石川 県に おける ヒ ト の イ ヌ
糸
状虫
症感
染 に対す る背
景 の疫
学 的 研 究金沢 大 学医学 部 公 衆 衛 生学 講 座 (主任代理: 中 村 硲 之 助 教 授)
畑 直 宏
ヒ ト のイヌ糸 状虫 症は, 近 年, 人 畜共 通 寄 生虫 症の 一 つ と L て注目 され 掛こ肺イヌ 糸状 虫 症は肺 癌を は じ め, その他
の肺 疾 患と鑑 別しにくい疾患でも ある. 病 原 体と な る イヌ糸 状 虫( β如才払 イαr′乃 mff′∫) は, 本 丸 イヌ ・ ネコな ど肉 食 獣を終 宿主 とする寄 生 虫で, ア カイエ カ, ト ウゴウヤプカな ど媒 介蚊によ り伝 播され る, ヒ トが イヌ糸 状 虫の感 染 幼 虫である第m 期 幼 虫を保有 する蚊に刺 唆され, その第Ⅲ期(感 染)幼 虫の侵入 を受 け, た ま た ま発 症 する・ 石川 県においても 発 症 例が報 告され るに至り, 本症の発症に関 する背 景を検 討L た. まず, 本 症 媒 介 蚊お よ び その蚊のイヌ糸 状 虫 幼 虫 保 有状 況を, 金 沢 市 内2 ケ 所におい て調 査L た. 市 北 部 住 宅 地填では3 3 8個 体の蚊が採 集され ア カイエカが 3 0 4個 体( 8 9,9 % ) と最 も 多 く, 他は 3 4個 体と 少 数な が ら 5 種 構の蚊が採 集さ れ た, こ の ア カイ エ カ3 0 4個 体 中1 3個 体(4・3 % ) にイヌ 糸 状 虫 幼 虫が検 出さ れ , う ち 2 個 体 (1 5.4%, ア カイエカ全 体で は 0.7 % ) か ら は第Ⅷ期 幼 虫が検 出さ れ た. し か L, 他の市 東 南 部 住宅 地では蚊はほと ん ど採 集さ れ ず, 蚊の分布は地 域 的な環 境によ り異な ること が判 明し た. 次に石川 県 内の1 0市町村, 1 2地区の計9 8 1名の健 康 人血清に つ い て, イヌ糸状 虫 雌 成虫の抽 出( D tr ofila ria im mitis adult e x t r a c t, Di A E X ) 抗 原に対 する抗 体 検 出を E L IS A によ り試み た とこ ろ, 5地域で の み陽性 域 抗 体価(対 照 群より 待た陽性 限 界, ≧1.7 6) 保 有 者が存在し た. これ らの地 区にお け る陽 性 域 抗 体 価 保 有 者の割 合は 1.6 〜3.4 % であり, 陽性 域 抗 体 価 保 有 者の抗 体価は1.7 6〜1 月4 (平 均1.8 4 ) であった・ ま た, 陰 性 域 抗 体 価 保 有 者
の抗 体価 分布にも他区間に差が見られ, 陽 性 域 抗 体 価 保 有 者が見られ た地 区では陰 性 域 抗 体 価 保 有 者と はいえ, 抗 体 価は全 体
に高かっ た. これらの成 績は イヌ糸状 虫 第Ⅲ期 幼 虫 保 有 蚊の地 域 的 な生 息 分 布に差が み ら れ る と同 様に, ヒ ト における陽 性 域 抗 体 価 保 有 者の分 布にも 地 域 的 な 差が み ら れ ること を 示唆し ている. 更に, 実 扱 的にイヌ糸 状 虫 感 染 動物を作製し, 非 固 有 宿 主 への幼 虫 移 行につ い て検 討L た. 実 験 的にイヌ糸 状 虫を感 染さ せ た ネ ッ タイ シマ カ の 吻か ら得た第Ⅲ期 幼 虫を マ ウス
( B A L B/c) に接 種し, 感 染 後3週目に剖 検し た ところ, 肉眼 的にも,病理組 織学 的にも 虫 体を検 出 すること は できな か った・ 対 照 群マウスの平 均 抗 D i A E X 抗 体 価は1.0 3 ±0.0 2 であったこと か ら, 陽 性 限 界を1.q9 ( 支十3・S D ) あるいは1・2 3 ( 豆+1 0・S D ) の2 つを設 定し, イヌ糸 状虫 第Ⅲ期 幼 虫 接種マ ウス の陽性 域 抗 体価 保 有 状 況を検 討し た. 陽 性 域 抗 体 価 保 有マ ウスの匹数は,
陽性 限 界を 「 孟 + 3・S D 」 とする と1 0 匹中7匹,「支 + 1 0・S D 」 でほ1 0 匹中3 匹 であり, 少なくとも3 〜 7 匹のマ ウス で一 時 的に 感 染が成立 し 以後 幼 虫は 死滅L たものと思わ れ た. すな わ ち, イ ヌ糸 状 虫 第Ⅲ期 幼 虫は非 固 有 動 物でも 一 時 的に感 染 する が, 宿 主の免 疫能によ り排 除さ れ ること が 示唆さ れ た.
K ey Ⅵ′O rds β 如ノよヱαrよαgm m 流 , イヌ糸 状 虫症, 人 畜 共 通寄生 虫 症, ア カイ エ れ 血清疫 学
ヒトのイヌ糸状 虫 症( hu m a n dir ofila ria sis) は! 人 畜 共 通 寄 生 虫 症 (pa r a sitic z o o n o sis) の 一 つと して, 近 年 注目 さ れ る よ うに
なった". 掛こ, 肺のイヌ糸状 虫 症は肺にお け る種々 な疾 患と
の鑑 別 診 断上, 注 意し なけれ ば ならない. 1 9 4 1年, Fa u s t ら2' は, フィ ラ リ ア(fila ria) 類 似虫 体を人 体 内(大 静 脈 中) よ り見い だ して いた が, 種の決 定が できないま ま症 例を記 載して いた. その後, 1 9 5 7年
., Fa u st は病理標 本 中に虫 体を確 認できた症 例
で, 世 界で初め ての ヒトにおける イ ヌ糸 状 虫 症を報 告し てい る3 】. こ の こと があって以来, 多くの研 究者の関心 を呼び, 次々 と症 例が報 告さ れ る よ うになった. わ が国では 1 9 6 4年, 大 阪で
皮下 腫瘍中の虫 体が摘 出さ れ, N ish im u r a ら4 )によ り同 定さ れ
たのが最 初の症 例であった. 次いで! 吉村ら5 )が,肺 癌が疑わ れ たヒトの肺の病 理 標 本 中にイヌ糸 状 虫の幼 君 虫の断 端を検 出
し, 肺イヌ糸状 虫症と し て報 告し て以 来, わ が国でも次′々と報 告さ れ る よ うになった. その後, 1 9 9 3年2月 末まで にわ が 国で の報 告は 91例を数え, そのう ち肺イヌ糸 状 虫 症は6 8例, 他 組織 寄生 例は 1 9札 記 載のみの症 例は 4 例であって, そ れ らの報告 例は年を追って増加の傾 向が う か が わ れ るl '.
本 症の病 原 虫はいう ま でもな く イ ヌ糸状 虫の感 染 幼 虫(第Ⅲ 期幼 虫) で, わ が国で は 主 と して ア カイ エ カ( C祝Jgヱ 〆 錘乃ぶ 卯 肪m れ ト ウゴウヤプカ( A ede ∫ね goオ) な ど が媒 介 蚊と し て知 ら れ, イ ヌ, ネコ を始め肉食 獣に感 染 する. し か し, た ま た ま 人 体に侵入 し た イヌ糸状 虫の第Ⅲ期 幼 虫は, 低い確率ではある が感 染し, ほと ん どの場 合, 第Ⅳ期 幼 虫 あるいは幼 君成 虫にま
で発 育し, 身 体 各 部に踵 嗜を形成, その中に寄 生 する. 特に肺 寄生 例の多 くは,
一 般 検 診 時にⅩ線像の異 常, 銭 型 陰 影が指摘
平 成6 年1 2月2 7日受付, 平 成7 年1 月2 5 日受 理
A b br e viatio n s : A B T S, 2,2‑Azino‑di‑(3‑ethyl be n zthia z olin e‑S ulfo n ate (6)); D i A E X , Dirofilaria■
im mitis adult e xtr a ct ; M F, microfilari a; P B S ,pho sph ate‑buffe r ed salin e ; T‑P B S, tW e e n‑pho sphate buffe r ed s alin e
さ れ, 手術によ り腫 痛が摘 出さ れ, 病理学 的 検索, 虫 種の同定
によ り本症と判 断さ れ た■).
石川県においても 過 去1 0年 樫の間に既に4症 例が報 告さ れ て いる が1 ', 掛こ, 疫 学 的 観 点か ら調査され! 感 染の背 景に閲し検 討さ れ た報 告は ない. 本研 究で はヒ ト にお け る イヌ糸 状 虫 感染
の背 景を知る た めに, 金沢 市 内における媒 介 蚊 相と蚊のイヌ糸 状 虫幼 虫の保 有 状 況を調査し た. ま た 石川 県 各地の 一 般 住民の 抗 体保 有 状 況の血清 疫学 的調 査を行い, そ れぞれの関 連 性を検 討し た. さ らに, ヒ ト はイ ヌ糸 状 虫にと って ほ非固有 種である
ことに鑑み, イヌ糸 状 虫第m期 幼 虫をマ ウス に実 験 的に感 染さ せ, 非 固有 宿主 への幼 虫移 行につ いて検 討し た.
材 料およ び 方 法
t . 金 沢 市 内に お け る イ ヌ糸 状 虫 幼 虫の自然 感 染の実 態 イヌ糸 状 虫 幼 虫の蚊における自 然 感 染 状 況を知る た め に, 金 沢 市 内北 部の平 野 部 住宅 地と南 東 部丘陵 台 地にある住 宅 地の2
ケ所に1 0 W ブラッ ク ライ ト付 野 沢 式ライ トト ラ ッ プ F L M ‑ 6 0 1 G( 東 芝, 東 京)を設 置 し 日没 前か ら翌 朝ま で飛 来 する蚊を 採 集し た. 採 集は1 9 9 3年 夏 期の4 5夜にわ たって行った. ネッ ト に入 った蚊は生か L た ま ま実 験 室に持ち帰り, ク ロロ ホ ル ム で
殺 虫し た後, 種を 同定, 直ちに実 体 顕 微鏡 下で解 剖し, イヌ糸 状 虫 幼 虫の感 染の有無を調べた.
Ⅱ. 石川 県 住 民の イ ヌ糸 状虫 に対 する抗 体 保 有 状 況 石川 県 予 防 医学 協 会か ら,
一般 住 民健 診のた めに採血 ・ 分 離
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F ig・1・ Ar e a s fo r e x a min atio n o王 the a ntibody again st D i A E X a ntige n in he althy pe r s o n sin Ishika w a Pr efe ctu r e.
さ れ た 血清の分 与を う け, 石 川県 下1 0市 町村, 1 2ケ所( 図1 ) の 住 民 計9 81名 分の血清を対 象に, イヌ糸 状 虫 雌 成 虫の抽 出 (D ir ofila ria im mitis adult e xtr a ct,D i A E X) 抗 原に対 する抗 体
の保 有 状況を調査し た. 得られ た結 果ほ, 金 沢 大学 医 学 部 寄生 虫 学 教室で 血清学 的 診 断を行うにあた り対 照と して いる標 準抗 体 価 分布6 )と比較した.
Ⅲ■ 実 験 的イ ヌ糸状 虫 幼 虫感 染 動 物の作 製
1 ・ 実 験 感 染用のイヌ糸 状虫ミ クロ フィ ラ リ ア(mic r ofilaria,
M F) と蚊
実験 感 染用のイヌ糸状 虫M F を含む 血液は, 金沢 大 学 動物 実 験 施 設の犬 舎に飼 育さ れ ている イヌ糸 状虫 自 然 感染イヌか ら採 血 し た・ こ の感染イヌは推定4 才の雌 成 東イヌで, 常に血中に M F を保 有して い た. 実 験 感 染 時にほ , 凝 固 防 止のた め 0・3ml の ヘ パリン の入 っ たシ リ ン ジ を 用 いイ ヌ の前 脚か ら 1 0ml を・採血 し, その血液を 血液 保 存 容器に入 れ, 加温下で蚊に 吸 血 さ せ た. 吸 血用の蚊は, 長 崎 大学 熱 帯 医 学 研究 所か ら分与 され 継 代飼 育さ れ ている ネッ クイシマカ(A gdg ∫ αgg ツ鍾, タ イ ・ バン コ ク産) を用いた.
2 . イヌ糸状 虫 幼虫 感 染マウスの作 製
血液保 存 容 繹は, 内径5c m ∴縦6c m の円筒ガラス 簡で, そ の庶に B A L A/c マ ウス( 三協ラボサー ビス , 東京)の脱 毛腹 部 皮 膚を張ったものである. こ の容器にイヌ糸状 虫M F を保 有 す る 血液1 0m トを 入 れ, 温 湯の循 環によ り3 ㍗C に保った. ナイロ
ン網 布製ケー ジ ( 20 ×2 0×3 0c m , 飼 育蚊 匹 数は約4 0 0 匹) に血液 保 存容 器の底を密 着させる と, 蚊はケ ー ジの布目 を通し血液 保 存 容器か ら 吸 血する. 吸 血時 間は 1 時 間と L た. 吸 血 し た蚊ほ 3 % 砂糖 水を与え, 2 9 ℃の条 件下 で前 述と 同様の ケ ー ジ中で飼 育し た. 吸 血後1 2 日 目 か ら逐 次 少 数の蚊を解 剖し, 頭 部お よ び 吻に第Ⅲ期 幼虫が移動し ていること を調べた. 大 部 分の第Ⅲ期 幼 虫が吻 部に いること を確認できた1 4 日 目に, 生 き 残っ て いた 蚊を 全部 解 剖し, 吻に いる第Ⅲ期 幼虫のみ を取り だ して, 滅 菌 L た イ ー グル エムイ ー エム培 地( 日水 製 薬, 東京) 2 0ml に入 れ た. 実 験に供し たマウス は全て B A L B/c 9 週 令の経で,1 0 匹 を 用い, その腹腔 内へ2 0隻の第町親幼虫を接 種し た. 抗D i A E X 抗 体価の比 較のた めに, 同 様のマ ウス 5 匹の血清を対 照と し た.
3 . イヌ糸状 虫幼虫 接種マウスの感 染に関す る検 討
マ ウスにお け る イヌ糸状 虫 幼 虫 感染の有 無ほ, 第Ⅲ期幼 虫 接 種 後3週目に マウス を剖 検することによ り検 討し た. 剖検は全 採血i こよ り 死に至 ら し め たマウスを, 開腹 ・ 開胸し, 肉眼 的に 検 視後, 肺は直ちに1 0% ホル マ リン液にて固 定, H E 染 色病理 標 本を作 製し て鏡 検し た. 一 方, 採血 し た 血液は 血清 分離し,
その血清を ‑3 0 ℃にて保 存し, 抗D i A E X 抗 体価の測 定7) 8)に供 し た.
Ⅳ. 抗 DiA EX 抗 体の測 定
抗 D i A E X 抗体の検出は D i A E X 抗 原を 用いた E L IS A によ り行った.
1 . D i A E X 抗 原の作 製
D i A E X 抗 原ほ辻9 ) に準じ, 近 藤ら相川 =の方法に従い , 作 製し た. 成 熟イヌよ り摘 出し た イヌ糸 状虫 雌 成 虫は取り込ん だ 血液 を充 分 排泄さ せ る た 軋 3 7 ℃ に 温 め た生理食 塩 水 中(成 虫1 隻/
1 0 0ml) で数 時 間 飼養し た. その間, 生 理食 塩 水ほ 5 回交 換し虫 体を洗浄し た. 血液を排 泄し淡 黄 白 色になった虫 体ほ, その つ
ど凍 結 乾燥し ‑2 0 ℃で保 存した. こ の虫体 約1g を乳 鉢 内で軽