1.はじめに
中学校理科学習指導要領(文部科学省、2008)では、単元「地層の重なりと過去の様子」に おいて、地層の広がり方の規則性を認識させる方法の一つとして地元のボーリングに関する資 料の利用を例示している。現在使用されている中学校理科教科書(岡村・藤嶋ほか49名、2011) でも具体的な地層の広がりを認識させる例として、大阪平野地下表層の構造をボーリング調査 の結果と合わせて掲載している。一方で地元の地層の広がりを認識させるために実施すべき野 外での地層観察が実施しづらい現状にある(例えば、 三次、2008)。このような現状において ボーリングに関する資料を利用した学習は特に有用だと考えられる。そのためさまざまな地域 で教材開発が進められている(例えば、宇佐美、2008;四方・田中、2012;川村、2014など)。 しかし、これらのボーリングに関する資料を利用した教材は、容易に他地域に進展しないこ とが予想される。その理由一つは、地層の多様性にある。地層の多様性が先行研究の他地域で の利用を阻むからである。さらに、利用できるボーリングに関する資料が身近にないなどの保 管の問題も大きい。また、ボーリングに関する資料の利用法そのものについて教員が必ずしも 理解していない現状がある(川村、2014)。このような諸課題の解決には、各地でボーリング に関する資料を利用した事例を一つ一つ開発していくしかない。 そこで今回、大阪市立自然史博物館のボーリング資料貸出システムを利用して入手したボー大阪平野沖積層中の海成粘土層を認識させる
ボーリング資料の教材化
吉
川 武
憲*
Developmental Teaching Materials of the Boring
Materials to Realize the Holocene Marine Clay Layer
in the Osaka plain.
(YOSHIKAWA Takenori)
*近畿大学教職教育部准教授 〔キーワード〕ボーリング資料、大阪平野沖積層海成粘土層、
リング柱状図やボーリング標本を用いて、大学生を対象に大阪平野沖積層中の海成粘土層を認 識させる実習を実施した。このボーリングに関する資料に着目した最大の理由は、大阪市立自 然史博物館が大阪市の公共施設建設の際に掘られたボーリングに関する資料の多くを集めてい るとともに、学校等の求めに応じて専門家の助言付きで貸し出していることから、大阪市内の 学校における汎用性が極めて高いと考えられるからである。 ここに掲げたボーリングに関する資料の活用法は、工夫次第で中・高校生対象にも十分活用 できる難易度だと考えられる。今回はその結果と問題点を紹介することで、大阪周辺の学校等 での利用促進につなげたいと考える。なお、本研究ではボーリング柱状図とボーリング標本を 合わせてボーリング資料とよぶこととする。
2.大阪平野沖積層のボーリング資料の教材化について
大阪平野沖積層教材化の意義 大阪平野沖積層は約2万年前(最終氷期最盛期)以降の堆積物であり、その層序は最下部の 礫層、下部の礫混じりの砂泥互層、中部の粘土層、上部の砂・泥層に区分される(三田村・橋 本、2004)。この層序は大阪平野の古地理変遷(図1、 大阪市文化財協会、2008)をよく反映 している。すなわち沖積層最下部は、最終氷期最盛期以降に現在の大阪平野東部にあたる古河 内平野や当時の淀川流域に堆積した河川域の堆積物(図11、2)、下部はその後の海進に伴 う汽水域の堆積物(図13)、中部はその後も継続した海進によって形成された河内湾の堆積 物(図14)、そして上部はその後の海退によって形成されたデルタや砂州および沼沢地の堆 積物(図15、6)に対応する(三田村・橋本、2004;増田ほか、2013)。 このうち大阪平野沖積層中部の海成粘土層(以後、海成粘土層とする)は、大阪平野に広範 囲に厚く分布する(梶山・市原、1972)。 その海成粘土層には、大阪層群全体に分布する海成 の堆積物に認められる石膏および硫黄の黄色粉(市原、1993)が析出している。この硫黄の黄 色粉は酸化環境下で析出することから、単体の硫黄結晶ではなく鉄みょうばん石などの硫酸塩 鉱物の可能性が高い。しかし確定的でないことから、ここでは市原(1993)同様に硫黄の黄色 粉とよぶことにする。これら石膏と硫黄の黄色粉はルーペ等による観察で発見可能である。ま た、海成粘土層の標準貫入試験値(N値)は0~5程度で、非常に軟弱である特徴をもつ。 上記のような特徴があることから、大阪平野各地のボーリング資料を用いれば海成粘土層の 対比が可能となり、地層の広がりを学習者自身に認識させることができる。また、このような図1 大阪平野の古地理変遷(大阪文化財研究所提供) 現在の近畿大学の位置(○印)を筆者が加筆。
軟弱な地盤が大阪平野に厚く分布することを認識させることは、地震に対する脆弱性の認識に つなげられる可能性をもつ。 教材化の概要 今回の実習では、近畿大学理工学部材料試験研究所新築の際に作成された近畿大学保有の ボーリング柱状図(図2)と、大阪市立自然史博物館が保有するボーリング資料のうち、鶴橋 図2 近畿大学直下のボーリング柱状図の一部 近畿大学理工学部材料試験研究所新築敷地土質調査(東京ソイルリサーチ、1983)に筆者が加筆。
中学校、大池中学校、北巽小学校、巽北住宅の4地点のボーリング柱状図(図3)とボーリン グ標本(図4)を利用する。実習ではこれらのボーリング柱状図から得られる情報と、ルーペ を用いた観察に基づく各地点のボーリング標本の粒度および石膏と硫黄の黄色粉の有無から海 成粘土層を識別させる。そして、この4地点と近畿大学がほぼ一直線上に位置していることか 図3 鶴橋中学校、大池中学校、北巽小学校、巽北住宅のボーリング柱状図の一部 大阪市立自然史博物館提供に筆者が加筆。
ら(図5)、ボーリング調査地点と近畿大学を結ぶ断面における海成粘土層の分布をグラフ化 させることを目的とする。 図4 ボーリング標本(鶴橋中学校) 図5 ボーリング調査地点と近畿大学の位置 デジタル標高地形図「大阪」(国土地理院)に加筆。 調査地点に比べて上町台地と生駒山地の標高が高いのがわかる。
3.研究の焦点
ボーリング柱状図に用いるN値は一般的に砂礫層では大きく泥層では小さい。特に本研究で 扱った柱状図では、海成粘土層のN値は概ね0である。このことから、大阪平野の古地理変遷 を理解しておれば、各地点のボーリング柱状図(図3)のN値の変化から調査地点における海 成粘土層の上面と下面の標高の見当をつけることができる。ただし、北巽小学校のN値の最上 部の記録が欠落しているため、ボーリング柱状図だけでは海成粘土層の上面の標高はつかめな い。また、鶴橋中学校では、標高 6m 付近に海成粘土層が非常に薄くしか存在しない。そのた め、 海成粘土層が挟まれる標高付近のN値は他より若干高い(図3)。 このことは鶴橋中学校 が現在の上町台地東側にあり(図5)、当時の河内湾西側の岸付近か河内湾の外の陸地であった ことを示唆する。これらから、北巽小と鶴橋中では識別が若干困難だと予測できるが、基本的 にはボーリング柱状図のN値の変化を利用して海成粘土層の分布を見当づけることが可能である。 このN値の変化を中心にして見当をつけた地層が海成粘土層だと決定づけるのが、ルーペに よるボーリング標本中の石膏と硫黄の黄色粉の有無の判定である。このうち石膏は針状もしく は粒状の無色透明の結晶としてボーリング標本表面に析出している(図61 )2 。そのうち針 状に析出する結晶は長さが 1mm ほどで特に微細な構造であることから、ルーペを用いて正確 に観察しなければ発見できない。一方、硫黄の黄色粉の析出状態はさまざまである。ボーリン グ標本の表面全体が黄色の粉をふいたようになることもあれば、黄色粉が集まって斑点状、あ るいは褐色の斑点の縁を囲む帯状(図62 )に析出することもある。斑点状や褐色の斑点の縁 を囲む場合は肉眼でも容易に判別ができるが、斑点の大きさや色の濃さは多様であることから 敢 柑 図6 ボーリング標本の表面に析出した石膏と硫黄の黄色粉 石井(2015)より転載。には針状の石膏の結晶が析出している。には粒状の石膏の結晶とともに 硫黄の黄色粉が析出している。文字と矢印は筆者が加筆。困難も予想できる。さらに、この2つの結晶の析出状態の観察にボーリング標本の粒度判定を 加えるが、観察時にはその粒度の砂粒等を実際に貼り付けた粒度表と直接比較させることから、 それほど大きな誤差は生じないと推測できる。以上から推測すれば、 本実習の成功の鍵は、 ボーリング標本の表面に見られる微細な石膏や多様な硫黄の黄色粉が発見できるかどうかにあ るといえよう。
4.ボーリング標本について
今回の実習に使用するボーリング資料は前述の4地点のものであるが、それぞれの地点では 複数本のボーリング孔が掘られている。同じ地点のボーリング資料は基本的に同様な結果を示 すが、ボーリング標本の採取深度に偏りがある。そこで本実習では、対象となる海成粘土層か ら多くの標本が採取された鶴橋中学校(1本)、大池中学校(3本)、北巽小学校(1本)、巽 北住宅(2本)の7本のボーリング資料を選択した。また、今回の実習では海成粘土層の識別 を目的とすることから、すべての地点で海成粘土層が含まれる標高が -20m 以浅のボーリング 標本のみを使用した。そして、 標高の高いものから順に鶴○―○(以下、「鶴○―○」のよう に表記する)のように標本番号を書いたラベルを、標本ケースにもともと記されている土質区 分(粒度と同義)の記載が隠れるように貼付した(図7)。 図7 ボーリング標本(右)と実習用に土質区分等の表示をラベルで隠したボーリング標本(左)5.実習について
対象者および実施時期 対象者は近畿大学の理工学部および薬学部に所属し、中学校・高等学校の教員免許(理科) の取得を希望しており、2016年度後期に「地学実験」を受講した2年~3年生(19人)である。 本実習は2016年12月上旬に実施した。 実習の内容 実習の主な学修内容と指導のポイントを表1に示す。学修内容3では、まず、約2万年前の 最終氷期最盛期には海水面が現在より 100m 以上低下しており、現在の近畿大学の位置が当時 の陸上部にあったことを理解させた(図11)。次に、その後の温暖化により海水面が上昇し (図12)、約9000年前には近畿大学の位置が当時の河内湾沿岸になっていることを理解させ た(図13)。さらに温暖化が進み、約6000~5500年前には近畿大学の位置が河内湾内になっ ていること(図14)、そして、その後の寒冷化による海水面低下と大和川による土砂の堆積 により、 近畿大学の位置が河内湾沿岸(図15)、河内湖周辺(図16)へと変化している ことを理解させた。この際、それぞれの年代にどのような堆積物が現在の近畿大学の位置に堆 表1 主な学修内容と指導のポイント 指導のポイント 主な学修内容 ○ボーリング資料の活用法を理解することが目的だと伝える。 ○学校現場では、ボーリング試料の活用が野外の地層観察に代わる 有効な教材となり得ることを伝える。 ○標本を大阪市立自然史博物館から借用していることを知らせ、学 校現場でも使用可能であることを認識させる。 ○図1を使い、大阪平野のなりたちを最終氷期最盛期以降の海水準 変動と関連付けて理解させる。 ○図2を使い、近畿大学の地下構造と最終氷期最盛期以降の海水準 変動を関連付け、層序の規則性を理解させる。 ○N値について説明し、海成粘土層が非常に軟弱であることを認識 させる。 ○課題が近大を通る断面における最終氷期最盛期以降に形成された 海成粘土層の分布を復元することだと伝える。海成粘土層を発見 する方法として、石膏および硫黄の黄色粉の特徴、ボーリング柱 状図のN 値、層序の規則性を利用することを強調する。 ○観察にはルーペを使用させる。適切にルーペが使用されていない 場合は、積極的に指導する。 ○教員が作成した本断面の海成粘土層の分布状況と自己の観察結果 を比較させ、その正確性を確かめさせる。最後に海成粘土層がで きた理由を図1と関連付けてまとめさせる。 1.学修の目的を理解する。 2.ボーリング調査の概要と標本 について知る。 3.大阪の地下構造のなりたちに ついて理解する。 4.近畿大学の地下構造を、ボー リング柱状図を基に理解する。 5.課題の内容と方法を知る。 6.ボーリング標本を観察し、海 成粘土層の分布をまとめる。 7.自己の観察の正確さを確認す る。積するかをまとめさせた。 学修内容4では、近畿大学のボーリング柱状図(図2)を利用し、学修内容3が近畿大学直 下の地下構造に反映していることを理解させた。具体的には、標高 -14.85m 以下に図1の1 ~2当時の古河内平野の地表面を構成する砂層があり、標高 -14.85m から -7.25m まで河内 湾内で堆積した海成粘土層、その上位が順に河内湾周辺の砂層、 河内湖周辺の泥層、 盛土に よって構成されていることである(図2)。 さらに、河内湾等の規模からすれば、大阪平野周 辺他地域においても、この海水準変動に伴う堆積物が残されていることを理解させた。また、 ボーリング柱状図にはN値が示されており、これが地層の軟らかさを示す尺度であることを伝 え、堆積物の違いによりN値が変化することや河内湾に堆積した海成粘土層のN値がほぼ0で あることなどを読み取らせ、N値が河内湾の海成粘土層の識別に利用できることを理解させた。 学修内容5では、鶴橋中学校、大池中学校、北巽小学校、巽北住宅のボーリング標本の観察 を通して、鶴橋中~近大~生駒山地の断面における河内湾の海成粘土層の分布状態をグラフ化 することが本時の課題であることを伝えた。そして、海成粘土層の上面と下面の標高はN値の 変化に着目することで概ね見当をつけることができるが、その確定には海成堆積物に析出する 石膏と硫黄の黄色粉を発見することが必要であることを図6の写真(対象者にはカラーで提示) を見せながら説明した。説明では石膏については針状もしくは粒状で無色透明の結晶であるこ と、硫黄の黄色粉の析出状態はさまざまであるが、ボーリング標本の表面が黄色の粉をふいた ように見えることを口頭で説明したうえで、図6を見せて褐色の斑点のふちにできた帯状の 黄色の部分が硫黄の黄色粉であることを伝えた。 学修内容6では、各自で4地点のボーリング柱状図のN値の変化に基づいて海成粘土層の見 当をつけさせてから、ルーペを使ってボーリング標本を観察させた(図8)。 粒度の識別は、 前時に作成した粒度表を利用しながら実施させ、 その結果はボーリング柱状図の粒度の空欄 (図3)に記入させた。 また、石膏もしくは硫黄の黄色粉が発見できた場合は、 粒度を記した 欄に丸印をつけさせた。その後、その結果に基づいて本断面における海成粘土層の分布状態を グラフ化させた(図8)。なお、 近大~生駒山地についてはボーリング標本がないため、図1 を参考に推測するよう指示した。 学修内容7では、各自で作成した海成粘土層の分布状態を示すグラフと筆者が作成したグラ フを比較させ、観察の正確さを確かめさせた。その際、大池中学校付近で海成粘土層下面が谷 状に凹み、そこから鶴橋中学校に向けて急激に上昇していることに着目させた。そしてこのよ
うな結果になるには、鶴橋中学校の観察が成否の鍵となることを告げた。その理由として、鶴 橋中学校のボーリング標本には海成粘土層が標高 6m 付近から採取した1個の標本中の一部し か存在せず、それを正確に発見できる観察力が求められること、さらにその付近のN値は海成 粘土層を含んだ周辺の海成砂層も一緒に測定していることから若干他の海成粘土層より高めに なっていることを説明した。このような形状で海成粘土層が堆積した理由を図1を参考に推測 させ、大池中学校付近の海成粘土層下底面の谷状の凹みが古河内平野の河川の流路に当たるこ とや、鶴橋中学校が上町台地東側に位置することに気づかせた。
6.結果および考察
目的とする海成粘土層を含むボーリング標本は4地点計7本のボーリング標本中9個ある。 筆者の観察等で得たその特徴と学生による石膏もしくは硫黄の黄色粉の発見状況をまとめたの が図9である。図9の特徴内に記した石膏の析出状態の判断基準は、ボーリング標本表面の最 も多く析出した部分を観察した際にルーペの視野に何個程度の石膏の結晶が発見できるかで、 1 ~2個程度を「極稀」、5 ~10個程度を「稀」、11~20個程度を「普通」、それ以上を「多」 とした。また、硫黄の黄色粉については、黄色粉の密度が大きく明瞭に確認できる場合を「明 瞭」、密度が小さく肉眼やルーペを使っても見えづらい場合を「不明瞭」とした。結晶が発見 できない場合は「無」とした。 図8 ルーペによる観察の様子と本実習で学生が作成した海成粘土層の分布状態を示すグラフの例 例示したグラフは、今回観察した範囲においてほぼ正確な値を示したものである。ただし、北巽 小学校地下の海成粘土層上面の標高は高くなりすぎている。図9の結果をみると、 ボーリング標本「大43」は全員(5人中5人)が海成粘土層の特 徴を発見できたが、それ以外は発見率が60%以下で、特に「住13」と「住23」の発見率 は20%以下と低い。今回の実習では、海成粘土層の特徴のどちらか一つでも発見した層準に丸 印をつけさせたことから、学生が石膏もしくは硫黄の黄色粉のどちらの特徴を発見できたかは 区別できないが、石膏が「多」のレベルに存在し、 硫黄の黄色粉が存在しない「住13」と 「住23」の発見率が著しく低いことから、現在の観察法では石膏の発見率の低さが課題の一 つといえる。この原因は石膏結晶が無色透明でしかも針状の結晶が特に微小であるため、ルー ペを使っても発見しづらかったと推測できる。 また、硫黄の黄色粉についても同様である。石膏が「極稀」にしかなく、判断基準が硫黄の 黄色粉の有無に偏ると推測できる標本の中で、硫黄の黄色粉が明瞭な「大32」と「北25」 の発見率がいずれも50%程度しかない。褐色部がボーリング標本の表面に広範囲に広がり、そ の周囲の黄色の帯がとらえづらい場合や、泥が明るい色調で黄色粉との対比が十分できない場 合、黄色粉の析出密度が小さいため色が薄くて見えづらい場合などがあることから識別しづら かったと推測できる。今後の課題として、石膏の結晶を明確に発見できる観察法の工夫ならび 標本番号 鶴1-6 砂混泥(淡黄灰色+黄褐色) 石膏(極稀) 硫黄の黄色粉(やや不明瞭) N 値7 特 徴 写 真 発見状況 8/19 (42%) 大2-2 泥(灰色) 石膏(極稀) 硫黄の黄色粉(やや不明瞭) N 値0 3/5 (60%) 大3-2 泥(濃灰色) 石膏(極稀) 硫黄の黄色粉(明瞭) N 値0 5/9 (56%) 大4-3 泥(灰色+黄褐色) 石膏(多) 硫黄の黄色粉(明瞭) N 値0 5/5 (100%) 北2-4 泥(灰色) 石膏(普通) 硫黄の黄色粉(明瞭) N 値0 6/19 (32%) 標本番号 北2-5 泥(灰色) 石膏(極稀) 硫黄の黄色粉(明瞭) N 値0 特 徴 写 真 発見状況 7/19 (37%) 北2-6 泥(濃灰色) 石膏(稀) 硫黄の黄色粉(明瞭) N 値0 8/19 (42%) 住1-3 砂混泥(灰色+黄褐色) 石膏(多) 硫黄の黄色粉(無) N 値0 1/9 (11%) 住2-3 砂混泥(灰色+黄褐色) 石膏(多) 硫黄の黄色粉(無) N 値0 2/10 (20%) 図9 海成粘土層を含むボーリング標本の特徴、写真および対象学生の発見状況 特徴には筆者の観察で得た海成粘土層の粒度と色調、2 つの鉱物の析出状態、N値を示す。発見状況の上 段は発見者の数/対象学生数、下段は発見率を示す。写真中の標本ケースの直径は 4cm。
に硫黄の黄色粉については多様な析出状態を適切に識別できる観察の視点を与える工夫が必要 だといえよう。
7.観察法の改善に向けて
観察法の改善 ここでは、大阪市立自然史博物館の石井陽子学芸員の助言を参考に、本実習において課題と して残された石膏および硫黄の黄色粉の観察法の改善について述べる。 石膏の結晶は無色透明で微小であることから、ここでは蛍光灯などの白色の光を強く当てる 観察法を提案する(図10)。 図10 LED ライトとの距離を 5cm 程度にして観察した場合と 50cm 程度離した場合の針状の石膏の結晶の見え方の比較 の2本の矢印の先に針状の石膏がみえる。結晶の長さは約 1mm。 の丸破線はで2本の石膏結晶がみえた場所を示す。また、硫黄の黄色粉の析出状態は多様で、筆者が明瞭だと判断したにもかかわらず発見率が 低い標本(図9、「大32」)もあったことから、今後は硫黄の黄色粉の典型的な析出状態を 示した写真(図6)をみせるだけでなく、図6の写真の褐色部が広範囲に広がることで、そ れを囲む黄色の帯が見えづらくなることを図示したり、堆積物そのものの色調により黄色が見 えにくくなる場合があることを口頭で説明したりすることが必要だと考えた。 追加実習の結果および今後の課題 本提案の有効性を実証するために、2016年12月下旬に追加実習を実施した。追加実習の対象 学生は近畿大学理工学部に所属する4年生7名で、第1回目の対象者とは別である。追加実習 では第1回目の実習と同様な説明をした後、石膏については LED ライトに近づけて観察する ようにだけ付け加えて同様な観察を実施させた(図11)。 今回は参加人数の関係で、 観察させ たボーリング標本は4本で、そのうち海成粘土層の特徴を含むボーリング標本は6個である。 この結果、海成粘土層の特徴の発見状況は表2のようになった。今回は海成粘土層の特徴と してどちらの結晶を発見したか書かせたことから、海成粘土層だと判断した根拠が読み取れる。 石膏の発見状況については、ボーリング標本「住13」の発見率は50%を超える程度では あるが、最初の実習での発見状況と比較して改善は顕著である(表2)。 また、硫黄の黄色粉 が発見できなかった者でも、石膏の発見で海成粘土層だと判断できた学生もいた。この結果か ら、本観察法が石膏の結晶の発見率向上に有効だと推測できる。今後の実践で実証させたい。 硫黄の黄色粉の発見状況については、 硫黄の黄色粉の析出状態がやや不明瞭である「大2 2」は全員が発見できた。しかし、「鶴16」の発見状況が芳しくなかったり、「住13」の 図11 LED ライトにボーリング標本を近づけてルーペで観察している様子
ように硫黄の黄色粉が析出していないにもかかわらず発見したとする学生がいたりするなど、 課題は依然として残された。硫黄の黄色粉の多様な析出状態を写真で見せるなど、さらに具体 的な観察の視点をもたせる必要性が明らかになった。
8.おわりに
地層の広がりを認識させる手立てとして、大阪市立自然史博物館が貸し出しているボーリン グ資料を用いた実習を実施した。この結果、依然不十分な点はあるが海成粘土層の特徴である 石膏および硫黄の黄色粉の発見率向上につながる教材化への足がかりを得ることができた。こ の海成粘土層の特徴を明確に認識できる手立てを構築できれば、中学生程度でも十分教材にな ると考えられる。今後の課題としたい。 さらに大阪平野のボーリング標本中にはN値が0~5程度の海成粘土層が広く存在する。こ れは大阪平野の地震に対する脆弱性を認識させることができる優れた教材だと考えられる。次 期南海トラフ地震や予測不可能な直下型地震に備えての防災意識の向上につながる理科授業の 構築も必要だと考えられる。この点についても今後積極的に教材化していきたい。 謝 辞 本研究を練り上げる上で、石井陽子大阪市立自然史博物館学芸員にはさまざまな有益な助言 をしていただいた。そして、近畿大学理工学部4年の柳井祐香さん、道越統一さん、西村良介 表2 第1回目の実習と追加実習の石膏と硫黄の黄色粉の発見状況の比較 住13 北26 北25 北24 大22 鶴16 多 稀 極稀 普通 極稀 稀極 石膏 存在 状況 硫黄の黄色粉 やや不明瞭 やや不明瞭 明瞭 明瞭 明瞭 無 1/9 (11%) 8/19 (42%) 8/19 (37%) 6/19 (32%) 3/5 (60%) 8/19 (42%) 最初の実習での 発見状況 4/7 (57%) 5/7 (71%) 7/7 (100%) 7/7 (100%) 7/7 (100%) 5/7 (71%) 発見状況 追 加 実 習 4 4 6 7 2 2 石膏 内 訳 ( 人 ) 2* 5 6 5 7 4 硫黄の黄 色粉 2 2 0 0 0 2 なし *はボーリング標本中に存在しない結晶を発見した学生の数 発見状況の上段は、発見した人数/対象学生数、下段は発見率を示す。さん、山中勇輝さん、山本 大さん、上島孝介さん、菊池伸一郎さんには忙しい中追加実感に ご協力いただいた。また、大阪文化財研究所には快く大阪平野の古地理図の掲載許可をいただ いた。以上の方々にこの場を借りて感謝申し上げる。 引用文献 市原 実(1993):大阪層群.創元社,340p. 石井陽子(2015):「博物館所蔵ボーリング標本から探る平野地下の地層:貸出教材の開発によ る地学教育支援」調査研究報告書.大阪市立自然史博物館,99p. 梶山彦太郎・市原 実(1972):大阪平野の発達史―14C年代データからみた―.地質学論集, No.7,101112. 川村寿郎(2014):理科学習における地質ボーリング標本の活用.宮城教育大学紀要,48,105 111. 増田富士雄・中川要之助・坂本隆彦・伊藤有加・櫻井皆生・三田村宗樹(2013):大阪平野沖 積層の天満砂州堆積物:その分布と層位.堆積学研究,72,115123. 三田村宗樹・橋本真由子(2004):ボーリングデータベースからみた大阪平野難波累層基底礫 層の分布.第四紀研究,43,253264. 三次徳二(2008):小・中学校理科における地層の野外観察の実態. 地質学雑誌,114,149 156. 文部科学省(2008):中学校学習指導要領解説 理科編.大日本図書,149p. 岡村定矩・藤嶋 昭ほか49名(2011):新しい科学1年.東京書籍,240p. 大阪市文化財協会(2008):大阪遺跡.創元社,286p. 四方優貴・田中里志(2012):学校現場に眠る貫入試験資料に見られる火山ガラスとその教材 化.フォーラム理科教育,No.13,1117. 東京ソイルリサーチ(1983):土質調査報告書―近畿大学理工学部材料試験研究所新築敷地土 質調査―. 宇佐美 徹(2008):ボーリングコアを利用した地層の学習―身近な大地のおいたちをさぐる ―.フォーラム理科教育,No.9,1520.