対面説明場面における説明者の情報処理モデルの検討
ASt udyo fl ns t r uc t o r ' si nf o r mat i o nPr o c e s s i ngMode l : Ho wCanWeExpl ai nWe l l o nFac e ‑ t oI Fac eCo mmuni c at i o n?
辻 義人
Yo
shih i to
TSU
J I小樽商科大学
0℃匁RUUNI VERSI TYOFCO M MERCE
近年,多様 な分野において説 明活動 に対す る注 目が高まってい る.説明活動は,説明の受 け手の理 解 を促 し,知識 ・行動の変容 を促すために行われ る.それ に際 して,説 明者 は説 明の受 け手や作業対 象の情報な どを把握 し,それ に合わせ た説明内容 と介入方法の選択が求 め られ る.辻 ・岸 ・中村 (2003) は,説明者 の情報処理モデル の構築 を行 った.説明場面にお ける説明者 の情報処理過程 を検討す るこ
とを通 して, よ りわか りやすい説 明の指針 が得 られ ることが期待 され る.本稿 では,認知心理学の枠 組みに基づ き,説明者 の情報処理モデルの構築 と検証結果 の報告,また,児童 に対す る説 明指導のあ
り方の提言 を行 う.
<キー ワー ド> 教授法,説明者モデル,思考モデル,認知発達,教育方法
1
.説明研究の必要性説 明のわか りやす さに対す る注 目が高 まって いる.説明活動は,特別 な活動ではない.あ らゆ る場面において,日常的に行われている.教育場 面をは じめ,ビジネスや 司法,医療な ど,多様 な 場面で,説明活動が行われているのである.しか し,このよ うな状況に反 して,説明活動その もの を対象 とした研究は,さほ ど活発 に行われて こな かった.その理 由 として,比留 間 (2002)は, 説明活動が,あま りに 自明な ものであったため, 研究者 の関心 を引 くこ とが少 なかった こ とを指 摘 している.近年の,説 明のわか りやす さに対す る注 目の高ま りは,社会的ニーズの高ま りに合致 した もの といえるだろ う.
教育場面では,説明活動 は,伝統的に国語教育 の 説 明 文 の枠 組 み か ら研 究 され て き た . 岸 (2004)は,小 ・中 ・高等学校 にお ける国語教 育の指導 目標 について,説明文 と物語文の両タイ プの学習教材 を用いた総合 的な理解 技能 を育成 し,さらに,これ を表現技能 として育成す ること が核 となってい ると位置づ けてい る.また,知識 や体験の表現技能は
,PI SA ( OECD
生徒 の学習 到 達 度 調 査 :Pr ogr amme f o r l nt e r nat i onal St ude ntAs s e s s me nt )
において も重視 されている.
PI SA
型読解力では,書かれたテキス トを理 解 し,利用 し,熟考す る能力の重要性 が強調 され, 測定対象 となってい る.これ らの能力は,① 自らの 目標達成 を促 し,② 自らの知識 と可能性 を発揮 させ,③効果的に社会参加す る.これ ら
3
点の 目 標達成 に不可欠 な要素である.この よ うに,PI SA
型読解力の定義では,
「テキス トの理解 ・利用 ・ 熟考」能力が,上記の①〜③ の実現を促す と位置 づ け られ る.PI SA
型読解力の定義 には,説明活 動は直接含まれていない,しか し,社会 において自己を表現 し,自らの可能性 を発揮す るためには, 自己表現能力が求 め られ てい るこ とが読み取れ る.この よ うに,説 明技能は
,PI SA
において直 接測定 され る項 目ではないが,PI SA
型読解力の 延長線 上 にある上位 目標 と位 置づ け られ る (辻 2009a).説 明活動は,教育場面のみな らず,多様 な分野 において注 目されている.例 えば,ビジネスの分 野では,松尾 (2006)は,企業 の組織学習 に関
して,知的資渡 の効率的な共有の重要性 を強調 し, 知識伝達の重要性 について述べている.また,辻
(2007a)は,企業 を主体 とした説明活動 につい て,対象の位置 ごとに分類 し,それぞれ に対す る 望 ま しい説 明活動 のあ り方 について言及 してい る.司法の分野では,杉森 ・門池 ・大村 (2005) は,裁判員制度 にお ける説明のわか りやす さに注
目した.杉森 らは,一般市民である裁判員の認知 的負荷 に注 目し,可能 な限 り専門用語 を排す るな ど,聞き手に配慮 したわか りやすい説 明の必要性 について言及 してい る.
この よ うに,教育場面をは じめ,ビジネスや司 紘,医療な ど,説明活動は多様な分野で行 われて いる一方,説明活動そのものに注 目した研究は多 くは見 られ ない.さらに,口頭説明のわか りやす さに注 目した研 究は,極 めて限定的であるとい え る.本稿では,認知心理学の観点に基づ き,これ までの説明活動 に関す る研究 を紹介す る.また, わか りやすい説明の発達 と指導 に関す る提言 を 行 う.
2.説明が成立する条件
説明活動の 目的は,聞き手に内容 を理解 させ , 知識や理解 の変容 を促す ことである.説 明活動が 成立す るためには,説明者が内容 を話 し,聞き手 がそれ を理解す る必要がある.この よ うに,説 明 活動 は,説明者 と聞き手が協同す ることで成立す る.説 明活動が,聞き手の理解 と行動変容 を 目的 に している点で,口頭説明 と文章による説明は一 致 してい る.
わか りやすい説 明活動 に関 して,岸
( 2008)
は,説 明者 の分類 を行 ってい る.それ による と, 説明者は2
つの観点か ら,4
つのタイプに分類す ることが可能である.第一の観点は,伝達内容の 精選 である.ある事柄 を説明す るとき,その説 明 方針 として,自身の理解 内容の全てを伝達す る場 令,また,聞き手に最低限必要な内容 を精選す る 場合が考え られ る.聞き手に とっては,最低限必 要な説明が精選 され ることによ り,認知的負荷が 軽減す ることが予想 され る,第二の観点は,聞き 手の理解力 (既有知識)‑の信頼である.聞き手 の理解力を信頼す る説明者は,聞き手の理解度 に 対す る配慮 を行わない.一方で,聞き手の理解力 を信頼 しない説明者 は,絶 えず聞き手の理解度 に聞き手の理解 力を信頼しない(把握に努める)
熱弁粘着型 上 手 な 説 明 者
全 て
の知
識を 知識を精 選 して伝
達す
る 伝 達 す る聞き手の理解 力を信頼する(把握しない)
図
1
説明者のタイプ分類 (詳細は、岸1992)
配慮 し,説明内容や方針の変更 を行 う.岸は,伝 達内容 を精選 し,聞き手の理解力を信頼 しない説 明者が,よい説明者であると述べている.図
1
に, 説明者の分類 を示す.岸 による説明者 の分類 に関連 して,辻
( 2008)
は,わか りやすい説明文の作成 に必要な3
つの要 素について言及 している.説明文の書 き手は,読 み手の 「目的」 「知識」 「読解力」, これ らに配慮 す ることによって,わか りやすい文書 を作成す ることが可能 となる.まず,読み手の 「目的」‑の 配慮 として,読み手が何 を求めているかを推測す ることが挙 げ られ る.辻 ・邑本
( 2005)
は,請 し手による聞き手の 目的の理解 に注 目し,検討を 行 った.その結果 よ り,話 し手に 自分の 目的を正 しく伝 えることができた と回答 した聞き手は,請 し手の説 明がわか りやす か った と評価 してい る ことが示 された.この結果 よ り,話 し手が聞き手 の 目的を理解す ることによって,話 し手の説明が よ りわか りやす くなる可能性が示唆 され る.次に, 読み手の 「知識」‑の配慮 として,相手の知識量に合わせた説明を行 うことが挙 げ られ る.Wo
l f e e ta
l.( 1998)
は,説明文の読み手の先行知識 と 文書の難易度 との関連 に注 目し,読み手の知識獲 得量のモデル化 を行 っている (図2)
.この図は, 読み手 の知識量 に合 わせ た難易度 のテ キス トを 用いることによ り,もっとも効率的な知識獲得が 可能 となることを示 してい る.最後 に,読み手の「読解力」に対す る配慮 として,認知的負荷が挙 げ られ る.山本
( 2004)
は,高齢者 を対象 に, 取扱説 明書 (手続 き的説明文)の理解 にお ける標 識化効果の役割 について検討 を行 った.その結果, 高齢者 は 「取扱説明書 を読まない」のではな く,対談獲得豊
少 その領域の先行知泡盈 多
図
2
文章の難易度と知識獲得量との関連( Wol f eet a L1998)
「わか らない」ために役立たない こと,また,文 章構造 を表示す る 「標識化」を行 うことで,高齢 者の理解 と行動変化が見 られ た ことが示 された.
これまで,説明が成立す る条件 として,説明者 のタイプ分類,また,わか りやすい説明文作成 の 例 を挙げた.この両者の共通点 として,いずれ も, 説 明者 と説 明の受 け手 との関連性 を重視 してい
ることが挙げ られ る.話 し手,あるいは書 き手が 説明内容 を伝達 しただけでは,説明活動は成立 し ない.説明の受 け手が,説明内容 を理解 し,行動 が変容す ることによ り,説明活動が成立す るので ある.
3.
口頭説明場面の情報処理モデル口頭説 明場面における情報処理過程 に関 して, 辻 ・岸 ・中村
( 2003)
は, コン ピュー タの操作 説 明場面 にお ける情報処理モデル の提案 を行 っ た.辻 ら杖,コンピュー タ操作説明場面を,説明 者 (支援者),学習者 (操作者),作業対象 (コン ピュー タ)か ら構成 され る3
者間 コミュニケー シ ョンと捉 えた.説明者 は,学習者 と操作対象 との や り取 りを観 察す ることを通 して,学習者 の 目 的 ・知識 ・状況 を把握す る.そ して,説明者 は, その把握 した情報 に基づ き,その場面,その学習 者 に最適 な介入が可能 となる (図3).なお,読
明者 の介入 は,学習者 に対 して説明を行 うことに 限定 されない.例 えば,説明者 が学習者 に対 して 質問を行 う場合や,説明者が学習者 の 自力解決 が 可能 と判断 し,あえて説明を行わない場合,これらも,説明者 による主体的判断 と位置づ けられ る.
このよ うに,説明者は,学習者 と作業対象 との
作業アシスト
三
≡ 介 質 入 問 な ( 教 ど 示 ) . 回答 ・
ゞ
図 3
説明場面における3
者間コミュニケーション モデル (辻ら2 0 0 3
より一部改変)や り取 りを把握 し,それぞれ に関す る情報 を蓄積 し更新す る.そ して,その更新 された情報 に基づ き,学習者 に対す る 「説 明」や
,
「学習者 の質問 に対す る回答」,
「学習者 に対す る質問」な ど,多 様 な介入 が可能 となるのである.では,説明者 は,どの よ うに説明場面か ら情報 を蓄積 ・更新 し,説明を行 ってい るのだろ うか, この点について,辻 らは,説明者 の情報処理過程 に注 目し,モデル化 を行 ってい る (図
4).
説明 者が説明を行 う際には,学習者 と作業対象 に関す る情報 を収集す る必要がある.まず,説 明者 は, 学習者 の観察 を通 して,
「目的」,
「知識 ・技能」,「状態」に関す る情報 を得 る必要がある.また, 説明者 は,同時に作業対象 を観察 し,その状態 に 関す る情報 を得 なければな らない.説 明者 は,学 習者 と作業対象 とのや り取 りの観察 を通 して,こ れ らの情報の収集 が可能 となるのである.なお, 説明者 による情報の収集 は,説明場面において絶 えず行われ るものであ り,それぞれの情報 は常に 更新 され る.例 えば,学習者 が作業対象 に対 して 何 らかの操作を行 った とき,説 明者 は,その操作 の意図や習熟度,また,その時点における達成状 況に関す る情報 を収集 し更新 してい るのである, 私たちが,何 らかの事柄 について説明を行 う場面
を考えた とき,説 明の聞き手の背景情報が重要で あることが理解できるだろ う.事前 に説明の聞き 手に関す る情報が得 られてい る場合,その聞き手 に合 わせ た説 明内容 と説 明方法 を選択す るこ と ができる.その一方,説明の聞き手に関す る情報 が得 られない場合,説明が極端 に困難 となる.こ のよ うに,説明の聞き手に対 して適切 に説明を行 うには,聞き手に関す る背景情報の収集 と更新 は 欠かせ ないプロセスであるといえる.
次に,説明者 は,観察 された情報に基づ き,学 習者 に対す る説 明内容 と説明方法の選択 を行 う.
学習者 の達成 目標,知識や技能,置かれている状 態に合 わせて,どのよ うな内容 を説明す るべきか (説 明内容の選択),また, どの よ うな方法で説 明す るべ きか (介入の方法)を判断す るのである, 説明内容 の選択 に関 して,説 明者が説明活動 を行
う際には,まず伝達すべ き内容 を選択 しなけれ ば な らない.この.段階では,説 明者 は,学習者 に対 して何 を伝 えるかを選択す る.次 に,説明者 は, 学習者 に伝 えるべ き内容 を,どのよ うに伝 えるか を判断す る必要がある.これは,介入方法の選択
プ ロセスである.介入方法の選択 においては,以 下の
3
つの判断が行 われ る.第一に,「説 明の必 要性」である.これは,説明者が学習者 に対 して 説明を行 う必要性 の有無 を判断す るものである.もし,学習者 が 自力で理解 し,問題解決 が可能 と 判断 された場合 には,説明者 が何 も説明 しない こ とを選択す ることもできる.第二に, 「介入手段 の選択」である,これは,学習者 に対 して説明活 動 を行 う際に,言語 的な説 明のみ を実施す るか, または,実際に操作 を交えなが ら説明す るかを判 断す るものである.ここでは,説 明を通 しても学 習者の理解 が難 しい と判断 された場合 に,説明者 が代理で操作 を行 う選択 も含 まれ る,第三に了説 明プランの構築」である.これは,説明のわか り やす さに強 く関連す る判断内容である.前述の よ うに,岸 は,知識 を精選 して伝達 し,聞き手の理 解力を信頼 しない こと (常に相手の理解 に配慮す ること)で,わか りやすい説明が可能であると述 べてい る.同様 に,辻は,わか りやすい説 明文の 作成 に際 して,書 き手は,読み手の 目的 ・知識 ・ 読解力 に配慮す る必要 があ ることに言及 してい る.説明プランの構築は,岸や辻が指摘 した,聞 き手に対す る配慮 に密接 に関連す る.例 えば,説
明者が 「標識化」を行 うことによ り,学習者 は一 連 の作業の全体像 を理解 し,個 々の作業ステ ップ の意味を確認す ることができる.また,説明者 に よる 「比愉」や 「言い換 え」も効果的である.読 明者 に とっては常識 と思われ る用語であって も, 聞き手 には常識 ではない ことがある. この場合, 説 明者 は専 門用語 の意味や概念 の伝達 に工夫す
る必要がある.場合 によっては
,
日常的な例 を題材 とした比晩を用いた り,難度 の高い用語 を易 し く言い換 えた りな ど,その聞き手に合わせた伝達 方法 をプランニングす ることが望ま しい.
このよ うに,口頭説明場面における説明者の情 報処理 は,以下のよ うにま とめ られ る.説明者は, 学習者 と作業対象の観察 を通 して,説明に必要な 情報の収集 と更新 を行 う.さらに,説明者は,収 集 し更新 された情報 に基づ き,その学習者に適 し た説明内容 と,伝達方法の選択 を行 っているので ある,
なお,説明に必要な情報 が不足 している場合, 説明者が学習者 に質問を行い,情報 を補完す るこ
とも考え られ る.一般的な説明場面では,聞き手 が説 明者 に質問を行い,説明者 がそれ に回答す る ことが多い.ここで,説明者が聞き手に質問を行
学習者の情 報
( a)
目的学 習者 は 、何 を達 成 した いか ?
( b)
知 識 t技 能 学 習者 は 、どの 程 度 内 容を理 解 しているか ?( C)
状態学 習者 は 、現 在 何 をして いるの か ?
作業対象の状況
その 時点 で、作 業 対 象 は どの ような状 況 か ?
説明の構築
(1
)説 明 内 容 の 選 択 学 習 者 に、どのような 内容 を伝 えるか ?( 2)
情 報 の 補 完 学 習 者 と作 業 対象 は 、 どのような状 態 か ?介入の方法
(i)説 明 の 必 要 性
(ii)介 入 手 段 の 選 択
(iii)説 明 プ ランの 構 築 標識化、比職、言換えなど
図 4
説明者の情報処理モデル (辻 t岸 ・中村2003)
う行為 には,説明に必要な情報 を収集 し更新す る ことに加 え,教育的な効果が期待 され る.説明者 が聞き手に質問を行い,聞き手に現時点での理解 内容 を説明 させ ることで,学習者 の誤概念 の有無 を判断す ることがで きる (辻
2007 b)
.この よ う に,説 明者 が説明を しない こと,また,学習者 に 質問を行 うことによって も,学習者 の理解 を促すことが可能 と考え られ る.
4.
情報処理モデルの検証説明者の情報処理モデル は,説明場面における 対話に基づ き提案 された ものであ り,その構成 に ついて検証 を行 う必要がある,そ こで,コンピュ ー タ操作に関す る説 明場面において,説明者が情 報の収集 に用いる手がか りの種類,また,情報収 集 の正確 さについて検証 を行 った (辻
2006),
コンピュータ操作の説明に際 して,説明者 が利用 す る手がか りとして,学習者の発言,ジェスチャ ー,操作画面の状況 を設定 した,その結果,説明 者 が学習者 の 目的 と状態 を把握す る手がか りと して,主に学習者 の発言が利用 されていることが 示 された.‑方で,学習者 の知識や技能 を把握す る際には,学習者の発言 ・ジェスチャー ・作業対 象 の状態が複合的 に利用 され てい るこ とが示 さ れた.次に,学習者 に関す る情報収集 の正確 さに ついて,それぞれの正答率は,目的推定=85.0%, 知識 と技能推定=41,7%,状態推定=58.3%であっ た.この結果 よ り,目的の推定は比較的容易であ ること,その一方で,知識 と技能推定,また,状 態推定は比較的困難であることが示 された.この結果は,対話 を通 した学習者の 「知識 と技 能」推定 と 「状態」推定は,さほ ど正確ではない
前の対話
プ 説 次 ラ 明 ン
の 対 話内 の
容設や定図 5
説明場面におけるPDCA
サイクル( 辻 2 0 0 9 a
を一部改変)ことを示す.では,説明者 は,学習者 の情報が正 確 でない状態において,どの よ うに説明を行 って いるのだろ うか.ここで,説 明対話の継続性 に注 目した.ほ とん どの説明活動は,一問‑答では完 結せず,継続的に行 われ る.もし説明者 の説明内 容が見 当違 いであった として も,聞き手は,それ を踏 まえて,再び説明を求めることができる.こ のプ ロセスにおいて,説明者 は,よ り正確 な聞き 手の 目的,知識 と技能,状態 の推測が可能 となる のである.この説明活動の継続性 と循環性 に関 し て,
辻 ( 2009a)
は,説 明活動 にお けるPDCA
サイ クルの重要性 について言及 している (図 5).次に,説明者の情報処理モデル にお ける,説 明 プランの構築過程 に注 目した.説明プランの構築 とは,学習者 に対す る説 明方法 を決定す るプロセ スである. ここで,説明プ ランの構築 に関 して, 文章産 出にお けるメタ認知能力 (崎演
2003)
に注 目した.説明者の説 明プランニ ングは,メタ 認知能力の高低,また,説 明内容 の質 (宣言的知 識 :類型論 と特性論,手続 き的知識 :エ クセル の
∴ . ∴ . ,.. J .∵ .; . .;I .∵ ∴ . .[. ∴ . ∴ ' 「 .J rL J 「 , 1 .I rI J 1 J IJ rI J (‑) ,J l ‑ 「 , rJ L LJ.I r.・ l.r, LJ I こ rr I ( J ・ ] ぺエ
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6
宣言的知識の説明におけるプランニング二 ココニ:
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7
手続き的知識の説明におけるプランニング操作方法)によ り,どのよ うに異 なるのだろ うか.
特 に 「箇条書 き」, 「イ ラス ト化」, 「グループ
化」
の出現率に注 目し,逆正弦変換法 による生起比率 の比較 を行 った.その結果,宣言的知識 の説明で は,メタ認知能力高群の 「グループ化」の頻度が 高い ことが示 された (
図 6).
また,手続 き的知 識 の説明では,メタ認知能力高群 の 「箇条書 き」の頻度が高い ことが示 された (
図 7).
この結果 について,メタ認知能力が高い説明者 は,宣言的 知識 の伝達では 「意味のま とま り」を重視 し,辛 続 き的知識 の伝達では 「手順の明確化」を意識 し ていた ことが伺 える.この ことか ら,①説明プラ ンニ ングは説 明者 のメタ認知 の高低 問で異 な る こと,また,②説明内容の質 (宣言的知識/手続 き的知識)によって説明プランニングが異なるこ と,これ らが示 された.メタ認知能力の高低問に おいて,自身の説明が聞き手 に とってわか りやす い ものであるか どうかの意識 が異な り,プランニ ン グ に違 い が 現 れ た こ とが 考 え られ る (辻2009b).
説明者 の情報処理モデル において,未検討の部 分が残 されている.例 えば,説明者 は どの よ うな 場合 に学習者 に質問を行い,情報 を収集す るのか.
そ して,説 明者 による質問は,学習者の理解度 に どの よ うな影響 を及 ぼす のか.また,説 明者 は, どの よ うな場合 に学習者 に対 して説 明介入 を行 うのだろ うか.さらに,説明者 は どのよ うに説 明 プランを構築 し,更新す るのか.これ らの点につ いて,今後,説 明者 の情報処理モデルの改訂 を見 据 えた, さらなる検討 が必要である.
5.説明技能の発達 と指導
これ まで,説明者 の情報処理モデルの構成 と検 証について言及 してきた.ここで,子 どもに対す る説 明指導のあ り方 に注 目す る.まず,子 どもの 説 明技能は どの よ うに発達す るのか.そ して,ど の よ うな説明指導が効果的なのだろ うか.
幼児 の 口頭説 明技能 の発達 に関 して
,Fi vus h e ta l
.( 1997)
は,40‑70
ケ月の幼児1 4
名 を対 象 に,個人的体験 の聞き取 り調査 を実施 した.そ の際,説明の評価観点 として,論理性 (内容の明 示 ・説明の構造 ・内容の評価)と一貫性 (時系列 . 因果関係 ・修飾的表現)を設定 した.調査結果 より,個人的体験 に限った場合,3歳半か ら,ある 程度正確 な説明が可能であることが示 された.ま
た
,5‑6
歳 にかけて,背景情報の生起頻度が向 上 していた.背景情報 とは,説明の聞き手に対 し て,発話 内容の理解 の前提 となる知識である.こ の ことか ら,お よそ5‑6
歳にかけて,説明の受 け手に対す る意識 が生 じることが伺 える.次 に,辻 ・岸 ・本 田
( 2008)
は,小学生 を対 象 に, 「読み手意識」の調査研究を行 っている.辻 らは,小学生の説明文の産出過程に注 目し,読 み手意識が生 じる時期 について,メタ認知能力の 観点か ら比較 ・検討 を行 った.課題 は,小学 2‑
6
年生 を対象 に,学校案 内文 を作成 させ るもので あった.その際,読み手 として,成人 を対象 とす る場合 と,幼児 を対象 とす る場合 を設定 し,児童 は どち らか一方の作業を行 った.結果 より,読み 手意識の出現率は,全学年間で異なっていた.ま た,想定 した読み手によって,説明文の表記内容 に違 いが見 られた.読み手意識 の表現 として,「結 果の明示 (例:○
○を曲がると, ××です)」 に 注 目す ると,成人 を対象 とした場合,2‑4
年生 にかけて増加す る一方,その後は減少 していた.一方,幼児 を対象 とした場合には
,2‑6
年生に かけて増加す る傾 向が見 られた (図 8).
この結 果は,4
年生以上の児童は,読み手の読解能力 を 推測 し,それ に合 わせた説明文 を作成 していた こ とを示す もの といえる,このことか ら,児童の読 み手意識 は,学年の進行 に伴い発達す ること,ま た,6
年生の段階では,読み手に合わせた表現が 可能 となることが示 された.ここで,メタ認知能 力に注 目す ると,その高低問において説明文の表 記に違いが見 られた.メタ認知的能力が高い児童 は,
「結果 の明示」 と 「否定の明示 (例 :△△が あ りますが,曲が りませ ん)」の出現頻度が高か った.さらに,成人対象の場合 には簡潔な表記が.I..
jJJJ J ,pJ' .]'
..r'JJ.
.fFL[ . JJJ rTJ
rJ(J ∩J JTJ
rJr.)
ヽU(J JTr.
芝年生
3
年生4
年生5
年生 6年生図
8
児童の読み手意識 (結果の明示)の出現率用い られ,幼児対象 の場合 には丁寧 な記述 がな さ れ てい ることが示 された.これ らの検討 を通 して,
①児童 の読み手意識 は学年進行 に伴 い発 達す る こと,また,② メタ認知的能力 が高い児童 は,読 み手に合わせた表現 を多用す るこ と,これ らが示 された.この結果 は,児童の説 明文指導 に際 して, メタ認知 的 な観 点 を与 え る指導 が望 ま しい こ と を示唆 してい る.
さらに, 「読み手意識 」の指導 に関 して,岸 ・ 辻 ・村 岡 (印刷 中)は,読み手意識 を強調 した説 明文指導の効果 の検討 を行 った.指導 内容 は,ま ず 「‑文一文 を短 く
」
「順序 よく書 く」
「始 め ・中 ・ 終わ りに分 ける」等 を扱 い,次の段階では 「易 し い言葉 で書 く」「丁寧 な言葉 で書 く」等 を扱 った.指導前後 にお ける文章の特徴比較 の結果 ,以下の
3
点が示 された.①指導後 の説 明文の畳が増加 し た.② その一方,各文章は短 くなった.③指導後 の説明文のわか りやす さの評定値 が高かった.吹 に,メタ認知的知識 の変化 に注 目した ところ,「読 み手の興味関心 に対す る意識 」と 「プランニ ング」に変化 が見 られた.特 に,指導前後 ともに,わか りやす さ評 定が高かった児童 は, 「読み手の興味 関心に対す る意識 」 に向上が見 られ た. しか し, 一部 の児童 においては,指導後のメタ認知能力得 点が低 下 してい る結果 が見 られた. この結果 は, 読み手意識 を強調 した説 明文指導が,必ず しも全 児童 に対 して効果 的ではない ことを示 してい る.
説明技能の発達 と指導 に関 して,口頭 にお ける 説 明表現の発達
( Fi vus he ta1 . ,1 997)
,児童 の読 み手意識 の発達 の様相 (辻 ら2008)
,読み手意 識 の指導方法 と効果 (岸 ら 印刷 中)に注 目した.これ らの研究は,幼児や児童が,説明の受 け手 に 対 して どの よ うな配慮 を行 ってい るか を示す も のであ る.特 に,読み手意識 は,説 明者 の情報処 理モデル にお ける 「学習者 の情報」と 「説 明の構 築 ・介入方法」に位 置づ け られ る.説 明者 が,説 明の受 け手 を意識す る際には,メタ認知的能力 が 強 く関連 してい るこ とが予想 され る.この こ とか ら,児童 を対象 とした説 明文指導 にあたっては, メタ的な視点,す なわち,読み手意識 を強調 した 取組みが望 ま しい といえる.ただ し,読み手意識 を強調 した指導 は,必ず しも全児童 に効果 的では ない可能性 がある.この点について,適性処遇交 互作用 の観点か ら, さらなる検討 が必要で ある.
6.結論 ・今後の課題
本稿 では,わか りやす い説 明活動 のあ り方 に注 目し,認知 的な観点 に基づ く一連 の研究 をIW介 し た.まず,説 明研 究 に対す る注 目の高ま りと先行 研 究 を踏 ま え,説 明者 の情報処理 モデル (辻 ら
2003)
の紹介 を行 った. また,説 明者 の情報処 理モデル の検証 と,説 明技能 の発達 と指導 につ い て言及 した.説 明者 の情報処理モデル に よる と, わか りやす い説 明 を行 うには,説 明の聞き手 と作 業対象 に関す る情報 の収集 が不可欠 である.説 明 者 は,これ らの情報 を活用 し,説 明の構築 と介入 方法 の選択 を行 う.なお,説 明者 が学習者 の 目的 や知識 ・技能,状態 を正 しく推測す るこ とは,檀 めて困難である.しか し,ほ とん どの説 明活動 は 一間‑答ではな く,継続 的 ・循環 的な行為 であ る.この点において,口頭 での説 明活動 と,説 明文の 作成 は大 き く異 なってい る.ただ し,どち らの説 明活動 において も,説明の受 け手 に対す る配慮 が, 説 明のわか りやす さに強 く影響す る.説 明活動 は, 説 明者 と学習者 との相 互作用 に よって成 立す る プ ロセスである といえよ う.
今後 の課題 として,以下の二点が挙 げ られ る.
第‑ に,説 明活動 にお ける説 明者 の既有知識 で ある.説明活動 を行 うには,説 明者 が,説 明内容 につ いて十分 に理解 してい る必要 がある (岸 ・綿 井
1 997)
.本稿 で紹介 した情報処理モデル にお いて も,説 明者 は事前 に十分 な知識 を所有 してい るこ とが前提 となってい る.しか し,現実的な説 明場面 においては,説 明者 は十分 な知識 を所有 し てい る とは限 らない.説 明者 も自信 がない状態で, 手探 りで説 明を行 う場面 も考 え られ る. ここで, 伊藤( 2009)
は,対 面条件 にお け る 口頭説 明 を 通 して,説 明者 自身 の理解 が深 まるこ とに言及 し てい る.今後,説 明者 が十分 な知識 を所有 してい ない条件 に も注 目す る必要がある.第二 に,教育活動 の観点 に基づいた,わか りや すい説 明の位置づ けであ る.わか りやすい説 明に 対す るニー ズは高まってい る一方,全ての場面 に お いて わか りやす い説 明が求 め られ るわ けで は ない.特 に,教育活動の観点 に基づいた場合,学 習者 の よ り深 い理解 を促す には,あえて説 明 をぼ か し,深 い思考 を促す プ ロセ ス も必要で あろ う.
この際,説 明者 である教師は,どの よ うな判 断基 準 に基づ き,説 明活動 を調整 してい るのだろ うか.
可能 な限 り現実的な説 明場面 を設定 し、説 明者 の
判 断の検討 を行 う必要 がある.
説 明活動は,日常的な活動であ りなが ら,体系 的に研 究 され る機 会 は,決 して多 くなかった.今 級,多 くの説 明活動 に関す る研 究が行 われ,さら に活発 な議論 が行 われ ることが期待 され る.
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