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コーヒーと循環器疾患 ~コーヒーは高血圧のリスク因子か?~ 原 明義

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1.はじめに

コーヒーは我が国を含め世界中で親しまれてい る嗜好飲料である.コーヒーには 1,000 種類以上の 化合物が含まれているが,なかでも主要成分であ るカフェインはコーヒー 1 杯(150mL)中に 85~

90mg 存在する(Table1).1)全日本コーヒー協会 の統計資料によると,現在日本における 1 人 1 週 間当たりのコーヒー消費量は約 11 杯なので,換算 すると 1 人当たり 1 日平均約 100mg のカフェイン を摂取していることになる.2)

コーヒーやカフェインの生体における作用につ いて,よく知られているのは眠気を軽減する作用

(中枢神経刺激作用)であろう.この作用は,カ フェインが中枢神経系において抑制性神経伝達に 働いているアデノシンの受容体を遮断することに よって生じると考えられている.3)一方,アデノシ ン受容体は血管や心臓,腎臓などの末梢組織にも 広く発現しており,4,5)血管拡張や心筋保護に重要

な役割を演じている.6-8)カフェインは,中枢神経 系だけでなく心臓血管系のアデノシン受容体も遮 断することから,日常的なコーヒーの飲用習慣が 高血圧症や心臓疾患のリスク要因になることが懸 念される.本総説では,コーヒーの血圧に対する 影響を中心に循環器疾患との関連について,最近 の国内外における臨床研究の一端を紹介する.

コーヒーと循環器疾患 ~コーヒーは高血圧のリスク因子か?~

原  明義

Coffee and Cardiovascular Disease: Is Coffee a Risk Factor for Hypertension?

AkiyoshiHARA

DepartmentofClinicalPharmacotherapeutics,FacultyofPharmaceuticalSciences, TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity.

(Received November 20,2020)

Coffeeisawidelyconsumedbeveragearoundtheworld.Caffeine,amajorcomponentofcoffee,actsasanonselective blockerofadenosineA1andA2 receptors;blockadeofA1 receptorswithcaffeineacceleratesthereleaseof catecholaminesfromsympatheticnerveendings,andblockadeofA2receptorsinhibitsthevasodilatoryeffectof adenosine.Thesefactsleadtoaviewthatcaffeineandcaffeinatedcoffeemayaffectonthecardiovascularsystemin additiontothestimulatingactiononthecentralnervoussystem.Infact,manypreviousreportshavedemonstrated thatacuteintakeofcaffeineorcoffeeincreasesbloodpressure(BP)inhumansinEuropeandtheUnitedStates.We alsoobservedthatdrinkingofacupofcoffeeincreasessystolicanddiastolicBPinthenon-habitualcoffeeconsumers inyoungnormotensiveJapanesesubjects.Inthehabitualcoffeeconsumers,however,coffeedrinkingincreasedneither systolicnordiastolicBP.Accordingtothestudiesthattargetedthechronic(long-term)effects,repeatedintakeof caffeineandcoffeehavenoorratheradecreasingeffectonBP,probablybecauseofthedevelopmentoftolerance.In addition,recentepidemiologicalstudieshavedemonstratedthatmildtomoderateintakeofcoffeedoesnotincrease theriskofhypertensionandcardiovasculareventssuchascoronaryheartdiseaseandstroke.Thehabitual consumptionofcoffeemaybenefitonthecardiovascularsystem,althoughitsmechanismisnotfullyunderstood.

Key words── coffee,caffeine,adenosine,bloodpressure,cardiovascularevents

総   説

東北医科薬科大学薬学部薬物治療学教室 e-mail:[email protected]

Table1. Caffeinecontentincoffeeandothercaffeinated beverages.

Beverages Caffeinecontent

(mg/100mL)

Coffee 60

Instantcoffee 57

Gyokuro(玉露) 160

Sencha(せん茶) 20

Roastedgreentea(ほうじ茶) 20

Oolongtea(ウーロン茶) 20

Blacktea(紅茶) 30

PureCocoa(ピュアココア) 6

ThecaffeinecontentwascalculatedfromtheSTANDARD TABLESOFFOODCOMPOSITIONINJAPAN2015(Seventh RevisedVersion);MinistryofEducation,Culture,Sports,Science andTechnology.1)

(2)

2.カフェインの心血管作用の機序

カフェインにはアデノシン受容体遮断作用,ホ スホジエステラーゼ阻害作用,筋小胞体からの Ca2+遊離作用などが動物実験で認められている9)

が,ヒトにおけるカフェインの心血管作用は主に アデノシン受容体の遮断によって生じると考えら れている.10)

(1)アデノシン受容体遮断作用

アデノシンは,アデノシン三リン酸(ATP)の 分解産物として細胞外に放出され,心血管系を含 め多くの組織の細胞膜表面に存在する受容体を介 して多彩な生理活性を示す.アデノシン受容体は,

A1,A2A,A2B,A3といった 4 つのサブタイプに分 類されるが,心血管組織には主に A1受容体と A2

受容体が分布している.4,5)A1受容体は主に心筋や 刺激伝導系に存在し,その刺激は Gi/o 蛋白を介し て心拍数減少や房室伝導抑制に働く.A2受容体は アデノシンに対する親和性の違いから,A2A(高親 和性)と A2B(低親和性)に分けられる.5)いずれ の A2受容体も末梢血管や冠動脈に存在し,その刺 激によりアデニル酸シクラーゼ−サイクリック AMP 系が活性化され血管平滑筋の弛緩を引き起こ す.4,5)

カフェインは,4 つの受容体サブタイプのうち A1受容体と A2受容体に対する作用が強く,なか でも A2A受容体をμM レベルの低濃度で遮断する

(Table2).コーヒーを 1 杯飲用しただけでも,血 漿中のカフェイン濃度は 2.5~10μM に到達するこ とから,通常のコーヒー飲用によってアデノシン 拮抗作用が十分現れる可能性がある.9)

(2)その他の作用

カフェインには,ホスホジエステラーゼを阻害 して細胞内サイクリック AMP を高める作用や,

筋小胞体からの Ca2+遊離を促進する作用がある.

しかし,これらの作用発現には極めて高濃度(数 百μM~mM)のカフェインが必要9)なので,通常 のコーヒー飲用では生じないと考えられる.また,

カフェインの急性投与は,傍糸球体細胞からのレ ニン分泌を促進することも報告されている11)が,

それに否定的な見解12,13)もあり,レニン−アンジ オテンシン系に対するカフェインの作用について は明らかでない.

3.血圧に対するコーヒーの急性作用

カフェインの急性摂取により,血圧が一過性に 上昇することが認められている.この昇圧作用は,

カフェインがアデノシン A2A受容体を遮断するこ とにより,血管収縮が生じ全末梢血管抵抗が増大 することによると考えられる.14)

Nurminen らの報告10)によると,200~250mg のカフェインを正常血圧者に投与した場合,収縮 期血圧は 3~14mmHg 上昇し,拡張期血圧は 4~

13mmHg 上昇するという.このカフェイン量は コーヒー 2~3 杯分に相当するが,実際,コーヒー を 2 杯飲用すると収縮期血圧は 3~5mmHg 上昇 し,拡張期血圧は 4~11mmHg 上昇する.10)興味 深いことに,カフェインやコーヒーによる昇圧反 応は,日常のコーヒーの飲用頻度に依存しており,

コーヒーの飲用習慣がない者で顕著にみられる.

このようなコーヒーの心血管作用に関する研究は,

コーヒー消費量の多い欧米で盛んに行われている が,国内での研究例は極めて少ない.

我々15)は,コーヒーが日本人の血圧に影響を及 ぼすかどうか,さらにその急性作用が日常のコー ヒー飲用習慣によって影響を受けるかどうかを検 討した(Fig.1).正常血圧の若年者(20~22 歳)

136 名を,コーヒーの飲用回数が週 3 回以上の者

(コーヒー常飲者)と週 3 回未満の者(コーヒー非 常飲者)の 2 グループに分け,それぞれ 1 杯分

(150mL)のインスタントのコーヒーまたはカフェ イン抜きコーヒーを二重盲検にて無作為に飲用さ せた.コーヒー非常飲者にコーヒーを飲用させる と,その 30 分後にはカフェイン抜きコーヒー飲用 群(対照群)に比較して収縮期血圧と拡張期血圧 の有意な上昇がみられた.90 分後には,対照群よ り各々7mmHg,3mmHg 高値となり,血圧上昇 はより顕著となった(Fig.1A).同様の昇圧反応 は,カフェイン抜きコーヒーに市販のカフェイン を添加した場合においても認められた.16)これら の事実は,コーヒー飲用後の急性昇圧反応はカ フェインによって生じることを裏付けるものであ る.実際,カフェインまたはコーヒーの摂取後の Table2. Potencyofcaffeineatadenosinereceptor

subtypesinhuman.9)

Subtype Kd(μM)

A1 12

A2A 2.4

A2B 13

A3 80

(3)

血圧と血漿中カフェイン濃度と間には相関があり,

両方とも摂取 60~90 分後に最大になるとされてい る.17-19)

カフェインによる急性昇圧反応は,性別による 違いはみられない10,20)が,一般に若年者よりも高 齢者において著しく,10,21)正常血圧者よりも高血 圧者において著明に認められる.10,22)しかし,

コーヒーの飲用習慣がなければ,正常血圧の若年 者であっても,またわずか 1 杯分のコーヒーで あっても一過性の血圧上昇が生じうる.15)血圧測 定前には,アルコールやタバコといった血圧に大 きな影響を及ぼす嗜好品だけでなく,コーヒーな どのカフェイン含有飲料の摂取も避けるべきであ ろう.

一方,コーヒー常飲者にコーヒーを飲用させた場 合,収縮期血圧と拡張期血圧は 90 分間にわたって ほとんど上昇しなかった(Fig.1B).すなわち,欧 米における研究成績と同様,コーヒー非常飲者でみ られたカフェインの急性昇圧作用は,コーヒー常飲 者では認められなかった.これはカフェインに対す る耐性が出現したためと考えられる.17,23,24)カフェ インを連日投与した場合,その昇圧作用は初回投

与後数日以内に減弱する.17,23,24)ただし,耐性は部 分的であるために,昇圧反応は完全には消失せず,

ある程度生じるという.25,26)カフェイン耐性のメカ ニズムは明らかでないが,アデノシン受容体が持 続的に遮断されることにより,受容体のアップレ ギュレーションが生じることが想定されている.27)

4.血圧に対するコーヒーの慢性作用

カフェインやコーヒーの急性摂取によって,血 圧が上昇することはほぼ一致した見解であるが,

コーヒーを慢性的に飲用すると血圧にどのような 影響が生じるのであろうか? 前述したように,カ フェインには耐性が生じるものの,それは不完全 である.そのため,コーヒー飲用習慣の程度に よっては,高血圧症やその合併症のリスクが高ま ることも懸念される.拡張期血圧が 5mmHg 上昇 すると,脳卒中の発症率が 34%上昇し,冠動脈疾 患の発症率が 21%上昇するといわれている.28)

そこで,コーヒー飲用習慣と血圧との関係につ いて,多くのコホート研究や無作為化対照試験が 行われてきたが,習慣的なコーヒー飲用は,血圧 を上昇させるという報告27,29,30)がある一方,影響を Fig.1.Changesinsystolicbloodpressure(SBP)anddiastolicbloodpressure(DBP)afterdecaffeinatedcoffee(placebo

group:●)andcaffeinatedcoffee(caffeinegroup:●)intakeinnon-habitual(A)andhabitual(B)coffeeconsumers.

136youngnormotensiveJapanesesubjectswererandomizedinthisdouble-blind,placebo-controlledstudy.Thesubjectswerefirst dividedinto84non-habitualand52habitualcoffeeconsumersandfurthersubdividedintoplaceboandcaffeinegroups(n=40forthe placebogroupand44forthecaffeinegroupinnon-habitualcoffeeconsumers;n=24fortheplacebogroupand28forthecaffeinegroup inhabitualcoffeeconsumers).Intheplacebogroup,theyhadacupofdecaffeinatedcoffee,whereasinthecaffeinegrouptheyhadacup ofcaffeinatedcoffee.P<0.05comparedwiththeplacebogroup(Ref.15).

(4)

Table3.Summaryofmeta-analysesontheeffectsofcoffeeorcaffeineconsumptiononbloodpressureortheriskofhypertension. ReferenceStudydesignNo.ofsubjectsTreatmentsDurationOverallassociations(95%confidenceinterval) Jeeetal.(1999)41RCT(n=11)522Coffee(3−8cups/day)14−79daysChangeinSBPwithcoffee:+2.4mmHg(1.0−3.7)↑ ChangeinDBPwithcoffee:+1.2mmHg(0.4−2.1)↑ Noordzijetal.(2005)42RCT(n=18)1,010Coffee(450−1235mL)9−79daysChangeinSBPwithcoffee:+1.22mmHg(0.52−1.92)→ ChangeinDBPwithcoffee:+0.49mmHg(-0.06−1.04)→ Noordzijetal.(2005)42RCT(n=7)159Caffeine(295−750mg)7−84daysChangeinSBPwithcaffeine:+4.16mmHg(2.13−6.2)↑ ChangeinDBPwithcaffeine:+2.41mmHg(0.98−3.84)→ Steffenetal.(2012)43RCT(n=10)913Coffee(2−6cups/day)6−16weeksChangeinSBPwithcoffee:-0.55mmHg(-2.46−1.36)→ ChangeinDBPwithcoffee:-0.45mmHg(-1.52−0.61)→ Zhangetal.(2011)44Cohort(n=6)172,567Coffee(1−5cups/day)6.4−33yearsRiskofhypertension 1−3cups/dayvs.<1cup/day:RR1.09(1.01−1.18)↑ 3−5cups/dayvs.<1cup/day:RR1.07(0.96−1.20)→ >5cups/dayvs.<1cup/day:RR1.08(0.96−1.21)→ Steffenetal.(2012)43Cohort(n=4)1,467,130Coffee(1−8cups/day)6.4−33yearsRiskofhypertension Higherintakevs.lowerintake:RR1.03(0.98−1.08)→ Xieetal.(2018)45Cohort(n=10)243,869Coffee(1−8cups/day)3−33yearsRiskofhypertension 1cup/dayvs.nocoffee:RR0.98(0.98−0.99)→ 2cups/dayvs.nocoffee:RR0.97(0.95−0.99)↓ 4cups/dayvs.nocoffee:RR0.95(0.91−0.99)↓ 6cups/dayvs.nocoffee:RR0.92(0.87−0.98)↓ 8cups/dayvs.nocoffee:RR0.90(0.83−0.97)↓ DEliaetal.(2019)46Cohort(n=4)196,256Coffee(1−7cups/day)3−33yearsRiskofhypertension 1cup/dayvs.nocoffee:RR1.00(0.99−1.01)→ 2cups/dayvs.nocoffee:RR0.99(0.97−1.02)→ 3−4cups/dayvs.nocoffee:RR0.97(0.94−0.99)↓ 4−5cups/dayvs.nocoffee:RR0.94(0.91−0.97)↓ 5−6cups/dayvs.nocoffee:RR0.90(0.86−0.93)↓ 6−7cups/dayvs.nocoffee:RR0.86(0.82−0.91)↓ RCT:randomizedcontroltrial;SBP:systolicbloodpressure;DBP:diastolicbloodpressure;RR:relativerisk ↑:statisticallysignificantincrease;↓:statisticallysignificantdecrease;→:statisticallyinsignificant

(5)

及ぼさないという報告31-34)や,むしろ高血圧のリ スクを低下させるという報告35,36)もあり,この疑 問に対する明確な結論は得られていない.同様に,

コーヒーの長期飲用を中止することによって,血 圧が低下したという報告37-39)と変化しないとする 報告40)がある.

こうした状況のなか,いくつかの介入研究をま とめたメタ分析の結果が報告された.Table3 に示 すように,長期間のコーヒー飲用が血圧を上昇さ せるという見解もあるが,その血圧上昇の程度は わずかであり,41)多くの報告では血圧を上昇させ ないと結論づけている.42-46)特に,約 20 万人の データを用いた最近の 2 つのメタ分析によると,1 日 2 杯以上のコーヒーは高血圧の発症に影響しな いか,むしろそのリスクを低下させるという.45,46)

また,Noordij ら42)によるメタ分析の結果も興味 深い.彼らは,血圧に及ぼすコーヒー(1 日平均 725mL)とそれに相当する量のカフェインの錠剤

(1 日平均 410mg)の影響を比較したところ,カ フェインの連日服用は収縮期血圧を 4.2mmHg 上 昇させるが,コーヒーを常飲しても血圧に対する 影響はほとんどないことを認めた.コーヒーには,

クロロゲン酸などの降圧作用や抗酸化作用を有す るポリフェノールも豊富に含まれることから,47-49)

これらの物質がカフェインの作用を打ち消してい るのかもしれない.50)いずれにせよ,適度な量の コーヒー飲用はカフェイン自体の摂取とは異なり,

高血圧のリスクを高めないようである.

5.コーヒーと動脈硬化性疾患

冠動脈疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患の危 険因子には,高血圧症のほか脂質異常症や糖尿病 などが挙げられる.前述したように,通常量の コーヒーを習慣的に飲用しても高血圧症には至ら ない.また,脂質代謝との関連については,以前 にコーヒーが総コレステロールや LDL コレステ ロール,トリグリセリドを増加させることが報告 されたが,これは無濾過のコーヒーでの結果であ り,濾過したコーヒーは血清脂質に影響を及ぼさ ないことが知られている(コーヒー豆に含まれる コレステロール増加成分のジテルペン類がフィル ターで除去される).51,52)

近年,コーヒーの糖尿病に対する効果が注目さ れている.28 の前向き研究をまとめたメタ分析に よると,コーヒーは 1 日の飲用量に依存して 2 型

糖尿病の発症リスクを低減させる.ただし,同様 の糖尿病発症予防効果は,カフェイン抜きコー ヒーでも認められるので,カフェイン以外のコー ヒー成分(クロロゲン酸など)が関与している可 能性がある.53)

これらの事実から,コーヒーは動脈硬化性疾患の 予防に有益であると推測されるが,前述したように アデノシンには冠動脈拡張作用があり,また心筋へ の直接作用によって虚血心筋障害を軽減する作用も 有している.6-8)さらに,虚血性・出血性脳血管障 害から脳を保護する作用が認められている.54) れでは,アデノシン受容体を遮断するカフェインも しくはコーヒーは,冠動脈疾患や脳卒中のリスクに どのような影響を及ぼすのであろうか?

最近,心筋梗塞発症リスクに対するコーヒーの 影響を検討した 17 の研究をまとめたメタ分析が報 告された.55)1 日 2~3 杯のコーヒーは発症リスク を増加させないが,1 日 4 杯以上ではリスクを有意 に増加させることから,冠動脈疾患のある患者で は 1 日 3 杯を超えるコーヒー飲用を控えるべきと している.ほかにもコーヒーの冠動脈疾患発症リ スクを検討したメタ分析がいくつか発表されてい るが,そのほとんどがコーヒーは発症リスクを増 加させないと結論づけている.56)一方,コーヒー が冠動脈疾患リスクを減少させることを示唆した 報告も存在する.36 の前向きコホート研究をまと めた Ding らのメタ分析57)によると,コーヒー飲 用頻度と冠動脈疾患の間には非線形(U 字型)の 関係があり,コーヒーをほとんど飲まない群と比 較した相対リスク(95%信頼区間)は,1 日平均 3.5 杯のコーヒー飲用で 0.85(0.80−0.90)と最も低 く , 1 日 平 均 1.5 杯 と 5 杯 で は そ れ ぞ れ 0.89

(0.84−0.94)および 0.95(0.80−0.90)であったと いう.

彼らはコーヒー飲用頻度と脳卒中リスクとの関 連についてもメタ分析を行っており,冠動脈疾患 リスクに対する効果と同様,1 日平均 3.5 杯のコー ヒー飲用によってリスクが最も低く 0.80(0.75−

0.86)となり,1 日平均 1.5 杯と 5 杯ではその効果 が減弱したと報告している.57)同様の結果は,11 の前向き研究をまとめた別のメタ分析58)や国内で 行われたコホート研究59)においても認められてお り,これらの報告によると,いずれも 1 日 3~4 杯 のコーヒー飲用が脳卒中リスクの軽減に最も効果 的である.

(6)

このように報告者のあいだに若干の違いがある ものの,脳・心血管の健康を考慮すると,1 日の コーヒー摂取量は 4 杯以下が適度といえよう.

6.おわりに

コーヒーは一過性に血圧を上昇させるが,高血 圧症や心臓疾患のリスク因子である確たる証拠は なく,むしろ適度なコーヒー飲用習慣がこれらの 疾患の予防につながるようである.最近では,

パーキンソン病60)や肝がん61)などに対する予防 効果を示した研究報告も見受けられる.しかし,

これらの効果の詳細はまだ多くの点で不明である.

コーヒーには主要成分のカフェインだけでなく,

生理活性を示す様々な成分が含まれるために,そ の作用は複雑なのであろう.急性的にはカフェイ ンの作用が強く現れ,慢性的にはカフェインの作 用が耐性により減弱し,代わりにポリフェノール などの成分が有益な作用を発揮するのかもしれな い.50)したがって,コーヒーの作用をカフェイン の作用と同一視することはできないが,コーヒー の生体作用を考察するには,多様な薬理作用を持 つカフェインの影響を無視できない.カフェイン の作用に偏った解説になったことをお許しいただ きたい.コーヒーに比較すると,紅茶や緑茶の心 血管作用に関する報告は少ない.今後,本領域の さらなる研究・解析が期待される.

謝辞 アデノシンの心血管作用に関する基礎 研究は,旭川医科大学名誉教授安孫子保先生,金 沢医科大学教授石橋隆治先生から多くのご指導と ご助言をいただきました.この場を借りて衷心よ り感謝申し上げます.また,血圧に対するコー ヒーの影響を検討するにあたり,多大なご協力を 賜りました国際医療福祉大学薬学部の天野託前教 授,宮川和也准教授,中谷善彦講師,大出浩子助 手および竹内智子前助教に深く感謝申し上げます.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

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参照

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