構成(Ⅰ)−
越智教文
§1.は じめに
アカロフ〔15〕,アロー〔17〕の業績により不確実性と情報の経済学が学 会の注目をあびるようになり,不完全情報下での伝統的経済理論の再検討が
さかんに行われるようになった。このような伝統的経済理論の再検討の流れ のなかで1970年代後半頃より,不完全情報下での寡占市場モデルの分析が活 発に行われている。寡占市場モデルへの不確実性の要素の導入は,市場不確 実性と技術不確実性に大別される。寡占市場モデルへの不確実性要素の導入 によりさまざまな方向の研究がなされているが,その流れのなかの1つとし て近年,企業が政策決定の際に直面する,このような不確実性についてのそ
れぞれが独自に持っている情報を,企業間で情報交換することによる企業の 政策決定の変化の研究が行われている。すなわち情報交換により生ずる各企 業の情報保有量の変化が,企業の行動決定に与える影響が研究されている。
このような方向での先駆的研究には,Clarke〔8〕,Vives〔22〕,Ga1−Or〔9〕,
Sakai〔8,9〕,Shapiro〔21〕等があげられるであろう。
Vivesは複占市場を扱い,市場需要関数(線形性を仮定)の切片にたいし て,各企業に共通する,不確実性が導入されている。各企業は独自の市場調 査を通じてこの不確実性要素についての情報を得るのであるが,このように して得た情報をさらに,同様にして情報を得ている相手企業と情報交換する ことにより生ずるクルーノー均衡,ベルトラン均衡の変化および両均衡の比 較の問題が分析されている。各企業に共通する1つの需要不確実性を想定し
て分析を進めるという意味では, Clarkeや Gal‑0rも基本的には同じ流れに・
属する。一方Sakaiでも複占市場が扱われているが,彼においては製品差別 化による各企業の個別需要関数および費用関数それぞれにたいして不確実性 要因が導入されている。しかし分析の対象となる企業はここでもクルーノー 企業とベルトラント企業であり,また各企業の個別市場需要関数,費用関数 についてもVivesと同様に線形性が仮定されている。 Shapiroの研究もこの 流れに属する。
このような想定のもとで彼らはさまざまな結論を導いているが,その結論 には線形性の仮定,および扱われる企業がクルーノー企業とベルトラント企 業であることが決定的に影響を及ぼしている。現在の寡占理論では企業は自 己の政策決定に際して,数量および価格を同時に考慮にいれた政策決定を行 うことが前提とされる。また寡占企業の行動選択に対する,推測的変動によ る斉合的な説明も要求される。そして推測的変動による斉合的説明のための 1つのモデルとして,寡占企業の先導性一追随性の行動選択による説明がな されている。小野は C7Jにおいて,寡占市場における先導性,追随性をめ
ぐる分析に対しては
(1) 企業は価格および供給量を政策変数とする。
(2) 自己の行動形態と他企業の行動形態の斉合性。
(3) 各企業の行動形態選択の誘因における最適性。
の3つを同時に考慮、に入れた寡占理論が必要であることを強調し,このこと に基づいた寡占理論を提示している。その中で彼は,寡占市場に成立する市 場構造を, (イ)純粋独占, (吋参入阻止政策により成立する均衡,付非対称寡占,
仁)対称寡占に分類している。しかしIJ、野の議論は確実性下の話であり寡占企 業は,市場需要関数,自己及び、競争相手企業の生産のための費用関数につい ての正確な情報を持っていることが前提となっている。この前提に基づいて 各企業が最適行動を取ることにより,均衡がもたらされるのである。
本稿では小野の提示した寡占市場モデルの中の同質財非対称複占市場を考 察の対象とし,複占企業聞の費用情報の交換の問題を,企業はこの情報交換 において嘘をつく可能性があるという視点から検討する。 2節では小野の寡
占理論の本稿と関連する部分を要約する。 3節ではこの市場には,両企業共 に自己の費用関数を相手企業のそれと情報交換する誘因があることを示す。
しかしこのような情報交換においては,相手企業から与えられる情報には嘘 がつきものであると考えられる。 4節では,先導企業と追随企業がこれまで のこの市場の経緯よりあらかじめ決まっている場合において,追随企業の嘘 の情報伝達により均衡がどのように変化するかを検討する。そこで得られる 結論としては,先導企業は,追随企業によって与えられる費用関数情報がた とえ嘘であっても,それを真実の情報であると信じて最適行動をとることに より自己の利潤を増加させることができ,また先導企業のこのような行動に より追随企業の利潤も増加する場合があることが示される。この結論は市場 需要関数,自己および相手企業の費用関数の形には依存するが,かなり広範 な市場および費用構造に於いて成立するであろう。なお簡単化のため以下の 分析においては,固定費の存在は捨象されている。
S 2 .小野の寡占モデル……同質財複占市場の場合
同質財複占市場を考える。同質財市場においては企業の生産した財が市場 で販売できるか否かは,企業がその財に付ける価格のみで判断されることに なる。いまこの同質財市場における市場需要関数を
x=D(p)く=ミ>ρ=f(x)
と表わすことにする。ここにρは財の価格,xは財の需要量を表わす。また 各企業 i(i=, 21 )の財の生産に関する費用関数を G・(Xj) と表わす。ここに 勾 は 企 業iの生産量である。ここで市場需要関数および各企業の費用関数に
ついて次の仮定をおく。
〔仮定JD' (p)く0,f' (x)くO
C'j (Xj) >, c勺(Xj)> 0 i=,12
(1) この節の内容は小野 [7Jの3章で導かれたものであるが,本稿の self‑containment を保つため,図による説明を除いて,ほとんどそのままの形で掲載させてもらった。
まず複占市場における追随者と先導者の行動をみることにする。そのため 企業lは企業2のつけた価格れを前提にして,追随者として行動すると仮 定する。このとき企業1の追随者としてつける価格ムにより,企業1の個 別需要関数Xlは
ρ1>ρ2のとき Xl = 0 ρ1=ρ2のとき OくXlくD(pl)
ρlくρ2のとき xl=D(Pl) となる。
(i) 企業1はこの個別需要関数をもとに自己の利潤関数 IIl(pd =ρlXl ‑C1 (Xl)
を最大にする最適行動をとるものとする。したがって企業lの最適行動は
① ρ2 ::三C'1(0)のときは参入しない。
⑪ C '1 (0)豆ρ2::;C' 1 (D(わ))のとき
ρ1=ρ2. Xl =C'11 (T2)
。 f'(D(p2))・D(わ)+わくC'1(D(わ))くρ2のとき
ρ1=ρ2. xl=D(わ)
。 C '1(D(れ ))豆f'(D(れ))・D(わ )+ れ の と き 企業lの独占
となる。
(ii) 一方企業2は,企業1のこのような行動に対して追随行動はとらず,
企業lの行動の結果として残る需要が自己の個別需要関数であると考えて最 適行動をとるとする。このような企業2の行動は先導性と呼ばれる。企業2 がこの先導性を選択したとき,企業1が追随者としての最適行動をとれば,
企業2の個別需要関数れは
ρ2くC'l(0)のとき X2 = D(T2)
C'l (0)云ρ2:::三C'1 (D(T2))のとき X2 =D(わ)‑C'll (わ)
ρ2 >C'l (D(れ))のとき X2 = 0 となる。企業2はこの個別需要関数をもとに利潤関数
II2 (れ)= P 2 X 2 ‑C 2 (X 2 )
を最大にする最適行動をとるものとする。企業1および企業2の利潤関数は 最大値をとるための2階条件を満たすと仮定すると,企業2の最適行動は次 のようになる。
③ C ' 2 (D ( C' 1 (0)))豆ムのとき
企業2の純粋独占,P2 =fC庁), X2 =X:f. ここにdは次の式を満たす。
f(月)+X:f .f' (庁)=C'2(イ)
⑧ ρ 1~ C'2(Ð( C' 1 (0))) ~Pl のとき
ρ2=C'1 (0), x2=D(C'1 (0)).
。PlくC'2 (D ( C' 1 (0)))かっPl>C'2(0)のとき
ρ2 =P2 =g2 (i2), X2 =i2・
ここに g2(X)およびんは次の式を満たす。
P=g2 (X)く:)> x=D(t) ‑C'll (t), g2 (i2) +i2・g'2 (i 2) = C' 2 (i 2 ) •
⑨ Pl :::三C'2(0)のとき
企業2は先導者にはなり得ない。
P 1 = c' 1 (D (jj 1 ) ) ,
D(C'¥ (0))
ρ1 1 ‑ '= c‑'' 1 1 (0) ,V / + I D' 7"¥' (I r" C' 1 ~ (0))~ '"; ¥1 ー D(C'1 (0))
ρ1 =C'l (0) +;;,';;...:
t: 1 . '‑' 1 ,V / I D' (C' 1 (0)) である。
(iu) (i), (ii)より企業1の追随者としての最適行動は
④ C ' 2 (D ( C' 1 (0)))豆Plのとき 企業1は参入できない。
⑤ PlくC'2 (D (C' 1 (0)))かっ Pl>C'2 (0) のとき X 1 = C' 1 1 (g 2 (i 2 ) )
① Pl三三C'2(0)のとき
企業lは追随者にはなりえない。
で与えられる。
またこれとは逆に企業1が先導性を,企業2が追随性を選択した場合につ いても,添字を入れ替えるだけで同様に考えることができる。したがって企 業i(i= ,12)が先導性または追随性を選択したときの利潤関数は,それぞれ
ni(お)=あ・ (D(お)‑C';l(お))‑Cj(D(あ)‑C';l(お)) , (1)
Hjゆ1)=ρ1C'i 1 (お)ー Cj(C'i 1ゆ1))
で与えられることになる。ここにi*jであり,また添字のl,fはそれぞれ先 導性,追随性を表わす。
小野C7Jではこのモデルに基づき種々の興味ある結果が導かれているが,
ここでそれについて述べることは省略する。
~ 3 .企業間に於ける情報交換の誘因
前節の小野の議論においては,両企業が最適行動を決定するとき,両企業 は市場需要関数x=D(p),自己及び相手企業の費用関数について完全な情報
を持っていることが前提となっている。以下においても両企業は,市場需要 関数および自己の費用関数 Ci(均), i=,12,については,完全な情報を持っ ていることを仮定する。しかし相手企業の費用関数については,それを仮定
しない。また複占市場が成立している状況を考えるので,小野のモデルにお ける(ii)ー(c)と(iu)ー(b),および先導性,追随性を逆にした場合のそれに相当す る場合のみを考察の対象とする。
まず(1)より,企業2が先導性を,企業1が追随性を選択したときの各企業 の得る利潤は
Hらゆ2)=ρ2・(D(わ )‑c' C 1 (p 2 ) ) ‑C 2 (D (わ )‑C'I‑1 (わ)) II rI(ρ2) =ρ2C1ー1(わ )‑C1 (C1一1(れ))
である。これと立場を逆にした場合は
IIl1 (ρ1) =ρ1 (D (p 1) ‑c' 2 1 (T d) ‑C 1 (D (ρ1) ‑C'21 (Pd)
Hら(P1)=ρ1C'21 (P1) ‑C2 (C'21 (Td)
(2)
(3)
である。各企業は自己の利潤を最大にすることを目的として行動するのであ るが, (2), (3)を見れば分かるとおり,企業2が先導性を選択する場合,自 分のつけた価格れに対する企業1の逆限界費用関数C'i1(わ)を,企業1 が先導性を選択する場合,自分のつけた価格 ρ1 に対する企業2の逆限界費 用関数 C'21(Pdを正確に知らなければ,利潤極大化行動を取ることがで
きない。
ここで複占企業間に費用関数についての情報交換の誘因が存在することを 明らかにするため,小野とは異なる分析視点を導入する。いま企業1が先導 性を選択した場合と追随性を選択した場合における利潤関数の差を
II 1 (れ)= II 11 (P 1) ‑II r I(れ) とおく。このとき
(2) したがって企業の行動は危険中立的である。
dII 1 (わ )Idp 2 = ‑C' 11 (わ)くO
である。したがってII1 (わ)はρ2の関数としては単調減少である。ここで 企業 i(i= ,12)が先導者としてつける価格ρiに対しては,複占市場のよう な不完全競争市場においては
D(あ)く C'11(お)+C'i1(pj), i=,12 が成立することに注意すると
II{(あ)> II~(お), i=,12 (4) であることが分かる。したがってρlくPl'C'1 (0)くρ2くPぃII1lゆ1)>
o , II~ (C'1 (0)) = 0であることを考慮すると ,II 1 (わ)のとる値は, ρ2 の値がC'1(0)からPlに向かつて大きくなるに従って正の値から負の値に 変化する。したがってある点ρ2において
II 1 (ρ*2) = 0
となる。同様のことを企業2についても考えると,先導時と追随時の利潤関 数の差
II2 (Pl) =IIらゆ2) ‑II zI(p 1 )
のとる値は ,dII 2 (p 1 ) ,d/ρ1=‑C'2(Pl)く0,ρ2くP2,C'2 (0)くρIくP2' Hらゆ2)> 0 , II zI(C' 2 (0)) = 0より, ρ1がC'2(0)からP2へ大きく
なるに従って正から負に変化する。したがってある点前が存在して II2 (P*I) =0
が成り立つ。ここにP2 = C' 2 (D (t 2 ) )である。
ぷ,必の値のもつ経済学的意味づけは
(イ)引は,企業1が先導者としてつける価格ρ1がこの討の値より小さ い場合,企業2は企業lに代って先導性を選択し逆の場合では企業2は,
そのまま追随性を選択する方が有利であることを意味する,行動選択におけ る分岐点を与えるものである。
(
吋 ρ2の値は,企業2の先導者としてつける価格わがこの値より小さい か大きいかに従って,企業1は企業2に代って先導性を選択するか,それと
もそのまま追随性を選択するかの分岐点を与える。
と解釈することができる。ところでこの前 ,P*2 の値は,市場需要関数 x=D(p) ,両企業の費用関数 C1 (X), c 2 (x)によって、決まるのであるから,
両企業の費用関数が異なれば一般に異なる値を取る。したがって
ρ*1 >ρ2 または P*1くρ2
のいずれかが成立する。ここで(4)より III1(PdくII rI(p 1 ,) II 12 (わ)くHら ゆ2)であったので
ρ1>ρ2,ρ2>ρ:
が成立する。ゆえに実際に生じる可能性は
付 ρ1,P2 >max (p*I , ρ~) , 斗 ぷ>ρ1>P~
~T0ρ*2 >ρ2>ρ1
のいずれかである。付の場合は両企業による追随争いの結果,価格引き下げ 競争が生じるのでここでは考察の対象とはしない。しかし(斗では企業2が先 導性を選択し,企業1が追随性を選択することにより,また例では企業1が 先 導 性 を 選 択 し 企 業2が追随性を選択することにより,両企業とも先導性,
追随性の行動選択をも含めた最適行動を取ることができる。しかしそのため には両企業とも,相手企業の費用関数を正確に知る必要がある。すなわち自 分の行動が最適であることを知るために,相手企業と費用関数についての情 報交換を行うか,このような情報交換の場がもしなければ,情報調査機関等
(3) この結果は小野 [7)の64ページに述べられている, 各企業にとって先導性と追閲性 のいずれをも選択し得る場合が存在する"なる結果を拡張している。
を通じた情報入手を行う必要性が生じる。しかし競争企業間での, しかも自 己の費用関数を相手企業に伝えるような情報交換に於いては嘘がつきもので あろう。また情報調査機関を使った情報入手では,その機関の調査能力およ び調査費用が問題となろう。本稿ではこの情報調査機関を使った情報入手の 問題は扱わない。
次節においては,いま上で述べた複占企業の聞の費用関数の情報交換にお いて,一方(追随者)が嘘をつく場合に,他方(先導者)がその情報を信じ て最適行動をとるとしたとき,この複占市場の均衡がどのように変化するか を検討しはたして追随者は嘘の情報伝達を行うか否かについての検討を行
つ。
~ 4 .嘘情報の伝達による市場均衡の変化
前節で述べた複占企業聞の費用関数についての情報交換において,企業は 相手企業に嘘をつく誘因を持っかについて検討する。嘘をつく場合,相手企 業にそれを知られないこと,およびそれにより自分の利潤が必らず増加する ことが必要であろう。以下では,これまでのこの財市場における競争の経緯 から先導性をとる企業と追随性をとる企業があらかじめ決まっている場合の みを検討し,まだ決まっていない状況での情報交換の問題は,次稿以降で期 することにする。
先導企業と追随企業があらかじめ決まっているとする。この場合では追随 者の最適行動は先導者のつける価格のみで決定でき,追随者は先導者の費用 関数を知る必要性は全くないが,先導者のつける価格が高いほど追随者の利 潤は増加すると考えられる。一方先導者が自分の利潤を最大にする価格を正 しく知るには,追随者の費用関数を正確に知る必要がある。また追随者には 自分のつける価格を知られてしまうので,嘘をつく誘因を持たない。したが って先導者はこの情報交換の場においては,自己の正確な費用情報を追随者 に与えると仮定することにする。ゆえにこの情報交換では,情報交換誘因に 非対称性が存在することになる。追随企業はこの情報交換取引きに応じる必 要性は全くないが,自分の嘘情報により利潤が増加するのであれば,情報交
換に応じるであろう。
ここで企業lを追随者,企業2を先導者とする。企業1の嘘情報として考 えられるものは種々あるが,ここではその経済学的意味の解釈のし易さも考 慮、して,企業1は企業2に自己の費用関数を
C 1 (x d = C 1 (x 1) +αXl
と伝えるとする。ここに C1(xdは企業lの真の費用関数であり, αは定 数とする。以下では企業2がこの情報を正しいものと信じて最適行動をとる 場合を考える。このとき企業1が自己の真の費用関数に基づいて,企業2の つけた価格に対して最適行動をとるとすれば,その結果は市場需要量に対す る超過生産または過少生産となり,企業2のつけた価格は市場において維持 できなくなり,結局企業2は企業1が嘘をついたことを知ることになる。し たがって企業 1の生産行動は,自分の嘘情報に基づいた最適行動以外にはあ
りえないことになる。
一方企業2は自己のつける先導価格んに対し企業lは最適行動をとると 考えることになるので,
P 2 = c' 1 (x'" 1) = c' 1 (x'" 1) +α
より,企業1の個別需要関数は Xl =C'i 1 (P2) =C'i 1 CP2一α)
であると企業2は判断することになる。したがって企業2の個別需要関数は X2 =D(P2) ‑C'i 1 (P2一α)
となる。ここで企業1が嘘情報を伝えたときの企業2の個別需要関数と,真
(4) この費用関数については小野[7 Jも取りあげているが,彼の扱っているのは均衡問 題であるのに対し,ここでは追随企業は嘘をついたことが発覚するのを避けるため,自 己の最適行動が取れないという意味で不均衡問題を扱うことになる。
実を伝えたときのそれ(これはれ=D(れ )‑C'i1 (れ)で与えられる。) の違いを見るために ,X2 =X2とおくと
D(T2) ‑ C1ー1(T2一α)=D(わ)‑C1‑l (わ)
より ,D' (p)く0,C" 1 (X) > 0を考慮すると,この式を満足する可能性が ある αとP2の組合わせは
(
イ)α>0の 場 合 わ+α>P2>れ ロ)α( くO か ρ2>P2>ρ2+α
だけである。ゆえに企業2の個別需要関数は,企業1が真実を伝えたときの それと比較してα>0のときは上方へ, αくOのときは下方へシフトするこ とが分かる。したがって企業2の限界収入関数も当然, α>0のときは上方 へ, αくOのときは下方へ,企業lが真実を伝えたときのそれと比較してシ フトすることになる。ゆえに企業2の生産量んおよび利潤Hら(T2)は
付 α>0のとき Hら(T2)>nら(P2),X2>X2
ω αくO か Hら(T2)くHらゆ2,)X2く れ
である。すなわちHら(T2)を αの関数とみたとき dnl2 (T2 (α)) /d.α>0
dX2 (α) /dα>0 ,
である。ここにん (α),P2 (α)は, αが与えられたときの企業2の均衡生 産量と価格である。このん(α),P2 (α)は,企業2の利潤関数が
(5) 企業2の利潤関数は αの単調増加関数であり, しかもこのことは,自分のつける価格
P2がP2より上昇するか下落するかには関係しない。
(6)ん (α), P2 (α)は ん ,P2と同じものであるが, αの関数であることを明示した方が良 い場合はこの表記を使う。
HらCP2)=T2i2 ‑C2 (ん)
であるので,その最適点は
釦らめ)IdT2 =i2 +ぴ2‑C'2伽 〕 竺=0 dP2
より求められ,この式にん=DCP2)‑C'11 CP2一α)を代入すると D(T2) ‑C'11 CP2一α)+ CT 2 ‑c' 2 (D CP 2) ‑c' 11 CP 2一α)))
* (D' CP2) ‑C'11ザ2一α))= 0 (5) となる。この関係式は任意の αの値について成立し,これより T2(α)を 求めることができる。またT2(α)とαの聞の関係を求めると,それは
drp2 (α) dα
〔1‑C" 2 (D' ‑C' 11 • ) J C' 11 • + CP 2 ‑C' 2) C' 11 ・
C 2 ‑C" 2 D' ‑C" 2 C' 11 • J (D' ‑C' 11 ') + CP 2 ‑C' 2 ) (D" ‑C' 11 ') (6) で与えられる。
一方企業lの行動を見ょう。企業1の行動の基準は嘘をついたことが発覚 しないことと,嘘をつくことにより必らず利潤が増大することである。嘘を ついたとこが発覚しないための企業lの生産行動は,企業1自身が自分の嘘 情報に基づいて最適行動をとることであることは前に述べた。しかし利潤が 必らず増加するためには,企業2のつける価格ム (α)が必らず ρ2より上 昇することが必要条件である。企業1の利潤関数は
II ~ (T 2) = T 2 i 1 ‑C 1 (i 1 )
であるから,真実の費用情報を伝えたときとの利潤の差は
CT 2 i 1 ‑C 1 (i 1 ) Jー CP2 X 1 ‑C 1 (x 1 ) J
である。ここで
Xl =C'11 (T2一α),α>0
Xl=C'11(ρ2一α),αくO
(7)
とおく。 P2>わ で あ る た め に は ,dX2/dα> 0を考慮に入れると ,X1>X1 >
X1, (α>0のとき), X1 >正1,(αくOのとき)が十分条件である。さらに利 潤が必らず増加するための条件を求めると ,P 2 = C' 1 (X 1) +αを (7)に代入
して0とおくと
(C' 1 (X1) +α) X 1 ‑C 1 (X 1) =ρ2X1 ‑C1 (X1) (8) であり,これをみたすX1を ム (α>0), (α>0のとき), X1 α(く0), α( くOのとき)とおくと,企業1が嘘をつくことができるのは,追随者として の自己の生産量ム (α)が
件)α>0のとき X1 (α> 0)くi1(α)くX1 f¥)αくOのとき X1 (α) >i1 (αく0)
の場合だけである。
しかし件),付が成立する市場条件,費用条件がどのようなものであるかを 一般的に議論するのは難かしい。ただ α>0のときは企業2の利潤は,嘘 をつかれない場合と比べて必らず増加するので,企業2にとってこのような 嘘をつかれるのは一向に構わないであろう。したがって企業2にとって問題 となるのは αくOの場合だけとなる。一般論は困難なので,以下では例で もってこのことを考察することにする。
例.市場需要関数,企業1,2の費用関数をそれぞれ
D(P) =d1 +d2ρd1>0, d2くO C1 (X) =α1 +b lX+ClX2 αぃb1,Cl > 0 C 2 (X) = a 2 + b 2 X + C 2 X 2 a 2, b 2, C 2 > 0 とする。ゆえに
D' (p) = d 2, c' 1 (X) = b 1 + 2 Cl X
c' 1" 1 (P) = (p ‑b d / 2 C 1, c' 2 (X) = b 2 + 2 C 2 X より完全情報下では
(9)
Xl=
ρ2=
ゆ2‑b 1) /2 C 1, X 2 = (d 2 一τ~) れ+ムιl
(2c11"'d" 1 1+bI .... 1) 1/ ¥ .(~2 ーC 2 Cld21)+b2一1/
2‑2c2d2+与
ιl
で与えられる。一方企業1が嘘をついた場合では
f C2 ¥
α L r‑2C1d?一 [J P2=ρ2+ 昼 IU2
2‑2c2d2+与
ιl
となる。前頁の式の右辺をわ+加とおくと仮定より
2 ‑2 C2d2 +C2/C1 > 2
(d1 +主←)
L ιl
であり,また一般に先導性をえらぶ企業の方が費用条件は優秀と考えられる ので C2/Clくlと考えられる。したがって
0くC2/C1‑ 1/( 2c1d2 ‑1)く2
より Oくhくlであることが分かる。ゆえに α>0のときは P2>P2'αく
0のときは戸2くρ2が成り立つ。したがって企業1は αくOのような嘘はつ かない。 α>0の場合は
1 , ... • ,. • b 1↓N
i1 = (P2一 (b1+α)) / 2 C 1 , i 2 = (d 2一一一)ん2 Cl / r " . +(d1 +→「一)2 ιl
である。一方i1α>0)は (8)より
i1 (α> 0) 一α+v'α2+ (わ‑bd2 2 Cl
で与えられる。ゆえに
F2一 (b1+α) ーα+v'α2+ (P2‑bl)2
i1‑i1 α> 0 ) = ~=---~----
Cl 2Cl
(P2‑bl) +kαdα2 + (ρ2 ‑b 1) 2 2 Cl 2 Cl
である。ここで
k2α2 + 2kα(P2 ‑bl)‑α2=一(1‑k2)α(α一一一ーす(わ2k ‑b1)) 1 ‑k・
より OくαくTτ2k k'2(P2 ‑bdのとき, i1 >i1 (α> 0)となり企業1の利 潤が増加する。またその最大値は
α=k(t2 ‑b1) I (1 ‑k2) 。。
のときであることが分かる。
以上の分析からこのモデルでは,追随企業は(10)のような嘘をつくこと になり,それにより利潤も増加する。同時にまた先導企業の利潤も必ず増加 する。したがってこの複占市場では,追随企業による嘘情報の伝達により生 産者の厚生が増加し,さらに各企業の厚生も増大することになる。しかし消 費者の厚生の立場から見るとこのことは,生産者余剰の増大による消費者の 厚生の減少および価格上昇による社会全体の厚生の減少による消費者の厚生 の減少という 2重の不利益を受けることを意味する。企業聞の費用情報の 交換と嘘情報の伝達は,このモデルの場合,一方的に企業の厚生を増大せし め,消費者の厚生にはそれ以上の減少をもたらすという相反する効果を持つ のである。
~ 5 .今後の課題
本稿の分析に於いて残された課題として,次のようなものが考えられるの である。
(1) 3節で述べた各企業の先導性,追随性をも含めた行動選択における費 用関数の情報交換をどのように想定すれば良いであろうか。これについては 本稿での追随者の嘘情報の形のものを両企業の費用関数にあてはめ,現在検 討中である。
(2) 製品差別化された市場に対して本稿の議論を拡張すること。
(3) 市場需要関数に非線形なものを導入すること。
( 4) 小野 (7Jのようなより一般的モデルの下で,市場需要関数および各