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汎用人工知能輪読会の発足とその後の活動(<特集>汎用人工知能(AGI)への招待)

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265 汎用人工知能輪読会の発足とその後の活動

1.は じ め に

この記事では,本特集 [山川 14] の企画・執筆・閲読 などにおいて全面的な協力をいただいた汎用人工知能輪 読会の紹介を行う.

2.輪 読 会 の 発 足

2000年台の後半から欧米を中心として技術的特異 点(technological singularity)や汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)についての研究活動が 盛り上がりつつある.著者の山川が,こうした研究動 向の重要さを実感したのは,2012 年の冬に英国オック スフォード大学で開催された,関連する国際会議に研究 発表のために参加したときであった [山川 13].その頃, もう一方の著者の市瀬は,バレンシア工科大学で人工知 能の能力の評価 [Hernandez-Orallo 10] を行う anYnt プ ロジェクト*1の Hernandez-Orallo らと意見交換する機 会があり,それを通して汎用人工知能という研究分野を 知り興味をもった.こうした汎用人工知能の実現は人間 レベル,さらにそれ以上の知能の工学的な実現を意味し, これは人類社会に対して,莫大な富と利益をもたらすこ とが予見される. 以上のような背景から,日本国内の人工知能分野に おいて汎用人工知能という学際研究の動向を把握しなが ら,この分野の中核コミュニティを形成する必要性があ ると考えた.そこで,以前から認知アーキテクチャ研究 などを通して親交があった山川,市瀬で 2013 年の春か らこの分野における研究活動の立上げについて検討を進 めた. それを通じ,まずは AGI の世界的なリーダであるベン・ ゲーツェル氏らの著書 [Goertzel 07] を輪読書として会 を立ち上げるのがよいのではという提案が市瀬よりなさ れた.なぜならば,AI 研究者自身が,汎用人工知能の 概略についての理解を深めることが重要と考えたからで ある.そこで昨年 5 月に,本誌(Vol. 28, No. 3)の特別 企画「シンギュラリティの時代:人を越えゆく知性とと もに」の発行と軌を一にして,本学会のメーリングリス トを中心に参加メンバの募集を行ったところ,我々を含 む計 14 名の研究者が集まり,輪読会を開始した.

3. 輪 読 会 の 活 動

初回(2013 年 7 月3 日)以降,ほぼ毎月 1 回の割合で 国立情報学研究所を拠点として輪読会を開催している. 2014年の 1 月末(原稿執筆時点)までに,合宿(第 5 回目) を含む 6 回の輪読会を開催し,参加メンバの精力的な活 動により,すでに輪読書全 12 章中の 8 割程度の輪読を 終えている. 初回(2013 年 7 月3 日)は,輪読会の開催趣旨確認や

汎用人工知能輪読会の発足とその後の活動

Activity Report of the Artificial General Intelligence Meeting in Japan

山川  宏

株式会社富士通研究所

Hiroshi Yamakawa Fujitsu Laboratories Ltd. [email protected]

市瀬 龍太郎

国立情報学研究所

Ryutaro Ichise National Institute of Information. [email protected]

Keywords:

artificial general intelligence, technological singulariy cognitive architecture, Ben Goertzel. 「汎用人工知能(AGI)への招待」 *1 http://users.dsic.upv.es/proy/anynt/ 図 1 第 2 回 AGI 輪読会より. 後列左より,小林亮太,船越孝太郎,荒川直哉,ジェプカ・ ラファウ,ベン・ゲーツェル,栗原 聡,松島裕康,相澤彰子. 前列左より,市瀬龍太郎,ザラスストラ・ゲーツェル,山川 宏,大澤博隆

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266 人 工 知 能  29 巻 3 号(2014 年 5 月) 自己紹介に引き続き,オーガナイザである山川 宏と市瀬 龍太郎が序章と第 1 章の紹介を行うことで,AGI の全体 像と輪読書の内容を概観した. 第 2 回(2013 年 8 月 26 日)では,ジェプカ・ラフ ァウ氏の計らいにより,ちょうど来日していた輪読書著 者のベン・ゲーツェル氏をお招きできることになり,汎 用人工知能の研究動向全体について,1 時間ほどの講演 をしていただいた.そして引き続く懇親会などを通じ て,本特集の記事 [ゲーツェル 14] に結びつくこととなっ た.また,大澤博隆氏は進化的な観点から AI を考え る「自然から学ぶ人工知能への道」(著者は Vladimir G. Red’ko)を紹介した.また荒川直哉氏とジェプカ・ラフ ァウ氏は,2013 年 7 月 31 日から 8 月 3 日に北京大学で 開催されていた第 6 回 AGI Conference を概観した [荒川 14]. 第 3 回(2013 年 10 月 8 日)では,松島裕康氏が AGI のコンセプトを達成するための性質,重要性,最善の 方法を議論した「汎用知能の本質」(著者は Peter Voss) を紹介した.また稲邑哲也氏が,人間はいつも物理学と 時間に拘束された世界を使って思考するという考えに基 づく「三次元シミュレーション:AI のキー技術として」 (著者は Keith A. Hoyes)を紹介した. 第 4 回(2013 年 11 月 22 日)では,船越孝太郎氏が, 認知科学的アイディアに支えられた形式論理に近いNARS (Non-Axiomatic Reasoning System)アーキテクチャ

について述べた「知能の論理」(著者は Pei Wang)を 紹介した.また沼尾正行氏が,汎用人工知能を意図し た認知科学理論としての DGI(Deliberative General Intelligence)という概念設計について述べた「General Intelligenceに お け る 組 織 レ ベ ル 」( 著 者 は Eliezer Yudkowsky*2)の最初の 3 分の 1 を紹介した. 第 5 回は,一泊二日の合宿形式(2013 年 12 月 10 ∼ 11日)で開催した.1 日目には相澤彰子氏,小林亮太 氏が計算量の点からそのままでは実装が不可能である が,究極の汎用性をもつ強化学習ベースの知能技術であ

る「ユニバーサル AI」(著者は Marcus Hutter*3)を紹

介した.この内容については,本特集に含まれる記事 [小林 14] を参照されたい.ナイトセッションでは,各 参加者の汎用人工知能に対する思いなどを語りながら, 今後の発展性などについて討論を行った.二日目は,ま ず寺島裕貴氏が,神経回路からアイディアを得た進化 ハードウェアである「人工脳」(著者は Hugo de Gris*4 を紹介した.さらに篠田孝祐氏が,汎用人工知能におけ るロードマップ構築の試みの論文である「人間レベル 汎用人工知能に向けた全景を描き出す」[Adams 12] を 紹介した.この内容については,本特集に含まれる記事 *2 ブロガーとして有名 *3 数学者 *4 現在はシンギュラリティの評論家としても有名 表 1 AGI 輪読会の活動状況と予定 担当者 章 タイトル 著 者 ■第 1 回 : 2013 年 7 月 3 日 (国立情報学研究所)

市瀬龍太郎(NII) 1 Contemporary Approaches to Artificial General Intelligence(1/2) Cassio Pennachin, Ben Goertzel 山川  宏(富士通研) 1 Contemporary Approaches to Artificial General Intelligence(2/2) Cassio Pennachin, Ben Goertzel ■第 2 回 : 2013 年 8 月 26 日 (国立情報学研究所)

Ben Goertzel AGI Overview Ben Goertzel

大澤 博隆(筑波大) 10 The Natural Way to Artificial Intelligence Vladimir G. Red’ko

荒川,ジェプカ 国際会議(AGI 2013)報告 荒川,ジェプカ

■第 3 回 : 2013 年 10 月 8 日 (国立情報学研究所)

松島 裕康(産総研) 4 Essentials of General Intelligence:The Direct Path to Artificial General Intelligence Peter Voss

稲邑 哲也(NII) 11 3D Simulation: the Key to A.I. Keith A. Hoyes

■第 4 回 : 2013 年 11 月 22 日 (国立情報学研究所)

沼尾 正行(阪大) 12 Levels of Organization in General Intelligence(1/3) Eliezer Yudkowsky

船越孝太郎(HRCJapan) 2 The Logic of Intelligence Pei Wang

■第 5 回 : 2013 年 12 月 10 ∼ 11 日 (神奈川県秦野市)

相澤 彰子(NII) 8 Universal Algorithmic Intelligence: A Mathematical Top→ Down Approach(1/2) Marcus Hutter 小林 亮太(NII) 8 Universal Algorithmic Intelligence: A Mathematical Top→ Down Approach(2/2) Marcus Hutter

寺島 裕貴(東大) 5 Artificial Brains Hugo de Garis

篠田 孝祐(電通大) Mapping the Landscape of Human-Level Artificial General Intelligence Sam S. Adams et al. ■第 6 回 : 2014 年 1 月 24 日 (国立情報学研究所)

ジェプカ・ラファウ(北大) 12 Levels of Organization in General Intelligence(2/3) Eliezer Yudkowsky

寺尾  敦(青学大) ACT-Rについて 寺尾敦

■第 7 回 : 2014 年 3 月 26 日 (国立情報学研究所) [予定]

栗原  聡(電通大) 12 Levels of Organization in General Intelligence(3/3) Eliezer Yudkowsky

一杉 裕志(産総研) CogPrime Overview(1/3)+ DeSTIN 論文 Ben Goertzel

■今後の予定

松尾  豊(東大) 7 Gödel Machines: Fully Self-Referential Optimal Universal Self-improvers Jürgen Schmidhuber 市瀬龍太郎(NII) 9 Program Search as a Path to Artificial General Intelligence Lukasz Kaiser

山川  宏(富士通研) CogPrime Overview(2/3) Ben Goertzel

荒川 直哉(Lingadelion) CogPrime Overview(3/3) Ben Goertzel

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267 汎用人工知能輪読会の発足とその後の活動 [篠田 14] を参照されたい. 第 6 回(2014 年 1 月 24 日)では,ジェプカ・ラファウ 氏により第 4 回に取り上げた内容の続きとなる「General Intelligenceにおける組織レベル」の中頃 3 分の 1 が紹 介された.また寺尾 敦氏が,プロダクションシステムを 基盤とした古典的な認知アーキテクチャでありながら, 人の脳活動測定との関係などの研究も進められている ACT-Rについて,関連論文 [Anderson 04] に基づいて紹 介した. 今後,輪読書 [Goertzel 07] の残りの章についても輪 読を進める予定であるが,ベン・ゲーツェル氏の研究は, 輪読書の研究を引き継いだ CogPrime アーキテクチャに 移行しているため,第 3 章の代わりにこの関連論文を紹 介する予定である. 輪読会の参加者は,途中から,松尾 豊(東大),栗原 聡(電通大),一杉裕志(産総研),高橋達二(電機大), 篠田孝祐(電通大),寺尾 敦(青学大)らが加わり,現 在は 20 名程度で活動を行っている.

4.今後に向けて

我々が輪読会を行う目的は,我々自身による汎用人工 知能の実現に向けての先行研究の把握であったので,特 にさまざまなアプローチからの認知アーキテクチャの紹 介を進めている.今回利用した本 [Goertzel 07] の輪読 はまもなく完了するため,今後は最新の認知アーキテク チャ,認知発達ロボティクス,深層学習などに関わる研 究論文をピックアップして議論を続けていくことを考え ている. また輪読会に関わる重要な論点として,汎用性をは じめとする現状の AI の限界,フレーム問題,シンボル グラウンディング問題などの基本問題,つくりだした汎 用人工知能システムの評価方法やベンチマークなどがあ る.また,汎用人工知能については,社会への影響を考 えていく必要があると考えていたが,AI 研究者のみに よる議論には限界があった.しかし,最近になり,哲学 と経済学の観点からそれぞれ汎用人工知能が実現した際 に起こるシンギュラリティの影響などについて考察して いる東京大学の西川麻樹氏,早稲田大学の井上智洋氏ら が,ゲストとして参加するようになり,そのような議論 への展開も期待している. 関連する研究活動として,一杉氏,松尾氏,山川の三 名は,神経科学や認知科学などの知見を参考としながら, 機能的に分化した脳の各器官をできるだけ単純な機械学 習器として解釈し,それら機械学習器を統合することで, 汎用人工知能アーキテクチャを構築することを目指す, 全脳アーキテクチャ勉強会*5 の活動も行っている. 汎用人工知能には,日本における AI 研究の黎明期 (1980 年頃)を支えた AIUEO(Artificial Intelligence

Ultra Eccentric Organization)勉強会を彷彿させると のコメントが,ある参加メンバからあった.現状の技術 背景を踏まえながら,初期の AI 研究が目指していた人 のような知能の実現に向けて今後も進んでいきたい.汎 用人工知能輪読会に一度参加されたい方は,著者まで連 絡をしていただければと思う.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Adams 12] Adams, S., Arel, I., J., Bach, Coop, R., Furlan, R., Goertzel, B., Hall, J. S., Samsonovich, A., Scheutz, M., Schlesinger, M., Shapiro S. C. and Sowa, J. F.: Mapping the landscape of human-level artificial general intelligence, AI Magazine, Vol. 33, No. 1, pp. 25-42(2012)

[Anderson 04] Anderson, J. R., Bothell, D., Byrne, M. D., Douglass, S., Lebiere, C. and Y. Qin: An integrated theory of mind, Psychological Review, Vol. 111, No. 4, pp. 1036-1060 (2004)

[荒川 14] 荒川直哉,ジェプカ ラファウ:第 6 回汎用人工知能国際 会議(2013)参加報告,人工知能,Vol. 29, No. 3, pp. 239-240 (2014)

[Goertzel 07] Goertzel, B. and Pennachin, C.: Artificial General Intelligence, Springer(2007)

[ゲーツェル 14] ゲーツェル,ベン:汎用人工知能概観,人工知能, Vol. 29, No. 3, pp. 228-233(2014)

[小林 14] 小林亮太,相澤彰子: 汎用エージェントの理論的枠組み ─ Marcus Hutter が提唱する AIXI の紹介─,人工知能,Vol. 29, No. 3, pp. 234-238(2014)

[Hernandez-Orallo 10] Hernandez-Orallo, J. and Dowe, D. L.: Measuring universal intelligence: Towards an anytime intelligence test, Artificial Intelligence, Vol. 174, Issue 18, pp. 1508-1539(2010) [篠田 14] アダムス,サム S. ほか著,篠田孝祐 監訳,市瀬龍太郎 ほか訳:人間レベルの汎用人工知能の実現に向けた展望,人工 知能,Vol. 29, No. 3, pp. 241-257(2014) [山川 14] 山川 宏,市瀬龍太郎:特集「汎用人工知能(AGI)への招待」 にあたって,人工知能,Vol. 29, No. 3, pp. 226-227(2014) [山川 13] 山川 宏 : AGI-12 & AGI Impact: 汎用人工知能に関わる

二つの国際会議, 人工知能学会誌,Vol. 28, No. 3, pp. 468-471 (2013) 2014年 3 月 3 日 受理 *5 https://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/j-index.html 山川  宏(正会員)は,前掲(Vol. 29, No. 3, p. 257)参照. 市瀬 龍太郎(正会員)は,前掲(Vol. 29, No. 3, p. 257)参照.

著 者 紹 介

参照

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