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商法二六条一項に関する判例の研究: 沖縄地域学リポジトリ

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Title

商法二六条一項に関する判例の研究

Author(s)

本島, 浩

Citation

沖大法学 = Okidai Hōgaku(7): 1-19

Issue Date

1989-03-31

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/6525

(2)

研究ノート ⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡ

商法

商法二六条一項に関する判例の研究 H商号の続用があるとされた判例 田営業譲渡における譲渡人の営業上の債権者の悪意について

四株主総会の特別決議を経ていない営業譲渡と商法一一六条一項

曰営業譲渡と現物出資 ロ営業譲渡がなされた諸判例 H営業譲渡を推認した諸判例 商号の続用について

Ⅲ営業譲渡の譲渡人の商号と譲受人の商号それ自体を対比して「商号の続用」を判断した諸判例

営業譲渡について はじめに Ⅲ譲渡人の商号と譲受人の商号とが全く同

一六条一項に関する判例の研究

である場合

本島

(3)

中心に整理したものである。 ⑤ 判例上、商法一一六条一項の立法趣旨について、次のように解されている。すなわち、商法一一六条一項は、営業譲渡が なされた場合、譲受人が譲渡人の商号を続用するときは、譲渡人の営業上の債権者は、通常営業主の交替を知らないた め、また知っていても譲渡人の債務が譲受人によって引受けられたものと考え、譲受人に対して何時でも権利行使がで g きるものと信ずることが常態であるとして、この第一二者の信頼を保護するために設けられたものである。つまり、商法 二六条一項は、営業譲渡人の債権者の外観に対する信頼を保護することにあると解する。 3 2 本稿は、商法一ヱハ条一項に関する諸判例を「営業の譲渡」および「営業譲渡の譲受人による譲渡人の商号の続用」を (1)本稿は昭和六三年十一月一一六日に琉球大学で開催された第七八回九州法学会で報告したものを加筆訂正したものである。 沖大法学第七号 四むすびにかえて 何譲受人の商号が譲渡人の商号に会社の種類を示すべき字句を附加した商号である場合 ㈹譲渡人の商号と譲受人の商号とが商号の主要部分において同一性があり社会通念上商号の続用ありと ありとされた場合 ②商号の続用の判断に営業譲渡の実態を考慮に入れた諸判例 ③商号の続用と屋号の続用 ロ商号の続用を否定した諸判例 はじめに 一一

(4)

(2)商法二六条に関する判例は下記の通りである。便宜上、各判例に番号を付した。 ①東京地判昭和一一一四年八月五日下民集一○巻八号一六三四頁 ②東京地判昭和一一一四年九月一六日下民集一○巻九号一九四四頁 ③福岡高判昭和三五年六月一五日高裁民集一三巻四号四○三頁(⑯の原審) ④大阪地判昭和四○年一月二五日下民集一六巻一号八四頁 ⑤神戸地判昭和四一年八月一一七日判時四七二号六二頁 ⑥横浜地判昭和四二年三月一一一一日判夕一一○八号一九六頁 ⑦大阪地判昭和四三年八月一一一日判夕一三六号一八一頁 ③東京地判昭和四五年六月三○日判時六一○号八三頁 ⑨大阪地判昭和四七年一月一一一一日判夕一一七七号一一一三八頁 ⑩東京地判昭和五二年一月一一一日判時八五三号九四頁 ⑪水戸地判昭和五三年三月一四日判時九○四号九六頁 ⑫神戸地判昭和五四年八月一○日判時九六四号二六頁 ⑬東京地判昭和五四年四月一六日判夕四一九号一五一頁 ⑭東京高判昭和六○年五月三○日判時一一五六号一四六頁 ⑮東京地判昭和一一二年一○月一一一一日下民集七巻一○号三○九一頁 ⑯最判昭和三八年三月一日民集一七巻一一号二八頁 ⑰東京地判昭和四二年七月一二日下民集一八巻七・八号八一四頁 ⑱札幌地判昭和四五年一一一月一五日判時六三一号九二頁 ⑲大阪地判昭和四六年三月五日判夕一一六五号二五六頁 ⑳東京地判昭和四七年八月一一一○日判時六九三号五三頁 ⑳東京地判昭和四九年一二月九日金商四四八号一七頁 ⑳東京高判昭和五○年八月七日金商四八八号三一一一頁 ⑳水戸地判昭和五四年一月一六曰判時九三○号九六頁 商法二六条一項に関する判例の研究 一一一

(5)

第三説第一説と第二説との折衷説とも言うべき見解であって、「営業の譲受人の責任に関する商法の規定(二六条。二八条1 筆者引用)は、『外観を信頼した者の保護の理論」と、『営業上の資産が帰属する者に営業上の債務も帰属すべきであるとい う理論」との折衷ともいうべき立場を前提として作られていると考える(上柳克郎・法学教室五二号八九頁)」と解する(大 隅健一郎・商法総則〔新版〕三一九頁)。 第四説「営業譲渡契約において、債務の帰属につき特約がない場合には、原則として譲渡人と譲受人は債権者に対して不真正 連帯債務の関係に立ち、重畳的債務引受が成立するが、債務の帰属につき特約(債務は移転しない)があった場合であっても、 譲受人が譲渡人の商号を続用したときは、対外的に企業の同一性が維持せられることを積極的に表示したものと認められるた め企業を根本において債務者を決するべきであり、譲受人も重畳的債務引受をしたと同一の効果を定めた」と解する(志村治 美・商事法務二五七号四一頁、同旨、山城将美・沖縄法学第一一号一一一一七頁)。 第五説「商号は営業主の名称であるが、その営業に密着している。営業譲受人が譲渡人の商号を続用する場合には、譲受人は、 対外的に、譲渡人の営業活動に参加するものとして取扱われる。合名会社の成立後加入した社員が、その加入前に生じた会社 についても責任を負うのと同様に、譲渡人の営業活動に参加した譲受人は、参加以前に生じていた営業上の債務についても責 任を負う」(小橋一郎・上柳克郎先生還暦記念『商事法の解釈と展望』一七頁)と解する。 (4)注(2)③④⑭⑳⑳各判例参照 ⑭東京地判昭和五四年七月一九日判時九四六号二○頁 ⑳大阪地判昭和四一年四月二日判夕一九一号一九四頁 ⑳最判昭和四七年一一一月二日民集二六巻二号一八三頁 (3)商法二六条一項の立法趣旨について学説上次のように解されている。 第一説判例と同様に解する見解で通説的見解である(鴻常夫・商法総則補正第二版一三五頁、大隅健一郎・商法総則〔旧版〕 一一三八頁、田中鰯Ⅱ喜多・全訂コンメンタール商法総則三○一頁等)。 第二説「営業上の債務は企業財産が担保となっていると認められるので、債務の引受をしない旨を積極的に表示しない限り、 譲受人が併存的債務引受をしたものとみなして、企業財産の現在の所有者である譲受人にも責任を負わしめた規定である」と 解する(服部栄一一一・商法総則〔第三版〕四一八頁、浜田道代・判例評論二○七号一一一一頁、近藤光男・神戸法学年報第三号八二 沖大法学第七号 頁 、.〆 。 四

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二営業譲渡について

商法二六条一項に関する諸判例について、「営業譲渡」で大別すると、H営業譲渡を推認した諸判例と、ロ営業譲渡

がなされた諸判例とに分類することができる。なお、「営業譲渡」との関連では、「現物出資」に関する判例がある・

H営業譲渡を推認した諸判例(①②③④⑤⑥⑦③⑨⑩⑪⑫⑬⑭)

これらの判例においては営業譲渡を推認するために次のような要因を挙げている。すなわち、Ⅲ営業目的、回本店

所在地、、役員、㈲電話等の設備、㈱建物、H従業員、Ⅲ得意先等である。

Ⅲ営業目的①②③④⑤⑥⑦③⑨⑩⑪⑫⑬⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との営業目的は同一である。

n本店所在地この本店所在地に営業所を含めると、①②③④⑤⑥⑦⑩⑪@の各判例において、譲渡人と譲受人との

本店所在地が同一であると言うことができる。

例役員①②③④⑤⑥⑦③⑨⑩⑪⑫⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との役員(配偶者も含める)が同一であ

ると一一言うことができる。 目電話その他の設備 一ということができる。

㈱建物①③④⑤⑥⑦③⑨⑪⑫⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との建物が同一と一一一一口うことができる。

h従業員②③④⑦③⑪⑫⑬⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との従業員が同一と一一一一□うことができる。

Ⅲ得意先②⑦⑫⑬⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との得意先が同一と一一一一□うことができる。

営業譲渡を推認した諸判例において、右記のように、営業目的、本店所在地、役員等が詳細に事実認定されているこ

商法二六条一項に関する判例の研究

①②③④⑤⑥⑦③⑨⑪⑫⑬⑭の各判例において、譲渡人と譲受人との電話その他の設備が同

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右Ⅲ回川の各事例において、商法二六条一項にいう「商号の続用」があると判示されている。これは、営業譲渡の譲 渡人の商号と譲受人の商号との間に商法二六条一項にいう「商号の続用」があると判断しうる場合に、営業目的、本店 所在地、役員、電話その他の設備、建物、従業員、得意先等詳細に認定することによって「営業の譲渡を推認した」と考 具 - . とは、商法二六条一項の立法趣旨を前述のごとく債権者の外観への信頼の保護と解することに起因するものと思われる。 次に、営業譲渡を推認した諸判例において、「営業譲渡を推認する」に際して商法二六条一項にいう「商号の続用」 の要件をどう考えるかが問題となると思われる。右諸判例における営業譲渡人の商号と譲受人の商号とを対比すると、 Z 次のように大別することができる。 3 Ⅲ全く同一か若干の字句の附加。削除がある事例、②「一呈士アンテナ株式会社」。「富士アンテナ株式会社」、④「株 式会社日本電気産業社」。「株式会社日本電気産業」、⑥「中村運輸株式会社」・「中村運輸株式会社」、⑩「曰本試 験検査株式会社」。「曰本試験検査株式会社」、⑫「株式会社キャロン」・「株式会社キャロン製靴」、⑬「株式会社 内外タイムス」。「内外タイムズ株式会社」、⑭「丸政園。丸政商店」・「丸政園・丸政商店」 回個人商人の商号に会社の種類を示す文字を附加した事例①「名和洋品店」。「株式会社名和洋品店」、⑤「ステ ッキ・オカダ」。「有限会社ステッキオカダ」、⑧「大阪屋」・「株式会社大阪屋」 川商号の主要部分が同一であって社会通念上商号の続用ありとされた事例、③「有限会社米安商店」・「合資会社新 米安商店」、⑨「建装工房かわきた」。「かわきた建装株式会社」、⑪「九大自動車運送店」。「九大運送株式会社」 H営業譲渡を推認したが「商号の続用」がないとされた事例⑦「いせ屋家具マート」。「有限会社四日市いせ屋家 沖大法学第七号 一ハ

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えられる。つまり、右諸判例において「商号の続用」が営業譲渡を推認する要因となっていると考えられる。そうだと ⑨ すると、右諸判例においては、「営業の譲渡を推認する」ことが重要であると思われる。

ロ営業譲渡がなされた諸判例(⑮⑯⑰⑱⑲⑳⑪⑳⑳⑭⑳艶においては、商法二六条一項にいう「商号の続用」があ

るか否かが問題となる。それについては後述一一一参照。 曰商法二六条一項にいう「営業譲渡」と「現物出資」 現物出資がなされた場合に、商法二六条一項が適用されるか否かに関する判例は⑳である。この判例において、「営 業を譲渡の目的とする場合と営業を現物出資の目的とする場合とでは、その法律的性質を異にするとはいえ、その目的 たる営業の意味するところは全く同一に解されるだけでなく、いずれも法律行為による営業の移転である点においては 同じ範嬬に属する」と判示した上で、「その出資者の商号が現物出資によって設立された会社に続用されているときは、 営業の譲渡を受けた会社が譲渡人の商号を続用している場合と同じく、出資の目的たる営業に含まれる出資者の自己に 対する債務もまた右会社がこれを引き受けたものと信頼するのが通常の事態と考えられるのである。したがって、同条

は、営業が現物出資の目的とな・た場合にも類推適用され」ろと判示し趣・本事議おいて、商法二六条一項を類推適

用して譲渡人の債権者による譲受人に対する請求を認容したことは首肯することができると思われる。 四株主総会の特別決議を経ていない営業譲渡と商法二六条一項 株主総会の特別決議を経ていない営業譲渡がなされた場合に商法二六条一項が適用されるか否かに関する判例は④と ⑬である。④の判例において、「商法第二六条第一項の営業譲受人の弁済責任が、債権者の外観に対する信頼の保護を 基調として、商法上特に認められた所謂外観法理の現われと解すべきものであってみれば、その営業譲渡が暇疵(株主 商法二六条一項に関する判例の研究 七

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沖大法学第七号 八 ⑬

総会の特別決議を経ていないこと)のため、本来無効であるべき場合にも、商法第二六条との関係においては、(営業

譲渡狸はその無効を抗弁として、その責任を免れることはできない」と判示し、また、⑬の判例においては、「商法

一一四五条一項一号による株主総会の特別決議を経ない営業譲渡行為は原則として無効であるとしても、本件のように営

業が復帰すべき実体が消滅しているような特別の事実がある場合には、営業が結果的に被告会社(営業譲受槌に帰属

することになるから、債権者保護を目的とする商法一一六条の適用に関して考えれば、事実上の営業譲渡の実体があるか

ぎり、かかる営業譲渡についてもなお、同条項の適用を肯定できる」と判示した。商法一一六条一項の立法趣旨を債権者

の外観への信頼の保護と解する判例の見解にあっては、株主総会の特別決議を経ていない営業譲渡に商法一一六条一項を

適用したのは首肯することができる。学説は、右の問題について商法一一六条一項の適用を認め額

田営業譲渡における譲渡人の営業上の債権者の悪意について

判例上商法二六条一項は営業譲渡における譲渡人の営業上の債権者の外観に対する信頼を保護するための規定である

と解するが、このような商法一一六条一項の立法趣旨の理解に対して、悪意の債権者は商法一一六条一項により保護されな

(迎 いのではないかの疑問が学説上出されている。

債権者の悪意に関する判例は⑫⑭⑬@である。⑫の判例においては、「営業譲渡の譲渡人と譲受人との間には実質的

に企業体としての同一性ないし連続性が明らかにみられるから、譲受人の抗弁(債権者は譲受人が債務引受をしていな

ぃことを知っていたこと)は信義則に反す麺と判示し、また、⑭の判例においては、「〔債権者胸個々の具体的な

知・不知を問わず」と判示した。⑫と⑭の各判例においては、債権者の悪意を問題としていない。⑬の判例において、

債権者の悪意が問題となるとした上で、「債権者の悪意は、同条一一項の登記または通知に代わる免責事由であるから、

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営業の譲渡のあった時から登記または通知をしたならば免責を得たであろう時点までに生じた場合に限られるものと解 すべき」であると判示し、また、@の判例においては「営業譲渡の事実および営業譲受人による債務の引受がなされて

いない事実を知っている営業譲渡人の債権者については、商法の右規定〔商法二六条一興〕の適用はないものと解する」

と判示した。⑬と@の各判例においては、債権者の悪意が問題となり、悪意の債権者は保護されないことになる。 右に記したように、「債権者の悪意」に関する判例は二分している。 商法一一六条一項の立法趣旨について、通説的見解に立った上で、「債権者の悪意」に関する問題をどのように解する

かについて、学説上、悪意の債権者は商法二六条一項によ・て保護されないと解する見檸、悪意の債権者であ・ても

商法一一六条一項の保護を受ける見窪に分れている.

(5)前掲注(2)参照、なお、江頭憲治郎教授は「商法の昭和一一一一年改正法が、とくにドイツ法と区別して、わが国では『営業譲

渡」を要件としたとは考えがたい」と述べられる(法学協会雑誌九○巻二号一○三頁)。

(6)なお、⑬の判例は、営業目的の同一性、すなわち「日刊紙の発行」に特色がある。「日刊紙の発行事業にとっては、新聞とし

ての同一性、発行の継続性、編集、販売、広告という業務活動の有機的組織の一体性が特に営業の同一性上重要である」と判示

して、営業譲渡を推認した・右判旨について渋谷達紀教授は、「判旨が業種の特殊性に注目した点はまったく正当である」(商

事判例研究昭和五五年度第九回本件判例評釈ジュリスト七九六号一○七頁)と評されている。

(7)この分類は、大澤功・商法〔総則商行為〕判例百選(第二版)五六頁(⑯判例解説)、大塚龍児・「営業譲渡と取引の安全」

金商五六五号五九頁、丸山秀平・判例評釈(⑭判例)金商五九三号四七頁等による分類であって、後述の譲受人による譲渡人の

商号の続用の分類とは若干異なる。 (8)前の「」は譲渡人の商号、後の「」は譲受人の商号である。

(9)なお、営業譲渡がないとされた事例として、福岡高判昭和一一一三年一一一月一九日高裁民集一一巻二号一五一頁、東京地判昭和四三

商法二六条一項に関する判例の研究 九

(11)

(Ⅳ)服部栄三 (旧)筆者引用 (岨)筆者引用 (肥)大隅健一郎。前掲一一一一八頁、矢沢惇。②判例評釈b商事判例研究昭和一一一四年度七一事件三五一頁、渋谷達紀・前掲・ジュリス (妬)筆者引用 ト七九六号一○七頁、反対、米津昭子。②判例評釈・法学研究三六巻一一号一一一九頁。なお、渋谷教授は、⑬判例評釈(前掲・ジ ュリスト七九六号一○七頁)において、個別具体的な事情の存否に言及する判旨について、「慎重な解釈態度をとる必要はない」 (u)筆者引用 (田)筆者引用 「株式会社鉄玉組」)になった。民法七一五条にもとづく損害賠償請求権を有する者が新会社にその権利を行使した事案である。 危)民法七一五条にもとづく損害賠償債務を負担した旧個人企業(商号「鉄玉組」)が、後に株式会社組織になり、新会社(商号 件評釈。法学協会雑誌九○巻二号一○一頁)と解する見解に分れる。 と必ずしも認定し法律構成しなくとも良い、という判示をなしたものにとどまる、とみるべきではなかろうか(江頭憲治郎・本 立場と、『従来下級審において商法二六条が適用されてきた実態を肯定したまでのことであり、その実体をさして「営業譲渡」 評釈民商法雑誌六七巻四号一○三頁、同旨、平田伊和男・本件解説。商法〔総則商行為〕判例百選(第二版)五八頁)と解する 六条との関係につき未開拓の所へ、新たに同条の類推適用を肯定した新解釈を打ち出した点に特色を有」する(志村治美・本件 (u)本件判旨について、「これまで学説あるいは判例が、営業の現物出資によって設立された会社が商号を続用する場合と商法二 (蛆)前掲注(2)参照。 と述べられる。 六条一項を適用してもよかったのではないかと思われる(同旨、喜多了祐・商法総則〔店舗営業法上巻〕’一二五頁)。 旧会社と新会社との間に営業の譲渡がないとされた。しかし、後者については、営業譲渡を推認した諸判例からみると、商法二 が旧会社の店舗、設備、従業員等すべて使用して、旧会社の同種の営業を行い、また旧会社の役員の一部が同じである場合に、 が整理を大方終ったこと等、後者は、旧会社(商号「株式会社広文館書店」)が倒産し、新会社(商号「有限会社広文館聿帛巴) 年五月一一一○日金商二六号一七頁(控訴審判決東京高判昭和四五年一一一月四日判夕二五一一号一一七二頁)がある。前者は、旧会社 沖大法学第七号 。前掲四一八頁、上柳克郎・前掲八九頁、志村治美商事法務研究二五七号四一一頁、小橋一郎・前掲一六頁等。  ̄ ○

(12)

(卯)筆者引用 (Ⅲ)筆者引用

(皿)悪意の意義について「営業主体の交替を知っていることではなく、債務が営業譲渡人に移転していないことを知っている」とい

う意味に解する立場(渋谷達紀「企業の移転と担保化」竹内昭夫・龍田節編現代企業法講座1一一一一三頁)と、「営業主の交替

があったことのみならず債務引受がなされていないことを知っている」と解する立場(丸山秀平。前掲四九頁)があるが、いず

れにせよ、債権者が悪意の場合には商法一一六条一項の保護は受けられないと解する(渋谷達紀・前掲一一一一三頁、丸山秀平・前掲

(羽)「商法一一六条一項は、外観法理を基礎とするが、営業譲渡と商号の続用によって、対第三者に一律に,当然生ずる法律上の一稟

任であり、それを免れるために一一六条二項の登記または通知が用意されている以上、そのように〔商法一一六条一項は営業譲渡の

事実と債務引受のない事実につき悪意の債権者には適用されない-筆者引用-〕解すべきではあるまい」と解する(大塚龍児。

一別掲六二頁)。

債権者の悪意の場合に商法一一六条一項による保護を受けるか否かに関して、右のように見解が分れるが、商法一一六条二項は、

商法一一六条一項に定める営業の譲受人の免責事由(登記または通知)を定める。商法一一六条二項に定める登記には商法一一一条の

適用があると解されている(大隅健一郎。前掲一一一一八頁、鴻常夫・前掲一一一一五頁)。そうとすると、営業譲渡が譲渡人。譲受人

の間でなされ、営業譲渡の譲渡人の債権者は営業譲渡の事実を全く知らない、しかるに譲受人が譲渡人の商号を続用し、その上

で営業譲渡後遅滞なく責任を負わない登記をすると、右債権者に対して登記をもって対抗しうることになる。商法一一六条二項は

「営業の譲受人の保護を営業上の債権者のそれよりも優位に考えた規定」(鴻常夫・前掲一一一一五頁)であると解されたとして負

商法一一六条二項は遅滞なく責任を負わない旨を登記された営業上の債権者にはかなり厳しい規定と思われる。営業上の債権者は

常に登記を見ているわけではない。このような譲受人の免責事由に加えて債権者の悪意を問題とすることは疑問に思われる。大

塚教授の見解が妥当と思われる。 四九頁)。 れにせよ、 商法二六条一項に関する判例の研究

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s Ⅲ譲渡人の商号と譲受人の商号が全く同一である場合②「富士アンテナ株式会社」・「富士アンテナ株式会社」、 ⑳ ⑥「中村運輸株式会社」・「中村運輸株式会社」、⑩「曰本試験検査株式会社」・「曰本試験検査株式会社」、⑬「株 ⑳ @ 式会社内外タイムス」・「内外タイムズ株式会社」、⑮「通運産業株式会社」・「通運産業株式会社」、⑪⑳「株式会 社ブーケ」・「株式会社ブーケ」。これらの諸判例においては当然に商号の続用があることになる。 回譲受人の商号が譲渡人の商号に会社の種類を示すべき字句を附加した商号である場合①「名和洋品店」・「株式 ④ 会社名和洋品店」、⑤「ステッキオカダ」・「有限会社ステッキオカダ」、③「大阪屋」・「株式会社大阪屋」、⑳「鉄

玉組」・「株式会社鉄玉魎・最高裁判所は、⑳の事案について、「営業の譲渡を譲り受けた会社の商号が譲渡人の商

号に会社の種類を附加したにとどまるものである場合にはいまだに商号の同一性を失わないと解される」と判一私製堀

川譲渡人の商号と譲受人との商号が主要部分において同一性があり、社会通念上商号の続用があるとされた場合 沖大法学第七号 一一一 三商号の続用について 営業譲渡の譲受人による譲渡人の商号の続用について、諸判例を、H商号の続用があるとされた諸判例と、ロ商号の 続用がないとされた諸判例とに分類することができる。また、Hの諸判例を、Ⅲ譲渡人の商号と譲受人の商号それ自体 を対比して商号の続用があるとされた諸判例と、②営業譲渡の実態を考慮に入れて商号の続用があるとされた諸判例と

に分類することができ鞄なお、③「屋号の続用」に商法二六条一項が適用された判例がある。

H商号の続用があるとされた諸判例 ⑪譲渡人の商号と譲受人の商号それ自体を対比して商号の続用があるとされた諸判例は、また、次のように分類する ことができる。

(14)

③「有限会社米安商店」・「合資会社新米安商塵、⑨「建装工房かわきた」・「かわきた建装株式会社」、⑪「丸大

自動車運送店」・「丸大運送株式会社」、⑲「一一一洋タクシー株式会社」・「三洋タクシー株式会社」、⑳「鹿島運輸合 愈)

資会社」・「鹿島運輸株式会潅の各判例がこの場合に含まれると思われる。

②営業譲渡の実態(すなわち譲渡人と譲受人との間での営業目的、本店所在地、役員、電話その他の設備、建物、従

業員、得意先など)を考慮に入れて商号の続用があるとされた諸判例④「株式会社日本電気産業社」・「株式会社日

本電気産業」、⑫「株式会社キャロン」・「株式会社キャロン製靴」、⑰「第一化成株式会社」・「第一化成工業株式

会趣、⑬「マルト食品興業株式会社」・「マルショウ食品興業株式会社」、⑳「有限会社笠間電化センター」・「株

式会社笠間家庭電化センター」、⑳「旅館緑風閣」・「株式会社緑風閣」。これらの各判例では、商法一一六条一項の商 号の続用があるとされているが、商号の続用があると判断するに際して、営業譲渡の実態を考慮に入れているところに 特色があると思われる。 ところで、右各判例』 ところで、右各判例における商号の続用を考察すると、④の判例では譲受人の商号が譲渡人の商号の文言のうち「社」 を削除されたものであること、および⑫の判例では譲受人の商号が譲渡人の商号に営業目的である「製靴」を附加した ものであること(譲渡人と譲受人の営業目的は全く同一である)から、これらの判例にあっては、営業譲渡の実態を考 慮に入れるまでもなく、前述のⅢ川の全く同一である場合に該当すると評価できると思われる。また、⑳の判例で は個人企業が会社企業に組織を変更した事例であって、同様に前述のⅢ回に該当するのではないかと思われるが、同

判例において「商号の続用を実質的な同一企業の継続の色彩の濃度の徴表として把握すべきである」と判示されてい樋

ので、Ⅲ回の場合に含めることは難しいと思われる。また、⑳の判例では、「笠間電化センター」を商号の主要部分で

商法二六条一項に関する判例の研究 一一一

(15)

あると把握できるので、前述のⅢhの場合に該当すると思われる。そうとすると、②商号の続用の有無の判断に営業譲 渡の実態を考慮に入れた判例は、⑰⑬⑳であることになる。 ③屋号が続用された場合に商法二六条一項が適用されるか否かに関して、⑳⑭の各判例がある。@は、譲渡人(株式 会社下田観光ホテル海山荘)が自己の商号を屋号「下田観光ホテル」として使用していたが、譲受人(大洋興産株式会 社)が同屋号を営業譲受後も引き続き使用した事例であり、また⑭は、前譲渡人(有限会社丸政園)が屋号として使用 した「丸政園与・「丸政商店」を、譲受人(個人)が営業譲受後も引き続いて使用し、後に同個人が同営業を譲渡した ところ、譲受人(有限会社朱鷺)が譲渡人(個人)の使用した右屋号「丸政園」・「丸政商店」を引き続いて使用した事案であ る。@の判例では、「商法二六条一項にいう『譲渡人ノ商号ヲ続用スル場合』とは、譲渡人の商号を譲受人が『商号』 として続用する場合だけでなく、譲渡人が自己の商号を同時に営業自体の名称(この意味で「屋号」と呼ぶことにする) としても使用していたものであるときは、譲渡人の『商号』を譲受人が『屋号』として続用する場合をも包含するもの と解釈するのが相当である」と判示した。また、⑭の判例では、「営業譲渡の前後を過じて営業の外形にほとんど変化 がなく、屋号が商取引上当事者を特定する上で重要な機能を営んでいる場合において、営業譲受人が譲渡人の屋号を続 用するときは、営業債権者が営業主の交替を容易に知り得ないことは、狭義の商号が続用される場合と何ら異ないと考 えられるから、このような場合も商法二六条一項にいう『譲渡人ノ商号ヲ続用スル場合』に含まれると解する」と判示 した。 ところで、右両判決の判旨について、「二六条一項の適用を拡張したのではなくて、むしろその適用についてあくま でも譲渡人の商号との一定の同一性が屋号についても要求されている限りにおいて、二六条一項の適用限界を示してい 沖大法学第七号 一 四

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ると評価した趣、または「本判決は、営業譲渡人は商号を屋号として使用していたという事実を前提にして譲受人の

屋号使用について商法一一六条一項を適用していることである。もし、営業譲渡人の商号と屋号が全く別個のものであっ

た場合まで本判決の射的距離が及ぶかどうかは疑問である。仮に、及ばないとすれば、本判決は、適用一一六条一項の適

用範囲を屋号まで拡大したのではなくて、その適用を譲渡人の商号と屋号の同一性を前提とする適用限界を示したもの

と位置づけられることになる麺と評価されてい鞄

(別)従来の分類については注(7)参照。 (妬)②の判例評釈矢沢惇・商事判例研究昭和一一一四年度七一事件三四九頁、米津昭子・法学研究一一一六巻一一号二一五頁、本間輝雄。 商事法判例研究昭和皿~弘年京都大学商法研究会三八事件二一一一六頁いずれの評釈においても判旨賛成。 (邪)⑩は、譲渡人は商号を「日本試験検査株式会社」、営業目的を理化学機械による各種試験検査の設計。施行など、東京都中央 区に本店をおく会社であり、譲受人は商号を「第三広告株式会社」、営業目的を広告・宣伝・印刷・出版など、東京都新宿区に 本店をおく会社であるが、譲渡人がその支店を廃止した後、譲受人がその商号・営業目的を譲渡人のそれに変更し、また本店を 譲渡人の支店所在地に移したという事案である。なお、本判決では営業譲渡が推認された。 (〃)⑬の判例評釈渋谷達紀・商事判例研究昭和五五年度第九回ジェリスト七九六号一○六頁判旨賛成。 (肥)⑮は、名板借人の商号の続用の場合である。通運産業株式会社(名板貸人)が株式会社丸勉(名板借人)にその商号の使用を 許諾したところ、名板借入たる株式会社丸勉が明和産業株式会社に営業を譲渡し、明和産業株式会社が名板貸人の商号を使用し て取引を行ったという事案である。 (別)①の判例評釈松岡誠之助・ジュリストニ五六号八五頁判旨賛成。 (釦)⑳の判例評釈江頭憲治郎・法学協会雑誌九○巻一二号一○二頁、志村治美・民商法雑誌六七巻四号九八頁、判旨賛成。⑳の 判例解説として、吉井直昭・法曹時報二五巻三号二五頁、平田伊和男・前掲五八頁。 (別)この判旨については、学説上異論をみないと思われる。 (釦)③の判例評釈松岡誠之助・ジュリストニ六九号九六頁。判旨賛成。 宝)⑳は、譲受人の商号は当初「山根運輸株式会社」であったが営業譲渡後一五日経過した時点で「鹿島運輸株式会社」に商号変 商法二六条一項に関する判例の研究 ■■■■■■■■U■ 五

(17)

ロ商号の続用を否定した諸判例

商号の続用を否定した判例として⑦「いせ屋家具マート」・「有限会社四日市いせ屋家具」、⑯「有限会社米安商店」・

「合資会社新米安商店」がある。⑦の判例では弓商号の続用は、取引の社会通念上従前の商号を継続使用していると認めら

れる場合をいうのであって、単に類似の商号を使用するにすぎない場合は含まれないと解されるところ、この基準で判

断すると、商号の続用は認められない」と判示した。また、⑯の判例では、「会社が事業に失敗した場合に、再建を

図る手段として、いわゆる第一一会社を設立し、新会社が旧会社から営業の譲受を受けたときは、従来の商号に『新」の

(詔)志村治美。⑭判例評釈商事法務二五七号四二頁。 (羽)しかし、⑭判例は⑳判例と異なり、二度の営業譲渡がなされた事案である。最初の営業譲渡における譲受人が個人であるが、そ の個人が譲渡人の商号と同一性のある屋号を商号として使用したということができるならば、志村教授の前述の評価と一致する ことになるのだろうか。 (師)丸山秀平・前掲五一頁。 (詔)志村治美。⑭判例評釈 (弧)これらの各判例において商号の類似性を問題とするべきであるのか否か見解が分れる。類似商号であっても営業譲渡の状況か ら商号の続用を肯定する立場(近藤光男・前掲八七頁)および類似商号であっても事実上または結果的にのれんの継続利用があ れば二六条を適用してよいとする立場(浜田道代・前掲一一一一頁)があり、これによれば、譲渡人の商号を譲受人の商号との類似 性を問題とするが、他方、商号の保護の問題ではないから商号の類似性を問題にすべきではないとする立場(大塚龍児・前掲六 一一頁)がある。後者の立場を妥当と考えろ。そうとすると、大塚教授が言われるように、譲渡人の商号と譲受人の商号が「社会通 念上同一といえるか否かにかかっている」(大塚・前掲六一一頁)。 (弱)⑰の判例評釈佐藤庸ジュリスト四五五号一二○頁判旨疑問。 (弱)吉井直昭・前掲一二一頁注曰参照。 更したという事案である。 (弧)これらの各判例におい一 沖大法学第七号 ’一ハ

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字句を附加して用いるのが通例であって、この場合「新』の字句は、取引の社会通念上は、継続的字句ではなく、却っ

て新会社が旧会社の債務を承継しないことを示すための字句であると解せられる。本件において、上告会社の商号であ

る『合資会社新米安商店」は営業譲渡人である訴外会社の商号『有限会社米安商店』と会社の種類を異にしかつ、『新」

の字句を附加したものであって、右は商法一一六条の商号の続用にはあたらないと解するのが相当である」と判示した。

ところで⑦の判例については、Ⅶ営業譲渡人の商号の主要部分は「いせ屋家具」であろうと思われること、口譲受

人の商号にこの主要部分が使用されていること、州譲受人の商号に会社の種類を示すべき字句が附加されていること、

目「営業譲渡」について、営業目的・営業所。仕入先・得意先。電話等の同一性、役員(譲渡人の妻)などを事実認定

した上で、これを推認したこと等の点から商号の続用について営業譲渡の実態を考慮して商号の続用ありと判断してよ

かったのではないかと思われる。

次に⑯の右判旨についてこれに賛成する見寧あるが、これに反対する見騨多数説といえよう・境一郎教授は、

本件評釈において、「会社が事業に失敗した場合に、再建を図る手段として、第二会社を設立して、新会社が旧会社の

営業を譲受けたとき従来の商号に『新」の字句を附加して用いることが多いからといって、ただちにそのことからこの

ような効果を積極的に認めることは飛躍があるように思える。『新』の字句が附加されるのは、必ずしもこのような場

合に限られるとはいえない」、「最高裁が『新』の字句について商号続用の場合の譲受人が譲渡人の債務について責任

⑰)

を負わない旨の登記をした場合と同様の積極的効果を認めたことに行き過ぎを感ずるのである」と述べられる。

それでは、「新」の字句をどのように解すべきか。この問題について、松岡誠之助教授は、「『新」とか『新社」な

どの継承的表示を使用しても、営業譲受人は譲渡人の債務を負担する意思をもたず、債権者一般もそのことを承知して

商法二六条一項に関する判例の研究 一 七

(19)

沖大法学第七号 一八

いる事例が考えられなくもない。このような事情のもとでは同条〔二六錘を適用して債権者を保護する要はない。」、

「しかし、継承的表示を使用するときは実際には営業譲受人と債権者のいずれの側でも債務の承継があると意識してい

ることが多いと思われること、また、譲受人が債務を負担したくなければ同条一一項の登記または通知をなしうることか

ら考えれば、従前の商号に継承関係を示すべき字句を附加した新商号を使用する場合も同条の関係では商号の続用であ

(じ

るという判旨の見解は、一般論とまではいかなくとも、通例の場合には妥当するといってもよいのではないかと思われ

(翌

ろ」と述べられる。『新』の字句を解する場合には、右松岡教授の見解が妥当と思われる。その上で、⑯の判例では、

原審において営業譲渡が推認されているので営業譲渡の実態の面からも商号の続用があると解するのが妥当であると

恩われ鞠)

(蛆)前掲注(2)③判例⑯の原審判例である。.

(“)松岡誠之助③判例評釈ジュリスト一一九六号九七頁。

(妬)松岡誠之助・前掲九八頁、境一郎・前掲九一一頁。 評釈民商u (似)境一郎且 (蛆)筆者引用。

(釦)喜多了祐。前掲一一一一五頁、鳩常夫教授は、本件判旨は「社会経済の常識に合致した至極穏当な考え方を示したものとして支持

すべきものと思う」(ジュリスト一一八八号一○四頁)と述べられる。また、実方正雄教授は、本件評釈において、「いわゆる第

二会社が、旧会社の債務を棚上げするため、従来の商号に『新」の字句を附加して使用するのが最近の慣行であることを考慮す

れば、最高裁がいうように、『新」というのは、新会社が旧会社の債務を承認しないことを示すための庶断的字句である、と解

するのが適当であろう」と述べられる(法律時報三五巻一一一一号一○二頁)・

(虹)大隅健一郎・商法総則〔新版〕一一一一一○頁注(m)、服部栄一一一・前掲四一八頁注(3)大澤功。前掲五七頁、境一郎。⑪判例

評釈民商法雑誌四九巻五号八七頁。 (似)境一郎・前掲九二頁。

(20)

四むすびにかえて

商法二六条一項に関する諸柵鵬椴「営業譲渡」、「商号の続用」を中心に整理したが、営業譲渡を推認する諸判例にお

いて「商号の続用」が営業譲渡を推認する要因となっていること、および商号の続用があるとする諸判例において「営業

譲渡の実態」を考慮に入れていることを指摘できるのではないかと思われる。このことは、商法一一六条一項の適用にあた

っては、営業譲渡と商号の続用の双方から考慮する余地があることを示すものと思われる。

(妬)江頭教授は、商法一一六条一項に関する諸判例について、「過去、商法一一六条一項が、その予想する通常の意味で『営業譲渡』

という実態が存する場合に適用された例は、下級審をつうじてすら、まだ一件もないといっても過一一一一口ではないことである」と述

、、、、、、、、

くられる(前掲一○○頁)・江頭教授は、「商法一一六条は、その本来の趣]曰は、『企業結合」のなかで『営業譲渡」という特定

の情況をとらえ、そのなかでまた「商号続用』という特定の情況をとらえて、Ⅲ契約当事者混同および旧債務引受の存在に対す

る相手方の信頼を保護することにある」とされる(ジュリスト五一一一一一号一四一一頁)。

(〃)蓮井良憲教授は、「判例は背後に法人格否認の法理を肯定し、これをふまえたうえで規範解釈の立場を貫き、同条〔商法一一六

条-筆者引用〕を拡張解釈して旧会社の債権者の救済を図ろうとして」いると述べられる(「債務会社の債務免脱のための第一一

会社の設立」。金商五五○号五九頁)。 商法二六条一項に関する判例の研究 一 九

参照