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日本企業の国際競争力 と 系列 ・下請 け構造

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(1)

日本企業の国際競争力 と 系列 ・下請 け構造

李 済 民

1

.はじめに

「地球 は

1

つです 国境 は見えません。」 とい う毛利 さんの宇宙か らの報告 を借 りな くとも,我々が現在住んでいる地球は米 ソの長い年月にわたる冷戦の 終了後,両 ドイツの再統一,

EC

統合等で見 られ るよ うに, 「ボーダー レス 時代」を迎えつつある。 しか し多 くの 日本企業は極一部の大企業において世界 一の生産性や技術水準を誇 っているとは言え, この様なボーダー レス化の時代 要請 に対応す る超国籍企業

( Trans nat i onalCompani e s )

とはだいぶか け 離れている。

ここでは,現在 日本企業が保有する国際競争力を診断 し,海外生産 ・販売 と いうグローバルな事業展開のなかで,今後 どのように変化 して行 くのか。また 新たな国際競争力を身につける為にはどうすれば良いのかを検討する。特に典 型的なグローバル産業であり, 日本経済を支えている柱産業て もある自動車, エ レク トロニクス産業で良 くみ られているような,系列 ・下請けの仕組みの嘩̲

済合理性 と海外移転可能性についてその問題点 と課題を明 らかにす ることを 目 的 とする

〔 31 5 〕

(2)

316

第 43巻 第 3 ・4号

2.

日本企業の国際競争力

① 国際競争力の 2次元性

一般 に競争力 に影響 を及 ぼす要因 と して, ダニ ングの所説

1

)を借 りると, 立地特有次元 と所有特有次元に区分す る事が出来 る。前者 は特定国または立地 に位置す ることによって得 られ る優位性で,比較生産 コス ト,要素賦存度,国 内需要の規模 と特徴,政府の政策 と支援,教育等の社会 ・文化的要素,為替率

・金利等のマ クロ経済変数などが含まれ る。

これに対 し,後者の所有特有次元

( Ownershi p‑speci f i cdi mensi on)

は, 技 術 格 差, 規 模 の 経 済, 製 品 差 別 化, 特 許 や 商 標, 経 営 能 力, 先 点 力

( f i rst‑moveradvant age) 2)

な どによ って形成 され る,いわゆる企業特殊 優位

( Fi rm ‑speci f i cAdvant age)

を意味す る 多国籍企業理論 で は, こ の様に企業内部 に蓄積 された知識 ・情報 (またはそれが顕示化 された商品 ・商 標)を通常の市場

( Arm ' sl engt h‑ m arket )

を通 じて他企業に貸与 または販 売す るよ りも,その取引の場を 自らの企業内部に作 り出す (すなわち内部化を 行 う) ことによって,多国籍企業が生成,発展 して きたと説明す る

。3)

長期間の研究開発投資や人的資本 および経営 システム 開発のための投資 に よって形成 された無形資産 としての知識 は 「公共財」 としての性質を もってい るため,一端知 られ ると誰 もがゼ ロに近 い限界費用で利用す る事が可能 にな る。 したが って技術革新国の多国籍企業 は,同様の知識を獲得す るためにはや は り長期 間にわた って多額の投資を必要 とす る現地の競合相手 と競争す る為 に,知識の消散 リスクを回避す る強い動機を持つ もちろん知識をライセ ンシ

ングによって レン トす る事 も可能だが, しば しば レン ト市場が不完全であるた

1) John H. Dunni ng,I nt eT ・ nat i onalProduct i on aT l d t he Mul t i nat i on al Ent e r pri s e ,Al l e n & Unwi n,1 9 81

2) Dav i dA.Aaker,St r at e gi cMarke tManagement ,JohnWi l e y,1 9 8 8

,

p. 228

3) Al anM.Rugmaneta

l.

,I nt eT ・ nat i onalBus i ne ss

,

McGr aw‑Hi

ll

,1 9 8 6

5

章参照

(3)

日本企業の国際競争力と系列 ・下請け構造

317

め,取引 コス トが過多 に掛か る ラグマ ンは取引コス トが過多 になる理 由とし て,買手の不完全性,売 り手の不完全性 としての品質管理,買い手 と売 り手両 方の機会主義的行動 に為 に生 じる契約締結 自体の困難性を上げている

。4)

しか し国家経済の観点か らい うと,両次元を同時に保有す る事が重要であ る。立地特有次元が有利なとき,国内及び外国企業が国内で生産 ・販売活動を 持続的に遂行す る事にな り,雇用が安定 され,国民経済が成長 ・繁栄 される。

一方,所有次元が有利でない と,産業のグローバル化の波 にの り,能動的に海 外事業展開す る事がで きない。それどころか,立地特有優位のみを有す る国 は

たちまち技術先進国の多国籍企業によって従属 され る経済にな りかねない。ま た反対 に特有特殊優位のみを有す る国の場合 には産業空洞化の問題が生 じ,そ の経済政策運用が難 しくな る。 この両次元の関係 を図示す ると次のよ うにな

る。

図 1は経済発展段階に連動 し説明す る事 もで きる。低開発国は両方の優位性 が低いために,現在低生産性 と低所得水準にあるが,ある程度 の立地特有優位 を開発す ることによって (例えば低賃金の労働力または政府の援助)外国の資 本を部分的に導入 し,初期の工業化を達成す る事がで きる。 工業化が進むにつ れて賃金が上昇 し,新たによ り高次元の立地優位 (例えば熟練労働者,科学技

1

国際競争力の

2

次元性 マ トリクス 立 地 特 有 優 位

所有

特有 産業空洞化 持続的経済成長

(例 :米,莱) (例 :日本)

経済の長期沈滞 (例 :カナダ,豪州及び経済の従属または海外依存型成長アジア中進国)

4)i bi d p.

(4)

31 8

所有

43巻 3 ・4

L B C

D

A \

立地

術基盤等)が必要 とな り,いずれ所有特有優位の開発及び蓄積が必要 となる。

現在アジア

NI ES

や一部のアセアン国家が この段階にきている

2

で示 しているように,

A

線上の成長が限界に達す ると,

B

‑線上‑の方向 転換が要求 されるが,失敗するとDに逆戻 る結果になる 今の ところ日本は方 向転換に成功 した例であるし,ブラジルなどの南米途上国は失敗 したケースと 言える。また,アメ リカやイギ リスはすでに高度産業化時代 と経済の成熟化を 経て,

B

か ら

C

の方向‑移動 した例 と言える。

② 海外進出と日本企業の国際競争力

海外進出と日本企業の国際競争力を論ず るとき, しば しば議論の焦点 になる 問題が 「日本的経営」の海外移転可能性である。 日本的経営 というとかつてア ペグレンによって指摘 され,その後 「三種の神器」 とまで賞賛 された終身雇用 刺,内部昇進,年功賃金を意味す る。 しか し三種の神器が企業のパフォーマ ン スにどれだけ肯定的な影響 を及ぼ したのかを断定的に評価することは危険であ る。そもそ もアペ グレンが これ らの経営特徴を日本企業のエ ッセ ンスとして取

り上げた時代の日本製品は,今 と違 って,低廉な労働力と内外価格差によるダ ンピング輸出を中心につ くられた低品質の代名詞であった事を考慮す ると, こ

(5)

日本企業 の国際競争 力 と系列 ・下請 け構造

31 9

の様な文化論または制度論 (企業内組合制 とか棄議制等)に基ず く国際競争力 の説明は,かつての高度成長期にはともか く今ではその説得力に欠 ける。

中川多善雄は日本的経営について旧来論 じられることが多かったのは主 とし て終身雇用,年功賃金 といった人事 ・労務管理を中心に した側面であったとし その弊害を次のように指摘 している

。5)

「こうした日本的なシステムは昇進の遅 さ,職務の不明瞭性,意思決定へ の参加, 日本人 との給与格差などか ら,アメ リカ的な経営 システムにな じ みのある若年層などには評判が悪い。一方では,必ず しも有能 とはいえな い高年層が残 って しまうという傾向があるとい か くして 日系企業は有 能な現地人管理者を確保 しにくいという傾向が出ている。」

もうす こし具体的に海外に進出 している日系企業で働 く現地人の不満の声を ひろってみると,重要なポス トが現地人ではな く日本人によって占め られてい る事 と,それにともなって,せ っか く有能な現地人管理者の採用に成功 したと して も昇進機会の制約が大 きな不満要因 となっている。また,年功賃金制度 と 能力主義的な賃金体系を無理や りつなごうとして, 日本人 と現地人の賃金体系 が異なる二重賃金休系の問題 も起 きている。同 じ仕事を して も,給与の面,罪 進の面での差別を受けまた重要な意思決定はほとん ど日本人だけで処理 されて しまう秘密主義的な経営態度に関す る不満の声が依然 として大 きい。 これはそ もそ も海外に移転す る事が適切ではない文化的側面が強いものを, しか も必ず しも普遍的でないものを,いままで国内では通用 したという錯覚の もとで無理 に海外で も適用 した結果にはかな らない。海外 において も十分通用す る真の国 際競争力は,終身雇用や年功賃金のような文化的

( c ul t ur e‑bounde d)

要因 ではな く,非文化的

( c ul t ure‑f r e e)

要因で議論す る事が重要である。

現在 日本国内において も,終身雇用や年功賃金制についての見直 しが盛んに 議論 されている。その背景には絶対人 口数の減少による労働力不足や高齢化問 題が今後 ますます深刻になり,終身雇用や年功賃金の維持に固定費的性格のコ

5)中川多善雄 「日本企業 グローバル化 と日本的経営

」 ,

降旗武彦編著, 『日本的経営 とグローバ リゼーション

(白桃書房

,1 9 9 2 )p. 21 9

(6)

320 43 3 ・4号 ス ト圧迫要因となっている事がいえる。 6)

また, 日本的経営の もう一つの潮流 として従来か ら議論 されてきた集団主義 的側面 もここにきて 日本の社会が 「会社人間」に対する批判が強まり,生活の 質や豊かさを求めるようになってきているので,より個人の価値を重視す る方 向に大 きく変貌 している。言い替えれば,従来 日本的経営の特徴 として賞賛 さ れてきた集団による意思決定が,今後 日本経済が成熟 (もしくは沈滞)す るに つれて個人の自己実現欲求を重視する方向へ百八十度転換せざるを得な くなっ ているともいえる

この様に考えると,現在 日本企業の持っ国際競争力の根源で, しか もボーダ レス時代において も十分通用すると思われるものは,高い生産性 と完壁なまで に仕上げることを可能にす る生産管理 システム しかない。ただ し,いままで議 論 してきたように, 日本企業の生産 システムの海外適用性問題を考える際にお いて も,単 に 「かんぽん方式」や

「 QC

サークル」または 「改善制度」の物理 的または形式的 レベルでの適用可能性を論ず るのは望ま しくない。む しろ,そ のよ うな生産管理手法が どのような土台の上で成 り立 っているのかを究明 し, 海外 において もその様な土台造 りが可能なのかを検討すべ きである。

例えば, 「必要な ものを,必要な時に,必要な量だけ」生産す る トヨタのか んぽん方式は,一般に,労働者に多工程を もた らし,納期を厳 しくチェックす ることによって連続的な後工程引き受けが実現された無在庫生産 システムとい う風に説明される。 しか しこのような生産方式を可能にす るのは,けっして高 度なオー トメーションや先端機械の導入ではない。む しろ,簡単な金型の交換 やそのネジを回 し方のあ らゆる作業工程 レベルで 「無駄」を省 くための撤密な 努力の積み重ねの結果である。また,アセ ンブ リメーカーとその部品供給会社

との緊密かつ安定的な協力関係が何よりも重要な前提条件 となる。

6) Nobuo Kawabe and Tat suo Ki mbara , " Revi ew of St udi es on

Japanese‑St yl e Management

,"

i n TT ・ anS fer o f Ja p anese Te chnol ogy

a ndManageT nentt Ot heASEAN Co乙 上 nt T ・ i es ,ed.byS.Yamashi t a

, 広 島 大学経済学部

,1 99

1

, p. 1 32

(7)

日本企業 の国際競争力 と系列 ・下請 け構造

32 1

本高では, 日本企業の国際競争力の根源 としての優れた生産 システム背景に ある系列 ・下請け構造 に注 目し,その経済合理性やエ ッセ ンスを海外において も適用 しうる所有特有優位なのか,それ とも日本で しか通用 しない立地特有優 位なのかを以下検討 してい く。

3.

系列 ・下請 けの構造 の特徴

① 下請け企業の経済的地位

従来, 「下請け」 といえば,親企業のい うなりで,好況時にもあまり恩恵を 受けず,不況時には最初に注文をカ ッ トされ る 「経済的弱者」 というイメージ が強い

。7)

た しか に, コス トダウンの要求や, 自己開発の利益を価格低下 と いう形で親企業に還元するなど不利益を受 けているの も事実である しか し現 在 日本における大企業 とその部品供給会社 としての下請け企業 との関係は一方 的な上下関係 というよりは,む しろ相互依存の対等に近い ものとしての認識す べ きである。

その理 由 として は,図

3

で見 られ るよ うに,親企業

1

社 に取引を依存す る

「専属型」下請け企業の割合が低下 し,複数の親会社 と同時に取引を行 う 「分 散型」の下請 け企業の割合が ここ数年間かなりの勢いで増えていることをあげ

られ る。 8)

この傾向は トヨタの部品下請けメーカーの組織である協豊会など 「協力会」

を設けて,系列関係を強 く要請 している自動車産業でさえ も,系列の枠を越え て他企業‑の納入が 目立 って増えていることによって裏付 けられる。坂本 ・下 谷の指摘 によると,特 に電装品関係で こうした動 きが 目立っ とい う

。9)

また 最近で は技術分野の高度化 にともない, 自動車部品メーカーとコンピュータ

7)

植草益 『産業組織論』筑摩書房

,1 9 8 2

参照

8

)柳沼寿 「系列間題の理論的アプローチ

」 ,

清成忠男 ・下川浩一編 『現代の系列』 日 本経済評論社

,1 9 9 2 ,pp. 1 0‑1 2

9

)坂本和一,下谷政弘 『現代 日本の企業 グループ』東洋経済新報社

1 9 87

2

参照

(8)

32 2

1 9 9 0

( o o f )

43巻 3・4

3

下請 け中小企業 の類型別 シェア

取 引分散型

2 . 4

準 専 属 型 準 分散型

3 4 . 5 3 . 8 . 6 2 4 . 5

出所 :清成忠男 ,下 川浩一編 『現代 の系列 』 日本経済評論 社

,1 9 9 2

,

p.1 2

(症)専属 型 :親企業数

1

社 ,下請比率

90%以上

準専 属型 :親 企業数

2‑ 5

かつ 下請 比率

90%以上 (も しく

は親企業数 1社 ,下 請比率

90%未満)

準取 引分散型 :親企業数

2‑ 5

かっ 下請比 率

90%未満 (も

しくは親企 業数

6

社以上 ,下請 比率

70%以上)

叙 引分散型 :親企業数

6

社以上 ,下請比率

70%未 満

メーカ‑,エ レク トロニクスメーカーや医療機器メーカーとの異業種間取引 も 増えている。少な くとも自動車産業に関 して言 うと,アセ ンブリメーカーを頂 点 とす る典型的な ピラ ミッ ド型構造の他に,複数アセ ンブ リメーカー‑の同時 納入および他産業 メーカーへの納入 といった,部品会社を頂点 とす る 「逆 ピラ

ミッ ド構造」 も存在す る

。1 0 )

② 高い外製比率 とオーバーラップ効果

日本特有のアセ ンブラ対下請け問の経済合理性を探るために, 自動車産業の 取引内容について検討す る。よ く比較 され る例 として,アメ リカで は自動車

1 0 )

清成忠男 「わが国 における系列 と下請 け企業の変化」,清成忠男 ・下川浩一編,前

掲書

,pp. 1 1 0‑1 1 3

(9)

日本 企業 の国 際競争力 と系列 ・下請 け構造

32 3

メーカーの内製率が高 く, 日本の 1次下請けレベルまでがアセ ンブラの中に垂 直統合 されているのに対 し, 日本の場合 には外注比率が約

7‑8

割 とも言われ ている。一方た とえば, トヨタに部品供給を行 う協豊会のメ ンバーが

2 7 0

社程 度であるが,

GM

が取引を もつ部品業者 は

1

2 ′ 5 0 0

社 というデータもある

。l l )

どうして内製化比率の低い トヨタの方が取引のある部品メーカーの数が極端 に す くないのか.それはすでに述べたような複社発注の要因以外に,一つの下請 け企業が複数の部品を供給 しているか らである たとえば, トヨタ系の下請 け 企業である小島プ レスの場合,売上の

1 0 0%

が トヨタ向けであるが,およそ

5 0 0

種類の部品を供給 している。そのなかにはさらに 2次下請けに外注 しているも

の もある。

伊丹によれば, このような日本特有の発注パターンが

2

つのオーバーラップ 効果を もた らす という 。 一つは,複数の企業がある特定の部品の技術を共有 し ていることであ り, これによって発注側 は常に代替供給者を準備 している結果

となる。 もう一つのオ‑バーラップは,納入企業か らみたオーバーラップであ る。すなわち下請 け企業が自社の持つ基本的な技術を利用可能な範囲で,複数 の製品を納入す ることによって範囲の経済効果が持たされる

。1 2 )

いままで高い外製比率のメ リットとして大企業の リスクシェア リングが主 と して議論 されきたように思われ る。低廉豊富な労働力の存在を前提 とした低賃 金の迂回的利用,資本節約,景気変動のバ ッファーなどがそれである しか し 上述 したように,下請け中小企業 も同様な リスクシェア リングを行 っている。

中小企業庁の 『製造業分業構造実態調査』

( 1 9 L 9 0

年)を見 ると,設計 開発能 力を有す る下請 け企業 は今や

38 . 4%

,研究開発能力を有す る下請 け企業 も

2 7 . 3%

まで拡大 してきている。そればか りか,親企業 と同等の技術力を有す る下 請 け企業が

1 7 . 2%

, さらには親企業が持たない技術を保有す る企業 も

1 7 . 2%

ll)港徹雄 「日本型生産 システムの編成機構 一企業間組織の生産性視点

青山国際政 経論集』第

2

,1 9 8 4

,

p. 8 . 2 、

1 2 )

伊丹敬之外 『競争 と革新 一自動車産業の企業成長』東洋経済新報社

,1 9 8 8

,

p p. 1 4 9 ‑5 1

(10)

324

43 3 ・4 にまでたかまっている

。1 3 )

(診 長期継続取引関係

この 日本特有の下請 け構造が国際的に注 目を集め, さらに日本企業の国際競 争力の源泉 となる最大の理 由はその取引関係が長期かつ安定的であるためであ

る。例えば, 自動車産業 における親企業 と下請 け企業 との関係 は半永久的であ る。ただ, フルモデルチ ェンジの場合 には

4

年 ごと,マイナーは

2

年 ごとに数 量調整 と価格調整の節 目が くるだけである

。1 4

)親会社が市場条件が厳 しい時 期 に納期および納入価格の面で無理を言 った場合 には,好況期 にそれをカバー す るような好条件を提出 し,長期的にバ ランスを とる。

中谷巌 は産業組織論的立場か ら, 日本の産業組織の基本的な特徴の一つ とし て市場 と組織の間に多様 な 「中間組織」

( Loos e l y‑c oupl e dne t wor k)

が 存在す るとし,系列 ・下請 けはまさにこの中間組織の一種であると強調す る。

かれ はこうしたアセ ンブラと下請 けメーカー間には 「共同体的性格」があ り, それが緊密かつ持続的関係を保証す る仕組みになっているとい う。 15)

この点 に関連 して,今井賢一 はマーク ・グラノペ ック一等によるネ ッ トワー クにおける情報伝達の研究を引用 しなが ら,強い連結のネ ッ トワークよりも弱 い連結のそれにおける方が,よ り迅速かつよ り広範囲に情報伝達がなされ ると 主張す る。その根拠 として,弱い連結の場合 には,情報を発す る方が強い責任

を感 じずに気軽 に伝達 しうるか らであるとい う。16)

この様 に考えると, 日本のアセ ンブ リメーカーの内製率が低 いのは,上述 し たよな リスクシェア リングの理由以外 に も,意図的にルーズな中間組織を創 り 出す ことによって,よりスムーズに情報交換を行 い,一種の共同体的な意識で

1 3 )

坂本光司, 「わが国下請け企業の経営戦略」,清成忠男 ・下川浩一編,前掲書,

p. 1 8 5

1 4 )

浅沼寓里 「自動車産業における部品取引の構造

『季刊現代経済

』SUMMER 1 9 8 4 ,p. 4 1

1 5 )

中谷巌 「企業グループの経済機能

『季刊現代経済

』SUMMER 1 9 8 4 pp. 1 4

‑1 5

1 6 )

今井賢一 「ネットワーク産業組織

『季刊現代経済

』SUMMER 1 9 8 4 p. 1 0

(11)

日本企業 の国際競争 力 と系列 ・下請 け構造

32 5

うま く統合 してい る ところに本 当の妙味が あ ることがわか る また浅沼寓里 は 「企業 に特有の技能」に対 して 「関係 に特有の技能

( r e l at i on‑s pe c i f i c s ki l l

) とい う概念 を用 いて継続的 な下請 け とバ ッフ ァー的下請 け とい う

2

つ の通念の間にあるギ ャップを説 明 している。 17)

④ 地域密集型的特質

このよ うな 「関係特有優位 」を もつ組織ネ ッ トワークと しての下請 け中小企 業 は東京,川崎の下町の様 に特定地域 に密集 し,立地す ることによって学習, 情報共有効果が さ らに増 幅 され るとい う。18)す なわ ち,数多 くの従業員

1 0

人 以下の零細規模 の第 2次, 3次下請 け企業がすべて歩 いて行 ける程度の隣接 し た場所 に存在 し,他国には類例がない独特 なネ ッ トワーク効果を もた らすので ある。ただすでに述べたように,今後 ます ます加速化 され ると予想 され る慢性 的な労働力不足現象 もあ って,いままで特定地域 に集 中 して行われていた分業 生産をよ り広域 的または国際的に展開す る試みが増えて きている。例えば, ト

ヨタ自動車 は, これまで三河地域で集 中生産 していたのを,今後九州,東北, 北海道 にそれぞれ生産拠点を分散 ・拡大す る計画をすでに実行 している。 した が って, とりあえず この地域密集型 とい う側面 は今後大 き く変貌す ることが予 想 され る。

4.

日本型生産 システムの海外移転

いままで論議 したよ うに 日本企業の国際競争力 は,単一企業ベースで考 え ら れ るものではな く,数多 くの下請 け企業を も包括す る一種の共同体的な協力関 係 にあ る

したが って, 日本企業 の海外進 出には この よ うな下請 け部品 メー カーの国際化 とい う付随問題 を同時に考慮す ることが要請 され る019)還元す

1 7 )

浅沼寓里 「日本におけるメーカーとサプライヤーとの関係」土屋守章 ・三輪芳朗編

『日本の中小企業』東京大学出版会

1 988 pp. 73‑77 1 8 )

今井賢一 ,前掲書

, p.8

1 9 )

中川多善雄,前掲書

, p. 21 8

(12)

326

43

3・4

れば, 日本固有の企業関連 システムの効率性,すなわち,企業間組織の生産

( i nt e r‑f i r m pr oduc t i v i t y)

を海外 において どのように創 り出 し,発展 し てい くかが問題の焦点 となる。以下ではアジア,特に

ASEAN

諸国に進出す

る日系企業を念頭に置 きなが ら議論を進めることにする。

個 々の企業を越えた企業間組織に国際的競争力の根源を持っ 日本型生産 シス テムは,やはり国内生産を前提に した立地優位の側面が強いので,そもそも下 請 けに依存す る組立型産業を海外に移転す る自体 に無理がある。 したが って, 従来通 り日本国内で部品を生産 し,海外に進出 しているアセ ンブ リメーカー‑

輸出等を通 じて部品を供給す ることが考え られ る。 しか し産業のグローバル 化,国内賃金の上昇,労働力不足の解消等の理由で海外における産業拠点づ く

りが不可避 となった現在,アセ ンブラの内製比率が低いこともあって,国内と 近似な生産 システムを現地国で編成す ることが必要 となる。

そ こでまず考え られることは,輸出向け生産を指向 している韓国,台湾など

NI ES

諸国にかって進 出 した際み られた傾向 として 「船団型海外進 出パ ター ン」を上げ られる

。20)

これは大型アセ ンブ リメーカーが進 出す ると関連下請 け企業 も現地進出を促 させ,できるだけ国内に近似 した下請け生産 システムを 現地に構築する方法を意味する

しか しこの 「船団型海外進出パ ター ン」は

NI ES

以外のアジア諸国で はほ とん ど見 られない。資料 によると

NI ES

以外のア ジア諸国においては,関連 中小企業の進出はごく限 られたものになっている。例えば,韓国,台湾, シン ガポールにおいては,機械 ・金属工業部門での 日系進 出中小企業数が,1

0 0

社 を越えているのに対 し,マ レーシア76社,タイ79社,イ ン ドネシア63社 に過 ぎ ない

。2

1)

ここ数年問アジア

NI ES

諸国の急激な賃金上昇などの理 由で,低賃金 を背

20)

港徹雄 「日本型生産 システムの国際移転性」 山崎清 ・林吉朗編 『国際テ クノ戦略』

有斐閣

,1 98 4 ,pp. 43‑6 8

2

1)中村秀一朗 ・小池洋一編 『中小企業 のア ジア向け進 出』 ア ジア経済研究所

,198 8

,

pp. 68‑69

(13)

日本企業の国際競争力 と系列 ・下請 け構造

327

景を した労働集約的および輸出志向的産業での

ASEAN

進出が急速 に増えて

いる。 とりわけ投資優遇策が充実 しているタイ,マ レーシア,イ ン ドネシアへ の積極的進 出が 目立っ。 しか し

,ASEAN

における日本企業の 「船団型海外 進 出パ ター ン

は依然 として難 しい。それにはい くつかの理由が考え られ る。

ひとつはローカル コンテ ン トの問題である。 もちろん国によって多少差 はある が,

ASEAN

諸国は機械生産の国産化比率を引 き上 げるためかな り強力な現 地化政策を採 っている。例えばマ レーシアの場合, 自動車産業 における現地調 達率 は

1 9 8 5

年の

5 0%

か ら年 々増加 し

8 7

年 にはすで に

6 9%

に達 している また 現地市場のサイズがなだ小 さいの もあって,た とえ親企業 と付随 して進 出 した として も,その生産量が非常 に少な く,部品等の生産において適正生産規模を 満たす ことが難 しい。またイ ンフラなどの投資環境が整備 されていないことも 中小部品メーカーの積極的な進出を妨げる要因 として作用す る。

いずれにせよ,上で述べた 「船団型海外進出パ ター ン」が難 しいとなると, 残す道 は,現地において下請 け部品メーカーを長期的かっ グローバルな視点か ら創 り出 し育成 して行 くことが必要 にな る。 この際 に注 目すべ きことは,

ASEAN

諸国の技術格差およびその他の投資環境 に応 じてそれぞれの国で異 なる部品を生産 し,相互補完す る域内水平分業の利用である。 トヨタは,タイ ではディーゼルエ ンジンやプ レス部品, フィ リピンでは トランス ミッシ昌ン, マ レーシアではステア リングギア,そ してイ ン ドネシアではガソリンエ ンジン や シリンダヘ ッ ド等を生産 し, シンガポールにある地域本部にて統合す る水平 分業 システムをすでに展開 している。

5.結びに代えて

バ ブル経済の崩壊後, 日本企業 は製品数の削減や部品の共通化など,ス リム 化経営 に乗 り出 している。特に最近売上が落ちている自動車産業においては, トヨタ自動車が

9 3

年 までに車種数で

2 0 %

,部品数で

3 0 %

の削減を決定 し,また 従来 4年毎 に実施 してきたフル ・モデル ・チェンジも今後 5年 に伸ばす ことを

(14)

3 2 8

43巻 3 ・4

明 らかに した。また, 日産 も今年を初年度 とする

3

ヶ年経営中期計画で,毎年

1 0%

ずっ生産性を高めるという 「テ ン ・テ ン ・テ ン」の目標を揚げている。 こ れは車が売れて も利益が出ないという多品種生産への反省がその背景にあると 思われ る。すなわち,あまりにも行 きす ぎた多品種生産‑の こだわ り競争 によ り,消費者にとっては 「トヨタの車種 は全部似ている」 という批判を招 き,ま た生産において も極端に汎用性の低い部品の数が増加 したことか ら,かえ って

コス トア ップの圧迫要因 となったのである。

この ことは前述の 「三種の神器」同様, 日本が世界 に誇 る生産性神話 とその 背景 にある系列 ・下請 けの経済合理性が今大 き く揺 られていることを意味す る。すなわち日本独 自の 「関係特有優位性」 としてのアセ ンブリメーカーと広 範な下請 け部品メーカーとの一種の共同体的な協力関係が大 きく変貌す る可能 性を も示唆する。 とりわけこの大 きな共同体の一員 として庇護下にあった数多 くの 「貸与図」メーカーにとって,上述の様な環境変化は重大な脅威要因にな ることは間違いない。その中で も独 自の開発能力を持たない, しか もかな り汎 用性の低 い部品を生産 している零細下請けメーカーはかなり厳 しい状況に追 い 込まれるであろう

しか し,一方 においては同 じ脅威要因をステ ップア ップの契機 とし,逆に大 きな前進を成 し遂げることも可能である。例えば部品メーカー同士が協力 し, より付加価値の高いユニ ッ ト生産に乗 り出す ことも考え られ る。 これを契機に 日本の下請け企業が中小企業な らでの柔軟性をフルに生か し,ベ ンチャー企業 としての革新的経営に徹す ることによって,大企業 と本当の意味においての対 等関係に成長 して欲 しいと願いたい。

最後に,本稿 は 「日本企業の海外投資 と企業間関係」 という トピックで平成

4

年度特定研究費を頂 き,その成果の中間報告的 ものであることを記す る データ処理研究会のみなさまには勉強会等での貴重なア ドバイスやコメン トを 頂いたことをこの場を借 りて感謝する。なお本研究会 においては,本高で行わ れた主 に文献中心の リサーチファイ ンディングをさ らに展開 し,

ASEAN

進 出の 日系企業‑のア ンケー ト調査を行 う予定である。

(15)

日本 企業 の国 際競争 力 と系列 ・下請 け構 造

32 9

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参照

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