1.研究の概要
1.1 調査内容 本研究は,2016年参議院選挙の公示日直前 および投票日直後における2波のインターネッ トでの全国パネル世論調査を扱う。2度の調査 では,主な内容について同一の質問を試み,公 示期間前後の回答の変化を捉える。公示期間に 選挙情報を入手する上で役立ったインターネッ トとマスメディアの各々に関して,特定の党 派性を認識するメディアに囲繞される場合と 囲繞されない場合を比べると,公示期間前後で 政治意識に生じる変化は異なるか否かを検証す る。この因果推論を伴う調査・分析の方法とし て,傾向スコア法およびDifference-in-Differences (DID)を用いる。 傾向スコア法とは,実現しうる複数の環境条 件(または複数の選択肢)に関して,実現しな かった環境条件(または選択肢)が実現していた 場合の結果を推定する統計手法である。この 手法は,実現した環境(または選択肢)の結果と, 仮想の環境(または選択肢)の結果の比較に基づ き,実現した環境や選択肢の成果を評価できる。 本研究は,「自民党の党派性を認識するメディ アに囲繞される場合」と「囲繞されない場合」 の2つの環境条件を設ける。 また,公示期間のみ選挙運動を許すとともに, 公示期間中の配慮を放送局へ求める公職選挙法 の効果を測定するためにDIDを用いる。Card & Krueger (1994) は,「政策の実施地域と非実施 地域,政策の実施前と実施後」という2つの差 を同時に考慮するDIDを考案し,政策効果を正 確に求めた。続くDuflo (2001) は,「政策の実 施前と実施後」のデータのみ存在する状況でも 「政策にさらされた程度」への考慮によりDID の適用を可能とした。本研究の場合,「政策の 実施前」とは選挙運動を禁じた公示日以前であ り,「政策の実施後」とは投票日後である。ま た政策の「実施地域(または政策への被暴露度 が高い地域)」と「非実施地域(または被暴露度 が低い地域)」とは,公示期間に「自民党の党 派性を認識するメディアに囲繞される場合」と 要旨:2016年参院選の公示日直前と投票日直後における2波の全国パネル世論調査を扱 う。2度の調査では主な項目で同一の質問を試み,公示期間前後の回答の変化を捉える。 公示期間に選挙情報を得る上で役立ったインターネットとマスメディアの各々につき,自 民党寄りの党派性を認識するメディアに囲繞される場合と囲繞されない場合を比べると, 公示期間前後で政治意識に生じる変化は異なるか否かを検証する。この因果推論を伴う調 査・分析の方法は,傾向スコア法とDifference-in-Differencesである。その結果,自民党寄 りの党派性を帯びたインターネット環境では首相の独走を危惧しつつ自民党の独自路線を 望む感情が増すほか,争点より外れた原発問題を重視する意識が減じた。また自民党寄り の党派性を帯びたマスメディア環境では,報道上の制約により優位に立つ自民党への好感 が増すほか,争点化した安保法制につき自身と意見の異なる他者への好悪が変化した。公示期間における党派性を帯びたメディア環境が
政治意識へおよぼす影響
−インターネットとマスメディアの比較−白崎 護
選挙研究 33巻2号 2017年 〈特集 2016 年参議院議員通常選挙〉「囲繞されない場合」が各々該当する。 1.2 分析の前提 第1に,各メディアの党派性の有無と傾向を 客観的に判断できるとしても,回答者が正確に 党派性を認識するとは限らない。そこで本研究 では,認識された党派性に関する実際の正誤を 問題とせず,回答者の主観的な認識に基づく党 派性を扱う(小林,2013)。Huckfeldt & Sprague (1987: 1988) は,接触相手の党派に関する認識 の確度に与える要因をスノーボール調査に基づ き分析した。すると,人は接触相手が自己と同 じ党派の場合,より正確にその党派を認識する。 そして,本人の党派が地域の多数派の場合,確 度が向上する(1)。従って,地域の少数派は相 手が多数派であると認識する確率が高まるの で,たとえ相手が少数派の場合であっても相手 の党派を誤認する確率が高まる。逆に,多数派 は相手が反対党派の場合も,これを正確に認識 できない。この結果,Huckfeldtらは少数派が 衰退していくと予想する。メディアを扱う本研 究に関してHuckfeldtらの指摘が妥当するなら ば,実際に少数派の回答者がメディアの党派性 を多数派と認識した場合,自身の意見の修正や 秘匿が生じやすくなるかも知れない。他方,地 域での接触相手の選択対象が限られる対人環境 と異なり,より選択的接触の余地が広いメディ アの場合,むしろ「合意性の過大推定」が生じ ると思われる(Ross, Greene, & House, 1977)。た だ第三者効果をも考慮すると,党派性の認識 の確度が主観的または客観的な世論分布と相互 に影響しつつ,回答者の意識に影響を与えうる (Davison, 1983)。夫婦別姓への賛否,および自 身と異なる意見への寛容度の変化を日本でのパ ネル調査で確認した安野(2001)によると,世論 が別姓認可に肯定的と認識した同姓希望者は, 同姓希望を維持しつつも別姓認可の傾向が強ま る。従って,敵対する党派や意見への意識につ いて類似の動向が生じるかも知れない。 第2に,「特定の党派性を認識するメディア に囲繞される場合」に関して想定しうる場合を 区別しない。接触メディアが不在の状況,また は1点に限られる状況を除くと,「特定の党派 性を認識するメディアに囲繞される場合」は大 別して3点である。まず党派性をもつ者にとっ て,①.「自身と同じ(または,少なくとも回避 しない)党派性のメディアへの偶発的または選 択的な接触」,②.「敵対的な党派性のメディ アへ好んで接触しないという条件下での,敵 対的認知を招く偶発的接触」である。加えて, ③.「無党派の者にとっての偶発的接触」である。 偶発的接触には,「政治以外の情報を得る際に 接触してしまった場合」や,「メディアへの同 席者の接触に伴い,自身も接触せざるを得ない 場合」なども含む。本調査は,選挙情報を得る 上で接触したメディアを尋ねるが,報道内容は 政治に限らない。従って,政治への自我関与度 の低い回答者は,たとえ党派性をもつ場合にも 党派性に基づかない接触を行いうる(Troldahl, 1966;竹下,2008)。実際,日本では選択的回 避を示す先行研究が見あたらない(小林,2012)。 本調査は回答者の支持政党や政治関心度も問う ので,厳密には3点を区別できる。各場合で選 択バイアスの傾向が異なるならば,上位より一 定割合で区分された傾向スコア各層のトリー トメント効果の差異(「因果効果の異質性」)を3 点の場合で比べる手法が望ましい(星野,2015)。 だが,「特定の党派性を認識するメディアに囲 繞される」回答者数,および自民党以外の政党 の支持者数が限られるので,各場合の分析がで きない(2)。そこで,「特定の党派」としてとり 上げる自民党支持に関して党派性をコントロー ルするにとどめ,母集団全体での因果効果を推 定する。 第3に,「特定の党派性を認識するメディア に囲繞される」状況として,選挙情報を得る上 で最も役立った「ポータルサイトニュースおよ び政党・政治家のインターネット上での発信」 ならびに「新聞およびテレビ報道番組」の各組 につき,「いずれも自民党に有利な内容」の場
合に限る。つまり,「囲繞するメディア」をイ ンターネットメディアとマスメディアに分割し た上で,各々2点のメディアに限る。「特定の 党派性を認識するメディアに囲繞される」状況 を厳格に追究すれば,少なくとも大半の接触メ ディアに関して特定の党派に囲繞される状況を 分析すべきだろう。だが,囲繞するメディアの 種類を増すほど,それらメディア全てに関して 「役立った」との回答と「自民党に有利であっ た」との回答を満たす事例は減る。また,自 民党以外の党派性を認識するメディアへの接 触事例は稀である。そこで上述の分析単位にと どめるが,マスメディアの情報を手がかりにイ ンターネットへ接触する「デュアルスクリー ナー」は,前嶋の指摘通りマスメディアの影 響力が大きな日本において殊に注目されるので, 両メディアを横断する接触効果の解明が待たれ る(小林・稲増,2011;清原・前嶋・李,2013)。 第4に,メディアが政治的な意識へおよぼす 影響について実証知見の国際比較を行う際,当 然ながら各国の政治・メディアの制度・現状を 考慮せねばならない。分析対象の標本規模を 減じる前段の事情として,「一強多弱の政治状 況」・「自民党のメディア戦略」・「メディアの中 立性」という互いに関連する3点が挙げられる。 この3点は,少なくとも第2次安倍内閣以降の 日本でメディアが政治的な意識におよぼす影響 を強く規定する。従って,メディアが政治的な 意識へおよぼす影響に関する先行研究のうち, 本研究では近年の日本について上記3点と選択 的接触に関わる内容を主にとり上げる。 1.3 問題意識 選挙情報の提供と政治参加の促進を目的とす る2013年の公職選挙法改正の結果,インター ネットを用いた選挙運動が解禁された。イン ターネットは政治参加に必要な情報の源であり, また情報発信や議論の場となるので,民主主義 の発展を促しうる。一方,インターネットへの 選択的接触に基づく政治意識の分極化や,意見 の異なる他者への排斥傾向の強化を警告したの はSunstein (2001) である。翻って,自身と異な るメディアの意見へ接する際に生じる敵対的認 知の場合,他者への理解を促す熟考を招きうる 反面,メディアへの不信感を醸成しうる(小林, 2013)。市民の政治参加により社会は成立する が,全世代でインターネットの使用が日常化し た将来の社会での政治参加は,他者に不寛容な 市民同士の相克の場と化すのか。 他方で新聞・テレビなどマスメディアもまた, 政治参加に必要な情報の源であり,また政治 的な話題の提供により会話を通じた相互理解や 公民意識の涵養に資する。そして,選挙情報を 提供するメディアが多様化する近年の各種世論 調査でも,投票行動を決める際の情報源として マスメディアを挙げる有権者が依然最多である (3)。本研究が扱う新聞とテレビでは業界およ び各社の自主規制,加えてテレビでは法規制に 基づき報道の中立性が求められる。だが,テレ ビに関しては1993年総選挙時に生じたテレビ 朝日事件以降,各局へ法規制に基づく中立性を 求める自民党の要請がくり返されたため,むし ろ自民党へ配慮する各局の姿勢が見られる(4)。 新聞に関しては,改憲・安全保障・原発など論 争的な政策を中心として,第2次安倍内閣以降 における各紙の論調の二極化が指摘される(徳 山,2014)。従って,インターネットメディア 以上に,マスメディアとの接触に基づく市民社 会の分極化が懸念される。 この懸念は,現時点で現実化しているか。現 実化しているならば,いかなる政治意識に関し て,どの程度の規模か。この疑問に答えるべく, 大別して「政治主体」と「政策」の2点に関 する公示期間前後での見解の変化を捉える(5)。 さらに,前者は「政党」と「政治家」,後者は 「政策への賛否」と「重要性の評価」の各々2 点に内容を大別する。そして,回答者が意識を 向ける主体として,自身と第三者の2点を扱う。 まず,回答者各自が抱く意見の分極化を評価す るため,政治主体と政策に対する回答者自身の
見解の変化を捉える。次に,他者に対する不寛 容の程度を評価するため,自身と意見の異なる 第三者に対する回答者自身の感情の変化を捉え る。先述の安野(2001)の研究に鑑みると,政策 をめぐる意見が分極化しようとも,意見の異な る他者への理解が維持されるならば,意見の分 極化自体を過度に警戒する必要はないかも知れ ない。
2.メディアの状況
2.1 インターネットの特徴 情報検索時の能動性,Twitterでのフォロワー やFacebookでの友達などの関係に基づく情報 への信頼性,情報を送受信できる双方向性(6), 情報を即座に送受信できる即時性,文書・音 声・動画などを扱うマルチメディア性,情報 量にかかわらず送受信可能な時間・空間の非制 約性(7)という6点の性質に基づき,インター ネットは選択的な情報への接触や回避を強化し うる。他方,特定の情報が多数の送受信者を介 して社会に伝播する拡散性は,選択的な接触や 回避の限界を超えた情報と受信者が接する機会 を招く。従って,選択的な接触や回避を克服 する契機と強化する契機の双方に関してマスメ ディアよりも機能が強い点,そして使用者同士 の交流を通じた意見の形成作用をもつ点が,イ ンターネットの特徴である (Leung & Lee, 2014)。 この結果,「1.3 問題意識」に記す「熟考」と 「分極化」のいずれを招くにせよ,マスメディ アよりも明確な結果を得やすいと思われる。 他方,以下3点の通りインターネットの影響 を限定する日本の現状に鑑みると,インター ネットの特徴も十全に発揮されないだろう。第 1に,政治についての情報源として利用する人 数の点でマスメディアと大差がある。第2に, デュアルスクリーナーの規模が大きければ,イ ンターネットはマスメディアの「拡声器」とし ての役割を果たす。ある週のアメリカでマス メディアが報じた重要ニュースの内容について有権者に自由回答を求めたRobinson & Levy (1986) の調査では,回答が報道内容と酷似し ていた。同時に尋ねた対人接触の状況も勘案の 上,Robinsonらは対人接触がマスメディアの影 響を強化する可能性を指摘した。同様の事態が インターネットとマスメディアの間でも生じる ならば,インターネット単独の効果に関する考 察は大きな限界を伴う。第3に,放送メディア のような中立性に関する法規制がないにもかか わらず,「2.2 インターネットに関する先行研究」 に記す通り主なポータルサイトニュースは中立 性を保つ。閲読するまではリンク先の記事の党 派性も不明なので,党派性にかかわらず偶発的 接触が生じやすい。むしろ,購読者が減じるな かで購読を維持する読者について新聞への選択 的接触が生じやすいと思われる(小林,2013)(8)。 第4に,2013年の法改正にもかかわらず,公 示期間の政党・政治家のソーシャルメディアは 「炎上」を回避するために論争的な話題を避け る上,有権者との交信も生じ難い(9)。 2.2 インターネットに関する先行研究 2012年総選挙時の世論調査を分析した小林 (2013)によると,新聞・テレビと比べ,イン ターネットニュースに対して有権者が内容の中 立性を認識する割合が高いために選択的接触の 傾向も弱い。ポータルサイトとして高い占有率 をもつYahoo!ニュースが,主要全国紙より記 事の配信を受けて戦略的に中立性を維持するた めである(10)。一方,2013年参院選時の世論調 査を用い,白崎(2016)は2013年の公職選挙法 改正に対して有権者が抱く期待におよぼすイン ターネット利用の影響を分析した。「インター ネットで選挙情報を収集する」・「インターネッ トで選挙情報を収集しない」という2つの状況 に関して,各々が実現した場合に抱く法改正へ の期待の差異を傾向スコア法に基づき推定す る内容である。すると「有権者と政治家の距離 が近づく」・「有権者の政治関心が高まる」の2 点について,インターネットで選挙情報を収集
した場合は,インターネットで選挙情報を収集 しなかった場合よりも期待感が上昇した。特に, 自民党支持層が無党派層よりも期待感を抱く確 率は10 ∼ 20%程度高い。これは,支持政党を もつ方が情報検索の目的を明確化しやすいため と思われる。この推測が正しければ,支持政党 をもつ者は選択的接触を行いやすかろう。 選択的接触を示唆する研究は,ソーシャルメ ディアに関して存在する。小林(2012)のTwitter 使用調査によると,政治関心の高い使用者ほ ど,フォローする相手(フレンド)と自身のフォ ロワーに関して,使用者自身が思考の親近性 を感じるフレンドやフォロワーの割合は高い。 また国会議員のTwitterを調べた小野塚・西田 (2014)によると,「議員のTwitterに関するフォ ロワーのRetweet」と「議員とフォロワーの双 方向的交信」のうち,片方の頻度のみ高い議員 のTwitterの内容は,フォロワー以外のTwitter 使用者の反応が少ない。他方,両方の頻度が高 い議員のTwitterの内容は,フォロワー以外の 使用者の反応が多い。つまり,前者の議員の Twitter使用は,議員と考えの似た使用者のクラ スタが形成されやすい。一方で後者の議員の Twitterは,多様な考えの使用者が参加しやすい。 以上の研究は,自身と異なる意見をもつかも知 れない相手に受容されうる内容の交信を志向し ない限り,ソーシャルメディアが政治的意見に 沿った市民の分極化を招く可能性を示す。 2.3 マスメディアの限界 選挙の情報源としてインターネットを大きく 凌ぐ人数に支持されるマスメディアだが,有 権者へ有用な情報を伝達する能力に限界も伴う。 マスメディアが自身の報道基準,および予算・ 人員などの経営資源,そして放送時間・紙幅に 制約される点を除くと,以下4点を指摘できる。 第1に,報道内容に中立性を求める公的規制 が存在する場合である。日本に関して,「放送 法4条違反を理由とする停波」という2016年 の総務大臣の発言により,放送局に対する中 立規定の威嚇効果が改めて注目された(11)。ま た,法規制への直接の言及がない場合も,免許 事業である放送事業は政権に配慮せざるを得な い。殊に,2014年総選挙の公示直前にNHKと 在京テレビ局5社へ自民党が示した『要望書』 は法規制に言及しないが,ワイドショーを中心 として総選挙関連の報道量の激減を招いた(水 島,2015)(12)。 第2に,自身に不利な内容の報道を行うマス メディアに対し,政治エリートが取材拒否など の私的な制裁を行う場合である。日本に関して, 2013年6月のTBS『NEWS23』の内容は公正を 欠くと批判する自民党が同局の取材を拒否する など,与党は重要な情報を独占する立場を利用 しうる(毎日新聞朝刊,2013年7月29日)(13)。 第3に,政府がマスメディアを統制する場合 である(14)。独裁国家ではない場合も,政権の 意に沿わぬ公営放送局に対して予算や人事を 通じた経営介入がありうる。近年のNHKに関 しても,人事の偏向が指摘される(上村, 2015)。 これと関連し,NHK『ニュースウオッチ9』 では安全保障関連法案の審議に関して政権に不 利な内容を扱わない(砂川,2016),またNHK 『ニュース7』では2016年参院選の公示期間に 自民党の主張を放映する時間が他党よりも多い など(水島,2016a),与党に配慮した姿勢を看 取できる。 第4に,選択的な接触や回避が働く場合であ る。新聞と比べて選択的接触が生じにくいテレ ビについても,多チャンネル化が進めば番組選 択の手間を省くために視聴対象チャンネルが固 定されうる(白崎, 2013)(15)。「2.2 インターネッ トに関する先行研究」に記す小林(2013)による と,新聞・テレビ・インターネットの順に党派 性の認識は低下する。これに伴い,マスメディ アではインターネットよりも選択的接触と敵対 的認知の頻度が高まる。但し,新聞に関して さえも「特に好意的な政党はない」・「わからな い」との回答が約75%に上る事情もあり,選択 的接触は限定的である(16)。また斉藤・竹下・
稲葉(2014)は,原発問題に関する読者の意識へ およぼす新聞の影響につき,「読売・日経・産 経」・「朝日・毎日」の2群の読者を比べた。す ると,同問題への関心が高い層で「原発維持」 と「脱原発」の選択に関して明確な差が見られ た。従って,仮に選択的接触が生じていれば, 購読を通じた「熟考」の可能性は低くなる。 テレビ報道との接触の効果に関して渡邊・佐 藤(2015)は,2013年4∼7月に各政党・各党 首の露出時間を主要報道番組ごとに総計した。 その上で,調査対象者の番組視聴習慣と,政 党・党首の露出に接する3ヶ月間の累計時間を 照合した。すると,自民,民主,日本維新の会, みんなの党,安倍,橋下,渡辺,石原,小沢に 関して接触量が増すほど「好感をもつ」との回 答も増した。他方,接触量が増すほど「好感を もたない」との回答も増す場合は小沢に限られ た。番組別の分析ではないので選択的接触に関 して判断できないが,単純に接触量のみで好感 度が増すならば圧倒的に与党が有利である。殊 に,公示期間の選挙報道では各党に均等な時間 配分が図られるが,政府の動向についての報道 は,均等な時間配分の制約を外れる。実際,イ ギリスのEU離脱やダッカでのテロをめぐる電 話首脳会談,そしてテロを糾弾する首相声明は, 公示期間に幾度も放映された(水島,2016b)。 以上に加えて総選挙に限ると,解散から公示 日までの期間を短期に設定する安倍内閣は,選 挙への関心が急増する期間においてテレビが比 較的自由に報道しうる機会を縮小させた(逢坂, 2015)。この期間は,2012年までの総選挙で約 20日間だが,2014年以降は半減する。この点 でも,解散と総選挙の日程を与党が操作しうる 法制度によりマスメディアの影響力が減殺され る。
3.分析方法
「回答者が特定の党派性を認識したメディア に囲繞される」という公示期間の状況の有無 (トリートメント変数)が,政党・政治家など政 治主体に対する好悪の程度の変化,政策に関す る意見の変化,回答者と異なる政治的な意見を もつ第三者に対する感情の変化,およびメディ アの報道姿勢に関する意見の変化へおよぼす影 響を測定する。分析例として,数値尺度で示す 自民党への好悪をYとする。トリートメントの 対象となるメディア環境が実現したならば1, 実現しなかったならば0となる変数をWとす る。すると,Yi,w = fi (W)と表記できる。Yと Wの双方へ影響する複数の独立変数XをSとい う傾向スコアに縮約する (Rosenbaum & Rubin, 1983)。すると,Si = P (Wi =1 | Xi)と表記でき る。Pは確率を表す。本研究では,Wを従属変 数,Xを独立変数とするロジスティック回帰分 析によりSを推定する。 通常の傾向スコア法の場合,Sが類似しつつ Wが異なる2人1組の各組に関するYの差の 平均をWの効果と考える。だが,この方法に は複数の短所がある。まず,2人1組を構成す る際,Wが0または1のいずれか少ない群の 人数に分析対象が限られる。また,2人1組を 構成する傾向スコアの類似性の評価は恣意性を 免れない。加えて,傾向スコアを求める回帰式 自体に定式化の誤りがありうる(星野, 2009, 51-55, 68-69)。 そこで本研究は,傾向スコアの逆数による Wの加重平均を利用し,E(Y1)とE(Y0)の一 致推定量を得る(17)。Y wを従属変数とする回帰 式 の独立変数をZ,係数の推定量を wとす ると,E(Yw)の推定量は以下の通り表現される (18)。 傾向スコアを推定する回帰式と のうち,少 なくとも一方の定式化が正しければ,左辺の推 定量の期待値が一致推定量となる。この推定 量を,「二重に頑健な推定量」と呼ぶ (Bang & Robins, 2005)。4.使用するデータと分析内容
4.1 世論調査 データを収集したパネル調査は,2016年参 院選に関して公示期間におけるメディアとの接 触が有権者の政治的な意識・行動におよぼす影 響を解明する目的で筆者が行った「平成28年 度参議院議員選挙に関する有権者インターネッ ト調査」である。公示日直前の6月15日より 21日まで事前調査を,投票日直後の7月11日 より14日まで事後調査を行った。NTTコム オ ンライン・マーケティング・ソリューションに 対して,インターネットでの全国調査を委託し た。標本抽出の対象者は,同社の世論調査一般 に対象者として登録した18歳以上の有権者の うち,アクティブモニター(最近2年間に回答 実績ある登録者)に該当する男性64753名と女 性63137名の計127890名である。 標本抽出の際,地域に関して北海道・東北・ 関東・中部・近畿・中国・四国・九州の8地域 へ,年代に関して18歳より29歳,30代,40代, 50代,60代以上の5層へ区分し,性別での区 分とあわせて80のセグメントを設けた。セグ メントに基づき,人口比例抽出を行う。2度 の調査の両方で信頼性を備えた回答を行う調査 対象者に関して,計画標本規模を1000とする。 事前調査の配信数は23221,回収数は3201であ る。この3201件のうち,形式的に問題ある回 答を削除した2853件を事後調査の配信数とす る。事後調査の回収数は1729だが,事前調査 と同様の理由に基づきデータを削除するので, 最終的な標本規模は1292である(19)。 4.2 独立変数の説明 表1・表2に関して,表側の「自民党」より 「性別」までに記す独立変数を説明する。公示 期間における従属変数の変化を捉えるので,独 立変数として事前調査での質問を扱う。各分析 の対象となる標本規模を考慮の上,独立変数の 個数を9個に限定した。第1に,心理的変数を 記す。「自民党」は,「参院選での投票予定にか かわらず,ふだん何党を支持しているか」との 質問に対して,「自民党」との回答に「1」,基 準カテゴリとなる他の政党および「支持政党 なし」との回答に「0」の値を付す(20)。「新聞」 はふだん最もよく読む新聞について,「番組」 はふだん最も頻繁に視聴するテレビの報道番組 について,政治に関する情報源として役立つ 程度を問う。いずれも「1」∼「4」の値で問い, 値が大きなほど有用性は高い。 第2に,社会学的属性を記す。「学歴」は, 調査時点も含め最終的な在学校に関して「新制 中学・旧制小学校・旧制高等小学校」・「新制高 校・旧制中学」・「高等専門学校・短期大学・専 修学校」・「大学・大学院」の各々に「1」∼「4」 の値を付す。「所得」は,賞与・臨時収入を含 む2015年度の世帯年収(税込)について,「200 万円未満」・「200万円∼ 400万円未満」・「400 万円∼ 600万円未満」・「600万円∼ 800万円未 満」・「800万円∼ 1000万円未満」・「1000万円∼ 1200万円未満」・「1200万円∼ 1400万円未満」・ 「1400万円以上」の各々に「1」∼「8」の値を 付す。「居住」は,1年未満の期間を切り上げ て現在の住所に何年間住んでいるかを問う(21)。 「年齢」は満年齢である。「住居」は,持ち家・ 借家にかかわらず,住居が「戸建て」ならば 「1」,基準カテゴリとなる「集合住宅」ならば 「0」の値を付す。同様に,「性別」は男性を基 準とする名義変数である。 4.3 従属変数の説明 分析で用いる従属変数を算出するために準備 した変数,および従属変数を説明する。前者の 変数を得る質問文は,両調査において同一であ る。第1に,感情温度を計測する。自民党・民 進党・公明党・社民党・共産党・おおさか維新 の会・生活の党・安倍晋三・岡田克也・橋下徹 の各々について,その政党または人物への好悪 を「0」∼「100」の値で回答し,値が大きなほど良い感情を抱く。「49」以下は反感を,「51」 以上は好意を示し,「50」はいずれの感情も抱 かない。以上の変数は,2度の調査の両方で計 測する。従って,事後調査での値より事前調査 での値を減じた値を従属変数に用いる分析では, 計10点の結果を得る。 第2に,政党についての感情温度を前提とし て,第三者に対する2点の感情を確認する。す なわち,「回答者自身が最も高い感情温度を抱 く政党に対して『0』の感情温度を抱く第三者」 および「回答者自身が最も低い感情温度を抱く 政党に対して『100』の感情温度を抱く第三者」 の各々に関する回答者の感情が「強い不快感を 抱く」・「どちらかといえば不快感を抱く」・「特 に何も感じない」・「どちらかといえば好感を抱 く」・「強い好感を抱く」の各々に「1」∼「5」 の値を付す(22)。以上の変数は,2度の調査の 両方で計測する。但し,感情温度の高低ごとに 2つの場合について計測を行う。すなわち,感 情温度の最も高い(低い)政党が2度の調査で変 わらぬ回答者のみを扱う場合と,変わる回答者 を含む場合である(23)。従って,事後調査での 値より事前調査での値を減じた値を従属変数と して用いる分析では,計4点の結果を得る。 第3に,2点の政策への賛否を確認する。ま ず,2015年9月に成立した集団的自衛権の行 使を認める法律に対して「国際社会で日本が一 定の役割を果たすために,集団的自衛権の行 使を認めるべきだ」との意見と「日本がテロ や紛争に巻き込まれる危険を考えると,集団的 自衛権の行使を認めるべきでない」との意見の いずれに近いかを問う。引き続き,原発に関し て「妥当な価格で安定的に電力を確保するため に,原子力発電所の存続はやむを得ない」との 意見と「事故が発生した場合の被害が大きいの で,原子力発電所は廃止すべきだ」との意見の いずれに近いかを問う。いずれの争点について も,「前者の意見に強く賛成」・「どちらかと言 えば前者の意見に賛成」・「どちらかと言えば後 者の意見に賛成」・「後者の意見に強く賛成」の 各々に「1」∼「4」の値を付す。以上の変数は, 2度の調査の両方で計測する。但し,政策ご とに3つの場合について計測を行う。すなわち, 各政策に関する事前調査での回答者の意見につ いて,「1」または「2」の意見をもつ場合,「3」 または「4」の意見をもつ場合,そして「1」∼ 「4」の意見をもつ場合である。従って,事後調 査での値より事前調査での値を減じた値を従属 変数として用いる分析では,計6点の結果を得 る。 第4に,前段に記す各政策への回答者の賛否 を前提として,第三者に対する感情を確認する。 すなわち,各政策への意見に関して「回答者が 『1』または『2』の意見をもつ場合には『4』の 意見を,『3』または『4』の意見をもつ場合に は『1』の意見をもつ第三者」に対する回答者 自身の感情が「強い不快感を抱く」・「どちらか といえば不快感を抱く」・「特に何も感じない」・ 「どちらかといえば好感を抱く」・「強い好感を 抱く」の各々に「1」∼「5」の値を付す。以上 の変数は,2度の調査の両方で計測する。但 し,事前調査における回答者の各政策への賛 否,および本段でここまで説明した通り賛否に ついて回答者自身と大きく意見の異なる他者へ の感情に基づき,政策ごとに6つの場合につい て計測を行う。すなわち,まず事前調査におけ る各政策への賛否に関して回答者が「1」また は「2」の意見をもつ場合,「3」または「4」の 意見をもつ場合,そして「1」∼「4」の意見を もつ場合である。加えて,本段で説明した通り 賛否について回答者自身と大きく意見の異なる 他者へ対して回答者が抱く事前調査での感情が 「1」または「2」の場合,「3」または「4」の場 合,そして「1」∼「4」の場合である。従って, 事後調査での値より事前調査での値を減じた値 を従属変数として用いる分析では,計12点の 結果を得る。 第5に,先述の2点の政策に関して回答者自 身にとっての重要性を確認する。「ほとんど重 要ではない」・「どちらかといえば重要でない」・
「どちらかといえば重要である」・「かなり重要 である」の各々に「1」∼「4」の値を付す。以 上の変数は,2度の調査の両方で計測する。但 し,政策ごとに3つの場合について計測を行う。 すなわち,各政策の重要性に関する事前調査で の回答者の意見について,「1」または「2」の 意見をもつ場合,「3」または「4」の意見をも つ場合,そして「1」∼「4」の意見をもつ場合 である。従って,事後調査での値より事前調査 での値を減じた値を従属変数として用いる分析 では,計6点の結果を得る。 第6に,前段に記す各政策の重要性に関する 回答者の評価を前提として,第三者に対する 感情を確認する。すなわち,各政策の重要性に 関して「回答者が『1』または『2』の意見をも つ場合には『4』の意見を,『3』または『4』の 意見をもつ場合には『1』の意見をもつ第三者」 に対する回答者自身の感情が「強い不快感を 抱く」・「どちらかといえば不快感を抱く」・「特 に何も感じない」・「どちらかといえば好感を抱 く」・「強い好感を抱く」の各々に「1」∼「5」 の値を付す。以上の変数は,2度の調査の両 方で計測する。但し,事前調査における各政策 の重要性に関しての回答者の評価,および本段 でここまで説明した通り政策の重要性について 回答者自身と大きく意見の異なる他者への感情 に基づき,政策ごとに6つの場合について計測 を行う。すなわち,まず事前調査における各政 策の重要性の評価に関して回答者が「1」また は「2」の意見をもつ場合,「3」または「4」の 意見をもつ場合,そして「1」∼「4」の意見を もつ場合である。加えて,本段で説明した通り 賛否について回答者自身と大きく意見の異なる 他者へ対して回答者が抱く事前調査での感情が 「1」または「2」の場合,「3」または「4」の場 合,そして「1」∼「4」の場合である。従って, 事後調査での値より事前調査での値を減じた値 を従属変数として用いる分析では,計12点の 結果を得る。 第7に,政治に関するマスメディアの報道姿 勢についての意見を確認する。「市民はマスメ ディアの報道を容易に信じやすいので,事実に 基づき,特定の政党や特定の意見に偏らない報 道が望ましい」との意見と「事実に基づく必要 はあるが,多様な意見に接するなかで市民が各 自の意見を形成すればよいのだから,特定の立 場を擁護するマスメディア各社の報道を認めて よい」との意見のいずれに近いかを問う。「前 者の意見に強く賛成」・「どちらかと言えば前 者の意見に賛成」・「どちらかと言えば後者の意 見に賛成」・「後者の意見に強く賛成」の各々に 「1」∼「4」の値を付す。以上の変数は,2度 の調査の両方で計測する。但し,3つの場合に ついて計測を行う。すなわち,事前調査での回 答者の意見について,「1」または「2」の意見 をもつ場合,「3」または「4」の意見をもつ場 合,そして「1」∼「4」の意見をもつ場合であ る。従って,事後調査での値より事前調査での 値を減じた値を従属変数として用いる分析では, 計3点の結果を得る。 第8に,前段の問題に関する回答者自身に とっての重要性を確認する。「ほとんど重要で はない」・「どちらかといえば重要でない」・「ど ちらかといえば重要である」・「かなり重要であ る」の各々に「1」∼「4」の値を付す。以上の 変数は,2度の調査の両方で計測する。但し, 3つの場合について計測を行う。すなわち,事 前調査での回答者の意見について,「1」または 「2」の意見をもつ場合,「3」または「4」の意 見をもつ場合,そして「1」∼「4」の意見をも つ場合である。従って,事後調査での値より事 前調査での値を減じた値を従属変数として用い る分析では,計3点の結果を得る。 4.4 トリートメント変数の説明 分析で用いるトリートメント変数を算出する ために準備した変数,および2種のトリート メント変数を説明する。まず,今回の選挙につ いて知る上で「主な情報源となった新聞」・「1 番の情報源となった報道番組」・「主な情報源と
なったインターネットのポータルサイトニュー ス」の各々に関して,どの政党に最も好意的で あったと感じるかを事後調査で問う。引き続 き,「1番の情報源となった政党や政治家のHP (ホームページ)・ブログ・SNS(ソーシャル・ ネットワーキングサービス」について,どの政 党(または,どの政党に所属する政治家)のもの かを事後調査で問う(24)。この結果,前三者に ついては各政党名または「特に好意的な政党は なかった」との回答(択一式)を,また残る1点 のメディアについては政党名での回答(択一式) を得る。 分析では,以上に記す4種のメディアにつ いて旧来のマスメディアとインターネットメ ディアを区分する観点より,「新聞と報道番組」 および「ポータルサイトニュースとHP・ブロ グ・SNS」の2種に区分する。各々の区分に関 して,「当該区分に属す両メディアの党派性が ともに自民党」の場合にトリートメント群とし て「1」,「当該区分に属すメディアのうち,1 点の党派性が自民党,残る1点について党派性 が他党または『特に好意的な政党はなかった』」 場合に非トリートメント群として「0」の値を 付すトリートメント変数を設ける。従って,少 なくとも接触するHP・ブログ・SNSに関して は党派性を認識した上で十分な選択の余地があ る以上,自民党を支持するか否かにかかわらず, インターネット環境に関するトリートメント群 への割り当ては回答者の明確な意思が作用して いる。結局,2種のトリートメント変数の各々 に対して「4.3 従属変数の説明」に記す計56点 の結果を得るので,総計112点の分析を試みる。 4.5 表1・表2の説明 第1に,表1・表2の表側上段に示す「従属 変数」から「性別」の行は,各分析に用いた変 数の記述統計値である。「4.3 従属変数の説明」 で扱う「従属変数」は,事後調査の値より事前 調査の値を減じた値に関する平均と標準誤差を 示す。「4.4 トリートメント変数の説明」に記す トリートメント変数に関して,表1・表2の表 側上段に記す「トリート」が,トリートメント の対象者数を示す。表1・表2において,2値 変数については基準カテゴリの回答数を,その 他の変数については平均と標準偏差を示す。 第2に,表側中段の変数はトリートメントの 効果を示す。「トリート○」と「トリート×」 は,「4.4 トリートメント変数の説明」に記すト リートメント変数が各々「1」と「0」の場合に 対応しており,各行の値は (Y1)と (Y0)を示 す。「差」は両者の差を示すので,有意ならば トリートメントの効果(平均処置効果)を認める。 表1はインターネットメディアの環境に関して, 表2はマスメディアの環境に関しての分析結果 である。 第3に,表側下段に記す検定統計量を説明す る。分析では,以下の手順で検定を行う。まず, トリートメント変数が従属変数である回帰分析 の妥当性をWald値とMcFadden値に基づき判断 する(25)。つまり,Wald値が有意であり,かつ McFadden値がなるべく大きな独立変数の組合 せを探索する(26)。トリートメント変数が従属 変数である分析での独立変数は,引き続き行う Yについての回帰分析での説明力も期待できる ので,2種の分析での独立変数が重なるように 考慮した(27)。次に,「二重に頑健な推定量」を 得る際はトリートメント群と非トリートメント 群の間で独立変数の値が重なりを持たねばなら ないので,当条件を満たす場合のみ扱う (Guo & Fraser, 2015, 173-178)。また,選択バイアス へ対処する本研究では,傾向スコアが調整し た両群における独立変数の分布の類似性につき, Imaiらの発案に基づくHansenの J検定により評 価する(Hansen, 1982; Imai & Ratkovic, 2014; Guo & Fraser, 2015, 154-155; 飯田・松林,2011)。検 定結果は,「χ2」の行に示す(28)。トリートメン トの効果を扱う際,以下の「条件付き独立の仮 定」が前提となる。 (Y1, Y0) W | X 本研究では,McFadden値およびJ検定に基づ
き「条件付き独立の仮定」の充足度を評価する (星野, 2009, 124-126)。最後に,Abadie & Imbens (2012) の発案に基づく標準誤差を用いて前段に
記す「差」の検定を行う。なお,10%未満の有 意水準で検定手続きを統一する。
さらに,「条件付き独立の仮定」の下でDID を使用する際,以下の「共通傾向の仮定」を前 提とする (Abadie, 2005; Angrist & Pischke, 2009, 230-233)(29)。
E (Y0b−Ya | W=1, X) = E (Y0b−Ya | W=0, X)
E (Y1b−Ya | W=1, X) = E (Y1b−Ya | W=0, X)
以上の手続きをふまえて推計結果を得た分析 は,表1に関して7例,表2に関して5例であ る。表1に関して,表頭上段に「政党」と記す 列は,表頭下段の各政党に対する感情温度の変 化を,また表頭上段に「政治家」と記す列は表 頭下段の各人に対する感情温度の変化を従属変 数とした分析である(30)。表頭上段に「原発・ 自身・重要」,表頭下段に「全意見」と記す列 は,原発問題の重要性に関する評価の変化を従 属変数とした分析である。事前調査での重要性 の評価に関して,4段階のいずれの評価を下 した回答者も分析に含む。表頭上段に「報道」, 表頭下段に「意見」と記す列は,マスメディア の報道姿勢に対する意見の変化を従属変数とし た分析である。事前調査での意見に関して,4 段階のいずれの意見の回答者も分析に含む。 表2に関して,表頭上段に「政党」,表頭下 段に「自民」と記す列は,自民党に対する感情 温度の変化を従属変数とした分析である。表頭 上段に「自衛・他者・意見」と記す列は,自衛 権問題での賛否に関して自身と意見の異なる第 政党 政治家 原発・自身・重要 報道 公明 維新 生活 安倍 橋下 全意見 意見 従属変数 −1.948 5.0345 −.897 2.621 1.328 .055 .056 (23.186) (25.631) (20.422) (34.708) (28.646) (1.026) (.899) トリート 23 23 23 23 23 21 20 自民党 36 36 36 36 36 34 32 新聞 2.552 2.552 2.552 2.552 2.552 2.545 2.556 (.841) (.841) (.841) (.841) (.841) (.857) (.861) 番組 2.776 2.776 2.776 2.776 2.776 2.764 2.759 (.773) (.773) (.773) (.773) (.773) (.793) (.799) 学歴 3.276 3.276 3.276 3.276 3.276 3.345 3.352 (.894) (.894) (.894) (.894) (.894) (.865) (.828) 所得 3.655 3.655 3.655 3.655 3.655 3.600 3.519 (1.888) (1.888) (1.888) (1.888) (1.888) (1.832) (.828) 居住 20.310 20.310 20.310 20.310 20.310 19.836 19.426 (16.446) (16.446) (16.446) (16.446) (16.446) (16.664) (16.345) 年齢 42.069 42.069 42.069 42.069 42.069 42.200 42.315 (16.857) (16.857) (16.857) (16.857) (16.857) (17.178) (17.344) 住居 36 36 36 36 36 35 34 性別 36 36 36 36 36 34 32 トリート○ −11.178 −7.248 −13.019 −13.248 −15.368 −.616 .698 (4.749) (5.241) (4.583) (7.462) (5.839) (.337) (.193) トリート× 1.288 9.609 1.425 11.220 7.644 .082 −.057 (3.440) (4.291) (2.799) (3.999) (5.008) (.176) (.141) 差 −12.446+ −16.857* −14.445* −24.468** −23.013** −.698+ .755 ** (6.453) (7.075) (5.686) (8.346) (7.901) (.387) (.230) Wald 18.47* 18.47* 18.47* 18.47* 18.47* 19.60* 17.75* McFadden .245 .245 .245 .245 .245 .251 .234 χ2 2.983 2.983 2.983 2.983 2.893 1.577 1.757 標本規模 58 58 58 58 58 55 54 表1 メディア環境が政治的意見の変化におよぼす影響(インターネット) + < . 1 * < . 05 ** < . 01 ***< . 001 括弧内の値は標準偏差または標準誤差(筆者作成)
三者へ抱く感情の変化を従属変数とした分析で ある。表頭下段に「不快」と記しており,事前 調査における第三者への感情に関して「1」ま たは「2」の評価を下した回答者のみ分析に含 む。表頭上段に「自衛・他者・重要」と記す列 は,自衛権問題の重要性に関して,自身と評価 の異なる第三者へ抱く感情の変化を従属変数と した分析である。表頭下段に「不快」と記す場 合,事前調査における第三者への感情に関して 「1」または「2」の評価を下した回答者のみ分 析に含む。表頭下段に「重視」と記す場合,事 前調査での重要性の評価に関して「3」または 「4」の評価を下した回答者のみ分析に含む。表 頭上段に「原発・自身・意見」と記す列は,原 発問題での賛否に関する意見の変化を従属変数 とした分析である。表頭下段に「賛成」と記し ており,事前調査での賛否に関して「1」また は「2」を回答した回答者のみ分析に含む。
5.分析結果
5.1 インターネット 表1の結果を論じる。まず,3つの政党と2 人の政治家に関して,トリートメント群では感 情が悪化した。感情が好転する場合はないので, 少なくとも圧倒的に自民党の党派性が認識され たインターネット環境において,政治主体への 好感が増す事態は生じ難いと言える。また,自 民党への感情の悪化こそ認めない一方,「安倍」 への感情が大幅に悪化している。従って,ポー タルサイトニュースの操作が不可能としても, 自民党はインターネット上での自党および所属 政党 自衛・他者・意見 自衛・他者・重要 原発・自身・意見 自民 不快 不快 重視 賛成 従属変数 1.080 .411 .440 .011 .179 (23.841) (1.092) (.993) (1.117) (.741) トリート 54 19 18 31 24 自民党 63 26 22 38 42 新聞 2.856 2.929 3.020 2.900 2.821 (.680) (.735) (.714) (.637) (.741) 番組 2.936 2.946 2.980 3.000 2.946 (.619) (.644) (.685) (.581) (.749) 学歴 3.424 3.375 3.420 3.489 3.500 (.826) (.885) (.883) (.811) (.763) 所得 3.616 3.518 3.340 3.478 3.732 (1.839) (1.640) (1.599) (.811) (2.023) 居住 23.664 24.000 24.160 23.322 22.482 (16.533) (17.303) (17.989) (16.245) (17.438) 年齢 54.192 59.125 59.120 57.533 51.625 (15.530) (15.384) (15.503) (14.342) (16.116) 住居 81 36 34 54 40 性別 74 35 35 58 36 トリート○ 8.915 .832 −.005 −.567 .611 (3.596) (.304) (.198) (.272) (.191) トリート× −1.202 .191 .528 .012 −.108 (2.569) (.169) (.213) (.129) (.110) 差 10.117* .641+ −.533+ −.579+ .719+ (4.497) (.331) (.292) (.307) (.217) Wald 23.29** 17.64* 18.97* 15.99+ 22.27** McFadden .156 .253 .335 .174 .231 χ2 2.724 3.976 2.572 3.418 1.892 標本規模 125 56 50 90 56 表2 メディア環境が政治的意見の変化におよぼす影響(マスメディア) + < . 1 * < . 05 ** < . 01 ***< . 001 括弧内の値は標準偏差または標準誤差(筆者作成)政治家の情報発信に関して,党首の印象を損な う大きな看過がある。本段に続く2段は,いず れもこの点と関わる。 他方,「維新」と「橋下」への感情はいずれ も大幅に悪化しており,「安倍」に対する感情 の悪化のみ生じた自民党の場合と異なる。全国 的には同党が橋下の「個人商店」として認識さ れやすい点を背景として,政党と主要な政治家 への感情がそろって悪化したと思われる。では, トリートメントがどのように作用したのか。生 活の党を除くと,政党・政治家に関する結果は, 自民党または安倍と提携関係にある政治主体へ の感情温度を減じる点で共通する。言うまでも なく,公明党は1999年以来の自民党の連合対 象である。一方,大阪都構想などの点で自民党 大阪府連とは不仲の維新の会だが,安倍と橋下 の交友関係はマスメディアで幾度もとり上げら れてきた。また,改憲目的が一致するとは言え ぬものの,改憲を見据えた維新の会との提携関 係の維持,および改憲に慎重な公明党への牽制 を目的とした維新の会に対する安倍の配慮につ いても,くり返し報道されてきた(村上,2016)。 自民党自体に対する感情温度に有意な変化が 生じない点に鑑みると,トリートメントは以 下2点の意識を強化すると考えられる。第1に, 公明党や維新の会との提携関係が自民党独自の 政策や候補者選定を妨げるとの意識である。第 2に,政策としての優先順位が高いと言えず, また選挙を念頭に置けば強調すべきでない改憲 を熱望する安倍の急進性を危惧しつつも,党内 の安倍一強体制が継続せざるを得ない状況への 焦燥感である。この焦燥感は,改憲を念頭に置 き維新の会との提携を重視する安倍の姿勢によ り,第1の意識との相乗効果を生むだろう。つ まり,安倍を自民党にとって異質な存在と捉え, 自民党の「純化」を邪魔する点で公明党,維新 の会,および橋下と同類と見なす意識が強化さ れると考えられる。 次に,原発問題の重要性の評価に関して記す。 トリートメント群では,事前調査での重要性の 評価に基づき回答者を限定しない場合に関して 重視の程度が低下した。インターネットでの選 挙運動が解禁された2013年参院選の公示日直 前の6月19日,自民党はインターネットでの 選挙運動を推進する特別班「Truth Team (T2)」 を設置した。電通を主な提携企業とするT2は, 同党候補者自身のSNS・ブログを含め,自民党 および候補者に対するインターネット上での書 込みを分析・監視する(小口,2016)。この活動 の一環として,自民党は原発再稼働問題など論 争を招きやすい政策に関するインターネットで の発信を候補者に禁じた(毎日新聞朝刊,2013 年7月30日)。以降,広報本部ネットメディア 局を中心として,2016年参院選の比例代表候 補者をインターネット上で公募するなど,継続 的かつ実質的なソーシャル・リスニングを促す 制度を試行してきた(西田,2016)。これらの経 験をふまえた2016年選挙においても,同局は 「炎上」回避の方策として,専門分野以外の政 策についての発言,および他者への批判を禁じ る文書を党内で配布している(牧原・水島・松 本,2016)。この結果,原発への賛否にかかわ らず,有権者は自民党や所属候補者によるイン ターネットでの発信に基づき思索を深める機会 自体を得なかったであろう(31)。 最後に,マスメディアの報道姿勢への意見に ついて記す。トリートメント群では,マスメ ディア各社の自由な報道姿勢を支持する意見が 強化された。つまり,自民党の党派性を帯びる インターネット環境を選択した有権者は,マス メディア報道に関しても党派性を選べる環境を 望むに至る。翻って,「5.2 マスメディア」に記 すトリートメント群では同様の結果が生じない。 「2.3 マスメディアの限界」に記すLeungらの知 見にも関わるが,政権寄りのマスメディア報道 に不満な有権者は報道の自由を望むとの仮説が 正しければ,有権者が不満を抱かない程度には マスメディアの中立性が日本で認識されている と思われる。 なお,政党への感情および政策への意見・評
価の面で自身と異なる第三者へ抱く感情に変化 は生じていない。つまり,トリートメント群に おいて自民党を支持する自身の傾向が強化され るか否かにかかわらず,自身と意見を異にす る第三者への敵意が増すわけではない。従って, 少なくとも自民党の党派性を帯びるインター ネット環境を選択した層において,Sunstein (2001)の危惧する事態が生じているとまでは言 えない。 5.2 マスメディア 表2の結果を論じる。まず政党と政治家への 感情に関して,表1の場合と2点の差異があ る。第1に,トリートメント群では自民党への 好感が増す一方,政治家や中小政党へ対する感 情の変化は見られない。第2に,感情の変化が 好感の増大に限られる点で,感情の変化が悪化 に限られた表1と異なる。この差異の原因とし て,両メディアの差異が考えられる。「2.3 マス メディアの限界」に記す通り,法制度に基づく 自民党のマスメディアへの姿勢は同党に関する 否定的なテレビ報道を躊躇させる。またマスメ ディアは,紙幅や放送時間の制約,および取材 能力という物理的制約に従う。この結果,有権 者一般の関心に鑑みて,各政治家や中小政党 の動向ではなく自民党の概況を中心に扱う動 機が生じる(32)。一方でインターネットの場合, ポータルサイトニュースのリンクやインター ネット上での政党・候補者の発信を捉え,使用 者自身が各自の関心事項に関する詳細な情報を 容易に収集できる。つまり,政党・政治家の不 祥事や問題点を含め,マスメディアの報道が希 薄な情報に対しても選択的に接触できる。 実際の報道はどうであったか。毎日新聞によ ると,公示後最初の日曜日より投票日前日ま でにおける在京地上波テレビ局の選挙報道の時 間は,2013年参院選と比べて27.6%減じた(33)。 また上智大学のグループは,公示期間の平日に 関して在京地上波テレビ局の選挙報道の時間を 調べた。するとNHKを除く夕方のニュースに 関して,いずれも都知事選の報道が選挙報道 を約2∼3倍上回っていた(朝日新聞DIGITAL, 2016年10月2日)(34)。また水島(2016a)は,公 示期間の選挙報道で各党首の主張が放映された 時間を比べた。民放では各党がほぼ均等であっ たが,NHKでは明らかに自民党が長かった(35)。 さらに,公示期間の報道番組を分析した水島 (2017)によると,『要望書』の効果は2016年選 挙にも表れる。特に,政策を扱う時間が減る 一方,争点に関して特徴的な選挙区を扱う時 間,および「18歳選挙権」や「合区」など選 挙制度自体を扱う時間が増した。また街頭イン タヴューに関しても,現状への感想や政策意見 を問う質問が減り,投票へ行くか否かを若者に 問うなど形式的な質問が増した。加えて,自民 党の首相や大臣の約束違反や不祥事に関する過 去の映像の使用も見られなかった。 公示期間に党派的報道を抑制しやすいテレビ と異なり,新聞に関して読売と毎日・朝日の間 に顕著な差異が生じた。憲法の争点化を避けた い自民党の立場に従い「アベノミクス」を主に とり上げた前者に対し,後者は一貫して憲法を 争点化した。殊に,「改憲勢力が2/3を得る勢い」 との表現により改憲勢力が大勝する印象を読者 に与え,危機感を喚起した(小此木,2017)(36)。 従って,特定の政治主体への批判的な報道を 回避しつつ,水島(2016b)の指摘通り自民党関 連の報道比率が高いマスメディアに囲繞された 結果,渡邊・佐藤(2015)の示唆通り政治主体に 関する感情の点で自民党への好感が増すのみに 終わったと思われる。 次に政策への意見・評価について,表1の場 合と3点の差異がある。第1に,集団的自衛権 に関する反応を得た。第2に,第三者への感情 に関する反応を得た。第3に,原発の賛否をめ ぐる意見に変化が生じた。集団的自衛権に関す る反応は全て第三者への感情に表れるので,第 1と第2の点は関連する。逆に表1・表2の両 方に関して,原発に関する反応は全て政策に対 する自身の意見・評価に表れる。
第1および第2の差異について,まず表頭上 段に「自衛・他者・意見」と記す列に記す通り, 事前調査で自身と意見の異なる第三者へ不快感 を抱く回答者に分析を限定する場合,トリート メント群で不快感が減じた。引き続き第1およ び第2の差異について,表頭上段に「自衛・他 者・重要」と記す列に記す通り,事前調査で自 身と重要性の評価が異なる第三者へ不快感を抱 く回答者に分析を限定する場合,トリートメン ト群で不快感が増した。同じく,事前調査で問 題を重視する回答者に分析を限定する場合,不 快感が増した。そして第3の差異について,表 頭上段に「原発・自身・意見」と記す列に記す 通り,事前調査で原発に賛意を抱く回答者に分 析を限定する場合,トリートメント群で賛意が 減じた。 民進党は,「経済と暮らしの建て直し」と「憲 法の平和主義の遵守」を選挙公約の2つの柱に 掲げた(37)。後者に関して,安全保障関連法の 廃止を含め憲法9条に関わる改憲への反対を通 じ,集団的自衛権を争点化している。他方,原 発に関しては「原発の安全確保」を掲げるにと どめ,争点化を回避した。この結果,論争的な 政策に関する主要政党の公約の差異は改憲と関 わる安全保障法制の選挙報道に表れやすくなる (38)。先述の水島(2017)の調査によると,「選挙 での重要争点に挙げる有権者が多数である」と の事実が当該争点を扱う理由であると説明した 上で,各局は扱う政策を「経済政策」・「社会保 障」・「憲法」の3点にほぼ限定していた(39)。 自民党に対して好意的と認識されたマスメ ディア環境下で集団的自衛権に関する反応が生 じた以上,集団的自衛権の行使に関するマスメ ディアの態度は肯定的であると認識されたであ ろう。同問題に関する報道量の増加が熟考を促 す結果,事前の態度が行使に反対の場合,行使 を容認する報道への接触を通じて行使に賛成す る意見への理解が深まりうる。また事前の態度 が行使に賛成の場合,自身の意見についての自 信の向上を通じて行使に反対する意見への不快 感も減じたのではないか。この推測が正しいな らば,意見の異なる他者に対して事前に抱く不 快感は,同問題に関する知識や熟考の不足が原 因であろう。 また公示日以前より自身が重視していた安全 保障関連法の問題に関して,同法の意義を説く 報道により熟考の機会が与えられた場合,同問 題を軽視する他者への不快感が増す。不快感の 増進は,同問題を軽視する他者への不快感を以 前より抱いていた回答者において大きい。つま り,ともに重要問題を考えようとしない他者へ の不寛容を熟考の機会が促す。従って,問題へ の賛否をめぐる二極化と異なり,問題への関与 の高低をめぐる二極化の考察も必要である。前 段の知見を考慮すると,熟考の機会は賛否に関 する二極化を防ぐ一方,重要性の評価に関する 二極化を促す危険も内包する。 他方,同問題を事前に軽視しており,かつ同 問題を重視する他者に不快感を抱いていた回 答者において,重要性についての意見が異なる 他者への不快感が増す場合,同問題を憲法問題 と分離したい自民党の立場を反映した報道に接 した影響が生じたと思われる。従って,重要性 の評価についての高低差は,党派性を帯びたメ ディア環境の影響を被ると,自身と異なる重要 性の評価を下す他者への排斥を招きやすい。 最後に,原発維持に賛成していた回答者にお いてトリートメント群での賛意が減じる。2016 年選挙では,自民・民進両党の間で政策の差異 が見られなかった。また,改憲と関わる国防と いう論争的な主要争点が存在した上,そもそも 有権者の主要な関心は社会保障・景気であった。 この結果,原発維持派の政党の主張を短くとり 上げるのみの報道に囲繞され,熟考の材料が提 供されない不安または不満により賛意が減じた のではなかろうか。 政党・政治家による発信やマスメディア報道 が原発問題に関して不足していた点は述べた が,原発と異なり集団的自衛権は法制定直後の 論争的かつ主要な争点であった点も,賛否や重
要性に関する自身の態度の不変性と関連するか も知れない。安全保障関連法案をめぐる審議の 間,有権者は法案についての自身の意見を公示 日までに形成していく。次に公示期間では,特 定の党派性を帯びたメディアの視座に基づくも のの,各党の主張を明確に比べる機会を得て自 身と異なる意見の他者への感情が形成されたの ではないか。すると,有権者へ情報検索の労力 を求めることなく明快な比較を提示する能力に おいてマスメディアの本領が発揮されたと言え る。他方,既に自身の意見および自身と異なる 意見の他者への感情が形成された原発問題に関 しては,公示期間に新たな情報を得られず,賛 否については原発維持への積極的な賛意の減少, あるいは選挙争点からの除外に伴う重要性の評 価の低下が生じたのではないか。重要性の低い 争点に関してはインターネット上の情報も限定 されざるを得ないので,プルメディアとしての 能力も発揮しえない。