は じ め に
インターネットは広く社会に浸透し,企業や組織,そして人々の意思決定 に不可欠な情報インフラとなってきた。ウェブ上で生成され蓄積される情報 は資源としての価値を持ち,経済領域はもちろんのこと非経済的領域におい てもさまざまに役立てられている。
インターネットやそれを可能にしてきた情報通信技術(ICT : Information and Communication Technology)が市場経済にいかに資するかという問いは,
インターネットの登場当初からさまざまな期待をもって論じられてきた。企 業のマーケティングの立場からは,ICTが需給整合の精度を高め市場を高度 化すると主張されてきた。よりマクロな視点からは,ICTが情報の非対称性 を縮小させ,市場の競争機能を有効に働かせると期待されてきた。
ICTは確かに理論上は市場の機能を円滑にするだろう。しかし,寡占化が 進み複雑な系列関係や流通構造を有する現代の市場において,情報の流れや それを効率化するICTの活用のされ方は一面的ではない。ICTが中小企業か ら一般消費者まであらゆる経済主体に浸透し,とりわけインターネットによ る情報空間(ウェブ)が出現したことで,それが各主体にどのような影響を 与え,またそれらの行動が現代的な市場にどのような作用を及ぼすのかが明 らかにされなければならない1)。その中での本稿の関心は,市場における消
ソーシャル・メディアと 消費者の情報化の意義
伊 藤 祥 子
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( 1 )
費者にとってのICT,特にインターネットの意義または効果である2)。ICT を利用した消費者の行動は,企業のマーケティング活動の資源となるにせよ,
企業活動や商品経済社会に対する声(voice)3)となるにせよ,インターネッ トという回路を通じて今日の市場に反映されるからである。
さて,近年,インターネットの潮流の中でもとりわけソーシャル・メディ アが注目されている。ソーシャル・メディアは,インターネットにおいて一 般ユーザーが以前に増して情報発信しやすくなった「ウェブ2.0」4)と親和性 が高いコミュニケーション・ツールである。いまや多くの人々が利用する ソーシャル・メディアは,企業にとっても情報発信や情報収集の恰好の場と なっている。それゆえ人々の社会関係や社交が強調される「ソーシャル」と いう名前の一方で,商用化が進んでいる5)。他方でソーシャル・メディアは 人々の意思や情報をつなげ,巨大な発言力や駆動力となる社会的影響力も喧 伝されている6)。
本稿では,近年注目を集めているソーシャル・メディアについて,その特 徴や期待されている効果,また企業のマーケティング利用などを概観した上 で,本稿の関心である消費者にとっての意義を探る。
1) 阿部[2009]は,eマーケット・プレイスの効果などICTによる市場の透明性に 期待しながらも,全体としての市場機能の円滑化の難しさを,取引関係がオープン で対等とされるSCMやバーチャル・コーポレーションの実態,また消費者の市場 参加の限定性などから明らかにしている。
2) 本稿は,拙稿[2013]を下敷きに,ソーシャル・メディアの新潮流から今日的な 消費者主権について考え直すものである。
3) voiceとは,A.O.ハーシュマン[1975]の名著『組織社会の論理構造』における
「発言」または「告発」のことである。
4) ウェブ2.0の特徴は,それまでに比べ,よりオープン志向でユーザー志向である こと,またそれを推進する技術やその成果としての集合知がみられることなどであ る。梅田[2006],西垣[2007],阿部・宮﨑[2012]などで紹介されている。
5) ソーシャル・メディアの商用化の問題点について,拙稿[2016]にまとめている。
6) リーとバーノフ[2008],津田[2012]など。またそのネガティブな作用につい ては荻上[2007]に詳しい。
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1.ソーシャル・メディアとは
!1 ソーシャル・メディアの定義
ソーシャル・メディアに厳密な定義はないが,総務省の情報通信白書では,
ブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS),動画共有サイ トなど,ユーザーが情報を発信し形成していくメディアで,ユーザー同士の つながりを促進する様々なしかけが用意されており,互いの関係を視覚的に 把握できることが特徴であるとされている。代表的なものは,図表1−1に 示すようにブログやSNS,動画共有サイト,メッセージングアプリなどで ある。ソーシャル・メディアの種類やサービスの分類は調査機関や論者ごと に異なっているため,これらの他にインターネットの登場当初から存在する 電子掲示板やソーシャル・ゲームなどが含まれるとするものもある。
ソーシャル・メディアが2000年代に入って急成長し注目されるようになっ たのは,技術的な背景と新しいタイプのソーシャル・メディアの登場によ る7)。前者はブロードバンド・サービスの普及と,スマートフォンやタブ
図表1−1 ソーシャル・メディアの種類と代表的なサービス例
(平成27年版情報通信白書)
種 類 サ ー ビ ス 例
ブログ アメーバブログ,ココログ,Seesaaブログ,
ライブドアブログ SNS(ソーシャル・ネット
ワーキング・サービス) Facebook,Twitter,mixi,Instagram,LinkedIn 動画共有サイト YouTube,ニコニコ動画,ツイキャス,Vine メッセージングアプリ LINE,WhatsApp,Viber,WeChat 情報共有サイト 価格コム,食べログ,クックパッド ソーシャルブックマーク はてなブックマーク
(出典)総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意 識に関する調査研究」(平成27年)
平成27年版情報通信白書,199頁,図表4‐2‐1‐1より筆者作成。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −383−
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レットなど多機能携帯端末の進化とその急速な普及である。時間や場所を問 わず高速で大量なデータ通信が可能になり,技術的につながる環境が整った。
そして後者の実名制SNSや手軽なミニブログ,また動画共有サイトやメッ セージングアプリなどの登場である。これらが登場して間もなく,SNSや
Twitterが海外での民主化運動や選挙活動に利用されたことや,わが国でも
震災時にソーシャル・メディアが既存のメディアに比べ役に立ったことが注 目された。新しいタイプのソーシャル・メディアは,実生活での友人・知人 を巻き込みやすく,また関心のある情報にアクセスしやすい構造を有してい たため,人々がこれまで以上につながることを容易にした。
一般に,ソーシャル・メディアの特徴は,ユーザー同士の情報交換が主の コミュニケーション・ツールであるため,ユーザー自らが情報あるいはコン テンツを作り出すこととされている。そのためソーシャル・メディアはUGC
(User-Generated Content)やCGM(Consumer-Generated Media)と呼ばれるこ ともある。そして友人や知人,同好の士などといった人間関係(社会的要 素)が含まれることが大きな特徴のひとつである。
かつてのパソコン通信時代のフォーラム(電子会議室)やインターネット 登場当初からの電子掲示板などもその性質を備えてはいるが,当時のイン ターネットの普及状況や技術的環境から,今日のそれとはやや異なったもの であったと考えられる。当時は今日ほど多くのユーザー数を抱えておらず,
パソコン通信は別としても実名利用は少なく,情報伝播の即時性や拡大速度 も今日ほどではなかった。その意味でより今日的なソーシャル・メディアが 有しているユーザーの実名性や情報の伝播性の高さに本稿は着目し,その社 会的意義(消費者にとっての意義)を探ることにしたい。
7) ソーシャル・メディアの歴史については,津田[2012]や藤代[2015]に簡潔に まとめられている。
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!2 ソーシャル・メディアの特徴8)と期待される効果
ソーシャル・メディアの特徴として,まず,Facebookのように実名性の 高いサービスのユーザーが増えたことがあげられる。実名制SNSは実生活 のコミュニケーションの補完に利用されることが多く,実名の個人からなる 人間関係がソーシャル・メディア上に映し出されるようになった。この人間 関係のウェブ化は「ソーシャル・グラフ」と呼ばれ,さまざまな効果をもた らしている。
ひとつに,ユーザー間のつながりや情報の信頼性を高める。いくつかの実 名制SNSが当初招待制であったように,友人や知人という実在の人物から の招待や情報は,匿名利用が主流であったインターネットでは特に重要で あった。また一般に友人や知人の情報は信頼されやすいため,ウェブ上での それも信頼される傾向にある9)。近年では情報検索や最新ニュースの取得を ソーシャル・メディア経由で行う人々が増えており,情報源としてもクチコ ミや評価の参照元としても,ソーシャル・メディアはその地位を高めている。
このことが裏返していまひとつの効果につながる。企業のマーケティング 活動への効果である。従来からクチコミを利用したマーケティングは注目さ れていたが,ソーシャル・メディア上に可視化された信頼性のあるクチコミ や評価のネットワークは,企業にとっても利用価値の高い情報資源の出現を 意味する10)。企業はこれを利用すべくソーシャル・メディアを用いたマーケ ティングを展開するようになった。
8) ソーシャル・メディアの特徴といっても,例えばFacebookとTwitterにはそれぞ れに固有の特徴があり,一括りにすることはできないが,ここでは上にあげた従来 型のインターネットのメディアとの違いという意味においてまとめて列挙すること にする。また,ここではソーシャル・メディアの大きな特徴のひとつである集合知 を明示的に取りあげていないが,本文中で必要に応じて言及している。
9) ニールセン[2009]の調査によれば,世界全体でもっとも信頼されている宣伝媒 体は「知人による推奨」(90%)と「インターネット上の消費者の意見」(70%)で ある。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −385−
( 5 )
ソーシャル・メディアの特徴として,次に,動員力とでもいうべき,人々 を集め行動を起こさせる駆動力に長けていることがあげられる。ソーシャ ル・メディアの持つこの力に注目する津田[2012]は,今日のソーシャル・
メディアが圧倒的な数のユーザーを持ち,かつそのサービスが人々を巻き込 みやすい構造を持つことを主な特徴としてあげている11)。情報の拡散や発 言・コメントのしやすさ,Facebookの「いいね!」ボタンなど,賛同の意 を表す行為の行いやすさである。それらが賛同者や追随者を生みやすく,社 会的に大きなムーブメントを起こしやすいと説明する。さらに今日的なソー シャル・メディアが即時性や臨場感に重きを置くフロー型のものであるとし て,人々の動員のしやすさに勢いやスピード感を追加する効果を説く。
最後に,ソーシャル・メディアの利用の特徴として,人々の問題解決(ソ リューション)手段になっているという点がある12)。平成22年版および平成 23年版情報通信白書では,ソーシャル・メディア利用者の実態調査から,
ソーシャル・メディアが既存の人間関係を深める他に,新たな人間関係を構 築していること,またソーシャル・メディアが身近な不安・問題の解決に利 用され,問題解決手段としての効果が高いことが明らかにされた13)。多様な 人々をつなげ,身近な不安・問題から地域コミュニティの問題まで広く問題 解決に利用されているソーシャル・メディアが,人々や地域の絆を補完・再 生し,地域社会を含む現実社会にプラスの影響をもたらすことが期待されて 10) クチコミの原理やそれを利用したマーケティングの理論と実践について,また ソーシャル・メディアとクチコミの親和性について,山本[2014]に詳しい。山本 はソーシャル・メディアを「クチコミをはじめとする対人影響のプラットフォー ム」(25頁)と表現し,クチコミとの親和性の高さを強調している。
11) 津田[2012],第1章。
12) 直接的にはソーシャル・メディアを指して論じられたものではないが,福田はIT の進化の第4フェーズ(1990年代半ば以降)が新コミュニケーション技術の段階 であるとして,ITが組織や人々の多様な連携をもたらし,ソリューションに利用 され始めたとしている。福田[2004],[2005]。
13) 平成22年版情報通信白書第1章第2節,および平成23年版情報通信白書第3章 第2節を参照のこと。
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( 6 )
いる14)。
以上の通り,ソーシャル・メディアにはユーザーである一般市民または消 費者,企業のマーケティング活動,さらに地域社会を含む現実社会にとって それぞれに期待される効果や可能性がある。これらの中で,まずは企業と消 費者との関係性におけるソーシャル・メディア利用について,次節でみてい くことにする。
2.ソーシャル・メディアのマーケティング利用
!1 コミュニティ利用に始まるマーケティング利用
ソーシャル・メディアのマーケティング利用は2000年代初め頃から注目さ れるようになり,それはウェブ上に構築されたコミュニティのビジネス利用 から始まった15)。インターネットの登場によって企業と消費者との関係性は 深まると期待されたが,当の消費者との接触機会はただ情報発信をするのみ では得られず,ウェブ上で人々が集まるところに働きかける必要があった。
それがインターネット・コミュニティ(あるいはオンライン・コミュニ ティ)であり,現在でいうところのソーシャル・メディアである。人々はそ こで興味・関心が近い他者との交流や自身の問題解決を行っており,企業は そこで生成される秩序や消費者間のインタラクション,また情報の豊富さに 注目し,インターネット・コミュニティに接近を図るようになった。
コミュニティ利用のマーケティングは,企業所有のファンサイトやブラン ド・コミュニティ,またコミュニティを利用して製品開発を行う協働型のも
14) もっとも,平成22年版情報通信白書では,地域SNSに期待を寄せながらも,実 際に活性化効果をもたらしている地域SNSがそれほど多くないことを認めている。
15) 代表的なものに石井・厚美[2002],池尾[2003],石井・水越[2006]などがあ る。インターネットおよびソーシャル・メディアのマーケティング利用の変遷につ いては,栗木・水越・宮本[2009],および水越[2012]に詳しい。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −387−
( 7 )
のから,価格.comや@cosmeなど企業横断型の比較・クチコミサイトまで,
いくつかの分化がみられ今日に至っている。その後登場したFacebookや
Twitter,LINE等は,従来のコミュニティに比べ実名性が高く,実生活のコ
ミュニケーションをウェブ上に再現した面が強いが,人脈や信頼性をもとに 人々が集まるソーシャル・メディアの特質をマーケティングに生かそうとす る点では,今日のソーシャル・メディア利用のマーケティングもコミュニ ティ利用の当初と変わりはない16)。
!2 ソーシャル・メディアとマーケティングのタイポロジー
さて,ソーシャル・メディアを利用したマーケティングには,ソーシャ ル・メディアごとのそれが存在することになるが,武田[2011]の整理に従 い,以下で参照することにする。ここでの目的は,各ソーシャル・メディア の特徴やマーケティング利用の特徴が裏返してユーザーあるいは消費者の利 用意識を反映したものであると考えるため,そこに集合体としての消費者情 報の特質をみいだすことである。やや長くなるが,武田[2011],[2015]を もとに図表2−1をみていく。
図表2−1の分類の縦軸には,ネットワークの拠り所(何をベースにつな がるか)を,横軸にはネットワークに「求めるもの」を配置する。「現実生 活」を拠り所とするソーシャル・メディアは,実名性の高い個人を起点に実 生活での人間関係が扇状に広がり,安心できる連絡網が交友関係を強化する。
他方,趣味や関心など「価値観」を拠り所とするソーシャル・メディアは,
価値観でつながるがゆえに場の「和」が重視され円状のネットワークとなり,
匿名性が高く,そのことが自由な発話環境を形成する。また「情報交換」を
16) 水越らは,Facebookなどのソーシャル・メディアを用いたブランド・コミュニ ティと企業所有のそれとの違いを整理し,前者のオープンな性質や消費者の参加の しやすさ,またそれに伴うブランド・ロイヤルティの低下などを説明している。本 稿注釈22もあわせて参照願いたい。水越・及川・日高・太駄[2012]。
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( 8 )
匿名性高 円状モデル 自由な発話空間
実名性高 扇状モデル 知人との連絡網 規模大
重複NG 集合知 利便性 有効性
規模小 重複OK 親密圏 居心地 唯一性 価値観
現実生活 カカクコム 2ちゃんねる
Wikipedia Twitter(受信)
ネットワークゲーム パソコン通信
(公開グループ)
LINE Facebook(フレンド)
一般人ブログ Twitter(発信)
情報交換 関係構築
求めるソーシャル・メディアは,情報交換のために規模(情報量)が大きく なり,そのためにテーマの重複を排除する傾向があり,また情報交換の集積 である集合知を形成する。ここでは参加者同士の距離よりも情報源としての 利便性や有効性が重視される。そして「関係構築」を求めるソーシャル・メ ディアは,小規模なサークルが複数集まることで形成され,サークルごとの テーマの重複は許容され,サークル参加者間の親密さやサークルの居心地の 良さ,または唯一性が重視される。
武田は,エリアごとのマーケティング利用の特徴についても述べている。
まず,図の下半分の現実生活のソーシャル・メディアでは,参加者の帰属意 図表2−1 ソーシャル・メディアの地図
武田[2015],30頁,図−1より筆者作成。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −389−
( 9 )
識(ロイヤルティ)は友人同士の交流にあるため,それが商品や企業に転化 することは考えにくいという。また,企業という組織が一個人として消費者 とつながることの難しさや企業の公式アカウント担当者の人的労力の重さに ついても指摘しており,このエリアでのマーケティングは双方向性よりも ソーシャル・メディアの伝播力と即時性を利用し,臨場感あるプッシュ型の 情報配信に徹する方が適していると述べている17)。
次に,図の左半分の情報交換のエリアでは,情報源としての利便性や有効 性,そして全体としては多様な意見を冷静に客観視することが求められるた め,企業が自社商品をアピールすることは敬遠されるという。例えば価格.com
や@cosmeでは,企業や商品は比較され評価される数多くの選択肢のひとつ
にすぎず,競合他社と並列な扱いを受ける。情報交換のソーシャル・メディ アは「消費者による消費者のための聖域」18)であるため,企業はそこに踏み 込むことを許されず,直接影響を与えることはできない。
最後に残る価値観と関係構築のソーシャル・メディアこそ企業のマーケ ティング利用に向いていると武田はいう。価値観のエリアでは現実の交友関 係に縛られることなく,同じ価値観を持つ者との関係性を深めることに重き が置かれるためである。したがって消費者コミュニティを作るのに最も適し た場所がこのエリアとなり,「企業と顧客が価値観で共鳴し合う関係構築の 場」19)となる。
!3 ソーシャル・メディアのビジネス的な価値と消費者意識
インターネット・コミュニティのマーケティング利用やブランド・コミュ ニティの議論においても,価値観で共鳴し合う企業と消費者とのつながりに
17) 武田[2011],147〜152頁。
18) 武田[2011],153頁。
19) 武田[2011],154頁。
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( 10 )
ついては論じられてきたため,この主張は取り立てて新しいものではない。
しかし本稿で注目したいのは,この図表2−1の分類であり,それぞれのマー ケティング上の特徴である。武田は企業所有の消費者コミュニティの有効性 を強調するあまり,今日的なソーシャル・メディアにはあまり立ち入ってい ないが,FacebookやTwitterに消費者や企業が集まるのは,両者にとって大 きな理由や意義があるからである。本節の最後に,ソーシャル・メディアの ビジネス的な観点からの意義を整理しながら,そこに表れる消費者の意識に ついても考えてみたい。
ソーシャル・メディアのビジネス的な観点からの意義は,ソーシャル・グ ラフ,消費者からのアクション(エンゲージメント),ライフログおよび ビッグデータにみいだすことができる。ソーシャル・グラフについては前節
!2でも紹介した通り,企業にとって消費者間のつながりの可視化は強力な情 報資源の出現を意味する。クチコミを利用したマーケティング戦略では,
ソーシャル・グラフのネットワーク分析からコミュニティの内外に影響を及 ぼしうるインフルエンサーを見つけ出し,そこをターゲットにクチコミを喚 起するような戦術を展開していく。インターネットの登場によって消費者が 得る情報量は増えたが,それを処理または判断する能力は変わらないばかり か困難になる一方であるため,信頼を寄せる友人・知人という「共感フィル ター」20)を通した情報(クチコミや評価)の重要性はますます高まっている。
ソーシャル・メディアのそうした情報処理機能に企業は着目し,ターゲット とする消費者に効率的に情報を届けるための起点やルートを確保するので ある。
次に,消費者からのアクションの得やすさである。山本[2014]はソー シャル・メディアを利用したマーケティングのうまみは「エンゲージメン
20) 山本[2014],41〜42頁。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −391−
( 11 )
ト」を得られることだと述べている21)。エンゲージメントとは,例えば企業 アカウントをフォローしたり,「いいね!」ボタンを押したりと,企業に対 して何らかのアクションを起こすことで,購買を超えた消費者による行動の ことを指す。そうした行動を起こす消費者はそもそもその企業に関心がある ことを意味し,ソーシャル・メディアはそのような消費者のアクションを得 やすい機能を有している。そのためソーシャル・メディアは潜在顧客との関 係づくりや既存顧客との関係強化に役立つという22)。
そしてそれらの行動はライフログとして残るため,さらなるマーケティン グに活用することができる。ライフログとは,デジタル化され「蓄積された 個人の生活の履歴」で,ログイン・データや住所・氏名などの基本属性情報,
ウェブの閲覧履歴や購買履歴などの行動情報,そして上にあげたソーシャ ル・グラフの他に,携帯端末やカーナビなどからの位置情報,IC乗車券の 乗降履歴なども含まれる23)。このライフログの分析から,消費者の行動属性 や行動予測に基づく行動ターゲティング広告やレコメンドなどといった新た なマーケティング手法が誕生した。さらに今日ではライフログを含む大量の ビッグデータがICTの進展によって蓄積されており,それを利用すること でより精度の高い分析が可能になると期待されている24)。
このように,今日的なソーシャル・メディアのビジネス的な価値は,ユー ザーである消費者の情報の質量の豊富さと,それを技術的に利用できる環境
21) 山本[2014],188〜189頁。
22) 関連して,水越らはFacebookを利用したブランド・コミュニティは,消費者の 参加の容易さから大衆化しつつあり,その意味でロイヤルティの低下は避けられな いが,その点がむしろこれまでブランド・コミュニティが成立しにくいと考えられ てきた低関与商品にコミュニティ形成の可能性を開いていると述べている。水越・
及川・日高・太駄[2012],79頁。
23) ライフログについては,第二東京弁護士会[2012]や日本弁護士連合会[2012]
などに法的問題と共に詳しい。
24) ショーンベルガーとクキエ[2013],平成25年版情報通信白書第1部,平成26 年版情報通信白書第3章など。
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( 12 )
とによって高められてきた25)。しかし,裏返せばそれは消費者自身の意識や 行動の結果でもある。図表2−1の4つの分類軸は,ウェブ上での他者との コミュニケーションにおいて消費者が何に重きを置くかを表したものであっ た。消費者は時に関係性の強化を,時に情報交換を求め,そして時と場合に よって実名と匿名とを使い分ける。それはソーシャル・メディアに限らず現 実世界でも同様にみられる行動である。この図表2−1は,そうした消費者 の意識の多様性をソーシャル・メディアに反映させたものとして映し出し,
そのマーケティング利用の特徴は企業と消費者との関係性を表したものとみ ることができる。企業と消費者とのインターネットを介した関係性において,
消費者の行動や声はいかに市場に組み入れられていくのか,そのことに消費 者としての意義をみいだすとすればいかにしてか。節を変えてみていくこと にする。
3.「ソーシャル」の可能性と消費者の情報化の意義
!1 消費者の情報化のメリット
消費者自身がインターネットに代表されるICTを利用する(その意味で 消費者が情報化する)ことのメリットは,消費者の情報取得と情報発信,そ して情報共有および新たな情報の創出という点に整理して考えることがで きる。
まず,情報取得のメリットは,インターネットの登場によって情報検索と 情報取得のコストが下がるため,企業や商品の情報をこれまで以上に大量か つ迅速に得ることができ,消費者の商品選択に資するというものである。し
25) もちろん,そこに至るまでの企業のマーケティング活動と消費生活世界との相互 浸透的な変化,さらにそれらを歴史的また環境的にマクロに規定してきた諸要因に ついても考慮に入れる必要がある。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −393−
( 13 )
かし,これはICTがもたらす論理的な可能性と消費者の購買行動の一部を 強調したものに過ぎず,現実には消費者の情報処理能力に限界があることは すでに指摘されている。むしろより顕著になったのは,取得できる情報量が 多すぎるために起こる選択の困難である。それゆえに過去の購買履歴やライ フログから推奨商品を表示するレコメンドや人的情報としてのクチコミ,特 にソーシャル・メディアでの友人・知人からの評価が注目されるのである。
加えて,消費に関連する専門的な知識も得やすくなったが(例えば食品や 医薬品の成分や効果に関する情報に,工業製品の化学的・技術的な情報,ま た商品や企業活動に関する法規情報など),類似した情報が散在しており,
信頼できる情報源を入手することは難しい。つまり,情報の量に加えて質的 な内容の判断もより困難を極めているといえる26)。
次に,情報発信は,インターネットの登場で消費者が容易に情報発信でき るようになり,企業との個別的な対話や消費者としての意思表明が可能に なったことである。インターネットのオープンな広がりと,次にあげる情報 共有の力が加われば,それは社会的発言力が増したことを意味し,企業に一 定の影響力を及ぼすことができる。リーとバーノフ[2008]は,ソーシャル・
メディアで集結した人々の力が社会的な大きなうねり(groundswell)となる とき,消費者と企業の力の均衡が変わり,それがビジネスを脅かすようにな ると述べている27)。
しかし,一消費者の情報発信が直ちに大きな声となるわけではない。西垣
[2014]は,一般人の情報発信(例えばブログ)がいかに重大で興味深い内
26) 平成20年版国民生活白書では,情報取得手段が増えることが必ずしも消費者の 立場を強めることにつながらないとし,「自分が必要とする情報を得るために,各 種の情報入手手段を使い分け,情報を見極める情報リテラシーの向上とともに,情 報自体の信頼性を高める方策が求められる」と述べている(55頁)。
27) そのため企業は消費者の声に耳を傾け,対話し,時には消費者間の交流や活動を 支援する必要があるという。結果的にそれが消費者からの信用を勝ち得て,企業の 利益につながるからである。リーとバーノフ[2008],第1章。
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( 14 )
容であろうと,インターネットの大海の中では発見すらされにくいことを指 摘する28)。ウェブ2.0以降,消費者の情報発信は確かに増え,またそうした 個人の情報発信(ブログなど)も検索エンジンの技術の進化によって容易に 発掘されるようになったが,その検索エンジンの技術は重要度の高いページ,
すなわち他のページからのリンクが多いほど上位に表示されるしくみである ため,例えば初めから注目度の高い有名人が発信するブログなどが上位に来 るようになっており,一般人のブログは初期段階から不利な立場に置かれて いる。膨大な情報の海の中で発見されないということは,いわば存在しない も同然なのである。情報がより多くの人々に伝わりやすく共有されやすい
FacebookやTwitterなどであっても,それは顔見知りの友人・知人に広まる
程度であろうし,後述するようにソーシャル・メディアで多くの人々の共感 を得る情報とは,緊急時を除けば話題性先行で人気主義的なものである傾向 が強い。
最後の情報共有は,消費者が互いに情報を共有し合うことが容易になり,
ひとつは共通の知識あるいは集合知が形成されることと,いまひとつは上で ふれたように集団の力となることである。前者はウェブ上で行われる多数の クチコミや評価,質疑応答などで,情報交換を積み重ねてできる消費者の知 識の集合体である。これは一般に集合知と呼ばれ,情報源として人々の意思 決定や行動に役立てられたり,次なる情報発信や集合知の形成を促したりと,
社会にとっての新たな知的資源を創出する29)。後者は上や1節!2でも示した 通り,情報共有の広がりとスピードが一種の社会的なムーブメントになりう ることである。
本稿では,消費者の情報発信や情報共有のメリット,すなわち集団として
28) 西垣[2014],30〜33頁。
29) 集合知について代表的なものにスロウィッキー[2009],ペイジ[2009]がある。
梅田[2006]は集合知を積極的に評価し,西垣[2013],[2014]はこれら論者を評 しながら集合知や情報の本質を基礎情報学の見地から明らかにしている。
ソーシャル・メディアと消費者の情報化の意義(伊藤) −395−
( 15 )
の消費者の発言力や社会的影響力を表出させるものとしてのICTの意義に 着目する。ICTは本来的に人々の意思疎通を円滑にするもので,中でもソー シャル・メディアは人々の集団としての発言力を増強する力を秘めているた めである。したがって,以下では比較・クチコミサイトや質疑応答といった 消費者間の情報交換としてのソーシャル・メディア,そして人々をつなぐ
FacebookやTwitterなどのソーシャル・メディアを取り上げる。なお,企業
所有の消費者コミュニティにおける消費者の情報発信や情報共有,またそれ によって可能になる消費者の利益は,当該企業とその消費者コミュニティに 限られたものとなるため,ここでの議論の対象としない。
!2 情報交換としてのソーシャル・メディア−比較・クチコミサイトの意 義と可能性
価格.comや@cosmeなどの比較・クチコミサイトやショッピング・サイ
トの消費者レビュー,またウェブ上での質疑応答などは,今日の消費者の購 買行動にとって欠かせない情報源となってきた。例えば平成23年版情報通信 白書で述べられているように,購買行動プロセスにはインターネットによる 検索や比較,検討段階が入るようになり,価格比較サイトなどを参考にする 消費者が多くなっている30)。
比較・クチコミサイトの有用性については,理論的見地から,また実証研 究からも支持されている。江上[2003]は,商業論における商業の情報縮 約・整合機能に着目し,多くの商品情報と需要情報が商業資本に集まり取引 を円滑にする社会的機能が,ICTによって効率化する可能性とその機能が商 業資本から別の主体に移る可能性を論じている31)。そして今日の大手ショッ
30) 平成23年版情報通信白書,60〜62頁。
31) 江上[2003],259頁。江上は,それが消費者団体やNPOなどの公的な機関に よって中立な立場でなされ,客観的な消費者情報を得られる社会的な情報システム が構築される必要性があると述べている。
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( 16 )
ピング・サイトや比較・クチコミサイトなどが流通機構の一部門として商 品・サービスの売買を促す機能を果たしていると述べている32)。
また佐々木[2004]は,アンケート調査から,商品の認知についての情報 源としても,購買の決め手となる情報源としても,評価サイトが相対的に有 効度を上げていることを明らかにした。その要因として,比較・クチコミサ イトが大衆的な集計値・圧縮値を提供する「マス的」な情報資源性と,個人 から発せられる情報を基にする「個人的」な情報源特性,そして提供される 情報の中立性を持つためだと分析している33)。
消費者にとって,多くの商品情報,または同一商品の比較情報,そして購 入者の経験や評価などが参照できる比較・クチコミサイトは,商品選択や購 買のための有用な情報源である。とりわけ同じ消費者という立場から発せら れる情報は,営利目的で発信される企業のマーケティング情報に比べ信頼で きる面が多い。クチコミや評価には個々の消費者の主観や価値観が反映され るとはいえ,積み上がった情報は結果として多様性を持ち,その意味で中立 的で客観的な情報となるからである。インターネットが登場し,とりわけ商 品についての比較・クチコミサイトの発達によって,消費者はこれまで以上 に企業や商品を客観的・批判的に検討する機会を得られ,また企業にとって は自社や自社商品の評価を行う第三者機関とでもいうべき存在を外部に抱え ることになり,消費者と企業との間に新たな緊張関係を生み出した。
しかしながら,こうした比較・クチコミサイトの存在もまた消費者にとっ て情報過多を生むことは事実であるし,比較情報やクチコミによってかえっ て選択が困難になる場合もあるだろう。特に情報発信者は一般の消費者であ り,専門的な知見や科学的な商品テストなどに基づいて評価をしているわけ
32) 江上はそうしたショッピング・サイトを「情報商業」と呼んでいる。江上[2013],
239頁。
33) 佐々木[2004],30頁。
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ではないため,海外の消費者団体が行っているような商品テストや評価と同 等の情報を得ることは難しい。また集合知との関連でいえば,西垣[2013],
[2014]は集合知は正解のある問題には向いているが,正解のない問題には 不向きであると述べている。消費者のクチコミや評価,質疑応答などの集合 体は参照情報としては有効であるが,それ以上のものではなく,消費者の個々 の問題を直接解決するものではない。同じひとつの商品についてみても,あ る欲求の充足のされ方をみても,消費者の多様な価値観やライフスタイルか ら,そこには万人に等しく共通の正解などないことは自明のことである。
また,比較・クチコミサイトの多くには,企業が商品の紹介や情報発信を するページが設けられ,商品の購入サイトへのリンクが用意されていたり,
サイトの有料会員に商品サンプルが提供されたりと,実質的には企業のマー ケティング手段として利用されている面もある。そもそもサイトの運営企業 も,ユーザー登録している消費者の属性データやクチコミデータをこれら企 業に提供し,広告収入や手数料収入を得ている。比較・クチコミサイトは一 面では確かに消費者による消費者のための「聖域」であるが,その運営のた めにも商品情報の豊富化のためにも,企業がかなりの介入をした上で成り 立っていることもまた事実なのである。
!3 「ソーシャル」なメディアとしての可能性
次に,FacebookやTwitterなど,図表2−1でいう「現実社会」よりで実 名性が比較的高いソーシャル・メディアが持つ消費者にとっての意義を考え てみたい。これまで整理してきた通り,その主な特徴と意義は実名の個人や 人間関係からくる情報の信頼性である。そのため消費者は信頼できるソー シャル・グラフの中で情報を交換し取捨選択するようになる。そして実名で なくとも情報共有がしやすく賛同者や追随者を生みやすいソーシャル・メ ディアは,上で述べてきたように一種の社会的なムーブメントを起こすこと
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が可能である。
しかし,現実社会を反映させたソーシャル・メディアで流れる情報の多く は,友人・知人間にのみ関心のある話題が多く,その意味で私的関心の領域 を出ることはあまりない。また広まりやすい情報は共感を呼ぶものや話題性 のあるもので,情報の信憑性はあまり問われない傾向が強い34)。さらに場合 によっては内輪での偏った価値観に閉じこもり,他者との交流を避けたり攻 撃したりするといった過激な行動に走る可能性がないわけでもない35)。
また,動員力についても注意すべき点がいくつかある。上でみたように,
広まりやすい情報は話題性先行で,一過性の人気主義的な風潮を助長する傾 向がある。時にはそれが消費者としての判断を誤らせることもありうるし,
話題性や人気主義的な風潮を生み出すのは企業の得意とするところでもある ので,ソーシャル・メディアによって消費者が情報操作される可能性もない とはいえない。
加えて,いくら情報が共有され広まろうとも,実際に人々が動かなければ 真に社会的な影響とはいえないだろう。ソーシャル・メディアが「革命」的 に利用された例として紹介される民主化運動や震災時は,一種の緊急事態で あったため,人々が動く大きな理由があった。しかし,多様な価値観やライ フスタイルを持つ消費者の,それぞれの多岐にわたる問題や関心事が,ある 一定の集団としてのまとまりの上に「共通の問題」として共有されるまでに は,相当の時間がかかると思われる。そしてそのためのしくみもインセン
34) 平成23年版情報通信白書ではSNSがオフライン・コミュニケーションの補完に 利用されていること(160頁),また平成27年版情報通信白書では情報拡散の基準 は「内容に共感したかどうか」や「内容が面白いかどうか」が多く,「情報の信憑 性が高いかどうか」は相対的に低いことが示されている(211頁)。
35) いわゆる「炎上」はその一例である。ソーシャル・メディアのネガティブな作用 については荻上[2007]に詳しい。またサンスティーン[2003]は,偏った思考を 持った集団が互いを補強しあいながら自分たちの殻に閉じこもる「集団分極化」や 極端な行動に走る「カスケード」をソーシャル・メディアが助長すると指摘して いる。
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ティブも,現状では用意されているとは言い難い。
いまのところ,そうした問題解決を図れるコミュニティは,本稿で立ち入 らないとした企業所有の消費者コミュニティである36)。企業は消費者のニー ズを具現化して商品やサービスを生産・販売する経済主体であるため,それ を得意とするのは当然のことである。しかしながら,こうしたノウハウを企 業の利害関係を超えて消費者一般の問題解決や社会全体の問題解決に生かせ る道もまた,ソーシャル・メディアには開かれていると考える37)。ソーシャ ル・メディアは,消費者,企業,行政,NPOなどあらゆる主体がコミュニ ケーションすることが可能な関係性のプラットフォームである。これを一企 業と対話するものとしてだけでなく,企業や産業の枠,また利害関係の枠を 超えて社会的に必要な対話を行う場として利用するならば,結果的に望まし い市場の実現あるいは社会の実現につながると期待するからである。
!4 消費者の「ソーシャル」な主体性の発揮に向けて
しかしながら,ソーシャル・メディアではまだ企業が利害関係を超えて,
そして消費者が私的関心を超えて社会的な議論を始めているようにはみえな い。震災時のように緊迫した状況や復興支援におけるソーシャル・メディア 利用には社会的あるいは公共的な利用の可能性がみてとれるが,それ以外の ソーシャル・メディアにおける情報の重きがもっぱら私的で話題性先行のも のであるとしたら,それは消費者の問題解決者としての,あるいは市場参加 者としての意識や主体性の低さを象徴している38)。
福田[1996]や西垣[2014]のいうように,情報は本来的に人々の主体的
36) 他に地域SNSがあるが,これがあまりうまく機能していないことは本稿注釈14 でも記した通りである。
37) 拙稿[2013]で,企業と消費者のソリューション・ネットワークが市民・NPO などのソリューション・ネットワークと近接あるいは融合する可能性について論じ ている。
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な意味づけによって初めて意味を持つ。その意味すなわち情報の多くが今日 ではICTによって資源としていわば実体化し,社会の再生産に組み入れら れるようになっている。現代社会において最も大きな生産力を持つのは企業 であり,資源としての情報をもとに社会を再生産していく力は,大きく「商 品経済的コンテクスト」39)の影響下にある。この中で消費者の情報はもっぱ らニーズとしてすくいあげられ,市場を介して企業の商品やサービスとなっ て具現化する。
他方でICTは消費者の側からの情報も増加させ,商品経済的コンテクス トに一定の影響力を及ぼす可能性を開いた40)。これまでみてきた情報発信力,
そして共有の力である。しかし技術が力を与えるのは情報の中身(意味)で はなく,伝達を容易にするメディアとしてや,人々の意思決定や行動を助け る道具としてである。情報に意味を持たせる,すなわち主体的な意味づけを 行うのは人間であり,現代社会において支配的な商品経済的コンテクストに,
人々がどのようなコンテクストでもってどのような意味づけを行っていくか がその力の源となるのである。ここに消費者の情報化における主体性が問わ れる理由がある。
ICTによって商品経済的コンテクストに生活世界のコンテクストを共振さ
38) 西垣[2014]はソーシャル・メディアに代表されるウェブ2.0が人々に公的領域 に積極的に関わる可能性を開いたとしつつも,人々が私的領域に閉じこもっている 現状を憂いている(28〜29頁)。また河田[2015]は,消費者間の相互作用(リフ レクション)やウェブにおける消費者の内面に着目し,現代的な消費者像を批判的 に考察した上で,インターネットの登場によって消費者が多様な人々と関わり新た な関係性を構築していくような主体性を必ずしも発揮するとは限らないと述べて いる。
39) 福田[1996]の概念,わかりやすくいえば資本の論理のこと。第6章を参照のこ と。なお,西垣[2014]は経済社会における情報についてではなく,生物にとって の情報の観点(主観的世界)から出発し,情報という客観的実体を作り上げてきた 人間や社会の営みについて論じているため,情報の意味づけを規定する主体の理解 が異なる。
40) 福田[1996],第6章。以下の生活世界的コンテクストも福田の概念である。
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せる道が開け,ソーシャル・メディアの浸透でその可能性はいよいよ実現性 を帯びてきた。いかなる生活世界的コンテクストを共振させるかは消費者次 第である。例えば世界的な潮流として,環境を配慮した消費スタイルの浸透 や反ブランド運動,またフェアトレードの広まりやまちづくりをはじめとす るNPOの増加などがみられる。これらは消費者の私的関心を超えて,ある いは商品経済的コンテクストを相対化して生活世界の側から働きかける動き の一端であるといえよう41)。こうしたものの他に,より身近な問題として,
例えば食品の表示を消費者にとって分かりやすいものにするよう要求するこ とや,企業に取得されるパーソナルデータのコントロール権を主張すること など,身近であるがゆえに賛同を得られやすい事柄は数多くあるはずであ る42)。
お わ り に
津田[2012]がソーシャル・メディアの動員力に込めた思いは,震災の復 興支援のためにそれを利用したいという願いであり,人々の私的関心を超え た賛同の意や他者への善意,または社会を変えたいという希望がソーシャ ル・メディアで表面化し,実社会を動かす(ここでは復興支援に資する)こ とへの期待であった43)。ソーシャル・メディアは,それが公的・社会的な問 題解決に利用されて初めて,真にソーシャルなメディアとなるといえるだ ろう。
商品経済的コンテクストが支配的な今日の市場経済において,市場を通じ
41) 吉村[2013]は,こうした消費者の参加や連帯を含む消費生活過程と流通過程と の相互関係が現代流通の内実を決定しているとして,その実態解明に資するような 踏み込んだ消費分析の必要性を訴えている(14頁以下)。
42) これらの卑近な例はいずれも拙稿[2013],[2016]から取り出している。
43) 津田[2012],第3章,第4章,おわりに。
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て市場そのものを,また社会をより望ましい方向に導く可能性があるのは,
企業が積極的に非市場的な問題解決やCSRに取り組むことに加えて,消費 者がそのコンテクストの中に社会的な意味づけを主体的に行ってこそである。
ソーシャル・メディアはその主体的な意味づけを表出させ,企業や社会全体 に消費者の意思を反映させることを可能にする。したがって問われているの は,「ソーシャル」なメディアへの消費者の関わり方,あるいは新たな文脈
(コンテクスト)である。消費者にとってのソーシャル・メディアの意義は ここにある。
謝 辞
三浦隆之先生が古稀を迎えられましたこと,心よりお祝い申しあげます。
このたびは記念すべき古稀記念号に寄稿させていただきましたこと,この場 を借りてお礼申しあげます。
筆者は1997年度から6年間,福岡大学大学院商学研究科博士課程に在籍し,
その間の数年,三浦先生の講義を受講させていただきました。また筆者の学 位論文の審査に際しましては,副査を務めてくださいました。三浦先生の講 義からは,専門書に真伨に向き合い,議論を重ねることの大切さなど,研究 者としての姿勢を学ばせていただきました。その三浦先生に,拙稿でわずか ばかりでも成長の跡をお見せできていましたら幸甚の至りです。
三浦先生のこれからのますますのご健勝とご健康を心よりお祈り申しあげ ます。
参考文献
阿部真也[2009]『流通情報革命:リアルとバーチャルの多元市場』ミネルヴァ書房 阿部真也・宮﨑哲也[2012]『クラウド&ソーシャルネット時代の流通情報革命』秀
和システム
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