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1 研究の目的

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

サイクリン依存性キナーゼ 1(Cdk1) は細胞分裂促進因子であり、その活性制御機構は よく研究されている。 Cdk1 は Cyclin B との結合と 3 つのリン酸化によって活性が制御 されている。 3 つのリン酸化はそれぞれ Cdk7 による Thr161 、 Wee1/ Myt1 による、 Thr14 、 Tyr15 である。後者による 2 つのリン酸化は Cdk1 の活性を抑制し、 Cdc25 によって脱 リン酸化される分裂期になるまで保たれる。

一方、 Cdk5 は Cdk ファミリーの一つであるが、最終分裂を終えた神経細胞で活性化 され、神経細胞の移動、神経回路の形成、シナプス活動の制御等、多様な神経機能 に関わっていることが知られている。 Cdk5 の活性化は、活性化サブユニット p35 、 p39 、 Cyclin I との結合のみで十分であるが、 Cdk5 の Tyr15 のリン酸化は活性をさらに 上昇させると報告されている。 Tyr15 をリン酸化するキナーゼとして Fyn 、 TrkB 、

EphA4 等が知られている。しかし、 Tyr15 のリン酸化がどのようにして Cdk5 を活性化

するか詳細な研究はされておらず、本研究では Cdk5 の Tyr15 のリン酸化による活性 化機構を明らかにするために、生化学的手法によって詳細に解析、検証した。

2 研究の方法と結果

(1). Tyr15 のリン酸化による活性化に対する疑問

Cdk5 の Tyr15 をリン酸化するために分裂細胞の COS-7 細胞に constitutive active (ca)Fyn を強制発現した。以前の報告通り、 Cdk5 単独で Tyr15 のリン酸化が見られた が、 p35 、 p39 、 Cyclin I と Cdk5 の活性化サブユニットを共発現させると Tyr15 のリン 酸化は大きく抑制された。 Src 、 TrkA と他のチロシンキナーゼでもリン酸化させた が、そのリン酸化も p35 によって抑制された。これら活性化因子による抑制は Tyr15 のリン酸化による活性化仮説とは明らかに反している結果である。そのため、現在 までに使用されている Tyr15 のリン酸化抗体全ての特異性を Tyr15 の非リン酸化変異 体である Phe 変異体 (Y15F) を作製し確認したが、全て clear に特異性が確認された。ま

た、 COS-7 細胞は分裂細胞であるために Cdk1 や Cdk2 が存在する。そのため、これら

の Tyr15 を認識している可能性も考え確認してみたが、反応は見せなかった。これら

の結果から、 Tyr15 のリン酸化が活性化に関与するのか疑問を持った。

(2). p35 による Tyr15 のリン酸化の阻害の原因は Cdk5 との結合である

Tyr15 のリン酸化の阻害が p35 によってどのようにして引き起こされるのか、様々な

可能性を検証した。 1. Fyn と共に p35 を共発現させると Fyn の発現量が減少したこと から Fyn の発現量をそろえた。しかし、 Tyr15 のリン酸化にはそれほど影響を及ぼさ ず阻害の主要な原因ではないと考えられた。また、 2. p35 は Cdk5 の活性化も引き起 こすため、 kinase negative (kn) の Cdk5 でも阻害が起こるかどうか調べたが knCdk5 でも

Tyr15 のリン酸化は同様に阻害され、これもまた原因ではないと考えられた。さらに、

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3. p35 は N 末側の結晶構造がわかっていない。そのため、 N 末部分が Tyr15 をマスクし ているのではないかと考え、 N 末欠損の p25 でも同様に実験を行なった。しかし、 p25 でも p35 同様に阻害され、 N 末の影響はなかった。 4. p39 の削り込みをさらに行ない、

Cdk5 との結合領域のみでの変異体を使って実験を行なった。しかし、これでも阻害 が引き起こされたため、 Cdk5 と p35 の結合そのものが Tyr15 のリン酸化の阻害の原因 ではないかと結論づけた。

(3). Tyr15 のリン酸化は Cdk5 の活性化機構ではない

Phos-tag SDS-PAGE を応用して、 in situ における Cdk5 の Tyr15 のリン酸化量を測定し たが constituve active の Fyn を共発現させてもその割合は 20% 程度であった。また、

Tyr15 をリン酸化させた Cdk5 と p35 の結合を p35 による immunoprecipitation で調べた が、 Tyr15 のリン酸化された Cdk5 と p35 の複合体は得られなかった。また、 Tyr15 の 偽リン酸化変異体を p35 と共に COS-7 細胞に共発現させ、 Cdk5 抗体で

immunoprecipitation し Histone H1 のリン酸化を基質として活性を測定したが、 Cdk5 活性の上昇は認められなかった。これらの結果から、 Tyr15 のリン酸化ほとんど起こ っておらず、また Cdk5 の活性化に関与していないと考えられた。

(4). チロシンキナーゼによる Cdk5 の活性化は p35 の安定化である

Fyn による Cdk5 の活性化を再検証した。 Fyn の kinase negative 、 wild type 、 constitutive active を Cdk5 、 p35 と共に COS-7 細胞に共発現させ、 Cdk5 活性を測定したが Fyn の活 性増加に依存して Cdk5 活性も増加した。このときの p35 の発現量に注目したところ、

p35 の発現量が Fyn の活性に依存して増加していた。また、合成阻害剤である Cycloheximide 処理により Fyn による p35 の分解への影響を調べたところ、 Fyn は p35 の分解を抑制していた。また、分解阻害剤である MG132 により Fyn による p35 の合 成への影響を調べたが影響はなかった。さらに、 Fyn 活性を変化させたときの Cdk5 の specific activity を計算してみると Fyn の活性による差はなかった。以上のことから、

COS-7 細胞強制発現系でのチロシンキナーゼによる Cdk5 の活性化は個々の活性化で

はなく p35 の安定化によるものであると考えられた。

(5). 神経細胞内における Cdk5 Tyr15 のリン酸化

これまでのほとんどの論文では、 Tyr15 のリン酸化抗体を用いている。よく使われて いる 2 つの抗体の特異性を Cdk5 の knock out マウスの初代培養神経細胞を使って調

べたが、 Lysate ではリン酸化 Tyr15 に対する特異的な反応は検出されなかった。その

ため、 Cdk5 抗体で IP を行ない特異性を得た。これまで報告のある Fyn 、 TrkB 、 EphA4 を活性化させる Sema3A 、 Eph-A1 、 BDNF 刺激を初代培養神経細胞に処理し、それぞ れのチロシンキナーゼを活性化させた。各経路が動いていることは確認できたもの

の、 Tyr15 のリン酸化、 Cdk5 の活性化は検出できなかった。また、 p35 の発現量の増

加も確認されなかった。しかし、 p35 の抗体による IP では Tyr15 のリン酸化した Cdk5

は検出できなかった。以上の結果から、神経細胞でも Tyr15 のリン酸化は Cdk5 活性

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化機構としては機能していないことが示された。また、これまでの多くの論文では、

抗体の特異性を信頼しすぎたために、誤った解釈をしていた可能性が示唆された。

3 審査の結果

Cdk5 の Tyr15 のリン酸化は Cdk5-p35 活性を上昇させると報告されていた。 Cdk5 の活 性化因子の共発現は Tyr15 のリン酸化を抑制すること、また、 Tyr15 のリン酸化した Cdk5 と p35 の複合体が検出できなかったことから、 Cdk5 の Tyr15 のリン酸化は活性化 機構ではないと結論づけた。さらに、チロシンキナーゼが引き起こす Cdk5 の活性化 が p35 の安定化によるものであることも今回の研究から明らかにした。近年定説化 しつつあった誤りを正した意義は大きく、このことは神経細胞の移動、神経回路形 成、シナプス活性など Cdk5 が制御している全ての脳機能の解明に大きな貢献をなす ものであり、高く評価される。よって本論文は十分に博士(理学)の学位に値する ものと判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定にしたがって、試験および試問を行った。公開の場で論文内容の審

査会を行い、生命科学専攻教員による質疑応答を行った。また、論文審査委員によ

り本論文および関連分野の試問を行った。その結果、専門分野及び外国語について

も十分な学力を有することを認め、合格と判定した。

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