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スライドを用いる数学の授業の実践の検討

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Academic year: 2021

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スライドを用いる数学の授業の実践の検討

勝谷 浩明

*

A Study of Practice of Lessons of Mathematics using Slides

Hiroaki KATSUTANI

*

Abstract

At the remote teaching in our college, the author lectured presenting static images

slide to the students. Compared to teaching while writing description on blackboards, teaching

while presenting description with slides may have considerable advantages, although it has

some disadvantages. So, the author would like to incorporate the explanation using sildes

into teaching. For this purpose, the author carried out a questionnaire to the students, and

considered the effect of teaching while presenting description with slides.

1. 初めに

 筆者が2020年度の前学期に勤務校で行った遠隔授業では,説明の記述の総てを静止画のスライドで提示し て講義した. そして,説明の記述をスライドで提示することは,板書で提示することと比べて,欠点もある もののかなり利点があるのではないかと考えた. 学校の教室で行う対面授業においても,ある種の説明の記 述をスライドで提示することで授業の効果が上がるならば,部分的にでも今後取り入れられないかと考える. そのために,板書による提示と比べてスライドによる提示にはどのような得失があるか, 授業したクラスの 学生に行ったアンケートの結果を踏まえて検討した.

2. スライドによる提示の得失

 筆者は,微分積分の内容の遠隔授業を,筆者が授業を担当する第2学年の各クラスで24回行い,第3学年 の各クラスで12回行った. この遠隔授業では,勤務校としてスマートフォンによる視聴を認めているので, そのような状況に配慮すべきと考えた. また,なるべく通信量を抑えるべきと考えた. このような理由で, 記述を静止画のスライドで提示して説明した. このように何回にも亘って総ての記述をスライドで提示する ような授業はこれまで実践したことがないので,遠隔授業を行った最後の週に,板書による提示と比べたス ライドによる提示の得失についてアンケートで受講した学生に尋ねた.  板書による提示に対するスライドによる提示の利点として以下のような事項が考えられる. 板書による提 示では,教員が黒板に説明文を書いたり図を描いたりするのにそれなりの時間がかかるし,それを学生がノー トに写すのにも時間がかかる. 対してスライドでは説明文も図も一瞬で提示される. それ故,板書するより 多くの記述を提示できるし,板書にかけていた時間を学生が各自で問題に取り組む時間にまわせる. また, スライドを収めたファイルをサーバに上げて学生にダウンロードさせれば, 授業後に学生がスライドを見返 したり更にはファイルを改変して自分用にまとめることができる. 授業後にスライドを見返してノートなど * 教授(一般学科)

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をまとめることにして授業中は説明を聴くことに集中すれば,授業内容の理解が進むのではないかと考える. また,黒板に手書きするよりスライドの画面にパーソナルコンピュータで描く方が精密な図が描ける.  一方,板書による提示に対するこの度のスライドによる提示の欠点として以下のような事項が考えられる. スマートフォンでの視聴を考慮して比較的小さな画面でも読みにくくない大きさの字で記載されたスライドを 作ると,スライドの画面に表示できる記述の量は教室の黒板で表示できる記述の量よりかなり少ない. 従っ て,数学の証明や問題の解説において,スライド画面が切り替わって以前のスライド画面に記された文や式 を学生が自分の望むタイミングでは見返せなくて分かりにくくなることがあるかと考える.  スライドによる提示の利点を生かし欠点をなるべく抑えるために次のような方策をとった.  黒板に板書する説明文の記述より詳しい記述及び板書で描くより多くの図を提示した. 板書では省略すよ うな文言もスライドの記述には書き入れた. 説明のために以前に扱った内容の記述を再度提示したいときは 繰り返して提示した. 例え ば,リーマン和の極限値と しての定積分の定義を, 微 分積分の基本定理を説明す るとき,定積分の基本的性 質を説明するとき, 平面図 形の面積を求める公式を説 明するとき,立体図形の体 積を求める公式を説明する とき,関数のグラフの長さ を求める公式を説明すると き,などで繰り返し提示し た. 図の提示については, 三角関数のグラフや, 面積 体積をリーマン和で近似す る図などを,板書授業と比 べて数多く提示した. その 例を右に提示する.  教室で多くの学生と一緒 x y 0 x0 x1 x2 x3 y= g(x) y= f (x) (x2, f(x2)) (x2, g(x2)) g(x2) − f (x2) x2− x1 上図の薄緑色の長方形の面積は {g(x2) − f (x2)}(x2− x1) . スライド画面の例 x y 0 x0 x1 x2 x3 y= g(x) y= f (x) g(x1) − f (x1) g(x2) − f (x2) g(x3) − f (x3) x1− x0 x2− x1 x3− x2 上図の3個の長方形を併せた図形(薄緑色の部分の図形)の面積 S3 は S3 = 3 ∑ k=1[{g(x k) − f (xk)} (xk− xk1)] . スライド画面の例 に受ける対面授業と比べる と,各自が自宅で受ける遠 隔授業では教員が講義する だけでは学生が授業に飽き るであろうと思われる. ス ライドでは提示に時間がか からないことを生かして, 学生が各自で問題を解く時 間を多くした.

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 スライド画面が切り替わ x y 0 a b y= g(x) y= f (x) 上図の100個の長方形を併せた図形(薄緑色の部分の図形)の面積 S100 は S100 = 100 ∑ k=1[{g(x k) − f (xk)} (xk− xk −1)] . スライド画面の例 ることによって以前のスラ イド画面にある記述を参照 できなくなる不利を抑える ために,一つの説明や解答 が複数画面に渡るとき, 各 画面の結論のような記述を 次の画面の初めに表示する ようにした. また,1ペー ジのスライドの中でも段階 的に間をおいて記述を表示 するようにして, 多少なり とも板書の感じに近づけた. 更に,説明や問題の解答な どの記述で,まず式の部分を空欄にして提示して学生が空欄の式を考える間をおき,次のスライドでその式 を含めて表示した. 授業後にスライドのファイルをサーバに上げて,学生にはスライドを見返して要点をま とめておくよう指示した.

3. アンケートの結果

 このようなスライドをスマートホンなどの画面で見ながら教室で対面授業を受けるとすると, 板書で説明 される授業を受けるのと比べてどう思うか,アンケートで学生に尋ねた. 遠隔授業と対面授業との差から生 じることはなるべく考えないように求めた. このアンケートに,第2学年の2クラスで83名の学生からの回 答と,第3学年の2クラスで92名の学生からの回答とを得た. その結果を述べる. 設問: 板書授業では板書にだいぶ時間が取られるのに対して,スライド授業では文章や図が一瞬で提示され るので,各自で問題を解く時間ができたり文章や図を多く提示されたりします.また授業後にスライドを見 返せます.このようなことがスライド授業の利点ではないかと思いますが皆さんはどう思いますか. そう思う まあそう思う あまりそう思わない そうでないと思う 2年生 49.4% 45.8% 4.8% 0% スライド授業で各自で問題を解 く時間ができれば授業の効果が 上がる. 3年生 38.0% 48.9% 8.7% 4.3% 2年生 38.6% 50.6% 10.8% 0% スライド授業で文章や図を多く見 せられると授業の効果が上がる.3年生 38.0% 41.3% 17.4% 3.3% 2年生 30.1% 47.0% 21.7% 1.2% 授業後スライドを見返して授業 中は説明を理解することに集中 して授業の効果が上がる. 3年生 41.8% 44.0% 12.1% 2.2% 2年生 14.5% 37.3% 41.0% 7.2% 問題を解く時間を減らしてもス ライドの進行をゆっくりする方 が授業の効果が上がる. 3年生 30.4% 35.9% 23.9% 9.8%

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設問: 板書授業と比べてスライド授業では一時に表示される文や式が少ないので,以前のスライドの文や式 を見返せなくて分かりにくいことがあるのではないかと懸念しますがどうですか. そう思う まあそう思う あまりそう思わない そうでないと思う 2年生 22.9% 38.6% 31.3% 7.2% スライド授業では以前のスライ ドの記述を見返せなくて分かり にくいことがある. 3年生 41.3% 38.0% 18.5% 2.2% 設問: 板書よりスライドの方が比較的丁寧に説明を記述したので,記述の量が多くなりました.スライドの 比較的丁寧な記述と板書の比較的簡潔な記述とのどちらが学び易いでしょうか. そう思う まあそう思う あまりそう思わない そうでないと思う 2年生 22.9% 47.0% 27.2% 2.4% スライドの比較的丁寧な記述の 方が学び易い. 3年生 22.8% 30.4% 35.9% 10.9% 2年生 12.0% 39.8% 44.6% 3.6% 板書の簡潔な記述の方が学び 易い. 3年生 30.8% 35.2% 29.7% 4.4% 設問: 板書の手書きの図とスライドのパソコンで描かれた図とどちらの方が学び易いでしょうか. そう思う まあそう思う あまりそう思わない そうでないと思う 2年生 42.2% 47.0% 9.6% 1.2% スライドの図の方が学び易いこ とが多い. 3年生 52.7% 33.0% 12.1% 2.2% 2年生 4.0% 19.5% 58.5% 17.1% 板書の図の方が学び易いことが 多い. 3年生 18.7% 9.9% 62.6% 8.8% 設問: スライド授業で1面のスライドの中でも段階的に間をおいて記述を表示するようにして多少なりとも 板書する感じに近づけました. そう思う まあそう思う あまりそう思わない そうでないと思う 2年生 42.2% 47.0% 9.6% 1.2% 記述を段階的に表示される方が 分かり易い 3年生 44.0% 44.0% 12.1% 0% 設問: 板書授業と比べてスライド授業では提示される記述の量が多いのですべてをノートに写しきれないと 思います.ノートについて以下の事項の中から当てはまることを総て選んで下さい.

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2年生 3年生 授業の後でスライドを見返して手書きで内容をまとめている. 14.5% 45.7% スライドのPDFファイルを加工して内容をまとめている. 8.4% 9.8% スライドの内容を PDFファイルを扱う以外のアプリ(ワープロやノート アプリなど)でまとめている. 3.6% 2.1% スライド授業でも授業中に要点をノートにとっている. 54.2% 43.8% 板書をノートに写す方が学び易い. 26.5% 39.1% 授業内容をまとめたりはしていない. 24.1% 8.7% 設問: 総合的に,スライド授業と板書授業とのどちらの方が授業の効果が上がることが多いと思いますか. 2年生 3年生 スライド授業の方が効果が上がることがだいぶ多いと思う. 21.7% 9.8% スライド授業の方が効果が上がることがいくらか多いと思う. 39.8% 29.3% どちらの方が効果が上がるとかあまり思わない. 27.7% 30.4% 板書授業の方が効果が上がることがいくらか多いと思う. 9.6% 22.8% 板書授業の方が効果が上がることがだいぶ多いと思う. 1.2% 7.6%

4. アンケートの結果の検討

 アンケートに対する学生の回答を見ると,以下のようなスライドによる提示の利点を多くの学生が感じて いる. ・記述をスライドで提示することで各自で問題を解く時間を増やせば授業の効果が上がるのではないか. ・スライド提示することで文章や図を多く見せると授業の効果が上がるのではないか. ・授業後にスライドを見返して授業中は説明を理解することに集中させれば授業の効果が上がるのではな いか. ・板書の図よりスライドの精密な図を提示する方が学び易いようだ.  かたや,スライドによる提示では以前のスライドの記述を見返せなくて分かりにくいことがあるという問 題はやはり学生も感じている.2年生より3年生の方がより多く感じているのは,2年生の授業より3年生の 授業の方が授業で述べる説明や例題解説が長いので問題と感じる機会が多いからであろう. この問題は,教 室で授業するときは,スライドの内容をまとめた印刷教材を学生に配ればある程度は解決されるのではない かと考える.  スライドの比較的丁寧な記述と板書の比較的簡潔な記述とではどちらの方が学び易いかということについ て,2年生と3年生とで幾らか差がついた. 2年生ではスライドの丁寧な記述の方が学び易いという学生がか なり多いが,3年生ではそうではない. また,2年生ではスライドによる提示は板書による提示より効果が多 いと考える学生が多いが,3年生ではスライドによる提示と板書による提示とでどちらの方が効果が大きいと 考えるかについて大きな差がない. 3年生の結果はやや意外であったが,次のような事情が考えられる.

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 アンケートでスライドによる提示について選択肢に上げなかった得失や要望などを自由記述で尋ねたとこ ろ,3年生から多くの記述を得た. その記述を読むと,3年生の回答の一部はアンケートの趣旨にどれだけ 沿って判断されたか疑問に思われる. 3年生対象の授業では,定積分の概念とか,定積分の定義に基づく定 積分の性質とか,面積や体積が定積分で計算できる理由とかを,比較的詳しい説明文や多くの図をスライド で提示して説明したが,一部の学生にはそのようなことの説明に時間をかけること自体が不評であったよう である. また,遠隔授業の欠点とは別に考えるように要請したにもかかわらず,友人に相談できないなどの 遠隔授業に対する不満を述べた記述もいくつか見受けられた. 3年生の回答にはこのような学生の感覚が幾 らか影響しているのではないかと考える.

5. まとめ

 授業において記述をスライドで提示することの得失について,学生に行ったアンケートの結果を踏まえて 検討した. その結果,対面授業でも記述の一部をスライドで提示することで授業の効果が上がるのではない かと考える. 今後,そのようなことを実践していきたい.

参照

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