九州・山口地域を中心とする
【救急絆創膏】を表す言い方
大学生の実態
山 県 浩*
1.はじめに
[1]本稿は、沖縄県を除く九州・山口各県に所在する大学・短期大学の在学 生に対して行った、言語使用に関するアンケート調査の結果を報告するものの 一つである。本稿では、【救急絆創膏】に関する項目について、それを表す様々 な言い方が地域によってどのように異なるか、即ち、当該地域における地域差 の実態を報告する。
【救急絆創膏】を表す言い方は、 篠崎 (1996)・篠崎 (1997b) によって
「気づかない方言」の一例として高年層・若年層における全国的な分布状況が 報告された。
しかし、その調査は 1994・95 年に実施されたもので、すでに 10 年以上が経 過している。また全国的な地域差を示すことが目的の一つである。このため、
調査結果は都道府県単位にまとめられている。
例えば、本稿の調査で中心となる九州地方は、伝統的な方言区画が県境と一 致しないことが多い。【救急絆創膏】のような「新物新語」でも伝統的な区画
*福岡大学人文学部教授
に従った県の違いや県内の違いが見られるのか、また「新物新語」故の新しい 地域差が見られるのか、関心が持たれる。また九州に本社を置く製薬会社2社 の製造・販売する商品の名が一般名称として使われていることが報告される。
それだけに九州・山口地域では、県単位の集計で確認できない県内の地域差の 存することが予想される。
更に氏の報告では商品名以外に〈バンソーコー〉が使われるという。すると、
本来〈バンソーコー〉が表す【絆創膏】は、どのような言い方で表されるかが 問題となる。しかし、氏は「テープ、紙テープなどの語形を用いている」(篠 崎(1996b) p.95)と述べるだけで、その全国的な分布状況や【救急絆創膏】
と【絆創膏】の区別については報告されていない。
その他、九州・山口地域の若年層では、【救急絆創膏】を表す言い方に関し て、どのような変化が生じているのか、変化の見られる場合、それは高年層と の比較から確認された傾向の延長線上に位置するものかなど、10 年以上経っ た今日、経年的な追跡調査も必要な時期である。
[2]本稿は、以上の如く、九州・山口地域を中心とする若年層における【救 急絆創膏】を表す言い方について地域差の実態を記述することを第一の目的と する。
併せて、篠崎氏の報告との比較に基づいて、各地域での変化相を報告する。
そして、当該地域における地域差の背景について考えるところを述べる。
なお、本稿の依る調査は、【救急絆創膏】【絆創膏】の3項目以外に、不快 感に関する5項目を有する。それらの集計・分析もほぼ終えており、今後、数 度にわたって報告をする。本稿は、これらの最初の報告に当たるため、調査の 基本的な情報について紙面を費やす。従って、本稿では、【救急絆創膏】に関 する項目について報告するに留め、【絆創膏】を表す言い方や【救急絆創膏】
と【絆創膏】の区別などは、本稿の補論に当たる別稿で報告する。
2.調査の概要 21.調査対象
[1]本稿の依る調査は、2007 年 10 月から 08 年4月にかけて行った。
調査対象は、沖縄県を除く九州・山口8県に所在する次の大学・短期大学 16 校の在学生である。福岡大学を除き、調査票は郵送して、依頼した先生方 の講義で配付していただいた。その際、調査票に記した事項でも注意すべき点 は口頭で説明するようお願いをした。
福岡県;福岡大学・久留米大学・北九州市立大学 佐賀県;佐賀大学
長崎県;長崎純心大学・県立長崎シーボルト大学 熊本県;熊本大学・熊本学園大学
大分県;大分県立芸術文化短期大学 宮崎県;宮崎大学
鹿児島県;鹿児島大学・鹿児島県立短期大学・鹿児島女子短期大学・志學 館大学
山口県;下関市立大学・山口大学
これら 16 校に依頼した結果、1,760 名から回答を得た。しかし、 下記①~
⑤に該当する回答を除外した結果、1,514 名の回答(全回答の 86.0%)を有効 回答として考察の対象とする。
① 外国人留学生
② 九州・中国・四国以外の都道府県出身者 注(1)
③ 小学校・中学校・高等学校在籍期間(6歳~18歳)中に複数の異な る県に在住した者
④ 回答に不備の多い者
⑤ 異なる講義で重複して回答した者(福岡大学の場合、最初の回答を対 象とする)
有効回答者 1,514 名に関する基本データは、大学ごとに集計した結果を示す
(論末、表-01・02参照)。注(2)
なお、本稿では、以下、この有効回答者を単に回答者と称する。
[2]種々の属性ごとに集計を行ったが、本稿では、回答者の出身県・出身地 域に着目して報告・考察を行う。
なお、本調査では、前項②の如く九州・中国・四国各県の出身者を対象とし、
そのデータを集計した。しかし、中心的に扱うのは、回答者が 10 名以上の諸 県、即ち、沖縄県を除く九州7県と山口県・広島県・岡山県・愛媛県の 11 県 である。更に県内の地域差を問題とするのは、九州7県と山口県の8県とする。
22.出身地の認定
[1]本稿の依る調査では、【救急絆創膏】を表す言い方を含め、該当項目の 言い方に関する地域差の実態を問題とするため、回答者の出身地の認定は慎重 に行った。
一方で、認定を厳密に行うと、有効回答率を下げるため、「県内不定」のよ うな分類を設けた。
出身地認定の原則は、次の(1)~(3)の如くである。
(1)生まれてから高等学校卒業まで在住していた地(県及び後述の 49 地 域)を出身地とする。但し、県内また 49 地域内での転居は認める。
(2)転居歴があっても小学校入学前までであれば、問題としない。この 場合、小学校・中学校・高等学校在籍期間中に在住していた地(県・地 域)を出身地とする。
(3)沖縄県を除く九州7県と山口県で、小学校・中学校・高等学校在籍 期間中における転居が 49 地域を跨いでも、同一県内であれば、「県内不 定」として、その県の出身者として扱う。
[2]県内の地域は、伝統的な方言区画を参照しつつ、回答者数に極端な偏り
の生じないよう考慮して設けた。
この場合、回答者が 10 名以上とは言え、30 名以下の広島県・岡山県・愛媛 県は、県内を区画せず県単位の検討のみ行う。
[21]沖縄県を除く九州7県と山口県について、次の2点に注意して、県内を 4~12 の地域に区画し、都合 49 地域を設けた。注(3)
(a)山口県を除き、県庁所在地の都市及び福岡県北九州市を一つの区画 とする。
(b)市町村は、平成の大合併後の行政区画に従った(2007 年 12 月時点)。
しかし、従来の研究によって、同一の市・郡でありながら、別の地域と することが数例あった。
49 地域のうち、2地域(熊本県東部=阿蘇地域と鹿児島県種子島・屋久島 地域)には、回答者が存しなかった。このため、集計表(論末、表-11~18な ど)では、九州・山口8県の 47 地域と各県内の不定の回答を示す。
検討は、当初、回答者が 10 名以上の地域を対象とする予定であった。しか し、9名以下の地域が 10 地域も存した。そこで、十分注意して扱うこととし て、回答者が9名の3地域(福岡県京築域・大分県西部・宮崎県南部)も対象 とし、本稿では、都合 40 地域について県内の地域差を検討する。
23.調査項目
[1]紙面が限られているため、調査票全体は、別稿に掲載することとし、本 稿では、【救急絆創膏】に関する項目などを示す(論末、資料-A参照)。
資料の如く、文章と絵でその物の言い方を問い、列挙した選択肢から該当す る言い方を複数選択する形式である。
選択肢の言い方は、事前に同様の調査を福岡大学で行い、一定数の回答を得 たり、その他の言い方として記されたりしたものである。
この項目に限らず、本調査は、地域で使われる普段の言い方を収集すること
を目的とする。このため、大学生を対象とする調査ながら、資料-Aの如く調 査場面は「自宅で両親や兄姉弟妹など、家族と話をするとき」とした。更に回 答の際には、口頭での注意事項の一つとして、大学で友人と話すときでなく、
家族と話すときであることを説明してくださるよう依頼した。
なお、家族との会話であっても、話し相手の世代によって言い方の異なるこ とが考えられる。しかし、《地域で使われる言い方をできるだけ多く収集す る》との趣旨から話し相手の違いは問わなかった。
[2]【救急絆創膏】に関する項目は、調査票の表面、【絆創膏】に関する項目 は、調査票の裏面で紙製・布製について続けて問うた。
【絆創膏】は、総称でなく、紙製・布製別に問うた。しかし、この質問の仕 方には、別稿で述べるが、問題があった。また、前項の如く、設定場面は、世 代の違いを問わず「家族」としたり、高校や大学で友達と話をするときなどを 問わなかったりしている。
以上の如く、使われ方の実態を基盤とする報告でありながら、配慮の足りな い点が少なくない。これも限られた紙面のアンケート調査故の限界である。
しかし、本稿では、アンケート調査故に可能な、広範で、大量の回答者によっ て、【救急絆創膏】を表す言い方について、ある時点における九州・山口地域 を中心とする地域差の概観を捉えることを目的とする。そして、本稿を踏まえ、
今後は、主要地域に出向き、全世代にわたる面接調査を行う予定である。
3.調査結果・考察
[1]本章では、前章の調査によって得られたデータに基づいて、【救急絆創 膏】を表す言い方の地域差の実態について、関連する事項に言及しながら報告・
考察を行う。
具体的には、沖縄県を除く九州7県と中国・四国4県について回答状況を概 観し、当該地域の地域差の実態を述べる。その上で、篠崎(1996)などの調査
結果と比較を行い、10 年間の変化の有無やそのあり方について述べる。
更に九州・山口8県は、県内に地域差の見られる3県について、そのあり様 を詳述し、県内各地や他県との関連など、地域差の背景を考察する。
[2]本論では、検討の際、該当の言い方の「回答率」を利用する。
ただ、地域ごとに回答者数の違いが大きいため、検定結果を参照する。更に 本稿で取り上げる代表的な言い方は、紙面の関係もあるため、原則として約 30%以上の回答率を有するものとする。注(4)
31.【救急絆創膏】を表す言い方
[1]【救急絆創膏】は、資料-Aの質問文の如く、小さな傷を手当てするた め、粘着テープの中央部にガーゼを配置した医薬品である(「医薬部外品」「医 療機器」に分類されることもあるが、本稿では便宜上「医薬品」と称する)。
世界的には、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が 1920 年に開発し、「バン ドエイド」の商品名で販売を始めた。ただ、当時は「18 インチ(約 46㎝)の 粘着材付き包帯」とのことで、1951 年にプラスチックの接着絆創膏、1958 年 に現在一般的な肌色タイプが販売されるようになったそうである(以上、同社 HP http://www.jnj.co.jp/entrance/index.html)。 そして、 日本上陸は翌 1959 年という(毎日新聞 2006 年9月 20 日朝刊)。
日本では、熊本県鹿本郡植木町の星子旭光堂(現リバテープ製薬株式会社)
が 1960 年に最初に救急絆創膏を開発し、「リバテープ」の商品名で販売を開始 する(同社『会社案内』)。その他、佐賀県鹿島市の祐徳薬品工業株式会社でも 1961 年 に 「 カ ッ ト バ ン 」 の 販 売 を 始 め て い る ( 同 社 HP http://www.
yutokuyakuhin.co.jp/index.html)。
従って、【救急絆創膏】は、日本では 1960 年(昭和 35 年)頃から各社の製 品が出回りはじめ、日本経済の成長とともに一般家庭に浸透した医薬品である。
[2]地域差や家庭環境もあろうが、筆者の場合、【救急絆創膏】は、小学校
高学年の頃(1965 年頃)に、自宅で見掛けるようになった。
しかし、まだ特別なもので、母親の許可がなければ使わせてもらえなかった。
その後、1970 年代、高校生の頃には、自由に持ち歩いていた記憶がある。
今回の調査対象に当てはめると、回答者の親の世代が小中学生の頃、その親、
即ち、調査対象の大学生の祖父母が家庭に持ち込んできた新物であろう。その 際、祖父母たち(特に祖母)がどの製薬会社の何という商品を何と称していた かが、今日の各地の言い方の基層を考える場合、問題となる。
[3]【救急絆創膏】を表す言い方について、篠崎氏が「気づかない方言」の 一例とされることも、また商品名である〈カットバン〉〈バンドエイド〉〈リバ テープ〉などが【救急絆創膏】を表す一般名称として使われることも、40・50 年という歴史の浅い物の言い方であることが一因であろう。
しかし、氏は、高年層と若年層の全国分布図を比較して「バンソーコーの使 用率は全国的に若年層の方が高くなっており、次第に高年層にも波及しつつあ る」(篠崎(1997b) p.95)として、近年は〈バンソーコー〉という言い方が 一般化してきたという。
[31]「絆ばん創そう膏こう」は、元来「粘着剤をつけた紙・布などの医療品。創傷面の被 覆、包帯の固定などに用いられる。」『広辞苑 第6版』・「テープ状の紙・布 などに薬品を練り合わせた粘着剤を塗ったもの。傷口の保護やガーゼ・包帯の 固定に用いる。」『明鏡国語辞典』などと説明されるもので、粘着テープにガー ゼを付したものではない。
しかし、篠崎氏は、このような〈バンソーコー〉が【救急絆創膏】を表すよ うになったのは、次の如き背景があったためと考える。
【絆創膏】が若年層に馴染みの薄い物となって〈バンソーコー〉という 言い方が宙に浮いていたところ、それが【救急絆創膏】を言い表す語形と して〈カットバン〉などの「典型的なブランド名に一般名称を与えたいと いう欲求を満たすのにも都合がよかった」(篠崎(1997b) p.95)ため、
今日の如き状況に至った。
更に、プライベートブランドの占有率が高まったことやいろいろな商品 がドラッグストアに並んでいることも、商品名でなく〈バンソーコー〉と いう一般名称が使用されるようになった一因である。
このような〈バンソーコー〉という言い方の「意味変化」が目に付くように なったためであろうか、『日本国語大辞典 第2版』(2001 年刊) は、先の
『広辞苑』『明鏡国語辞典』のような説明文に加え、「消毒ガーゼ付きのものも ある。」の一文を添える(同辞典の第1版(1978 年7月発行の第1版第4刷)
にこの一文は見られない)。注(5)
[32]〈バンソーコー〉が【救急絆創膏】を表す言い方として一般化する背景 として、篠崎氏とは別の考え方もありそうである。
しかし、氏の示された全国分布図に見られる世代差のあり様から〈バンソー コー〉が一般化しつつあることは確かである。このような状況下、〈カットバ ン〉〈リバテープ〉の製造・販売元の存する九州地方において、篠崎氏の調査 後、どのような変化が進んでいるか、即ち、〈バンソーコー〉の使用がより拡 大しているか、商品名の使用が減少していないかなどの検証も、本稿の目的の 一つである。
32.県 差
[1]【救急絆創膏】を表す言い方について、九州・中国・四国の 11 県にほぼ 共通した傾向が見られる(表-10参照)。
即ち、各県とも代表的な言い方は、60・70%以上の回答率を有する言い方と 40~60%の回答率を有する言い方の2種である。
この2種とは、原則的に「〈カットバン〉―〈バンソーコー〉」か「〈バンソー コー〉―〈リバテープ〉」である。例外的に、広島県は「〈バンソーコー〉―
〈バンドエイド〉」、宮崎県は3種で、〈バンソーコー〉に次ぐ言い方はともに
約 50%で〈カットバン〉と〈リバテープ〉が並ぶ。
県ごとに代表的な言い方を回答率(括弧内の値)の高い順に示すと、次の如 くである(回答率が 10%以上異なる場合、「>」を付した)。
福 岡 県;バンソーコー(73.6)>カットバン(36.9)・バンドエイド(27.2)・ リバテープ(26.4)…
佐 賀 県;カットバン(88.8)>バンソーコー(49.0)>リバテープ(9.2)… 長 崎 県;カットバン(87.6)>バンソーコー(57.4)>リバテープ(15.4)… 熊 本 県;リバテープ(88.1)>バンソーコー(53.3)>カットバン(8.1)… 大 分 県;バンソーコー(70.6)>リバテープ(53.4)>カットバン(30.7)>
バンドエイド(10.4)…
宮 崎 県;バンソーコー(65.7)>リバテープ(48.6)・カットバン(47.1)>
バンドエイド(11.4)…
鹿児島県;カットバン(79.3)>バンソーコー(49.3)>リバテープ(7.8)… 山 口 県;カットバン (76.6)>バンソーコー (59.4)>バンドエイド
(25.0)>リバテープ(6.3)…
広 島 県;バンソーコー (80.0)>バンドエイド (56.7)>カットバン
(26.7)…
岡 山 県;カットバン(100)>バンソーコー(54.5)>バンドエイド(9.1)
愛 媛 県;カットバン(76.9)>バンソーコー(61.5)
[2]〈バンソーコー〉の回答率が最も高いのは、福岡県・大分県・宮崎県及 び広島県の4県で、九州は地理的に連続する諸県である。
福岡県・大分県・広島県で〈バンソーコー〉は 70%を超える。しかし、次 の言い方は、福岡県は〈カットバン〉で、30%台に留まるが、大分県は〈リバ テープ〉、広島県は〈バンドエイド〉で、いずれも 50%台である。また宮崎 県で〈バンソーコー〉は 60%台と低く、次の〈リバテープ〉〈カットバン〉
は 40%台後半である。
以上、これら4県では〈バンソーコー〉の回答率が最も高いが、福岡県では 他の言い方との差が大きく、突出しているように見える。
[21]篠崎氏の調査結果によると、これら4県の若年層の状況は、次の如くで、
〈バンソーコー〉の回答率の高さは同様である。注(6)
ただ、10 年後の変化も見られる。顕著なものは、本調査で増加した、宮崎 県の〈カットバン〉〈リバテープ〉、広島県の〈バンソーコー〉である。
その他、本調査では、福岡県・大分県で〈カットバン〉が 30%以上の回答 率であるが、篠崎氏の報告には見られない。
◇福岡県
若年層;バンソーコー・バンドエイド=69~30%
◇大分県
若年層;バンソーコー・リバテープ=69~30%、バンドエイド=29~10%
◇宮崎県
若年層;バンソーコー=69~30%、カットバン・バンドエイド・リバテー プ=29~10%
◇広島県
若年層;バンソーコー・バンドエイド=69~30%
[22]篠崎氏の高年層の状況は、次の如くで、若年層の状況と比べると、4県 すべてで〈バンソーコー〉が少ない。
その他、氏の若年層に見えず、本調査で一定の値の認められた、福岡県の
〈リバテープ〉、大分県・広島県の〈カットバン〉が低い回答率ながら高年層 に見られる。
なお、広島県には西日本で珍しい〈サビオ〉が高い回答率で見られる。本調 査では、広島県で5名・16.7%の回答を得ている。
◇福岡県
高年層;バンドエイド=69~30%、バンソーコー・リバテープ=29~10%
◇大分県・宮崎県
高年層;カットバン・バンソーコー・バンドエイド・リバテープ=29~
10%
◇広島県
高年層;サビオ・バンドエイド=69~30%、カットバン=29~10%
[23]篠崎氏の調査結果によって高年層と若年層を比較すると、若年層におい て4県すべてで〈バンソーコー〉が増加する。
その一方、福岡県で〈リバテープ〉、大分県で〈カットバン〉、広島県で
〈サビオ〉〈カットバン〉が見られなくなるなど、商品名の衰退が顕著である。
この延長線上に本調査の結果を置くと、〈バンソーコー〉の増加傾向は頭打 ちで、同じ若年層で変化は殆どない。しかし、広島県を除く九州3県で〈カッ トバン〉〈リバテープ〉が、篠崎氏の若年層より増加するなど、世代差の傾向 から外れる現象が見られる。
[3]〈カットバン〉の回答率が最も高いのは、佐賀県・長崎県・鹿児島県・
山口県・岡山県・愛媛県の6県である。
回答率 が 80%を超え ることが 多く、 低い山口 県・愛媛 県でも 76.6%・
76.9%である。
これら6県で〈カットバン〉に次ぐ言い方は、〈バンソーコー〉である。
60%台の愛媛県を除けば、いずれもほぼ 50%台の回答率に留まる。
[31]篠崎氏の調査結果によると、これら6県の若年層の状況は、次の如くで、
本調査とほぼ同傾向で、どの県でも〈カットバン〉の回答率は高い。
ただ、詳細に検討すると、佐賀県・長崎県は篠崎氏の時点ですでに高い回答 率であるためか、変わりはない。しかし、鹿児島県・山口県・岡山県・愛媛県 では〈カットバン〉の回答率が本調査で増加している。
また篠崎氏の調査結果で佐賀県・長崎県の〈バンソーコー〉の回答率は、他 4県に比べて低い。しかし、本調査では前述の如くであるため、篠崎氏の若年
層に対して、この両県だけ〈バンソーコー〉の回答率が増加する。従って、篠 崎氏後、この2県では〈カットバン〉と〈バンソーコー〉の回答率の差が小さ くなっている。
なお、〈バンドエイド〉は、本調査では愛媛県で若干減少するが、山口県で は変化がない。
◇佐賀県・長崎県
若年層;カットバン=100~70%、バンソーコー=29~10%
◇鹿児島県
若年層;カットバン・バンソーコー=69~30%
◇山口県・岡山県・愛媛県
若年層;カットバン・バンソーコー=69~30%、バンドエイド=29~10%
[32]篠崎氏の高年層の状況は、次の如くで、若年層との違いが大きい。
即ち、若年層の方で、〈バンソーコー〉が長崎県を除く5県で増加し、〈バ ンドエイド〉が4県(佐賀県・長崎県・鹿児島県・山口県)で減少する。
〈カットバン〉は長崎県で増加するだけで、他5県は同程度で、違いが見ら れない。
以上の如き篠崎氏の世代差の上に、本稿の調査を置くと、県による若干の違 いは存するが、〈バンソーコー〉の増加、〈バンドエイド〉の減少は頭打ちであ る。しかし、篠崎氏の高年層と若年層で僅かな増加に留まっていた〈カットバ ン〉は、本調査で大幅に増加する。
◇佐賀県
高年層;カットバン=100~70%、バンドエイド=29~10%
◇長崎県・鹿児島県
高年層;カットバン=69~30%、バンソーコー・バンドエイド=29~10%
◇山口県・岡山県
高年層;カットバン・バンドエイド=69~30%、バンソーコー=29~10%
◇愛媛県
高年層;カットバン=69~30%、バンドエイド=29~10%
[4]〈リバテープ〉の回答率が最も高いのは、熊本県だけである。
佐賀県・長崎県の〈カットバン〉と同じ 88.1%の高い回答率であるが、次 に続く〈バンソーコー〉も 53.3%の回答率を有する。
[41]篠崎氏の調査結果は、次の如くで、高年層・若年層とも本調査ほど〈リ バテープ〉の回答率は高くない。
即ち、篠崎氏の高年層、氏の若年層、本調査と、徐々に〈リバテープ〉の回 答率が高くなる。しかし、〈バンソーコー〉は、氏の高年層の時点から本調査 と同程度である。
◇熊本県
若年層;=バンソーコー・リバテープ=69~30%、バンドエイド=29~
10%
高年層;バンソーコー=69~30%、バンドエイド・リバテープ=29~10%
[5]【救急絆創膏】を表す言い方について、最も回答率の高い言い方を中心 に九州・中国・四国の 11 県での回答状況を述べた。
別の観点として、言い方ごとに回答率の高い県から順に示すと、次の如くで ある(言い方の後の「平均」「標準偏差」は、当該 11 県の平均回答率と標準偏 差、括弧内の値は、標記の言い方の回答率(%)で、10%以上異なる場合、
「>」を付した)。
〈カットバン〉;平均=59.9%・標準偏差=29.37
岡山県 (100)>佐賀県 (88.8)・長崎県 (87.6)・鹿児島県 (79.3)・山口県
(76.6)・愛媛県(76.9)>宮崎県(47.1)>福岡県(36.9)・大分県(30.7)・広 島県(26.7)>熊本県(8.1)
〈キズテープ〉;平均=2.7%・標準偏差=2.13
広島県(6.7)・大分県(5.5)・宮崎県(4.3)・鹿児島県(4.1)・福岡県(3.3)・
熊本県(2.2)・山口県(1.6)・長崎県(1.2)・佐賀県(1.0)、以下2県(0.0)
〈キズバン〉;平均=0.3%・標準偏差=0.71
鹿児島県(2.3)・大分県(1.2)、福岡県(0.2)、以下8県(0.0)
〈サビオ〉;平均=1.7%・標準偏差=4.76
広島県(16.7)>長崎県(1.8)・福岡県(0.6)、以下8県(0.0)
〈テープ〉;平均=1.0%・標準偏差=1.02
広島県(3.3)・福岡県(2.1)・鹿児島県(1.8)・長崎県(1.2)・佐賀県(1.0)・ 熊本県(0.7)・大分県(0.6)、以下4県(0.0)
〈バンソーコー〉;平均=61.3%・標準偏差=9.68
広島県 (80.0)・福岡県 (73.6)・大分県 (70.6)・宮崎県 (65.7)・愛媛県
(61.5)・山口県(59.4)・長崎県(57.4)・岡山県(54.5)・熊本県(53.3)・鹿 児島県(49.3)・佐賀県(49.0)
〈バンドエイド〉;平均=14.6%・標準偏差=15.64
広島県 (56.7)>福岡県 (27.2)・山口県 (25.0)>宮崎県 (11.4)・大分県
(10.4)・岡山県(9.1)・熊本県(6.7)・長崎県(6.5)・鹿児島県(6.5)・佐賀 県(1.0)・愛媛県(0.0)
〈リバテープ〉;平均=23.2%・標準偏差=27.26
熊本県 (88.1)>大分県 (53.4)・宮崎県 (48.6)>福岡県 (26.4)>長崎県
(15.4)・佐賀県(9.2)・鹿児島県(7.8)・山口県(6.3)、以下3県(0.0)
[51]回答率の最高値と最低値の差や標準偏差の大きい言い方が、地域差を生 む言い方である。
従って、最高値と最低値の差が約 80%、標準偏差が約 30 の〈カットバン〉
〈リバテープ〉が当該地域で地域による違いを生む代表的な言い方となる。
〈サビオ〉〈バンドエイド〉も、中央の企業の商品名で、テレビコマーシャル を行うなど、全国展開をしていた(ている)。しかし、〈カットバン〉〈リバテー プ〉とは対照的に当該地域での回答率は低い。ただ、本調査で広島県の〈バン
ドエイド〉は約 60%の回答率を有し、山口県・福岡県など、連続する諸県も 30%近い。最高値と最低値の差が 50%以上、標準偏差は 15 で、〈カットバン〉
〈リバテープ〉に次ぐ大きさである。
これらに対して、〈バンソーコー〉は、11 県で回答率がほぼ 50%以上、標準 偏差も 10 以下で、当該地域の若年層における共通語的な言い方と言える。ま た篠崎氏の若年層と比べると、一部の県で回答率が高くなっている。
その他、〈キズテープ〉〈キズバン〉は、商品名として存在していそうである。
また「傷」に直接当てられる点で【救急絆創膏】の機能を的確に表し、命名の 合理性がある。しかし、回答率は上記の如くである。
なお、〈テープ〉は、〈キズテープ〉〈キズバン〉と同じく殆ど回答されてい ない。しかし、別稿で報告するが、これは【絆創膏】を表す代表的な言い方で あるためである。注(7)
[52]九州・中国・四国の 11 県について、〈カットバン〉〈リバテープ〉、そし て〈バンドエイド〉によって地域差の実態をまとめると次の如くである。
即ち、〈カットバン〉の多い佐賀県・長崎県・鹿児島県・山口県・岡山県・
愛媛県、〈リバテープ〉の多い熊本県・大分県、〈カットバン〉〈リバテープ〉
の拮抗する宮崎県、〈バンドエイド〉の多い広島県、以上3種の言い方が低調 な福岡県の如き5地域に当該 11 県がまとめられる。
勿論、〈カットバン〉の多い6県も均質ではなく、〈カットバン〉や〈バンソー コー〉の回答率が異なる。
なお、福岡県は、結果的に〈バンソーコー〉が多いことが特徴となる。しか し、その回答率 73.6%は、佐賀県・長崎県・熊本県の〈カットバン〉〈リバテー プ〉の値(88%前後)に及ぶ高さではない。
[6]回答者が 10 名以下であるため、沖縄県(7名)・島根県(7名)・鳥 取県(4名)・香川県(4名)・徳島県(3名)・高知県(4名)には、言及 しなかった。
全県とも〈バンソーコー〉が多いが、島根県・鳥取県・高知県は〈カットバ ン〉、香川県は〈バンドエイド〉、沖縄県は〈リバテープ〉にまとまった回答が 見られる。
篠崎氏の報告でも、これら6県では、〈バンソーコー〉に加えてこれらの言 い方が見られる。その他、1・2例の回答まで含めると、氏の分布図に見え、
本調査で欠くのは、島根県の〈バンドエイド〉、徳島県の〈カットバン〉だけ で、各県の傾向は概ね一致する。
[7]県内の地域差が小さく、回答者の多い長崎県・熊本県・鹿児島県の3県 出身者について、進学先の違いを検討した(論末、表-2参照)。
即ち、同じ県の出身者でも、県内の大学に進学した者と県外の大学に進学し た者の間で回答状況の異なることが予想されるためである。
[71]進学先の違いによる他方言との接触を原因と考えた場合、一般に《県内 の大学に進学したグループで地域色のある〈カットバン〉〈リバテープ〉が多 く、若年層の共通語と言える〈バンソーコー〉が少ない》、一方《県外の大学 に進学したグループで〈カットバン〉〈リバテープ〉が少なく、〈バンソー コー〉が多い》などの傾向が予想される。
確かに、表-2の如く、両グループの間に〈カットバン〉〈バンソーコー〉
〈リバテープ〉の回答率に一定の差が存し、特に熊本県出身者ではいずれでも 約 10%近い差が見られる。また鹿児島県出身者でも若干の差が見られる。
しかし、標記の如き傾向が、僅かな差ながらも、一貫して見られる訳ではな い。回答率の差につき、言い方ごとに考えても、何に原因するか、現時点では 明かでない。或いは、表の如き差は誤差の範囲と考えるべきかもしれない。回 答者は、調査票に「自宅で両親や兄姉弟妹など、家族と話をするとき」と記さ れ、口頭でなされた注意に従って、家族と話すときの言い方を正確に回答した ようにも思われる。注(8)
33.地域差
[1]本章では、県単位の【救急絆創膏】を表す言い方の回答状況を受け、広 島県・岡山県・愛媛県を除く九州・山口8県について県内 40 地域に関する地 域差の実態を述べる。
ただ、紙面の関係から、該当8県のうち、県全体の傾向が県内各地域に見ら れない、即ち、県内差の見られる3県について、そのあり様を述べるに留める。
[2]九州・山口8県につき、各県に幾つかの地域を設け、県内差を検討した ところ、福岡県・大分県・宮崎県に一定の地域差が見られた(表-11~18参照)。
即ち、これら3県では、前章で述べた全県的な回答状況が県内の幾つかの地 域に見られないことがある。
一方、佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県・山口県では、回答状況の違いが 県内に全く見られない訳ではない。しかし、現時点では誤差の範囲と考え、本 稿では注で触れるに留める。注(9)
[3]福岡県全体では、〈バンソーコー〉が最も多かったが、県内全域の傾向 ではない(表-11参照)。
〈カットバン〉の多い地域、〈リバテープ〉の多い地域、また〈バンドエイ ド〉の多い地域が、微妙に重なり合って各地域らしさを形成する。
[31]筑豊地方では〈カットバン〉が多く、特に筑豊東部では〈カットバン〉
の回答率は 81.8%で、〈バンソーコー〉の回答率より 20%近く高い。
福岡県全体では〈バンソーコー〉の回答率が最も高い。しかし、県内 12 地 域の中で〈バンソーコー〉以外の言い方が最も高いのは、〈カットバン〉を有 する筑豊東部・筑豊西部の2地域だけである。
筑豊地方に隣接する京築域・遠賀域・筑後北部も〈カットバン〉の回答率は 50%を超える。また北九州市の回答率も福岡市の値に比べると低くない。
筑後北部は、筑後南部とともに〈リバテープ〉が 40%を超える。熊本県に 接するためであろう。しかし、筑後北部は、佐賀県東部とも交流が盛んな地域
である。このためか、筑後北部は、筑後南部と異なり、〈カットバン〉は〈リ バテープ〉ともに 50%前後の回答率となる。
以上、喩えれば、福岡県に食い込む鳥栖市・三養基郡基山町あたりを要にし て〈カットバン〉が扇状に福岡県の北東部に向かって広がっている。
[32]〈リバテープ〉は、熊本県から西鉄天神大牟田線や JR 鹿児島本線に沿っ て北上しているようで、筑後地方の回答率は既述の如く 40%超である。
そして、筑後北部に接する筑紫域は、福岡市の周辺域の中では〈リバテー プ〉の回答率が約 30%で、やや高い。
〈バンドエイド〉は、宗像域・遠賀域・北九州市・京築域という県北東部か ら東部にかけての連続した地域で約 40%の回答率を保っている。また福岡市 でも〈バンドエイド〉は 30%を超える回答率である。
[33]福岡県は、〈カットバン〉〈リバテープ〉〈バンドエイド〉の三つの分布 が重なり合って、地域差を生んでいる。
即ち、中心的な分布域は、〈カットバン〉は筑後北部・筑豊地方・遠賀域・
北九州市・京築域、〈リバテープ〉は筑後地方、〈バンドエイド〉は宗像域・遠 賀域・北九州市・京築域である。そして、これらの上に濃淡の差はあるが、県 全域を〈バンソーコー〉が覆う。
なお、福岡市は、中核都市として県内各地、更に九州各地から出身者を集め ているためであろうか、〈バンドエイド〉〈リバテープ〉〈カットバン〉が 20%~
30%台前半で拮抗し、その点で地域色が薄い。それらの中で〈バンドエイド〉
の回答率は県全体の値よりやや高く、若干の特徴になっている。また〈バンソー コー〉の回答率も県全体の値より高くはある。しかし、県内各地の中で突出し た高さではない。
なお、福岡市も7区ごとに集計すると、隣接する地域の特徴が見えてくるか もしれない。
[4]大分県は、福岡県と同じく〈バンソーコー〉が最も多いが、それに次ぐ
〈リバテープ〉との回答率の差は小さかった。
県全 体 の〈 リ バテ ー プ〉 の 回答 率 は 53.4% で 、 本 調査 で は熊 本 県の 値
(88.1%)に次ぐ高さである。
[41]県内を5地域に区分すると、西部を除く、4地域は県全体と同じく〈バ ンソーコー〉の回答率が最も高い(表-15参照)。
その中で大分市・中部は、回答者が多いこともあり、県全体と同傾向で、
〈バンソーコー〉が 70%台前半で、〈リバテープ〉が 50%後半の値である。
[42]南部は、〈カットバン〉〈バンソーコー〉〈リバテープ〉が 45~55%の範 囲で拮抗する。
〈リバテープ〉の値は、隣接する大分市・中部と同程度である。しかし、〈カッ トバン〉の回答率は 45.0%で、大分市・中部に比べて高い。
[43]北部は、大分市・中部と比べると、〈バンドエイド〉の回答率が 29.2%
と高く、〈リバテープ〉の回答率は 25.0%で、前2地域の半分以下の値である。
相対的な〈バンドエイド〉の高さ、〈リバテープ〉の低さは、隣接する福岡 県の京筑域、更に北九州市で見られる傾向である。
[44]回答者が9名であるため、注意が必要であるが、西部では、〈リバテー プ〉が約 80%の回答率で、〈バンソーコー〉の値より高い。
〈カットバン〉は、〈バンソーコー〉と同じ 60%台後半の値である。このよ うな〈カットバン〉〈リバテープ〉の回答率の高さは、福岡県筑後北部域と同 じ傾向である。
大分県西部=日田・玖珠地域は、筑後川の流域として筑後北部との交流が盛 んである上、天領として豊後地方にありながら、肥筑方言の特徴が見られるこ と、周知であろう。
[5]宮崎県は、〈バンソーコー〉が最も多いが、それに次ぐ言い方として
〈リバテープ〉〈カットバン〉が拮抗していた。
この点は、他の 10 県には見られない、当県に特徴的な回答状況である。
[51]宮崎市は、〈バンソーコー〉の回答率が 80.8%で、県内4地域の中でも 際立って高い(表-16参照)。
同時に当市では〈リバテープ〉の回答率が 65.4%で、同じく県内各地域の 中で最も高い。
しかし、宮崎市から北部、また南部・西部と離れると、この二つの言い方が 少なくなり、〈カットバン〉の回答率が高くなる。特に宮崎市を取り囲む南部・
西部では、〈カットバン〉の方が〈バンソーコー〉より回答率が高く、その値 は宮崎市の値の倍以上である。
[52]西部における〈カットバン〉の回答率の高さは、南部・北部と同傾向で あるが、〈リバテープ〉の回答率の低さは特異である。
即ち、県内の他3地域では〈リバテープ〉は 50%以上の回答率であるが、
西部の値は 15%と低い。このような西部での〈カットバン〉の多さ、〈リバテー プ〉の少なさは、鹿児島県と同一の傾向である。伝統的な区画でも、宮崎県西 部=都城・諸県地域(但し、東諸県は除く)における薩隅方言色の濃さは種々 指摘される。
[53]北部は、〈カットバン〉と〈リバテープ〉が 50%台の回答率で拮抗し、
県内では南部と同傾向である。
ただ、南部では〈バンソーコー〉が〈カットバン〉〈リバテープ〉より少な いが、北部は〈バンソーコー〉の回答率が最も高い。このような北部の傾向は、
隣接する大分県南部にも見られる。
大分県南部と宮崎県北部は、境に「宗太郎越え」と言われる鉄道の難所など が存する。しかし、歴史的に両地域の交流は盛んであったのであろうか。
[6]宮崎県では、宮崎市で〈バンソーコー〉の回答率が 80%台で、他の3 地域が高くても 60%台前半に留まるため、宮崎市の値は突出した高さとなる。
〈バンソーコー〉は若年層に特徴的な新しい共通語的な言い方である。この ため、宮崎県は、そのような言い方の地方での広がり方の一典型、即ち、県庁
所在地の若年層がいち早く受け入れ、周辺地域に徐々に広めている好例を示し ているようにも見える。
[61]宮崎県以外で〈バンソーコー〉につき、同様の傾向が確認できないか、
県庁所在地の都市を一地域として設けた九州7県について検討を行った(表- 11~17参照)。
しかし、宮崎市の如く、県内各地と比べた場合、特別に回答率の高い都市は 見られない。例えば、県全体の〈バンソーコー〉の回答率と比べた場合、佐賀 市・長崎市・鹿児島市はより低く、3都市とも県内各地域の中で最も低い回答 率である。
また、福岡市・熊本市・大分市は、県全体の値に比べると、やや高いか、同 程度で、これら3都市と同程度かより高い回答率の地域が存する。
4.おわりに
[1]本稿は、篠崎氏の報告を踏まえ、九州・山口地域を中心とする若年層に おける【救急絆創膏】を表す言い方について、地域差の実態を記述することを 第一の目的とするものであった。
その際、篠崎氏の触れえなかった県内の地域差の有無とそのあり様を報告す るとともに、10 年以上経過した当該地域の使われ方の実態を報告することも 目的とした。
地域差の記述に際しては、そのあり様が伝統的な方言区画と一致するかなど の観点を設けた。
以下、目的としては二次的であるが、篠崎氏の調査結果との比較に基づいて、
若年層の使われ方における 10 年後の変化相についてまとめる。
[2]【救急絆創膏】を表す言い方に関して篠崎氏の調査結果と比較すると、
一部に変化が見られた。
氏の調査結果によって高年層と若年層を比較すると、〈バンソーコー〉の増
加は顕著である。しかし、若年層について本調査と比較すると、回答状況に殆 ど差が見られない。言わば、九州・山口地域において〈バンソーコー〉は【救 急絆創膏】を表す若年層の共通語として安定し、10 年以上が経過している。
次に、氏は、このような〈バンソーコー〉によって〈カットバン〉〈リバテー プ〉などの商品名は取って代わられつつあるかように述べられていた。しかし、
これらは、取って代わられることなく、九州・山口を中心とする地域で【救急 絆創膏】を表す一般名称として盛んに使われ、地域差を形成していた。
[21]〈カットバン〉〈リバテープ〉という二種の商品名は、或いは、調査対象・
方法の違いのためもあるかもしれないが、篠崎氏の若年層より高い回答率で使 われることが多かった。
即ち、佐賀県・長崎県では〈カットバン〉、熊本県では〈リバテープ〉が、
約 90%の回答率となる。そして、篠崎氏の若年層と比べた場合、明らかに増 加しているのは、〈バンソーコー〉では 11 県中3県であるのに、〈カットバ ン〉では7県に及ぶ。
ただ、これは九州に本社を置く製薬会社の商品であることに原因するかは、
他の地域の実態が不明であるため、判断しかねる。
しかし、同じく商品名である〈バンドエイド〉は、篠崎氏の調査結果と比べ ると、その若年層でかなり少なくなっていたため、本調査で目に見えて回答率 が低くなることはない。詳細に回答状況を検討して減少が一部に認められる程 度である。
[22]代表的な言い方について使われ方をまとめると、次の如くである。
【救急絆創膏】を表す言い方として、篠崎氏の調査後 10 年以上経過し た今日も〈バンソーコー〉は安定して盛んに使われ、殆ど変わらない使用 状況である。九州に本社を置く製薬会社2社の商品名である〈カットバ ン〉〈リバテープ〉は〈バンソーコー〉に押されることなく、特に〈カッ トバン〉は約 10 年前より使用を増やして【救急絆創膏】を表す言い方と
して使われている。しかし、同じ商品名でも〈バンドエイド〉は減少して いる。
ただ、注(6)にも記したが、比較の前提となる諸々の条件が本稿の調査と 篠崎氏の調査でどのくらい同じであるか、確認できていない。以上、その点を 含んだ上での物言い・まとめである。しかし、本調査での〈カットバン〉の回 答状況は、注目に値する。
[3]地域差は、県差と県内差について検討した。
前項の如く、〈バンソーコー〉が調査地域全域で大きな地域差なく使われて いる。このため、地域色は〈カットバン〉〈リバテープ〉、そして〈バンドエイ ド〉の回答状況によって形作られる。
[31]県単位では、対象とした 11 県は、〈カットバン〉の多い佐賀県・長崎県・
鹿児島県・山口県・岡山県・愛媛県、〈リバテープ〉の多い熊本県・大分県、
〈カットバン〉〈リバテープ〉の拮抗する宮崎県、〈バンドエイド〉の多い広島 県、以上3種の言い方が低調な福岡県の如く、5地域に区分できる。
一方で、当該地域の若年層において【救急絆創膏】を表す共通語と言える
〈バンソーコー〉の回答状況によって、それが最も多い福岡県・大分県・宮崎 県・広島県4県とそれ以外の7県という、別の地域差も認められる。
ただ、いずれの場合も、伝統的な九州方言の3区画、即ち、豊日方言・肥筑 方言・薩隅方言の区域と一致することはない。
なお、新形式である〈バンソーコー〉が結果的に福岡県に多い。確かに、そ の回答率は、11 県の中で広島県に次ぐもので、低い方ではない。しかし、特 に九州・山口地域の中心的な県として、特に福岡市は中核都市として〈バンソー コー〉を先進的に受け入れ、周辺地域に広めているような回答状況は、本調査 で明確に認められない。すでに当該地域にある程度普及したためであろう。
[32]県内の地域差は、福岡県・大分県・宮崎県において認められた。
これら3県は、篠崎氏の如き県単位の集計ではその実態が正確に捉えられな
い好例になる。
[321]福岡県内では、伝統的な区画では捉えがたい地域差が見られた。
即ち、特徴的な言い方は、筑後北部・筑豊地方・遠賀域・北九州市・京築域 など、筑後南部・筑前西部を除く県中央の広い地域で〈カットバン〉、筑後地 方で〈リバテープ〉、宗像域・遠賀域・北九州市・京築域など、筑前東部・豊 前地方で〈バンドエイド〉である。 そして、 これらを覆う形で〈バンソー コー〉が県全域で使われる。
以上の如く、福岡県内の豊前方言・筑前方言・筑後方言の区画と多くは重な らない。
[322]大分県は日田・玖珠地域の西部や当県の豊前地方と豊後地方の一部に 当たる北部で、隣接する福岡県の筑後北部や豊前地方の一部と共通する傾向が 見られた。
即ち、西部で〈カットバン〉〈リバテープ〉が多く、北部で〈バンドエイ ド〉が多く、〈リバテープ〉が少ない。
宮崎県では都城・諸県地域の西部が鹿児島県と共通する傾向が見られた。
即ち、両地域とも〈カットバン〉が多く、〈リバテープ〉が少ない。
これらは、伝統的な区画と重なるところがある。
[4]【救急絆創膏】のような商品の場合、各製薬会社の営業力の違いなどに よって地域ごとにシェアが異なるのであろう。
従って、〈カットバン〉〈リバテープ〉のような商品名が【救急絆創膏】一般 を表す名称としてある地域で使われる場合、該当商品のシェアがその地域で高 いことが背景として第一に考えられる。
そこで、篠崎氏は、1991・92 年当時の全国的なシェアを示され、「第一位、
第二位のバンドエイド、カットバンが全国に広く分布していることはシェアと 大きな関連がありそうだ」(篠崎(1997b) p.96)と述べる。その他、商品名 の一般名称化の背景として「販売ルートとの関連」(九州方言研究会(2009)
p.121)を考えることもある。
[41]シェアを問題にする場合、ここ 10 年内外の状況も参考にはなろうが、
【救急絆創膏】が販売されはじめ、広く家庭に入っていった 1960 年代の各地 での実態が重要であろう。
今日のドラッグストアと異なり、店舗面積の限られた近所の薬店にどのよう な商品が置いてあったか、複数社の商品が並べてあったかなどは、地域ごとの 各社の営業力の違い、薬店主とのつながりのあり方が直接に関係してこよう。
そして、薬店で【救急絆創膏】を購入した母親が家庭でそれを何と称して子 供の怪我の手当てに使ったかが次の問題となる。確かに、当時どの商品がテレ ビコマーシャルで流れていたかも重要かもしれない。しかし、記憶のされ方と しては母親の呼び方が重要であろう。
また時代的に【救急絆創膏】を置き薬の売薬さんが持ち込み、薬箱に収まっ ていた可能性も高い。佐賀県は全国的にも売薬の盛んな地域の一つで、売薬業 を出自とする製薬会社も少なくない。
[42]【救急絆創膏】を表す言い方の地域差の実態を各製薬会社の県ごと・地 域ごとのシェアに関連付け、シェアの高さをその背景と考えることは容易である。
特に佐賀県・長崎県での〈カットバン〉、熊本県での〈リバテープ〉は、製 造・販売元が地元企業であることから、簡単に関連付けられる。同様に、他県・
他地域である商品名が【救急絆創膏】を表す一般名称として広く使われること は各支社・営業所の営業努力の賜物であると考えれば、過去のシェアなどを検 証するまでもなく、一つの合理的な説明になる。確かに、殆どの場合、そのよ うな背景が考えられよう。注(10)
例えば、今回の調査でも、福岡県については、佐賀県・熊本県の如く県内に
【救急絆創膏】を製造・販売する有力な製薬会社が存さず、かつ九州の最大の 市場として各社が競って販路を拡大しようと営業活動を行った、このため、他 県に見られない複雑な地域差の実態を示すことになった…などと解釈すれば、
一応の説明になる。
しかし、他の多くの地域語でも見られる如く、歴史的・地理的な条件が外的 な要因となった地域間の交流によってある言い方が隣接地域に伝播した場合も 考えておくべきかもしれない。
[43]県内の地域差は、福岡県とともに大分県・宮崎県に認められた。
この両県は、福岡県同様、商品名が問題となる【救急絆創膏】を製造・販売 する製薬会社を持たない。しかし、福岡県ほど魅力的な市場ではない。また佐 賀県・熊本県から見ると、福岡県に比べ、行き来の容易な県ではない。そこで、
他県の製薬会社が営業活動を行う場合、県庁所在地を中心としたものとなろう。
確かに、県全体に比べて大分市・宮崎市やその隣接地域では〈リバテープ〉の 回答率は高かった。
一方で、県の周辺地域では、隣接県との交流が盛んなことが多い。このよう な一例となる大分県北部は日豊本線を通じた北九州市方面との交流が盛んな地 域である。
即ち、大分県北部における〈バンドエイド〉の多さの背景の一つとして、北 九州地域との交流による伝播が考えられそうである。更にこれはジョンソン・
エンド・ジョンソン社という中央の外資系企業の商品名である。注(11)
[5]筆者は、地域語に関するアンケート調査とは、基本的なあり方として、
大量のデータによってある地域の言葉のあり様を巨視的に捉え、問題の所在を 絞り込むための予備調査であると考える。
そこで、今後の課題は、本調査を踏まえ、特に複数の商品名の拮抗する併用 地域に赴き、重点的な面接調査を行うことである。当地では、若年層・中年層・
老年層の3世代について、【救急絆創膏】を現在何と言うかは当然として、「気 づかなさ」に関する意識や場面差の調査、また複数の言い方をする場合、使い 分けに関する調査も行う。中年層・老年層には、【救急絆創膏】がいつ頃何と いう言い方でその家庭に入ってきたかを尋ねたい。
更に関連して以前別の言い方をしていた場合は、その言い方について、また 異なる言い方に接した経験、今の言い方を使うようになった時期やきっかけな ど、言語経験に関する調査も必要である。
[51]元来【救急絆創膏】を表す言い方は、篠崎氏が「気づかない方言」の一 例として取り上げられたものである。
この場合、「気づかない方言」は「ある地域独自の言語形式や用法でありな がら話し手が方言として意識せずに使っているもの」(篠崎(1997a) p.88)
と説明される。
確かに筆者自身〈バンドエイド〉は【救急絆創膏】を表す言い方の一般名称 であったため、【救急絆創膏】を表す言い方を「気づかない方言」の一例とし て扱うことに抵抗はない。しかし、氏の報告では【救急絆創膏】を表す言い方 の全国分布が示され、その実態や背景が説明されるだけである。「話し手」の
「気づかなさ」に関する言及がなく、調査もされていない。
[52]一時期、「気づかない方言」「気づかれない方言」「気がつきにくい方言」
などに関する研究が続出した。
しかし、それらの論考では、誰が「気づかない」のか、その「気づかなさ」
を客観的にどのような調査で捉えるのか、それ以前に提唱された「地方共通語」
「地域共通語」とどのように関係するのかなど、基本的な問題が十分に議論さ れていない。
幸い、橋本(2005)で問題点が幾らか整理されたところもある。今後は、基 本的な考え方を整理した上で、旧稿・山県(1988)の方法を再検討する事例と して【救急絆創膏】を表す言い方について、先に述べた調査とは別の調査も予 定している。それは、話し手の意識の問題として、商品名の一般名称化の問題 に関係してくる。