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中山弘正『現代の世界経済』(岩波書店、 2003年)

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中山弘正『現代の世界経済』(岩波書店、 2003年)

著者 岡田 裕之

雑誌名 PRIME = プライム

号 18

ページ 69‑76

発行年 2003‑10

URL http://hdl.handle.net/10723/562

(2)

冷戦の終結、 ソ連邦の崩壊と米ソ (ロ) 核対立 の減衰、 資本主義か社会主義かの体制選択と優劣 の争いの終わりは、 一つの大きな時代の終末を告 げた。 湾岸戦争から旧ユーゴ解体にともなう内戦 の90年代は冷戦とは異なる時代の始まりを示唆し たが、 それがいかなる特徴を備えた時代であるか を一義的に示すには至らなかった。 だが、 2001年 9・11テロ後のアフガン報復戦争から本年の対イ ラク戦争まで来ると、 世界の政治経済の事態はき わめて特徴的な、 冷戦期とはくっきり区別される、

新しい時代に入った事実を明らかに示すに至る。

そこに登場したのは、 国連を無視しNATO分 裂をも辞さない、 ましてや体制移行にあるロシア や中国の大国も顧慮しない、 唯一の超大国となっ たアメリカの政治的・軍事的な一方的な支配がま かり通る世界であった。 独立・人権・民主・自由・

繁栄をかかげながら世界に君臨するこの新しい

「アメリカ帝国」 とはいかなるものか。 冷戦期に ソ連とは何か、 体制対立とは何かが社会科学に突 きつけられた重い課題であったとすれば、 自由・

民主のアメリカ帝国とは何か、 は社会科学に回答 を迫る現代の喫緊の課題である。 本書は冷戦期の ソ連研究、 移行期のロシア経済研究に多くの業績 をあげた著者がこの新しい課題に挑戦し、 この構 造を歴史の時系列と世界経済の広域連関から解剖 する試みである。

本書は、 はじめに戦間期 (第一次・第二次大戦 にはさまれた時期) を論じる序章を置き、 19世紀 央にイギリスを中軸とした世界経済統合体が形成 され、 それが世紀末のドイツの挑戦から第一次大 戦という統合体の分裂が起こり、 ロシア革命によ り世界市場経済のもうひとつの分裂が生じる、 と 起点を定める。 アメリカはこの戦間期に産業大国 として登場し、 大衆消費に立つ証券資本主義を生 み出し、 債権国となって世界経済の支配的な一主 体となる。 1930年代の世界経済は英独仏日のブロッ ク経済に分裂、 深刻な不況に襲われたアメリカも ニューディールから軍需生産の活況に危機からの 脱出を図る。 「地球帝国」 の誕生である。 この先 進国間の分裂と資本主主義・社会主義の体制間分 裂の 「二重の分裂」 が、 ソ連の膨張とアメリカの 対抗という冷戦の経過を通して 「地球帝国アメリ カ」 の主導する世界経済の 「再統合」 が生じる、

と論じて全篇の展望を示す。

第一部歴史篇は4章からなり、 1945年の第二次 大戦の終了から1980年代までの世界政治経済の歴 史を、 米主導の資本主義・ソ連主導の社会主義の 体制間対立の観点から要点を絞って分析する。

第1章 「社会主義の広がり」 では、 日本の真珠 湾攻撃を契機にアメリカは世界制覇を志向し、 戦 後アメリカは戦敗国日独はもちろん惨勝国英仏ソ

中山弘正 現代の世界経済 (岩波書店、 年)

岡 田 裕 之

(法政大学名誉教授)

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中に対しても無傷の戦勝国として資源・工業・農 業・人力を持つ圧倒的な世界パワーとなり、 ドル とアメリカ文明の支配する世界を作り上げる。

しかしソ連の対独戦勝利は東欧の衛星国化を生 み、 共産中国とともに社会主義圏を形成する。 ア メリカもまた東アジア諸国を反共の衛星国とし、

全面的な冷戦に入る。 同時にアジア・アフリカ諸 国の独立が続き古くからの本国―植民地支配の帝 国主義支配体制は終わるが、 独立諸国は旧宗主国 との紐帯を維持するものと社会主義型の計画工業 化に向かうものとに分かれる。 戦争直後には先進 国にも共産勢力が進出したが、 50年代にはスター リン批判、 ハンガリー事件などから共産主義への 幻滅が広がる。

第2章 「経済成長競争とヴェトナム戦争」 では、

日本の高度成長と日米産業競争力・経常収支の逆 転から、 冷戦の頂点とも言うべきヴェトナム戦争 の諸相を究明する。 敗戦の日本は50年の朝鮮戦争 特需を好機に戦前の経済水準をとりもどし、 さら に50〜60年代に高度成長の時代に入り大衆消費を 実現しながら65年には日米経常収支は日本の黒字 に逆転し、 以後その黒字傾向は定着する。 アメリ カの経済力は相対的に後退していく。

世界政治の観点からはヴェトナム戦争はいかな るものであったか。 ヴェトナム戦争はフランスか らの独立を獲得した北ヴェトナム共産勢力の拡大 と、 南北ヴェトナムの民族独立運動が表裏一体と なって進行する事態を、 「共産主義膨張」 の事態 と認識してこれを阻止しようとする 「地球帝国」

の軍事介入により生じたが、 70年代初頭アメリカ の撤退により終了する。 これは帝国側の敗北であ るが内部に反戦運動を許し 「撤退」 の意思決定を 行うだけのダイナミズムの証左でもある。 この戦 費支出によるドルの流出・アメリカ金準備の減少 は 「ドル危機」 を激化し、 70年代初頭ついに固定 相場の通貨体制 (1ドル=135オンス金に固定)

は崩壊する。

第3章 「オイル・ショック、 スタグフレーショ ン、 膨張するソ連」 は、 ドル減価に反発したOP ECの石油価格4倍引き上げの衝撃により先進諸 国の経済はスタグフレーションに陥って高成長は 終り、 後退するアメリカに代わって資源・軍事大 国ソ連がアフリカ・中南米に進出する70年代を描 く。

石油価格はさらに高騰10倍近くなり外貨はOP ECに累積するが、 石油輸出諸国は人材・教育の 不足、 技術・文化の欠陥からこの資金を生産力向 上にむけて使用できず、 ゆがんだ産業化や軍事化 に費やした。 反対に失業とインフレのスタグフレー ションに苦しんだ先進諸国は省力・省資源につと め鉄鋼・造船・重電機・石油化学などの 「重厚長 大」 産業から、 大型車より小型車、 電子産業を軸 とするコンピューター化、 オフィスオートメ化を 実現して 「軽薄短小」 の産業構造に転換する。 日 本はこの転換に最も成功した国で国民経済の競争 力を強化してさらにアメリカ経済を脅かす。 反対 にソ連はじめ社会主義諸国はこの転換に決定的に おくれる。

アメリカ撤退のあとヴェトナムに進出したのは ソ連だった。 79年にはソ連はアフガンに侵攻する。

ソ連の友好国援助は急増し、 独立したアフリカ諸 国への内戦軍事介入から物的援助とその世界的な 勢力膨張は顕著になる。 同時に中ソの覇権対立も アフリカを舞台に激化する。 ソ連はまたキューバ 危機 (1962年) を屈辱とし、 アメリカとのミサイ ル劣位から互角を求めICBM・SLBMを増強 する。 この膨張は80年代レーガン期の 「反共帝国 精神」 を刺激する。

70年代の特徴は東アジア途上国と中南米諸国の 工業化であるが、 西側金融資本の 「貸し込み」 が 累積債務となり政治混乱に陥ったのは中南米地域 だった。 対照的にアジアNICsの四匹の竜、 香 港・韓国・台湾・シンガポールは産業構造の高度 現代の世界経済

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化、 外資による輸出増大により高成長に入るが、

この成長は対米輸出に依存していた。 東アジアは 90年代 「世界経済の成長センター」 となるがこの 脆弱性をまぬかれなかった。

第4章 「冷戦のゆきづまり」 は、 レーガノミク スとペレストロイカ、 米ソの80年代の主要事項を 扱い、 冷戦の終結を説明する。 レーガンの時代は 国防費の増大・ハイテク軍拡とキリスト教原理主 義の時代であった。 アメリカは 「悪の帝国」 ソ連 の膨張に対抗するためヴェトナム戦争以後GDP の5%に減少していた国防費を6%に引き上げ、

SDIはじめハイテク兵器の装備に努める。 この ため経常収支赤字に加えて財政赤字が拡大、 高金 利を招き、 資本を世界から引き寄せながら産業投 資は減退する。

他方、 ソ連の政治経済は長年の集権的計画経済 のもとで 「停滞」 に陥り改革が求められてゴルバ チョフ政権が成立し、 ペレストロイカを提唱し、

ザスラフスカヤら改革派が提案していた市場メカ ニズムの導入に本格的に取り組み、 冷戦の軍拡競 争を打ち切り、 経済立て直しにかかる。 ゴルバチョ フは同時に情報統制を解きメディアの自由と政治 の複数化を認めたが、 これは拙速だった。 ソ連邦 はバルトの共和国独立採算論から諸共和国の独立 要求, ソ連共産党の解体から崩壊に至る。 冷戦は 終わる。

ECは引き続き通貨統合から完全市場統合への 道をすすみ、 中欧における戦術核配備をめぐって 東西ドイツの反核運動が盛んになる。 アフガン撤 兵・冷戦解体のなか強固な 「ベルリンの壁」 も89 年に崩れ、 90年ドイツは再統一を実現する。 石油 価格は80年代後半下落にむかいOPECの戦略は 失敗する。 ソ連は石油価格上昇を好機とし石油輸 出を拡大して膨張援助や軍事化の費用に宛てた。

これは貿易構造を悪化させ近代化投資を削減する。

日米貿易関係では日本側の黒字はますます深刻化

し、 アメリカ側の貿易赤字の40にも達する、 ア メリカにとっては政治軍事での脅威はソ連であり 経済での脅威は日本であった。

第5章から終章までは第二部構造篇で、 こうし た歴史から成立した地球帝国アメリカの世界支配 を4つの広域から分析して、 その地球連関の構造 を示す。

第5章は 「アメリカ」 であり本書の中心とも言 える部分である。 90年代のアメリカの経済は債務 激増・地盤沈下の前半と再生・好況の後半できわ めて対照的な動きを示す。 前半は貿易収支・経常 収支赤字が構造化して産業の国際競争力の減退を 示し、 対外債務は95年に7737億ドルとなり、 反対 に日本は3000億ドルの債権国となる。 財政赤字も レーガン政権後も増え続け94年に2013億ドルとな る。 もっとも産業競争力では電機・自動車・機械・

鉄鋼などは劣位だが、 情報関連・航空・宇宙産業 から先端技術ではあいかわらずぬきんでている。

貯蓄・投資バランスではアメリカの低貯蓄・低投 資と日本の高貯蓄・高投資の対比は鮮明であった。

ただハイテク部門でもアメリカを追い上げた日本 はすでに80年代後半のバブルは崩壊、 自滅の様相 を呈し、 高貯蓄・低投資・資本流出の状況に入る。

中期から90年代末から2000年代初、 産業の再生 と 「平和の配当」 による好況にわくアメリカは、

ソ連につづく日本の自滅によって二つの脅威を斥 け、 唯一の超大国となり 「地球帝国」 の力を誇る。

国防費はGDP比5%から3%に減り投資は増加 し (ディグラス曲線)、 軍需産業から人材はハイ テク産業に転換する。 こうした軍民転換の成功は 失業の減少、 雇用の増大となり、 さらには貯蓄 (内部留保) 増・投資増の好循環を招く。 競争力 劣位の製造業も再生に成功し、 対日競争力を再逆 転し、 先端技術の優位をいっそう強め、 コンピュー

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ター関係のハイテク新産業 (IT産業) が成長を 主導する。 97年株価は3000ドル (91年) から8000 ドルに高騰さらに上向き、 自動車・土地・消費と

「鼻うたの止まらない」 (ビジネスウイーク誌) 好 景気である。

しかしこの一極覇権を支えるアメリカ経済はそ の繁栄のうちに大きな矛盾と不安を含んでいる。

上昇する株価は98年4月9000ドル台に達したがそ の秋ロシア金融危機にヘッジファンドの巨額損失 が生じ、 急落する。 アメリカ銀行業の世界制覇は でデリバティブなどの投機取引の盛行に支えられ る。 アメリカ証券資本主義のグローバル化である。

株価は99年10000ドルを越す。 産業の再生、 再逆 転は好況の持続と利潤・賃金増から消費増をもた らし富の集中を結果する。 アメリカにおける土地 の広さは豊かな人々の住居や耐久消費財の過剰消 費を生み、 投資増・消費増はよりいっそうの外国 からの資本流入を招く。 「新しい消費」 は家計貯 蓄を時にゼロ以下に引き下げるが、 所得上層の貯 蓄率は変わらない。 所得格差の拡大は著しい。 劇 的な富の増加は一部に集中する。 低学歴者・移民 層は失業と貧困に苦しむ。

第6章 「アジア諸国」 は、 アジア通貨危機とN IEs・ASEANから始めてその成長の不安定 性を強調する。 これら諸国は70年代以来高貯蓄・

外資・日米への輸出により高成長を記録し、 近年 対米輸出依存から域内貿易の増加の傾向を示して いた。 しかしこの成長は為替レートの実質ドル・

リンクにより維持されていたもので金融市場のバ ブルを伴った。 97年後半ヘッジファンドの通貨売 りから通貨安・株価安の金融危機に陥り、 通貨の 大幅切り下げとインフレに襲われる。 危機は99年 には克服されたが、 そこにはクルーグマンの旧ソ 連型の成長 (生産性増大の無視) の批判があては まる。 そこにキャッチアップ工業化における国家 主導の権威主義の開発体制の矛盾があり、 民主化

もほど遠い。

日本はかっての10を超える高成長の時代から 90年代には1〜2からときにはマイナスとなり

「制度疲労」 は顕著である。 明治以来の日本の権 威主義の開発体制はゆきづまり、 ここにバブル崩 壊・大恐慌・長期低迷の時代を迎える。 困難を加 速するものに老齢化・失業増・国家債務増があり、

デフレによる企業と銀行の収益減・債務増が著し い。 ここで著者は故橋本寿朗氏の 「賃金増・利潤 圧縮」 の仮説を紹介しつつ、 すすんで日本経済の 困難は規制緩和・市場競争促進の 「市場至上主義」

では解決できない、 「暗」 に耐えるとともに経済 の窮境の軍事的打開にはしらぬように、 と警告す る。

中国は8%の高成長により日本と異なるのみで なく回復基調のほかのアジア諸国にくらべてもひ ときわ好調である。 輸出と成長を牽引するのは膨 大な外資だが、 「世界の工場」 となる最大因は対 日比 120 〜 115の低賃金で、 これが学習能力と 結合するときの高い競争力となり外資を魅きつけ る。 広大な地域と人口から成る、 東西・南北に格 差の広がる中国の成長において華東が大きく突出 している。 また農家人口が8億から9億へ増加し ている事実もある。 同時に低迷日本の特徴である デフレは中国でも生じており企業間の不良債務は 深刻である。

第7章 「ヨーロッパ諸国」 は、 1957年のEEC から67年EC、 73年英国加盟、 90年東西ドイツ統 一を経て、 93年EU統合から95年のEU15国体制 となる過程を説明する。 これは東西冷戦の産物で あったが国民国家以前のキリスト教共同体の相互 宥和の面もあった。 日本・アメリカ・西欧 (英仏 独) の統計数値を比較すると、 80年代は年成長率 36・24・16、 失業率25・78・96で、 90年代は 年成長率02・42・24、 家計貯蓄率175・56・09 (英) 92 (独)、 社会保障費/374・367・

現代の世界経済

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486 (英) 620 (仏) 543 (独)、 財政赤字 998・米欠・495 (英) 466 (仏) 360 (独) であ る。 西欧は高失業だが高貯蓄・高負担・高福祉の 特徴があり、 90年代日本の低迷に比べて成長を回 復し、 共通通貨ユーロと産業内貿易に結合し東欧 を包摂してアメリカに次ぐ世界の巨人である。 日 本の急転停滞、 アメリカの激動再生、 統合ヨーロッ パの安定といった特徴がある。

第8章 「ロシア・アフリカ・中南米など」 はロ シアに別の著作があるので略して直ちに終章 「地 球帝国の終焉、 世界経済の行方」 に移る。 終章は 著者の予見であり地球帝国の運命の断定である。

アメリカの一極支配が明瞭な今日、 アメリカが決 定しその他の諸国がこれに追随する世界がどこま で続くか。 著者の結論は明快で、 横暴な地球帝国 没落 はすでに始まっている、 と言う。 バブ ルの崩壊、 デフレと不況、 拡大する不平等は長期 不況に沈み行く 「地球帝国」 の末路である。 結び は ヨハネ黙示録 (第8章) の 「苦よもぎ (チェ ルノブイリ)」 による大量死、 雷鳴・地震・洪水・

火災、 太陽と月と星の破滅そして神・キリス トによる救済である。 これは巻頭の マルコによ る福音書 (第26章) の 「剣をとる者はみな剣で 滅びる」 を締めくくる。 著者はここにレーニンの ごとくエレミヤのごとく預言者として立つ。

ここに紹介したように本書は、 現在の世界経済 を、 世界経済統合体の形成―分裂―再統合の観点 から、 グロバリゼーションを主導するアメリカ証 券資本主義という 地球帝國 の形成と没落を主 張する、 独創的でかつ予言的なものである。

冷戦終結後を説明する覇権論から帝國論への展 開は9・11以後の現在では定説とも言えるが、 そ れが二回の世界大戦と米ソ体制間対立の冷戦の歴 史過程を前提として始めて説明可能となるとする

「分裂と再統合」 の観点は、 充分にオリジナルで ある。 これは著者が専門家とし取り組んできた旧 露・ソ連・移行ロシアについての学識を前提とす るもので国際的にも他の追随を許さない。 本書の 意義はまずここにあると信じる。

つぎの特徴は 「帝國没落」 論であるが、 これは 未熟で大胆な断言である故に議論の素材を豊富に 提供する。 ヨハネ黙示録を引用されて 「はい、 な るほど」 とすなおに首肯する人は (信者でないか ぎり) 少ないだろう。 これは方法論では宇野弘蔵 氏の歴史的段階論によるもので、 宇野が20世紀初 頭を産業資本に対する金融資本、 イギリスに対す るドイツを対比しつつ 「帝国主義段階」 と特徴づ け (宇野 経済政策論 )、 馬場宏二氏がこの金融 資本 (株式会社) の主題を継ぎつつ過剰消費こそ 社会問題として典型をドイツからアメリカに移し 20世紀後半を 「帝国主義段階後」 と特徴づけた (馬場編 シリーズ世界経済 ) のに続くもので、

生成―発展―没落の歴史シェーマに従って、 地球 帝国の生成―発展を第一部で示し、 21世紀初頭を

「地球帝国没落段階」 としてその必然を第二部で 示す。

このように本書は独創的でありながら問題提起 かつ紛糾含み (プロブレマティック) の書である。

これは細分化した学問世界において学術的正確さ を確保しながら、 現在が直面する 「世界史的課題」

に立ち向かおうとする時、 専門学者が直面するディ レンマでもある。 すなわち 「価値自由性」 からす れば社会科学の課題は限定と確実な論証・実証が 請求され、 取り上げるべき 「文化価値に充ちた」

喫緊の重要課題の選択を優先すれば、 確実な論証 と実証は危うくなる。 著者は手慣れた専門分野を 離れてアメリカによる広域世界の統合という不慣 れな分野に挑戦したのである。 評者の書評は評価 と疑問から成り、 疑問と批判が多くなるのは本書 の予言的側面からしてやむを得ないのだが、 評者 は現実の提起する切実な課題に敢えて危険を冒し

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て答えようとする著者への敬意を前提したもので あることを断っておく。 疑問の提起はやさしく、

包括的な主張と断言は難しい。

世界経済統合体の 「分裂と再統合」 の観点、 さ らには冷戦期における米ソ対立 ―― その背後に ある資本主義と社会主義の優劣選択、 発展途上国 をめぐる膨張・防衛の抗争史 ―― の歴史を理解 して始めて一極支配の地球帝国を解剖できる、 と 言う構想は、 冷戦後の八大文明抗争のハンチント ン仮説、 自由の必然的実現のフクヤマ仮説より現 状説明力があるし、 比較経済体制論におけるコル ナイの過剰体制・不足体制の対比、 エルマンの比 較成長分析、 ワイルズの共産主義国際関係分析の 説明力を超えている。 この 「分裂と再統合」 の観 点は評者とも共通するのだが、 更に 「二重の分裂」

の概念設定は評者に欠けるものであった。 つまり 評者の再統合論は資本主義・社会主義の対立によ る世界経済分裂 (開放世界市場閉鎖集権計画) の概念によるが、 本書は先進諸国間分裂をこれに 重ねて、 あるいはこれに先行させている。 シェー マは複雑になるがこの方が説明力は大きいと思わ れる。 実際、 ヴェトナム戦争以後の中ソ分裂、 さ らにはペレストロイカ期の共和国分裂によるソ連 邦崩壊に当てはめると国家間分裂を重ねた分、

「二重の分裂」 の説明力が増える。

また軍事と宗教は経済固有域と没落予見域を結 びつけもするが、 これは著者が年来とりくんでき た分野であった。 戦争による矛盾対立の軍事決着 ばかりでなく、 平時の軍事費増減にせよ緊張期の 産軍複合体の行動にせよ、 軍事は主要国の経済と 世界経済に強い影響を与える。 更に宗教・理念 (イデオロギー) の役割の重要性は冷戦期に当然 であったし、 地球帝國の世界制覇においても重要 である。 これらの観点は著者のこれまでの専門研 究においてプラスの意義をもっていたし、 今回の 著書にも積極的に生かされている、 と読みたい。

ただこの両方の観点が 「科学」 と 「予言」 をプラ

ス・マイナスの双方に媒介しているとも言えるか ら、 これを本書の魅力ととるか脱線ととるか、 評 価は分かれるかもしれない。

ここからは本書の細目への批判を述べてみたい。

評者もまた国際政治経済統合論はともかく経済学 の個別領域、 各国国民経済領域の素人にすぎない が、 本書への専門家からする不満はおそらく多い であろう、 と推察できる。

その第一は成長論、 ないしは成長の計量分析、

成長システムの進化・制度変貌論についてである。

成長分析では日米競争 (第2章) と石油危機後の スタグフレーション (第3章)、 軍事費と貯蓄・

投資のトレードオフ (第4、 5章)、 産業構造進 化 (第3, 5章) で扱われているが、 その長期傾 向、 要因分解、 成長システム変化は明示されてお らず、 いかにも任意でアドホック (行き当たりばっ たり) の感が否めない。 成長の長期計測、 広域・

国民経済比較のマディソン やサラ・

イ・マーチンらの業績は世界経済の 定型的事実を示していると考えられるが、 個別産 業競争力・貿易収支・軍事費変動のみに頼って説 明するのでは20世紀後半から末期にいたる世界経 済統合体に分析は出来ない。 ここから1) 50〜60 年代成長とME・IT主導の80〜90年代成長の相 違が定式化されず、 それに立つ日・米・西欧経済 動態対比の軽視 (第2〜7章)、 2) ソ連経済の 矛盾を集権経済の自滅と片付ける安易さ (第4章)、

3) アジア成長が世界市場開放利益を得てアフリ カを逆転し工業化による貧困からの脱出をもたら しているメカニズムの無視 (第6章)、 などが生 じている、 と思われる。

その第二は国際経済関係の貿易・資本移動論に ついてである。 本書ではこれがほとんど貿易収支 の赤字黒字に焦点が絞られていて (90年代金融危 機ではそうではないが)、 固定相場制 (ブレトン 現代の世界経済

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ウッズ通貨体制) 期の判断基準が過度に延長され ている印象をもつ (第4, 5章)。 フロート制は もちろん不安定な国際通貨システムであって為替 投機、 デリバティブ、 資金の短期移動を促進する が、 同時に多国籍企業の直接投資を促し貯蓄・投 資の国際バランスを拡大し、 グローバリゼーショ ンの利益を諸国に非対称的に配分する。 このシス テムでは貿易収支赤字は容易にかつ安易にファイ ナンスされ従って金融脆弱性が高まるが、 同時に 基軸通貨国の金融力を強める。 貿易と国際投資の 関係は80年代以後直接投資を介して比較優位の動 態変動を生み、 これが東アジア成長と日本の経済 成長の促進・停滞に作用する。 産業内貿易や国際 資本短期移動・投機は指摘されているのだが、 地 球化利益とその配分の非対称性、 国際金融の不安 定化・カジノ化の関連の説明は不足している。 こ こでも定説なり計量分析にそれなりの配慮がほし い。 「宇野段階論」 の系譜にはこの種の知識の蓄 積に欠ける。 アメリカ銀行業 (国際金融仲介) の 強み、 証券資本主義の過剰消費とデフレなど指摘 されているけれども、 金融アセット・土地価格の 上昇と消費限界 ―― 日本の消費制約とアメリカ の過剰消費 ―― 輸入増とデフレ現象などの追究 が足りない。

あと一つ気になるのは 「日本型システム」 を著 者がどう解するか、 という点である。 90年代の日 本の停滞がマクロ・ミクロの一時的な悪循環では なく構造上の困難にあるのは共通の見方であるが、

日本システムの 制度疲労 を主張するとき、 著 者はここで 「日本型システム」 を東アジアに共通 する開発独裁モデルと理解しているようである (第6章)。 しかしこれは橋本氏らが日本型システ ムを狭く生産現場システム、 「日本型生産方式」

と理解するのとは異なっているし (橋本 日本経 済論 、 東大社研編 20世紀システム )、 19世紀 から近代化を開始して欧米資本主義に伍して先進 化に成功した戦前期日本に、 自由主義的 「民間市

場主導」 システムを設定する寺西重郎氏とも異な る (寺西 日本の経済システム )。 現代日本の直 面する制度疲労は発展途上の東アジア諸国モデル の困難とは質的に異なる先進国の病理である。 こ れに加えて、 私見によれば、 ソ連ロシア・中国・

東欧の市場移行のインパクトの違いがそこに働い ている ―― 移行の配当 が米・日・西欧で異 なる ―― のだ。 「再統合」 は 「移行広域」 の先進 諸国への反作用を含んでいる。

さてこれまでの項目は本書の趣旨に即したもの であった。 しかし本書は現在を帝国アメリカの没 落段階と規定しているので、 ここで評者の見解を 述べないわけにいかない。 地球帝国アメリカが世 界の永遠の支配者であると言うことは出来ない。

それが歴史である。 だがアメリカが冷戦に勝ち残っ て唯一の超大国となり一極の支配者となって国連 と西欧の意向を無視するようになったのはこの10 年、 さらには数年、 今年、 のことでさえある。 地 球帝国の実はいまようやく誕生し隆盛に向いつつ あるのではないか。 ソ連・ロシアは市場と民主主 義の学習に多忙であり、 経済のライヴァル日本は 停滞に苦しむ。 帝政ローマは東西分裂 (395年) から没落の道に入ったとして西ローマ滅亡 (476 年)、 東ローマ滅亡 (1453年) と長い経過があり、

衰退自身が歴史であった (ギボン)。 アメリカの 覇権、 世界支配の喪失はこれから先ではないか。

バブル・不平等・過剰消費は矛盾には違いないが それらがすなわち 没落 の兆候とはいえない。

終章は著者の希望ないしは予言と読むほかない。

さらに一言。 朝鮮半島の南北分割責任から北朝 鮮の破綻責任まで日本に帰するのはゆきすぎた議 論であろう。 朝鮮半島の南北分割は米ソ (中) 体 制対立の結果であり、 西側の一員としては日本も 無答責でないにしても、 経済政治情報閉鎖の責任 はまったく北の政権担当者にあり (体制孤立のキュー

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バは貧しいが自由で開放され陽気である)、 飢餓 から拉致まで自立努力なき超軍事国家の自己責任 であるまいか。 朝鮮半島の体制対立においては南 北の初期条件は東西ドイツとは異なり南農・北工 で、 北は優位から出発している。 朝鮮戦争後もほ ぼ60年代初までは経済水準・生活水準は南北同等 か北優位だった。 それが南の開放工業化の成功と 北の閉鎖工業化の失敗により格差が加速的に拡大 し、 80年代には大差がつき、 北は中ソ体制支援で ようやく息をつく有様だった。 それがソ連崩壊に より経済が破滅状況に陥るのは当然である。 そこ に軍事的緊張を必要以上に高める政治構造から破 綻と国際孤立が生じている。 これらは全く比較経 済体制固有の分析課題であって、 旧植民地支配の 残存の問題ではない。

だからアメリカによる 「ならず者国家」 の公式 認定は世界平和を脅かすにしても、 経済の成長と 国民の社会生活の安定を保障できず、 インフラ整 備に無能な不安定な国家がそこに存在するのは事 実であり、 こうした破綻した国民国家が社会混乱 と暴力の温床となるのも必然的である。 この意味 において独立・人権・民主・自由・繁栄のアメリ カ的価値は冷戦により勝利したのであって、 これ は先進諸国の支持すべき価値である。 「地球帝国」

の横暴はこれらの価値を無条件に、 圧倒的な武力 によって、 何処にでも、 強制するところにある。

著者が破綻国家の自己責任に甘いというのではな いが、 そうした議論が北朝鮮論に垣間見られたの で蛇足を加えた。

現代の世界経済

参照

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(1) 重層的な産業集積,および緻密な生産ネットワークの形成 (とくに,電 機・電子産業) , (2) 「世界の工場」「世界の市場」となった中国経済の台頭 と今後の動向,

国(言外には,とりわけ日本を指していることはいうまでもないが)が,米国

名の下に、アプリオリとアポステリオリの対を分析性と綜合性の対に解消しようとする論理実証主義の  

このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本

 しかし、近代に入り、個人主義や自由主義の興隆、産業の発展、国民国家の形成といった様々な要因が重なる中で、再び、民主主義という

・2017 年の世界レアアース生産量は前年同様の 130 千t-REO と見積もられている。同年 11 月には中国 資本による米国 Mountain

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