教職科目『道徳教育指導論』の授業改善の試み
-「学生による模擬授業」実施の工夫と課題―
南山大学教職センター 笹尾 幸夫 要 旨 中学校では平成 31 年度から「特別の教科 道徳」が実施され、「考え、議論する道徳」の 授業ができる教員の育成が求められている。本学の教職科目『道徳教育指導論』も、この趣 旨に沿って、専門的かつ実践的なスキルを身に付けさせるため、「学生による模擬授業」を 実施する必要があったが、私が担当した当初、春学期の講座は受講人数が 70 名を超える大 人数であったため、実施を断念した。しかし、秋学期の講座は、受講人数が 17 名と小人数 であたったため、講義内容の変更を行って「学生による模擬授業」を実施した。2年目の春 学期の講座も 70 名を超える大人数であったが、前年度の成果を基に、工夫して「学生によ る模擬授業」を実施したので、その取組の成果と課題について考察した。また、3年目の春 学期の講座は新型コロナウイルス感染症により ZOOM によるオンライン授業となったが、「学 生による模擬授業」は実施したので、その際の課題について整理した。 1 はじめに 平成 27 年3月に文部科学省から通知された「学校教育法施行規則の一部を改正する省 令の制定等について」1)(以下、改正省令という。)により、「道徳の時間」は教育課程上、 「特別の教科 道徳」として新たに位置付けられ、中学校では平成 31 年(2019 年)から 施行されることになった。 その後、平成 29 年3月に「学校教育法を施行規則の一部を改正する省令の制定並びに 幼稚園教育要領の全部を改正する告示、小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び 中学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について」2)が文部科学省から通知さ れたが、「特別の教科 道徳」については、前出の改正省令から「内容等に変更はないこ と」と示されている。このことは、新しい学習指導要領の告示を待つことなく「特別の教 科 道徳」をいち早く実施する必要があったことを物語っている。 この点について、赤堀3)は「これまでは教科化は実現しませんでしたが、今回はさらに いじめ問題への対応という課題が加わったのです。」と述べている。平成 23 年に発生した 大津のいじめ問題をはじめ、収束しない学校のいじめ問題への対応として、教育再生実行 会議が平成 25 年2月に示した「いじめの問題等への対応について(第一次提言)」4)では、 「心と体の調和の取れた人間の育成に社会全体で取り組む。道徳を新たな枠組みによっ て教科化し、人間性に深く迫る教育を行う。」と提言しており、文部科学省がこれを受け、 新たな枠組みとして「特別な教科」を新設し、教科化したものである。 また、この提言の中では、「現在行われている道徳教育は、指導内容や指導方法に関し、 学校や教員によって充実度に差があり、所期の目的が十分に果たされていない状況にあ ります。」と課題を挙げている。その上で、いじめに向き合う責任ある体制を築くことか ら「教職員がいじめに対して、その様態に応じた適切な対処ができるよう、国及び教育委員会において教職員研修の充実を図るとともに、養成段階から専門的かつ実践的なスキ ルを育成する。」と示され、教職課程をもつ大学の対応も求めている。 本学では、岡田ら5)が教職科目『生徒指導論』の授業で、いじめ問題について詳細な資 料を挙げ、より深く学ぶよう授業改善を試みているが、教職科目『道徳教育指導論』にお いても、道徳の時間が「特別の教科 道徳」となった経緯を理解させるとともに、改正省 令には「発達の段階に応じ、答えが一つではない課題を一人一人の児童生徒が道徳的な問 題と捉え向き合う「考える道徳」、「議論する道徳」へと転換を図るものです。」と示され ており、いわゆる「考え、議論する道徳」の授業ができる教員を育成する必要がある。 本稿では、このような趣旨から、本学における教職科目『道徳教育指導論』の授業改善 の試みについて述べる。 2 本学における教職科目『道徳教育指導論』の現状 本学は、中学校と高等学校の教員免許取得を可能としている。教職科目『道徳教育指導 論』は、中学校教員免許取得のための必修科目であり、高等学校教員免許取得のためには 「大学が独自に設定する科目」となっている。このため、教職課程を履修する多くの学生 がこの講座を履修することが想定され、他の教職課程の科目との重複を避けるため、春学 期(4月~7月)と秋学期(9月~1月)の月曜日第5時限(17 時~18 時 30 分)に開講 されている。私が担当した 2018 年度から 2020 年度までの受講人数は、春学期が順に 73 名、74 名、76 名と 75 名前後であるのに対して、秋学期は 17 名、14 名、14 名と 15 名前 後となっており、受講人数に大きな差が生じている。これは、本学が位置する名古屋市の 日没時刻が 11 月から 1 月は午後5時前となり、秋学期の講義の終了時刻には辺りが真っ 暗になってしまうこと、また、早く必要な単位を取得したいという学生の思いから、例年、 このように受講人数に差が生じているものと考えている。 教職科目『道徳教育指導論』では、このような受講人数の状況から、従前、「実際の学 校現場での実例を紹介しつつ、道徳的実践力を高めさせる指導法を詳述する。」として、 道徳教育の実践事例を学生に紹介し、詳しく説明してきた。前任者によれば、「学生によ る模擬授業」を実施するには、受講人数が 70 名以上の大人数では難しいのではないかと いうことであった。他大学の取組を調べたところ、「学生による模擬授業」を実施してい る場合、受講人数が 50 名以下であり、中には模擬授業を実施していない大学も見られた。 実際、本学のように 70 名を超える受講人数の講座では模擬授業を取り入れる例は管見の 限り見られなかった。 そこで、担当した1年目(2018 年度)の春学期の講座は「学生による模擬授業」の実施 を断念し、ベテラン教員による模範授業の視聴で代替した。この際、模範授業の視聴には、 文部科学省の道徳教育アーカイブ6)の授業映像を活用した。 3 模擬授業実施の試み 文部科学省が示す 2019 年度開設用の『教職課程認定申請の手引き』7)の教職課程コア カリキュラムには、「道徳の理論及び指導法」の到達目標に「模擬授業の実施とその振り
返りを通して、授業改善の視点を身に付けている」という項目があり、また、秋学期の講 座は 17 名と小人数であることから、講義内容の変更を行って「学生による模擬授業」を 実施することにした。 実施にあたっては、17 名全員が授業を担当しようとすると、一人当たりの授業時間を 確保することが難しく、また受講生の中には、高等学校教員を第1希望とし、将来「特別 の教科 道徳」の授業を直接、担当しない学生もいることから、17 名を4班に分け、各 班4~5名のグループ指導とした。授業実施者は各班1名又は2名(ティーム・ティーチ ング)であるが、学習指導案の作成や教材の準備などは各班の学生で協力して取り組むよ う指導した。 また、4班とした理由は、「特別の教科 道徳」が「A 主として自分自身に関するこ と」「B 主として人との関わりに関すること」「C 主として集団や社会との関わりに関 すること」「D 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」の4つの視 点 8)で構成されているため、予め分担した視点の中から教材を選択させることで教材の 重複を避けることができること、1回の講義で2つの模擬授業を実施すれば2回の講義 で可能となり、表1のように学生に提示したシラバスから大きく変更することなく実施 できることなどからである。なお、シラバスは受講人数等で変更もあり得るため、項目や 順序を入れ替える旨を明記しており、第1回の講義で改めて講義内容を提示している。 表1 2018 年度『道徳教育指導論』の学生に提示したシラバス並びに講義内容 2018年度学生に提示したシラバス 2018年度春学期(73名)講義内容 2018年度秋学期(17名)講義内容 第1回 道徳教育とは何か、学習指導要領におけ る道徳教育のねらい 道徳教育とは何か、学習指導要領におけ る道徳教育のねらい 道徳教育とは何か、学習指導要領におけ る道徳教育のねらい 第2回 規範意識の育成、倫理と道徳 規範意識の育成、倫理と道徳 規範意識の育成、倫理と道徳 第3回 生命の大切さと道徳教育、道徳授業指導 案の作成方法 生命の大切さと道徳教育、道徳授業指導 案の作成方法 コールバーグの道徳性発達理論 第4回 人間とは何か、自分自身について 人間とは何か、自分自身について モラルジレンマを活用した実践事例 「赤ちゃんポスト」を題材として 第5回 友情について 「走れメロス」を題材と した指導案作成 友情について 「走れメロス」を題材と した指導案作成 生命の大切さと道徳教育 第6回 人のために尽くすこと ノーベル平和賞 受賞者マザー・テレサを題材として 人のために尽くすこと ノーベル平和賞 受賞者マザー・テレサを題材として 人のために尽くすこと ノーベル平和賞 受賞者マザー・テレサを題材として 第7回 利己と利他について 「蜘蛛の糸」を題 材として指導案作成 利己と利他について 「蜘蛛の糸」を題 材として指導案作成 日本の伝統的道徳思想 第8回 日本の伝統的道徳思想 日本の伝統的道徳思想 模範授業の視聴 「いじめ防止」を題材 として 第9回 話し合い活動を用いた指導実践 「沈み ゆくボート」を題材として 話し合い活動を用いた指導実践 「沈み ゆくボート」を題材として 友情について 「仲間」の歌詞を題材と して 第10回 いじめ・情報モラルを題材とした指導実 践 「沙紀の悩み」を題材として いじめ・情報モラルを題材とした指導実 践 「沙紀の悩み」を題材として 話し合い活動を用いた指導実践 「沈み ゆくボート」を題材として 第11回 コールバーグの道徳性発達理論 コールバーグの道徳性発達理論 模範授業の視聴 「本当の幸せって何だ ろう?」を題材として 第12回 モラルジレンマを活用した実践事例 「赤ちゃんポスト」を題材として モラルジレンマを活用した実践事例 「赤ちゃんポスト」を題材として 模擬授業の諸準備 第13回 模擬授業の諸準備 模範授業の視聴 「いじめ防止」を題材 として 模擬授業(1) 第14回 模擬授業 模範授業の視聴 「本当の幸せって何だ ろう?」を題材として 模擬授業(2) 第15回 総括・補遺 「特別の教科 道徳」の評価について 模擬授業の振り返りと「特別の教科 道 徳」の評価について
班編制については、模擬授業の準備がしやすいよう、原則として同学部同学科の学生で 構成するようにしたが、他学部や他学科の学生と同じ班にせざるを得ない場合も生じた。 このため、予め模擬授業は班で協力して行うことを告げ、講義内容を変更して従前より班 で話し合う活動(第3回、第4回、第6回、第 10 回)を増やし、班員が交流する機会と した。なお、班での話し合い活動は「考え、議論する道徳」の授業にも必要なものである。 また、学生は中学校以来、道徳の授業を受けていないため、前出の文部科学省の道徳教 育アーカイブの授業映像による模範授業を二度視聴させ、「考え、議論する道徳」の授業 イメージを持たせるとともに、その授業の学習指導案を作成させた(第8回、第 11 回)。 さらに、班で学習指導案や教材を作成するため、第 12 回は模擬授業の諸準備としたが、 学生はこの時間以外にも準備していたようである。 資料1 模擬授業の日程 模擬授業は、実施前に5分間、資料配付や学 生への座席指示(班単位に着席など)、模擬授 業の概要説明のための時間を設けた。これは、 模擬授業を 30 分間で行うため、授業者以外の 学生の協力を得て、模擬授業を円滑に展開する ためである。 実施後は 10 分間の評価の時間を設け、授業 者を含めて全員で良かった点と改善点を各3 点以上、評価用紙に記入させた。資料1のよう に、これを前半と後半の2回繰り返した。 第 15 回の講義では、模擬授業の振り返りと して、学生の記入した評価票のコピーを記入者 の氏名を除いて該当の学生に配付し、班ごとに 模擬授業を振り返る資料とした。この際、指導 者が気付いた改善点も追加して配布した。 学生は評価票に記載された内容について真 剣に目を通し、自己の模擬授業の振り返りを行 っていた。 4 大人数の講義における模擬授業実施の試み 前年度の秋学期の「学生による模擬授業」実施の成果を受け、2019 年春学期にも実施 できるよう検討した。受講人数は 74 名のため、1 つの教室での実施は難しいと考え、模 擬授業を実施する期間、隣の教室も使用できるように教務課に依頼した。幸い、本学はセ メスター制とクォーター制の科目が共存しており、春学期の後半に当たる第2クォータ ーの期間、2つの教室を使用することができた。 これにより、模擬授業は半数の 37 名で実施することとなり、中学校の 1 クラスあたり の人数が中学校設置基準9)第4条で 40 人以下と定められていることから、実際の中学校 の生徒数に近い人数で模擬授業を実施することができた。また、2つの教室は廊下を隔て (1) 模擬授業(前半) ア 模擬授業の準備 5分 ・資料配付、座席指示など ・模擬授業の説明 イ 模擬授業 30 分 ・〇班 授業者 △△ △△ ウ 模擬授業の評価 10 分 ・良かった点 ・改善点 (2) 模擬授業(後半) ア 模擬授業の準備 5分 ・資料配付、座席指示など ・模擬授業の説明 イ 模擬授業 30 分 ・◎班 授業者 □□ □□ ウ 模擬授業の評価 10 分 ・良かった点 ・改善点
て隣接しており、学生が模擬授業を実施している間も、指導者が教室の後ろのドアから容 易に往来することができるため、同時に2つの模擬授業の様子を観察することができた。 班の数については 12 班とした。この理由は、2019 年度から中学校の「特別の教科 道 徳」の実施により検定教科書が販売され、第1学年から第3学年の教科書をそれぞれ4つ の視点(A~D)で分担することで、12 班の教材の重複を避けることができるからであ る。また、1回の講義で2つの模擬授業を2教室で実施すれば、3回の講義で 12 班の模 擬授業を実施でき、2019 年度のシラバス(2018 年度秋学期の講義内容と同様)から大き く変更しなくて済むからである。その結果、各班の人数は5~7名となった。なお、班 編制は、前年度の秋学期と同様、原則として同学部同学科の学生で構成するようにした。 2教室への配分については奇数班と偶数班とした。これは本学が複数の学部を有する 総合大学であり、中学校免許の国語、社会、数学、英語を取得しようとする学生が本講座 を受講しているため、多様な学部の学生から模擬授業の評価を得ることが授業改善につ ながると考えたためである。 資料2は、実施した模擬授業の分担と各班が使用した教材の一覧を示したものである。 教材については、教科書以外のものから選択した班もあった。 資料2 模擬授業の分担及び使用した教材(2019 年度春学期) 第 12 回 7月1日 模擬授業(1)中学1年生対象 奇数班 前半:1班 視点A 「人であふれた駐車場」 後半:9班 視点C 「母の涙」 偶数班 前半:12 班 視点B 「やっぱり敬語が必要なわけ」 後半:4班 視点D 「鳥が見せてくれたもの」 第 13 回 7月8日 模擬授業(2)中学2年生対象 奇数班 前半:3班 視点B 「友だちはライバル」 後半:7班 視点D 「エルマおばあさんからの最後の贈りもの」 偶数班 前半:6班 視点A 「親切にできなかった日」 後半:8班 視点C 「違うんだよ、健司」 第 14 回 7月 15 日 模擬授業(3)中学3年生対象 奇数班 前半:5班 視点A 「三年目のごめんね」 後半:11 班 視点C 「集団の圧力」 偶数班 前半:2班 視点B 「みんなで跳んだ-城北中学2年1組の記録」 後半:10 班 視点D 「命の選択」 第 15 回の講義で作成した模擬授業の振り返り票を整理すると、「生徒への返答の仕方 が難しかった。」など生徒への対応に関するもの、「板書の書き方が班によって特色があっ て勉強になった。」など板書に関するもの、「生徒を引きつけるような話し方(声のトーン や大きさ)を改善したい。」など授業者の態度に関するもの、「グループワークをすること で考えも深まるし、授業に対しての関心も深まるし、グループワークは大切だということ を改めて感じた。」など授業構成に関するものに分類することができた。
また、「比較的大人数の前で授業をすることで、多くの点が学べた。」「様々な題材につ いての授業を聞くことができて有意義でした。」など模擬授業に対する肯定的な意見や 「グループ内での仕込みが多くて、実践的ではなかった。」「指導案通りの回答ばかりで、 授業が発展しなかった。」など模擬授業に対する否定的な意見も見られた。 なお、教員による模擬授業の評価は終始観察することができないため、教師による授業 観察のほか、学習指導案や教材のワークシート、振り返り票なども参考にして評価するこ とにした。 5 模擬授業実施の成果と課題 模擬授業実施に関する成果と課題について、本学で実施している「学生による授業評価」 の結果から考察する。 本学では、各教員が授業方法の改善点を見出し、積極的に自己研鑽を行い、大学全体の 教育を質的に向上させることを目的として、「学生による授業評価」を組織的、継続的に 取り組んでいる。1人1科目が対象であるが、私の 2018 年度と 2019 年度の第2クォー ターの対象科目が共に『道徳教育指導論』であり、また、2018 年度と 2019 年度では、「学 生による模擬授業」の実施の有無があったからである。 授業評価(5段階)の結果、2018 年度は 14 項目の平均値が 4.0 であったが、2019 年度 は 4.5 に 0.5 ポイント上昇した。この理由として、「学生による模擬授業」の実施や、こ れを実施するために班での話し合い活動を増やしたことが影響したものと考えられる。 「この授業の良かった点、評価できることは何ですか。」の回答に、「授業にグループワー ク、模擬授業などの機会が設けられており、授業で学んだことをそれぞれのやり方で模擬 授業に活かすことができたと思います。」「実際に模擬授業を行ったり、他の人の授業を見 たりする機会は貴重だった。」「模擬授業を行ったことで、より実践的に学べた。」など、 「学生による模擬授業」実施に対する肯定的な意見が複数見られたからである。 なお、この他に「指導案を書く練習ができる機会が多く、実際に授業の様子をビデオで 観ることで、道徳の授業の作り方、進め方がよく理解できた。」「指導計画を毎回立てるこ とで立て方が分かった。実際教師になった時に使えそうだと思った。」など、ビデオ視聴 や学習指導案作成の指導に関する肯定的な意見が見られた。 一方、「この授業の改善すべき点があればできるだけ具体的に書いてください。できれ ば改善策もお願いします。」の回答として、「班で模擬授業をやるのは1~2名だったので、 生徒によって負担が大きく異なると感じた。」「模擬授業はとても役に立つと思ったけど、 発表者は役立つと思うけど見ているだけの班員はなんだかつまらなさを感じた。」など、 班全員で協力して学習指導案を作成し、教材を準備するように指導したものの、班によっ ては、授業者とそれ以外の者との差が生じてしまったようである。このためには、少しで も多くの学生を授業実施者にする必要があるが、物理的に難しい課題であり、模擬授業の 準備を班で協力するよう、徹底していこうと考えている。 この他、「特に学習指導案の提出など、模擬授業の準備期間が短かった。」という意見が あり、この点に関しては、2019 年度秋学期の講座では、少しでも準備期間が長くなるよ
うに模擬授業の分担時期を早めることにした。 6 オンラインによる模擬授業実施の課題 2020 年度春学期の受講生は 76 名であり、前年度の春学期と同様の講義内容を考えてい た。しかし、新型コロナウイルス感染症によりオンライン授業となり、また、当初の授業 開始が遅れたりテストを授業内で行うことになったりしたため、時間数の削減もあった が、前年度の成果から「学生による模擬授業」は実施したいと考えた。 年度当初、学生のインターネット環境の整備状況が分からないこと、また、私自身が ZOOM の操作に不慣れなこともあって、説明付きのパワーポイント教材による自主学習と ZOOM による授業とを併用した。このため、班での話し合い活動を行うことができなかっ た。ブレークアウトセッション(BO)の操作方法を学び、また、インターネット環境が 十分でない学生には大学から Wi-Fi ルーターの貸し出しが行われることになったため、 春学期の後半(第2クォーター)から ZOOM による授業のみとし、班での話し合い活動も 取り入れ、「学生による模擬授業」も ZOOM により実施した。 実際にオンライン授業で実施してみると、対面授業には見られないさまざまな課題が 生じたため、今後の授業改善のため、課題を整理することにした。 第一の課題は、ZOOM のBOを用いて奇数班と偶数班に分けると、その後、学生が模擬 授業を実施する際、生徒の話し合い活動をするために、更にBOを使うことができない点 である。模擬授業の振り返り票にも、「今回はオンラインで授業を行ったのでグループで の意見交換や討論などを行うことができなかった。」など、同様の意見が数多く見られた。 その中で、「グループワークができないといった問題点もあったが、チャット機能を使う などして意見の交換ができた」「チャットや LINE のグループ通話など、オンラインでも工 夫できることはたくさんあると思った」など、学生による授業作りの工夫も見られたが、 「考え、議論する道徳」としては十分とはいえない状況であった。 第二の課題は、教材が重複してしまった点である。オンライン授業では中学校の検定教 科書を閲覧させることができなかったため、模擬授業の教材としてインターネットから ダウンロードできる教材を選ばせることにした。参考文献として、「中学校道徳 読み物 資料集」10)や「道徳教育指導参考資料 明日を拓く」11)を紹介したことから、多くの班 がその中から教材を選択し、結果として教材が重複してしまった。急遽、模擬授業の内容 項目を明確にさせ、学習指導案を一部変更させることにより、「同じ教材を使っても、教 師のねらいや目的によって発問や授業展開は変わるなと感じた。」という学生の感想を得 たが、重複教材では模擬授業に対する学生の意欲低下を招くため、あらかじめ教材の重複 を避けるよう調整することが必要であった。 第三の課題は、オンライン授業のため、振り返り票に記載された評価内容が ZOOM の操 作に関するものが多くなり、模擬授業に関するものが少なかった点である。これは、BO が使えなかったことから、班での話し合い活動を取り入れることができず、学習指導案の 内容を変更せざるを得なかったことが影響したものと考えている。このため、前年度の対 面授業による模擬授業と比較し、板書に関する評価はほとんど見られず、授業構成や授業
者の態度に関する評価が少なくなってしまった。 第四の課題は、班全員で模擬授業の準備をするように指導したものの、オンライン授業 では授業時間の延長がなく、また、授業以外に学生が揃って準備の時間を確保することが 難しいため、特定の学生への負担が増加してしまった点である。 7 おわりに 教職科目『道徳教育指導論』の2年半にわたる授業改善の試みにより、受講人数がある 程度多くても「学生による模擬授業」を実施することが可能であり、また学生も実施に関 して高く評価していることが分かった。しかし、これをオンライン授業で実施する場合、 さまざまな課題があり、「考え、議論する道徳」の授業作りが対面授業より難しいことが 分かった。 本学では、2020 年度秋学期の講座もオンライン授業となるが、受講人数が 14 名と少人 数のため、春学期のように奇数班と偶数班に分ける必要がなく、模擬授業における生徒の 話し合い活動ではBOを使用することが可能である。また、板書の代わりに ZOOM 内のホ ワイトボードを使用させることによって、教室で行う授業になるべく近い形での模擬授 業とし、「考え、議論する道徳」の授業作りに取り組ませたい。この他、オンライン授業 による課題については、事前に学生に注意を促すことで対応していきたいと考えている。 なお、2021 年度春学期の講座もオンライン授業となってしまった場合、「学生による模 擬授業」でBOを使用することができるよう、奇数班と偶数班で別の ZOOM を同時に立ち 上げる環境を整備してこうと思っている。 今回、「学生による模擬授業」実施のため講義内容を変更したが、この点についての検 証は十分とは言えない。柳沼12)は「考え、議論する道徳」における質の高い指導法とし て、道徳科における問題解決的な学習や道徳的行為に関する体験的な学習を挙げており、 このような内容をより充実させ、今後とも、「考え、議論する道徳」の指導者として、専 門的かつ実践的なスキルを身に付けさせることができるよう、講義内容の改善を図りた い。 参考文献 1)中央教育審議会初等中等教育分科会(第 98 回)配布資料 2015 『資料 4-3 学校教 育法施行規則の一部を改正する省令の制定等について(通知)』 文部科学省 HP (https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1360256.htm) アクセス 2020.8.22 2)文部科学省 2017 『学校教育法を施行規則の一部を改正する省令の制定並びに幼稚園 教育要領の全部を改正する告示、小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び中学校 学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知)』 文部科学省 HP (https://www.mext.go.jp/content/1384661_1_1.pdf) アクセス 2020.8.22 3)赤堀博行 2017 『「特別な教科 道徳」で大切なこと』pp.28-29 東洋館出版社
4)教育再生実行会議 2013 『いじめの問題等への対応について(第一次提言)』pp.1-3 (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai1_1.pdf) アクセス 2020.8.22 5)岡田順一、小田博一、笹尾幸夫 2017 『教職科目『生徒指導論』の授業改善の試み』 pp.1-14 南山大学教職センター紀要 南山大学 HP (https://nanzan-.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=reposito ry_view_main_item_detail&item_id=1190&item_no=1&page_id=13&block_id=21) アクセス 2020.8.22 6)文部科学省 『道徳教育アーカイブ』 授業映像 文部科学省 HP (https://doutoku.mext.go.jp/html/about.html#movie) アクセス 2020.8.22 7)文部科学省 『教職課程認定申請の手引き(教員の免許状授与の所要資格を得させるた めの大学の課程認定申請の手引き)(令和3年度開設用)』p.173 文部科学省 HP (https://www.mext.go.jp/content/20191213-01-000003171_1267643_01-1.pdf) アクセス 2020.8.22 8)文部科学省 2018 『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 特別の教科 道徳 編』p.20 教育出版 9)文部科学省 2007 『中学校設置基準(平成 14 年 3 月 29 日文部科学省令第 15 号)』 文部科学省 HP (https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/koukijyun/1290243.htm) アクセス 2020.8.22 10)文部科学省 2012 『中学校道徳 読み物資料集』 文部科学省 HP (https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/doutoku/detail/1318785.htm) アクセス 2020.8.22 11)愛知県教育委員会 2013 『道徳教育指導参考資料「明日を拓(ひら)く-人間として の在り方生き方を求めて-」 (https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kotogakko/0000062485.html) アクセス 2020.8.22 12)「考え、議論する道徳」を実現する会 2017 『「考え、議論する道徳」を実現する!』 pp.52-55 図書文化社