はじめに
横浜市立大学では、社会貢献活動・地域貢献活動として多くの市民向け専門講座が実 施されてきた。理学部および国際総合科学部理学系でも、それらの一環として理科教育 に関する講座や実験実習会に取り組んできた。ここでは、金沢八景キャンパスに所属す る主に植物系の教員によって行われた実験講座について紹介する。また、実際の実験手 引きについてもいくつか紹介する。
高校生対象の実験講座
主に神奈川県内と横浜市内の高校生を対象に、冬休みの期間に高校生のための体験講 座(高校生実習)を実施してきた。子どもゆめ基金補助事業(2000 年のみ「ふれあい サイエンス 2000」事業)として採択された事業である。2004 年からは、財団法人木原 記念生命科学振興財団が主催する講座となった。3 日間の実習期間として設定されたが、
受講生の負担や曜日巡りの都合から、2.5 日間や2日間で実施されたこともある。実 習会のテーマは「花粉を解剖して観る(田中監修)」、「花粉バイオテクノロジー入門(田 中監修)」、「身近な植物を使った実験(塩田監修)」、「植物のタンパク質実験(塩田監修、
実習会名は毎年変更)」と変遷した(表1)。
実習内容については、学部 2 ~ 3 年生を対象に行っている学生実習の内容をベースに、
高校生の学習レベルに合わせて、実験の内容を平易にすること、実験時間を短縮するこ と、実習書の表現を簡略化すること、3 日間の期間内ですべての実験が終了すること、
などの方向で改良を行った。この時、高等学校に戻ってから実験を再現できる必要を意 識しないことで、一定以上のレベルを保った実験を設定できた。
「花粉を解剖して観る」では、「花粉壁の観察」、「染色体の観察」、「蛍光顕微鏡観察」、「電
高校生および社会人を対象とした生物学実験講座
The extension courses of biological experiments for the high school students and general public
塩 田 肇
(横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科)
子顕微鏡観察」、「花粉プロトプラストの単離」、「雄性配偶子の単離」、「受粉・培養実験」、
「花粉壁の生化学実験」、「PCR(遺伝子検出)実験」を実施した。「花粉バイオテクノロ ジー入門」では、「花粉の観察」、「花粉管の発芽・伸長」、「花粉プロトプラストの単離」、
「細胞融合実験」、「遺伝子導入実験」、「遺伝子検出実験(PCR 法)」、「花粉症アレルゲ ンの検出」を実施した1), 2), 3)。「身近な植物を使った実験」では、「植物細胞の観察」、「プ ロトプラストの単離と細胞融合」、「植物細胞培養の実験」、「遺伝子検出実験(PCR 法)」、
「光合成色素の検出実験」を実施した4), 5), 6), 7)。「植物のタンパク質実験(講習会名は 毎年変更)」では、「植物細胞の顕微鏡観察」、「植物からのタンパク質抽出実験」、「酵素 活性の測定実験」、「大腸菌によるラン藻タンパク質産出実験」、「植物タンパク質の分離 実験」、「大腸菌による酵素タンパク質産出実験」、「植物細胞の成長(花粉管伸長)の観 察」を実施した8), 9), 10), 11), 12)。
20 ~ 30 名の受講生(高校生)に対して、教員3名、ティーチングアシスタント(TA)
として博士研究員、大学院生、学部4年生など5~7名で指導にあたった。実習はすべ て金沢八景キャンパス総合研究教育棟4階の生物学実習室で行われた。この実習会に参 加した高校生の中には、のちに横浜市立大学を受験した者や入学した者もあり、大学紹 介としての役割も担ってきた。また、2008 年度と 2009 年度には新聞誌上でも紹介され た13), 14)。
実験は3~5名の実験班で行い、班に1名ずつ TA をインストラクターとして配置 した(図1)。それにより、実験の失敗を避け、かつ安全に実験を行うことができた。
実験班は、学年や所属学校が分散するように設定した。これには、受講生間の交流を促 す目的があり、一定の効果があったと考えている。
表 1 高校生対象の実験講座(1)
研究者レベルでは、待ち時間のある実 験を組み合わせることで全体の実験時間 を節約することができる。しかし、実習 会では受講生の実験技量も事前学習も十 分ではない。このような状態で実験を同 時進行すると混乱をきたすことは明白な ため、可能な限り同時進行にならないよ うにスケジュールを組んだ。止むを得ず 実験が重なる場合も、実験の待ち時間の 活用や、同時進行する実験操作が結果観 察のみになるように工夫した。
これら以外に、横浜市立大学リカレント講座や文部科学省の Science Partnership Program(SPP)事業としても実験講座を担当してきた(表2,3)。
2001 年と 2002 年にリカレント講座「高校生のための講座」として「遺伝子 DNA 実 験」を実施した。内容としては、「植物組織からのゲノム DNA の抽出と PCR 反応」、「大 腸菌の遺伝子組換え」、「DNA および遺伝子の観察(蛍光顕微鏡観察)」を取り上げた。
30 名程度の受講生に対して、教員2名、TA 2~3名で運営した。
文科省 SPP 事業としては、2005 年に神奈川県立横浜緑ヶ丘高校の生徒を対象に「DNA の抽出」実験を行った。また、2001 年と 2002 年には神奈川県立神奈川総合高校の生徒 を対象に「先端バイオテクノロジー教室」として「プロトプラストと PCR の実験」、「植 物プロトプラストの実験」を実施した。8 ~ 30 名の受講生に対して、教員1~2名、
TA 2名で運営し、これに高校からの引率教員が1名加わった。
図 1. 高校生実習会「植物のタンパク質実験」
2014 年 12 月に開催された高校生実習会「植物の タンパク質実験」の様子。4名の実験班に1名の TA が指導にあたった。
表 2 高校生対象の実験講座(2)
表 3 高校生対象の実験講座(3)
社会人対象の実験講座
放送大学では、番組の視聴による学習だけでなく、各都道府県に設置された学習セン ターでのスクーリングに参加することで、実習や演習も学習することができる制度に なっている。横浜市立大学としても、神奈川学習センター(横浜市南区)に協力する形 で、1986 年より社会人学生を対象とした生物学の実験実習を行ってきた(表4)。
当初は 1992 年に作成した実習書(担当教員:浅島誠、井口泰泉、田沢栄五郎、田中一朗、
久掘徹)冊子に基づく実習であったが、担当教員の交代のため異なる実習内容を扱う場 合があり、その時は別途資料を用意した。2006 年からは、新規に実習書冊子を編集し て毎年更新した。受講生は3~ 32 名と変動し、教員3~5名、TA 2名(2006 年まで)
で実施した。開講は、第1学期と第2学期の年2回(2009 ~ 2013 年は第1学期のみ1回)
で、2007 年第1学期までは土曜日の午後を3週に渡って、2007 年第2学期から 2013 年 までは連続した土曜日と日曜日に朝から夕刻までという時間割になった。
「実験生物学 I」では、「顕微鏡の使い方と細胞の観察」、「アミラーゼの酵素活性」、「ゾ ウリムシの行動」、「イカの解剖」、「DNA の抽出」、「体細胞分裂(染色体)の観察」、「植 物のクロロフィル」を実施した15)。「細胞生物学実習」では、「顕微鏡の使い方と細胞・
核の観察」、「水生植物の細胞の観察」、「動物細胞(ゾウリムシ)の観察」、「植物細胞の 成長(花粉管伸長)の観察」、「植物細胞の分裂(体細胞分裂と減数分裂)の観察」、「動 物の卵巣と子宮組織の観察」を実施した。「顕微鏡で見る動植物の細胞の世界」では、「顕 微鏡の使い方と細胞・核の観察」、「水生植物の細胞の観察」、「動物細胞(ゾウリムシ)
の観察」、「植物細胞の成長(花粉管伸長)の観察」、「植物細胞の分裂(体細胞分裂と減 数分裂)の観察」、「動物の卵巣と子宮組織の観察」、「細胞膜の性質」、「動物の精子と精 巣組織の観察」を実施した。
放送大学の学生は、20 歳代前半から 70 歳以上と年齢の幅が広く、平日には仕事に従 事している場合が多い。本実験実習の受講生についても例外ではなく、さまざまな職業 の人が混じっていた。仕事や家庭の都合で、1単位の認定に必要な5実習すべてに出席 しレポートを提出するのが叶わない受講生も毎回のように見られた。生物学の実験実習 表 4 放送大学の実験講座
では、顕微鏡操作やピペット操作など、煩雑な作業が含まれる。高齢の受講生の中には 疲労や視力が問題となり、作業が遅れる場合も見られた。その場合には、主担当でな い 教 員 や TA が 受 講 生 を 個 別 に
サポートするように配慮した(図 2)。
社会人を対象とした実験講座と しては、リカレント講座「春の植 物観察教室~八景の海へ山へ飛び 出そう!~」や学校教員向けの「科 学の進歩」研修会も担当した(表 2,5)。
「春の植物観察教室」では、横 浜市大金沢八景キャンパスの裏山 での植物観察会や野島(横浜市金 沢区)での海藻観察会を実施した。
「科学の進歩」研修会では、簡易な装置による PCR 実験や植物アミラーゼの酵素活性測 定を実施した。
実習内容の詳細
これらの実験講座で実施された実習から、抜粋して内容を紹介する。「遺伝子検出実 験~ PCR 法~(「身近な植物を使った実験」から)」、「植物からのタンパク質抽出実験(高 校生実習会「植物のタンパク質実験」から)」、「酵素活性の測定実験(高校生実習会「植 物のタンパク質実験」から)」、「水生植物の細胞の観察(放送大学「顕微鏡で見る動植 物の細胞の世界」から)」、「細胞膜の性質(放送大学「顕微鏡で見る動植物の細胞の世界」
から)」。
図 2. 放送大学「実験生物学 I」
2006 年 5 月に開催された放送大学「実験生物学 I」の様子。
佐藤先生の指導でイカの解剖を行っている。
表 5 学校教員向けの実験講座
「遺伝子検出実験〜 PCR 法〜(高校生実習会「身近な植物を使った実験」
から)4), 5), 6), 7)
[目的]
生物の形や性質は、主に遺伝子の情報によって決定されている。遺伝子の実体は、
細胞の中にあるデオキシリボ核酸(DNA)という物質である。遺伝子の発現やはた らきを調べることは、生物学の研究で重要な手段となっている。
まず、細胞に DNA が存在することを確かめてみよう。今回の実験では、植物の葉 から全ての DNA(ゲノム DNA)を取り出してみる。細胞にはタンパク質や脂質など、
さまざまな物質が混在している。これらを段階的に取り除いていき、最終的に DNA 分子だけを分離する。
また、DNA の物質としての特徴は何だろうか。葉から取り出した DNA を用いて、
PCR 法(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼチェーンリアクション)で、特 定の遺伝子(アミラーゼの遺伝子)に相当する部分を増幅して検出してみよう。これ らの操作を通して、分子生物学やバイオテクノロジーの基本的な実験操作も学ぶ。
[材料]
植物の葉(モヤシマメ、ニンジンなど)
[器具]
マイクロピペット(大:200 ~ 1000 μL 用、中:20 ~ 200 μL 用、小:2 ~ 20 μL 用)、
プラスチックチップ(青:200 ~ 1000 μL 用、黄:2 ~ 200 μL 用)、
遠沈チューブ(大:1.5 mL 用、小:0.2 mL 用)、ヒートブロック、
微量高速遠心機、サーマルサイクラー、電気泳動装置、
トランスイルミネーター、かくはん棒
[試薬]
・蒸留水
・抽出溶液 A[2x CTAB 溶液;2% CTAB、1.4 mol/L NaCl、1% ポリビニルピロリドン、
100 mmol/L トリス -HCl (pH 8.0)、2 mmol/L EDTA]
・抽出溶液 B(10% CTAB 溶液;10% CTAB、0.7 mol/L NaCl)
・沈澱用溶液[1% CTAB、50 mmol/L トリス -HCl (pH 8.0)、10 mmol/L EDTA]
・フェノール溶液(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール = 25:24:1)
・クロロホルム溶液(クロロホルム:イソアミルアルコール = 24:1)
・2- プロパノール
・エタノール(70%)
・HSTE 溶液[10 mmol/L トリス -HCl(pH 8.0)、1 mmol/L EDTA、1 mol/L NaCl]
・TE 溶液[10 mmol/L トリス -HCl (pH 8.0)、1 mmol/L EDTA]
・PCR 反応液[10 mmol/L トリス -HCl (pH 8.3)、50 mmol/L KCl、1.5 mmol/L MgCl2、0.2 mmol/L dNTP (dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、0.04 unit/μL
Taq
DNA ポリメラー ゼ、0.8 μmol/L プライマー DNA-F、0.8 μmol/L プライマー DNA-R]・電気泳動溶液[TAE 溶液;40 mmol/L トリス - 酢酸 (pH 8.0)、2 mmol/L EDTA]
・1% アガロースゲル
・色素液(15% グリセリン、0.02% ブロムフェノールブルー、0.02% キシレンシアノール、
15 mmol/L EDTA)
・DNA 分子量マーカー(A:10 ng/μL λHind III 分解物,B:15 ng/μL φX174 Hae III 分解物)
・エチジウムブロマイド染色液(0.5 mg/L)
*CTAB:セシルトリメチルアンモニウムブロマイド EDTA:エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
[方法]
A. 植物からのゲノム DNA の抽出
1. 植物の葉(約 100 mg)を遠沈チューブに入れる。
2. 1. のチューブに 100 μL の蒸留水と 200 μL の抽出溶液 A を加える。
3. かくはん棒で葉をよくすりつぶす(形がなくなるまで)。
4. 65℃で3分間加熱する。
5. 400 μL のクロロホルム溶液を加える。
6. チューブを水平にして1分間激しく振り混ぜる。
7. 12000 回転/分で3分間遠心分離する。
8. 150 μL の上層を新しい遠沈チューブ(15 μL の抽出溶液 B が入っている)に移す。
* 中間層を取らないように注意する。
9. 65℃で1分間加熱する。よく混ぜた後、さらに 65℃で3分間加熱する。
10. 150 μL のクロロホルム溶液を加える。
11. チューブを水平にして1分間激しく振り混ぜる。
12. 12000 回転/分で3分間遠心分離する。
13. 100 μL の上層を新しい遠沈チューブ(200 μL の沈澱用溶液が入っている)に移す。
* 中間層を取らないように注意する。
14. チューブを水平にして静かに混ぜる。
15. 12000 回転/分で3分間遠心分離し、上澄みをピペットを使って取り除く。
16. 200 μL の HSTE 溶液を加え、ピペットを使って沈澱を溶かす。
17. 200 μL のフェノール溶液(下層)を加え、チューブを水平にして1分間激しく 振り混ぜる。
18. 12000 回転/分で3分間遠心分離する。
19. 150 μL の上層を新しい遠沈チューブに移す。* 中間層を取らないように注意する。
20. 150 μL のクロロホルム溶液を加え、チューブを水平にして1分間激しく振り混 ぜる。
21. 12000 回転/分で3分間遠心分離する。
22. 100 μL の上層を新しい遠沈チューブに移す。* 中間層を取らないように注意する。
23. 100 μL の 2- プロパノールを加えて静かに混ぜる。
24. 12000 回転/分で3分間遠心分離し、チューブを傾けて上澄みを捨てる。
25. 沈澱に 400 μL の 70% エタノールを加えて、チューブの内側を静かに洗う。
26. 12000 回転/分で3分間遠心分離し、上澄みをピペットを使って完全に取り除く。
27. ふたを開けて 10 分間置き、エタノールを蒸発させる。
28. 20 ~ 40 μL の TE 溶液を加え、ピペットを使って沈澱を溶かす。
29. 一部(5 μL)をアガロースゲル電気泳動で確認する。(C.5. へ)
B. PCR 法によるゲノム DNA の検出
1. 遠心チューブに 20 μL の蒸留水と 3 μL のゲノム DNA を加えて、ピペットで混ぜる。
2. 99℃のヒートブロックで5分間加熱し、ただちに氷水で5分間冷やす。
3. 小さい遠心チューブに 10 μL の PCR 反応液を準備する。
4. 2. で用意したゲノム DNA 溶液を 15 μL 加えて、ピペットを使って静かに混ぜる。
反応を開始するまで、氷上で保存する。
5. サーマルサイクラーで以下の温度変化を 40 回繰り返す。
94℃:1分間、53℃:2分間、72℃:2分間 6. 反応後、アガロースゲル電気泳動で確認する。
C. アガロースゲル電気泳動によるゲノム DNA の解析
1. 電気泳動槽に電気泳動溶液を入れ、1% アガロースゲルを沈める。
2. 10 μL の分子量マーカーをウェルに流し込む。
3. 5 μL の色素液を反応後の PCR サンプルに加えて混ぜる。
4. 3. のチューブから 10 μL を取ってウェルに流し込む。
5. 10 μL の色素液をゲノム DNA サンプルに加えて混ぜる。
6. 5. のチューブから 5 μL を取ってウェルに流し込む。
7. 電気泳動槽のふたを閉め、100V で 30 分間通電する。
8. ゲルをエチジウムブロマイド染色液に2分間浸す。
9. 蒸留水に浸し、ゲルの表面の余分なエチジウムブロマイドを洗う。
10. トランスイルミネーター上で観察し、写真撮影をおこなう。
[結果]
* DNA 抽出でのサンプルの様子を観察する。(DNA の化学的性質を知る)
*アガロースゲル電気泳動像を観察する。(ゲノム DNA の特性を知る。PCR 法によ る DNA の増幅を確認する)
[解説]
PCR 法(図参照[本原稿では省略])
DNA は4種類の塩基(アデニン:A、グアニン:G、シトシン:C、チミン:T)
が連なる鎖状の分子で、その塩基の組合わせ(塩基配列)で遺伝情報が記録されて いる。また、A に対しては T、C に対しては G が互いに結合して、二本鎖の分子 構造となる。そのため、ある遺伝子の塩基配列と対になる塩基配列をプライマー DNA として用いると、その遺伝子を認識することができる。
PCR 法は、二本鎖 DNA の一本鎖への分離(94℃~ 95℃)、一本鎖 DNA とプラ イマー DNA との結合(40℃~ 68℃)、耐熱性 DNA ポリメラーゼによる DNA 鎖 の伸長合成(72℃)を繰り返すことで、特定の DNA 領域を増幅する手法である。
今回の PCR 法では、2種類のプライマーが認識する DNA 領域の間を 240倍 ( 約 1兆倍)に増幅して検出する。
アガロースゲル電気泳動
DNA はマイナスの電気を帯びた分子であり、電気的にマイナス極からプラス極 へと引っ張られる性質がある。その時、網目状の分子構造をもつアガロースゲル内 を通過すると、DNA は分子量(DNA の長さ)によってふるい分けがされる。移 動距離は分子量を反映するため、移動距離を測ることで DNA の長さを知ることが できる。
分子量マーカーのサイズ[本原稿では省略]
プライマー DNA の情報
プライマー DNA–F(AMY-S2)5’ GGATTCAACTGGGAATCAAG 3’
プライマー DNA-R(AMY-A2)5’ TGTTAGAATGTAGGCATATCC 3’
[注意事項]
1. DNA は DNA 分解酵素によって分解される。使用する器具や試薬は、加熱加圧処 理をして DNA 分解酵素を破壊してある。DNA 分解酵素は汗やだ液にも含まれる ため、サンプルへの混入には気をつける。
2. フェノールには強いタンパク質変性作用がある。取り扱いには十分注意し、皮膚に ついた場合はすぐにせっけんで洗う。
3. フェノールやクロロホルムを含む溶液は、専用の廃液入れに捨てる。
4. エチジウムブロマイドは発がん性物質である。ビニール手袋を着用して取り扱う。
使い終わったゲルや染色液は解毒してから廃棄する。
5. 電気泳動には高電圧電流を使用する。感電を防ぐため、電気を流している間は電気 泳動槽に手を触れないようにする。
6. トランスイルミネーターから発生する紫外線は人体に有害である。紫外線を直接浴 びないため、ガラスやアクリルの遮へい板を利用する。特に裸眼で直接見ないよう に気をつける。
(資料)マメ科植物 アミラーゼ遺伝子の塩基配列(部分)[本原稿では省略]
「植物からのタンパク質抽出実験(高校生実習会「植物のタンパク質実験」
から)」8), 9), 10), 11), 12)
[目的]
植物に限らず、細胞には多くの種類のタンパク質が含まれています。これらのタンパ ク質が、生物の形やはたらきをつくり出しています。ここでは、植物の種子を材料にし て、タンパク質の抽出を行います。種子の中には、発芽や初期の成長に必要な栄養素と してタンパク質が豊富に貯蔵されています。また、発芽が始まると新しくつくられるタ ンパク質もあります。実験では、これらタンパク質に注目します。抽出したタンパク質 は目には見えないため、紫外線を使って量を測定します。生物の体にタンパク質が含ま れていることを確かめてみましょう。
[材料]
オオムギ(
Hordeum vulgare
)の種子[器具]
シャーレ(φ 90 mm)、濾紙(φ 70 mm)、ガーゼ(15 × 15 cm)、はさみ、ピンセッ ト、乳鉢、乳棒、ビーカー(100 mL、200 mL)、駒込ピペット(10 mL)、遠沈管(50
mL)、メスシリンダー(100 mL)、試験管、試験管立て、マイクロピペット、ピペッ トチップ、プラスチックセル、高速冷却遠心機、分光光度計
[試薬]
蒸留水、氷
[方法]
種子の吸水と培養
1. オオムギの種子を水に浸し、室温で2時間培養する。
2. 水を含ませた濾紙をシャーレに入れ、種子を濾紙の上に移す。
3. 4℃あるいは 15℃の暗所で4~6日間培養する。(乾かないように注意する)
タンパク質の抽出
1. 種子 10 粒を乳鉢でよくすりつぶす。発芽していない種 子(A:4℃培養)、発芽した種子(B:15℃培養)を別々 に扱う。(根や幼葉鞘をはさみで切り取っておく。図3. 参 照)
2. 水 10 mL を加えてさらにすりつぶし、ガーゼで濾して ビーカーに移す。蒸留水 20 mL を加えて混ぜ、遠沈管 に移す(約 30 mL)。
3. 8,000 回転 / 分・4℃で 10 分間遠心分離し,上清をビー カーに移す。(粗タンパク質抽出液 A、粗タンパク質抽 出液 B)
タンパク質の定量
1. 分光光度計の電源を入れて 10 分間置く。測定波長を 280 nm に調節する。(“GOTO WL”ボタンを押し“280”を入力。最後に“ENTER”を押す)
2. プラスチックセルに蒸留水を入れ、分光光度計の測定室に入れる。“AUTO ZERO”ボタンを押し、蒸留水の吸光度を“0”に設定する。
3. プラスチックセルの蒸留水を捨て、粗タンパク質抽出液を入れる。測定された値を 読み取る。(粗タンパク質抽出液 A、粗タンパク質抽出液 B を別々に扱う)
4. 測定波長を 260 nm に変えて、2. ~ 3. の操作を行う。
5. 測定した値を次の計算式に入れて、タンパク質濃度(mg/mL)を算出する。
mg/mL =[1.55 ×(280 nm の測定値)]−(260 nm の測定値)
6. 濃度が薄い方の試料に合わせて、濃い方の試料を蒸留水で希釈する。
(例)粗タンパク質抽出液 A:0.8 mg/mL、粗タンパク質抽出液 B:1.0 mg/mL の 図 3. オオムギの種子発芽
場合、新しいビーカーに粗タンパク質抽出液 B を 40 mL と蒸留水 10 mL を加えて 混ぜ、粗タンパク質抽出液 B の濃度を 0.8 mg/mL に希釈する。
[結果]
*4℃で培養した種子と 15℃で培養した種子にはどのような違いがあるか。
*抽出過程でガーゼに残ったもの、遠心分離の沈殿、遠心分離の上清、はそれぞれど のようなものか。
*粗タンパク質抽出液 A と粗タンパク質抽出液 B に外見上の違いはあるか。
*粗タンパク質抽出液 A と粗タンパク質抽出液 B ではどちらの方がタンパク質が多 いか。
[解説]
タンパク質の性質
タンパク質には多くの種類が存在し、その性質やはたらきもさまざまである。例え ば、水に溶けやすいか(水に可溶性)、溶けにくいか(水に不溶性)という性質がある。
多くのタンパク質は、水に溶けた状態で細胞中に存在している。一方、水に不溶性の タンパク質は細胞膜に埋め込まれていることが多い。水に可溶性のタンパク質も、酸 やアルカリの条件にさらされたり、熱が加わったりすると、構造が変化して水に不溶 性に変わることがある。
タンパク質の定量
最も正確なタンパク質の定量方法は、乾燥させて重量を測定することだが、溶液中 のタンパク質には使えない。簡単な方法として紫外吸収法がある。紫外吸収法では、
タンパク質を構成しているアミノ酸のうち、トリプトファンとチロシンが 280 nm の 波長の光(紫外線)を吸収する特性を利用する。タンパク質の種類によって、トリプ トファンとチロシンが含まれる比率は異なるが、平均すると 100 個のアミノ酸あたり トリプトファンは 1.3 個、チロシンは 3.4 個存在する。また、細胞中には 260 nm の 波長の光を吸収する DNA も大量に含まれるため、DNA の紫外線吸収の影響を補正 する必要がある。より正確なタンパク質の定量方法としては、色素結合法や Lowry 法などがある。
「酵素活性の測定実験(高校生実習会「植物のタンパク質実験」から)」8),
9), 10), 11), 12)
[目的]
細胞には多くの種類のタンパク質が存在し、生物の形やはたらきをつくり出していま す。中でも酵素と呼ばれるタンパク質のグループは、細胞の中で起こるさまざまな化学 反応に作用しています。ここでは、植物の種子が発芽する時にはたらく酵素に着目しま す。種子の中には、発芽や初期の成長に必要となる栄養素(タンパク質、脂質、デンプ ンなど)が豊富に貯蔵されています。種子が発芽する時には、これらの貯蔵型の栄養素 が分解されて、細胞で利用されます。多くの栄養素の中で最も重要となる炭素源(エネ ルギー源)は、多くの場合デンプンとして貯蔵されています。デンプンは水に溶けにく く保存には適していますが、そのままでは細胞が利用できません。デンプンは発芽した 種子内で合成されたデンプン分解酵素(アミラーゼ)によって糖に分解され、エネルギー として利用されます。本実験では、種子が発芽する時に合成されるアミラーゼのはたら き(酵素活性)を観察します。同時に、生体触媒としての酵素の特性についても考察し ます。
[材料]
オオムギ(
Hordeum vulgare
)の種子の粗タンパク質抽出液(発芽していないもの:試料 A、発芽したもの:試料 B)
[器具]
試験管、試験管立て、ビーカー(1000 mL)、マイクロピペット、ピペットチップ、
プラスチックセル、ガスバーナー、恒温槽、分光光度計
[試薬]
蒸留水、0.2% デンプン溶液、10 mmol/L ヨウ素溶液、100 mmol/L 塩酸溶液、氷
[方法]
酵素活性の検出
1. 試験管を3本用意し、[A][B][W] とマークする。
2. 3本の試験管それぞれに、0.2% デンプン溶液を 2 mL ずつ入れる。
3. [A] の試験管に試料 A、[B] の試験管に試料 B、[W] の試験管に蒸留水を 2 mL 加え て混ぜる。
4. 試験管を 67℃で 10 分間保温する。保温が終わったら氷水に入れて室温まで冷ます。
(冷やしすぎないように注意)
5. 3本の試験管それぞれに、10 mmol/L ヨウ素液を 200 μ L ずつ加えてよく混ぜる。
6. 色の変化を観察し、結果を4段階(++,+,±,−)で評価する。
7. 分光光度計で 525 nm の吸光度を測定する。(ブランクは蒸留水でよい)
反応温度と酵素活性
1. 試験管を4本用意し、[0][20][67][100] とマークする。
2. 4本の試験管それぞれに、0.2% デンプン溶液を 2 mL ずつ入れる。
3. 4本の試験管それぞれに、試料 B を 2 mL ずつ加えて混ぜる。
4. 直ちに、[0] を 0℃、[20] を 20℃、[67] を 67℃、[100] を 100℃に移し、10 分間保温する。
保温が終わったら氷水に入れて室温まで冷ます。(冷やしすぎないように注意)
5. 4本の試験管それぞれに、10 mmol/L ヨウ素液を 200 μ L ずつ加えてよく混ぜる。
6. 色の変化を観察し、結果を4段階(++,+,±,−)で評価する。
7. 分光光度計で 525 nm の吸光度を測定する。(ブランクは蒸留水でよい)
高温処理と酵素活性
1. 試験管を2本用意し、[C][H] とマークする。
2. 2本の試験管それぞれに、試料 B を 2 mL ずつ入れる。
3. [H] の試験管を沸騰した湯の中に入れ5分間煮沸する。煮沸が終わったら氷水に入 れて室温まで冷ます。
4. 2本の試験管それぞれに、0.2% デンプン溶液を 2 mL ずつ加えて混ぜる。
5. 試験管を 67℃で 10 分間保温する。保温が終わったら氷水に入れて室温まで冷ます。
6. 2本の試験管それぞれに、10 mmol/L ヨウ素液を 200 μ L ずつ加えてよく混ぜる。
7. 色の変化を観察し、結果を4段階(++,+,±,−)で評価する。
8. 分光光度計で 525 nm の吸光度を測定する。(ブランクは蒸留水でよい)
液性と酵素活性
1. 試験管を4本用意し、[W][W-HCl][B][B-HCl] とマークする。
2. [W] と [B] の試験管に蒸留水を 2 mL ずつ入れる。
3. [W-HCl] と [B-HCl] の試験管に 100 mmol/L 塩酸溶液を 2 mL ずつ入れる。
4. [W] と [W-HCl] の試験管に蒸留水を 2 mL ずつ、[B] と [B-HCl] の試験管に試料 B を 2 mL ずつ加えて混ぜる。
5. 4本の試験管それぞれに、0.2% デンプン溶液を 2 mL ずつ加えて混ぜる。
6. 試験管を 67℃で 10 分間保温する。保温が終わったら氷水に入れて室温まで冷ます。
7. 4本の試験管それぞれに、10 mmol/L ヨウ素液を 200 μ L ずつ加えてよく混ぜる。
8. 色の変化を観察し、結果を4段階(++,+,±,−)で評価する。
9. 分光光度計で 525 nm の吸光度を測定する。(ブランクは蒸留水でよい)
[結果]
*ヨウ素−デンプン反応の色の濃さ、あるいは、吸光度の違いから、酵素活性の強弱 を評価する。
*発芽していない種子、発芽した種子の酵素活性の違いから、発芽時に起こる現象を 考察する。
*それぞれの実験で得られた結果から、アミラーゼの性質を考察する。
[解説]
種子の休眠と発芽
一般に、種子は一定期間の休眠の後、適当な環境条件(水分,温度,光など)が揃 うと発芽する。休眠種子ではアミラーゼは存在しないが、発芽が開始すると植物ホル モン・ジベレリンのはたらきでアミラーゼの合成が起きる。アミラーゼは主に糊粉層 で合成される。このアミラーゼによって、胚乳に蓄積されていたデンプンが分解される。
糖とデンプン(図4. 参照)
デンプンはブドウ糖が長く鎖状に 結合した物質である。アミラーゼ にはα- アミラーゼとβ-アミラーゼ が知られている。α-アミラーゼは、
デンプンのα-1,4 グルコシド結合を ランダムに切断することで、ブドウ 糖や麦芽糖(ブドウ糖2個)を生じ る。一方、β-アミラーゼは、デン プンの非還元性末端からグルコース 2個の単位で切断し、麦芽糖を生じ る。麦芽糖は、さらに他の酵素のは
たらきでブドウ糖に分解され発芽・成長のためのエネルギーとして利用される。
酵素の性質
アミラーゼなどの酵素(生体触媒)はタンパク質であるため、熱によって変性され てはたらきが失われることがある(失活)。さらに、酵素は最もはたらきが良い条件(至 適条件;温度や pH など)が決まっている。α-アミラーゼは 60℃~ 70℃、β-アミラー ゼは 40℃~ 60℃で最大の活性を示す。また、弱酸性から中性(pH 5.2 ~ 6.0)では高 い活性を示すが、強酸性(pH 5.0 以下)や中性からアルカリ性(pH 7.0 以上)では 活性は低くなる。
図 4. ブドウ糖、麦芽糖、デンプンの構造式
「水生植物の細胞の観察(放送大学「顕微鏡で見る動植物の細胞の世界」
から)」
地球上には実にさまざまな生物が存在する。植物・動物に限らず、生物の多様性は水圏 で著しい。植物についても、水中には紅藻(アサクサノリ、テングサの仲間)、褐藻(ワ カメ、コンブの仲間)、緑藻(アオサ、アオノリの仲間)、珪藻などさまざまな系統の植物 が生息する。上陸に成功したのはその中のわずか一つの系統のみである。植物の形も、単 細胞のものから、多くの細胞が集まって数メートルにおよぶ巨大な体を構成するものまで ある。中には活発に遊泳するものもある。本実験では、陸上では日頃目にすることのない 水生の植物群に着目し、その形や細胞を観察する。そして生物の多様性について考える。
[実験の概要]
1. 藻類(海藻)の細胞を顕微鏡で観察する。
2. 微細藻類を顕微鏡で観察する。
3. 水草の細胞を顕微鏡で観察する。
[準備]
必要な器具、試薬などは以下の通り
・顕微鏡 ・ピンセット
・カミソリ ・スライドグラス
・カバーグラス ・濾紙
・パスツールピペット ・駒込ピペット(10 ml)
I. 緑藻(アオサ類)の観察
[方法]
1. スライドガラスの上に緑藻(アオサ類)を置き、カミソリで細く切断する。
2. 新しいスライドガラスに移し、水を1滴加えてカバーガラスをかけて観察する。薄 く切れているサンプルの横断面を観察する。
[結果]
1. 細胞層を観察する。
体が一層の細胞からなるもの → ヒトエグサ 体が二層の細胞からなるもの → アオサ
体が袋状で一層の細胞からなるもの → アオノリ 2. 細胞壁や葉緑体を観察する。
II. 微細藻類の観察
[方法]
1. 淡水池の水をパスツールピペットで吸い取り、スライドガラスに1滴垂らす。
(底に沈んでいる沈殿物を加えると多くの生物が観察できる)
2. カバーガラスをかけて顕微鏡で観察する。
[結果]
1. 藻類の大きさ、形、色を観察する。
2. 活発に運動している藻類を観察する。
緑藻(クラミドモナス)、珪藻、黄金色藻、クリプト藻、ミドリムシなど III. 水草の細胞の観察
[方法]
1. 水草(オオカナダモ)の葉を1枚取り、スライドガラスに移して水を1滴垂らす。
2. カバーガラスをかけて顕微鏡で観察する。
[結果]
1. 細胞の大きさや形を観察する。
2. 葉緑体と原形質流動を観察する。(原形質流動が起こらない場合は、顕微鏡の照明 を当てておくとよい)
[解説]
1. 緑藻(緑色植物門 緑藻綱)
光合成色素としてクロロフィル a とクロロフィル b をもつ。葉緑体は、二重か ら多重のチラコイド膜をもち、外部を二重の膜に包まれる。青色と赤色の光を吸収 する能力が高く、比較的浅い海域に生育する。白色光下では緑色に見える。約 425 属 6500 種が知られている。淡水産のものを緑藻綱、海産のものをアオサ藻綱とし て分類する場合もある。構造は単純で、根、茎、葉などの器官ははっきりと区別で きない。
2. 微細藻類
紅藻、褐藻、緑藻、車軸藻のように大型の植物体を作らず、単細胞で生活する藻 類を指す。数十から数百の個体が群体を作る場合もある。また、鞭毛を使って活発 に遊泳しているものも多い。
灰色植物門、クリプト植物門、渦鞭毛植物門、ハプト植物門、クロララクニオン 植物門、ユーグレナ(ミドリムシ)植物門は、全ての種が微細藻類として存在する。
不等毛植物門の大部分(黄金色藻綱、真正眼点藻綱、ラフィド藻綱、珪藻綱)、緑 色植物門の一部(プラシノ藻綱、ペディノ藻綱、トレボウクシア藻綱など)は微細 藻類として存在する。また、淡水産の緑藻綱の大部分、黄緑藻綱の大部分は微細藻
類として存在する。紅藻、褐藻、緑藻など大型の植物体を作る藻類も、配偶子や接 合子が単細胞で遊泳している場合があり、微細藻類と同様に観察される場合がある。
3. 水草
系統的には種子植物が再び水中での生活に適した植物である。藻類とは異なって、
根、葉、茎がはっきりと分化している。水分・養分を根からだけでなく、体全体か ら取り入れることができる。ガス交換を行う器官である気孔をもたない場合が多い。
[参考]
観察が予想される微細藻類
藍藻 クロオコックスの仲間:
Aphanocapsa
,Microcystis
ユレモの仲間:Lyngbya
ネンジュモの仲間:
Anabaena
珪藻
Aulacoseira
(ヒメマルケイソウ),Cyclotella
(ヒメマルケイソウ),Diatoma
(イ タケイソウ),Cymbella
(フナガタケイソウ),Navicula
(フナガタケイソウ),Gomphonema
(クサビケイソウ),Nitzschia
(ササノハケイソウ)緑藻 ボルボックスの仲間:
Chlamydomonas
ク ロ ロ コ ッ ク ム の 仲 間:
Tetraedron
,Golenkinia
,Ankistrodesmus
,Pediastrum
( ク ン シ ョ ウ モ ),Coelastrum
,Scenedesmus
( イ カ ダ モ ),Selenastrum
接 合 藻 の 仲 間:
Oedogonium
( サ ヤ ミ ド ロ ),Staurastrum
,Micrasterias
,Cosmarium
(ツヅミモ),Pleurotaenium
(コウガイチリモ)「細胞膜の性質(放送大学「顕微鏡で見る動植物の細胞の世界」から)」
細胞は、その全体が細胞膜(原形質膜)で包まれている。膜で細胞内部と細胞外部の 条件が分かれることで、調和のとれた化学系としての細胞が維持されている。代表的な 細胞膜の性質として半透性と選択的透過性がある。半透性とは、溶媒(水)は透過でき るが、溶質は透過できない性質をいう。選択的透過性とは、膜が特定の物質のみを透過 させる性質で、細胞膜にある輸送体が物質の識別を行う。このはたらきのおかげで、細 胞は周囲から必要な栄養素を集めて濃縮し、細胞内で合成した物質を保ち、老廃物を排 出することができる。本実験では、大型の細胞をもつオオカナダモ(
Egeria densa
)の 原形質分離を観察することで、細胞膜の性質を知る。[実験の概要]
1. 植物細胞を原形質分離させ、原形質と細胞壁を顕微鏡で観察する。
2. 細胞膜を介した水の透過が浸透圧差で起こることを実験を通して確認する。
3. 原形質分離には細胞膜の半透性が関与することを実験を通して確認する。
[準備]
必要な器具、試薬などは以下の通り
・顕微鏡 ・ピンセット
・カミソリ ・スライドガラス
・カバーガラス ・濾紙
・パスツールピペット ・ショ糖溶液(0%,5%,10%,15%,20%)
・6% 酢酸 ・食紅
・蒸留水 I. 原形質分離の観察
[方法]
1. オオカナダモの葉を1枚切り取り、20% ショ糖溶液に 10 分間浸けておく。
2. 葉をスライドガラスに移し、20% ショ糖溶液を1滴加えてカバーガラスをかけて 顕微鏡で観察する。
3. 観察が終わった葉を蒸留水に 10 分間浸けておく。
4. 葉をスライドガラスに移し、蒸留水を1滴加えてカバーガラスをかけて顕微鏡で観 察する。
5. 同様にして蒸留水に 10 分間浸けておいた葉についても顕微鏡で観察する。(カバー ガラスをかける際には蒸留水を1滴加える)
(原形質が観察しにくい場合は、食紅に浸けておいた葉を用いるとよい)
[結果]
1. 水に浸けておいた葉と 20% ショ糖溶液に浸けておいた葉にはどのような違いが見 られるか?
2. ショ糖溶液に浸けた後、蒸留水に浸けた葉ではどのような変化が見られるか?
3. 原形質、細胞壁、葉緑体を観察する。
II. 浸透圧と原形質分離
[方法]
1. オオカナダモの葉を1枚切り取り、0%、5%、10%、15%、20% のショ糖溶液に 10 分間浸けておく。
2. 葉をスライドガラスに移し、それぞれの濃度のショ 糖溶液を1滴加えてカバーガラスをかけて顕微鏡で 観察する。
3. 細胞(細胞壁で囲まれた範囲)の長さ(a)と原形 質の直径(b)を、接眼ミクロメーターの目盛を使っ て測定する。(各処理区で 3 個ずつ測定し平均値を求める)
4. b/a の比を原形質分離度として表に記入する。
[結果]
III. 細胞膜の活性と原形質分離
[方法]
1. オオカナダモの葉を1枚切り取り、6% 酢酸に 10 分間浸ける。
2. 葉を取り出し、20% ショ糖溶液に 10 分間浸ける。
3. 葉をスライドガラスに移し、20% ショ糖溶液を1滴加えてカバーガラスをかけて 顕微鏡で観察する。
4. オオカナダモの葉を1枚切り取り、20% ショ糖溶液に 10 分間浸ける。
5. 葉を取り出し、6% 酢酸に 10 分間浸ける。
6. 葉をスライドガラスに移し、蒸留水を1滴加えてカバーガラスをかけて顕微鏡で観 察する。
[結果]
1. 6% 酢酸に浸けた葉では、原形質分離にどのような特徴が見られるか?
[解説]
生体膜には、細胞全体を包む細胞膜(原形質膜)と細胞内で細胞小器官を構成する 膜とが含まれる。生体膜は、リン脂質を主な構成要素とする脂質二重膜からなり、不 完全ではあるが半透性を示す。一般的に、溶媒である水は透過するが、溶質である糖 やアミノ酸は透過できない。そのため、細胞内部より低張の溶液(低張液)に細胞を 入れると、細胞内部に水が流入するため細胞の体積は増加する。逆に、細胞内部より
図 5. 原形質の測定
1. ショ糖の濃度と原形質分離度にはどのような関係があるか?
高張の溶液(高張液)に細胞を入れると、細胞外部へ水が流出するため細胞の体積は 減少する。
動物細胞の場合は、低張液中で体積が増加し続けると細胞が破裂する。植物細胞の 場合は、体積が増加しても、強固な細胞壁があるため一定以上には体積は増加しない。
高張液中では、細胞体積が減少すると原形質が細胞壁からはなれる原形質分離が見ら れる。
細胞膜の半透性や選択的透過性は、活性をもった細胞がもつ性質であるため、酢酸 などで細胞膜を不活性化(固定)すると見られなくなる。
まとめ
植物を取り上げた実験講座の行う際に、植物あるいは植物科学に興味を持ってもらう、
という点を常にねらいの一つとして考えてきた。生物として能力が劣っているわけでは ないのに、動物に比べて動きの少ない植物はどうしても一般の人々からの関心が薄い。
しかし、生態系の基礎であり、食物やさまざまな資材を提供し、多くの有用物質をつく り出し、二酸化炭素も吸収する植物は、やはり軽視することはできない重要な存在であ る。そのことに気づき、親しんでもらうことが、植物科学の発展のためにも必要だと考 えている。そのため、なるべく身近な植物を材料に実験を設定し、帰宅後に家族・友人 との会話の中で取り上げてもらえることを目指した。この点については、追跡調査を行っ ておらず効果のほどは不明であるが、受講生の様子からはその手ごたえを感じている。
実施形態は変化するであろうが、今後もこのような実験講座を続けていければと考えて いる。
謝辞
実験講座を一緒に企画・実施していただいた、田中一朗先生、中村紀雄先生、眞鍋勝 司先生、佐藤友美先生、沓名伸介先生、蟻川謙太郎先生、田沢栄五郎先生、最上則史博士、
佐野弥生子博士、木下充代博士に感謝申し上げます。高校生実習会の企画運営をしてい ただいた財団法人木原記念生命科学振興財団の皆様、神奈川県立高校の石橋篤先生、リ カレント講座やエクステンション講座の企画運営をしていただいた横浜市立大学事務局 の皆様、エクステンション講座の監修をしていただいた篠崎一英先生に感謝申し上げま す。実験講座をTAとして支えていただいた研究室の院生・学生諸君に感謝申し上げます。
文献・資料
1. 田中一朗,中村紀雄,塩田肇,最上則史(2004),「花粉バイオテクノロジー入門」実習書,
木原記念生命科学振興財団
2. 田中一朗,中村紀雄,塩田肇,最上則史(2005),「花粉バイオテクノロジー入門」実習書,
木原記念生命科学振興財団
3. 田中一朗,塩田肇,最上則史,佐野弥生子(2006),「花粉バイオテクノロジー入門」
実習書,木原記念生命科学振興財団
4. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介,佐野弥生子(2007),「身近な植物を使った実験」実習書,
木原記念生命科学振興財団
5. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2008),「身近な植物を使った実験」実習書,木原記念 生命科学振興財団
6. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2009),「身近な植物を使った実験」実習書,木原記念 生命科学振興財団
7. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2010),「身近な植物を使った実験」実習書,木原記念 生命科学振興財団
8. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2011),「植物のタンパク質実験」実習書,木原記念生 命科学振興財団
9. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2012),「植物細胞はたらきとタンパク質」実習書,木 原記念生命科学振興財団
10. 塩田肇,田中一朗(2013),「植物の活動をつくるタンパク質」実習書,木原記念生 命科学振興財団
11. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2014),「植物のタンパク質実験」実習書,木原記念 生命科学振興財団
12. 塩田肇,田中一朗,沓名伸介(2015),「植物タンパク質を知る実験」実習書,木原 記念生命科学振興財団
13. 「科学に興味津々 横浜市大で実習会」,神奈川新聞,2008 年 12 月 28 日
14. 「大学でバイオ実験 横浜 高校生が DNA 抽出」,神奈川新聞,2009 年 12 月 27 日 15. 田沢栄五郎,田中一朗,蟻川謙太郎,佐藤友美,塩田肇(2000),「実験生物学 I」
テキスト,放送大学神奈川学習センター