環境化学 Vol.31 (2021)
研究ノート
[環境化学(Journal of Environmental Chemistry)Vol.31, pp.55-63, 2021]
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新潟市における大気降下物中水銀の形態別測定結果について
大野 峻史,小林 智裕,松﨑 彩実,棚橋 成一,家合 浩明
新潟県保健環境科学研究所(〒950-2144 新潟県新潟市西区曽和314番地 1 ) [2020年12月21日受付,2021年 3 月 2 日受理]Observation of Mercury Species Concentration in Atmospheric Deposition in Niigata City in Japan
Takashi ONO, Tomohiro KOBAYASHI, Ayami MATSUZAKI, Seiichi TANAHASHI and Hiroaki YAGOH Niigata Prefectural Institute of Public Health and Environmental Sciences
(314-1 Sowa, Nishi, Niigata, Niigata 950-2144) [Received December 21, 2020; Accepted March 2, 2021]
Summary
Mercury concentrations in the atmospheric deposits were measured from April 2017 to April 2020 in Niigata City. As a result, total mercury concentration in the weighted average precipitation was 5.7±3.6 ng/L for total mercury, 2.8± 3.0 ng/L for dissolved, and 2.9±2.0 ng/L for particulate. A high concentration of dissolved mercury was observed in June 2017, suggesting an increase in the concentration of gaseous oxidized mercury in the atmosphere. In addition, Asian dust was observed when the concentration of particulate mercury and the concentration of particulate matter increased, which may have affected the concentration of mercury. The amount of atmospheric deposition increased in winter when there was much rainfall and snow, and the concentration of dissolved mercury tended to increase.
Key words: mercury, atmospheric deposits, Asian dust, transboundary pollution
1.はじめに
水銀は常温で液体である唯一の金属元素であり,揮発性が高く, 化石燃料の燃焼及び廃棄物の焼却,火山活動,地表面からの揮発等 によって大気中に放出されている。それらの一部は降雨等により沈 着し,土壌中や水域圏へ移行し,再度大気中に放出されることで環 境中を循環している。また,工業利用としては,アマルガム法によ る金の精練の他,農薬や殺菌試薬としての利用,乾電池,蛍光灯と しての利用等,様々な用途で使用されてきた1)。しかし,メチル水銀 が生体に蓄積することで人体に有害であることが知られて以降,水 銀を使用しない製品や工業工程の採用により,1960年代に年間 2,500 tあった国内の水銀需要は,近年は 10 t 前後で推移している1)。 最近では,国連環境計画において水銀の越境汚染に関連した議論 が行われている2)等,水銀は広域に拡散する大気汚染物質として関 心が高まってきている。また,環境中への水銀の排出削減を目標と した「水銀に関する水俣条約」が国際会議で採択され,2017年に発 効した。これにより水銀製品の使用及び輸出入の規制が始まり,水 銀の使用量は減少とともに環境中の水銀濃度がどう推移していくの か注目されている。Global mercury assessment 20182)によると,2015年時点における
世界における水銀の大気放出量は東アジア及び東南アジア圏が39% を占め,当地域における放出量の内訳は石炭燃焼が27%,非鉄金属 精錬が36%,廃棄物等によるものが10%,金鉱採掘によるものが 25%となっている。大気中の水銀は揮発性かつガス状の金属水銀が 9 割以上を占める3) が,金属水銀は反応性が乏しいため,大気中に 2.7∼ 6 ヶ月程度の長い期間滞留し4),越境汚染として周辺国に与え る影響が懸念されている。 国内では大気汚染防止法において2018年(既設施設は2020年)か ら水銀排出施設の規制が始まり,今後どのように大気中の水銀濃度 が変化していくか注目されている。環境大気中の水銀は,環境中の 有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる 数値として 40 ng/m3 が設定されており,各自治体が有害大気汚染物 質モニタリング調査により測定している。また,環境省では大気中 水銀バックグラウンド濃度等のモニタリング調査として,人為起源 が近くにない辺戸岬及び男鹿半島で大気及び降水中の水銀測定を 行っている。降水中の水銀濃度について基準値等は設定されていな いが,降水は大気中水銀の除去を行う重要な媒体であり,降水によ る沈着や越境汚染との関係を論じた研究がいくつか行われている5-7)。 大気中に存在する水銀は主に金属水銀,酸化態水銀及び粒子態水銀 の形態で存在している。このうち水への溶解度が低い金属水銀は降 水によって除去されにくいため大気中に長く滞留する。一方で,酸 化態水銀や粒子態水銀は降雨によって容易に除去され,地表への沈 着,河川や海へと流れ環境中を循環する。形態別に水銀を測定する ことは水銀の循環をよく理解する上で極めて重要であり,大気中水
行われている。一方で,降水時開放型採取装置を用いて採取した降 水や常時開放型採取装置(バルク方式)で採取した大気降下物(降 水及び乾性降下物)に関しては総水銀として測定されていることが 多く,これらの結果からは湿性沈着量の把握に用いること以外は考 察する点が少なく,水銀の挙動について論じることは難しい。また, 降水中の水銀を各形態に分けて測定を実施した場合においても各形 態の割合の議論が主であり,その濃度及び沈着量の変化について考 察したものは少ない。さらに近年の国内における形態別の降水又は 大気降下物の水銀測定事例は熊本県水俣地区の沿岸部11)や滋賀県の 北部山中7)等報告例が少なく,水銀の動態を議論するには様々な地 域で長期間のデータが必要である。 著者らはこれまで水銀の環境中での動態把握を目的として,新潟 県内の河川水の形態別の水銀測定を行い,その濃度レベルや存在形 態の把握を行ってきた12)。本稿では,同手法を用いて大気降下物中 の水銀を 3 年間にわたって形態別に測定し,濃度変動や沈着量等に ついて考察したので報告する。
2.方法
2.1 調査方法 本調査は Fig. 1 の 1 に示した新潟県保健環境科学研究所の屋上に おいて,2017年 4 月∼2020年 4 月にかけて大気降下物の採取を行っ た。本調査地点は日本海沿岸の新潟県新潟市に位置し,周辺は田畑 に囲まれており,半径 10 km 以内に火山等の自然発生源や水銀を大 気中に排出する施設はない13)。試料の採取はポリロートとガラス瓶 を組み合わせたバルク方式の常時開放型サンプラーで行った。水銀 は揮散や吸着等による損失が問題となる物質であり,対策として塩 酸を添加する, 4 ℃以下に保存する,L-システインを添加する等の 対策が報告されている14,15)。本研究の揮散防止対策としては,35% 塩酸(富士フイルム社製有害金属測定用)をあらかじめ 2.5 mL 添 加したガラス瓶に試料を採取し,降雨観測日の翌朝に回収し,採取 した試料の塩酸濃度が 2 %になるように塩酸を添加し冷蔵保存した。 また,積雪時にはロートの円柱状に雪を切り抜いて回収し,室温約 18℃で自然溶解させた。なお,本採取方法では採取装置は常時設置 降水で洗い流されて試料に含まれており,試料回収時にも試料で共 洗いを行うことでロート上に付着した粒子状物質等を回収した。 これらの試料は約 2 週間分の試料全量を混合したものを 1 試料と し,分析に供した。 2.2 分析方法 採取した試料は,ADVANTEC製の孔径 0.45 μmのメンブランフィ ルターを用いて吸引ろ過し,ろ紙上に残った試料を不溶解性総水銀, ろ液を溶解性総水銀としてそれぞれ分けて定量した。また,2018年 4 月からろ紙上の不溶解性物質の重量も測定16)し,不溶解性物質に 含まれる水銀濃度(μg/g)を算出した。なお,使用する器具は直前 に0.5%過マンガン酸カリウム溶液で洗浄することによりブランクの 低減を図った。本研究ではあらかじめ塩酸を添加してあるが,溶解 性水銀は粒子態物質への吸着,不溶解性水銀は塩酸によって溶け出 る可能性が考えられる。このことを確認するために試料に塩酸を 2 %になるように添加し, 2 週間後にろ過を行い測定したところ採 取直後に測定した水銀濃度に対して溶解性では 5 %増加し,ほぼ影 響がなかったことに対し,不溶解性では14%減少した。このことか ら,粒子態水銀濃度は若干過小評価している可能性がある。 2.2.1 溶解性総水銀分析法 「水銀分析マニュアル」17)の水試料の項に従い,ろ液試料 1 L に 10 M硫酸 5 mL 及び0.5%過マンガン酸カリウム溶液 2.5 mL を加え, 5 分間放置後 10 M 水酸化ナトリウム溶液 10 mL を加えた。その際 に試料が中性になるまで 1 M 水酸化ナトリウムを少量ずつ加えた。 その後10%ヒドロキシルアミン塩酸塩溶液 2.5 mL を添加し,過剰 の過マンガン酸カリウムを還元し,20分間放置後,10% EDTA 溶液 を 5 mL,0.01%ジチゾン−トルエン溶液 10 mL を加えて 1 分間振 とうし,水銀を有機層に抽出した。有機層を分取し,減圧蒸留によ り乾固した後,酸分解液(硝酸:過塩素酸:硫酸:超純水を 1: 1: 5 : 1 の割合で混合調製)を 2 mL 加え,ヒートブロックを用いて 220℃で加熱し,残ったジチゾンを分解した。試料は放冷後,超純水 を用いて 5 mL に定容し,10%塩化すず(Ⅱ)溶液 0.5 mL を加え,還 元気化原子吸光光度法により水銀を測定した。検量線は標準溶液に 対し試料と同じ処理を行ったものを用いた。試薬等による操作ブラ ンクが平均で 0.18±0.02 ng(n= 5 )認められたことから,その標 準偏差の 3 倍を検出下限値とすると 0.06 ng であり,試料量を 1 L とした際の検出下限値は 0.06 ng/L となった。また,添加回収試験 (大気降下物試料に水銀 2.5 ng を添加)は回収率97±5%(n= 3 ) と良好な結果であった。なお,本法では有機態水銀と無機態水銀を 区別することはできないため得られる結果は総水銀としての値であ る。 2.2.2 不溶解性総水銀分析法 水銀分析マニュアル17)の底質・土壌試料の項に従い,ろ紙上の試 料はメンブランフィルターごと 20 mL 試験管に入れ,酸分解液を加 えて220℃で加熱した。試料は放冷後,超純水を用いて 5 mL に定容 し,10%塩化すず(Ⅱ)溶液 0.5 mL を加え,還元気化原子吸光光度 法により水銀を測定した。メンブランフィルターには平均で 0.26± 0.01 ng(n= 3 )のブランクが認められたことから,その標準偏差 の 3 倍を検出下限値とすると 0.04 ng であり,試料量を 1 L とした 際の検出下限値は 0.04 ng/L となった。Institute for Reference Mate-rials and Measurements (IRMM) が提供する底質の認証標準物質 ERM-CC580を用い操作したところ,認証値 132±3 mg/kg に対し, 128±9 mg/kg(n= 3 )と良好な結果が得られた。なお,本法では 有機態水銀と無機態水銀を区別することはできないため得られる結 果は総水銀としての値である。2
1
Sea of Japan
50km 0 250km 0Fig. 1 Map showing the sampling site in this study
1: Niigata Prefectural Institute of Public Health and Environmental Sciences (Niigata City)
環境化学 Vol.31 (2021) 2.3 解析方法 2.3.1 気象データ 今回得られた結果の解析には気象庁新潟地方気象台の降水量,降 雪量,積雪深のデータ18)を用いた。また,本調査期間における黄砂 の影響の有無については,環境省及び国立環境研究所のライダー観 測における新潟での結果19,20)により黄砂が観測され,降水が認めら れた場合に黄砂の影響ありと判断した。 2.3.2 後方流跡線解析 後方流跡線解析にはアメリカ海洋大気庁(NOAA)の HYSPLIT MODEL21)を使用した。気象データには,Glabal Data Assimilation
System (GDAS) を使用し,流跡線のタイプは Normal とし,遡及時 間は72時間とした。到着地点における到達高度は丸本ら22)が行った 沖縄県辺戸岬における大気中水銀の解析結果を参考にし,200,500, 1,300 m の複数の高度で解析を行った。
3.結果及び考察
3.1 大気降下物中の総水銀濃度について 2017年 4 月∼2020年 4 月の大気降下物中水銀濃度の変動を Fig. 2 に示す。当該期間の降水量で重み付けした加重平均濃度は総水銀で 5.7±3.6 ng/L であり,形態別にみると溶解性総水銀が 2.8±3.0 ng/L,不溶解性総水銀が 2.9±2.0 ng/L であった。また,その他の 統計値については Table 1 に示す。今回得られた総水銀の濃度レベ ルは,国内における同時期の測定で得られている降水量の加重平均 値 3.9∼6.0 ng/L10,23,24)と同程度であった。 形態別に測定した水銀のうち,溶解性総水銀の各月の 3 年間分の 平均値を Fig. 3 に示す。年間の変動としては 1 ∼ 2 月に濃度の上昇 が見られ, 3 月には低下し, 4 ∼ 6 月にかけて再度高くなる傾向が 見られた。不溶解性総水銀の各月の 3 年間分の平均値について Fig. 4 に示す。不溶解性総水銀濃度については, 3 ∼ 4 月, 9 月にかけ て高くなる様子が見られた。 3.2 溶解性総水銀濃度について 水に溶解する水銀は主に酸化態水銀と考えられており25),大気降 下物中の溶解性水銀は酸化態水銀が降雨等によって溶解しているも のと考えられる。この酸化態水銀については,大気環境中では金属 水銀がハロゲン元素や OH ラジカルにより酸化作用により生成され る26)他,石炭燃焼等による発生が報告されている27)。水銀の排出量 が多い中国では,本報告よりも高い大気降下物中の総水銀濃度が観 測されており,中国国内では貴州省での大気降下物では年間の加重 平均濃度で 36 ng/L28),南京市における降水では年間の加重平均濃 度で 52.9 ng/L29)との報告がある。 環境省の越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書30)によれ ば,降水中の非海塩硫酸イオン(nssSO42−),硝酸イオン(NO3−) 及びアンモニウムイオン(NH4+)濃度が冬季に上昇していること は,大気汚染物質の大陸からの移流があることを示唆しており,中 国国内で高値が観測されている水銀についても移流の影響が危惧さ れる。丸本ら31)は,島根県の冬季の水銀濃度の上昇は硫酸イオンや 硝酸イオン等の人為起源の大気汚染物質との関係から水銀について も越境汚染由来の可能性が高いと考察しており,工藤ら32)も熊本県Table 1 Statistical values of measurement results in this study
average range median weighted average dissolved total Hg 3.2±3.4 0.4 - 27.6 3.0 2.8±3.0 particulate total Hg 3.6±2.5 0.5 - 13.9 3.6 2.9±2.0 total Hg 6.8±4.5 1.6 - 32.5 2.2 5.7±3.6 concentration (ng/L) sampling period 2017/4/21 -2020/4/27 0 5 10 15 20 25 30 35
concent
rat
ion ,ng/L
particulate total-Hg
dissolved total-Hg
0 10 20 30pr
ecip
itatio
n
,mm/
da
y
precipitation
snow fall
中国国内の上海の大気中水銀の測定データ においては金属水銀 の年間の変動が少ないことに対して,酸化態水銀濃度の増加は 6 月, 11∼ 1 月に,粒子態水銀の増加は11∼ 1 月に見られている。越境汚 染の影響を考えた場合同様の傾向が国内でも観測されることが考え られるが,これに対し,環境省が秋田県男鹿半島で実施しているモ ニタリング調査では酸化態水銀の増加は 4 ∼ 6 月,粒子態水銀は 5 ∼ 8 月以外の月で増加している。男鹿半島において冬期に酸化態 水銀濃度が上昇していないことは冬季に大陸で発生した酸化態水銀 は国内の酸化態水銀濃度を上昇させるほどの影響はないと推測され る。しかし, 6 月には酸化態水銀の上昇が大陸及び男鹿半島で確認 されており,この時期における移流の影響については今後検討して いきたい。 新潟市における大気降下物中の溶解性水銀濃度が冬季に高い理由 について,男鹿半島における酸化態水銀濃度が冬季に上昇していな いことから,大気中の酸化態水銀濃度以外の要因があることを示し ている。このことを説明するには判断材料が少ないが,酸化態水銀 は比較的強い表面付着特性により粒子状物質への吸着を持つため33), 粒子状物質濃度の増加に伴い酸化態水銀濃度が減少すること34)が報 告されており,これが大気中の粒子態水銀への寄与につながり,粒 子態水銀が降水により大気中から除去された際に水相に移行してい ることが可能性として考えられる。また,大気中の酸化態水銀が及 れ,それらが降雨等により沈着することが指摘されている が,こ れがどのように季節変動に結びついてくるかは本研究では明らかに できなかった。 いずれにしても本研究ではそれを断定するだけの材料が足りな かったので,今後は大気中の粒子状水銀の水相への移行の検討や水 銀同位体比36,37)の測定などを行い,詳細な発生源やその寄与率等を 明らかにしていく必要がある。 3.3 高濃度観測日に関する考察 2017年 6 月 6 日∼19日の大気降下物中の総水銀で調査期間におけ る最高値である 32.5 ng/L が観測された。形態別では溶解性水銀が 27.6 ng/L,不溶解性水銀が 4.9 ng/L であり,大半が溶解性水銀で あった。また,環境省のモニタリング調査結果で秋田県男鹿半島に おいて測定している降水で,2017年 6 月13日∼19日に降水中の総水 銀が 28.9 ng/L という高値で観測されていた23)。新潟県と男鹿半島 で同時期に降水中の水銀濃度の上昇であった。なお,同モニタリン グ調査で沖縄県辺戸岬では認められないことから,地域的な事象で はないかと考え原因を検討した。 男鹿半島で降水が高濃度となった期間のうち 6 月15日に大気中の 酸化態水銀の高値が観測されていたが,男鹿半島及び新潟市におい て降雨も確認されていた。この期間について両地点を起点に後方流 跡線解析を行った結果を Fig. 5 に示す。両地点に到達した空気塊は 約 3 日間日本海上を移動してきたことが確認された。また新潟市で は大陸からの移流も示唆されているが,その影響があったかどうか は判断できなかった。酸化態水銀濃度が上昇した事例について,Lee ら38)は,気団が海域内に閉じ込められた際に大気中の金属水銀が減 少し,酸化態水銀濃度が上昇し,オゾン濃度が減少したことからハ 0 2 4 6 8
Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Oct. Nov. Dec.
w ei gh te d av era ge co nc en tr atio n,ng /L
dissolved total Hg
Fig. 3 Monthly variations of weighted average concentration of dis-solved total Hg atmospheric deposition in the Niigata City from April 2017 to April 2020
*Error bar means 1 standard division
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Oct. Nov. Dec.
w ei gh te d av er ag e co nc en tr ation, ng /L
particulate total Hg
Fig. 4 Monthly variations of weighted average concentration of par-ticulate total Hg atmospheric deposition in the Niigata City from April 2017 to April 2020
*Error bar means 1 standard division
Fig. 5 Backward trajectory starting when the dissolved total Hg maximum was observed at Niigata City and Oga Peninsula
環境化学 Vol.31 (2021) ロゲン元素による酸化を示唆している。特に臭素及び酸化臭素につ いては海洋大気中の酸化剤になるとの報告もされている39-41)。当時 の状況から酸化態水銀の高値の要因を考察すると酸化態水銀の高濃 度が観測された 2 日前までは両地点において降雨が確認されておら ず酸化態水銀が除去されにくい環境であり,それらをもたらした空 気塊が海上を移動してきたことから,海上においてハロゲン元素等 により酸化態水銀が生成された可能性が考えられる。海上における 酸化態水銀濃度や降雨の有無を確認できなかったため,今後同様の 事象が起きた際にはこれらのことが課題である。 以上のことから,高濃度の酸化態水銀が流入又は生成され,これ が降雨により沈着したことから,本調査での降水中の溶解性水銀の 高値及び男鹿半島での降水中の総水銀の高値の原因となったと推測 された。 3.4 黄砂到来時の大気降下物中の不溶解性総水銀濃度について 黄砂とは中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠,ゴビ砂漠等の乾燥 地域において,風によって大気中に巻き上げられた土壌粒子が偏西 風にのって飛来する現象である。時期としては春季及び秋季に黄砂 の飛来がよく確認されている。黄砂に関する研究はこれまで多くの 研究者によって実施されてきており,土壌起源ではないと考えられ るアンモニウムイオン,硫酸イオン,硝酸イオンが検出されている ことから,人為起源の大気汚染物質を途中で取り込んでいることが 指摘されている。水銀に関して黄砂に関連した調査をした例は非常 に少なく,環境省の黄砂実態解明調査(2003∼2008年)42)では大気 中の水銀濃度は不検出がほとんどであり,黄砂への水銀の付着等に よる国内への影響はほとんどないと記載があるが,調査時の定量下 限値が 0.1 ng/m3 と高いためその影響を捉え切れていないと考えら れる。また,環境省のモニタリング調査10)における降水の結果では 黄砂の影響により総水銀が高値になるとの報告があるが,形態別で は測定しておらず,その影響はよくわかっていない。韓国において は,黄砂時における大気中水銀濃度は気塊の移動パターンにより影 響を受け43),粒子状物質濃度と強い相関がある44)等の報告がある。 黄砂の影響を受けた可能性がある期間について Fig. 6 上段のグラ フに矢印でマーキングした。一般的に黄砂飛来時には高濃度の粒子 状物質が観測され,重金属や有害物質濃度が上昇することから,不 溶解性総水銀濃度の上昇が認められた期間には,黄砂及び降雨が観 測されており,黄砂の影響を受けている可能性が考えられる。また, 不溶解性物質量あたりの水銀濃度を Fig. 6 の中段,下段のグラフに 示す。この結果,不溶解性総水銀濃度が上昇し,黄砂の飛来が認め られている期間においては不溶解性物質濃度が大きく上昇したが, 不溶解性物質あたりの水銀濃度は低値であった。しかし,保存試薬 として添加した塩酸による黄砂粒子からの水銀の溶出を評価してい ないため,不溶解性水銀濃度を過小評価している可能性もあるが, このことは,黄砂飛来時に不溶解性総水銀濃度が上昇したのは粒子 状物質中に水銀が高濃度で含まれていたのではなく,粒子状物質が 多く飛来することにより総量的に不溶解性総水銀濃度が上昇してい る可能性があると考えられた。このことは今後,実際に黄砂飛来時 における粒子態の水銀濃度を測定することで明らかにしていきたい。 3.5 総水銀の大気降下物量について 大気降下物中の総水銀濃度に降水量を乗じることにより,月ごと の総水銀の大気降下物量を算出し,その結果を Fig. 7 に示す。その 結果,冬季には降水量の増加に伴い,大気降下物量も冬季がもっと も多い傾向がみられた。形態別に見ると春季∼秋季にかけて溶解性 総水銀の総水銀に占める割合は40%程度を占めるのに対し,冬季で はその割合が60%にまで上昇した。2017年は冬季の大気降下物量が 増大する様子が見られ,2019年は大気降下物量が非常に低い値と なった。また,2017年 4 月∼2020年 4 月における推移を Fig. 8 に示 0 5 10 15 20 25 30 35
to
ta
l H
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co
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en
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particulate total-Hg
dissolved total-Hg
0 10 20 30 40pa
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0 5 10 15tot
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/g
total-Hg in particulate matter
Fig. 6 Seasonal variations of total Hg concentration, insoluble matter concentration and total Hg insoluble matter concentration in the atmospheric deposition in the Niigata City from April 2017 to April 2020
y = -14.9x + 72.8
r = 0.69, p<0.05
0
20
40
60
80
100
120
0
2
4
6
sn
ow
de
pth,
cm
particulate total-Hg,ng/L
Fig. 9 Relationship between snow depth and particulate total-Hg concentration す。2017年冬季の大気降下物量について溶解性が主であるのに対し, 2018年,2019年では不溶解性の割合が増加している。Fig. 9 のとお り不溶解性総水銀濃度は積雪量と反比例する傾向にあり,積雪中に は土壌からの粒子の舞い上がりが押さえられ,近傍起源の不溶解性 成分の割合が低下していることや降雪量が減ったことにより降下量 自体が減っている等が要因と考えられる。溶解性総水銀の増加は前 述のとおり溶解性総水銀濃度が増加していることに加え,降雨(雪) 量が冬季に増加することにより,降下量が増加していると考えられ る。 Fig. 10 に年間の大気降下物量及び降水量の推移を示す。2017年が 12.3 μg/m2/年,2018年が 10.6 μg/m2/年,2019年が 6.5 μg/m2/年 であり,年によって大気降下物量が大きく変化した。2002∼2003年 に測定された湿性沈着量及び乾性沈着量の全国の平均値45)は 20.8 μg/m2/年(範囲:10.2∼26.3 μg/m2/年)であり,文献の方法とは 採取手法が異なるため厳密には比較できないが,同程度であった。 0 50 100 150 200 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Oct. Nov. Dec.
pr ec ip ita tio n, m m /m on th tota l-Hg de position, ng /m 2/month month particulate total-Hg dissolved total-Hg precipitation
Fig. 7 Monthly variations of total Hg deposition and precipitation in the Niigata City (Average from April 2017 to April 2020)
*Error bar means 1 standard division
0 20 40 60 80 100 120 140 depo sit ion o f to tal-H g ,n g/ da y/ m 2 particulate Total Hg dissolved Total Hg 0 5 10 15 20 25 30 pr ec ip ita tio n ,m m/ da y precipitation snow fall
Fig. 8 Seasonal variations of total Hg deposition in the atmospheric deposition in the Niigata City from April 2017 to April 2020
環境化学 Vol.31 (2021)
Fig.10 Changes in annual deposition of total Hg and precipitation
0
500
1000
1500
2000
2500
0
2
4
6
8
10
12
14
2017
2018
2019
pr
eci
pi
ta
tion,m
m
de
posi
tion ,
μg
/m
2/year
dissolved total-Hg particulate total-Hg precipitationFig. 10 Changes in annual deposition of total Hg and precipitation
0
10
20
30
40
50
0
1
2
3
4
5
6
2017
2018
2019
per
cent
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snow
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n
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nu
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p
re
ci
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ta
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dissolved total-Hg particulate total-Hg snowfall/precipitationFig. 11 Changes in annual deposition of total Hg during the snowy period, and percentage of snow fall in annual precipitation 降下量は降水量の影響を大きく受けると推測されるが降水量の変動 よりも大きく降下量が変動する傾向がみられた。調査期間における 新潟県の降雪の状況は,2017年が豪雪,2018年は例年並み,2019年 は少雪であり,いずれの年も降雪の傾向が大きく異なっていた。当 期間において環境省が測定している大気中水銀のバックグラウンド 濃度には大きな変化は見られない10,23,24)ことから,新潟県において は気象条件が異なる影響が顕著になったと考えられた。Fig. 11 に降 雪時の大気降下物中総水銀量の推移と年間の降水量に占める降雪量 の割合を示した。溶解性総水銀の大気降下物量は降雪量の割合が少 なくなるにつれて減少しており,溶解性総水銀の大気降下物量には 降雪が大きく影響することがわかった。洗浄比を算出できていない ため降水よりも洗浄効果が高いのかどうかは判断できないが,新潟 県のように降雪時にデータを得ることができる地点や機会は全国的 に見ても限られるため,今後の課題としていきたい。
謝 辞
本研究は新潟県保健環境科学研究所が行った特定研究「新潟県に おける環境中の水銀に係る動態の解明」の一環で行ったものである。要 約
新潟県新潟市において2017年 4 月から2020年 4 月までの期間,大 気降下物中の水銀濃度の測定を行った。その結果,降水加重平均濃 度について総水銀は 5.7±3.6 ng/L となり,そのうち溶解性水銀は 2.8±3.0 ng/L,不溶解性水銀は 2.9±2.0 ng/L であった。2017年 6 月には溶解性水銀濃度の高値が観測され,大気中の酸化態水銀濃度 の増加が可能性として考えられた。また,不溶解性水銀濃度及び粒 子状物質濃度が増加した際には黄砂が観測され,水銀濃度に影響を 与えている可能性が考えられた。大気降下物量については降雨雪の 多い冬季に増大し,特に溶解性水銀の大気降下物量が増加する傾向 が見られた。 文 献 1) 環境省:水俣病の教訓と日本の水銀対策(2013),http://www. env.go.jp/chemi/tmms/pr-m/mat01.html(2020.12.17閲覧) 2) UNEP Chemicals Geneva, Switzerland: Global mercury assessment,(2018) https://www.unenvironment.org/resources/publication/ global-mercury-assessment-2018(2020.12.17閲覧)
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