CONTENTS
経済の動き
企業向け銀行貸出の現状と見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 女性の金融資産保有力をさぐる∼男性と肩並べる30∼40代女性の保有残高∼・・・・・・10産業界の動き
需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 レアメタルと都市鉱山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 252008.8 No.688
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し
企業向け銀行貸出の現状と見通し
足許において、大企業向けの銀行貸出が増加しており、背景には、原材料価格高騰に よる運転資金需要増があると見られる。しかし、直近の上場企業決算データを見る限り、 その資金需要環境は、全体的に見て資金需要増加要因に乏しい。このため、企業向けの 銀行貸出は伸びにくい状況が続くと見られる。 1.銀行貸出の現状について 日本銀行「貸出・資金吸収動向等」によると、最近は銀行貸出の伸び率が高まり つつある。2008 年 6 月時点での貸出残高は、前年同月比+2.0%と、2006 年半ば以 来の高い伸び率となった。 図1 銀行貸出額伸び 率の推移 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 2006 2007 2008 (前年同月比、%) (資料)日本銀行「貸出・資金吸収動向等」 貸出先別など、より詳細なデータが得られる「貸出先別貸出金」を見ても、2008 年 3 月末の増加幅は拡大している。内訳を見ると、2007 年末から 2008 年 3 月末ま での動きとしては、政府部門向けが前年差マイナスからプラスに転じたことと、個 人向け貸出の増加幅拡大が貸出全体を押し上げていることが確認できる。民間企業 向けの貸出残高は、小幅ながら前年比増加を維持する形となっている(図2)。 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 2005 2006 2007 2008 公的部門 個人 民間企業 合計 図2 貸出先別貸出額の推移 (前年同期差、兆円) (資料)日本銀行「貸出先別貸出金」住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し 民間企業向けの貸出残高前年差の推移を、幾つかの観点から詳細に見ていこう。 業種別に見ると、概ね下の点が指摘できる(表1)。 ・ 製造業は年間 1∼1.5 兆円前後の堅調な伸び率を維持している ・ 2008 年に入ってから、電気ガス・運輸が前年差プラスに転じた ・ 2006 年まで増加していた貸金業・非預金信用機関向けの貸出は、2007 年以降 前年差マイナスが続いている ・ 不動業向けの貸出残高は、まだ前年差プラスを維持しているものの、そのプ ラス幅はサブプライム問題が顕在化した 2007 年後半以降大幅に縮小している。 (前年差、兆円) 2008 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ 合計 -0.5 4.7 6.5 8.3 5.4 4.2 0.9 0.7 1.1 製造業 -1.0 0.3 0.6 1.3 0.7 1.3 1.1 1.4 1.1 建設業 -1.3 -1.1 -0.8 -0.8 -0.7 -0.6 -0.5 -0.5 -0.6 電気・ガス・熱・水道 -0.2 -0.0 -0.2 -0.0 -0.2 -0.2 -0.1 -0.1 0.4 運輸業 -0.1 0.3 0.2 0.5 0.0 -0.1 -0.2 -0.3 0.2 卸売業 -0.0 0.1 -0.4 -0.2 -0.7 -0.1 -0.3 -0.2 -0.1 小売業 -0.7 -0.4 -0.6 -0.6 -0.6 -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 金融保険 2.9 3.5 2.2 2.1 -0.9 -1.9 -1.1 -0.9 -0.3 貸金業・非預金信用機関 3.2 2.7 2.0 1.4 -0.7 -0.8 -0.8 -1.3 -0.5 不動産 1.1 1.6 5.0 4.9 5.5 5.6 2.4 2.4 2.0 各種サービス -1.0 0.1 0.1 -0.1 1.0 -0.1 -0.5 -0.2 -1.2 -3.5 1.2 4.2 6.2 6.3 6.1 2.1 1.6 1.4 (資料)日本銀行「貸出先別貸出金」 2006 2007 金融保険除く 表1 業種別 民間企業向け貸出合計額増減 企業規模別に見ると、中堅・中小企業向け貸出が大幅に減少する一方で、大企業 向け1貸出が増加し、全体を支える形になっていることがわかる(図3)。 -4 -2 0 2 4 6 8 10 Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ 2006 2007 2008 大企業 中小企業 中堅企業 合計 (前年同期差、兆円) 図3 民間企業向け銀行貸出増減の規模別寄与度 (資料)日本銀行「貸出先別貸出金」 1 「貸出先別貸出金」における大企業とは、資本金 10 億円以上であることに加えて、常用雇用 者が 50∼300 人超(業種により異なる)の条件を満たす企業。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し そして、大企業向けの貸出残高の推移を資金使途別に見ると、足許における増加 分の殆どは設備資金以外の増加によるものであることが確認できる(図4)。なお、 設備資金以外の貸出(以下では「その他資金」とする)は、全体の貸出から設備資 金を差引いて算出しているもので、運転資金や企業買収資金、約定弁済見合いの新 たな借入など、様々な資金が含まれるものである。 大企業向けの貸出残高前年同期差を資金使途・業種別に見ると、製造業では食 料・紙パルプ・化学といった素材系でその他資金の貸出残高が増加している。また、 非製造業では電気ガス業向けの貸出増加幅が大きくなっていることから、最近の大 企業向け貸出増加要因の一つとして、原油を始めとする原材料価格高騰による運転 資金増加が考えられる。 (前年同期差、億円) 合計 設備資金 その他資金 製造業 + 14,161 + 1,335 + 12,826 食料 + 899 ▲ 148 + 1,047 パルプ・紙 + 2,045 + 397 + 1,648 化学 + 3,973 ▲ 225 + 4,198 石油・石炭 ▲ 946 ▲ 406 ▲ 540 鉄鋼 + 970 + 146 + 824 一般機械 ▲ 250 ▲ 15 ▲ 235 電気機械 + 1,705 + 474 + 1,231 輸送用機械 + 838 + 334 + 504 精密機械 + 3,054 + 770 + 2,284 建設業 + 1,704 ▲ 16 + 1,720 電気・ガス・熱供給・水道 + 3,362 + 383 + 2,979 運輸業 + 1,369 + 654 + 715 卸売業 + 4,955 + 122 + 4,833 小売業 + 620 ▲ 147 + 767 金融・保険業 ▲ 981 + 296 ▲ 1,277 不動産業 + 8,418 + 1,052 + 7,366 各種サービス + 7,489 + 67 + 7,422 (資料)日本銀行「貸出先別貸出金」 表2 業種別の運転資金・設備資金借入残高前年差 (大企業、2008年3月末) -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ 2006 2007 2008 設備資金 その他資金 合計 (前年同期差、兆円) 図4 大企業向け銀行貸出増減の 資金使途別寄与度 (資料)日本銀行「貸出先別貸出金」 2.大企業の資金需要動向∼上場企業の決算データから その他資金の貸出が伸びている要因として他に考えられるのは、名目売上高増加 に伴う売掛債権増加等による運転資金需要や、企業買収資金需要などが挙げられよ う。では、大企業の資金需要の背景にある動きは現在どのようになっているのか。 そして、足許の貸出増加は持続的なものと言えるのだろうか。 これを見るために、本レポートでは上場企業の有価証券報告書データを用いて、 大企業の資金需要動向を分析してみたい。今回分析対象としたのは、03∼07 年度ま での5期連続で連結キャッシュフロー計算書のデータが取得可能な上場企業 2,588 社である。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し 上場企業の資金需要を①運転資金増加分(売掛債権増減+棚卸資産増減−支払債 務増減)、②固定資産純投資、③投資有価証券純購入(新規連結子会社買収も含む)、 ④その他−の4つに分け、その内訳と合計を図5に示した。これを見ると、上場企 業の資金需要合計額は 2006 年度の 48.8 兆円から、2007 年度は 48.3 兆円に小幅で はあるが減少に転じたことがわかる。 20.7 29.1 38.0 48.8 48.3 -10 0 10 20 30 40 50 60 2003 2004 2005 2006 2007 その他投資 投資有価証券純購入 運転資金需要 固定資産純投資 資金需要合計 (兆円) 図5 資金需要の内訳 (上場企業2,588社合計) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成 資金需要頭打ちの要因を探るために、それぞれの資金需要の前年差を図6に示し た。これによると、2007 年度は②の固定資産投資のための資金需要は前年比増加が 続いているものの、それ以外の①運転資金、③投資資金、④その他がいずれも減少 しており、これが資金需要頭打ちの要因になっている。 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 2004 2005 2006 2007 その他投資 投資有価証券純購入 運転資金需要 固定資産純投資 資金需要合計 (兆円) 図6 各資金需要構成要因の前年差 (上場企業2,588社合計) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成 そこで以下では、前年比減少した運転資金・投資有価証券購入資金とともに、設 備投資資金の動向を詳しく見ていくこととする。 (1)運転資金需要の動向 2,588 社合計の売上高は、2007 年度で 683 兆円(前年比+6.9%)と、増収を続 けている(図7)。しかしながら先に見た通り運転資金需要が増えていない。そこ
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し で運転資金需要を売掛債権・棚卸資産・買掛債務それぞれの増減に分けて見ると、 2007 年度は棚卸資産の増加が続く一方で、2006 年度まで増加を続けてきた売掛債 権と仕入債務が、双方とも減少に転じた。仕入債務の減少は資金需要を増やす要因 となるが、売掛債権の減少額の方が大きかったために、結果として運転資金需要額 全体では、前年よりも縮小することとなった(図8)。 516 547 590 639 683 450 500 550 600 650 700 2003 2004 2005 2006 2007 図7 売上高の推移(2,588社合計) (兆円) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 -6 -3 0 3 6 9 12 15 18 2003 2004 2005 2006 2007 ▲買掛債務増減額 棚卸資産増減額 売掛債権増減額 運転資金合計 図8 運転資金増減額の内訳(2,588社合計) (前年差、兆円) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 企業別に売上高・売掛債権残高それぞれの増加企業割合を見ると、2007 年度の増 収企業割合が 2,588 社中 69.8%(前年差▲8.1 ポイント)であるのに対して、売掛 債権が増加した企業は 45.7%(前年差▲22.6 ポイント)と全体の半分に満たない 水準まで大幅に低下した(図9)。 73.9 75.7 77.9 69.8 59.0 63.2 68.3 45.7 40 50 60 70 80 2004 2005 2006 2007 売上増加企業割合 売掛債権増加企業割合 (%) 図9 売上・売掛債権増加企業割合(全2,588社) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 また、売上増減・売掛債権増減の組み合わせ別企業数の推移を見ると、売上が増 加したにも関わらず売掛債権が減少した企業は 2007 年度に 805 社(全体の 31%)
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し となっており、この数は 2006 年度の 486 社から 6 割以上も増加している(図 10)。 1,316 1,416 1,531 1,001 597 542 486 805 210 220 237 182 465 410 334 600 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2004 2005 2006 2007 売上増・売掛債権増 売上増・売掛債権減少 売上減・売掛債権増加 売上減・売掛債権減 図10 売上増減・売掛債権増減組合わせ別企業数 (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 2007 年度に売掛債権残高が減少した企業 1,405 社のうち、71%にあたる 1,019 社 は仕入債務も減少しており、売掛債権を減らした企業の多くは、同時に仕入債務を 減少させていることが確認できる。売上の伸びが続く中でも、バランスシートのス リム化や資金効率化を目的として、売掛債権と仕入債務双方を抑制した企業が増え たのではないかと考えられる(売掛債権・仕入債務が減少した企業数は 2006 年度 には 472 社であり、2007 年度は 2 倍以上に増えたことになる)。 (社数) 増加 不変 減少 合計 増加 779 404 1,183 不変・減少 386 1,019 1,405 合計 1,165 1,423 2,588 (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行 調査部作成。 表3 売掛債権・仕入債務増減組合わせ別企業数 (2007年度) 仕入債務残高 売掛債権 残高 棚卸資産残高は 2007 年度においても前年とほぼ同じペースで増加していたこと から(前掲図8)、原油を始めとする原材料価格高騰が運転資金需要を押し上げる 要因になっている可能性は高いと言える。ただ、売掛債権増減など、他の運転資金 構成要素にも目を向けると、運転資金全体では増加にブレーキがかかっている。従 って、少なくとも上場企業の決算から見る限り、原材料価格高騰が一服した場合に は、運転資金需要が継続的に増加していくことは期待しにくい状況になっていると 判断される。 では、M&A などによる投資有価証券売買の動向はどうだろうか。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し (2)投資有価証券購入動向 2,588 社の投資有価証券購入額の合計を見ると、2007 年度は 5.8 兆円、前年比▲ 11.4%減少した。投資有価証券の売却額は4兆円前後で横ばいのため、購入額から 売却額を差引いたネット購入額は+1.9 兆円と、2006 年度の+2.5 兆円から縮小し、 資金需要全体を押し下げる要因となった(図 11)。 3.9 4.3 6.4 6.6 5.8 5.0 5.2 4.8 4.1 3.9 -6.0 -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 2003 2004 2005 2006 2007 購入 売却 ネット購入額 (兆円) 図11 投資有価証券購入・売却の動き (2,588社合計額) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 集計対象とした 2,588 社の企業別投資有価証券購入動向を、購入規模(期初総資 産に対する割合)別に見ると、総資産1%以上の投資有価証券を購入する企業の数 は、2005 年度をピークに低下しており、逆に投資有価証券購入を行わなかった企業 の数が、2007 年度に目立って増えていることがわかる(表4)。 (社) うち 借入増加 企業数 割合 (%) 投資有価証券購入なし 438 384 379 446 149 33.4 0∼1%未満 1565 1376 1415 1425 540 37.9 1∼10%未満 516 741 721 666 262 39.3 10∼50%未満 65 73 65 44 23 52.3 50%以上 4 14 8 7 4 57.1 2007 年度における、総資産に対する投資有価証券購入規模と借入増加企業割合の 関係を見ると、総資産比で1∼10%の額を購入した企業のうち約4割で借入が増え ており、10%以上の購入では半数以上の企業が借入を増やしていることがわかる。 しかしながら、そういった企業の数が減っているために、借入増加の裾野が広がり にくくなっている。 (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 表4 投資有価証券購入規模別企業数と借入増加企業割合 2004 投資有価証券購入額÷期首総資産】 比率 2005 2006 2007 【
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し (3)設備投資資金の動向 最後に、設備投資資金に関する動きも見ておきたい。 2,588 社の減価償却費と設備投資額(有形固定資産購入額)それぞれの合計額を 比較すると、2004 年度以降設備投資額が減価償却を上回る状態が続いており、設備 投資額は 2007 年度も 42 兆円(前年比+7.4%)と前年比増加した。但し減価償却 費合計と設備投資合計額との差は、2006 年度の 11 兆円から 2007 年度は 11.3 兆円 とさほど変化していない。2007 年度も底堅い動きを続ける設備投資は、依然として 企業の資金需要を押し上げる材料ではあるものの、資金需要の伸びを加速させるほ どのインパクトはないと考えておくべきであろう。 25.3 25.5 26.6 28.1 30.7 30.4 35.7 39.1 24.8 42.0 20 25 30 35 40 45 2003 2004 2005 2006 2007 減価償却費 設備投資 (兆円) 図12 上場企業の減価償却と設備投資の関係 (2,588社合計) (資料)各社有価証券報告書より、住友信託銀行調査部作成。 企業別に設備投資(有形固定資産購入額)を増加させた企業の割合を見ると、2007 年度は 54.8%と前年差▲3.6 ポイント低下した(図 13)。また、減価償却以上の設 備投資を行った企業の割合は、2007 年度は 61.5%(2,588 社中 1,591 社)と前年よ りも▲2.2 ポイント低下した(図 14)。上場企業の設備投資額全体とともに、設備投 資の裾野の拡がりという観点から見ても、2007 年度は徐々にブレーキがかかりつつ あることを示している。 60.3 61.3 58.4 54.8 63.7 61.5 54.3 62.5 52 54 56 58 60 62 64 66 2004 2005 2006 2007 (%) 図14 減価償却以上の設備投資を行なっ た 企業割合(2,588社中) (資料)各社有価証券報告書より住友信託銀行調査部作成。 39.3 38.2 41.1 44.7 0 20 40 60 80 100 2005 2006 2007 2004 増加 不変 減少 (%) 図13 設備投資増加・減少企業割合の推移 (資料)各社有価証券報告書より住友信託銀行調査部作成。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼企業向け銀行貸出の現状と見通し 以上、上場企業の決算データから、資金需要環境をやや詳しく見ると、少なくと も上場企業に関しては、設備資金・その他資金共に、資金需要増加ペースが鈍化し ているという結果が得られた。 本レポートの冒頭前掲図4・表2において、大企業向けの設備資金以外の貸出増 加ペースが高まっていることを示した。そして、増加している業種などから、原材 料価格高騰による仕入額の増加が、運転資金需要につながっている可能性を指摘し た。上場企業の決算を集計したデータを見ても、2007 年度の棚卸資産増加は続いて いたことから(前掲図8)、原材料価格高騰による仕入価格上昇が追加的な運転資 金需要につながっている面があるのは確かであろう。しかし、それ以外の資金需要 決定要因、すなわち売掛債権・仕入債務増減や設備投資、投資有価証券購入の動き なども含めた資金需要全般は、ここに来て頭打ちになっている。従って、今のよう なペースで原材料価格の高騰が続かない限り、足許の貸出増加は一時的なものに留 まるのではないかと考えられる2。逆に、原材料価格の高騰が続けば、資金需要の伸 びが持続する可能性は高まるものの、その場合は企業業績悪化を伴った赤字運転資 金需要の割合が上昇することになる。いずれにしても、企業向けの銀行貸出を巡る 環境は、なお慎重に見ておく必要があるだろう。 (花田:[email protected]) ※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を 目的としたものではありません。 2 企業活動から見た資金需要が伸び悩む中で銀行貸出が増加するというギャップの要因として、 私募債の償還資金需要も考えられる。最近は私募債の発行が減少する一方で、償還額が増えて いる。日本証券業協会の集計によると、2007 年度の私募債発行額は 2.3 兆円(前年比▲33.8% 減)であるのに対して、償還額は 3.1 兆円(前年比+19%)と発行額を上回っている。償還額 が発行額を上回る状態は 2008 年度に入ってからも変わっていないと見られ、私募債を発行し た企業の償還資金が、銀行貸出にシフトしている可能性がある。但し、2009 年度に入ると償還 額もピークアウトするので、これも銀行貸出増加要因としては長続きしない。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる
女性の金融資産保有力をさぐる
∼男性と肩並べる 30∼40 代女性の保有残高∼ 30∼40 代女性の金融資産保有額を試算したところ、70 兆円強にのぼった。 これは、男性も合わせた 30∼40 代の金融資産保有総額の 5 割弱にあたる。フ ロー所得はまだまだ男性優位の日本だが、ストックベースで見ると世の中の お金のほぼ半分は女性が握っているわけで、女性の金融資産保有力はなかな かのものといってよい。 女性の中で、いわゆる「お金持ち」なのは、単身女性と、金融資産を夫と別々 に管理している妻である。単身女性が年々増加していることや、夫婦間におけ る妻の経済力が向上していることに伴い、女性の金融市場への参加は今後更に 進むとみられる。 1.注目度上がる「金融資産保有者」としての女性 「消費者」として、あるいは「労働力」としては、以前から注目されてき た女性だが、最近は、「金融資産保有者・運用者」としての側面にも目が向 けられ始めた。女性投資家の人気ランキングサイトの登場や、女性の金融行 動をサポートする会の設立1は、女性が金融資産を保有し、様々な商品に投資 することが特別なことでなくなったことをうかがわせる。 金融機関が、女性専用商品を開発したり女性向け投資セミナーを開催する のも、女性を顧客として意識し、重視し始めたことの表れといえる。 女性専用の住宅ローンや投資信託、会員制の女性クラブなど、何らかの形 で女性向けの商品・サービスを提供している金融機関は、メガバンクの3/4、 地銀、第2 地銀の 1/3 に上る。複数の商品・サービスを持つ金融機関も、メ ガでは 5 割、第 2 地銀では 1 割強みられた2(図1)。 このように「金融資産保有者」としての女性の存在感が増してきているわ りに、女性が保有している金融資産の具体的な金額については、これまであ まり触れられていない。それは、人数が圧倒的に多い既婚女性(妻)の金融 資産保有額を把握できないという統計上の理由によるところが大きい。 家計 行動(収入や支出や貯蓄)に関する公的な統計は、どれも世帯単位で作成さ 1 例えば、1999 年には「女性投資家の会」が、2004 年には「良質な金融商品を育てる会」が発足。いずれも、勉強会の 開催や「投資信託バイヤーズガイド」の作成など、女性による女性のための金融資産運用支援を実施している。 2 「ローン借入者に対する子育て支援サービス」等、女性専用というわけではないが女性を意識したサービスも含めると、 更に数は増える。住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる れており、その世帯の中で「妻が」いくらぐらい貯蓄している(=金融資産 を保有している)といった個人的データを得ることはできないのである。 (注)2008年7月現在。 (資料)日本経済新聞社「日経金融年報」、各金融機関ホームページより 住友信託銀行調査部作成 図1 女性向け商品・サービスを保有する金融機関比率 0.0 0.0 6.5 7.7 75.0 33.8 34.0 7.7 50.0 12.8 0 20 40 60 80 100 4大メガ 地銀 第2地銀 信託 信金 (%) 女性専用商品・サービスを保有 うち複数商品を保有 2.女性のグループ別金融資産保有額 そこで今回、「アンケート調査3」を実施して「夫婦が保有する金融資産のう ち、(名義はともかく、意識の上で)妻の保有分はいくらか」という点をたず ねた。回答の集計結果と、総務省「全国消費実態調査」、「就業構造基本調査」 等の公的データを併用して、今まで不明であった既婚女性の金融資産保有額 を試算し、これと、従来から公的統計で明らかになっている単身女性等の保 有資産データとを組み合わせて、女性全体が保有する金融資産総額を算出し た。 ここでは、ある程度の経済力を身に付け、資産形成を考えはじめる年頃と なった 30∼40 代の女性に焦点を当て、彼女たちを①単身女性4、②金融資産 を夫と別々に管理している妻(以下「資産別管理妻」)、③金融資産を夫と共 同管理している妻(以下「資産共同管理妻」)、④独身で被扶養者ありの女性 (以下「シングルマザー等」)、⑤独身で自分が被扶養者の女性(以下「独身 3「女性が変える経済と金融 研究会」が 2007 年 11∼12 月に実施した「消費と貯蓄に関するアンケート調査」(インター ネット調査)。同研究会は、(財)トラスト 60 が(社)日本経済研究センターに委託したもので、筆者は研究メンバーと して参加。 4 「既婚で1 人暮らしの女性」4.7%を含む。既婚女性は本来は②か③に分類されるはずだが、金融資産残高のデータ元 である総務省「全国消費実態調査」でも、「既婚1 人暮らし」は「単身世帯」に分類されているのでこれに合わせた。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる パラサイト女性」)5―の 5 つのグループに分けて考えた。既婚女性をひと括り にせず、あえて②資産別管理妻と③資産共同管理妻に分けたのは、「アンケー ト調査」の結果から、金融資産を別々に管理している夫婦と共同管理してい る夫婦では、妻が保有する(あるいは「保有する」と認識している)金融資 産の額に大きな開きがあることがわかったためである。 以下、各グループの女性が、何人ぐらいいて、1 人あたりいくらぐらい金融 資産を保有しているのか、女性全体ではいくら保有しているのか、またその 金額は30∼40 代(の男女)が保有する金融資産総額の何割に当たるのか―を 順にみていく。 (1) 人数---半数以上が資産共同管理妻 30∼40 代女性のグループ別人数は(表 1)のとおりである。 ①単身女性、④シングルマザー等、⑤独身パラサイト女性は、総務省「国 勢調査2005 年」の人口データ、②資産別管理妻と③資産共同管理妻について は、「国勢調査」の〔既婚女性人口〕に「アンケート調査」の結果と総務省「就 業構造基本調査」を用いて算出した〔夫婦で金融資産を別管理する人の比率 /共同管理する人の比率6〕を乗じて求めた値である。 30∼40 代の女性はおよそ 1700 万人おり、このうち 1200 万人強が既婚者 である。 5 つのグループ中、最も人数が多かったのは、③資産共同管理妻の 898 万 人で、既婚者の7 割以上、女性全体の半数強を占めている。2 番目に多いのは、 ②資産別管理妻で333 万人、以下、⑤独身パラサイト女性が 220 万人、①単 身女性と④シングルマザー等が120 万人強ずつとなっている。 表1 30∼40代女性のセグメント別人数 (単位:万人) 30代 40代 30、40代計 ①単身女性 78.1 45.4 123.4 ②資産別管理妻 159.6 173.8 333.3 ③資産共同管理妻 453.3 444.9 898.3 ④シングルマザー等 49.4 73.5 122.9 ⑤独身パラサイト女性 172.4 46.6 219.0 女性合計 912.8 784.2 1697.0 (資料)総務省「国勢調査」、「就業構造基本調査」 日本経済研究センター「消費と貯蓄に関するアンケート調査」 5 ④シングルマザー等と⑤独身パラサイト女性は、未婚だけでなく、夫と離別・死別した女性も含む。 6 夫婦で金融資産を別管理する人の比率は、30 代では 26.0%、40 代では 28.1%。共同管理する人の比率は、 30 代では 74.0%、40 代では 71.9%。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる (2)1 人あたり資産保有額---「お金持ち」なのは単身女性と資産別管理妻 女性1人あたりの金融資産保有額については、①単身女性と④シングルマザ ー等は総務省「全国消費実態調査」、⑤独身パラサイト女性は国立社会保障人 口問題研究所「世帯内単身者に関する実態調査」の〔1 人あたり貯蓄残高〕の データを用いた。 既婚女性(②資産別管理妻と③資産共同管理妻)については、前述のとおり、 公的統計からは「妻個人が」保有する金融資産残高データが得られないので、 「全国消費実態調査」の〔世帯あたり貯蓄残高〕に、「アンケート調査」の結 果をベースにマクロの人口統計も勘案して求めた〔夫婦保有金融資産に占める 妻の保有分比率7〕を乗じて独自に算出した。 結果が(表2)である。 表2 30∼40代女性のセグメント別1人当り保有資産 (単位:万円) 30代 40代 ①単身女性 477.5 890.0 ②資産別管理妻 429.0 717.2 ③資産共同管理妻 217.3 459.0 ④シングルマザー等 324.8 798.5 ⑤独身パラサイト女性 245.0 440.0 女性合計 287.6 571.8 (資料)総務省「全国消費実態調査」、「就業構造基本調査」 国立社会保障人口問題研究所「世帯内単身者に関する実態調査」 日本経済研究センター「消費と貯蓄に関するアンケート調査」 同じ30 代・40 代の女性でも、属するグループによって保有する金融資産 の額はかなり異なる。 30 代では、①単身女性の 1 人あたり金融資産保有額が 477.5 万円と最も 高く、②資産別管理妻の 429.0 万円がこれに続く。40 代になると、①単身 女性と④シングルマザー等の資産残高が大きく伸びて、①が900 万円弱、④ が800 万円弱、②資産別管理妻が 720 万円弱の金融資産を保有するようにな る。 ①単身女性の金融資産保有額が高いことは、親から独立して生活できる程度 7 〔夫婦保有金融資産に占める妻の保有分比率〕の算出方法と結果は以下の通り。 ②資産別管理妻の場合…「アンケート調査」で回答を得た〔妻の資産保有額〕と〔夫の資産保有額〕を元に、〔妻の資産 保有額/夫と妻の資産保有額合計〕で算出。結果は、30 代では41.2%、40 代では 49.0%。 ③資産共同管理妻の場合…「アンケート調査」で回答を得た〔夫婦の金融資産保有額〕、〔夫婦保有資産のうち、妻が「自 分の保有分である」と認識する金額〕、〔同じく、夫が「妻の保有分である」と認識する金額〕を元に、〔夫婦が「妻の保 有分である」と認識する資産保有額/夫婦の金融資産保有額〕で算出。結果は、30 代では 40.2%、40 代では 45.4%。 (②③とも、アンケート回答者の年収階層別の内訳と、日本全体の年収別人口比率とは異なるため、総務省「就業構造基 本調査」から得た年収別人口比率を当てはめて調整している。)
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる の経済力があり、扶養する人がおらず(仕送りなどをしている可能性はあるが)、 自立して生きていくための資産形成意識も高い―といった点を考えれば、ある 意味当然だろう。 ②資産別管理妻には、正社員として働いていたり年収が高いなど、相対的に 高い経済力を持つ女性が多いということがわかっており8、彼女たちが、自分の 資産を夫と別管理している(100%自分のものにしている)わけだから、これ も資産保有額の高さに違和感はない。 ④シングルマザー等は、フロー所得が低く平均消費性向9も100 前後と高いの で、40 代における金融資産残高が 800 万円弱もあるのはやや意外ではあるが、 離別の場合の慰謝料受け取り(別れる時に夫婦で持っていた口座を1つ2 つ受 け取るといったこともありうる)や、件数は少ないものの死別の場合の遺産受 け取りなどにより、ストックはそこそこ大きくなっている可能性がある。 ⑤独身パラサイト女性は、親元暮らしの恩恵を受け、優雅な消費生活を楽し みつつ貯金も結構できているというイメージがあるが、どうもそうではなさそ うだ。「生活費の相当部分を親に負担してもらえるパラサイトシングルは、最 も豊かでお金も貯めやすい層である」と言われたのは、実は昔の話で、デフレ の影響や加齢により親の収入が減った現在は、親のフトコロもそうそうあてに できなくなり、金融資産保有額は5 つのグループの中で最低レベルとなってい る。 その独身パラサイトと資産保有額の最下位争いをしているのが、③資産共同 管理妻である。彼女たちの金融資産保有額が低くなっているのは、夫婦共有資 産に占める妻の保有比率が低いからではなく(前頁の脚注7 に示したとおり、 ②資産別管理妻と③資産共同管理妻の資産保有比率に大差はない)、そもそも 資産を共同で管理する夫婦は、別々に管理する夫婦に比べ夫婦保有資産合計が かなり少ない―逆に言うと、お金持ち夫婦は資産を別管理する傾向にある―た めである。 お金持ち女性というと、独身キャリアウーマンや、子供が巣立ち、住宅ロー ンも返し終わって、夫と2 人悠々自適のマダムを思い浮かべることが多いかも しれない。それはそれで正しいのだが、30∼40 代の既婚女性―特に夫と資産 を別々に管理する女性―の中にも、そこそこ自分の資産を蓄えている人たちが いるということである。 8 アンケートの分析結果から、妻は自分の経済力が高いと、資産を夫と別々に管理し(つまり自分の資産を 1 人で抱え込 む)、自分の経済力がさほど高くない場合は、夫婦の資産を共同で管理する(夫の資産も手の内に置く)傾向があること がわかった。例えば、妻の年収が夫の年収より低い場合、金融資産を夫と別管理する妻の比率は 27.5%だが、妻の年収 =夫の年収の場合は 34.2%、妻の年収が夫の年収より高い場合は 47.8%である。 9 平均消費性向=消費支出/可処分所得=100−貯蓄率。平均消費性向が 100 以上ということは、貯蓄を取り崩して生活 していることを意味する。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる (3)女性の保有資産総額---フローは男性優位だがストックは男女互角 最後に、(表 1)の人数と、(表 2)の 1 人あたり金融資産残高を掛け合わせ て、女性のグループ別の金融資産保有総額算出した。結果が(表 3)である。 ③資産共同管理妻の保有額が 30∼40 代合計で 30.3 兆円(30∼40 代男女保 有総額の20.7%、30∼40 代女性保有総額の 42.6%)と最も大きくなっている。 ただしこれは、人数が900 万人弱と突出して多いためで、1 人あたり資産保有 額は前述の通りさほど高額ではない。 逆に②資産別管理妻は、人数的には③資産共同管理妻に遠く及ばないものの、 1 人あたりの資産保有額が 30 代で 430 万円弱、40 代で 720 万円弱と高いため、 30∼40 代の合計保有額は 19.3 兆円(30∼40 代男女保有総額の 13.2%、30∼ 40 代女性保有総額の 27.1%)と 2 番手につけている。 ①単身女性も、②資産別管理妻と同じく1 人あたりの保有残高は高いのだが、 人数が②以上に少ないため、合計資産保有額は7.8 兆円(30∼40 代男女保有総 額の5.3%、30∼40 代女性保有総額の 11.0%)に留まる。 ④シングルマザー等については、40 代に限ると、保有資産総額 5.9 兆円で、 金融資産保有者としてそこそこの存在感を示していると言える。1 人あたり金 融資産保有額が790 万円と①単身女性に次ぐ水準である上、人数的にも①単身 女性や⑤独身パラサイト女性を上回った結果である。 5 つのグループの資産保有額を合計した 71.1 兆円が、30∼40 代女性の保有金融資産 総額ということになる。これは、30∼40 代男女が保有する金融資産総額(146.1 兆円) の48.7%にあたる。 資産の名義はともかく、保有認識ベースでみると、金融資産のほぼ半分を女性が保有 している10わけである。男女の所得格差の大きさ(例えば、賃金総額でみた場合、男性 を100 とすると女性は 38.2 という試算がある11)や、今回の試算の対象が、本格的な 遺産受け取り時期にはまだ間がある30∼40 代女性であることなどを考えると、女性は 金融資産保有面では大健闘していると言ってよい。 10 妻が「自分の保有分」と認識する資産額と、夫が「妻の保有分」と認識する資産額を合わせて集計した結果である。 従って、「自分の保有分はこれくらいである」という妻の一方的な考えに基づく金額ではない。 11 日本経済研究センター「明日の日本をつくる人的資本」(2008 年2月)より。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる 表3 30∼40代女性のセグメント別保有資産計と30∼40代保有資産総額に占める割合 保有資産計 対総額比 保有資産計 対総額比 保有資産計 対総額比 (兆円) (%) (兆円) (%) (兆円) (%) ①単身女性 3.7 2.6 4.0 2.8 7.8 5.3 6.8 4.7 12.5 8.5 19.3 13.2 9.8 6.7 20.4 14.0 30.3 20.7 グルマザー等 1.6 1.1 5.9 4.0 7.5 5.1 パラサイト女性 4.2 2.9 2.1 1.4 6.3 4.3 性合計 26.2 18.0 44.8 30.7 71.1 48.7 (注)30∼40代保有資産総額は1世帯あたり平均貯蓄残高(全消より)×世帯数(国勢調査より) 兆円)。 )総務省「国勢調査」、「全国消費実態調査」、「就業構造基本調査」 国立社会保障人口問題研究所「世帯内単身者に関する実態調査」 日本経済研究センター「消費と貯蓄に関するアンケート調査」 30代 40代 30、40代計 ②資産別管理妻 ③資産共同管理妻 ④シン ⑤独身 女 で算出(146.1 (資料 3.女性の金融市場参加は進むか 貯蓄や投資には腕力も体力も要らない。「お金さえあれば」という条件はつ くが、金融の世界は、本来、女性が入ってきやすいジャンルである。 前述のとおり、女性の中でも相対的に金融資産を多く持っているのは、「単 身女性」と「金融資産を夫と別々に管理している妻」である。 (1) 単身女性の増加と経済的安定 このうち、単身女性は、人数が着実に増加している上に、経済力も安定ない しは上向きである。 1995 年∼2005 年にかけての年代別の単身女性数 及び 女性全体に占める単 身女性の比率をみると、どの年代においても、人数・比率ともに伸びている。 20 代∼50 代合計では、10 年間で 70 万人(95 年=260 万人→05 年=330 万人) の増加である。特に若い世代における単身者比率の伸びが大きく、2005 年時 点では、20 代女性の6人に1人(17.3%)、30 代女性の 12 人に 1 人(8.6%) が単身者となっている(図2)。 経済力に関しては、どの年代でもまんべんなくアップとはいかないが、総じ て安定的で、40 代の年収や 30 代、50 代の貯蓄残高など、部分的には上向いて いる(表4)。 単身女性は、相対的に高い経済力を持つだけではなく、自立した生活が基本 なので資産形成意識も高い。「生涯シングル」を視野に入れる人なら、老後資 金のプールも必要なのでなおさらである。このような単身女性が増加すれば、 金融市場に向かう女性も増加するはずである。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる (注)女性において、単身者比率の伸びが大きいわりに単身者数の伸びが 小さいのは、20代女性人口が919万人→762万人と大きく減少しているため。 (資料)総務省「国勢調査」 図2 女性の年代別単身者数と単身者比率 38.9 39.5 37.5 45.4 60.1 131.5 134.4 122.4 78.1 56.4 70.475.4 13.3 15.1 5.0 6.8 4.1 5.8 7.0 17.3 4.5 8.6 7.9 7.3 0 20 40 60 80 100 120 140 160 95 00 05 95 00 05 95 00 05 95 00 05 20代 30代 40代 50代 (万人) 2 4 6 8 10 12 14 16 18 (%) 単身者数(左目盛) 単身者比率(右目盛) (年) 表4 単身女性の年収と貯蓄残高の推移(全世帯、2005年価格) 20代 30代 40代 50代 20代 30代 40代 50代 1994年 281.3 378.4 400.3 360.8 164.9 418.5 892.4 1158.2 1999年 282.4 336.6 426.8 366.5 152.7 412.7 766.7 1276.5 2004年 275.5 375.4 427.0 302.4 146.2 476.1 887.3 1297.2 (資料)総務省「全国消費実態調査」、「消費者物価指数」 年収(万円) 貯蓄残高(万円) (2) 夫婦間における妻の経済力の向上 一方、既婚女性についても、各種公的データから、その経済力が向上してい ることが明らかである。 例えば、有配偶女性の就業率が1995 年∼05 年にかけ 2∼5%ポイント上昇す る一方で、有配偶男性の就業率は同じ期間に2∼4%ポイント低下している。働 く妻が増加し、働く夫が減少しているということである(図3)。 また、夫婦の収入合計に占める妻の収入比率も、1994 年=14.3%→2004 年 =16.6%と 10 年間で 2%ポイント強上昇している(図 4) 「アンケート調査」の結果分析からは、夫婦間における妻の相対的な経済力 が高くなると、①資産を夫婦で別々に管理するケースが増えること12、また、 ②資産を夫婦共同で管理する場合でも、妻が資産運用を決定するケースが増え 12 脚注8 を参照。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる ること13―が明らかになっているので、今後は、(単身女性と並んで金融資産保 有額が大きい)「資産を夫と別々に管理する妻」や、「夫婦で共同管理している 資産の運用決定権を持つ妻」の増加が見込まれる。金融資産保有力ないしは支 配力を持った既婚女性の増加もまた、女性の金融市場参加を推し進めることに なるだろう。 図3 有配偶男女の就業率の推移 (資料)総務省「国勢調査」 有配偶男性 97.0 95.6 97.2 95.3 97.3 96.3 95.8 94.3 92.8 98.3 98.2 93.7 92 94 96 98 100 1995 2000 2005 (%) 20代 30代 40代 50代 有配偶女性 65.0 65.8 67.2 39.1 41.6 44.3 47.7 47.5 49.8 57.2 58.4 60.4 30 40 50 60 70 1995 2000 2005 (%) 20代 30代 40代 50代 (年) (年) (年) (資料)総務省「全国消費実態調査」 図4 夫婦収入に占める妻の収入の割合 14.3 15.6 16.6 13 14 15 16 17 1994 1999 2004 (%) (年) 13 例えば、妻の年収が夫の年収より低い場合、金融資産を共同で管理している夫婦のうち、妻が金融資産運用決定権を 握る比率(「妻」又は「主に妻」が決定する比率、以下同じ)は 31.2%だが、妻の年収=夫の年収の場合は 43.8%、妻の 年収が夫の年収より高い場合は 60.5%と 6 割を超える。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 経済の動き∼女性の金融資産保有力をさぐる 今一度まとめると、①経済力も資産形成意識も相対的に高い「単身女性」が 増加する、②妻(既婚女性)の経済力がアップし、「資産別管理妻」が増加す る、③同じく妻(既婚女性)の経済力がアップし、資産は夫婦共同管理のまま でも「運用決定権を持つ妻」が増加する−という3つの理由から、女性の金融 市場への参加は今後更に拡大する。 市場参加者に占める女性比率の高まりに伴い、女性の金融行動(の特徴)が 市場に与える影響力も高まるはずである。日本の金融市場は、今後徐々に変わ っていくと思われる。 ※次号(調査月報9 月号)では、女性の金融行動の特徴と、それがもたらす 金融市場の変化をとりあげる予定です。 (青木:[email protected]) ※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を 目的としたものではありません。 本稿は、(財)トラスト 60 が(社)日本経済研究センターに研究委託した「女性が変える経済と金融」研究会で の分析内容をもとにしている。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望
需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望
鉄鋼、化学等の基幹産業から、半導体、液晶などの最先端部門まで、あらゆる産業で 重要な役割を果たしている産業ガス。産業の基礎原料として日本の経済成長と共に成長 してきた。近年も国内製造業の好調に牽引され、産業ガスの需要も増加している。ここ では産業ガス業界の現状と今後について概観した。 1.産業ガスとは 一般に産業ガスとは、エネルギー以外に使われるガスの総称である。医療現場で使わ れるガスなども含まれるが、ここでは産業用途に使用されるガスに着目する。 (1)産業ガスの種類 産業用ガスの主力製品は「酸素」「窒素」「アルゴン」の3品目である(表1)。鉄鋼や 化学、半導体、食品向けなど幅広い産業で使用されている。これらはエアセパレートガス と呼ばれ、原料である空気から抽出することからこのように呼ばれている。空気を圧縮・ 冷却することで液化し、沸点の違いを利用して製造される。酸素や窒素等は空気分離設備 があれば製造できるため、大口のユーザーは、プラント内でエア・セパレートガスを自ら 製造する場合もある。 エアセパレートガス以外にも、「ヘリウム」や「水素」、「半導体材料ガス1」などがある (表1)。これらのガスは、一部は自然界に微量に存在しているが、その他のガスの多く は存在していないため、空気以外の原料から製造される。ヘリウムは天然ガスの生産過程 で分離・精製される。水素は食塩水の電気分解やメタノールや天然ガスの改質により製造 される。半導体材料ガスなどは主に化学反応を利用して製造される。 1 半導体材料ガスは総称で、主なものに「モノシラン(SiH4)」(シリコン等の主要材料)や「三 フッ化窒素(NF3)」(半導体のクリーニングガス)等がある。住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望 表1 主な産業ガス 種類 特性 主用途 酸素 空気中に約21% 強い支燃性・強い酸化力 鉄鋼:高炉での補助燃料 銑鉄に含まれる不純物の除去 化学:酸化反応工程での酸化剤 窒素 空気中に約78% 常温では不活性も高温高圧化で水素や金属と 化合 食品:冷凍食品製造時の冷却や製品の酸化防止 化学:酸化防止 半導体製造:シリコン半導体の酸化防止 アルゴン 空気中に1%未満。 高温、高圧化でもまったく不活性 鉄鋼:精錬や不純物の除去 金属加工:鋼板溶接時の酸化防止 半導体製造:シリコン単結晶の酸化防止 水素 地球上で最も軽い気体。 様々な物質と反応しやすい 通信:光ファイバーの材料である石英硝子の製造 化学:原料としてや石油精製時の脱硫用 半導体製造:還元剤 ヘリウム 空気中に微量。天然ガス中に約0.4% 不燃性、常温ではまったく不活性 運搬:アドバルーンや飛行船 半導体製造:製造工程での酸化防止 超伝導:(液体ヘリウムとして)冷媒 (資料)大陽日酸株式会社 HPより当部作成 (2)専業ガスメーカー 産業ガス業界は典型的な装置産業で、配送ネットワークや空気分離装置などの設備投 資負担が大きいことが特徴である。エア・セパレートガスに限ると、設備があれば製造 できることから参入障壁は低い。専業ガスメーカーはかつて8 社あったが、産業ガスは 製品毎に差別化するのが難しいことから、価格競争になりやすかった。1990年代以 降規模拡大による収益性改善を目指した再編が進み、現在は大陽日酸、エア・ウォータ ー、日本エア・リキードの3社に集約されている(図1)。 日本酸素 大陽酸素 大同酸素 共同酸素 テイサン 東洋酸素 ほくさん 大阪酸素 大陽日酸 大陽東洋酸素 大同ほくさん 日本エア・リキード ジャパン・エア・ガシズ エア・ウォーター 日本エア・リキード 図1 国内産業ガスメーカーの再編図 (資料)各社の資料より当部作成 再編が進んだ専業メーカーにとって重要になるのが、関連機器の工事やメンテナンス などのプラント・エンジニアリング事業の能力である。最近増加しているオンサイト供 給は長期の供給契約を結んで専業ガスメーカーが製造設備を工場内や隣接地に設置し てガスを供給する方式である。大口の需要家にとっては製造の効率化やメンテナンス負
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望 担削減等のコストを減らす効果が期待できる一方、ガスメーカーも規模の大きい製造拠 点を増やすことができ、両者にとってメリットがあるが、ガスメーカーにとっては安定 してガスを供給することが求められる事業でもある。 2.国内市場の動向 (1)2007年の需要と2008年の見通し 2007年の産業ガスの需要は堅調だった。酸素、窒素、アルゴンの生産量は合計で 253.8億㎥と前年度比で5.7%の増加となった(図2)。酸素は鉄鋼や造船業界向 けの需要を牽引し、窒素も半導体や液晶パネル等のエレクトロニクス関連向けを中心に、 化学、鉄鋼、食品業界向けの需要が好調だった。アルゴンは、生産量は多くないものの、 シリコン単結晶向けの需要増加等で、前年度比11%の大幅増となった。また、水素の 生産量も2.2%増となった(図3)。他のガスと同様に、エレクトロニクス関連や光フ ァイバー向け需要が堅調だった。 2008年も鉄鋼や化学、エレクトロニクス産業等の堅調な生産に支えられ、産業ガ スの需要は堅調に推移すると見られている。セパレートガスの主要需要家である鉄鋼や 化学業界は引き続き高い稼働率を維持するであろう。半導体や液晶パネル、太陽電池等 も製品の価格単価下落はあるものの、生産数量拡大が続くと思われる。 図2 エ ア セパレー ト ガスの生産量 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 11,000 12,000 13,000 1992 1995 1998 2001 2004 2007 (年) (100万㎥) 160 180 200 220 240 260 280 300 320 酸素(左軸) 窒素(左軸) アルゴン(右軸) (資料)経済産業省「化学工業統計月報」より当部作成
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望 図3 水素の生産量 0 100 200 300 400 500 600 700 1992 1995 1998 2001 2004 2007 (年) (100万㎥) (資料)経済産業省「化学工業統計月報」より当部作成 (2)今後の需要けん引役 今後の需要けん引役として期待されるのが、燃料電池や太陽電池である。発電時に温 暖化ガスが排出されないため、クリーンエネルギーの代表的な存在となっている。ここ でも産業ガスが使われている。前者の燃料としての水素や後者の製造時の材料としての 半導体材料ガス等である。 燃料電池は、「水素」と「酸素」を化学反応させることで発電する装置である。家庭 向けには都市ガスや灯油を利用して水素を発生させて発電するタイプを関連メーカー が販売している。また、温暖化対応としての期待の高い燃料電池車の開発も進んでおり、 水素の供給設備である「水素ステーション」も設置も進められている。国の計画では2 010年までに燃料電池自動車の技術開発を進め、その後の普及を目指している。大量 の水素を必要とする燃料電池車が一般に実用化されれば、水素等の需要拡大が期待され る。 太陽電池は、「光エネルギー」を電力に変換する機器で、シリコンを用いたタイプが 主流になっている。原料となるシリコン単結晶や、今後拡大が見込まれる薄型太陽電池 の製造工程などで、アルゴンやシランガス等の半導体材料ガス、水素等が使用されてい る。2004年度の導入実績は、経済産業省の調べで113.2万 kW となっており、2 010年度の目標値482万kW の約4分の1に留まっている。2009年にシャープ は堺に太陽電池の大規模工場の新設を発表しており、量産化によるコスト低減が普及拡 大に弾みがつくことになるだろう。国の目標が実現されれば、関連するガスの需要も大 幅に増加することになる。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼需要拡大続く産業ガス業界の今後の展望 3.今後の課題と展望 鉄鋼や化学、半導体などのエレクトロニクス産業での生産量拡大に伴って、 産業ガスの需要拡大は続くだろう。特に半導体材料ガスへの需要は大きいと見 られる。また、設備投資に伴うオンサイト方式による供給増加は専業メーカー にとって事業拡大のチャンスである。 一方、需要の増加で、一部のガスでは供給や環境面での問題が浮上している。 特に需要が伸びているアルゴンやヘリウム等で供給がタイトになりつつある。 供給が不安定になると、需要家の生産活動に支障をきたす恐れがあるが、アル ゴンは大型の空気分離装置で抽出されることから単独での増産が難しく、ヘリ ウムも、海外の天然ガス精製過程で製造される特性上、天然ガス供給の増加が ないと供給力の大幅な拡大も難しい。安定供給のために、供給源の確保や、代 替品の開発が必要となるだろう。 また、環境面では、水素等を製造する過程で二酸化炭素等も排出され、半導 体材料ガスには温室効果ガスも含まれており、このようなガスの需要増加が環 境への負荷要因のひとつになるかもしれない。今後、二酸化炭素等の温室効果 ガス削減に寄与するガスの開発も求められるだろう。 産業ガスは基礎原料であるため、業界単独での拡大は難しいが、環境に配慮 したガスや、コスト・供給面で競争力のあるガスの拡大は、需要家の事業拡大 に貢献することになるだろう。これらが今後普及期を迎える太陽電池や燃料電 池などの需要拡大につながれば、さらに産業ガスの需要が拡大することが見込 まれる。環境問題への対応は産業界にとって大きなテーマであり、製造工程の 環境負荷や供給面での問題解決は、ビジネスチャンスであり、日本の技術力に よる問題解消が期待される。 (栗本:[email protected]) ※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を 目的としたものではありません。
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼レアメタルと都市鉱山
レアメタルと都市鉱山
近年レアメタル価格が上昇している。 従来、レアメタルは資源国の外貨獲得手段として生産国から消費国へ、積極 的な輸出がなされてきた。とくに 1990 年代は供給の増加もあり、消費国は必 要に応じスポットで、レアメタルを安価に調達することができた。 しかし、およそ 30 年ぶりにレアメタルは高騰している。本稿ではこの高騰の 背景にある環境の変化と、都市鉱山活用の現状について考察する。 1.産業の生命線 なくてはならない原料へ レアメタルとは、そもそも埋蔵量が少ないか、埋蔵量自体は多くても純粋な 金属として抽出することが技術的・経済的理由から難しく素材として利用でき る資源量が限られている金属を総称したものである。現在、日本では 31 鉱種、 47 元素1をレアメタルと定義している。 それぞれの金属は、耐熱、耐食、磁性、蛍光など個々に特性を有している。 工業化が進む中で、レアメタルはそれぞれの特性を生かして活用されおり、少 量ではあるが製品の高機能化を図る上でなくてはならない原料となっている。 (資料)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 図1 日本のレアメタル輸入量 輸入量の推移 180 190 200 210 220 230 240 1997 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 (万トン) 金属別輸入量(2006年) 11% 39% 25% 12% 1 ニッケル 2 クロム 3 マンガン 4 コバルト 5 タングステン 6 モリブデン 7 バナジウム 8 ニオブ 9 タンタル 10 ゲルマニウム 11 ストロンチウム 12 アンチモン 13 プラチナ 14 パラジウム 15 チタン 16 ベリリウム 17 ジルコニウム 19 リチウム 20 ホウ素 22 バリウム 23 セレン 24 テルル 25 ビスマス 26 インジウム 31 希土類 輸入量合計 2,216,132トン 1 希土類は 17 元素を1鉱種とする。 25住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼レアメタルと都市鉱山 従来は、特殊鋼の添加剤や超硬合金工具などの原料として用いられてきたが、 最近ではパソコンや携帯電話に搭載されるコンデンサや電池、液晶やプラズマ テレビで用いられる導電膜に見られるように、電気・電子機器での利用が増加し ている。 レアメタルの過去 10 年の輸入量は4年程度のサイクルで増減している。最近 では 2004 年に輸入量がピークとなっており、それ以前に輸入量増加の見られた 1997 年や 2000 年を上回る水準となった。 2000 年から 2006 年の輸入量の推移を見ると、2006 年の輸入量が 2000 年の 1.5 ∼2.0 倍以上となっているのが3鉱種、2.0 倍以上となっているのが4鉱種あり、 最も増加したインジウムでは 3.3 倍に達している。一方で、2000 年と比べ輸入 量が8割以下となっているのは6鉱種である。ニッケルやクロムなど、従来か ら輸入量の多い鉱種は安定した推移となっており、サイクル的な増減を繰り返 している。全体の輸入量は、こうしたサイクル的な増減をベースに、右肩上が りに輸入量を増やしている鉱種分が上乗せされ、徐々に拡大していると考えら れる。 現在も、燃料電池や太陽光発電パネルなど今後市場拡大が見込まれる分野で レアメタルの活用が進んでいる。新たな素材・製品の開発は続いており、今後も レアメタルの利用量は増加していくと予想される。 2.価格高騰の映すもの ところで、同時期のレアメタル輸入金額を見ると、輸入量と異なり直線的に 図2 レア メ タル 輸入金額の推移 0 300 600 900 1,200 1,500 1,800 2002 2003 2004 2005 2006 (十億円) 0 50 100 150 200 250 スクラップ 金属粉末 触媒 フェロアロイ Ni地金・展伸材 希土類 金属・化学品 金属鉱石 単価(2002=100) * (資料)工業レアメタル No.123 2007 (年) *単価 輸入金額合計を輸入量合計で 除したものを輸入単価とし、 2002年の単価を100とした場 合の数値。 26
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼レアメタルと都市鉱山 増加が続いていることが見て取れる。輸入量増加のピークを過ぎた 2005 年以降 も輸入金額は増加しており、輸入単価の上昇により膨張したものと考えること ができよう。図2の単価は輸入金額合計を輸入量合計で除して求めた数値を単 価としたもので、あくまでも概算に過ぎないが、2003 年に若干上昇したことを きっかけに輸入単価は急速に上昇している。 実際にレアメタルは 2003 年ころから価格が上振れする鉱種が現れ、一部の鉱 種では 2004 年までの1年たらずで3倍に価格が高騰した。その後 2005 年、2006 年に価格が上昇に転じた鉱種もあり、全体として価格は上振れする傾向にある と考えられる。 デジタルスチルカメラ出荷量 (国内+輸出) 0 20 40 60 80 100 120 140 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 実績 予測 (百万台) (資料)有限責任中間法人カメラ映像機器工業会 フラットパネル需要量 (世界合計) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 実績 予測 (百万台) (資料)社団法人 電子情報技術産業協会 「AV主要品目世界需要予測」 図3 電子機器の需要推移 それでは、価格高騰は何故 起きたのか。高騰は一時的な ものなのかについても考えて みたい。 (1)価格高騰の背景 需給のアンバランス化 ①需要の拡大 先述したように、高機能化 へ向けた新製品の開発が継続 的に行われ、レアメタルを利 用した製品の増加が続いてい る。図3は、レアメタルが使 われている電子製品の代表例 としてフラットパネルとデジ タルカメラについて、その需 要量(出荷量)を示したもので ある。いずれも 2000 年代初 めから急速に拡大し、今後も 拡大していくと予想されてい る。 電子機器は構造材等に比べ て製品寿命が短く、製品普及 後もある程度需要が発生する 点も考えれば、レアメタルの 消費量は今後も増加していく であろうことは想像に難くな い。 27
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼レアメタルと都市鉱山 また、近年ではBRICs 諸国をはじめとする新興国では経済が発展するに伴 い、構造材だけでなく電気・電子製品に対する需要が拡大している。事例の2つ の電子機器についても、2007 年の時点で海外での需要量は全体の9割に達して おり、今後も需要拡大は新興国における需要増加が中心となることが予想され る。 製品1件あたりの使用量は少量でも、塵も積もれば山となるようにレアメタ ルの需要量拡大は今後も続くだろう。 ②供給増加の難しさ 通常、金属資源に対する需要がその時点の供給可能量を越えて増加した場合、 需給ギャップは大きくなり再びバランスするまでに時間を要する。需要が増加 する場合は直線的に伸びる一方、供給は新たな鉱山や製錬等の設備の稼動によ り伸びていくため階段状の増加となる。今までのように需給がバランス若しく は需要家優位であった場合に鉱山開発は停滞する。今回のような急速な需要増 加に対応できず、需給ギャップの解消にはより時間がかかることになる。 これに加え、レアメタルは、そもそもベースメタルなどの金属以上に供給を 増やしにくい。先述したように、レアメタルは元々可採埋蔵量が少ないか、技 術的に抽出するのが難しい金属である。すでに埋蔵されることが確認されてい ても、鉱山として採算が取れるほどには集積しておらず開発ができないケース もある。これに加えて、レアメタルの中には鉱石として主産されるものだけで なくベースメタル生産等の副産物として抽出されるものが多く、こうした金属 は需給が直接的に合致しない。 需要が伸びたからといって、物理的な要因から簡単には供給を増やせないの である。 ③生産国のレアメタル政策 また、レアメタルは生産国の取る資源政策が供給に大きな影響を与える。こ れはレアメタルが経済性を有する規模で集積する場所は限られており、とくに 埋蔵量の少ない金属でこの傾向が顕著となるためである。生産量ではコスト競 争力等の問題もあり、国別の生産量シェアは更に偏っている。 日本の備蓄7鉱種と近年輸入量の増加しているビスマス、インジウム、希土 類では、10 鉱種中7鉱種で生産量上位 5 カ国によるシェアが 90%を超え、希土 類に至ってはそのほとんどが中国により生産されているのが現状である。上位 生産国は一部を除き新興国が多いのは、従来これらの国では外貨獲得手段とし てレアメタルの輸出が積極的に行われてきたことに由来する。日本を始めとす る先進国は、これを輸入し高い技術力で製品に利用してきたのである。 しかし、近年新興国で経済発展が続く中で、資源国における消費が拡大若し 28
住友信託銀行 調査月報 2008 年 8 月号 産業界の動き∼レアメタルと都市鉱山 くは将来消費の拡大するであろうことが見込まれている。将来の経済発展に備 えた資源保護の動きが出てくるのはある意味必然と言えるだろう。 例えば中国では、従来輸出促進を目的として輸出増値税還付制度を導入して いたが、2004 年 1 月に還付率を引き下げたのを端緒として、以降数回の引下げ を実施、2006 年 9 月にはほとんどの金属について同制度の適用を廃止している。 一方、輸出税付加が開始(2006 年 11 月)された他、輸出許可制度適用による輸 出数量制限、レアメタルの一部鉱種に対する外国企業による投資禁止(2007 年 2月)など、相次いでレアメタルに関する政策が打ち出され、レアメタルの国外 流出を防ぐ方針が鮮明になっている。 表1 生産量上位国及び生産量シェア(2006年) (単位:トン) 鉱種 生産量合計 上位5カ国の シェア 第1位 第2位 第3位 第4位 第5位 ニッケル ロシア カナダ 豪州 インドネシアニューカレドニア 20% 16% 13% 10% 7% クロム鉱 南アフリカ インド カザフスタン 40% 23% 20% マンガン 中国 南アフリカ 豪州 ブラジル ガボン 18% 17% 15% 11% 10% コバルト 中国 フィンランド カナダ ノルウェー ロシア 24% 16% 10% 9% 9% タングステン 中国 ロシア ボリビア ポルトガル ルワンダ 90% 4% 1% 1% 1% モリブデン アメリカ 中国 チリ ペルー カナダ 32% 24% 23% 9% 4% バナジウム 南アフリカ ロシア 中国 40% 30% 28% ビスマス 中国 メキシコ ペルー 日本 豪州 37% 23% 15% 8% 8% インジウム 中国 日本 カナダ ベルギー ロシア 63% 11% 10% 6% 3% 希土類 中国 インド マレーシア 98% 2% 0% (資料)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 1,416,900 18,352,000 30,179,000 52,726 67,018 185,900 62,400 5,108 480 123,000 ジンバブエ 97% 92% 98% 91% 94% 100% ブラジル -- -67% 91% 70% 68% (2)問題の本質 今回の価格高騰は、需給のアンバランス化が明確になってきたことから、需 給が将来的に逼迫すると考えられていることが背景にある。 レアメタル市場は、需給バランスが崩れ価格が変動する際に、市場が小さい こともあって投資家の投機や操作が入りやすい。これに需要家の過剰反応によ る買い増しや生産者などの思惑が重なり、結果的に価格のブレ幅が大きくなる。 今回も、需給のアンバランス化により価格が変動し、これに投資活動や需要家 の仮需などが重なったことで価格が急激に上昇したと考えられる。 ところで、レアメタルを利用した素材・製品等は、国内メーカーが競争力を 有するものが多い。インジウムを使う液晶テレビの電導膜や、希土類磁石を用 いるハイブリッド自動車、シリコンを用いる太陽光発電パネル等、今後市場拡 29