シンガポールの開発援助政策の展開
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(2) 130 (600). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 特徴を踏まえ,主体機関別に援助を二つに大別. 済主任アドバイザー(Chief Economic Advisor). し,各援助プログラムについて考察する.最後. として迎えている.シンガポールの援助に関与. に,シンガポールの援助政策に残されている研. した複数の国際機関の中でも,とりわけ国連開. 究課題を指摘する.. 発計画の活動を高く評価していたことが推察さ. Ⅰ シンガポールの対外援助に関する動向. れる. 日本からの援助については,1954 年に資金. 1.援助受入国期. 協力および技術協力が開始した.後述する援. シンガポールは,宗主国イギリスから自治権を. 助(シ ン ガ ポール 協力 プ ロ グ ラ ム)の 20 周. 獲得した 1959 年前後から,国際機関および他の先. 年記念 イ ベ ン ト の 基調演説 で シ ン ガ ポール. 進国による援助を受けてきた(表 1) .1969 年ま. 外 務 大 臣 は,「国 際 協 力 機 構( JICA:Japan. での 10 年間でシンガポールへの援助に関与し. International Cooperation Agency,以下 JICA. た専門家が所属した国際機関は,9 機関であっ. とする)から 1980 年代に得た相当の技術援助. た.すなわち,国際連合食糧農業機関(FAO:. によって工業生産性を増加させることが可能と. Food and Agriculture Organization) ,国際労働. 3) なった」 と日本の援助に言及しているが,同. 機関(ILO:International Labor Organization) ,. 年代に他の外国および国際機関からの援助が存. 国 際電気通信連合( I T U : I n t e r n a t i o n a l. 在する中で,JICA の援助(技術協力)のみが. Telecommunication Union ),世界保健機関. 指摘されているという事実から,日本からの援. (WHO:World Health Organization) , 国際連合. 助が少なからず同国に影響を与えたということ. 教育科学文化機関(UNESCO:United Nations. は否定できない.. Educational, Scientific and Cultural Organization) , 国際連合工業開発機関(UNIDO:United Nations. 2.援助供与国期. Industrial Development Organization) ,国連貿. 1990 年代に入り,シンガポールは援助国に. 易開発会議( U N C T A D : U n i t e d N a t i o n s. 転じ,政府が実施している援助は二つに大別さ. Conference on Trade and Development) ,アジ. れる(表 2).各援助の詳細については後述す. ア開発銀行(ADB:Asia Development Bank) ,. るので,ここでは主体機関の如何を問わず共通. 世界銀行(World Bank)で あ り,国連 の 全専. 事項,以下 4 点を指摘する.. 門機関の半分が関与したことになる.シンガ. 第一に,本格的な対外援助の開始時期は,政. ポールに対する国際機関の注目度があっただけ. 治的要素と関連している.表 2 の各開始年辺り. ではなく,これらの機関を受け入れる社会体制. は,アジアの経済成長を牽引するシンガポール. が既に確立されていたことが考えられる.. の存在感が定着している時期ではある.しかし,. これらの機関の中でも最初にシンガポールに着. 各年とも,その前に政治的リーダーの世代交代. 手した国際機関は,国際連合開発計画(UNDP:. が行われた時期と重なっていることは否定でき. United Nations Development Programme)で. ない.1990 年には,独立時の 1965 年から 25 年. あった.そ し て 同機関 の 実態調査等 を 踏 ま え. 間,同国の初代首相を務めたリー・クアンユー. て,経済成長の要となる組織として経済開発庁. (LEE Kuan Yew)が首相の座を退いて上級相. (Economic Development Board)が 1961 年に設. 4) (Senior Minister, Prime Minister’s Office) とな. 立された.なお,シンガポールは,国連開発計. り,ゴー・チョクトン(GOH Chok Tong)が第二. 画に所属して調査を実施したオランダの経済学. 代首相 と なった.ま た,2004 年 に は,初代首. 者ウィネセミウス氏(WINSEMIUS Albert)を,. 相の長男であるリー・シェンロン(LEE Hsien. その後 25 年間にわたってシンガポール政府経. Loong)が第三代首相となり,ゴー前首相が上.
(3) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (601) 131. 表 1 シンガポールの援助受け入れの変遷(1959 年~1998 年) 日本の関与. 国際機関. Ⅰ 1959 年以降:自治権獲得後の援助受入国期 【1954 年】 有償・無償資金協力および技術協力が開始. 1)国連食糧農業機関,2)国際労働機関 3)国際電気通信連合,4)世界保健機関 5)国連教育科学文化機関,6)国連工業開発機関, 7)国連貿易開発会議,8)アジア開発銀行, 9)世界銀行. Ⅱ 1970 年代:技術集約型産業への移行期 【1972 年】 有償資金協力が終了 Ⅲ 1980 年代:知識集約型産業への移行期 【1985 年】 無償資金協力が終了 Ⅳ 1990 年代:援助国への転換期 【1998 年】 技術協力が終了 出所:シンガポール協力プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg/content/scp/news_events/scp-20th-anniversaryevent/keynote)より筆者作成 .. 表 2 シンガポールの対外援助(実施機関別) シンガポール協力プログラムによる援助 (Singapore Cooperation Program). シンガポール協力公社による援助 (Singapore Cooperation Enterprise). 年. 1992 年. 2007 年(2006 年に設立). 政府担当機関. 外務省. 1)外務省 2)貿易産業省. 開. 始. 内. 容. 技術協力. 援助受入国の要請に基づく研修・ コンサルティング・調査等. 分. 野. パブリックガバナンス,行政,経済,貿易,環境, 都市計画,航空,都市交通,港湾管理,教育, 情報コミュニケーション技術,医療. 公的部門における全ての分野. アジア太平洋,アフリカ,中東,東欧,中南米. 中東,アフリカ,アジア,欧州,中南米. 170 か国・80,000 人 (各年約 300 案件・7,000 人). 非公表. 対 象 地 域 (参考文献掲載順) 実. 績. 数. 形. 態. 特. 徴. 1)シンガポール単独実施 2)他国或いは国際機関との連携実施 ASEAN 地域に重点を置く. 都市インフラマネジメントを推進. 出所:シンガポール協力公社のウェブサイト(http://www.sce.gov.sg/aboutUs.asp) ,Naresh(2011)p. 150~152 より筆者作成 . 注)担当部局に照会したが公表できない旨の返答があった箇所は非公表とした.. 級相となっている5).. 第二 に,各政府機関 に 分散 し て い た 対外援. 以上の点を踏まえると,シンガポール協力. 助の体制を改善するような組織改編を重ねて. プログラムによる援助(1992 年に開始) ,シン. き た こ と で あ る.シ ン ガ ポール 協力 プ ロ グ. ガポール協力公社による援助(2007 年に開始). ラ ム( Singapore Cooperation Program )が. とも,首相が交代した後の 2~3 年内に開始さ. 東南 ア ジ ア へ の 取組 み に 力 を い れ る 一方. れ,政治的リーダーの交代と共に援助政策が本. で,グ ローバ ル 化 が 加速 す る 2000 年代後. 格化していると言えよう.. 半以降,シ ン ガ ポール 協力公社(Singapore.
(4) 132 (602). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 6) Cooperation Enterprise) は,各省庁間 の 枠. ている通り,援助開始からわずか 5 年弱で既に. を超えて横断的に援助に取組んでいる.同公. 対象地域が世界全地域に及んでおり,後述する. 社は,外 務 省( Ministry of Foreign Affairs. (表 8)通り,各地域で援助の課題に特徴が見. Singapore)および貿易産業省(Ministry of. られる.同国がそれまでの援助に関する知識・. Trade and Industry Singapore)をまたがる組. 経験を踏まえた実績の結果であるとも考えられ. 織として 2006 年に設立されたが,僅か 6 年後. る.. の 2012 年には大幅な組織改革がなされ,シン ガポール国際企業庁(International Enterprise. 3.先行研究と本稿の位置づけ. Singapore)に統合された.シンガポール国際. シンガポールが対外援助を本格的に実施する. 企業庁 は,2002 年 ま で は 貿易産業省傘下 の 貿. ようになった 20 年間について,援助受入国か. 易開発庁(Trade and Development Board)と. ら援助供与国へと成長した経験・実績に関する. して知られていたが,シンガポールの企業のグ. 先行研究は,援助の実態について公開されてい. ローバル化を支援するために同年に改名され組. る情報が極めて少ないという共通認識がある.. 織が再編された.貿易開発庁の設置 30 周年に. 佐藤(2007)は,「シ ン ガ ポール は 技術協力. あたる 2011 年に先立って,前年にシンガポー. の実績や予算に関するデータの開示がなされ. ル協力公社が同庁に統合されたことになる.世. ず,援助を扱う当局の担当者或いは関連する研. 界経済のグローバル化に伴い,援助を担当する. 究者への聞き取り,インターネットからの情. 組織についても再編が重ねられている.. 報収集,および JICA や国際協力銀行(JBIC:. 第三に,シンガポールの対外援助は,資金協. Japan Bank for International Cooperation,以. 力ではなく技術協力に特化している点に特徴が. 下 JBIC とする)をはじめとする日本側関係者. あ る.シ ン ガ ポール 外務省技術協力局 の 局長. への聞き取りが中心的なデータ収集方法となっ. (Technical Cooperation Directorate, Ministry. た」と述べている9).佐藤が言及しているこれ. of Foreign Affairs)が「人的資源 の キャパ シ. らのデータ収集方法は,聞き取り調査の場で回. ティビルディングは,シンガポールによる援助. 答を得ることができ,回答の回収率が極めて高. の重点分野の一つである」と述べている通り ,. くなろう.. 援助がなくとも持続可能な発展を担う人材を育. 佐藤の上記収集方法に加え,担当各省庁の担. 成するために,シンガポールは自国の経験で. 当部署へアンケートを実施した調査が国際開発. 培ってきた技術或いは知識を途上国に伝える援. センター(2011)である.同開発センターは,. 助を実施している.国民経済の規模に対する援. 日本の外務省の委託を受け,シンガポールの新. 助の大きさ(対 GNI 比)で見ると,シンガポー. 興ドナーとしての対外援助政策の実施概要を明. ルは確かに低い.しかし,援助受入国および国. らかにすることを目的として,援助効果マネジ. 連開発計画がシンガポールの援助内容を高く評. メントについての質問票,予算や実績に関する. 価していることを指摘しておきたい8).資金面. 情報の公開も担当機関に依頼した.しかし,佐. のみで援助の貢献度を測りランキングを競うと. 藤と同様に回答を得ることは出来ず,「政策的. いう方法は,シンガポールの場合に適切ではな. な配慮から情報公開に制約があるか,或いはシ. いとも考えられる.. ンガポール外務省および同省が実施する援助プ. 第四に,各地域別に援助ニーズが把握され,. ログラムにおける対外援助の予算や実績に関す. 対象地域が既に世界全地域に及んでいる.都市. 10) る情報が一元化されていないと推測される」. インフラのマネジメントを推進することに特徴. と言及している.また,評価報告・年次報告等. があるシンガポール協力公社による援助が示し. も得ることが出来なかったことから,「国民へ. 7).
(5) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (603) 133. の説明責任を果たすモニタリング・評価の体制. 発展および人材開発に関する経験および技術に. は整っていない」としている.. ついて対外的に共有するという目的の下,シン. 同様に,元インド政府高官ナレシュ(Naresh). ガポール協力プログラムを設立し援助プログラ. 教授は,シンガポールの援助を高く評価してい. ムを開始させた.以来,図 1 が示すように,プ. る国連開発計画から研究成果を発表(2011 年). ログラムへの参加者数は順調に増加している.. したが,援助関連情報の体系的整備および管理. 毎年約 7,000 人の政府関係者が訓練を受けてお. についての言及は見られず,また,数値に関す. り,年間で実施されるプログラム数は 300 程度. るデータは,1993 年から 2010 年までの援助プ. で あ る.20 年間 で,80,000 人 の 政府関係者 が. ログラム参加国数に限定されている.. シンガポールの経験・技術を共有したことにな. ところで,2009 年にシンガポールで第 8 回. り,参加者の出身国,すなわち同プログラムの. 政 府 開 発 援 助( ODA:Official Development. 対象国は,アジア太平洋,アフリカ,中東,東欧,. Assistance)評価ワークショップが開催. 11). され. 中南米の地域に及ぶ 170 か国となった(Naresh. た. ここでは, 日本側は援助政策評価のアプロー. 12) 2011, p. 150) .. チについて,第一に将来の開発政策による介入. シンガポールはリーマンショックの影響を受. を向上させる,第二にその結果を関係するすべ. け,2009 年第一四半期 に は,独立以来初 め て. てのステークホルダーに提供する,という目的. の大幅なマイナス成長(実質 GDP 成長率マイ. のために援助政策の評価をするべきであると言. ナス 8.9%)を記録したが,同年後のプログラ. 及した(外務省 2009: p. 4).このように日本. ム参加者数は何ら影響を受けてはいない.過去. の援助に対するアプローチの前提には,援助関. 20 年で参加者数は 80 倍になったが,近年では. 連情報を一元的・体系的に整備し管理すること. 増加数の大幅な上昇は見られない.. がある.しかし,ホスト国シンガポールを代表 したシンガポール国立大学東アジア研究所所長. 1.援助対象地域. ウォン・ジョン(WONG John)教授は特にこ. シンガポール協力プログラムはこれまでに世. の日本の言及にはコメントを残さなかった(外. 界全地域を対象としているが,とりわけ東南ア. 務省 2009: p. 7) .. ジ ア 諸国連合(ASEAN:Association of South‐. 公開されているデータおよび情報が限定的で. East Asian Nations,以下,ASEAN とする). あることを踏まえると,シンガポールでは対外. 加盟国に力点を置いていることに特徴がある.. 援助に関する予算や実績という数値情報データ. 同プログラムの開始 20 年を記念した式典(2012. ベースを公開することについての重要性が高く. 年)で は,シャン ガ ム(Shanmugam)外務大. ないと推察される.しかし,援助の実態や背景. 臣 が そ の 基調演説13)に て,ASEAN 地域内 の. にある考え方に関する客観的な情報は極めて乏. 発展の重要性を度々強調している.. しいものの, 本稿では, 現在公表されているデー. 同域内諸国に対しては,パブリックガバナン. タ・情報を集約・整理し,考察を加えるにとど. ス,行政,経済,貿易,環境,都市計画,空港,. まるだけでも,今後の援助政策の在り方を検討. 都市交通,港湾管理,教育,情報コミュニケー. する上では一定の意義があると考える.. ション技術,医療の多岐にわたる分野について. Ⅱ 援助の功績 1 シンガポール協力プログラム. 取組んでおり,シンガポール国内外を問わずそ の活動の場を置いている.発表された数値では,. シンガポールが最初に対外援助への取組を本. ASEAN 地域 の 出身者 は 50,000 人以上(2012. 格化したのは,ほぼ 20 年前の 1992 年である.. 14) 年の 11 月末時点) .同プログラム参加者累積. シンガポール外務省は,自国が培ってきた経済. 数 80,000 人 の 約 6 割強 が ASEAN 地域 の 出身.
(6) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 134 (604). 年. 年. 参加人数 (人). 参加人数. 1993. (人). 849. 1993 849 (千人) 1994 1,699 1994 1,699 90 1995 2,633 1995 2,633 80 80 4,169 80 75 19961996 4,169 6,225 19971997 6,225 68 70 1998 8,642 62 1998 8,642 11,787 60 55 19991999 11,787 15,943 49 20002000 15,943 50 20,525 42 20012001 20,525 25,144 36 20022002 25,144 40 30 29,990 20032003 29,990 30 25 2004 35,849 2004 35,849 21 42,149 16 20052005 42,149 20 12 48,585 20062006 48,585 6 9 10 4 20072007 55,030 55,030 1 2 3 20082008 61,717 61,717 0 20092009 68,446 68,446 20102010 75,442 75,442 20122012 80,000 80,000 20132013 80,000 80,000 出所:参考文献 Naresh(2011)及びシンガポール外務省 HP より筆者作成. 出所:参考文献 Naresh(2011)及びシンガポール協力プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg)より筆者作成 .. 図1. 図 1 シンガポール協力プログラムへの参加者累積数の推移(1993 年~2013 年). シンガポール協力プログラムへの参加者累積数の推移(1993 年~2013 年). 者であることから判断しても,シンガポールが. ポールの援助国には見られない研修センターが. ASEAN 地域に重きを置いていると言えよう 参加者. 設置され,そこでは英語,貿易・金融,情報・. (図 2) .. ASEAN 地域. その他. 総数. 通信技術・観光についての研修プログラムが実. 50,000 人 30,000 人 に後れて 80,000 人 人数 また,1990 年代半ば以降に ASEAN. 施されている(Naresh 2011, p. 153).. 15) 構成比 63% 38%Cambodia, 100% 加盟 した CLMV 諸国(カンボジア. 同センターが設置されている場所は,①プノ. ラ オ ス Laos,ミャン マー Myanmar,ベ ト ナ ム. ンペン(カンボジア),②ヤンゴン(ミャンマー),. Vietnam の 4 か 国 の 頭文字 を と り CLMV と 呼. ③ビエンチャン(ラオス),④ハノイ(ベトナ. ぶ)については,ASEAN 統合イニシアティブ. ム)の 4 か所である.ヤンゴン以外は全て一国. (Initiative for ASEAN Integration)と い う 協力. の首都であるが,これらの設置都市は,各国で. その他 枠組みを通して技術援助を実施している.この. 人口規模が大きい都市であるという点で共通し. 38% 年 11 協力枠組みは,2000 月に開催された第 4 ASEAN. 回 ASEAN 非公式首脳会議地域 に て,同会議 で 議. 63% 長を務めた当時のシンガポール・ゴー首相によ. ており,人的資本への投資を重視することを背 景に人口が集中する都市が選択されたと考えら れる.また,研修センターには,シンガポール. り 提起 さ れ た.援助 を 通 し て ASEAN 地域内. 政府職員も講師として派遣されており,プログ. の格差を是正し(具体的には原加盟 6 ヶ国と後. ラムに対するフィードバックを CLMV 政府お. 発 CLMV 諸国との開発ギャップを是正) ,地域. よび研修参加者から入手するだけに留まらない. 全体の発展につながることを目的としている. 出所:シンガポール外務省ホームページより筆者作成.. ことも考えられる.. なお,同センターにて研修を受けた参加者数 諸国には,他のシンガ 図 2これを受けて,CLMV シンガポール協力プログラム参加者の出身地域(2012 年). -2-.
(7) 図1. シンガポール協力プログラムへの参加者累積数の推移(1993 年~2013 年). シンガポールの開発援助政策の展開(越野). 参加者 総数 人数 参加者 50,000 30,000 人 80,000 人 ASEAN 地域 人 その他 総数 63% 38% 構成比 100%. ASEAN 地域 人数 構成比. 人 数. CLMV 諸国. その他. その他の (605) 135 ASEAN 地域 ASEAN 総数. 33,000 人 17,000 人 その他の CLMV 諸国 ASEAN 66% 34%. ASEAN 地域 総数. 50,000 人. 30,000 人. 80,000 人. 人 数. 33,000 人. 17,000 人. 50,000 人. 63%. 38%. 100%. 構成比. 66%. 34%. 100%. 構成比. その他 38%. その他の ASEAN 34%. ASEAN. 地域 63%. 出所:シンガポール協力プログラムのウェブサイトより 筆者作成.. 50,000 10. CLMV 諸国 66%. 出所:Naresh(2011)より筆者作成.. 出所:シンガポール外務省ホームページより筆者作成. 図 2 シンガポール協力プログラム参加者の出身 図 3 ASEAN 統合イニシアティブ参加者の出身国 出所:Naresh(2011)より筆者作成. 地域(2012 年) (2012 年). 図2. シンガポール協力プログラム参加者の出身地域(2012 年) 図3 ASEAN 統合イニシアティブ参加者の出身国( 表 3 主要分野・課題別に見る援助実績(シンガポール協力プログラムの場合) 人的資本開発. 経済開発. パブリックガバナンス,行政,教育,情報コミュ 経済,貿易,環境,都市計画,空港,都市交通, 表 3 主要分野・課題別に見る援助実績(シン ニケーション技術,医療 港湾管理,. -2-. 出所:シンガポール協力プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg/content/scp/about_ us)より筆者作成.. 人的資本. パブリックガバナンス、行政、教育、. 経済、貿. は,33,000 人である(図 3) .シンガポール協力. 経済,貿易,環境,都市計画,空港,都市交通, 情報コミュニケーション技術、医療. プログラムの参加者数 80,000 人の中,ASEAN. 港湾管理,出所:シンガポール協力プログラムのホームページ 教育,情報コミュニケーション技術,. 地域出身者 は 50,000 人程度で全体の 63% を占. 医療と多岐に及んでおり,定期的に相手国の発. める.さらに,その ASEAN 地域出身者の約 7. 展レベルに併せてプログラムの内容を調整して. 割が CLMV 諸国出身者であることから判断し. いる16)(表 3).. て も,研修 セ ン ターへ の 参加者数,す な わ ち. これらの各分野・課題について,シンガポー 表 4 シンガポール第三国研修プロ. CLMV 諸国の参加者は,シンガポール協力プ. ル協力プログラム上の構成比率をシンガポール. ログラムにおいて圧倒多数を占めていると言え. 開始年 外務省に照会したものの,「公表できる内容は. る.. 全てホームページに掲載しており,掲載してい 1993. 2.分野・課題別取組み プログラムが対象とする分野は,人的資本開 発分野および経済開発分野である.ASEAN 諸 国については,パブリックガバナンス,行政,. 都市交通. パート. 韓国、 日 ノルウ 1996 でありデータの開示はなされなかった. タイ、ルク 1997 もっとも,シャンガム外務大臣による基調演 17) カナ 1998 説(2012 年) では, 「シンガポール協力プロ オースト 2000 グラムが得意とする課題は,①行政,②経済開 フラ 2001 2004 E ヨル 2007 中国、ハ 2008 カタ 2010 ないものは公表できない」との回答を得ただけ 1994. 出所:シンガポール第三国研修プログラムの.
(8) 136 (606). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 発,③港湾管理,④空港,⑤水資源管理,の 5. 実施する援助について反映されている.. 点であり,これらについての技術協力を実施し. 援助タイプは,①研修タイプ,②現地視察タ. てきた」との発言がある.この発言から判断す. イプ19),③ シ ン ガ ポール へ の 大学留学 タ イ プ. ると,同プログラム上においてはこれらの 5 課. (ASEAN 諸国出身者 の み)の 3 タ イ プ に 大別. 題の構成比率が高いことが推察される.. される.本稿では,プログラムが ASEAN に. さ ら に,ナ レ シュは, 「シ ン ガ ポール 協力. 重きを置いていることを踏まえ,同地域のみを. プログラムの重要課題は,①パブリックガバ. 対象とする③の援助について述べる.. ナンスおよび②行政である」と指摘している. 同援助プログラムは,シンガポールスカラー. (Naresh 2011, p. 151) .そして,それらの具体. シップ(Singapore Scholarship)と 呼 ば れ て. 的なプログラムコースとして,1) 「パブリック. おり,英語で教育を受け,シンガポールの生活. ガバナンスと行政」 ,2) 「財政ガバナンス」 ,3). も 体験 で き る.ア ジ ア 金融危機 の 最中,1998. 「公務員向け生産マネジメント」 ,4) 「行政にお. 年 に 開催 さ れ た 第 6 回 ASEAN 首脳会議 に. け る IT 活用」 ,5) 「気候変動 と 持続可能 な エ. て,当時のシンガポール・ゴー首相により発表. ネルギー管理」 ,6) 「災害マネジメント」を挙. さ れ,以後現在 ま で 550 人 が 奨学生 と なった. げている. 前者 3 コースについては, シンガポー. (Naresh 2011, p. 154).このスカラーシップの. ルのオリジナリティが強調され,後者 3 コース. 特徴は,次の 3 点である.. については,公共サービスに付加価値を加える. 第一 に,奨学生 は ASEAN 加盟国出身者 に. ために新規に取り入れた内容である旨が強調さ. 限定されている.シンガポール協力プログラム. れている.. が ASEAN 地域に重きを置いていることは言. シンガポール協力プログラムに関するキー. うまでもないが,人的資本を形成する根幹とな. パーソンたる両者の発言に共通して触れられて. る教育にまでその徹底ぶりが及んでいる.同地. いる課題が行政であることから,援助プログラ. 域からの奨学生については,各国ごとに異なる. ムが人的資本分野における行政官の能力向上支. 詳細な条件が決められており20),有望な人材の. 援に強みがあることは確かであろう.. みをターゲットに育成したいというシンガポー ル側の意図がうかがえる.. 3.援助の形態. 第二に,奨学生は,シンガポールにある 3 校. シンガポール協力プログラムをその形態に. の国立大学21)から 1 校を選択することになる.. より,⑴ シンガポールが単独で実施するもの,. シ ン ガ ポール は,2000 年代初頭,頭脳流出 を. ⑵ 地域 あ る い は 他国(国際機関・二国間)と. 防いで優秀な人材を世界中から確保することを. 協力して実施するもの,に大別して,その内容. 目的として,欧米の著名大学の分校をシンガ. を考察する.. ポール国内に設置することを優遇していた22).. ⑴ シンガポール単独の援助. 同状況下 で は,世界有数 の 大学教育 を シ ン ガ. 天然資源に恵まれないシンガポールは,独立. ポールで受けられるとあれば,奨学生がこれら. 当初から経済成長の源泉として人的資本への投. の大学を選択することも考えられる.しかし,. 資を重視してきた.徹底した二言語政策,欧米. シンガポールスカラーシップの場合,奨学生に. 諸国の一流著名大学を誘致する政策等,人材育. はこれらの著名大学を選択できる余地は全くな. 成政策とも言える教育政策は,国家予算上,国. く,あくまでもシンガポールの国立高等教育機. 防に次いで第 2 位で 2 割強を占めている .そ. 関から知識等を学ぶということに徹底してい. して,この人材を重視する政策は対外援助につ. る.選択校では,医学部を除いて,学部レベル. いても現れており,特にシンガポールが単独で. で建築や法律を 3~4 年をかけてフルタイムで. 18).
(9) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (607) 137. 学ぶことが可能となる.. 開始年別(表 4)及び地域別(表 5)に示した.. 第三に,奨学生は,シンガポールに留学後,. これらの表からは,次の二点が指摘できる.. 必ず出身国に帰国して出身国の発展に貢献する. 第一に,シンガポールは,第三国研修に比較. ことが条件となっている.第一および第二の特. 的早期に着手している.同研修の母体となるシ. 徴と併せると,シンガポールで享受した知識を. ンガポール協力プログラムの開始が 1992 年で. ASEAN 諸国に持ち帰って反映させることを目. あ り(表 2),翌年 に は 同研修 の パート ナー国. 的としていると言っても過言ではないであろ. として韓国及びドイツと研修を実施し,翌々年. う.なお,シンガポールスカラーシップの奨学. には日本もパートナー国となっている.シンガ. 生が帰国後に如何なる分野で活躍しているかに. ポールとパートナー国との二国間関係が良好で. ついては関心のあるところではあるが,本稿の. あると同時に,援助開始時には,プログラムに. 執筆に辺り調査を依頼したが未だ回答は得られ. ついての共通認識が多々存在していたことが考. ていない.. えられる.. ⑵ 他国或いは国際機関と共同で行う援助(三. なお,そのパートナー国数に反映されるごと. 角協力). くプログラム内容は一様ではないことは当然で. ⅰ 他国との共同実施. はあるが,先述したシンガポール協力プログラ. 他国 と 共同 で 行う技術協力は,シンガポー. ムが得意とする課題以外には観光業関連を主要. ル 協力 プ ロ グ ラ ム に お け る 第三国研修 プ ロ. 課題とする内容25)も存在している.シンガポー. グ ラ ム( TCTP:Third Country Training. ルの援助実績および貢献が第三国研修にどのよ. Programme)の下で実施しており,これは三. うに活かされているかについては今後検討すべ. 角協力(Triangular Cooperation)に該当する.. き課題であろう.. 三角協力とは,1970 年代に国連システムの中. 第二に,パートナー国を地域別に検討すると,. で確立した援助であり,その背景には,援助国. 欧州およびアジア・大洋州が圧倒多数である.. と援助受入国の間に存在する文化摩擦等を回避. また,同地域には,援助開始の早期に着手され. することがあった.. た国である韓国,日本,ドイツが含まれており,. 2013 年 6 月時点 で,シ ン ガ ポール と 共同 で. これらの地域はシンガポールの援助に対する方. 技術協力を実施する国(以下,パートナー国と. 針が類似し,且つ交渉がスムーズに進む地域で. する)は,①オーストラリア,②カナダ,③中国,. あると推察される.. ④ EU,⑤フランス,⑥ドイツ,⑦ハンガリー,. もっとも,シンガポールを植民地としていた. ⑧日本,⑨ヨルダン,⑩韓国,⑪ルクセンブル. 英国は,EU に含まれてはいるものの,フラン. ク,⑫ノルウェー,⑬カタール,⑭タイの 14 か. ス,ドイツ,ハンガリー,ルクセンブルクのよ. 国23)あ る.EU 加盟国 28 か 国 の 中 で,単独 で. うに,単独でパートナー国となるには未だ至っ. パートナー国となっている国(フランス,ドイ. ていないことは検討する余地があろう.. ツ,ハンガリー,ルクセンブルク)を除いても,. また,今後はパートナー国として中南米を検. パートナー国総数は 38 か国になる.日本はシ. 討することが期待される.アジアにて援助を. ンガポールよりも早く 1970 年代半ばから三角. リードしてきた日本は,これまでに同地域では,. 協力に着手しているが,そのパートナー国とし. チリ(1999 年),ブラジル(2000 年),アルゼ. て締結している国は僅か 12 か国である24).シン. ンチン(2001 年),メキシコ(2000 年)と三角. ガポールが三角協力に極めて積極的であると言. 協力について既に署名・開始を実施した(外務. えよう.. 省 2013, p. 3‒17).援助について日本から学ん. シンガポール第三国研修のパートナー国を,. だことが多々あるというシンガポールが日本に.
(10) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 138 (608). 表 4 シンガポール第三国研修プログラム(開始年別) 開始年. パートナー国. 1993. 韓国,ドイツ. 1994. 日本. 1996. ノルウェー. 1997. タイ,ルクセンブルク. 1998. カナダ. 2000. オーストラリア. 2001. フランス. 2004. EU. 2007. ヨルダン. 2008. 中国,ハンガリー. 2010. カタール. 出所:シンガポール第三国研修プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg/content/ scp/training)から筆者作成 . 注)開始年とはプログラムを開始した年である.開始数年後に署名するパートナー国もある .. 表 5 シンガポール第三国研修プログラム(パートナー地域別) 地域(国数). パートナー国(プログラム開始年). 欧州(6). ド イ ツ(1993),ノ ル ウェー(1996),ル ク セ ン ブ ル ク(1997), フランス(2001),EU(2004),ハンガリー(2008). アジア・大洋州(5). 韓国(1993),日本(1994),タイ(1997),オーストラリア(2000) 中国(2008),. 中東(2). ヨルダン(2007),カタール(2010). 北米(1). カナダ(1998). 出所:シンガポール第三国研修プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg/ content/scp/training)から筆者作成 .. 追随することも考えられ,また今後は太平洋を. のである26).1994 年から 2013 年 3 月までの累積. 取り囲む国々で様々な規制が取り払われて移動. 実施コース数は 329 件,これまでに 93 ヶ国・地. が容易になることを見込むと,パートナー国と. 域の約 5,650 名に対する研修をしており27),その. して中南米を検討することは否定できない.. 実績 は ①第三国集団研修28)(一般研修),②地. ⅱ 日本との三角協力. 域別研修,③国別研修の三つに大別される(表. シンガポールは,1994 年に日本と援助に関. 6) .. するパートナーシップ・プログラムを締結(図. なお,シンガポールが得意とする協力プロ. 4)す る こ と で 合意 し,1997 年 に『21 世紀 の. ジェク ト の 具体例 を 6 つ 先述 し た が 29),同具. た め の 日本・シ ン ガ ポール・パート ナーシッ. 体例 の 中 で 4 点(表 6 の 主要活動実績名 の 太. プ・ プ ロ グ ラ ム( JSPP21:Japan-Singapore. 字箇所)が日本との三角協力に該当している.. Partnership Program for the 21st Century) 』. また,表 6 で主要活動が実施されている国は,. に署名した.同プログラムは,JICA とシンガ. ASEAN が半数以上を占め,シンガポールと日. ポール外務省技術協力局が,共同で途上国に対. 本との三角協力は,ASEAN 地域に力点が置か. して第三国研修を通して技術協力を実施するも. れている..
(11) ヨルダン(2007)、カタール(2010) カナダ(1998). 中東(2) 北米(1). 出所:シンガポール第三国研修プログラムのホームページから筆者作成.. シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (609) 139. 日本 資金援助,技術移転. 技術協力. 途上国. シンガポール. 経験・知識の蓄積. 出所:Naresh(2011)より筆者作成 . 出所:シンガポール第三国研修プログラムのホームページより筆者作成.. 図 4 シンガポールと日本の三角協力. 図4 シンガポールと日本の三角協力 表 6 『21 世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム』の主要活動実績 『21 世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム』(1994 年~ 2013 年) 累積実施コース数:329, 実施国・地域:93 ヶ国・地域, 参加者数:約 5,650 名 主要活動実績名 表 種 類 6『21 世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム』の 「シンガポールの経済開発経験」「IT 産業育成のための基盤整備」「交番システム」「マ 主要活動実績 1.第三国集団研修 (一般研修). ラッカ・シンガポール海峡における航路標識」「感染症防止のための能力開発」「気候 変動,エネルギーと環境」. 『21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム』 (1994年~2013年) 1)アセアン諸国「都市災害における捜索救助」 ,2)CLMV 諸国「持続的な観光のた 実施国・地域:93ヶ国・地域、 参加者数:約5,650名 累積実施コース数:329、 めの環境計画」,3)アフリカ諸国「ガバナンス」 ,4)中東地域「ビルサービス技術」. 2.地域別研修. 種類 3.国別研修. 1)カンボジア「ニーズとアプローチの適合性評価」,2)ラオス「航空英語」,3)ミャ 主要活動実績名 ンマー「知的財産権」,4)ベトナム「電子政府開発」. 1.第三国集団研修 「シンガポールの経済開発経験」「IT産業育成のための基盤整備」「交番システム」 出所:JICA 資料から筆者作成 . 「マラッカ・シンガポール海峡における航路標識」「感染症防止のための能力開発」 (一般研修) 「気候変動、エネルギーと環境」 1)アセアン諸国「都市災害における捜索救助」、2)CLMV諸国「持続的な観光の 2.地域別研修 ための環境計画」、3)アフリカ諸国「ガバナンス」、4)中東地域「ビルサービ ス技術」 ムの参加国・人数を参考にすると(表 6),参 ⅲ 国際機関と共同で行う三角協力 1)カンボジア「ニーズとアプローチの適合性評価」、2)ラオス「航空英語」、 3.国別研修 加国数には大差はないが,参加者数は約 2 割程 シンガポールと三角協力を実施している国際 3)ミャンマー「知的財産権」、4)ベトナム「電子政府開発」 30). 機関を開始年別に表 7 に示す.全体で 17 機関 出所:JICA資料から筆者作成.. 度である.国連開発計画との第三国研修につい. あるが,開始年が 90 年代後半から 2000 年代初. ては,1 国からの参加者は少数に留まっている.. 頭に集中している.この時期は,シンガポール 首相が交代した時期であり,首相交代と同時に. -4-. 4.援助の特徴. グローバル化に対応するために様々な戦略が新. 前述した内容から,シンガポール協力プログ. たに策定された時期でもある.. ラムの対外援助について次の 4 点の特徴を指摘. これらの機関の中でシンガポールがその協力. できよう.. 関係を強調している三角協力は,シンガポー. 第一に,シンガポールの援助には,有償資金. ル・国連開発計画第三国研修 プ ロ グ ラ ム で あ. 協力はない.日本では,途上国に対し,低金利. る. もっとも 1992 年の開始から 2011 年までに,. で返済期間の長い緩やかな条件で資金を貸付け. 同研修プログラムへの参加国・人数は,86 ヶ. る援助形態,すなわち円借款と呼ばれる有償資. 国・1,200 人(Naresh 2011, p. 154) .ほ ぼ 同時. 金協力がある.かつてシンガポールはこの円借. 期に開始している日本との第三国研究プログラ. 款を活用した.日本からの援助によって様々な.
(12) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 140 (610). 表 7 国際機関とのシンガポール第三国研修(開始年別) 年代. 開始年. 1990 年代. 1991. ・アジア開発銀行(ADB:Development Bank) ・国際連合児童基金(UNICEF:United Nations Children’s Fund). 1992. 国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme). 1996. ・世界銀行(World Bank) ・世界貿易機関(WTO:World Trade Organization). 1997. ・国連 ア ジ ア 太平洋経済社会委員会(ESCAP:Economic and Social Commission for Asia and the Pacific) ・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund) ・世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization). 1998. 国際海事機関(IMO:International Maritime Organization). 2000. 国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency). 2001. ・国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organisation) ・国際連合地域開発センター(UNCRD:United Nations Centre for Regional Development). 2002. 世界保健機構(WHO:World Health Organization). 2009. ・アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation) ・ASEAN 事務局(ASEC:ASEAN Secretariat). 2010. アジア都市開発イニシアチブ(CDIA:Cities Development Initiative for Asia). 2013. 国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development). 2000 年代. 国際機関名称. 出所:シンガポール第三国研修プログラムのウェブサイト(http://www.scp.gov.sg/content/scp/training)から筆者作成.. ことを学んだシンガポールは,同様の援助形態. 地域のみならず他の地域も含めた複数地域にま. として有償資金協力を取り入れることもでき. たがって,援助プログラムを実施する可能性は. た.しかし,シンガポール外務省は, 「技術に. 否定できない.例えば,シンガポールが東南ア. 対する援助こそ,適切な経済成長を導く効果的. ジアとアジア太平洋地域の安全と平和および環. な方法である」ということを日本から学んだと. 境保全に取組む重要性を強調していることか. 指摘しており,有償資金協力という援助形態は. ら推察すると,ASEAN と共に,次には太平洋. とっていない .. 地域 の 島嶼国 を 重要地域 に 含 め,小島嶼開発. 第二に,同プログラムの対象地域は全世界に. 途上国技術協力 プ ロ グ ラ ム(SIDSTEC: Small. 及んではいるが,基本的には自国がメンバーと. Island Developing States Technical Assistance. なっている ASEAN の加盟国に重きを置いて. Programme)に力を入れることも考えられる.. いる.グローバル化が加速することに対応して. これらの対象となる島国は 38 か国32)であり,. 様々なことに取り組んでいることで有名なシン. 太平洋,アフリカ地域,中米地域に存在するが,. ガポールではあるが,援助国としては,まずは. 2010 年で既に 37 か国から 6,000 人の政府関係. 地域的役割を重視していると言えよう.これ. 職員が同協力プログラムに参加した.このプロ. は,シンガポールが資源を持たない小国である. グラムは,現地にて実施される技術協力とは異. 故に,その繁栄を維持し,国家の安全を脅かさ. なり,基本的33)には毎年シンガポールで 50 件. ないためには,宗教・文化等が異なる近隣諸国. ほど開催され,内容は,他の協力プログラムの. との良好な友好的関係を構築し維持することに. 内容と同様の研修プログラムの他,専門会議,. 努めていると言っても過言ではない.. セミナー,ワークショップにも及んでいる.今. もっとも,今後の展開においては,ASEAN. 後,太平洋地域におけるシンガポールの動向に. 31).
(13) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (611) 141. 注視する必要があろう.. 援助について忘れたことはない.現在は,その. 第三に,上記の第二点目の特徴とも関連する. 国際社会に貢献すると同時に,常に我々が実施. ことであるが,三角協力のパートナー国および. する援助からも学びたいと考えている」.国際. パートナー国際機関の数およびその特徴から判. 社会へ貢献するという援助理念は,自国の発展. 断すると,シンガポール協力プログラムが外交. 過程の中で築かれたことは言うまでもない.. 政策の一環として実施されている.実際,シャ. しかしながら,国際社会貢献あるいは技術協. ンガム外務大臣は,シンガポール協力プログラ. 力については,シンガポール外務省の予算にお. ムの開始 20 周年記念イベントにて,そのよう. いて明確に計上されていない.そこで,シンガ. に述べており34),今後の重点地域に注目すべき. ポール 予 算 概 観( Singapore Budget Expenditure. である.. Overview)において,外務省に対する予算の重. 第四に,シンガポールには日本の JICA のよ. 点政策たる三本柱に注目したい.. うな独立した援助実施機関はなく,シンガポー. 予算は三点に焦点を絞り算出されている.す. ル外務省が援助政策の企画・立案・実施という. なわち,①地域内および国際機関を通じての外. 機能を担っている.援助プログラムに関する情. 交活動を展開すること,②シンガポールが建設. 報・データが同省で一元的に管理・対応され,. 的なパートナーであるという国際認識を強化す. それらに基づいて今後の援助活動が一層期待さ. ること,③迅速かつ効果的な領事サービスを国. れる一方で,対外的に公開される情報が極めて. 民に提供すること,である.そして,②の箇所. 限定的であることに対する打開策は,今後検討. でシンガポール協力プログラムについて次の言. すべき課題であると言える.. 及がある.すなわち「シンガポール外務省に対 する予算は,途上国がシンガポール協力プログ. 5.援助理念. ラムによって開発目標を達成することを支援す. シンガポール協力プログラムに見る援助理念. るため,グローバル市民として技術援助を提供. について,ナレシュ(2011)は,諺「人に魚を. することを目的とする」ということである36).. あたえてしまえば,その日,その人は食にあ. ここでは,国際社会貢献という明示はないもの. りつける.人に魚の採り方を教えれば,その. の,グローバル市民としてその活動の幅を広げ. 後の生活において,その人は食にありつける」. る方針は明らかであり,グローバリゼーション. (Naresh 2011, p. 151)を 引用 し,こ の こ と が. の深化に即した援助にシフトしていると言える.. 資金協力ではなく技術協力に特化したシンガ. シンガポールの援助が単なる国際社会に対する. ポールの既存の援助に反映されていると指摘し. 社交辞令的な意味合いに留まるのではない.. ている.本稿では,前述したシンガポール協力. なお,1959 年にイギリスから自治権を獲得し. プログラムの特徴および援助に関するキーパー. てシンガポール自治州となった後,最初にシン. ソンの発言. ガポールに取組んだ国際機関は,国連開発計画. 35). を踏まえて,次の 2 点を挙げる.. ⑴ 国際社会貢献. であった.同機関は,外務大臣が指摘する通り,. シンガポール国際協力プログラム 20 周年に. 途上国から先進国への変貌を牽引した要として. シャンガム外務大臣が発信したメッセージの中. 称賛されている経済開発庁の基盤をつくった機. に次の内容がある. 「1992 年にはシンガポール. 関であり,そのような国際機関へ貢献したいと. はある程度発展をしており,同年に国際社会に. いう意図が背景にあることは否定できない.. 貢献することを目的として国際協力プログラム. また,国連開発計画の他,シンガポールが独. を開始した.その後もシンガポールは順調に発. 立後 10 年間に多大な恩恵を受けたと指摘する. 展し続けているが,過去に国際社会から賜った. 国際機関は,表 1 に明記した 9 機関が指摘され.
(14) 142 (612). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). ている.これらの国際機関の中で,三角協力の. ことも厭わないとしている38).. パートナー機関となっている機関は 4 機関(世 界保健機構,国連貿易開発会議,アジア開発銀. 1.援助対象地域. 行,世銀)ではあるものの,これらの国連専門. 2013 年 6 月時点 で 公表 さ れ て い る シ ン ガ. 機関としての専門性は,現在のシンガポールが. ポール 協力公社 の 実績 を 地域別 に 作成 し た 表. 得意とする分野と一致している.. 8・9 に 基 づ き,地域別構成 を 図 5 に 示 す.こ. ⑵ 先行投資. れら図表からは,次の三点が明らかである.. シンガポールは,シンガポール協力プログラ. 第一に,対中国が圧倒的に多い.確かに,中. ムによって他国を援助することが,自国に対す. 国には発展途上の段階にある地域が多々あり,. る援助たる投資ともなりえると考えている.資. シンガポールが積極的に援助に取り組むことは. 源のない小国は,国際関係においては受け身. 当然である.しかしながら,シンガポールは人. (price taker)であり,不安定な環境の下で繁. 口構成の約 8 割を華人系が占めており,これら. 栄を維持することが困難だという状況を回避し. の人口が中国語(中国共通語)の他に,中国方. なければならない.ASEAN 地域全体を自国と. 言語をその先祖のルーツによって不自由なく使. 同様に捉え,その地域全体が上手く機能し,国. 用することを考慮すると,現地で援助をしてい. 際的な投資の対象となり繁栄することが重要課. く上で言語等の支障がなく,援助構成比が高く. 題となる.ASEAN 地域重視型の同プログラム. なることも否定できないであろう.. は, その課題に対応するための先行投資であり,. 第二に,アジア地域についての実績は僅か. 自国に還元される利益を見込む援助でもあると. 4 か 所 の み で 少 な い.こ れ は,シ ン ガ ポール. 言えよう.. 協力公社による援助の特徴でもあると同時に,. Ⅲ 援助の功績 2 シンガポール協力公社. ASEAN 地域へ積極的に援助をしていくという 姿勢を見せていた前述のシンガポール協力プロ. 2006 年 に,外務省 と 貿易産業省 の 2 省 を. グラムとの相違点でもある.同公社による援助. またがる国際協力のための組織として,シン. 開始時期は,シンガポール協力プログラムより. ガ ポ ー ル 協 力 公 社( Singapore Cooperation. 14 年遅れていた.既にその開始時期には,協. Enterprise)が設立された.もっとも,設立僅. 力プログラムによって,ASEAN 地域への援助. か 6 年後の 2012 年には,加速するグローバル. プログラムは一通り確立されていたために,協. 化に伴いシンガポール国際企業庁37)に統合さ. 力公社 は ASEAN 以外 の 地域 で 援助 が 手薄 と. れて再構築されている.したがって,現在は,. なっている地域へ着眼点を移行させたと考えら. 同国 の 15 省 お よ び 60 の 法定機関(Statutory. れる.. Board)が連携して活動している.なお,本稿. 第三に,第一の点とも関連するが,中国各地. の考察の対象は 2012 年までの援助実績である. に次ぎ,中東地域への援助件数が多い.シンガ. ことに鑑み,以下,シンガポール協力公社によ. ポール協力プログラムでは,これらの地域に対. る援助と呼称する.. する援助は僅か 2 件である.同プログラムで重. 同公社は,プログラム,顧問業務,プロジェ. 視された ASEAN 地域は,平均 3~4 時間でア. クト等を実施し,シンガポール政府が培ってき. クセス可能な地域である.一方で,シンガポー. た経験とノウハウを提供するが,コンサルタン. ル協力公社が数多く援助する中東地域は,比較. ト料を取る点に特徴がある.各々の国のニーズ. 的アクセスに時間を要するにも拘わらず全体の. に合わせて活動し,各活動課題に必要性がある. 30% を 占 め る(図 5).ま た,同地域 は 世界有. 場合には,様々な業務に民間部門から参加する. 数の資源が豊富であり,資源を持たないシンガ.
(15) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (613) 143. 表 8 地域別に見る援助実績(シンガポール協力公社の場合) 中東(9 か所:15 件) アブダビ. ・研究訪問(①観光開発,土地登記関連,②労働力開発,③元犯罪者向けリハビリ) ・行政サービスの顧問業務. バーレーン. ・バーレーン労働基金向け労働力・企業開発 ・行政サービスを対象とする人的資源に関する顧問業務 ・インフラ開発戦略・実行計画 ・港湾登記. ドバイ. ・政府金融部門の職員研修 ・対ドバイ国家経済開発庁シンガポール中小企業向けセミナーおよびワークショップ. リビア. 対リビア国家経済開発庁シンガポール中小企業向けセミナーおよびワークショップ. オマーン. 資本市場向け金融顧問業務. カタール. カタール財務省に対する金融政策・システム等の構造改革. イラク. 共同研究訪問(イラク高等司法会議職員向け国連開発計画). サウジアラビア. ・研究訪問(都市計画に関する政府投資当局) ・都市プロジェクト・マスタープラン顧問業務. シャルジャ. 金融部門向け公的金融管理研修. アフリカ(5 か所:8 件) ガーナ. 工業・経済地区向けマスタープラン顧問業務. モーリシャス. 土地開発プロジェクト向けマスタープラン顧問業務. ナイジェリア. 都市計画開発研修. ルワンダ. ・労働力開発および公的部門のキャパシティビルディング ・社会保障基金改革 ・空港業務 ・マスタープラン顧問業務. タンザニア. 研究訪問(電子政府および司法行政における情報通信技術の利用に関する研修). アジア(4 か所:4 件) ブータン. 電子政府関連の研修および顧問業務. インド. ムンバイについてのマスタープラン顧問業務. 東ティモール. 研究訪問(歳入関連の課税等). ベトナム. 研修・研究訪問(建設省およびホーチミン市人民委員会). 欧州(2 か所:2 件) ロシア. 研究訪問(観光・投資促進,ハイテク分野等関連の政府高官). カザフスタン. シンガポール公的サービス行政に関する研究論文. 中南米(1 か所:4 件) ブラジル. ・マスタープラン顧問業務 ・コンサルタント企業のパフォーマンス管理についての顧問業務 ・青少年交換プログラム ・青年公務員プログラム. 中国(14 か所:17 件)*詳細は表 9 1)中国市長会,2)大連,3)仏山,4)広東,5)江蘇,6)吉林,7)南通,8)公共政策プログラム地域,9)山東,10)深セン, 11)蘇州,12)唐山,13)天津,14)湛江 出所:シンガポール協力公社の Portfolio より筆者作成 .. ポールにとって,環境が異なる同地域に貢献す. ポールの援助が国際的に高い評価および信頼性. る知識・経験はある程度限定的であろう.これ. を得ているということは言うまでもない.. らの条件にも拘わらず,表 8 が示す援助の依頼 が中東地域から多数くるということは,シンガ.
(16) 表7. 国際機関とのシンガポール第三国研修(開始年別). 年代. 開始年 国際機関名称 1991 ・アジア開発銀行(ADB:Development Bank) 1990 144 (614) 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月) ・国際連合児童基金(UNICEF:United Nations Children’s Fund) 年代 1992 国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme 表 9 中国に見る援助実績(シンガポール協力公社の場合) 1996 ・世界銀行(World Bank) 援助実績 中国の 対象地域 援助形態 ・世界貿易機関(WTO:World分 野 Trade Organization) 研究訪問(市長対象) 都市開発,緑化政策,環境保護,エネルギー保全,公共住宅および 1997 ・国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP:Economic and Social 1)中国市長会 公共交通 the Pacific)、 研修プログラム(地方公務員対象) 行政,対外投資管理,都市計画・開発,人的資本管理,統合経済管理, 2)大連 ・国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund) 物流管理 ・世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Orga ・研修プログラム 都市管理,緑化政策,コーポレートガバナンス 3)仏山 ・研究訪問 ・国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP:Economic and Social 研究訪問 お よ び 研修 プ ロPacific) グ ラ ム 教育,キャパシティビルディング the 4)広東 (技術・職業教育機関の校長および 1998 国際海事機関(IMO:International Maritime Organization) 教員対象) 2000 国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency) 2000・研修プログラム 工業団地管理,環境保全,物流管理 5)江蘇 年代・研究訪問 2001 ・国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organis 6)吉林 研修プログラム 食の安全,都市計画・開発 ・国際連合 地 域 開 発 セ ン タ ー ( UNCRD : United Nations C 7)南通 (記述なし) 工業団地計画・管理 Development) 8)公共政策プログラム 研究訪問 (市長および党幹部対象) 都市開発,コミュニティ計画・開発,タウンシップ計画,公共住宅 2002 世界保健機構(WHO:World Health Organization) 地域 および公共交通 2009 ・アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Coopera 9)山東 研修プログラム 労働力 ・ASEAN事務局(ASEC:ASEAN Secretariat)、 10)深セン 研修プログラム 交通管理,水分管理,環境保全,都市緑化対策 2010 アジア都市開発イニシアチブ(CDIA:Cities Development Initiati 工業団地計画・管理,物流管理,財務管理,社会コミュニティ開発・ 11)蘇州 研修プログラム(地方公務員対象) 管理易 開 発 会 議 ( UNCTAD : United Nations Confere 2013 国 際 連 合 貿 12)唐山 (記述なし) 行政,経済特区顧問サービス Development) 13)天津 14)湛江. ・研修プログラム 出所:シンガポール第三国研修プログラムのホームページから筆者作成. ・研究訪問(都市および地方当局 コミュニティ管理,都市計画,環境保全,緑地政策 対象) 研究訪問. 都市管理,環境管理,港湾管理. 出所:シンガポール協力公社の Portfolio より筆者作成 .. 34%. 中国 8%. 中南米 4%. 欧州. 8%. アジア. 16%. アフリカ. 30%. 中東 0%. 10%. 20%. 30%. 出所:シンガポール協力公社の Portfolio より筆者作成.. 図 5 地域別に見る援助実績(構成比). 図 5 地域別に見る援助実績(構成比). 40%.
(17) シンガポールの開発援助政策の展開(越野). (615) 145. 表 10 主要分野・課題別に見る援助実績(シンガポール協力公社の場合) 対象地域 中近東. 人的資本開発. 経済開発. 行政,元犯罪者更生. 観光,インフラ開発,港湾管理,金融,都市計画. 行政(情報通信サービス含む),労働力開発. 経済,土地開発計画,空港,都市計画. アジア. 行政. 都市計画. 欧 州. 行政. 中南米. 行政,コミュニティ管理,教育. アフリカ. 中 国. 行政,労働力開発,教育. 観光,投資,ハイテク分野 (記述なし) 経済,環境,都市計画,港湾管理,工業団地開発,公共住宅, 公共交通. 出所:シンガポール協力公社の Portfolio より筆者作成 .. . 2.分野・課題別取組み. 4.援助の特徴. シンガポール協力公社の援助は,全ての分野. 前述した内容から,シンガポール協力公社の. を対象としている(表 2) .先述したシンガポー. 対外援助については,次の 2 点が明らかである.. ル協力プログラムと同様に,これらの分野を地. 第一に,同協力公社の援助には,シンガポー. 域ごとに人的資本および経済開発分野に大別す. ル協力プログラムで救い上げられなかった地域. る(表 10) .. および課題が集中している.とりわけ都市計. 対象地域によって課題数に隔たりがあるもの. 画・管理については,アーバンソリューション. の,人的資本分野は行政について,経済開発分. (都市問題解決策)の観点からは,長期的な経. 野は都市計画・管理についての課題が大半を占. 済成長を実現する上で必須課題であり,都市国. めていることに特徴がある.援助対象地域とも. 家シンガポールが得意としてきた分野である.. 関連することであるが,援助実績は,とりわけ. 援助対象地域,開始時期および課題内容から判. 都市部が抱える課題への援助に特化している.. 断すると,途上国の発展レベルにもよるが,都. 後述するように,都市計画・管理に関する課. 市化の速度が著しく,都市特有の問題がある程. 題については,世界銀行が「シンガポールの経. 度顕在化してきた地域をシンガポール協力公社. 験・ノウハウは途上国に極めて有用である」と. が対応する構図が見受けられる.シンガポー. 高く評価している.そして,2009 年に,シン. ルが世界で生き残る策について,「加速するグ. ガポールの経験・ノウハウを世銀の活動にも. ローバル化に対応するために,高付加価値を提. 活用するため,同国に「世銀・シンガポール・. 供することを優先課題として,その価値を常に. アーバンハブ」 (World Bank-Singapore Urban. 見直しており,それは外国人投資家および対外. Hub)というパートナーシップが設立された.. 市場を抜きには考えられない」 (Naresh 2011, p. 83)との指摘を踏まえると,同指摘は援助に. 3.援助の形態. ついても適用されている.言い換えれば,シン. シンガポール協力プログラムと同様に,単独. ガポール協力プログラムでは対象とならなかっ. あるいは国際機関とパートナーを組み実施す. た地域及び課題についても,協力公社では高付. る. 研究訪問および研修プログラムの他に, ワー. 加価値を提供することが可能であるということ. クショップや顧問業務という内容も存在する.. だ.. これらは,途上国からの依頼を受けてから実施. 第二に,同協力公社の援助は,従来のトップ. され,必要性がある場合には,シンガポールの. ダウン方式の援助ではなく,現場からの要請に. 民間企業等との連携が認められている.. 応じて技術協力を実施するボトムアップ方式の.
(18) 146 (616). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 6 号(2014 年 2 月). 援助である.これらの援助方式については,そ. 価のフィールドを国際社会として捉えている点. の優劣を決定する上で様々な論争が繰り広げら. は,シンガポール協力プログラムの援助理念「国. れている.もっとも,実際にシンガポール協力. 際社会貢献」と共通しているが,民間部門の関. 公社が実施している援助は,援助受入国側がシ. 与を認める点で新たな援助の形態となってい. ンガポールに要請をしてくるという現状があ. る.. り,シンガポール協力公社は,自国の経験と現. シ ン ガ ポール 国内外 の ネット ワーク を 通 し. 状を踏まえて受入国の意見を反映させるボトム. て,人と組織のパートナーづくりを心掛けた. アップ方式を採用している.. 援助であるが,そのパートナーとなる機関は, 「発展を促進させる」というシンガポールの援. 5.援助理念. 助に対する意識を共有する機関であることが前. 前述した援助の特徴および公式発表等の内. 提となっている.例えば,世銀とのパートナー. を踏まえると,援助理念は ⑴ 利便性の向. シップ「世銀・シ ン ガ ポール・アーバ ン ハ ブ. 上,⑵ 信頼構築,⑶ 援助受入側重視,の 3 点. ( World Bank–Singapore Urban Hub)」,ア ジ. 容. 39). にまとめられる.. ア開発銀行とのベンチャー企業「アジアインフ. ⑴ 利便性の向上. ラプロジェクト開発会社(Asia Infrastructure. シンガポール協力公社は, 組織が再編成され,. Project Development Private Limited)」な ど. 現在はシンガポール国際企業庁の下に統合され. が あ る.特 に 後者 は,官民連携事業(Public. た.そこでは援助課題に関する専門家等のデー. Private Partnership)であり,事業に対して官. タが一元化して整備・管理され,シンガポール. 民が相互補完的に専門技術を提供することを特. の 15 省庁およびその傘下にある 60 法定機関の. 徴としている.. 詳細を一つの窓口で対応可能となった.先のシ. ⑶ 援助受入側重視. ンガポール協力プログラムについては,データ. 個々の活動は,援助受入国との信頼関係を構. 管理等が整備されていないとの批判があるが,. 築させることを目的とした顧客(援助受入国). 同プログラムに後れて援助を開始した協力公社. 重視の内容である.援助内容の満足度を高める. では,その専門性と利便性が一層高まったこと. ために実施内容は全て個別にカスタマイズされ. が強みとなっている.これは,当該援助が援助. ており,相手国からの要求によっては事業を継. 受入国からの要請によって開始されることに鑑. 続的にも実施する.特筆すべきは,シンガポー. み,新たに取り入れられた理念である.. ル協力プログラムの場合と異なり,資金協力は. ⑵ 信頼構築. しないものの,資金調達が必要であれば,民間. シンガポール協力公社は, 「活動内容が,国. パートナーや民間基金等とも手を組み,費用効. 際社会からの自国の評価に影響をもたらす材料. 果の高いパッケージ型プログラムを提供すると. となる」ことを配慮して援助を実施している.. いうことである.. 同公社は, 国際的に高い評価を得るために, 個々 の活動がシンガポールの首脳陣の強い支援・支. おわりに―今後の研究課題―. 持に裏付けられる信用度の高い内容であること. 本稿では,シンガポールの対外援助の全体像. を強調している.そして,国際社会におけるプ. を把握し,実施主体機関別にその特徴を集約・. レゼンスを高くするためには,厳しい事前審査. 整理することを試みた.結果として,同国では,. を通過した質の高い事業を遂行し,問題解決担. 援助をめぐる住み分けが対象地域および分野・. 当者が共に一丸となり,必要であれば民間部門. 課題別に合理性をもってなされていることが明. からの関与も認めている.このように活動・評. らかになった.しかしながら,援助受入国は,.
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