〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉の提案 ─ 小学校音楽科におけるプログラミング教育のあり方の検討をとおして ─
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(2) 音楽教育学第49−2(2020). てきた。小学校段階における論理的思考力や創造. しての音楽をつくる活動である。また,広く行われ. 性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に. ている VOCALOID のような DTM ソフトウェアを. 関する有識者会議(2016)では「音の長さや音の高 さの組合せなどを試行錯誤し,つくる過程を楽しみ ながら見通しを持ってまとまりのある音楽をつくる ことや,音長,音高,強弱,速度などの指示とプロ. 用いた旋律づくりの活動や,文部科学省(2018a) が例示しているリズム・パターンを組み合わせて音 楽をつくる活動(pp. 32-33)も,同様である。. しかしながら,古今東西の音楽には〈音による構. グラムの要素の共通性など,音を音楽へと構成する. 造物〉としての性格がさほど強くない音楽も少なく. こととプログラミング的思考の関係に気付くように. ない。次節では,〈音による構造物〉としての性格. すること」と記されており,堀田(2016)も「音符. がさほど強くない音楽について,音楽を成立させる. 1). は音の強弱や速さの命令である」 「音符を配置す. ためのアルゴリズム2)という視点で述べる。. ると音が鳴る」「同じフレーズを繰り返すことがあ. 2.3 〈演奏行為の集積〉としての性格が強い音楽. る」といった特質について「まさにプログラム的発. 音楽を成立させるためのアルゴリズムにおいて重. 想」であるとしている(p. 46) 。これらはいずれも,. 要な命令のひとつが,前述の〈音響結果を示す命. 音楽が,音の順序や重なりをプログラムのように構. 令〉である。この種の命令を用い,音高,音価,音. 築することよって成立するものであるということを. 色などの要素をどのような順序で連ねるのか,ま. 前提とした考えであり, 「プログラミング的思考」が. た,どのように重ねるのかを構築することによっ. 音楽づくり活動と親和性があるとされる所以である。. て,〈音による構造物〉が成立する。. 音楽づくり活動をとおして「プログラミング的思 考」を育むためには,〈つくる対象としての音楽〉, 〈その音楽を実現するための方法〉,〈一つ一つの命 令に対応した記号〉のあいだの論理的関係性を児童 に意識させることが重要だと考えられる。. しかしながら,音楽を成立させるためのアルゴリ ズムに含まれる命令は,〈音響結果を示す命令〉だ けではない。例えば,五線譜のなかでも, 「una corda」 や「cantabile」などの指示は,音響結果を想定して いるものではあるが,指示そのものは演奏行為を示. 2.2 現在の音楽づくり分野の実践の傾向. している。このような演奏行為に関する指示は,五. 現在の小学校音楽科における音楽づくり分野の実. 線譜の重要度が比較的低いジャンルの音楽において. 践を概観すると,その多くが,音高,音価,音色な. は一層大きな意味を持つ。例えば,ジャズにおける. どに関わる〈音響結果を示す命令〉を扱うことによっ. 「ここで〇〇さんがソロでアドリブをする」といっ. て,何らかの固定された音響結果─すなわち〈音に. た約束事や,お祭りの太鼓奏者たちによる「お神輿. よる構造物〉─をつくる活動であることに気付く。. があの場所に見えたらリズムを変える」といった約. 国内における小学校音楽科のプログラミング授業の. 束事も,演奏行為に関する指示である。つまり,音. 実践事例を収集・調査した長山(2019)にみられる. 楽を成立させるためのアルゴリズムである〈その音. 実践事例も,それらの多くが〈音による構造物〉と. 楽を実現するための方法〉には,〈音響結果を示す. 1)通常,音符には強弱や速さの命令は含まれないため,ここでの「音符」は楽譜のことを指していると思われる。 2)「プログラム」と「アルゴリズム」は,いずれも,一般的に「何かを実現するための手順」を意味する語として用いら れるが,本稿では,前者をコンピュータのプログラミング言語で表現されたものを指す語として,後者はそうではな いものも含むより広義な意味を持つ語として区別している。 -26-.
(3) 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉の提案(寺内 大輔). 命令〉と〈演奏行為を示す命令〉の両方が混在して. たリズムを模倣する」「〇〇さんが合図を出したら. いると言えるのである。. メロディを変える」といった約束事3)が,〈演奏行. 〈演奏行為を示す命令〉の特徴のひとつは,そこ に,多かれ少なかれ,音響結果の不確定性が含まれ ていることである。前述の「cantabile」も,それが 記された箇所の音響結果は演奏者の解釈によって異. 為を示す命令〉として重要な役割を果たしている。 2.4 問題提起 以上を踏まえ,筆者は二つの問題を提起する。 ① 従来の小学校音楽科で行われてきたプログラミ. なるものになるし,前掲の約束事2例についても,. ング授業の多くが〈音響結果を示す命令〉を扱う. 演奏者の即興性やお神輿がいつ現れるかといった不. ことによって〈音による構造物〉をつくる活動で. 確定な要素が介在する。〈演奏行為を示す命令〉に. あり,〈演奏行為の集積〉としての性格が強い音. 重きが置かれ,即興性や不確定性が高まれば高まる. 楽はあまり顧慮されていない。. ほど,その音楽の〈音による構造物〉としての性格. ② ①で示した問題によって,児童にとって馴染み. は弱まり, 〈演奏行為の集積〉としての性格が強まる。. 深い活動である音遊びや即興的表現活動からプロ. 〈演奏行為の集積〉としての性格が強い音楽は,. グラミング教育への接続性が希薄になってしまう. 前述のジャズやお祭りなどのほかに,西洋芸術音楽. おそれがある。. における20世紀後半以降の音楽にも多くみられる。. 次章では,これらの問題を踏まえ,音遊びや即興. ナイマン(1992)は, 「実験音楽の作曲家たちは,. 的表現活動とプログラミング教育との接続を意識. 一般に,その素材や構成や関係性があらかじめ計算. し,〈演奏行為の集積〉としての性格が強い音楽を. 4. 4. 4. 4. され,整えられているような,固定された時間のオ 4. 4. 4. ブジェを作り上げることよりも,そこにおいて音響. つくる活動を,〈演奏行為のアルゴリズムを構築す る活動〉として提案したい。. 的出来事が起こる状況とか,(音を生み出すような, 4. 4. 4. 4. あるいはその他の)行動を引き起こすプロセス と. 3.提案─〈演奏行為のアルゴリズムを構築す る活動〉─. か,ある種の作曲上の『ルール』によって輪郭が描 4. 4. かれるような領野とかの様子を,探り出すことの方. 3.1 先行実践にみられる例. に熱中している」と述べ,多数の実例を挙げている. 前述したように,従来の小学校音楽科で行われて. (pp. 14-24)。なお,近年では,このような,方法や. きたプログラミング授業の多くは〈音響結果を示す. 手順を作品化するような作曲を,〈アルゴリズム作. 命令〉を扱う活動であるが,なかには〈演奏行為を. 曲(Algorithmic composition)〉と呼ぶこともある。. 示す命令〉を扱う実践例もみられる。ここでは,後. い音楽は,従来の小学校音楽科のカリキュラムにお. リズム遊びを楽しもう」を挙げたい。. このような〈演奏行為の集積〉としての性格が強. 者の例として坂入(2017)の「はくの流れにのって. いてもしばしば取り上げられてきた。その代表例. 第3学年を対象とした同授業では,教材曲《陽気. が,学習指導要領における音楽づくりの活動のなか. なかじや》の3拍子の各拍に一つずつの異なる動き. に位置付けられている「音遊びや即興的に表現する」. を考える活動が行われている。授業者は「ジャンプ. 活動である。こうした活動では,「〇〇さんの打っ. する」という1拍目の動きを指定し,続く2拍目・. 3)こうした約束事は,学習指導要領では「設定した条件」と呼ばれている(文部科学省 2018b, p. 47)。 -27-.
(4) 音楽教育学第49−2(2020). 3拍目の動きを児童自身が考え,実際に音楽に合わ. 「プログラミング的思考」が反映されたものである. せて体を動かす活動を行っている。板書記録から. と言えるだろう。. は, 児 童 が「 ひ ざ を た た く 」「 か か と を さ わ る 」. 3.3 活動考案のための要点. 「りょう手をあわせる」 「へそをさわりながらクル. ここでは,〈演奏行為のアルゴリズムを構築する. ン」という動きを考えたことがわかる。演奏行為を. 活動〉の,〈音による構造物〉をつくる活動とは異. プログラミングと結び付けた活動を行っているとい. なる特質に着目し,活動考案のための要点を3点挙. う点,また音遊びとの接続が明確であるという点. げる。. で,本稿で提案する〈演奏行為のアルゴリズムを構 築する活動〉のひとつとして位置付けられる。. 1点目は,音楽が生成されるプロセスに目を向け させることである。〈音による構造物〉をつくる活. 次節以降,〈演奏行為のアルゴリズムを構築する. 動の場合,自分のつくりたい音響を実現するため. 活動〉の基本的な考え方と活動考案のための要点を. に,一音一音にこだわりをもってつくりこんでいく. 検討し,それらを踏まえた活動案を一つ例示する。. 態度が重要である。他方,〈演奏行為の集積〉とし. 3.2 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉. ての性格が強い音楽をつくる活動の場合,つくられ. の基本的な考え方. る音楽の魅力は,結果として生じる音響のみで判断. 2.1で述べたように,小学校音楽科で「プログ. されるものではなく,演奏のプロセスやそこに含ま. ラミング的思考」を育むための活動においては〈つ. れる即興性や不確定性も併せて判断されるという認. くる対象としての音楽〉,〈その音楽を実現するため. 識が重要であろう。. の方法〉,〈一つ一つの命令に対応した記号〉のあい. 2点目は,〈一つ一つの命令に対応した記号〉に. だの関係性への着目を促すことが重要である。それ. 幅広い可能性があることを念頭に置くことである。. は〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉にお. 〈音響結果を示す命令〉を示す記号は,五線譜にお. いても同様である。音遊びや即興的表現活動におい. いては音符や休符などとして,また VOCALOID の. ては,それらを成立させるための約束事そのものが アルゴリズムとしての働きをするため,具体的に. ような DTM ソフトウェアにおいてはアイコンなど. として,シンボル化されていることが多い。他方,. は,約束事を考案したり,改変したり,分析したり. 〈演奏行為を示す命令〉を示す記号はそうではないこ. することを中心とした活動が考えられる。授業者に. とも多い。例えば,西洋芸術音楽における一般的な. よって準備された約束事に基づいて音遊びや即興的. 示し方のひとつ「指揮者が手首をまわしながらこぶ. 表現活動を行う場合でも,児童からの提案によって. しをつくったらそれまで出していた音を止める」と. 4). 柔軟に約束事を変えることは少なくないが ,そう. いう約束事─これはしばしば音遊びなどでも用いら. した場面における児童の発想の多くは,〈つくる対. れる─に含まれている「指揮者が手首をまわしなが. 象としての音楽〉,〈その音楽を実現するための方. らこぶしをつくる」という体の動きは,〈演奏行為. 法〉,〈一つ一つの命令に対応した記号〉のあいだの. を示す命令〉に対応する記号としての役割を果たす. 関係性,さらには音遊びや即興的表現活動を成立さ. もののひとつであり,音符や休符のようなシンボル. せる構造の全体を意識したものであり,まさしく. 化されたものとは示し方の様態が異なっている。授. 4)学習指導要領解説にも「次はこのような約束で表現してみたいなど,児童の提案によって,授業を展開していくこと も考えられる」と示されている(文部科学省 2018b, p. 76)。 -28-.
(5) 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉の提案(寺内 大輔). 業者は,シンボル化されたものに限らず,言葉,体. ム ・ パターンが偶発的に組み合わさる音響が生じ. の動きなど,あらゆるものが「記号」としての働き. る。このとき,指揮者が発するサインとして,「演. を持ち得ることを意識しておくことが重要であろう。. 奏の開始」「演奏の停止」を示すための動作をそれ. 3点目は,命令や記号自体を児童が考案する活動. ぞれ決めておく。これら二つのサインは,演奏者全. を取り入れることである。西洋芸術音楽において. 員に出すこともできれば,特定の演奏者のみに出す. も,五線譜をはじめとした様々な楽譜に用いられる. こともできる。. 記号は,必要に応じて新たなものが次々と考案され. 前述のルールに基づいた即興演奏を基本とし,そ. てきた。なかには,特定の作品でしか用いられない. の演奏内容を指揮者が即興的にコントロールするた. ものも少なくない。児童の活動においても,独自の. めのサインを,グループ内で秘密裏に決める。図1. 命令や記号を新たに考案することは,〈その音楽を. は,その時のワークシートの例である。. 実現するための方法〉と〈一つ一つの命令に対応し た記号〉の関係性を意識するという点で「プログラ ミング的思考」を働かせる活動であると言える。次 節では,具体的な活動例を示す。 3.4 筆者の考案した活動例 本節では,〈演奏行為のアルゴリズムを構築する 活動〉の一例として,筆者の考案した活動「ひみつ のサインをつくれ!/見やぶれ!」を紹介する。体 の動きなどで示すサイン(合図)と特定の演奏行為 をつなげた約束事に基づいてリズム・パターンを即 興的に重ねて演奏する活動を基本とし,その活動の ための約束事を新たに考案したり,他のグループが つくった約束事を推理したりするゲーム的な要素を 持った活動である。サインと演奏行為との関係性 や,演奏行為と演奏結果との関係性に着目させるこ とによって,児童の「プログラミング的思考」を促 すことをねらいとしている。 図1 ワークシート「ひみつのサインをつくれ!」. 活動対象としては,小学校高学年を想定してい る。数名のメンバーから成るグループに分かれて行 う。まず,各グループの中から1名の指揮者と他の. このワークシートでは,前述の二つのサインが確. 演奏者の担当楽器(任意)を決める。次に,グルー. 認のために記されているほか,リズム・パターンを. プ内で共有する拍子とテンポを決める(児童の実態. 即座に変えるためのサイン,速度を次第に変化させ. に応じて授業者が決めてもよい)。指揮者の合図に. るためのサインを書き込むための欄,サインと演奏. よって,グループの各メンバーが自分で考えたリズ. 行為の両方を書き込むための欄が,それぞれ設定さ. ム・パターンを奏し,繰り返す。結果,異なるリズ. れているが,空欄の数やその内容は,児童の実態に. -29-.
(6) 音楽教育学第49−2(2020). 応じて柔軟に調整することができる。. つくれ!」が,「えんそう者の動き」(図1右下)を. そして,サインと演奏行為との関係性や,演奏行. 考えることによって〈つくる対象としての音楽〉の. 為と演奏結果との関係性への着目を別のアプローチ. 実現をめざして〈一つ一つの命令に対応した記号〉. で促すのが,これから述べる,他のグループが考案. の組合せを考え,改善することを促す活動であるこ. した約束事を推理する活動である。各グループは,. とである。あらかじめ示されている「えんそう者の. 他のグループの演奏を聴きながら─観ながら,その. 動き」と自分たちの考えた「えんそう者の動き」を. 演奏で用いられているサインやその働きを推理す. 組み合わせた結果,自分たちの意図に沿った演奏に. る。図2は,推理するグループが用いるワークシー. なったかどうか,また,音響結果と演奏プロセスの. ト─いわば「解答用紙」である。なお,図2中に手. 両方において音楽的な魅力をもたらすものになった. 書き風のフォントで記した箇所は解答例を示す。. かどうかを実際の演奏をとおして検討し5),改善す ることは,この活動における重要な点のひとつであ る。ただし,ここで忘れてはならないことは,音楽 的な魅力をもたらす要素は,ワークシートに書かれ ている「えんそう者の動き」だけではないというこ とである。指揮者・演奏者がいかに表現を工夫する かについても,この音楽を成立させるための重要な 要素となる。ワークシート(アルゴリズムの一部) と主体的・即興的な表現の工夫を伴う指揮者・演奏 者(アルゴリズムの実行主体)の両方を意識するこ とは,「プログラミング的思考」と音楽科での学び を結び付けるうえで不可欠であると考えられる。 2点目は,「ひみつのサインを見やぶれ!」が, 〈つくる対象としての音楽〉,〈その音楽を実現する ための方法〉,〈一つ一つの命令に対応した記号〉の 関係性を,つくられた音楽を手がかりに分析的な視 点で捉えることを促す活動であることである。. 図2 ワークシート「ひみつのサインを見やぶれ!」. 4.考 察 以上が,活動例「ひみつのサインをつくれ!/見. 本章では,前章で示した〈演奏行為のアルゴリズ. やぶれ!」の概要である。この活動が「プログラミ. ムを構築する活動〉の意義と,コンピュータを用い. ング的思考」を促すと考えられる根拠として,次の. て行う活動に接続する可能性について考察する。. 2点が挙げられる。1点目は,「ひみつのサインを 5)ただし,実際の実践においては,児童が意図していなかった結果や,偶然に生じた結果に対して児童が魅力を見出す こともあるだろう。長山(2019)は,このことを踏まえ,プログラムが意図どおりになったかどうかだけでなく,音 楽的に納得できるものであるかどうかを検討することの重要性を指摘している(pp. 61-62)。 -30-.
(7) 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉の提案(寺内 大輔). 4.1 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉 の意義. の多様な実態から遠ざかってしまいかねない。その ことを考えると,〈演奏行為のアルゴリズムを構築. 3.3で述べたように,〈演奏行為のアルゴリズム. する活動〉は,音楽文化の学びにとっても重要な活. を構築する活動〉には,命令とそれに対応する記号. 動になり得ると考えられる。. を自分たちで考案する活動を含ませることが重要で. 4.2 コンピュータを活用して行う活動に接続す る可能性. ある。それは,各演奏行為と記号との関係性を意識 させるためのアプローチであると同時に,楽譜(数字. 前掲の活動例「ひみつのサインをつくれ!/見や. 譜や図形楽譜など,五線譜以外のものも含む)やソ. ぶれ!」はコンピュータを用いない活動であったが,. フトウェアの仕組みそのものに目を向けるきっかけ. 文部科学省(2018a)が「コンピュータを活用しな. にもなることが期待される。それは,既存の命令や 記号をいかに使うかを考えさせる五線譜やボーカロ イドを中心とした活動とは異なる意義を持っている。 さらに,〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活 動〉は,児童の意識を,音響結果だけでなく,コン ピュータ,人間,ロボットなど,アルゴリズムを実 行する(=演奏する)主体が持つ特質へも向けさせ. がら行う学習と適切に関連させて実施するなどの工. 夫が望まれ」ることを示しているように(p. 19),. 〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉を,コ. ンピュータを活用して行う活動に接続することは, 2.4で提起した,音遊びや即興的表現活動からプロ. グラミング教育への接続性の問題の解決を一層図る ためにも重要であると考えられる。. る。〈音による構造物〉をつくる活動の場合,命令. ここでは,その可能性を考えるために,まず,コ. に忠実に,何度でも同じ音響結果を出力できるコン. ンピュータが担う役割に着目してみたい。〈音によ. ピュータに演奏させる利点は大きい。他方,人が演. る構造物〉をつくる活動の場合,その音楽を成立さ. 奏する(=アルゴリズムを実行する)ことを前提と. せるためのアルゴリズムを実行する(=音を出力す. した〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉は,. る)役割をコンピュータが担うことが多いが,〈演. 命令の解釈,演奏者の判断等によって,演奏結果に. 奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉の場合,コ. 不確定性が介在する。同じアルゴリズムでも多様な. ンピュータは,その音楽を成立させるためのアルゴ. 結果をもたらす場合があることを知ること,また結. リズムに含まれる多様なプロセスの一部を担う可能. 果が多様で不確定であるがゆえに生じる面白さを実. 性がある。. 感することは,アルゴリズムの実行主体の特質の違. それは,必ずしも音を出力する役割であるとは限. いについての学びであり,本稿冒頭で挙げた「プロ. らない。例えば,活動例「ひみつのサインをつく. グラミング教育のねらい」の②に関連している。. れ!/見やぶれ!」の場合,演奏する児童がコン. このことは,〈演奏行為のアルゴリズムを構築す. ピュータやタブレット端末の画面を見ながら演奏す. る活動〉の背景にある音楽観とも深くかかわってい. ることを前提とする─画面が指揮者の代わりを担. る。〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉は,. う─ことが考えられる。このとき,演奏行為の指示. 音楽表現を,演奏者が動くことによって実現される. を画面上に表示させるための仕組みを考える活動を. ものとして捉える音楽観に根ざしている。もちろ. 取り入れる可能性もあるだろう。その仕組みとは,. ん,音楽は〈音による構造物〉としての側面を持っ. 例えば何らかの演算の結果を反映させたり,ランダ. てはいるが,そのような音楽観だけでは,音楽文化. ムなタイミングを生じさせる命令を組み込んだり,. -31-.
(8) 音楽教育学第49−2(2020). 通信機能を使って客席からリアルタイムで命令を. を楽しもう」小林祐紀・兼宗進編著・監修『コン. 送ったり,センサーを用いて周囲の環境に反応させ. ピューターを使わない小学校プログラミング教育. たりするなどである。もちろん,このようなアイデ. “ルビィのぼうけん”で育む論理的思考』翔泳社,. アのなかには,小学校段階でのプログラミングが難. pp. 34-37.. しいものも含まれるかもしれない。場合によって. 小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解. は,既存のプログラムを利用する必要が生じること. 決能力等の育成とプログラミング教育に関する有. もあるだろう。だが,ここで大切なことは,児童た. 識者会議(2016) 「小学校段階におけるプログラミ. ちが多様なアイデアを持ち,〈演奏行為のアルゴリ. ング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」,. ズム〉の可能性を広げていくこと,そして将来の数. インターネット,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/. 学科や情報科における学びを活かしたプログラミン グを音楽に結び付けることのできる素地を育むこと である。. chousa/shotou/122/attach/1372525.htm(2019/3/15 参照). ナイマン,マイケル(1992)『実験音楽─ケージと その後─』椎名亮輔訳,水声社.. 5.おわりに. 長山弘(2019)「小学校音楽科におけるプログラミ. 本稿の最後に,今後の課題を2点挙げる。1点目. ング教育のあり方の検討─授業実践事例を手がか. は,〈演奏行為のアルゴリズムを構築する活動〉を. りに─」『初等教育カリキュラム研究』第8号,. 一層開発することである。3.4で挙げた「ひみつ. 初等教育カリキュラム学会,pp. 55-67.. のサインをつくれ!/見やぶれ!」は,〈演奏行為. 堀田龍也(2016)「なぜ小学校から必要なのか? プ. のアルゴリズムを構築する活動〉の一例に過ぎな. ログラミング教育が目指すもの」『総合教育技術』. い。今後,ますますの開発が必要である。2点目. 71(10)巻,pp. 44-47.. は,音楽科およびプログラミング教育カリキュラム 6). の全体や,他教科における活動. 松田孝・吉田潤子・原田廉徳・久木田寛直・赤石先. との関連を視野に. 生・利根川裕太・國領二郎・デビドソン,サムエ. 入れ,開発した活動一つ一つの効果的な位置付けを. ル(2017)『小学校の「プログラミング授業」実. 考えることによってカリキュラムの充実を図ること. 況中継[教科別]2020年から必修のプログラミン. である。. グ教育はこうなる』技術評論社. 文部科学省(2018a)「小学校プログラミング教育の. 付 記 本研究は,JSPS 科研費 JP18K13161の助成を受け. たものである。. 手引(第二版) 」 ,インターネット,http://www.mext.. go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__. icsFiles/afieldfile/ 2018 / 11 / 06 / 1403162 _ 02 _ 1 .pdf. (2019/3/15取得). 引用・参考文献 坂入優花(2017)「はくの流れにのってリズム遊び. 文部科学省(2018b) 『小学校学習指導要領(平成29 年告示)解説 音楽編』東洋館出版社.. 6)例えば,松田ほか(2017)が体育科の活動として提案しているような,体の動きの順序をプログラムとして捉え,オ リジナルのダンスをつくる活動(pp. 82-89)との関連が挙げられる。 -32-.
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