〒719-1197 岡山県総社市窪木111 岡山県立大学保健福祉学部 719-1197 School of Health and Welfare, Okayama Prefectural University, Kuboki 111, Soja City, Okayama-ken, 719-1197 Japan.
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特集:高齢者の住まいとケアの展望
地域包括支援センターにおける「高齢者虐待」に関する取り組み
筒井澄栄
1),本田由美子
2),葛原江利子
2),彼宗千恵
2),大柳堅司
2),
下川浩幸
2),安井リカ
2),中井俊雄
2),大夛賀政昭
3,4),松繁卓哉
4),筒井孝子
4) 1)岡山県立大学保健福祉学部 2)総社市保健福祉部介護保険課地域包括支援センター 3) 立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科 4) 国立保健医療科学院福祉サービス部Approach to “Elderly Abuse” in Community Care Centers
Sumiei T
SUSUI1), Yumiko H
ONDA2), Eriko K
UZUHARA2), Chie K
ASOU2), Kenji O
YAGI2),
Hiroyuki S
HIMOKAWA2), Rika Y
ASUI2), Toshio N
AKAI2), Masaaki O
TAGA3,4),
Takuya M
ATSUSHIGE4), Takako T
SUSUI4) 1)School of Health and Welfare, Okayama Prefectural University2)Community Care Center, Long-term Care Insurance Division, Department of Health and Welfare, Soja City 3)Graduate school of Human and Community Services, Rikkyo University
4)Department of Health and Social Services, National Institute of Public Health
抄録 高齢者虐待は,高齢者の尊厳ある生活を脅かし,対応が遅れると重篤化するため,早急に対応する必要がある.地域包 括支援センターにとって,高齢者虐待の防止・予防の仕組みや,解決に導く仕組みの構築は,重要な課題である.これまで, 様々な取り組みがなされているものの,住民や専門職の間でも虐待事例の通報に関する課題が指摘されるなど十分な成果 が示されているとは言えない状況となっている. そこで本稿では,日本の地方都市である岡山県総社市における高齢者虐待に関する実態調査を通じて,地域における高 齢者虐待の実態とその課題について考察することを目的とした. 高齢者虐待と思われる事例の取り扱い時の意識については,介護支援専門員45人を対象に個別面接調査を行った.通報 後の対応については,地域包括支援センターの高齢者虐待担当職員(12名)を対象に,詳細な聞き取り調査を行った. この結果,総社市では平成20年12月末までに85件の虐待通報があり,地域には虐待と思われる事例が顕在化せず存在し ていることが明らかになった. また,介護支援専門員の虐待の判断が不十分であり,通報義務等の周知ができていなかった.さらに,援助実施後の状 況や対応の経過を把握し,適切な支援から終結へ導くための実施していくことは容易ではないということがわかった. 虐待事例の早期発見・早期対応には,発見者となることの多い介護支援専門員に対しての積極的な法律の周知活動や認識 を一致させるための行政側の対応も重要であり,介護支援専門員をはじめ各関係機関と連携を図ること,対応状況を確認 しつつ,援助方法を再検討する必要があることから,この支援体制を維持するためには,地域支援ネットワークの構築は 不可欠であることが明らかにされた. キーワード: 高齢者虐待,地域支援ネットワーク,介護支援専門員
Ⅰ.はじめに
高齢者虐待は,高齢者の尊厳ある生活を脅かし,対応が 遅れると重篤化する恐れがあり,早急に対応,解決しなけ ればならない問題である.高齢者虐待の防止・予防を含め, 早期に発見する仕組みや,解決に導く仕組みの構築は地域 包括支援センターにおける重要な課題とされている. これまでも高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する 支援等に関する法律(平成18年4月施行)が示され,「国 及び地方公共団体は高齢者虐待の防止,高齢者虐待を受け た高齢者の保護及び養護者に対する支援を行うため,各関 係機関と連携し,必要な体制の整備,研修等の開催に努め, 通報義務の周知,啓発活動を行っていかなければならない (第3条)」という規定に基づきその防止についての取り組 みがなされてきたが,十分な成果が示されているとは言え ない状況となっている. これは,高齢者虐待に対する認識については,全国的な 動向としては,国民全体への周知が高まったといえるもの の,住民や専門職の間でも当該事象が「虐待だと断定でき ない」,「通報に抵抗がある」といった様々な要因によって, 多くの場合,虐待事例の通報に課題があるという状況があ るためと推測される1). 本稿では,地方都市のひとつである岡山県総社市におけ る高齢者虐待に関する実態調査を通じて,地域における高 齢者虐待の実態とその課題について考察することを目的と した.Ⅱ.総社市における高齢者虐待に関する現状
総社市では,平成18年度に27件発生した高齢者虐待事例 通報を契機に,平成19年度に総社市高齢者虐待対応マニュ アル」を作成した.そして当該マニュアルにおいては,全 新規通報事例について48時間以内に第1次ケース検討会議 (受理会議)を行い,緊急性の判断・事実確認の方法等を 定めること,また訪問等により安全確認・事実確認を行い, This study focuses on the realities and the problems of abuse faced by the elderly in the Soja city region of Okayama, which is a suburban city, through the investigation of actual conditions concerning elderly abuse.We conducted interviews with 45 care managers about the handling of reported cases of apparent elderly abuse. An interview survey of ways to respond to reports from citizens was performed with 12 staff members in charge of elderly abuse at the community care center. In Soja city, 85 reports of cruelty were made by the end of December, 2008, which suggests that a certain amount of elderly abuse has still not been revealed in the region. It is clear that care managers have not necessarily appropriately judged elderly abuse cases, and that they have not adequately recognized their obligations under the notification system. Moreover, it has been understood that it is difficult to recognize the process of care manager’s responses and the situation after help is executed which makes it very hard to terminate a problem with appropriate support.
To permit earlier detection of, and quicker response to these cases, it is crucial that the government makes efforts to ensure that care managers, who are most likely to be the first person to detect a case, are well informed about legal obligations related to elderly abuse safeguards. Moreover, it is also important to promote cooperation among care managers and related organizations, the monitoring of the correspondence process, and the reconsideration of existing support methods. That is why this study concluded that the construction of the local support networks is indispensable to maintain community based support systems.
keywords: elderly abuse, community based support system, care manager
第2次ケース検討会議で事例分析・援助方針を決定し支援 すること等を定めることが明記され,対応を行われている. 総社市においては,平成18・19年度中に計63件の高齢者 の虐待事例が通報され,そのうち59件が虐待と認められた. これは,全国集計と比較すると,平成18年度では4.01倍, 平成19年度4.63倍の発見・通報がなされていることになる. また,平成18年4月から平成20年10月までに高齢者虐待の 通報が76件あり,平成18年度と平成19年度を比較すると 1.25倍増加している.特に介護支援専門員からの通報が3.6 倍と際立って増加しているが,平成19年度は介護支援専門 員からの通報が全通報のうち51.4%に対し,今年度10月末 では15.3%に減少している. 総社市では,平成19年度に介護支援専門員からの高齢者 虐待の通報が減少したことを鑑み,その理由を明らかにす るために介護支援専門員を対象に高齢者虐待と思われる事 例の取り扱い時の意識に関する調査を行っている.また, 平成18・19年度の通報事例について被虐待者の現状を把握 し,虐待受理後の対応経過をまとめ,分析することで,虐 待対応時の注意点や課題を明確にし,今後の高齢者虐待に 関する支援や方策等を検討することを目的として追跡調査 が行われている. さらに,通報が減少した原因については,平成18年4月 から平成20年10月までに取り扱った事例について「虐待と 思われる事例を取り扱った件数」「通報の有無」「通報後の 市の対応」「市の虐待対応への取り組み」「通報に至らな かった理由」について調査票を作成し,平成20年11月に市 内の居宅介護支援事業所に所属する介護支援専門員45人を 対象に実施され,通報後の対応については,平成18・19年 度中に通報のあった事例の調査が地域包括支援センターの 高齢者虐待担当職員(12名)を対象に,聞き取り追跡調査 が実施された.
Ⅲ.介護支援専門員の高齢者虐待の通報が減少し
た理由
介 護 支 援 専 門 員 に 対 す る 調 査 の 回 収 率 は 高 く,41名 (91.1%)から回答を得た.まず虐待と思われる事例を取 り扱ったことのある介護支援専門員は17人で,その取り扱 い 件 数 は23件 で あ っ た.そ の う ち 通 報 し た 件 数 は13件 (56.5%)で,市が通報を受理した実数は25件であった. 通報されなかった10件(43.4%)は,虐待の事実があった ものの通報に至らなかった事例であったが,これら10件の 理由としては,「通報するほどではなかった」4件,「通報 は大げさだと思った」4件,「虐待だと判断できなかった」 3件,「市へ通報しても役に立たないと思った」1件で あった.その他の自由記述に,「介入や様子見で解決」, 「包括支援センターへ相談した」との回答があった. 通報後の市の対応に関しての介護支援専門員の評価とし ては,「十分に対応できている」2件,「概ね対応できてい る」3件の回答であった.しかし,「あまり対応できてい ない」は2件であり,その他では「経過の連絡がなく,対 応しているかどうか不明」と回答が示された. 市の高齢者虐待への取り組みについては,「組織があり, 対応手順も明らか」,「積極的に取り組まれている」等取り 組みへの良い評価が4件ある一方で「最後まで対応して欲 しい」,「相談しにくい」,「市では虐待と判断されなかっ た」,「高齢者だけでなく,家族への慰労や保護も必要」等 取り組みが不十分であるという意見が7件であった. これらの結果からは,介護支援専門員側の意識の変化に よって故意に通報が減少したという状況は示されなかった ものと考えられたが,通報後の市の対応について,必ずし もよい結果がもたらされたとは考えられていない状況も明 らかにされた. 次に,平成18・19年度に通報のあった63例の高齢者虐待 事例の事後調査結果であるが,これについては,地域包括 支援センターの高齢者虐待担当職員12名への聞き取りを 行った結果,現在,在宅で生活を継続が最も多く47.6% (30件)と約半数を占めていた.次いで,死亡23.8%(15 件),入院,施設入所17.5%(11件)と示され,これらは合 計すると 全体の4割 以上を 占めていた.さ らに不 明 も 11.1%(7件)と示され,モニタリングについての課題が 総 社 市 総 社 市 総 社 市 総 社 市 総 社 市 総 社 市 図2.総社市における高齢者虐待の通報状況状況の改善がみられたものが3件(15.7%)あった.なお, サービス等利用のないものが5件,サービス等の利用状況 が不明なものは6件であった. 通報後の経過としては,終結と判断されたものが38件 (60.3%)であったが,現在の対応状況が不明なものが13 件(20.6%)あることがわかった.通報後の経過で終結と 判断されたもののうち,被虐待者の死亡15件(39.5%), 入院・施設入所11件(29%),虐待者の死亡2件(5.3%), 虐待行為が改善されたものが8件(21.1%)であった.被 虐待者の死亡15件のうち,何らかの対応中に死亡している ものは10件であった.
Ⅵ.高齢者虐待に対する地域支援体制のあり方
介護支援専門員から,市へ相談という形式で入った高齢 者虐待に関する情報の多くが,市では通報扱いになってい た.このため,介護支援専門員は,「相談なら気軽にでき るが,通報となると大げさに感じる」と感じているという ことが明らかになった.市としては,「虐待を受けたと思 われる高齢者を発見したものからの相談等は通報と定めて いる」としており,介護支援専門員と市との間には意識の 差が生じていた. 介護支援専門員としては,通報が虐待事例の発見として 大げさに扱われることを望んでいなかった.しかし,彼ら が知りえた情報は貴重であり,虐待の予防には,早期発 見・早期対応が最も重要である.したがって,今後は,介 護支援専門員へ高齢者虐待の研修を行い,虐待の兆候につ いての理解を深め,すべての専門員が,同一の基準で虐待 が疑われる段階を認知し,それを通報に結び付けていく際 に,ある種の戸惑いがないようにできるようになることが 求められる. こういったことを踏まえ,総社市では,高齢者虐待に関 しての統一した対応マニュアルを作成し,通報義務,判断 基準,対応手順等を定め周知を図り,平成20年度からは通 報時の受理会議を必ず開催し,緊急性の判断,高齢者の安 全確認方法,関係者等への確認事項整理,担当者決定等を 行い,対応を行ってきた. また,通報後に在宅での生活を継続している方が約半数 あったが,約2割の方が入院・入所であることから,住み 慣れた在宅での継続した生活へ向けて支援策の検討が必要 であると考えられていた.在宅でサービス等の利用につな がっているもののうち,虐待行為が改善されていた事例は 約7割と高率であった. このことからは,サービス等の利用が虐待行為の軽減, 解消に有効であり,在宅での生活が継続される可能性が高 ないとしても死亡率が高かったことは,今後の課題であろ う. 通報後の対応状況が不明の事例は早急に,その実態を把 握しなければならない.また対応状況が不明となっていた 理由は,通報後の責任主体が不明確であったことや,通報 者や関係者と情報を共有する仕組みが十分に確立されてお らず,通報後どのような対応,支援が行なわれているのか といった経過を十分把握出来ていなかったことが原因で あった.このため,これについても抜本的な見直しがなさ れなければならない. 同 様 に,虐 待 受 理 後 の 経 過 が 不 明 な 事 例 が13件 (20.6%)もあり,通報者や関係者等と情報を共有する仕 組みが確立できていないため通報後の責任主体が不明確で あったのではないか,またそのため通報後,どのような対 応・支援が行われたのか経過を十分に把握できなかったと 推察された.このほかにも虐待受理後,援助実施から,再 検討なく終結した事例もあるが,多くが被虐待者の死亡や 入院・施設入所等による終結であり,援助実施からモニタ リング・援助方針等の再検討など仕組みはあったものの機 能していなかったということが確認された. 被虐待者や虐待者を取り巻く状況は日々変化しており, 援助実施後の状況や対応の経過を把握し,適切な支援から 終結へ導くため,「モニタリング」,「会議での再検討」, 「再支援」という一連の流れの循環で支援を継続していく ことが重要である. これについては,すでにマニュアルに示していたことで あった.しかし,これを実施していくことは,必ずしも容 易ではないということがわかった.またマニュアルの有効 性等についても,十分な検証がされていない.このためマ ニュアルの見直しも視野に置き検討を進めなければならな いと考えられた.Ⅴ.おわりに
総社市では,今年度12月末までに85件(新規22件)の虐 待通報があったが,地域には虐待と思われる事例が顕在化 せずあること,また介護支援専門員からの通報が減少した 理由として,虐待の判断が不十分であり,通報義務等の周 知ができていないことが原因ではないかと推察された. 高齢者虐待防止法においては,専門職における高齢者虐 待の早期発見に努める義務(第5条),虐待を受けたと思 われる高齢者を発見したものには通報の努力義務,高齢者 の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は通報の義 務(第7条)が定められているが,(要介護状態にある高 齢者の心身機能のみならず生活環境を踏まえ,より良い在宅生活を支援する)介護支援専門員をはじめとする関連し た専門職への①周知が不十分なためか,あるいは②判断基 準の不明確さ,③通報は大げさである等の考えから通報に 至っていないことが多かった. 虐待防止のためには,虐待事例の早期発見・早期対応に は,発見者となる割合の多い介護支援専門員に対しての積 極的な法の周知活動を行うことが有効である.また,現時 点では,介護支援専門員の認識を一致させることを優先す るならば,市側の対応について検討してもよいだろう. いずれにしても,高齢者虐待の予防やその解決のために は,介護支援専門員をはじめ各関係機関と連携を図りなが ら,対応状況を確認しつつ,援助方法を再検討しながらの 継続した支援が必要となる.この支援体制を維持するため に地域支援ネットワークの構築は不可欠であると考えられ た.