炭素鋼における疲労限度と寿命の評価方法に関して
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(2) 圧. 力. 技. 術. 53. MPa, kgf/mm2 そして μm2 と定義されている。また, した。試験片は加工後に表面をエメリー紙と金属 HV はビッカース硬さの平均値である。式⑴は欠. 研磨剤で研磨して実験に供した。. 陥などのないいわゆる平滑試験片の疲労限度の評. Fig. 2⒝に示した部分切欠きの応力集中係数は小. 価式であり,式⑵は欠陥が存在する場合の疲労限. さいので,疲労の現象はその部分切欠きを加工し. 度の評価式である。村上と遠藤 5)は破壊力学パラ. ない場合と加工した場合で大きな差はない 7)。そこ. メータを用いて式⑵を提案し,多くの研究者がそ. で,本研究ではき裂の発生と進展の観察を容易に. の式を用いて欠陥のある材料の疲労限度の評価に. するために,Fig. 2⒝の部分切欠きを試験片の試験. 役立てている。. 部中央に加工し,その試験片を平滑試験片とみな. 式⑴や式⑵を応用面でいかに役立つように使用. した。前報の S25C の場合においては,使用した. するかは,経験が必要であると考えられる。著者 ら 6)は炭素鋼 S25C を用いた実験を行い,平滑試験 片の疲労限度がビッカース硬度 HV で評価した式 ⑴の疲労限度より低い値となる場合があることを 経験した。その理由は,使用した材料には,相当直 径が 0.2mm 程度の介在物が存在しているためだと 考察された。また,その報告では,疲労き裂の発 生・進展に関するデータがあれば,介在物や欠陥. Fig. 1. Microstructure (Longitudinal section).. の存在が不明な場合の材料の疲労限度や寿命に関 して有効な予測ができるものと思われることを述. Table 1. べている。その研究と関連することとして,本報 告ではき裂進展・疲労寿命・疲労限度の相関関係 について,炭素鋼 S45C を用いて検討した。そし. C. Si. Chemical composition of the material tested Mn. P. S. Cu. 0.45 0.27 0.74 0.015 0.02 0.02. Ni. Cr. 0.01 0.10. Fe Bal.. て,疲労限度や疲労寿命が欠陥やき裂の初期寸法 に依存することから,き裂発生寸法を仮定するこ とによって疲労強度がどのように評価できるか検 討した。. Table 2 Lower yield stress, σSL (MPa) 325. 2.素材および実験方法. Mechanical properties Ultimate Tensile Reduction of Stress σB (MPa) Area 607. 60. 用いた素材は市販の S45C である。圧延方向に 延ばされた結晶組織が Fig. 1 で観察され,その結 晶組織のパーライトとフェライトの層の間隔がき 裂発生やき裂進展の停留現象に関連する可能性が ある。素材の化学成分と機械的性質をそれぞれ, Table 1 と Table 2 に示す。フェライトとパーライト の平均結晶粒径はそれぞれ,19μm と 15μm である。 また,引張方向に垂直な方向に測定した結晶の層 の平均間隔は 50μm のオーダーであった。購入し た素材の直径は 25mm であり,それを所定の寸法 に切り出した後に 845℃ で1時間の焼きなましを 行った。熱処理後に試験片を Fig. 2 の形状に加工 JHPI Vol. 59 No. 2 2021. Fig. 2. Specimen geometry; ⒜ Dimensions of the specimen (mm), ⒝ Partial notch, ⒞ Hole. 3.
(3) 54. 炭素鋼における疲労限度と寿命の評価方法に関して. 500. 介在物が存在していた。本実験で使用した S45C. 400. 材においては,そのような大きな介在物は存在し なかったが,介在物の存在の観点からも若干の考 察を行った。また,平滑試験片と穴付き試験片の き裂進展曲線からそれぞれの疲労寿命評価がどの ように行えるか検討している。そのことから本実. Stress amplitude [MPa]. 試験片には初期から直径 0.2mm に相当する寸法の. 300. 200. Plain specimen Holed specimen. 験では Fig. 2⒞に示す形状の穴を加工した試験片 も実験に供している。実際に素材を使用する場合. 100. は,製品の加工後に熱処理を行わないことがある. 104. 105. 106. 107. Number of cycles to failure Nf [Cycles]. ので,本実験の場合も試験片加工後には熱処理を. Fig. 3. 行わないで疲労試験を実施した。. S-N curves.. 電気油圧サーボ式疲労試験機を用いて,応力比. 実験値 σw はほぼ 230MPa であり, ビッカース硬さ. R(=繰返し最小応力/繰返し最大応力)を-1,. の平均値 HV(170 または 170kgf/mm2)で式⑴に. 周波数を 10Hz として疲労試験を行った。アセチ. よって評価した σw の値はほぼ 270MPa となった。. ルセルロースフィルムを用いたレプリカ法によっ. それらの値を比べると,式⑴の HV から予測され. て,き裂の発生と進展を観察した。また,疲労破. る疲労限度は実験値より約 17%高くなっている。. 壊の起点となる介在物等の存在を調べるための破 面観察やマイクロビッカース硬度計を用いた硬さ 試験を行った。. 3.実験結果および考察. 3.2 平滑試験片のき裂進展挙動につい て Fig. 4 にき裂進展曲線を示す。Fig. 4⒜は方眼紙 にき裂進展曲線を示したものであり,Fig. 4⒝は片. 3.1 S -N 曲線から得られた疲労限度. 対数グラフにき裂進展曲線を示したものである。. Fig. 3 に本実験結果の S-N 曲線を示す。前報 6)の. 方眼紙の場合には,初期のき裂進展挙動の差が見. S25C を用いた試験片においては,平滑試験片と. 分け難いので本報告では片対数グラフを用いてき. Fig. 2⒞で示した寸法の穴を加工した穴付き試験片. 裂進展挙動を評価した。Fig. 4 の横軸は応力振幅. の S-N 曲線はほぼ同じ形になり,疲労限度もほぼ. と寿命との関係を統一的に評価するという観点か. 同じであった。それに対して,本実験で用いた. ら破断繰返し数で無次元化した相対繰返し数を用. S45C においては,平滑試験片(部分切欠きを加工. いている。片対数グラフを用いると,き裂長さが. した試験片)と穴を有する穴付き試験片の S-N 曲. 小さい範囲でき裂進展曲線が詳しく評価できるこ. 線および疲労限度に明らかな違いが生じている。. とがわかる。き裂の発生寸法にばらつきがあり,. 使用する素材によって存在する介在物の大きさが. N=0 付近のき裂長さ l0 は個々の試験片に依存して. 異なることがあり,それが疲労強度に影響する。. 異なっている(厳密には各応力レベルでき裂進展. 本実験で使用した S45C では平滑試験片の疲労限. 曲線は異なる) 。. 度に影響する大きな介在物が存在しないが,その. Fig. 5 は破面に観察された介在物を起点とした. ような介在物が存在する場合の考察も行っている。 フィッシュアイタイプの模様の例である。この模 なお,村上と遠藤 8)は平滑材の疲労限度を低下さ. 様は試験片の表面ではなく,表面より少し内側で. せる欠陥寸法についての提言を行っており,その. 形成されている。この破面を観察した試験片(応. ことに基づく検討も行った。. 力振幅 260 MPa) ではき裂の発生寸法 l0 は平均パー. Fig. 3 に示した S-N 曲線から得られた疲労限度の 4. ライト粒径(15μm)やフェライト粒径(19μm)より 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(4) 圧. 力. 10. (a). 8. 術. (b). 320MPa 305MPa 290MPa 275MPa 260MPa. 9. 技. 55. 101 320MPa 305MPa 290MPa 275MPa 260MPa. 100. Crack length l [mm]. Crack length l [mm]. 7 6 5 4. 10-1. 3. 10-2 2 1 0 0. Fig. 4. 0.2. 0.4 0.6 N/Nf. 0.8. 1. 10-3 0. 0.2. 0.4 0.6 N/Nf. 0.8. 1. Crack growth curves; ⒜ Crack length l vs. relative number of cycles N/Nf, ⒝ ln l vs. N/Nf. で近似できる。式⑶の C1 と n は材料に依存する定 数である。応力比が-1 の場合において,式の形 が単純なことから本実験でも応力拡大係数を用い ずに式⑶でき裂進展挙動を検討する。式⑶を変形 し積分すると次式が得られる。. Fig. 5. Example of observation of fracture surface (σ=260MPa, Arrow shows inclusion).. ℓ n l=C1 σ n N + C2. ⑷. C2 は定数であり,この式から σ=一定であれば,. も小さく,試験片の内側から発生したき裂が表面. 片対数グラフでき裂長さ l と繰返し数 N が単純な. に達した時の長さが l0 として測定されている。. 線形関係になることがわかる。繰返し数 N=0 で. Fig. 6 はき裂の進展を観察した例である。Fig. 6 ⒜は Fig. 5 と同じ試験片の場合であり,内部から. の初期き裂長さを l0 , 破断直前 N≒Nf でのき裂長 さを lf として,式⑷の定数 C1 と C2 を求めると. のき裂の拡大によって表面では l0 が平均結晶粒径 以下となっている。Fig. 6⒝では平均結晶粒径に近. C2=ℓ n l0. い長さ約 12μm でき裂発生が観察された。このよ. C1={ℓ n(lf/l0)}/σ n・(1/Nf). ⑸. うなき裂発生寸法のバラツキが Fig. 4 のき裂進展 曲線のバラツキの原因となっていることが確認で. となり式⑷は,. きる。 西谷ら 9) の実験によると,炭素鋼の平滑試験片. ℓ n l={ℓ n(lf/l0)}(N/Nf )+ℓ n l0. ⑹. の小さなき裂のき裂進展速度 dl/dN は として表され,Fig. 4⒝のき裂進展曲線が式⑹で近 dl/dN=C1 σ n l. JHPI Vol. 59 No. 2 2021. ⑶. 似されることがわかる。また,式⑶を変形すると. 5.
(5) 炭素鋼における疲労限度と寿命の評価方法に関して. 56. Fig. 6. Observation of crack initiation and growth;⒜σa=260MPa,(a1)l0=0.0mm and N/Nf= 0.03,(a2)l0 = 0.004mm, N/Nf = 0.059, (a3) l0 = 0.008mm, N/Nf = 0.089,(a4)l0 = 0.013mm, N/Nf=0.177;(b)σa=320MPa,(b1)l=0.0mm, N/Nf=0.03,(b2) l0=0.019mm, N/Nf=0.068, (b3) l0=0.032mm, N/Nf=0.102, (b4) l0=0.038mm, N/Nf=0.170.. (dl/dN )/l=C1 σn. ⑺. ここで,C1’=C1 σnNf= 一 定 で あ る 。こ の 式 は Fig. 4⒝のき裂進展曲線の近似式を示しており,式. これに式⑸の C1 を代入すると,無次元化き裂進. ⑷自体が S-N 曲線(σnNf=一定と近似できる)と関. 展速度として. わっていることになる。 き裂進展曲線の補正方法として,各応力の振幅. (dl/dN )/l={ℓ n(lf/l0)}・(1/Nf). ⑻. の場合でき裂発生寸法 l0 が 12μm より長い場合は, 疲労寿命を延長させて Nf を N’f=(1+β) Nf と補正. となり,lf と l0 をある一定値で固定すると無次元. する。その場合の任意の繰返し数は N’=N+βNf と. 化き裂進展速度は Nf に反比例し,応力振幅 σ の関. なる。き裂進展曲線から仮定される l0 が 12μm よ. 数になることがわかる。. り短い場合は,疲労寿命を短くして補正するので,. そこで, 本実験結果の Fig. 4⒝を見直し,仮にす. β は負の値になる。Table 3 は上記の補正係数 β と. べての応力振幅において,き裂発生寸法を Fig. 7⒜. 補正した破断繰返し数 N’f を各試験片の場合で示. の D 点での寸法 l0=12μm(平均結晶粒径程度) ,. したものである。以下では,記号の複雑さを避ける. 破断時のき裂長さをき裂進展曲線から lf=2mm と. ため,N’f を Nf と改めて記述する。. して近似し,ばらつきの少ない仮のき裂進展曲線. Fig. 8 が補正した破断繰返し数 Nf を用いて,無. を作成してみた。Fig. 7⒜は補正方法,Fig. 7⒝は. 次元化き裂進展速度(dl/dN)/l と応力振幅 σ の関係. 補正した結果である。なお,Fig.7⒜中の記号. を整理したものである。(dl/dN)/l の値は σ に対応. A,B,C,D などは補正を行った際に考慮したき. する Nf の値と ℓ n (ln/ l0)の値を式⑻に代入して算出. 裂進展曲線の端点などであり,詳細な説明は省略. した。Fig. 8 からき裂進展則が式⑺で表現できる. する。なお,式⑷は次式のように変形できる。. ことがわかる。 ここで,式⑺を次式のように変形する。. ℓ n l0=C1’N/Nf +C2 d l/l=C1σ n dN 6. 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(6) 圧. (a). 力. 101 320MPa 305MPa 290MPa 275MPa 260MPa. 技. 術. (b). 101 320MPa 305MPa 290MPa 275MPa 260MPa. B A K. 100 Crack length l [mm]. Crack length l [mm]. 100. E. 57. 10-1. C D. 10-2. 10-1. 10-2. P. F. . . 10-3 0. Fig. 7. 0.2. 0.4 0.6 N/Nf. 0.8. 10-3 0. 1. 0.2. 0.4 0.6 N'/N'f. 0.8. 1. Correction of crack initiation length; ⒜ Method of correction of the crack growth curve, ⒝Corrected crack growth curves.. Fig. 8 の補正した関係から上式の係数は n=7.2 ,. Table 3. C1=2.0 x 10-22 となる。N=0 の時のき裂長さを l0, 破断繰返し数 Nf でのき裂長さを lf として,上式を. σ MPa 320 305 290 275 260. 積分すると. ℓ n(lf/l0)=C1 σ n N f. ⑼. 式⑼に l0=12 μm,lf=2mm,n=7.2,C1=2.0 x 10-22 を代入すると次式で示す有限寿命の範囲での S-N. Coefficients for prediction of S-N curve from crack growth curves (l0=12μm, lf=2.0mm). β. Nf. 0.0 0.150 - 0.180 - 0.050 - 0.180. 2.9 x 104 4.0 x 104 6.8 x 104 8.9 x 104 1.7 x 105. N'f = (1+β) Nf 2.9 x 104 4.6 x 104 5.6 x 104 8.5 x 104 1.4 x 105. 曲線が得られる。 10-3. ⑽. その結果を Fig. 9 に示す。Fig. 9 のプロット点は平 滑試験片の場合の実験値であり,実線が有限寿命 領域での補正したき裂進展曲線からの近似値であ る。本実験の場合は,実験データのばらつきが少 なく,実験値と近似値は比較的良く一致している。 その理由は,各応力振幅でのき裂発生寸法にばら つきがあるものの,破断するまでのき裂長さ l と 相対繰返し数 N/Nf の間には大きなばらつきがな. (dl/dN)/l [1/Cycle]. σ7.2 Nf=2.6 x 1022. 10-4. 10-5 200. Fig. 8. 250. 300. [MPa]. 350. 400. Relationship between corrected (dl/dN)/l vs. stress amplitude σ.. かったためだと考察される。 本実験の場合には,補正した平均的なき裂進展 JHPI Vol. 59 No. 2 2021. 7.
(7) 炭素鋼における疲労限度と寿命の評価方法に関して. 58. Fig. 9. S-N curve which predicted from crack growth curves.. Fig. 10. 曲線から,有限寿命域の S-N 曲線が比較的良い精. 500. 度で近似できることになった。しかしながら,介. 400. Crack growth curves of holed specimen, l0=0.15mm, lf=3.0mm.. Experiment (Holed specimen). 在物や微小欠陥の存在によって,き裂進展曲線が きない場合があることが想定される。そのような 場合に S-N 曲線による寿命評価や疲労限度をどの. 300. [MPa]. 式⑶などのように都合よく平均的な関係で近似で. 1.1w. 200. Eq.(11). ように評価(予測)した方が良いかについて,次 節に示すように考察してみた。. Eq. (2): w = 174MPa. 3.3 き裂発生寸法の違いによる S -N 曲線 と疲労限度の評価について き裂発生寸法と疲労限度や寿命の関係を調べる 観点から,参考データとして,穴付試験片の疲労. 100 3 10. Fig. 11. 104. 105 106 [Cycles] Nf. 0.9w. 107. S-N curve and evaluated fatigue limit from Eq. ⑵ for holed specimen.. き裂進展挙動と寿命の関係を調べた。その試験片 のき裂進展曲線を Fig. 10 に示す。き裂進展曲線は. =0.15mm としたが,それは加工した穴の径 d と深. 応力レベルによらず,ほぼ同じ直線で近似できる. さ h(0.2mm)よりも小さい。また,き裂発生寸法. ので,式⑼の係数の値を算出すると n=13.9 ,C1=. と疲労限度に関係する限界欠陥寸法は,必ずしも. 2.0 x 10 となる。それらの値と Fig. 10 に基づき,. 関連性をもたせる必要がない。なお,Fig. 2 に示す. l0=0.15mm,lf=3mm とすると,式⑼は次式のよ. 形状から穴の投影面積は area=33991μm2 であり,. うに表せる。. 平均硬さ HV=170 として式⑵に代入すると,疲. -38. 労限度が σw=174 MPa となる。この値は実験値の 13.9. σ. 38. Nf=1.5 x 10. ⑾. σw=185MPa よりも若干低い値であり,安全性の 観点からこの予測は有効であると思われる。. Fig. 11 は式⑾と式⑵を用いた σw をプロットで示す. き裂発生寸法と疲労限度に及ぼす欠陥あるいは. 実験値と比較したものである。き裂進展曲線から. 介在物の寸法は必ずしも一致するわけではないと. 得られるこの S-N 曲線とプロットで示す実験値は. いうことに基づき,前節の平滑試験片の疲労強度. よく一致している。Fig. 10 からき裂発生寸法を l0. と安全側で仮定される S-N 曲線について検討して. 8. 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
(8) 圧. 力. 技. 術. 59. Table 4. みた。平滑試験片の疲労限度は式⑴によって評価. Coefficients for prediction of S-N curve from crack growth curves (l0=0.05mm, lf=2.0mm).. されることがあるが経験的なものであるので,必 ずしもその評価値に従って検討する必要はないと. σ MPa 320 305 290 275 260. 思われる。また,式⑵の場合は材料の抵抗値とし て HV を用いている経験値になっているが,破壊 5). 力学パラメータを考慮したものになっている 。そ こで,本報告では式⑵を用いて安全側での疲労限 度評価ができないかを検討した。村上と遠藤 8)は 種々の疲労試験において人工穴(欠陥とみなす)を. . Nf. - 0.26 - 0.18 - 0.37 - 0.32 - 0.36. 2.9 x 104 4.0 x 104 6.8 x 104 8.9 x 104 1.7 x 105. N'f = (1+)Nf 2.2 x 104 3.3 x 104 4.3 x 104 6.1 x 104 1.1 x 105. 有する試験片の疲労限度の低下について研究して いる。その結果から,S45C の引張・圧縮疲労試験. 500. (R=-1)では,寸法が穴径・深さともに 35μm な. 400. らば人工穴を有する試験片の疲労限度は平滑試験 村上 10) は疲労限度に影響するそのような人工穴や き裂の限界寸法と結晶組織の関係を考察している。. 1.1w. 300. [MPa]. の場合の値から低下しないと考察される。また,. Eq.(2): w = 234MPa. Eq.(12). 200. 0.9w. 上述の人工穴(欠陥)の area は 1041μm 2 である。 そこで,本報告ではその穴を表面長さ l0=50μm (area=982μm2) の半円形初期き裂に見立てて,そ のき裂を基準とした場合の疲労限度とそのき裂か. Experiment (Plain specimen). 100 4 10. らのき裂進展による疲労寿命を検討した。なお, 前述したように実験材料のパーライト・フェライ トの層の平均間隔は 50μm のオーダーであった。. Fig. 12. 105. 106 Nf [Cycles]. 107. Evaluation of fatigue life and fatigue limit of a plain specimen with initial crack (l0 =50μm).. き裂発生寸法 l0 を 50 μm とし,各応力振幅にお けるき裂進展曲線を前節で示した手法によって補. 式⑶と式⑼に基づくとき裂進展則は有限寿命域. 正すると Table 4 のように係数 β を求めることがで. の疲労寿命則と等価であり,それらの指数 n の値. きる。つまり,l0=50μm,lf =2mm,n=7.4, C1=6.0. によって疲労寿命に寄与する応力振幅の効果が評. とすると補正したき裂進展曲線から次のよ. 価され,S-N 曲線のこう配が近似される(なお,厳. うな S-N 曲線が求まる(Table 4 の N’f を Nf に改め. 密には各応力レベルの実験のき裂発生寸法とき裂. る) 。. 進展曲線は異なるが,平均的な整理によって式⑶. -23. x 10. と式⑼による整理が有効になることがあることに 7.4. 22. σ Nf=6.1 x 10. ⑿. は注意が必要である) 。 本研究の場合には,き裂進展に及ぼす介在物の. また,式⑵に area=982μm2,平均硬さ HV=170 を. 影響が小さいために,Fig. 9 に示した実験データと. 代入すると σw=234 MPa となる。Fig. 12 は式⑿と. 寿命の予測値に対数グラフ上で大きな差がない。. 式⑵を用いた σw をプロットで示す実験値と比較し. しかしながら,比較的大きな介在物がある場合に. たものである。有限寿命の補正値は実験値に比べ. は,き裂発生寸法が大きくなるのでその効果が疲. て安全側の値を与えている。また,l0=50μm とし. 労寿命に現れる。平滑材の場合において,寿命評. て式⑵の予測値より 10%低い値を採用すると疲労. 価や疲労強度を予測する場合,あるいは得られた. 限度も安全側で評価できると考えている。. データを用いて安全側の評価をする場合は,平均. JHPI Vol. 59 No. 2 2021. 9.
(9) 60. 炭素鋼における疲労限度と寿命の評価方法に関して. 的な値よりも大きめにき裂発生寸法を設定した方. 限界き裂寸法と同じと仮定すると,安全側の. がよいと思われる。その場合,上述の n の値や初. S-N 曲線を設定することが可能になると考えら. 期き裂長さに影響する因子を考慮した安全側での. れる。. 予測によって検討することも良いと思われる。ま. ⑷ 比較的大きい欠陥等が存在する場合の平滑材. た,欠陥材の疲労寿命,強度の傾向を調べておく. の疲労寿命の評価に関しても本報告の手法が応. のも平滑材の強度評価などに有効と思われる。疲. 用できると思われるので今後検討する。. 労限度を低下させる欠陥の寸法には限界値があり, 本報告ではその限界値に着目して疲労寿命や疲労. 参考文献. 限度を予測すると平滑試験片の寿命が安全側で評 1) A. J. McEvily, “Metal Failures”, John Wiley & Sons, Inc., (2002). 圧延材の場合には,結晶組織の層の寸法や最大介 2)中沢一,本間寛臣; “金属の疲労強度“,養賢堂, 在物寸法で安全側の予測ができる可能性がある。 (1982). 3) S. Nishida; “Failure Analysis in Engineering Applications”, 今後,介在物や欠陥などによって発生するき裂の Butterworth-Heinemann Ltd, (1991). 初期寸法が異なる場合に,標準的な S-N 曲線のこ 4)M. F. Garwood, H. H. Zurburg and M. A. Erickson; “Correlation of Laboratory Tests and Service Performance”, Inう配 n の値から疲労寿命を評価する方法を検討し terpretation of Tests and Correlation with Service, ASM, たい。 Publication, PA, pp. 1-77 (1951). 5) 村上敬宜,遠藤正浩; “微小き裂の下限界応力拡大 4.結 言 係数ΔKth に及ぼす硬さとき裂形状の影響”,材料, Vol. 35, No. 395, pp. 911-917 (1986). 本報告では,き裂発生寸法にばらつきがある材 6) S. M. Rahman, C. Makabe, K. Naka, A. Yamauchi, “Effects of Existence of Inclusions on Fatigue Strength”, Jour料の疲労試験において,基礎実験レベルで疲労寿 nal of High Pressure Institute of Japan, Vol. 58, No. 4, 命や疲労限度を安全側に評価する一つの手法を検 pp.209-215 (2020). 討した。得られた主な結果は以下のとおりである。 7)高尾健一,西谷弘信;”疲労き裂発生機構の表面連続 観察による検討”日本機械学会論文集 A 編,Vol.46, ⑴ 介在物寸法が比較的小さい本実験の材料で N0.402,pp.123-133 (1980). は,平均結晶粒径程度のき裂発生寸法を用いた 8)村上敬宜,遠藤正浩; “S45C 焼きなまし材のねじり き裂進展曲線の近似によって,き裂進展曲線か 疲労に及ぼす人工微小欠陥の影響(曲げとの比較) ”, 日本機械学会論文集 A 編, Vol.47, No. 415, pp.249-256 ら S-N 曲線を近似することが可能であった。 (1981). ⑵ 平滑試験片の疲労限度に影響を及ぼさない限 9) 西谷弘信,後藤真宏,皮籠石紀雄; “大応力下およ び小応力下におけるき裂伝ぱ則の検討” ,日本機械学 界初期き裂寸法と硬さ HV を用いて,安全側で 会論文集 A 編,Vol.50,No. 449,pp.23-32 (1984). 疲労限度を見積もることができた。 10)村上敬宜; “金属疲労 微小欠陥と介在物の影響” , ⑶ 限界初期き裂寸法と任意の応力振幅で発生す pp.1-12,養賢堂(1993) .. 価できる場合がある可能性を考察した。炭素鋼の. る初期き裂寸法は異なるので,初期き裂寸法が. 10. 圧力技術. 第59 巻第 2 号.
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