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生活をデザインする:生活機能構成学のアプローチ:3. 生活機能構成学確立のためのストラテジー -ICF(人が「生きることの全体像」についての「共通言語」)の「生活機能モデル」に準拠して-

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Academic year: 2021

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(1)特 集. 生活をデザインする:生活機能構成学のアプローチ. 3. 生活機能構成学確立のための ストラテジー. 基 応 専 般. ─ ICF(人が「生きることの全体像」についての「共通言語」)の 「生活機能モデル」に準拠して─ 大川弥生((独)国立長寿医療研究センター). 生活機能向上の観点に立つ. ▶▶ICF とは ICF とは 2001 年に WHO 総会で承認された,人. 人の生活を支援する機器の研究・開発においては,. が「生きること」(生活機能)についての国際分. 明確な生活機能向上の観点に立つことが求められる.. 類である.これは,同じ WHO の「国際疾病分類. そのような観点を支える方法論である「生活機能. (ICD)」,すなわち 100 年以上の歴史を持つ病気・. 構成学」を確立するためには,これまでの生活機能. 外傷についての分類とならぶ「健康」についての指. 研究の成果を活かし,それを支援機器研究・開発の. 標として採択されたものであるが,これは健康とは. ストラテジー(技術体系・研究体系・組織)として. 病気やケガがないだけでなく,よりよく「生きる」. さらに深めることが必要である.. ことまでを含む,という新たな「健康観」の現れと. 本稿では,生活機能構成学の基盤をなす「生活機. みることができる.. 能」 ,その理論的・実際的枠組みをなす ICF(国際 生活機能分類:International Classification of Func1)〜 6). tioning, Disability and Health, WHO, 2001). と,. ▶▶「生活機能」 と 「生活機能モデル」 ICF の基本概念は「生活機能」と「生活機能モデル」. 生活機能向上に向けた支援機器研究・開発のストラ. である.. テジーの確立に向けた課題を述べる.. 生活機能(functioning)とは, 「生活」,すなわち「人 の生きている状態」を総合的に表すもので,図 -1. ICF(国際生活機能分類). の中段に示す「参加」「活動」「心身機能・構造」(各 レベルの具体的内容は図 -2)という,3 つのレベル. ▶「生活」の認識・思考枠組みの必要性 ▶. からなる「包括概念」である.なお「参加」を最初. 「人の生活を支援する」という目的を明確に持っ. にあげたのは,人が「生きる」上で「参加」が最も. て支援機器を研究・開発するにあたっては,『「人」. 重要だからである.. が「生きる」こと』に対する支援機器の影響を総合. この 3 つのレベルは,各々の間の双方向の矢印. 的に評価することが不可欠であり,そのためには総. で示されているように相互に影響しあっている(「心. 合評価に適した認識・思考の枠組みが必要とされる.. 身機能・構造」と「参加」との間にも,上を通る双. 「人が生きること」は限りなく複雑であり,認識・. 方向の矢印で示す相互の影響がある).. 思考の枠組みを明確にして常に意識的にそれに準拠. そして「生活機能モデル」とは,生活機能に影響. しない限り, 「複雑さ」の波の中に呑まれてしまう. するものを 3 つの「要因」 (「健康状態」, 「環境因子」,. ことになりかねない.. 782. 「個人因子」)に整理し,これらと生活機能の各レベ. この点で ICF の理論的・実際的枠組みに立つこと. ルとの間,またこれら相互間に影響があることを双. が効果的であり,以下それについて述べる.. 方向の矢印で示したものである.. 情報処理 Vol.54 No.8 Aug. 2013.

(2) 3. 生活機能構成学確立のためのストラテジー. 健康状態 健康状態. この 3 つの生活機能レベルと 3 つの要因 とが,生活機能モデルの 6 つの「要素」で 心身機能・構造. ある.そしてこれら 6 つの要素が互いに影. 活. 動 動. 参. 加 加. 響を与え合う動的な関係にあるという,「相. 生活機能. 互作用モデル」として『人の「生きる」こ. 環境因子. との「全体像」 』をみることが,生活機能モ. 健康状態:病気,ケガ,妊娠,高齢,ストレス 等 環境因子:建物,福祉用具,介護者,社会制度 等 個人因子:年齢,性,ライフスタイル,価値観 等. デルの大きな特徴である.. ▶「生きることの全体像」 ▶ についての 「共通言語」. 個人因子. 6). 図 -1 生活機能モデル(WHO・ICF ). ICF の特徴を一言でいえば,「“ 生きるこ. 活. 心身機能・構造. 動. との全体像 ” についての “ 共通言語 ”」であ. 行為. る. 「生活機能モデル」に立つことで,人が. 例)手足の動き. 模擬動作(訓練歩行) 精神の働き. “「生きる」ことの「全体像」” を捉えるこ. 視覚・聴覚,等. とができる.. 例)実用歩行. 各種身の回り行為 家事・職業行為 余暇活動動作,等. 生物・生命レベル 個人(生活)レベル. また ” 共通言語 ” とは,さまざまな分野. 加 社会的役割. 例)就労,主婦業. 趣味を楽しむ 地域活動 権利の行使,等. 社会(人生)レベル. 1)~ 3). の専門家の間での,そしてそれら専門家と. 図 -2 「生活機能」の具体的内容(例). 当事者の間での,「共通のものの見方・捉え. 生活機能. 方」である. このような「生きることの全体像」を見. 心身機能(生命). ること, そしてそれに関する「共通言語」が,. 機能障害. 支援機器の開発・研究においても基本的な. 活動(生活). 参加(人生). 活動制限. 参加制約. 重要性を持つ.. ▶▶生活機能モデルと分類項目. 参. 障 害 図 -3 生活機能と障害. 1)~ 3). ICF には, 「生活機能モデル」(図 -1)と いう理論的な側面と「分類項目(分類表) 」という. ▶▶生活機能低下(障害)にも 3 レベル. 実用的な側面との 2 つの面がある.生活機能モデ. 生活機能は中立的な(プラスもマイナスも含む). ルは理論的な認識・思考の枠組みとして,広い応用. 概念であるが,この 3 つのレベルの各々のマイナス. 範囲を持っており,必ずしも分類項目にとらわれず. 面(低下・不自由さ・困難)が「参加制約」 「活動制限」. に活用することができる.. 「機能障害」であり,この 3 者の包括概念が「障害」. 一方,分類項目は,人の「生きること」を,自分. (生活機能低下,disability)である.障害はしばしば. の興味のあることや得意なところ,たとえば支援機. 「機能障害」 だけと考えられやすいが,そうではなく,. 器の開発において狙った効果だけをみるのでなく,. 3 つのレベルから成り立っているという捉え方が重. 「落ち」なく,全体にわたってみるために,いわば. 要である(図 -3).. チェックリスト的に役立つものである.ただしひと. 図 -3 に示すように,生活機能の一部のマイナ. り歩きすべきものではなく,必ず生活機能モデルの. ス面として障害(生活機能低下)を捉えることが,. 枠組みに準拠して活用されるべきものである.. ICF の重要な特徴である. かつて ICF の前身と目され,今は根本的に別なも. 情報処理 Vol.54 No.8 Aug. 2013. 783.

(3) 特 集. 生活をデザインする:生活機能構成学のアプローチ. のと考えられるようになったものに国際障害分類 2). (ICIDH, WHO, 1980). があるが,これは「マイナ. ス面のみを見る医学モデルである」との批判を浴び. 支援機器を含む環境因子は,上の「健康状態」とも 相互に影響し合う関係にある(ICF 序論に明記)こ とも重要である.. た.その点 ICF は,生活機能のプラス・マイナスの イナスを位置づける」こと,また「プラスとマイナ. ▶▶支援機器が生活機能に与える影響: 直接的影響. スの間に相互作用がある」とする点で,この問題点. 一つひとつの支援機器についてその効果の観点か. を完全に克服した.. ら捉えるには,まず「参加」・「活動」・「心身機能」. 両面を捉え,いわば「大きなプラスの中に小さなマ. のうちのどのレベルを直接のターゲットとしている. ICF を用いた支援機器の影響把握. のか,すなわち目的とする生活機能のレベルを明確 にして,さらにそのレベルでターゲットとする具体. 以上述べたように生活機能モデルは「人」に関す. 的項目は何かを明らかにし,それへの影響をみるこ. るさまざまな問題・課題の認識と解決のための有力. とが必要になる.. な「思考・概念の枠組み」である. 支援機器開発・研究の過程では,この枠組みを用. ▶▶直接的影響以外の影響. いることで,問題・課題そして効果を,各要素間の. しかし同時に,本来ターゲットとしたものへの直. 相互の影響を含めて整理していくことができる.そ. 接的な効果だけでなく,支援機器の利用によって,. して,支援機器利用者の『「人」が生きること』,そ. ほかの項目やほかの生活機能レベルにどのように影. して支援機器の『 「人」が生きることへの影響』を. 響するのかをみていくことが重要である.. 客観的に捉えることができる.さらにこの枠組みは, 「どのような支援機器を開発すべきか」というニー. ▶▶支援機器以外の影響との総和. ズの把握にも,ニーズとシーズのマッチング,そし. 「人」を中心としてみていく場合,その生活機能. て開発途中・使用開始後の評価にも役立つ.. の状態には支援機器だけでなく,ほかのさまざまな. 支援機器が生活機能に与える現実的および予想上 の影響の把握の具体的ポイントを以下に述べる.. 「環境因子」も影響している.それには支援機器の 使用場面をなす物的環境や人的環境因子,また医療・ 介護・リハビリテーションのような専門的技術・サ. ▶「環境因子」としての影響 ▶. ービスが含まれる.これらの環境因子の状態いかん. 支援機器は「環境因子」に含まれるが,生活機能. で支援機器の影響の仕方は変わってくる.また(現. モデル(図 -1)では,この「環境因子」から「心身機. 在検討の対象としている支援機器以外の)ほかの環. 能」・ 「活動」・ 「参加」という生活機能の 3 つのレベ. 境因子が生じる効果との比較も必要となる.. ルに矢印が向かっている.これは支援機器が,これ. さらにいえば,「個人因子」すなわち利用者の生. らのどのレベルにも影響を与えることを示している.. 活歴,ライフスタイル,価値観,好みなどの影響(干. また矢印は逆方向にも向かっているが,これは生. 渉)をも考えなければならないのである.. 活機能の 3 レベルから「環境因子」 (この場合は支 とえば「活動」や「参加」の状況に合わせて支援機. 生活機能向上に向けた支援機器研究 ・ 開発のストラテジー. 器の使用を計画したり,オプションを変えたり,微. ─新たな技術体系 ・ 研究体系の必要性─. 援機器)に向かう影響もあることを示している.た. 調整したりすることもこのような「影響」である. なお,図 -1 では直接の矢印は示されていないが,. 784. 情報処理 Vol.54 No.8 Aug. 2013. 現在筆者は支援機器分野の研究者とともに,生活.

(4) 3. 生活機能構成学確立のためのストラテジー. 機能向上に向けた支援機器開発のあるべき方向. ニーズ. を求めて,ICF の立場からの研究・開発過程や. 将来を含めての生活・ 人生上の「必要」. 評価法についての研究を行っている.その結果 も踏まえ,以下紙幅の制約のためスケッチ的に なるが, 生活機能向上に直結する支援機器研究・. プロブレム. デザイア. 現在の生活上での「問題点」 将来の生活上の「課題」. 開発のストラテジーの確立に向けた課題につい. (本人が感じた「欲求」). て筆者の考え方の概略を述べたい.. 総 合. ▶▶生活機能向上に向けた理念の体系化 「理念」とは,たとえば「ニーズ」,また当事 者の「自己決定権尊重」,「安全性」などをどう. デマンド. (本人の口頭表出した 「要望」). 図 -4 ニーズとは何か,それをどう捉えるか. 2),5). 理解するかについての明確な理論的立場を持つ ことである.この大枠はすでに確立されているが,. が,本当に必要なのは多数例における把握である.. それを支援機器研究・開発の観点から深め体系化す. これは,どのような生活機能の,どのような低下. ることが今後の課題である.. 者がどれだけいるのか,また生活機能の各レベル・ 各項目間がどのように影響し合っているのかなどの. ▶▶ニーズ把握に必要な専門知識・技術. 分析である.これによって正しいニーズが把握さ. 「ニーズ」とはしばしば安易に使われているが,. れ,またシーズ側により適切なニーズの情報が提. 実はこれを正確に捉えることは非常に難しい.ニー. 供される.. ズ把握は直接当事者の意見や要望を聞いたり,専門. 筆者はこれまで ICF に基づいた高齢者の生活機能. 家の意見を聞いたりすればできるというような簡単. 実態調査(約 1.7 万人)や,各種障害者の生活機能. なものではなく,明確な理論的立場に裏づけられた. 調査(約 5 千人)を行った.これらが支援機器に. 専門的な知識や技術を必要とするものである.. おけるニーズ把握に有効なことも少なくないと思わ. 図 -4 に筆者のこれまでの研究に基づく,ニーズ. れる.さらに今後は工学面への応用を意図してデザ. の捉え方についての概念図を示す.詳しくは拙著を. インした,できれば最初から支援機器研究・開発を. 参照いただきたい. 2) ,5) .. 目的とした生活機能実態調査によってニーズを把握 することが必要と考えられる.. ▶▶シーズとニーズのマッチングのシステム ーズとマッチさせるシステムの確立が必要である.. ▶▶支援機器の効果評価の確立: 特に適応と禁忌について. ここで考えなければならないのは,従来一見当事. 支援機器の効果の評価がどうあるべきか,そして. 者のニーズから出発するようでも,実は開発側が持. そのためにはどのような技術・能力が必要かを明確. っている何らかのシーズに対応するようなニーズを. にすることが必要である.特に『「人」が「生きる」. 探しているのではないかと見られがちな傾向があっ. こと』への効果の観点からの体系化が緊急の課題で. たことである.これは我々の調査で,多くの研究者. ある.これは支援機器の研究・開発の過程において. 自身が認めるところであった.. も役立つことが多いと考えられる.. ニーズを全面的かつ正確に把握した上でそれをシ. これまでの検討で得られた結論から述べると,. ▶▶生活機能の実態把握の課題 ニーズの把握はこれまで個別的な場合が多かった. 『「人」が「生きる」こと』への効果とは,生活機能 に対する影響の総和である.その際,意図したプラ. 情報処理 Vol.54 No.8 Aug. 2013. 785.

(5) 特 集. 生活をデザインする:生活機能構成学のアプローチ. スだけでなく,①メリット,デメリット(プラスと. 工学分野の教育プログラムへの要望. マイナス)と,②短期的・長期的な影響の両面で評 「生活」を支援する工学研究・開発がより効果的・. 価する必要がある. たとえば,長期的デメリットとしては,特に「生 2)~ 5). 活不活発病」. 2)~ 5). と「生活機能低下の悪循環」. 効率的に行われるために,工学分野の教育課程(卒 前・卒後ともに)において,これまで述べた諸点を. を起こす危険性に留意し,それをいかに避けるかを. 中心とした「人の見方」についてのカリキュラムの. 検討する必要がある.. 導入を要望したい.. 以上①②のような総合的な効果の検討に基づいて,. 研究者が開発した技術を,その後に「人」に適用. ③個々の支援機器の「適応」 (その支援機器の利用. するのではなく,研究者自身が人の見方のポイント. が適する生活機能の状況)と「禁忌」 (その支援機. を知り,特に『「人」をみる専門家』との適切な協. 器の利用が禁じられるべき生活機能の状況)を確定. 力の仕方を知り,「おまかせ」でない,真の協力が. し,明示することが必要と考えられる.. できるための基本的な観点を身につけるための教育 が必要と思われる.これは生活機能構成学だけでな. 臨床「現場の人々」の参画について. く,工学一般が一層「人に役立つ」ものとなるため にも重要と考えられる.. 以上のストラテジーをも踏まえ,緊急の課題と将 来に向けての提言を行いたい. 従来はしばしば,工学研究者と医療・福祉・リハ ビリテーション医療などのいわゆる「現場の人」や 当事者とが協力しさえすれば(すなわち「足し算」 で) ,支援機器の効果評価は行えると考えられがち であったように思われる. しかし実は,その実現のためには確固たる理論的 基盤に立ったストラテジーが必要なのであり,この. 参考文献 1) 大川弥生:生活機能とは何か─ ICF:国際生活機能分類の理解 と活用,東京大学出版会(2007). 2) 大川弥生:「よくする介護」を実践するための ICF の理解と活 用─目標指向的介護に立って,中央法規出版(2009). 3) 大川弥生:介護保険サービスとリハビリテーション─ ICF に 立った自立支援の理念と技法,中央法規(2004). 4) 大川弥生:「動かない」と人は病む;生活不活発病とは何か, 講談社現代新書,講談社(2013). 5) 大川弥生:新しいリハビリテーション;人間「復権」への挑戦, 講談社現代新書,講談社(2004). 6) WHO : International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF) (2001),日本語訳:国際生活機能分類,中央 法規(2002).. 点が不十分なために,人の「生活」と「健康」を支. (2013 年 5 月 7 日受付). 援する工学分野の開発・研究に,残念ながら現在非 常に大きなロスが生じているのではないかと危惧 される. この問題の解決は急務であり,関係者全員が協力 してそれにあたる必要がある.今後の大きな課題 は,臨床現場の人々と支援機器研究・開発者との協 力関係を注意深く構築していくことであるが,その 際 ICF に基づく分析とその総合的把握を行えるよう な技術の活用が重要と考えられる.. 786. 情報処理 Vol.54 No.8 Aug. 2013. 大川弥生 ■ [email protected] 久留米大学医学部大学院修了.東京大学助手,帝京大学助教授を 経て,現職.医師・医学博士.現在,厚労省社会保障審議会生活機 能分類専門委員会委員長,厚労省医道審議会委員(理学療法士作業 療法士分科会)等..

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参照

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