FDワークショップ【紙上再録】
公開 FD ワークショップ ’18 表現教育の可能性(第 9 回)
講演
学生が
4000字のみごとなレポート 書いてくるんですけど
飯 間 浩 明
【司会 阿部】 定刻を少し過ぎてしまいました。皆さんお待たせして申し訳ござ いませんでした。
それでは、成城大学共通教育研究センター主催の公開FDワークショップを始 めたいと思います。本日はこの同じ建物の地下で、本学の教育イノベーションセ ンターというところがFD・SDシンポジウムをやっていたり、他にもいろいろ なイベントがたくさんある中、こうしてたくさんの皆様にお集まりいただいたこ とをとても光栄に思っております。改めて、お礼を申し上げたいと思います。あ りがとうございます。
さて、毎年少しお話しをさせていただいていることで恐縮ですが、このFDワー クショップは、本学の初年次教育の科目で「WRD」と書いて「ワード」と読む 科目がございまして、このワークショップは、もともとこのWRDという初年次 教育科目の教授法や授業の運営方法などについて考える研究会に端を発していま す。このWRDという科目も本共通教育研究センターが管轄している科目であり ますので、その研究会をより発展させ、初年次教育科目に相当するような授業の 教授法を多くにと一緒に考えようということで、「表現教育の可能性」というテー マを設定し、公開FDワークショップという形で行なって参りました。このワー
クショップは今回で9回目を数えます。これまでのワークショップの内容に関し ましては、会場入口手前の受付に、本センターの『共通教育論集』という紀要に 紙上採録として掲載しております。今までのFDワークショップの内容にご興味 がある方は、是非紀要をお持ち帰りいただければと思います。
それとともに、共通教育研究センターは、2017年に開設10周年を迎えたわけ ですが、その10周年記念の事業として様々なシンポジウム等を行なってきまし た。その事業の一環として、このFDワークショップと、昨年秋に開催した「初 年次教育における論文の書き方を考える」というシンポジウムの内容を加えて、
この度、ナカニシヤ出版より『表現と教養』という書籍を刊行いたしました。こ の書籍も、開設10周年記念事業の一環としてとして刊行しております。書籍の ご案内は、皆様に配付したプリントに掲載しておりますのでそちらをご参照して いただければと思います。このFDワークショップの趣旨やこれまでの具体的な 内容、取り組みについては、『表現と教養』を読んでいただければわかるかと思 います。
申し遅れましたが、私は、本日司会と討論コーディネーターをいたします本学 の経済学部の所属でもあり、共通教育研究センターで全学共通教育を担当してお ります阿部勘一と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、今日の本題に入っていきたいと思うんですが、本日は、まず講演者 としてお迎えいただいた先生に講演をしていただいて、その内容について私と講 演者の先生と討論をした上で、皆さんと一緒にこのテーマについて考えていくと いう順で進めさせていただきます。
本日の講演者と講演のテーマをご紹介させていただきます。本日の講演者は、
飯間浩明先生でいらっしゃいます。皆様のお手元に、メモ用紙を兼ねて講演者の プロフィールを書いた紙をお配りしておりますので、参照していただければと思 いますが、本学も含めいくつかの大学で非常勤講師等をされていらっしゃいます。
本学では、初年次教育科目である「WRD」を担当されています。それとともに、『三 省堂国語辞典』の編集委員をされております。プロフィールにあるように、飯間 先生のもともとの専攻は日本文学なのですが、このように国語辞典の編纂のお仕 事をされていたり、国語辞典にまつわる著書もございます。国語辞典の編纂の仕
事に関連したものとしては、NHKのEテレの講師をされていたり、昨年はNHK の番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも密着取材を受けられておられま す。しかし、今日のテーマとも関係してくるのですが、飯間先生は、日本語の文 章術や文章の書き方に関する著書もたくさん執筆されていらっしゃいます。
では、講演者である飯間浩明先生に、「学生が4000字の見事なレポートを書い てくるんですけど」というテーマで、問題提起としてのご講演をいただきたいと 思います。
では、飯間先生よろしくお願いいたします。
【飯間】 飯間でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
まあ、皆さんご退屈でしょうから、1時間以上にわたって喋りまくるというこ とはございません。現在15時5分ですが、16時5分ぐらいまで話すことになっ ております。要領よく話すよう努めます。
自己紹介と今日の講演について
私は、今、阿部先生からご紹介いただきましたように、成城大学の「WRD」
という授業で、「文章を書く」というテーマの授業を担当しています。「います」
というのは、この3月末までは「います」という現在形で言えるのですが、4月 からはそのお役目を解いていただくことになりました。ですから、「お前は成城 大学で文章の書き方について一体どのように教えてきたんだ」ということについ て最終報告を申し上げるというのが、今日の趣旨ということになります。
結論から述べますと、私としては、学生たちは非常にいい文章を書くなあとい うこと、これが一番の感想です。ただし、そのいい文章を書かせるためにはそれ なりの工夫が必要になります。
いい文章にもいろいろあります。いわゆる名文、文学的な香りの高い文章も名 文でしょうが、私が目指している文章はそういうのではなく、ひたすら論理的で 整合性があって、読者を説得する形の文章。それを狙っています。要するにレポー ト・論文です。その書き方を大学1年生に教えてきました。彼らは、高校までに
レポート・論文の類を一切書いたことがないという人が多いので、その人たちに、
1年といわず半年で、少なくともレポートの体を成している文章を書かせるとい うことは冒険でした。その冒険がうまく成功したと胸を張って言えるほどではな いんですが、なかなかいいところまでいったとは思います。これは、私に功績が あるわけではなくて、実は、学生はやる気になると、相当いい文章を書けるよう になるものだということなんです。
私は、成城大学の前期授業では短文を書かせるという実践をしています。短文 というのは800字~1000字ぐらいの論理的な文章です。それが書けるようになっ たら、後期を担当される先生にバトンタッチをして、その次のことをやっていた だくというつもりで、短文を書かせていました。
後期授業では、私はまた別のクラスを受け持ちます。同じワード(WRD)の 授業ですが、クラスとしては別です。今度は長文を書かせる授業を行います。そ の長文というのが、今回お話しする4000字のレポートです。
学生たちが初めて教室に来た時にオリエンテーションをやります。その際に、
「長文を書くんだよ」「みんな、4000字書こう。頑張ろう」と言うと、その翌週 から来ない学生が出てきます。前にそのようにやったことがあるんです。「4000 字書きますから。でも大丈夫。書けます」と言ったんですが、どうも「4000」と いう数字に驚くらしいんです。それで、私もちょっと考えまして、「A4用紙に、
1枚か2枚……1枚は少ないな、まあ2枚ぐらいの文章が書けるようになってほ しい」と表現するようにしました。2枚書けば4000字弱ですね。それを「2枚前 後の文章を書こうと思っています」とぼやかした。A4用紙2枚と言うと、書け そうな感じがするわけです。4000字は書けないけど2枚なら書けるという数字 のトリックを用いまして、なんとか学生が拒否反応を起こさないように気をつけ ました。
「クイズ文」とは?
さて、では、その文章を書かせる方法論ですが、実は昨年の秋にこちらの大学 でシンポジウムを行った時に、論理的な文章はどういうふうに書くのがいいかと
いうことでお話ししました。そこで「クイズ文」という形式について述べました。
そのことをもう一度お話ししなければ先に行けませんので、前半では、私が授業 で論理的な文章を書かせるための方法論となるクイズ形式の文章についてご説明 します。
クイズ文というのは思いつきではなく、もう10年以上前からいろいろ考えて いました。私の考えたことは『伝わるシンプル文章術』(ディスカヴァー・トゥ エンティワン)という本にまとまっています。これは昨年(2018年)に出た本 ですが、実はリニューアル版です。元は10年前に出た『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』という、ちょっと人を食ったようなタイトルの本で す。「非論理的な人のための」と言うと、「俺は論理的だからこの本は読まなくて いい」という人がいるので、売れ行きに影響します。そこで、「伝わるシンプル 文章術」の方が売れるのではないかとタイトルを変えたんですが、一向に売れま せん。もしご興味があれば2、3冊買っていただいて知り合いの方に配っていた だければと思うんですが……。
それはともかく、その本ではクイズ文という考え方を中心に述べています。ク イズ文というと私が編み出した方法論のように聞こえるかもしれませんが、これ は別に特殊なことを言っていないんです。物事を論理的に考えようとすれば、絶 対に踏まえなければならない筋道をごく当たり前に説明したものです。
授業でクイズ文について説明するにあたっては、まずはクイズを出すことから 始めます。例えば、「腐った団子は何円?」というなぞなぞを学生に出します。
すると、いろんな答えが返ってきます。「腐っているから0円じゃないですか」
なんて答える人もいる。「売り物にならないから0円です」、これもひとつの答え ですね。あるいは、「腐った団子は1億円です」と言う人もいる。「なんで腐った 団子が1億円なんですか?」と聞くと、「なぜなら、会社が腐った団子を売ると 責任問題になって、会社がつぶれるから」と言う。「そうすると負債が1億円ぐ らいになるんじゃないか」。つまり儲かるお金じゃなくて、出ていくお金が1億 円となるんだと、そういうことを言う人もいました。
私としては、そこまで深読みを求めているわけではなくて、答えは「9円」で す。子どもがよく出すなぞなぞです。なぜ9円か、分かりますね、「食えん」から。
それだけなんですが……、ばかばかしいですね。わざわざ足をお運びいただいて、
何を聞かせるんだという。
これは子どもがよくやるなぞなぞですが、これを「問題・結論・理由」という 3つの要素に分けることができます。これがレポートの根本だと教えています。
つまり、はじめに「腐った団子は何円?」と問題提起をする。人間というの は、何かこう、頭の中にクエスチョンマークが浮かばないと、ものを考えないで すよね。今晩何を食べようか、来週どこに旅行に行こうかというように、「……
か」という形で疑問が浮かんではじめて、何かを論理的に考えようとする。つま り、問題というのは、ものを考える出発点です。
出発点が問題であるならば、その終着点は結論です。始まりから終わりへと、
頭の中の考えが続いていく。今のなぞなぞでは「9円です」というのが結論ですね。
さらに、どういう道筋をたどって始まりから終わりにたどり着いたのか。それ を示すのが理由の部分です。「食えんから」というのは、立派な理由です。
こうした「問題・結論・理由」からなる形式を、私は「クイズ形式」と呼んで います。先に示したなぞなぞは、クイズ形式のごく単純なモデルです。
クイズ形式は、数学のテストではおなじみです。「数学の問題」というくらい ですから、まず問題が出るわけですね。例えば「Xの角度は何度でしょう?」。
数学の得意な人なら「50度」などと結論が出せます。そして、どういう手続き で50度になるのか、道筋が示される。いわゆる証明です。この部分が理由とい うことになります。
数学ばかりではありません。理科のテストでも「これをこうするとどうなるか、
また、それはなぜか」と聞かれます。およそ論理的にものを考える場合、問題・
結論・理由は欠くことのできない要素です。
同様のことが、文章を書くときにも言えます。まずは頭の中に疑問が思い浮か ばなければ物事を考えられないので、問題は絶対に必要です。また、結論がなく て「まあどうにでも解釈してください」というレポートではしょうがないので、
結論も必要となる。さらに、問題と結論を結ぶためには理由が必要となる。論理 的な文章には問題・結論・理由が備わっている。私が「クイズ文」と呼んでいる のは、この形式の文章です。この形式をしっかり理解しなければ、学生たちは何
をどう書いていいか分からないんです。
そこで、まずは問題・結論・理由の三角形を授業の初期段階で学生たちの頭に 叩き込みます。そのためには、さっきのように「腐った団子は何円ですか」といっ たなぞなぞを出してもいいし、自己紹介で好き嫌いを言わせてみるのもいい。「あ なたの嫌いなものは何ですか」「○○が嫌いです。なぜなら……」と、理由を言 わせてみるのです。好き嫌いに理由もへったくれもないとも言えますが、まあ、
形式の練習をさせるわけです。これによって、問題・結論・理由の三角形が大事 だということを、彼らに分かってもらいます。
「クイズ文」を文章術に応用する
さて、この三角形を文章の執筆に応用するとどうなるでしょうか。私が昔から 授業で使っている例文をお目にかけます。
今から10年ぐらい前、iPodという携帯型プレイヤーが非常に流行りまして、
電車の中でイヤホンで音楽を聴く人が急に増えました。そうすると、満員電車で 前からも後ろからもシャカシャカという音が聞こえてくる状況になりました。若 い方はご存じないかもしれませんが、本当にうるさかった時期があるんです。そ こで、こんな文章を考えました。
「電車に乗って、イヤホンから漏れるシャカシャカという音に悩む人は多いだ ろう。あのおかげで、読書も授業の予習も妨害される。ああいった音漏れを防ぐ 責任は、だれが負うべきだろうか。乗客か。それとも鉄道会社か」
これはちょっとエッセイふうに書いています。論文的な書き方じゃないですね。
「あのおかげで、読書も授業の予習も妨害される」というのは、随筆的な文章です。
ただ、ここにはひとつの問題がはっきり出ています。「音漏れを防ぐ責任は、
だれが負うべきだろうか」
こう聞かれると、読者としてはそこから頭が回転し始めます。問題が提起され たわけですから。「誰だろう、分からない」といって問いを投げ出す人もいるでしょ うし、「それは電車の中のマナーの問題だから、ユーザーが責任をもって音漏れ をしないようにすべきだ。ユーザーに責任があるんじゃないですか」という人も
いるでしょう。あるいは「そういう迷惑行為は、鉄道会社が責任をもってキャン ペーンを張ってなくさなければならない。鉄道会社に責任がある」と考える人も いるでしょう。学生によって、いろいろ異なる考えが出てきます。また、メーカー に責任があるとも考えられます。シャカシャカと音が漏れるような機械は、一種 の欠陥商品である。家の中で聴くことを想定するならともかく、表に出て歩きな がら聴く機械を作っている以上は、メーカーに責任があるんじゃないか、などと、
いろいろ考えられます。
この議論も、さっきの問題・結論・理由という三角形、3つの要素に分けるこ とができます。問題は「音漏れを防ぐ責任は、だれが負うべきだろうか」でした。
では、結論はどうしましょう。かりに「鉄道会社に責任がある」ということであ れば、なぜ鉄道会社に責任があるのかを述べなければなりません。「メーカーに 責任がある」という場合、これは、製造物責任について考えることになります。
授業でこの問題について学生に考えさせると、「いや、これはマナーの話でしょう」
と言う人が多かったですね。
ところが、この問題は時間が解決しまして、今や電車の中でそんなにシャカシャ カ言わせている人は多くありません。なぜかと言うと、マナーが向上したという こともあるでしょうが、機械の性能が上がったんです。シャカシャカと音漏れが するイヤホンがなくなってきた。ということは、メーカーの製造物責任は議論の 対象になるんです。いい製品を作ることによって、車内の迷惑をなくすことは可 能だ、と述べていくことができます。
ここまで述べられれば、とりあえずは論理的な文章が書けたと言えます。ごく 短い文章ですが、問題・結論・理由を備えたごく短い文章が書けた。これで何字 ぐらいですかね。まあ200字から300字ぐらいです。これだけ書けるようになっ ても、まだ実用にはなりません。大学でレポートを課されたり、社会に出て業務 で文章を書いたりするとき、これだけでは十分ではない。
では、この他にどういう要素が必要なのか、考えていきます。実際の学生のレ ポートを例に取りましょう。
「クイズ文」を用いた学生のレポート例
日本にカジノを作っていいかどうか、昨年(2018年)まで大きな論争になっ ていました。昨年までというのは、その夏にカジノ法案が衆参を通過し、日本で もカジノを作ろうとすれば作れるようになってしまったからです。すぐパッと作 れるわけではないのでしょうが、一応、法律が整備された。ただ、それまでは、
この法案是か非かという議論が長く続きました。その中である学生が次のような レポートを書きました。
タイトルは「病的賭博を拡大するカジノを日本で導入すべきではない」。カジ ノ導入に反対の立場で書いています。
まず、始めのところにこういう段落があります。
「2014年6月、カジノを含めた観光施設の整備を推進する法案が国会に提出さ れた。会期中には成立しなかったものの、法案は継続審議となった。推進派は 2020年までにカジノを完成させ、外国人観光客を呼び込もうと考えている」
この段落は問題でもなければ結論でも理由でもありません。問題を出すにあ たって読者に予備知識を与えている部分です。これを、私は「現状分析」と言っ ています。クイズを相手に出すためには、そのクイズの前提となる知識を出題者 と読者とで共有しなければなりません。現状分析はそのためのものです。
現状分析の後に、いよいよクイズを出します。
「日本では、現在賭博にあたるとして禁止されているカジノだが、これを導入 すべきだろうか」
「……か」という形式により、ここが問題だと分かります。日本語の場合は、
終助詞の「か」が問題を提起する目印になります。英語の場合は、「What」とか
「How」とか疑問詞を使いますが、日本語の場合は最後の1文字で疑問であるこ とが分かる。だから、私は学生に、問題を提起するときには、必ず「……か」を 入れてくださいと指導しています。
この問題提起に対してどう答えるか。この筆者は反対しています。「たとえ経 済的効果が大きくとも、導入すべきではない」。これが結論です。さらに続けて 理由を述べます。「なぜなら、カジノを導入すると、病的賭博(ギャンブル依存症)
を拡大させるからだ」。これで問題・結論・理由がそろいました。
文章の最初で現状分析。そして問題を出し、結論・理由を述べる。これで終わっ ていいかというと、読者の方はまだモヤモヤが残りますよね。「カジノを導入す ると病的賭博を拡大させるからだ。以上」と言われると、「本当なんですか?」
と問いたくなる。「たしかに賭博に溺れる人は出てくるだろうが、それはどのく らい深刻な問題なのか」と。「病的賭博者が出たとしても、無視できる程度で、
大して深刻でなければ、どんどんカジノ導入したらいいじゃないか」となります。
読者のそうしたモヤモヤを解消する必要があります。しかも、信頼できる資料に 基づいていなければなりません。
となると、この後に必要になるのは「理由を支える証拠」です。いろんな信頼 すべき証拠をできるだけ集めて、こういう資料があります、こんな資料もありま すと。それでやっと「やはり病的賭博を拡大させるから導入すべきではない」と 客観的に述べることができます。この筆者の場合は、先にカジノを導入した韓国 の病的賭博について触れています。
それでも、読者が納得するかどうか、なお不安です。いくらいい資料を並べた ところで、読者には、「その資料は本当に正しいんですか」「その資料はちょっと 古いんじゃないですか」「それは外国の例だから、日本には当てはまらないんじゃ ないですか」など、いろんな疑問がさらに出てきます。そういった読者の疑問を 解消してやる必要もあります。読者の疑問を想定して、あらかじめ筆者の文章の 中で打ち消しておかなければなりません。すなわち、「想定される反論」とそれ に対する「再反論」を述べます。
以上のようなことをどんどん付け加えていくと、以下のような要素が並びます。
まとめてみましょう。
まず、読者に現状について情報提供する「現状分析」。それから「問題」「結論」
「理由」。さらに、本当にそんな理由が成立するのかという意見に答える「理由を 支える証拠」。ディベートの方では「証拠資料」と言いますね。この資料がどれ だけ信頼性があるかということで、レポート全体の、論文全体の評価が定まって きます。
その証拠を提示してもなお読者には疑問が生まれます。その疑問を先回りして
取り上げるのが「想定される反論」。その反論に対して、筆者の側から「確かに そういう意見もあるかもしれないけれども、実はこういうことだからそれは大丈 夫ですよ」と「再反論」をする。そうやって読者の疑問も解消させる。
そして最後に、「やはり結論は動かない」と「結論の確認」を行ないます。
論文・レポートは書き手ごとに書き癖があるとはいえ、どんな書き手も、自説 の証明のためにはこのような手順を経るしかありません。この中のどれが欠けて も説得力を弱める結果になります。
「クイズ文」の章立て
授業では、以上のようなクイズ文の形式を学生に理解してもらった時点で、す でに授業開始から1か月ぐらい経っています。この後は学生が文章を書く段階に 移ります。
まず、自分の書く文章のアウトラインを考えてもらいます。「あなたは読者に どういう問題を出し、どういう結論に持っていこうと思いますか。また、どうい う理由でその結論になるのですか」。これを3行にまとめる、という宿題を出し ます。
その宿題の話の前に、学生たちが最終的に書く約4000字のレポートは、どん な構造を持つことになるのか、全体のイメージを示しておきます。
全体としては5章ぐらいの文章になることを想定しています。「はじめに」「第 1章」「第2章」「第3章」「おわりに」というのが基本フォーマットです。
先ほどのカジノに関するレポートで、クイズ文の要素を細かく示しました。こ れを5つの章に配分します。
まず、「はじめに」の章では現状分析を行ないます。さらに、問題も「はじめ に」の中で出し、結論も理由も出してしまう。したがって、「はじめに」を読め ば、筆者がどういうことを言いたいのかすべて分かります。学生によっては、「は じめに」というのは落語の枕みたいなものだと思っていて、適当に書けばいいと いうふうに考えている人も多いんです。でも、「はじめに」はむしろ、人間で言 えば頭の部分にあたる大事なものです。主な論理の筋道は「はじめに」で示して
おくんだ、と教えています。
第1章、第2章以降はもっぱら、この「はじめに」で提出した論理の筋道を証 明したり補強したりするために使うことになります。第1章では、理由を支える 証拠の1つ目を出し、「この証拠は信頼できるんだ」とひたすら述べます。第2 章では2番目の証拠を出して、「この証拠も理由をしっかり支えていますよ」と 述べます。第3章でも同じようにやります。お望みであれば、第4章でも同じよ うにやります。第5章、第6章とやってもいいわけですが、それだと4000字ど ころか1万字になってしまいますから、大体第3章ぐらいで止めておきます。
証拠を提出する一方で、読者の疑問に答えることも必要です。「想定される反論」
と、それに対する「再反論」も、各章で適宜述べておきます。
そして最後に「おわりに」ですが、これはごく簡単に終わるはずです。つまり、「第 1章、第2章、第3章と見てきたが、それぞれの章で示した証拠によって、やは りこの理由は正しいということが分かり、この結論が妥当であるということが証 明された。おしまい」となるわけですね。「おわりに」では、「やっぱり自分は正 しかった」ということだけを、あっさりと述べて終わります。これがクイズ文の 章立てです。
レポートのアウトラインの考え方
さて、実際にクイズ文を書くにあたって、学生にアウトラインを考える宿題を 出すと言いました。アウトラインとは、「問題・結論・理由」の3つを総称した ものです。「この3つを、簡単に3行でまとめてください」という宿題です。ア ウトラインの軸になるのは、「どうしたらいいか」とか「何々すべきか」とかいっ た「問題」です。ここでは、学生が実際に考えた問題をご紹介しましょう。
例えば、「学生の英語力を向上させるにはどのような英語教育が効果的か」と いう問題を考えた人がいました。「どうしたらいいか」を考えるということですね。
また別の人は「教職員の部活動指導における負担を軽減するにはどうしたらいい か」。今、学校の先生は大変な負担を強いられています。授業もやらなければい けない、部活動もやらなければならないというわけで、その職務が非常に過重に
なっている。そこで負担を軽減するにはどうしたらいいか。こういう、「どうし たらいいか型」を私は「How型」と言っています。このような解決策を考える タイプの問題を考える学生は多いです。
その一方で、YES or NOで答えが出る問題を考える人もいます。例えば「大学 の講義の時間は90分で適切か」。これはYES or NOで答えが出ますよね。ある いは「オリンピックのスポーツドクターは無償で募集すべきか」。これも「はい、
無償で募集すべきです」「いいえ、無償で募集すべきではありません」とYES or NOになるわけです。
この他にも、「What(何がいいか)」とか、あるは「Why(どうしてか)」とい うような問題を設定する場合もありますが、ここでは「How」と「YES or NO」
だけを例としてお示ししました。
実際のレポート事例
では、こうしたアウトラインが、どのようにレポートになっていくか、具体的 に述べていきます。例として、「学生の英語力向上」「教職員の負担軽減」を取り 上げます。
まず、「学生の英語力向上」について。この筆者を仮にAさんとしておきますが、
Aさんが掲げた問題は、今述べた通りですね。「どうしたら学生の英語力が向上 するか」。それに対する結論は、「早期に、楽しみながら触れられる授業を行えば いい」。ちょっと曖昧な結論のような気がしますが、早期に楽しみながら触れら れる授業を行なうという結論にしています。
読者としては、どうして「早期に」なのか、あるいは、なんで「楽しみながら」
なのかということが知りたくなりますよね。Aさんの示した理由はこうです。「英 語力の高い国は、日本と同時期か、より早い段階から教育を開始しているから」、
そして「(楽しませないと)子どもは勉強に嫌悪感を覚えてしまうから」。まあ、
勉強が嫌いな子に楽しく学ばせたい、というのは当たり前のような気もしますが
……。
ともあれ、「どうしたら学生の英語力が向上するか」という問題に対し、ひと
つは早期教育ですよ、もうひとつは楽しめる授業をすることですよ、という結論 を示している。これだけだと感想文ですね。ここで終わったらレポートとは言え ない。そこで、この後にどういう証拠資料を持ってくるかが重要になります。
次に、Bさんの場合。こちらは、「教職員の負担軽減」の話です。問題は「教 職員の部活動指導における負担を軽減するにはどうすればいいか」、それに対し て結論は「部活動指導員を導入すればいい」。つまり、先生の他に部活動を教え るための専門の人をお願いすればいいということのようです。それはなぜか。理 由は「部活動指導を専門の指導員に任せることで、教職員はそれ以外の業務に専 念できるから」。もっともな理由です。これで問題・結論・理由が論理的に述べ られました。ただし、部活動指導員なんていうものが実現できるのか、ちょっと 難しいんじゃないか、と考える読者もいますよね。ですから、ここで文章が終わっ ていたら、やはり感想文ということになってしまいます。この後は、理由の妥当 性を検証する過程に入っていきます。
もっとも、学生にアウトラインの宿題を出す段階では、「まだ資料をそんなに 調べなくてもいいですよ」と言っておきます。自分で考えた問題に対して、とに かく結論と理由を考えるところまでを学生には求めます。資料は後から集めるの で十分です。その資料によって結論がひっくり返れば、その新しい結論に基づい てレポートを書けばいいんです。
さて、ここからいよいよ文章を書いていくことになります。詳しい証拠資料の 提示は後回しにして、とりあえずここまでを論理的な文章の形に落とし込んでみ ます。それが、「はじめに」の部分です。完成までにはいろいろ書き直しがある のですが、今日お見せするのは、その書き直しを経た完成原稿です。
まず、「学生の英語能力を向上させるには」ということで文章を書いた学生の Aさんの場合。「はじめに」はこのように書き始めています。
「近年、グローバル化が進み、世界各国で国際共通語としての英語の重要性が ますます高まってきている。それは、日本も例外ではなく、政府も英語教育によ り一層力を入れている。その一環として、小学生における英語教育があげられる。
平成23年度から、小学校5、6年生での『外国語活動』が必修化された。この活 動は、『音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じて、言語や文化につい
て体験的に理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする 態度を育成し、コミュニケーション能力の素地を養うこと』を目的としている」
「目的としている」の後に「⑴」と数字が入っていますが、これは末尾に「注」
をつけて、資料を示していることを表しています。
「さらに、平成29年度告示の新学習指導要領では、小学校3、4年生に外国語 活動、5、6年生には外国語科の導入を決定している。これにより、日本人、特 に学生の英語力向上が期待されている」。ここはまだ現状分析ですね。現状分析 はさらに続きます。「ここで、世界英語ランキングというものを見てみよう。日 本は第49位で、ヨーロッパ諸国と比べてかなり低い順位である。アジアの中では、
第11位。シンガポールや中国、台湾よりも下回るという結果になっている。また、
TOEICの順位は第39位、TOEFLの順位もアジアの中だけでも29か国中第26位 とあまり芳しくない成績となっている」
芳しくないどころか、日本は底辺に近い位置にあります。このような現状分析 を見てみますと、本当に大丈夫かというような気持ちになってくるのは確かです。
そこで問題が出るわけですね。
「このようにみていくと、日本人の英語力はあまり向上していないように思わ れる。では、どのような英語教育が日本人、特に学生の英語力向上につながるの だろうか」
ここで、問題が、「……か」の形で提起されています。どうすれば英語能力向 上につながるのか。「答えは、英語に早くそして楽しみながら触れられるような 授業を展開することである」と、ここが結論。つまり、問題を提起して、すぐ結 論を出しています。
さらに、その理由はこうです。「なぜなら、英語力の高い国々は、日本と同じ 時期かそれ以上に早い段階から英語教育をスタートしており、また、勉強すると いう認識があるとどうしても子供は嫌悪感を覚えてしまうからである」。ここに 2つ理由が出ています。諸外国で、日本より早く英語教育を進めているところが ありますよ、そして、子どもを嫌な気持ちにさせない授業の方法がありますよ、
ということを、Aさんはこの先に実証していくことになります。
「はじめに」の最後はこう結ばれています。
「ここからは、英語力が高い国々がどのように小学校で英語教育をしているか を調査し、日本の英語教育に生かしていく方法を考えていきたいと思う」
この「はじめに」だけだと、「もっと早期教育をしよう」とか「もっと楽しい 授業しよう」とかいうことしか述べられていませんが、第1章以降に具体的な資 料を出すことを予告して、「はじめに」の部分が終わっています。
次に、その第1章を見ていきたいところですが、その前にもうひとつ、「教職 員の負担軽減」について書いたBさんは、どのように「はじめに」をまとめて いるでしょうか。こちらも見てみましょう。
「教職員は非常にやりがいのある仕事だ。指導するだけでなく、生徒と関係を 持ち、充実した学生生活をそばで見守り共に成長できる。しかし近年……」
この「近年」という言い方、みんな好きですね。学生は「近年」とか「最近」
とか言うのですが、「近年」とは一体いつでしょうか。これは曖昧な表現なので、「何 年以降」というように書いてくださいと注文をつけます。資料があるなら、時期 を明確にできるはずですね。
続けます。「……しかし近年教職員の労働環境が過酷であることを問題視する 指摘が増えてきた。部活や遠征で休日がつぶれ、平日も部活後に遅くまでデスク ワークをしなければ日々の業務が回らないという実態が教職員を疲弊させる。教 職員にも当然、自らの生活があり『生徒のため』といって割り切るのにも限界が ある。本来『ボランティア』であるはずの顧問が、事実上、当たり前のように各 教職員に割り振られる『全員顧問制』の義務となっているようだ」
さらに続きます。「教職員の多忙さはデータにも表れている。小学校教諭の勤 務時間は平日1日あたり11時間15分、中学校教諭は、11時間32分。土日の勤 務時間は小学校教諭が1時間7分、中学校教諭は3時間22分」、大変な負担です ね。「ここに自宅に持ち帰っての残業は含まれていない。調査を業務別に見ると、
特に中学校教諭の土日の『部活動・クラブ活動』の時間が2時間10分で、ほぼ 倍増しているのが目立った。部活の顧問を外れることができれば多少は過酷度が 和らぐと言えそうだ。しかし、『希望する教員が顧問にあたることを原則』とす る中学校は2.2%、高等学校は1.4%とごくわずかにとどまった」
さらに続きまして、「また、公立中学校などの教職員にとって、部活は時間外
労働として認められない。教育職員給与特別法の規定で時間外勤務手当は払われ ず、代わりに『教職調整額』として基本給の4%が支給される。単純化して言えば、
どれだけ部活指導で平日夜が削られても、基本給が月20万程度なら8千円ほど しかもらえないのである」
大変過酷な現状が浮き彫りになっています。ここまでで、小中学校の先生がい かに大変な思いをしているかということを、資料に基づいて述べている。現状分 析をしている。そこでいよいよ問題が出てくるわけですね。
「では、教職員の負担を減らすにはどうしたらよいか」。だいぶ前置きが長かっ た割には、問題はシンプルです。「教職員の負担を減らすにはどうしたらよいか。
それは、部活動指員の導入を行うことである。なぜなら、教員が担当していた部 活動指導を専門の指導員にやってもらうことで教職員はそれ以外の業務に専念で きるからである」。この部分が結論と理由です。さっきお見せしたとおりです。
次の文章で「はじめに」は締めくくられるのですが、ちょっと尻切れトンボみ たいな感じがします。「近年、文部省は部活動指導員を学校教育法施行規則に新 たに規定した。また2017年4月1日から学校教育法に基づき、学校職員に位置 づけた」。これで終わっています。本当はこの後に、第1章以降でこういうこと を見ていきます、という予告編が入るといいんですが、それがないので尻切れト ンボ的になっています。
とにかくこのようにして、「はじめに」の中で筆者であるBさんの問題意識を 論理的に述べたことになるわけですね。
この後は、「はじめに」で述べたことについて、第1章以降でどんどん証拠を 示して、自分の文章を説得力の高いものにするという作業が続きます。
「学生の英語力向上」を論じたAさんは、第1章以降をどう展開したか、煩わ しさを避けて概略だけご紹介します。彼の場合は、第1章、第2章、第3章で、
国ごとの資料を提示しています。第1章で取り上げたのはシンガポールの英語教 育。シンガポールでは、英語は公用語のひとつになっていますね。日本とはちょっ と国の事情が違いますが、とりあえず、シンガポールではどのように英語教育が 行われているかをレポートしています。第2章では、今度はオランダではどのよ うにしているかというレポート。第3章では韓国の事情をレポートしています。
Aさんは、英語がその国で公用語になっているか、なっていないかで事情が大 きく変わるということは分かった上で、いろいろな国の英語教育を比べました。
ある国の早期教育はこういうところがいい、こういう教え方は大変いいと、日本 の英語教育にも参考になるというような形で、それぞれの章で英語教育のための ヒントを集めています。最後に、それぞれのいいところを日本の英語教育でも取 り入れるといい、という形で論をまとめています。
Bさんは、学校の先生の負担軽減をするために、各自治体がどういう取り組み を行っているかを調べました。それぞれの章ごとに異なる自治体を扱っています。
第1章では目黒区、第2章では神戸市、第3章では立川市。日本にはいろいろな 自治体があるので、それぞれの取り組みを調べてみると、資料が結構集まります。
その中で、成功例を特に取り出して、どういうところが成功したのかを調べてみ た。
あるいは、失敗例があってもいいですよね。この自治体では、なぜうまくいか なかったのだろうというように、実例に基づいて事例研究をする方法もあります。
Bさんの場合、まず「第1章 目黒区」とサブタイトルをつけています。詳し く読んでいきましょう。
「目黒区立中学校は、勤務時間外や週休日に活動や大会が行われる部活動にお ける教員の負担軽減及び部活動の活動内容の充実を図るため、『目黒区部活動指 導員等検討委員会』を設置して、部活動指導員の在り方や任用条件等について検 討し、下記のとおり部活動指導員を新たに設けることとしている。設置校は目黒 区第一、第七、第八、第九、第十、第十一、東山、目黒中央、大島中学校である。
設置数は運動部活動に49人(すべての中学校の合計)、文化部活動に43人(同様)
で、のべ人数は92人である」
これだけの部活動指導員を配置しているということですね。まだ続きます。
「各分野で専門性の高い外部指導員による技術指導を受け、都大会に出場する などの活躍を遂げている部活が出てきているようだ。実際に外部指導員から指導 を受けた生徒(吹奏楽部部長)は『外部指導員のかたのおかげで賞をもらうこと ができました!』や『厳しいだけでなく、時には笑いも交えて楽しく熱心に教え てくれました。部活動では、先輩・後輩や顧問の先生、指導員のかたなどいろい
ろな人と関わりを持つことができます。練習や人間関係など大変なこともたくさ んありますが、部活動の中で得られるものはとても多いと思います』などの声を 上げている。また、吹奏楽部の外部指導員の声『良いところを褒めることを心掛 けています』と述べていた」
このあたりは、目黒区のウェブサイトにあった資料に基づいたのでしょうね。
「これまでは、教員:顧問教員及び部活動担当教員と、外部指導者:外部顧問 指導員及び外部指導員で部活動を進めていたが、平成30年からは単独での部活 動指導及び大会等への引率をすることができる部活動指導員を新たに設置し、外 部顧問指導員を廃止している」。つまり権限のある指導員が置かれたわけですね。
「そのため教員の部活動負担はゼロになっている。このように専門的な部活動指 導員を導入することで、実力を最大限に発揮し賞などの獲得が可能になっている。
また、指導員とのコミュニケーションを図り生徒たちのモチベーションもあがっ ている。教員の負担が減り、生徒たちの学校生活を充実させより良いものにして いるため成功例の一つと言える」
文章がこなれていませんが、原文のままです。このように、部活動指導員を置 いたことによっていい結果が出ている事例を紹介しています。これが第1章です。
そして、第2章以下でも同じように、神戸市ではこうだ、立川市ではこうだ、と いう形で指導員を導入するメリットを強調する形になっています。
そうは言っても、実のところ財政の問題はどうなるのかとか、いろいろ解決す べき課題は多く、筆者がすべての課題をクリアする明快な結論を出しているとま では言えません。実際にこうすればいいのは分かっていても、できないという自 治体も多いでしょう。そういう自治体はどうするのかという点にも言及すれば もっとよかったでしょう。
ともあれ、AさんもBさんも、問題・結論・理由を出して、そして理由を支 える証拠を信頼できるソースから探し出してきて、それを整理してまとめるとい うことまではできました。「もっとこの点にも言及すれば」などと私が指摘でき るということは、議論の土俵が作られているということです。この筆者ぐらいの ことが書けていれば、「ここまでは書けましたね、じゃあ今度はもっとこういう ことに気をつけて書いてみましょう」と、さらに上の指導ができます。
これら第1章、第2章、第3章……の後に、「おわりに」で全体を振り返り、「や はり本稿の結論は正しい」と簡単にまとめます。実際の文例は省略します。
今回の「学生の英語力向上」「教職員の負担軽減」の文章は、今年の2月に採 点した文章の中から選びました。一定の水準に達しているので紹介しましたが、
筆者たちには失礼ながら、このふたつだけが飛び抜けていい文章というわけでは なかったんです。他にもいっぱいいい文章がありました。どれを選ぼうか迷った んですが、話の展開が単純明快で、クイズ文の構造を皆さんに示しやすい文章を 選びました。他の学生も、全体的によく書けていました。
というわけで、学生たちは、やる気になれば、非常に水準の高い4000字の文 章が書けるんだ、あなどってはいけないな、ということを、授業を通じて痛感し たわけです。
残念ながら、今後はこちらの大学で学生たちを教えることはできませんが、文 章指導に携わっていらっしゃる先生方、それから、今レポートで苦しんでいる若 い人たちに、何かのヒントになればうれしく思います。
私の話はここまでです。ありがとうございました。
【司会 阿部】 飯間先生ありがとうございました。改めてお礼申し上げたいと思 います。
後半ですが、先ほど冒頭でも申し上げましたように、私の方から飯間先生に質 問、あるいはコメントを発しまして、ちょっと飯間先生と議論をした後に、今日 お集まりの皆様方にもご意見を伺いたいと思いますので、後半の方もお付き合い いただければと思います。
これから休憩とさせていただきたいんですが、皆さんお疲れかもしれないので、
最初10分と思ったんですが、10分はあっという間に経ってしまうかと思います ので、今4時15分頃なので4時半だときりがいいかなと勝手に考えまして、15 分休憩ということで、4時半から再開ということにさせていただきたいと思いま す。
では、休憩に入ります。
【司会 阿部】 では、後半のディスカッションに入りたいと思います。先ほども 申し上げましたように、まず、私、阿部から、飯間先生に講演の内容に関して、
議論したいことを3点ほど、感想と言うか考えたことを1点、述べさせていただ きたいと思います。討論者の特権ですいません。たくさん述べてしまいますが、
しばしお付き合いいただければと思います。
飯間先生のご指導ですが、別に自慢しているわけではないんですけど、実は、
私も、似たようなことを授業でやっていました。休憩中にも飯間先生とお話しし ていたんですが、飯間先生は4000字でレポートを書くことを授業でやっている という話を聞いたので、私も同じ事をやってみようと試みたんですが、これがな かなか難しい。飯間先生のクラスに、いい学生さんが集まっているのか、私の指 導が悪いのか……、後者のような気もするんですが、非常に苦労しまして、私の 場合、4000字から2000字と、だんだん減らしていって、飯間先生の授業と同じ ように、ああいう論理的な文章の構成を組み立てることを体験させようとしてい るのですが、うまくいかなかったわけです。そういうような経験もあるので、飯 間先生のお話を伺っていて、羨ましいと思うとともに、自分はなんでできないん だろうと考えていた次第なんです。だからこそ、いくつかお伺いしたいことがあ ります。まず1点目ですが、クイズ文から入っていって、論理的な流れを作って いくという手法は、私もよく理解できるんですが、学生さんが、学期の後半の方 で、問いそのもの、つまりレポートのテーマを自分で考えてきなさいよという段 階になってきたときに、問いそのものをどう見つけるかって、とても大事であり、
かつ大変なことだと思うんですね。世の中に関心のない人が問いを見つけること は、なかなか難しいでしょうし、問いは何でもいいよと言うと、本当に突拍子も ない問いを見つけてきたりもする。別にそれはそれで面白ければいいんですけれ ども、最初から答えがもう分かっているような、例えば、What型と言える問い、
極端な例ですが、「鎌倉幕府はいつできたんでしょうか」とか、最近は「いい国(1192 年)」から、新しい説が出てきたという話がありますが、このような、調べれば 分かる話をわざと問いに持ってきてレポートを書いてきたという、「ふざけんじゃ ない」ということがあったりするわけです。そうすると、問いそのものをどう見 つけるかというときに、それぞれの学生さんの関心の深さだとか、モチベーショ
ンの問題もあると思うんです。
それだけではなくて、さっき飯間先生がおっしゃっていたような、問いのテー マの分類って当然あるわけで、学生さんはどこまでその分類を意識しているか分 からないけれども、How型なのかWhy型なのか、あるいは1つのことに対して
YES or NOという、学生さんは、問いの型の分類について無意識であるかもしれ
ないけれども、例えば、ずる賢い学生ならば、「いつできたんですか」という問 いをわざと考えてきたりする。そこで、問いそのものの見つけ方とか、あるいは 見つけるためのコツみたいなものを、どのように誘導しているのかというか、指 導しているのかについて聞きたいんです。
2点目ですが、今の話と関連して、元も子もない話かと思いますが、レポート を書くことに対する学生さんのモチベーションをどのように持っていくのかと。
もちろん、これは飯間先生がどう考えているかってことですが、さっき飯間先生 がおっしゃられたように、4000字でうまく書ければいいんだけれども、結構サ ボったりとかする学生もいるし、そうすると2000字ぐらいでいいんじゃないか と思うんですが、そういうことに対してどう考えるかということもあるんですね。
で、学生のモチベーションの話そのものを問題にすると元も子もないかもしれま せんが、あまり精神論的じゃないところで、例えば、こういう枠組みで書けます よということを、どのようにうまく誘導していくかということについて、おうか がいしたいです。もちろん、これは、飯間先生のご経験でかまいません。
あと、もう1点、お聞きしたいことがあります。これは、飯間先生が辞書編纂 者をされているというということで、伺いたいことでもあります。我々というか 研究者は、仕事で論文を書きますが、その時にあまり意識していないんですけれ ども、論文の中で、いちいちこんなことまで説明しなければいけないのかといっ た基本的な用語の説明や、さっきの論文の書き方の説明にも出てきた冒頭に書く 現状の説明や分析があったり、あるいはクイズ文が種だとすれば、結論に対する 理由とその理由の検証は、もちろん手続きとしていちいち書いていかなければい けないですしそのように教えるわけですが、学生さんは、あることについて説明 をするっていうときに、「いやそんなのネットに書いてあるよ。だからいちいち 書かなくていいじゃない。書くの面倒くさいし」とか思うかなと。あるいは、学