地域連携事業「ダンス・ワークショップ」を事例と して
その他のタイトル Potentiality of a Dance Workshop for the Elderly : A Case Study of "Creative Dance Workshop" as a Collaboration between Sakai City and HARADA, Junko
著者 原田 純子
雑誌名 人間健康学研究 : Journal for the study of health and well‑being
巻 7‑8
ページ 1‑12
発行年 2014‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00023254
—地域連携事業「ダンス・ワークショップ」を事例として一
原 田 純 子
Abstract
This paper discusses the significance of the "Dance Workshop" as a collaboration between Sakai City and Kansai University for elderly participants. The "Dance Workshop" consists of "Karada‑hogushi"
and "Creative Dance". "Karada‑hogushi" is an original technique of movement with "voice" releasing
"body and mind". The participants were positive about the technique as measured by interviews conducted with some of the elderly participants in the Dance Workshop.
The results indicate that the participants changed their sense of self through creative dance experiences. Especially, they recognized changes occurring in their everyday lives and behavior after the dance experiences.
I. はじめに
2011年度から堺市との地域連携事業として筆者が 実施してきた「ダンス・ワークショップ」は、同様 の事業として行なわれた「東西いのちの文化フォー ラム」の一つの講座(連続5回)として始まった。
2012年度と2013年度には単独の連続講座となり、月 に2回 (8月は休み)の頻度で開催してきた。
2011年度の事業申請時に筆者が描いていた理想の 事業形態は、年齢や性別、ダンス経験の有無を超え て様々な特性を持つ人々が一緒に行なう インクル ーシブ・ダンス"の場を提供することであった。そ のことによって、この場が心身の健康の自己管理を サポートする拠点となること、そして、いつでも 帰 ってきたい と思える場、安心して集まれる場とな ることを目指していた。それは、創作ダンスという 自己を自由に表現する(あるいは開放する)身体に よる自己開示の営みと、その活動を通した人と人と の交わりが、心身の健康の維持・増進に寄与するこ
とを、筆者自身の経験から確信していたからである。
2011年度と2012年度は開催日毎に参加者を募って いたため(参加費無料)、中学生から80歳代までの 男女が都度、自由に参加し、そこに本学の学生らも 加わって、当初理想としていたインクルーシブな場 を比較的実現する形となっていた。 2013年度は諸事 情に配慮し、参加者の募集は4月と9月の2回、参 加費も有料となったため参加者は20名程度(登録人 数)で、年齢層も65歳‑83歳と高齢者中心の活動 であった。この20名については、 3名を除き、 2011 年度または2012年度より継続して参加している参加 者である。
II. 地域連携事業「ダンス・ワークショップ」の概要 1)実施概要
2011年 ‑2013年の参加者については以下の通り である。
① 2011年 度
回 実施日 参加者数(人) 年 齢
男 女 30代 40代 50代: 60代 70代
① 10月8日(±) 5 19 1 1 5 10 7
② 22日(±)
゜
11 1゜
4 4 2③ 11月13日(日) 3 7
゜゜
3 I 4 3④ 27日(日) 3 16
゜゜
6 I 6 7⑤ 12月3日(±) 3 15
゜゜
6 I 6 6② 2012年 度
回 実施日 参加者数(人) 年 齢
(すべて土曜日) 男 女 10代 40代 50代 60代 70代 80以上
① 4月18日 3 16 / / / / / ~
② 28日 3 12 / / / / / /
③ 5月19B 3 15 / / / / / /
④ 26日 3 11 2 1 2 4 5
゜
⑤ 6月9日 3 13 4 5 7
⑥ 23日 3 21 / / / / / /
⑦ 7月7日 3 23 1
゜
4 10 11⑧ 21日 3 20 1 1 2 11 8
⑨ 9月8日 3 24 5 12
,
⑩ 29日 3 19 5 10 7
⑪ 10月6日 3 20 2 13 8
⑫ 11月10日 1 22 2 10 11
⑬ 12月8日 3 18 1 3 8 8 1
⑭ 22日 3 20 5
,
8 1⑮ 2013年1月12日 5 19 3 12
,
゜
⑯ 26日 4 20 3 14 6 1
⑰ 2月9日 5 18 3 11 8 1
⑱ 3月16日 3 23 1 1 5 10 8 1
※1‑‑‑‑‑‑‑‑‑Iについては、アンケートの実施がなかったため、年齢層の分布が不明である。
③ 2013年 度
前 年 度 ま で と 異 な り 4月と9月の2回 の み の 募 集 と な り 、 さ ら に 有 料 と な っ た た め 、 ほ ぼ 毎 回 、 固 定 メ ン バ ー で 実 施 し た 。 参 加 者 実 数 は 以 下 の 通 り で あ る ( う ち 、 2名は男性)。
回 実施日 参加者実数 回 実施日 参加者実数 回 実施日 参加者実数
① 4月20日 18 (人) ⑧ 7月20日 15 ⑮ 12月14日 15
② 27日 16 ⑨ 9月21日 14 ⑯ 12月21日 17
③ 5月11日 16 ⑩ 28日 13 ⑰ 2014年1月11日 12
④ 25日 15 ⑪ 10月12日 15 ⑱ 1月26日 14
⑤ 6月8日 15 ⑫ 26日 15 ⑲ 2月8日 14
⑥ 22日 15 ⑬ 11月9日 13 ⑳ 2月22日 15
⑦ 7月13日 18 ⑭ 30日 15
2) ダンス・ワークショップの内容
2013年度末で3年目を終えた「ダンス・ワークシ ョップ」であるが、その内容構成は初年度から変わ っていない。基本的な流れは、丁寧な身体ほぐしと 創作表現よりなる。身体ほぐしは、声を出しながら 身体を動かすことで「息」を下ろし、創作表現に向 けて「こころ」をほぐすことが目的である。内容の 詳細を以下に述べる。
① 「挨拶」(約10‑15分)…参加者全員で輪に なって座り、その日の天気やニュースなど、た わいない話から始め、その後、全員がひと言ず つ挨拶をする。一人ひとりの様子を確認する意 味と、言葉を発することによって自他の存在を 明示する意味を持っている。
② 身体ほぐし(約45‑50分)…座したまま、声 を出しながら身体の各部位を繊細に揺すり、丁 寧に身体ほぐしをする。手足の先から身体の中 心に至るまで、声を伴って身体をほぐすことは、
その後の身体表現にスムーズに取り組むために、
「息」をほぐし、「こころ」をほぐすと考える。
③ 動的な身体ほぐし(約 20 分)•••おもにペアで 積極的に動きながら身体ほぐし• こころほぐし を行なう。とくに、「嬉しい・楽しい」「きれい」
「嫌だ」などの感情を擬音語・擬態語で口に出し ながら、身体の動きで大袈裟に表現するワーク や、相手の身体のあり方を感じながら動くワー クで、「息」を解いて次の自由表現に入りやすく なるよう心身の準備をする。
‑5分程度の休憩一
① 創作表現(約35‑40分)…毎回異なるテー マを提示し、創作、表現する。テーマの例とし て、 身体でひらがなの「あ」を描き、イメージ と掛け合わせて踊る"、 グループで空間を横切 る動きを考える"などを行なった。最終的に、
ひとグループずつ発表・鑑賞をする。
⑤ まとめ(約5‑10分)再び輪になって座し、
ひと言ずつ感想を述べて終わる。
※毎回必ず3‑5人の学生が参加者と一緒に活動 する。
3)インタビュー調査について
「ダンス・ワークショップ」は2013年度で3期目
を迎えた。 1期目からの過程において、参加者は2 度の舞台発表 (2012年と2013年の堺キャンパス祭
に出演)と1度のパフォーマンス (2013年12月21 日@多目的室B)を経験し、表現力も向上してきた。
そこで、この「ダンス・ワークショップ」の成果 を参加者本人がどのように捉えているかを明らかに するために、参加者に対して半構造的インタビュー を実施した。インタビューの対象者は表lに示す通 りである。内容はおもに、①本ワークショップに参 加したきっかけ、②身体ほぐしについての感想、③ 創作表現についての感想、④ワークショップに参加 して変化したこと、⑤本ワークショップ以外にやっ ている身体活動、⑥学生が一緒に活動することにつ いて、⑦今後のワークショップにおいて目標とした いことの7点である。約1時間程度を予定して臨ん だが、自身の活動や生活等について話し込む人もい て、以下に示す通り、インタビュー時間が一定して いない。
表 1 インタビュー調査の概要
対象者 年齢 実施日 インタビュ一時間 Aさん(女) 70代 20137年月27日 81分 Bさん(女) 70代 8月1日 62分 Cさん(女) 70代 8月1日 74分 Dさん(女) 80代 8月1日 85分 Eさん(男) 60代 8月2日 73分 Fさん(女) 60代 8月5日 37分
本稿では、参加者へのインタビュー調査の結果を もとに、このダンス・ワークショップの軸となる「身 体ほぐし」と「創作表現活動」の内容をあらためて 精査し、高齢者にとっての「ダンス・ワークショッ プ」の意義について考察する。
Ill. 「ダンス・ワークショップ」という「場」
1)精神的活力を養う場としての「ダンス・
ワークショップ」
本ダンス・ワークショップは、「創る一踊る一観 る」という一連の流れと、それに向かうための「身 体ほぐし」を主たる活動としている。指導者が振り 付けた踊りを覚えて、皆で練習するという一般的な ダンス教室のあり方ではなく、参加者自身が「考え、
創り(創造する)、表現する」ことを活動の柱と考え ている。それは、「創造」が人間の本質的な欲求であ り(林2006)、創造的自己表現活動が精神的な活力 を生み出すと考えるからである。
身体表現とは、自分自身の思い(こころ)を自分 の内から外に出して客観化する行為である。その過 程においてわれわれは、自身の中に思わぬ動きや表 現を発見し、そこに投影された自分の内面や本心と 対話する。さらにその表現を他者と見せ合い、互い に受容しあうことを通して自己肯定や他者理解が起 きていると考えられる。ダンス・ワークショップが 終わった後で、「思い切り表現できてスッキリした」、
「気持ちよく自分が出せた」という感想が多いのは、
身体表現を通して、受容すること・受容されること が、この場において保障されているからであろうと 推察する。これは、ただ単に身体を動かして得られ る爽快感とは異なる深い体験である。
ダンス・ワークショップの参加者の多くは70歳を 超えた高齢者である。一般的には、一緒に活動する 学生たちより身体的に衰えがある。当然のことなが ら、身体的に高い技術や持続力は若い学生たちには 敵わない。しかし、創造力や表現力を自分に適う形 で充実させることで、参加者らは生き生きと踊り始 める。このようなとき、ダンス・ワークショップは 参加者にとって、精神的な活力を養う場として機能
していると言えるのではないだろうか。
2) "異"との出合いとしての「ダンス・ワーク ショップ」
ワークショップとは「参加体験型グループ学習」
と言われるように、「講義など一方的な知識伝達のス タイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同 で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造 のスタイル」(中野2001)であると定義される。ま た、苅宿ら (2013)は、「「学んでしまってきている こと」を振り返り、それを「まなびほぐす(アンラ ーンする)」ことによって、あらためて、ほんとうの
「まなび」とはどういうものかについて考え直そうと いう営み」(苅宿2013:ii)を「まなび学」と呼び、
その実践としての「ワークショップ」の可能性を提 示している。この場合のワークショップは「 異 と の出合い」であるとして、普段とは異なる場や人々
との出会いが新しい つながり"を生み、そこに新 しい仲間や学びがあるという。
本稿で対象とするダンス・ワークショップの場合、
「まなび」の場というより、「受容」の場の創出を意 識している。それは、ここでのダンスが、上述の通 り「創作ダンス」を意味していることに起因する。
つまり、指導者から一方向的に教えられた振付を覚 えて踊るダンスではなく、参加者自らが創って表現 するダンスである。この創作ダンスという、自身の 身体を媒体とする表現活動は、覆い隠すことのでき ない、自分自身をさらけ出す自己開示的な色彩を持 っている。よって、自由に表現することを楽しむた めには、まず自分の表現を自分自身が受け容れ、ま た他者にも受容されることが必須である。たとえば 初心者の場合、「風を表現せよ」と言われても、"ど のようにして風になるのが'、"自分の表した風は果 たして合っているのか間違っているのが'、 第一、
身体がそんなに自由には動かない"等々、様々なこ とを考え、戸惑い、恥ずかしさでいっぱいになる。
そのような場合も、それを否定的に捉えるのではな く、「誰にでもあること」「誰もが感じること」とし て、その人のありのままを素直に受け容れる。受容 しあう場創りができれば、その場の中で個々人の表 現はおのずから開花する。ダンス・ワークショップ は常にそのような「場」であることを心掛けている。
受け容れることは当然、学びにつながっていく。
同じものが人それぞれに違う方法で表現されるのを 見て、自他の違いを認識し、新しいものの考え方に 出合う。このこと自体が学びとなる。すなわち、苅 宿らのいう「 異"との出合い」を通しての学びであ る。ワークショップの参加者たちは毎回出される新 しいテーマに取り組む際に、既知の人の知らない一 面に頻繁に出合う。テーマの捉え方や表し方など、
常に新しい人と出会うのと同じように、その人の新 しい一面に触れるのである。そしてそれは、自分自 身に対しても起こる。「まさかこんな動きができると は」、「こんなに表現を楽しむ自分がいるとは」とい う、今まで知らなかった自分自身に出会う「 異 と の出合い」がある。
以下は、これまでの自分とは異なる自分に出会っ たという Cさんと、人との出会いについて語るGさ んのナラティブである。
cさん (70代女性)ー自分の変化についてのナ ラティブ
皆から言われるけど、私は人の後からついて いくしかできない人だった。 7人兄弟の6女な ので、人の後をついていくばかりだった。本当 に世間知らずで。自分から何かするということ が無かった。でも今は先頭になって何でもする でしょ。
(今やムードメーカーですよね?)それは最近変 わった。手話とかそういうのも始めて積極的に なった。座って話せと言われたらいいけど、立 って発表しなさいと言われるとあがってダメ。
それが今ではだいぶん無くなってきた。いろい ろやって自分自身の殻が破れてきた。ダンスを 始めたことが大きいと思う。ダンスが一番殻を 破ったかな。声を柑して動いたりして、ものの 考え方とか、そういうのが分かって、発想の転 換があって、ちょっと考え方を変えたらできる んだなぁと思ったら何をするにも楽しむ、それ が優先になった。嫌なことはしないよとか言っ たりして、そういうことを徹底してやりだした ら怖いもの知らずになった。この年になったら 楽しまなくちゃと思って、いろいろなことで勉 強になった。ー後略一
在である。ダンスの他にもフラ・ダンス、手話、水 泳などに通い、大変活動的である。そのCぢんにと って、「自分の殻が破れて」、行動や考え方が変化し たことは、まさに新しい自分との出会いであったと 考えられるだろう。 Gさんもまた、「日常にはない」
大声で笑える場と、仲間との出会いをしていること が分かる。キャンパス祭での舞台を家族が観に来て、
いつもと違う Gさんのことを、「「お母さん、すごく 笑って踊ってたね。良いこと!」と言ってくれたこ とがとても嬉しかった」と教えてくれた。
これらから、ダンス・ワークショップの場が、そ れぞれに、「 異 'との出合い」を経験する場となっ ていることが読みとれる。
Gさん (60代女性)ーダンス・ワークショップ を続けている理由についてのナラティブ
今まで身体全体を動かすことがなかった。こ このダンスはなんとなく自分に合っていた。歩 くのは歩いていたが、ダンスが楽しかった。こ れまでは、大きな声で笑うこともなかった。(ダ ンスは)お腹の底から笑える機会。日常にはな い。下手は下手なりの、間違っても楽しくて笑 える。すっきりした笑い、お腹の底から笑える のがダンス。 ー中略一
楽しい要素は笑いと友達ができたこと。よそ の講座で会ったりしても、声掛けあえて。そう いうのが楽しい。いろいろな人と知り合いにな れたことは良かった。 一後略一
かつて引っ込み思案だったという Cさんは、ダン ス・ワークショップでは皆を引っ張るリーダー的存
IV. 「ダンス・ワークショップ」の成果 1) 身体とこころを開く 身体ほぐし"
ダンス・ワークショップでおこなう「身体ほぐし」
は、前述のようにあるがままの自分の表現を受け容 れ、さらに一緒に踊る人たちの表現を受谷するため の身心づくりの意味を持つ。声を出しながら身体を 動かすという独自の技法による「身体ほぐし」は、
身体を緩め、息を下ろして、結果としてこころをほ ぐすことを目的としている。
声を出しながら動くというのは、例えば「あ〜〜」
と言いながら身体を揺すったり、「イヤイヤイヤ!」
と言いながら地団駄を踏んで移動したりという具合 である。声を出すと、息を詰めることなくリラック スして身体を動かすことができる。動きに沿う声、
気持ちに沿う動きを相互に引き出すことによって、
溜め込んだものや要らないものを自分の中から外に 向かって吐き出すというイメージをもって動く。
以下は、声を出しながら身体をほぐすことについ ての参加者Dさんの語りである。
Dさん(女性)一声を出しながら動くことに関 するナラティブ
(前略)声を出した瞬間、おなかに力が入ってい たりするが、声を出しながらやるのがとても良 いなと思う。最初、声を出すのはびっくりした けれど、おなかに響くし、とてもいいと思った。
この頃は時々天井向かって声を出している。カ ラオケに行くのと同じ効果があるのではと思う。
声を出しておしゃべりするというのではなくて、
身体を動かしながら声を出すのは発散できる。
声と動きの関係やその効用について言及したもの は多くないが、「TheHuman Voice」の著者である アン・カープ (2008)は、声は人間がもつ「きわめ て強力な道具」だと述べ、声を通して感情を解放す ると、心が癒されると考える人が多いことを指摘し ている (p.150)。さらに、カープは、「声は身体の 一部であると同時に心の一部でもある」 (p.13)と
した上で、その役割を以下のように記している。
声は物理的に体のなかを通って外に出るだけ でなく、「自分」の内面を表面に現わす重要な働 きをもっている。声は、内と外、自己と他者を つなぐ架け橋だ。人前で話したり放送で語った りすれば、個人と世界をつなぐ手段ともなる。
声を出し、そのときの喉の動きを感じることで、
自分が生きているのを再認識する人もいるだろ う(カープ2008: 129)。
カープが述べるように、声が自他をつなぐ架け橋 だとすると、声を出して動くことで、参加者はその 場における自己の存在を確認しつつ、声を通して他 者とのつながりをまるごとの身体を通して感じてい るに違いない。それは、参加者の発する声のうちに、
それぞれが自分の身体を漂わせるような、互いの身 体の動きが共振するような感覚である。
ところで、声を出すということは息を吐くことで もある。息を吐けば、また次の息を吸わなくてはな らない。その意味で、声を出しながらの身体ほぐし は、息の流れを止めずに身体を動かし、より呼吸を 意識しながら身体を緩めるという意味合いも持って いる。身体をほぐし緩めるのは、こころをほぐして、
次の創作表現に取り組みやすくするためである。東 洋の行法(座禅やヨーガなど)には、「調身、調息、
調しヽ」の三つ、すなわち身体をととのえ、呼吸をと とのえ、こころをととのえることで心身の健康が成 就されるという考え方があり、呼吸法によって体調 や心の状態が改善するとされている。ここでの身体 ほぐしも、息をととのえ身体をととのえることで、
こころを開くことを目指している。「声」はその鍵と なる重要な要素であると考えている。
2) "腑に落ちる"体験
今回インタビューした多くの参加者が、身体ほぐ しについて、「腑に落ちる」「納得できる」と表現し た。それについてのナラティブを紹介する。
Eさん(男性)一"腑に落ちる"体験についての ナラティブ
首が回らなくなった話。先生に話した時、「周 りに嫌な人がいませんか?」と言われて、そん な馬鹿なことってあるかなと思ったけれど、そ の話を奥さんとしていたら、 1‑2か月動かな かった首がすっと回るようになって。ああ、奥 さんが原因だったかと思って笑った。(奥さんが 話すことについても、)話題が一緒だったら「も ういいか」という気持ちが身体をプロックして いたのかな。理解したら身体が変わって面白か った。人間はそういうところで自分を守るよう にできているというのが面白い。一中略一
身体が納得しないと本当に分かったことにな らないというか。ああいうのを聞いていると、息 子や娘などは、どうしても知識が(先に)立っ ている感じがする。「腑に落ちる」みたいな機会 は少ないんじゃないかな。スポーツをやってい るとそういうのがあるのかもしれないけど。昔 は賞味期限とか消費期限とか、僕たちが小さい ときにはなかったけれど、そういうのを付けて どうなるんかなと思う。昔は匂ったり、糸引い ているのを見て(身体で感じて)、食べたらダメ
というのを自分で考えたけれど、今はそれがな い。賞味期限が一日でも超えたら捨てたりする。
「自分の身体で考えてやれよ」と思う。「分かる やろう?」と思うけれど、数字だけに左右され るのは五感が鈍っている証拠。身体が腑に落ち るという感槌がない。ああいうのはもっと必要。
これからの若い人に必要な授業じゃないかな。
このナラティブは、ダンス・ワークショップの際 に、「ここ2か月ほど、首をこちらに回したら痛い」
と訴えたEさんに対して、身体には自分自身を守ろ うとする機能があり、嫌だと思うことがずっと続く と、そちらに首が回らなくなったり耳が聞こえなく なったりすることもあるという身体の自己防衛機能 について華者が話したことを述べている。この時E
さんは、こころと身体の関係を実感し、「腑に落ち る」という感じを体験したのだという。
Eさんは、自宅でも熱心に身体ほぐしを実践して おり、最初の頃と比べると身体とその動きが随分し なやかになった。自分の身体が変化していくのを本 人も自覚しており、それにつれて、こころのもちょ
うが変化していったことにも気づいている。さらに、
Eさんの語りを統ける。
Eさん(男性)ーダンス・ワークショップをや って変化したことについてのナラティブ
柔らかい筋肉と柔らかいこころかな。スポー ツやっているときは鍛えるということに重点が あったけど、そうではなくて柔らかい筋肉とこ ころを育てるというところが良いなと思う。 鍛 えるばかりでないということを知って、ちょっ と変わった。「おばさんたちと話をするのが上手 になってきたね」と奥さんに言われた(笑)。今 までは、町内会をやっていても男性が仕切って いたし、「女性は入っても言うことは言わない。
裏では山ほど言ってるくせに」とか思っていた。
女性のお話は聞くのも苦手だったが、今は「こ んなもんかな」とそこそこ聞けるようになって、
話ができるようになった。奥さんの目から見て もそういう風に見えるらしい。 ダンスを続けて いるのは何故かな・ ・・。不思議な気がする。
こころのしなやかさと先生がよく言われるが、
おばさんの話を聞けるようになったというのは、
こころがしなやかになったということかなと思 う。自分にとっては分かり易い変化。歳いった ら女性と上手に付き合っていくのが大事かなと 思う(笑)。ー中略_
会社でもリタイアしていなかったらダンスを していないと思う。でも 1年たってようやく「ダ ンスしてます」と平気で言うようになった。こ ころがほぐれたんだと思う。最初は恥ずかしい から周囲には言っていなかったけれど、今は「や ってみたら楽しいよ」というようなことを言っ ている。周りの人は適当に聞き流しているかな。
でも今回は、おばさんや息子たちが見に来てく れて、「結構やってるね」と言ってもらえて嬉し かった。楽しくできていると思ってもらえるの
が嬉しい。去年は恥ずかしかったし緊張してい たけれど、今年は自分も楽しんだし、観てくれ た人も「楽しそうにやってたやん」と言ってく れただけで「よしよし!」と思った。次は、観て いる人が「自分もやってみたい」と思えるよう な段階にステップアップしたい。同じような歳 の人でマラソンとか、すごい人もいる。マラソ ンもやりかけたが自分には無理と思った。だけ ど、自分の中ではスポーツと思っていなかった ダンスが、「いいよ」っていうことが知り合いに 伝わればいいなと思う。
一方、 Cさん(女性)は、身体の仕組みを理解す ることで、ダンスや他のスポーツの動きにも興味を 示し、イメージしながら動くことの大切さに気付い たという。
cさん(女性)一身体の仕組みに関心を持った ことについてのナラティブ
先生が教えてくれるストレッチというか、身 体ほぐしが好き。ヨガも習いたいけどなかなか 行けなくて。ここに来るのは楽しい。先生の説 明がとても分かり易くて面白いから。私は身体 が硬くて、足首も硬くて、プールでも股関節が 硬いから、先生の説明してくれる身体の仕組み にも興味が持てて、今まで考えたこともなかっ たけれど、説明聴いてなるほどと納得したから、
他のところで動くときも、「なるほど、だからこ んな風に動くんだ」と考えながら動くのが面白 い。ますます呉味が出てきて理解できた。それ が楽しい。
TVでも痩せる体操とかあるけれど、ここに 来てから、そういう説明がよく理解できるよう になった。だからますます楽しくて。考えると いうか、イメージしながら動くというのが大事 ということが分かった。
Cさんの話を聞いていると、"腑に落ちる"という より、頭で 理解して 、動きを自分のものにしてい くという印象が強かった。
Eさんと C さんの語りは、自分の身体やその動き の意味に納得できれば、自分自身の変化を肯定的に 捉えることができることを示している。 2人とも、興
味をもって、自発的に自分自身の身心に向き合って いることがよく分かる。
3)身体のしなやかさ
先のEさんのナラテイプには、「こころのしなや かさ」という言葉が出てきた。身体がしなやかにな ったことによってこころがしなやかになり、苦手だ った人の話も聞けるように身心が変化してきたと E さんは語った。
次に示すFさんの例は、身体のしなやかさについ てのナラティブである。
Fさん(女性)一身体のしなやかさについての ナラティブ
身体は、少しは柔らかくなったと思う。自分 でも不思議。この前、階段から転げ落ちた。お 家で。でもうまく転がったみたいで(笑)、どこ も何にもなかった。青あざができたけれど、骨 もどうもなかった。踏み外して、アッと思った ら、もう下に倒れていたけれど、怪我ひとつな く、うまく転がった。自転車漕ぎ澤)とかして コロコロしていたから、そういう動きが身に付 いていた。自分でも、この歳だったら骨を折っ ててもおかしくないのに、上手く転がったなぁ と感心した。ラッキーだった。身体がしなやか になったと思う。定期的に身体を動かすってす ごいことね。一瞬だった。短い時間で全然覚え てなくて。でも治るのも早くて良かった。続け ることは大事だと思った。
※ワークショップで行う身体ほぐしの運動のひとつ。
階段から転げ落ちたという Fさんは、怪我もなく うまく落ちたことに、我ながら感心していた。身体 がほぐれるということは、とっさの変化にも身体が うまく反応し、自分自身を守るような体勢を作る。
普段から筆者が勧めているのは、「転倒防止運動」の ようなものをするのではなくて、転んだ時にしなや かな対応ができる身体づくりである。
4) 創 作 表 現 ー 自 由 " は 不 自 由 "
ダンス・ワークショップの柱となる活動は「創作 表現」である。参加者が創作して踊る、いわゆる「創 作ダンス」である。決められた振りを覚えてリズム
に乗って踊ることは楽しいし、健康維持のためにも 効果があろう。一方で、思い浮かばない動きのアイ デアや食い違う意見の調整は時として面倒で時間が かかる。 自由に"と言われても、簡単には動かない 身体と恥ずかしさも相侯って、創作ダンスは敬遠さ れがちだ。学校教育の現場においても、創作ダンス は話し合いに時間がかかり、体育の授業としては十 分な運動量が確保できないという考えも根強く、リ ズム系の貨えて踊るダンスが多く実践されているこ とも事実である(中村2009)。しかし、ダンスの醍 醐味は、"創って踊る(表現する)"ことにあると筆 者は考えている。生みの苦しみも試行錯誤も全部含 め、自他とコミュニケーションを図り、アイデアを 出しながら進めていく創作は、そこに人間模様や相 互理解、創意工夫が溢れているからこそ面白く、ま た意義がある。その実践としての「ダンス・ワーク ショップ」である。
では、このダンスの創作表現を参加者らはどのよ うに受け止めているのであろうか。創作表現につい てのナラテイプを順に紹介する。
Aさん(女性)
ここは、来る時と帰る時の皆さんの表情が違 う。無理なく組み立てられている内容が良いと 思う。身体がほぐれたらこころがほぐれる。創 作はちょっと苦しい。自分ができてないなと思 うこともある。最初の頃よりは皆、進歩がある。
自分も最初はぎこちなかったけれど、最近は無 心になった時は楽しいと思う。「ちゃんと踊らな くちゃ」と思うと、頭で考えてしまってぎくし ゃくとなる。無になった時は、自分がどうなっ ているか分からないが、こころも身体も自由に なって、「自分も踊れる!」と思える。頭で考え てしまうとぎこちなくなる。決まったことを踊 るのは楽しいけれど、創作して踊るのはこころ の中で自由に無心に踊れる時と、こう踊らなく ちゃいけないと思うときがある。こうしなくち ゃいけないと思うとブレーキがかかって、「ちゃ んと踊れていないのでは?」と思ったり、(動き が)思いつかなかったりする。他の人のことも 気になる。
無心になれるときは、他の人のことは目に入っ
ていない。「自由にやっていいよ、好きにやって いいよ」と言われるときは無心になってる。先生 は別にいつも、「きちんと踊って」と言われない けれど、自分で勝手に思ってしまうときがある。
な。あまりこだわらなくて良いと思ったら動け るようになったけれど、こう動きなさいと言っ てもらった方が楽。決まっていた方が危ないこ とも怖いこともない。でも自由に動いてみると 楽しい。
Bさん(女性)
社交ダンスとかフラとかと違う、ちょっと変 わった独創的なダンスと思ったけれど、抵抗は 感じずに楽しいと思えた。生活の中の一つの楽 しみ。その時間だけが発散できる、わっとでき る貴重な時間。家が近いこともあるけれど。こ こで発散したら、家に帰って切り替えができる から。一中略一 身体ほぐしは、家に帰っても やってる。自由にやるのは嫌いじゃない。自分 で創るのは、何も考えずに自由にやってる。気 分が良い。皆で1から10まで覚えるのは大変だ と思うけど。自由が多いから勝手にやってる。
他の人も乗せられて勝手にやってるし。
Cさん(女性)
自由に踊っていいと言われて、最初は戸惑っ た。自分は頭が固い、発想ができない。自由に と言われても。決められて動く方が楽は楽。で も今は、自由にと言われたら、「気楽にやったら いいんだわ、好きにしたらいいんだわ」と、そ ういう考えができるようになった。でも最初は 決められた振りをしている方が、真似る方が楽。
忘れるけれど。でも今は、自由の方が好き。先 生が「自由に、好きにしていいよ」と言ってく れたら自分で楽しめる。楽にやればいいと思え る。どうしたらいい動きができるかというのは 学生さんを見たりして、参考にする。そういう のは好き。なるほどと思える動かし方も好き。
理屈が通っている動かし方というか。本当に勉 強になる。自由表現は珍しい。決められたこと はきっちりしないといけないと思うけれど、そ れがないから気分的に楽だし。
Dさん(女性)
イメージを動作に表すのは難しい。頭が固い から。はじめの頃よりは動けるようになったか
Bさんを除き女性の参加者は、創作表現に未だ戸 惑いがあるか、あるいは「やってみると楽しいこと は分かる」が、実際には頭で考えてしまうこともあ って、いつも楽しんでいる訳ではない様子がうかが える。このワークショップの参加者の多くは、大変 活動的である。ダンスの他にもいくつかの習い事を している人も少なくない。毎日をプラス思考で生き、
自ら積極的に物事にかかわることが好きな性格上、
創作ではうまくアイデアが出せず、苛々することも あるのだろう。基本的には学生が入って3‑5人グ ループでの創作が多いので、学生がリードしてうま くまとめる場合もあるが、自分自身が意見をちゃん と出せなければ、消化不良のような状態になってし まうのだと考えられる。
その一方で、男性のEさんは少し受け止め方が違 った。自分が今までやってきたスポーツとの違いを挙 げて、自由に表現することの面白さを語ってくれた。
Eさん(男性)
なんか、開放された感じ。「スポーツ」をずっ とやってきたから、ダンスってルールがないか ら、発散すると言ってもどうしたらいいか分か らなかった。だけど、何が良かったのかな?不 思議なんだけど…。自分がやってきたスポーツ は身体の方ばかりに重点があったが、こころを ほぐすみたいなのはなくて。それがこのダンス・
ワークショップでこういうことかというのを体 験した。
おばさま方と話ができるようになったのも、
そういうことかな。身体がそういう風に変化し たということかな。だから疲れて眠るのではな くて、緩んで心地よく眠るというか。そういう こころを緩ませるスポーツって初めて体験した。
こういう型で"とか、 こういうフォームで というのばかり追いかけてきたから、きっとダ ンスにも教える型とかはいっぱいあると思うが、