楷書字形指導における「しんにょう」の扱いと基本的学習指導過程
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(2) 160. 学校教育学研究, 2001,第13巻. 1はじめに 教育現場のみならず,教育に関わる総ての組織・体制 に教育改革の波が押し寄せている。その中で,当然のこ ととして書写教育の近代化も繰り返し唱えられる。しか し,悲しむべき実態として,未だ「お習字」と呼ぶ以外 にない手法による学習が展開されていたり,相当数の教 育現場では書写学習の時間確保さえされない状況が続い ている。さらに実際の学習指導においても, 「清書」や「手 本」, 「作品」といった旧態依然とした習字教育の用語が 平然と使用され根強く通用している。 改めて論議するまでもないが,書写という学習は-早 位授業の終末に課される「清書」によって終結するもの ではない。それは単なる-学習の成果の確認であり,学 習の終止を意味するものではない。しかし,現実的には 「清書」は学習の総まとめとなり,終鴛を意味すること になる。まして,文字言語の意義や価値,言語記号の規 則性を学習する書写において,芸術的創造的活動の結果 を示す「作品」という表現は馴染まない。所詮は-作例 に過ぎない教科書掲載教材を指して,越えることのでき ない規範の意味を含む「手本」という呼称を与えること ち,また学習を極めて窮屈なものへと押しやっているの ではないだろうか。単なる用語へのこだわりと指摘する. 教育への-試論という立場を示すものである。 1.基礎として位置付けられる楢書の学習について 日本語の日常表記は漢字仮名交じり文である。漢字仮 名交じり文とは,基本に「漢字」と「仮名」を置きなが ら「数字」 「外来語」等を同一紙面上に書き表す多文字 併用体系という言語表記の形象化である。そのため,主 として書写の学習では「漢字」と「仮名」を対象とした 学習が展開されることとなる。 /ト学校国語科書写では「漢字の槽書」と「仮名(平仮 名・片仮名)」を学習対象としている。その学習を引き 継ぐ中学校では, 「漢字の行書」と「漢字の行書に調和 する仮名」が学習対象となる。この学習構造を簡略に図 式化すると,以下のようになろう。 漢字の棺書 平仮名→片仮名. 漢字 の行 書 漢字 の行 書 に調和 する仮名. 小学校国語科書写中学校国語科書写 つまり,学習指導要領等に明示されていないものの, 小学校における文字学習の入門期に扱われる仮名は明ら かに「漢字の棺書に調和する仮名」となるはずである。 ただし,中学校段階で用語として登場する「漢字の桔書. 向きもあろうが,その学習において何を求めているかを 明らかにする上でも,一見些細と思える用語にも注意を 払うことが必要であろう。自らの担当する学習指導,揺. に調和する仮名」は,小学校段階とは字形的に多少の異 なりを見せる。これは,文字習得期の仮名が整斉とした 骨格を明らかにしているのに対し,文字活用期では速書. 業を「習字」と呼び,ある時は「書道」と呼んで悼らな い現状の中では,指導者自身の学習指導への意識化と確 認がまず必要であり,避けては通れない部分である。 悲観的な状況ばかりではない。これら混乱や混同も存. に対応するための「字体の許容」を含んでいることに由 来する。周知の通り,仮名には漢字のような明確な書体 区分がない。そのため,漢字との調和においては,常に. 在する一方では,書写という学習を通じて,学習者にど のような知識,力を与えるのか,改めて「国語科書写の 学習とは何か」 「書写における基礎・基本は何か」とい う再確認が始められようとしている。象徴的な言い方を すれば「旧態依然とした習字教育からの脱却」であり,「書 写教育の構造化と新しい学力観の確立」であろう。 「文 字をきれいに書く」という抽象的,表層的な学習指導の 弊を排除し,豊かな文字言語活用者を育成しようとする ならば,この国語科書写の学習内容の見直しと,学習指 導法の再構成は避けて通れない大きな課題であると言え. 「表現の幅」という視点での論議が生じるのは必然とも 考えられよう。 現行の書写の学習構成は, 「漢字」も「仮名」も同様 に「棺書的なもの」から「行書的なもの」へと発展する 形をとっており,一般的に認知される「構書は基礎的な 書体」との意識を具現化したものとなっていることは明 らかである。そのことにより,実際の学習指導の場にお いても「せめて棺書で自分の名前がキチンと書けるよう にしたい」や, 「まずは棺書をしっかり教えないといけ. る。本論では,椅書字形指導の中でも困難を伴うとされ る「しんにょう」を題材とし,基礎的な学習単元として 位置付けられてきた「棺書の学習」への考察と,生活の. ない」という指導者側の発言をも導き出す結果となる。 現実,大量の情報を記録する書写力育成のために設定さ れる中学校の行書学習も,多くの場合,この措書という 基本的な書体を習得させなければならないという意識に よって,形骸化され成果を生じさせていない。つまり,. 中に生きて働く書写力育成のための学習指導過程を構築 することに主眼を置いている。これは国語科の〔言語事 項〕に位置付けられる書写への確認であり,意義・価値 という部分からの見直しであり,また新しい時代の書写. 小学校から中学校へと進んだにも関わらず,学習者は同 じ内容・形態の学習を余儀なくされることになる。学習 内容を精選し,系統化するという目的で構成された「槽 書的なもの」から「行書的なもの」への発展は,文言の.
(3) 隅.tl蝣;--ffi'.削二iliti L ′、にようl L'〕拙いと抜本ru・?蝣蝣''川了専心ftl.. 上で,あるいは理論上は成立しても,現実の学習指導で は実践されないという矛盾を生んでいることになる。. 第一級二至ル(以下略)」とあり,第八級から第一級に 至る道筋を次のように掲げている。. 果たして指導者側が唱える「槽書は基礎的な書体」と いう考えは正しいのであろうか。実際の書学者の立場か らすれば,棺書ほど難しい書体はない。かつ一点一画が 明確で整斉としている棺書ほど,字形を整えて書くこと に難渋する書体はない。骨格が明らかであればあるほど, その歪みや矢は明確なものとなるのである。. 第八級六ケ月. 確かに棺書とは字形としては基礎的,標準的な書体で あろう。さらに読字という視点では読み易くもある。し かし,書字・書写という「書く」という視点では,用・ 運筆,字形構成ともに難易度の高い書体であると位置付 けざるを得ない。このような読字と音字の相反は,「漢字」 という字種についてだけではない。小学校における文字. 第七級六ケ月. 習得が「平仮名」から始まることを考えても同様である。 文字の成立から考えれば,漢字の草書化・簡略化によっ て生じたものが平仮名である。つまり,手指の巧緻性さ え乏しい小学校低学年の文字学習が,極めて技術的な困 難を伴う草書的な字種から開始されているわけであり,. 第五級六ケ月. 学習者が書字・書写困難に陥るのは当然とも考えられよ う。この「読字と書字の相反」の典型的な事例が, 「梧 書はは基碇的な書体」という指導者側の意識であろう。 悲しむべきことに,多くの書写指導者は相反に気付かず, 難度の高いものを無意識に与え,手本という作例に近似 させることを目的として学習活動を展開させ続けている のである。. 2.椙書先習へと至る歴史的な経緯 江戸期においても寺子屋等で往来物を手本とした習 字教育は存在していたものの,具体的な教育課程という 立場で考えるならば,書写教育の歴史は明治期に遡るこ とになろう。この段階で,いわゆる国としての教育政策 が明らかになり,文字の書き方を中心に据えた「習字」 という教科目も登場することとなる。 明治5年8月の「学制」の第二十七章には「尋常小学 ヲ分テ上下二等トス此二等ハ男女共必ス卒業スヘキモノ トス」という記述の後に「下等′ト撃教科」と「二習字 字形ヲ主トス」という記述が,第二十九章には「中華ハ /ト撃ヲ経タル生徒二普通ノ学科ヲ教ル所ナリ分テ上下二 等トス二等ノ外工業学校商業学校通辨学校農業筆校諸民 学校アリ此外廃人学校アルヘシ」という記述の後に「下 等中学教科」 「三習字」および「上等中学教科」 「三 習字」という記述が見られ,小学校において「習字」は 必修の教科であったことが分かる。更に同年9月の「小 学教則」では, 「下等小筆ノ課程ヲ分チ八級トス毎級六ケ 月ノ習業ト定メ始テ撃二人ル者ヲ第八級トシ次第二進テ. 161. 習字一過六字即一日一字 手習草紙習字本初歩等ヲ以テ平仮名片恨名ヲ教 フ但数字西洋数字ヲモ加へ教フベシ尤字形運筆 ノミヲ主トシテ訓讃ヲ授クルヲ要セス教師は順 廻シテコレヲ親示ス 習字一過六字 前級ノ如ク漢字棺書ヲ授ク 第六級六ケ月 習字一過六字 行書ヲ授クルコト前級ノ如シ 習字一過六字 行書ヲ授クルコト前級ノ如シ 第四級六ケ月 習字一週六字 棺書ト片促名ノ交リタル文ヲ習ハシム但字形稗 ′トナルヘシ. 第三級六ケ月 習字一週六字 行書平恨名交リノ文ヲ習ハシム 第二級六ケ月 習字一週四字 前級ノ如シ 第一級六ケ月 習字一過二字 前級ノ如シ 続く上等小学校の課程では, 第八級六ケ月 細字習字一過二字 字形ヲ小ニシテ行革平候名交リノ文及ヒ書簡用 文等ヲ撃ハシム 第七級六ケ月 細字習字一過二字 前級ノ如シ 第六級六ケ月 細字速寓一週二字 棺書片恨名交リノ文又ハ行革平仮名交リノ文手 簡文ノ手本ヲ置キ速二之ヲ書シ而シテ字形運筆 工緻ニシテ童モ法外二出テサラシム 第五級六ケ月 細字速寓一週二字 前級ノ如シ但手本ヲ用ヰズ其文ハ教師之ヲ口述 ス.
(4) 学校教育学研究, 2001,第13巻. 162. 第四級六ケ月 細字速寓一週二字 前級ノ如シ 第三級六ケ月 細字速寓一週二字 前級ノ如シ 第二級六ケ月 細字速寓一週二字 前級ノ如シ 第一級六ケ月 細字速寓一週二字 前級ノ如シ 問題点はあるものの, 「手本」を中心とした視写から スタートし,速写,さらには聴写へと展開する実践的な 学習法は今なお新しさを感じさせるC 当時の日常表記が漢字仮名(片仮名)交じり文ではあっ たことにより,仮名の学習順は片仮名から平仮名-と展 開するが,槽書から行書,棺書と仮名の調和,行書と仮 名の調和,文の速書へと辿る道筋は,現在の書写教育の 系統に近似している。つまり,この時期に基本書体を槽 書と行書とする立場,桔書から行書へと発展するという. 3.楢書先習の学習指導の功罪と課題 構書という書体の利点は,字形が判然として明確であ り,表現の幅に関する知識等がなくても情報伝達が可能 であるという点であろう。つまり, 「1.基礎として位 置付けられる棺書の学習について」でも述べたように, 読字という立場では基礎的,基本的な書体であると位置 付けることができる。この考えが, 「まずは棺書の習得」 と願う風潮を支えていることは明らかであろう。 しかし,同車で触れた通り,書字・書写という立場か らは習得に困難が伴う書体でしかない。戦前の芸能科習 字が「精神性」 「修練性」を棺書に求めたことからも理 解できるように, 「筆先に注目し一点一画をゆるがせに しない態度」や「吃立する字形の整正美」を求めるもの であり, 「規則性・法則性が明確化される書体」である ことに違いはない。僅か一本の点画の歪みが,字形その ものを大きく変形させてしまう場合もある。そのため, 書写学習,特に小学校3年生から必修とされる毛筆書写 学習において,この槽書からの導入が図られることは, 基礎的・基本的という名のもとに「手本」への追従を強 いる形となったり,段階性と称して不必要な関門を学習. 方針が芽生えたと考えるべきであろう。ただし,この桔 書先習の方針は固定化されたものではなく,ペスタロッ チ主義やヘルバルト派の教授論理の流行に伴って興隆し. に設定してしまうことも多く,手指の巧緻性に乏しい学 習者の実態を無視した学習展開ともなりやすい。まして. た「日常語嚢による行書先習の方針」と位置を争うこと になる。 再度, 「棺書先習の方針」が大きな位置を占めるのは, 明治3 3年8月の「小学校令施行規則」からである。 「第. 過程よりも結果としての形態が重視されることが多く, 「作品主義」と非難される欠落が生じやすい。. 一章教科及編制」には「国語ハ普通ノ言語,日常須知 ノ文字及文章ヲ知ラシメ正確二思想ヲ表彰スルノ能ヲ養 ヒ兼テ智徳ヲ啓貴スルヲ以テ要旨トス」との日常性が述 べられているものの, 「書キ方二用フル漢字ノ書體ハ構. 「字形ヲ主トス」と述べられたことの弊害として,書く. これまでも,この棺書学習の困難さを除去するため片 仮名先習や片仮名から槽書に至る学習の道筋も試行され たが,いずれもが定着するまでには至らなかった。昨今 の新しい試行では,行書とはいかないまでも続け書きの 学習を前段階に設定し,筆脈や連続性を意識化させると いう方法をとるものもある。. 書行書ノー種若ハ二種トス」という文言に従った棺書先 習が進行を始める。以降,昭和16年3月の「小学校令施. 現実的に考えれば,既に定着したと考えられる棺書先 習の方向性を否定することは難しい。種々の問題はある. 行規則改正」 (国民学校令施行規則)の「聾能科ハ國民 二須要ナル蛮術技能ヲ修練セシメ情操ヲ醇化シ国民生活. としても読字上の便宜さに加えて,印字・活字による文 字文化の増加も伝達交流の中心的書体としての棺書の位 置付けを強めている。さらに進行する情報化時代という. ノ充實二資セシムルヲ以テ要旨トス技巧二流レズ精神 ヲ訓練スルコトヲ重ンジ直撃ナル態度ヲ養フベシ」で精 神性と修練性が強調されるや, 「蛮能科習字ハ文字書寓 ノ技能ヲ修練セシメ鑑賞スルノ能力ヲ養ヒ国民的情操ヲ 醇化スルモノトス」として整斉謹厳な棺書先習の方針が 徹底して貫かれることとなる。 戦後,日常表記上の必要性から平仮名が重視され,辛 仮名から漢字へという平仮名先習の方針が加わったが, 枯書を基本書体として行書へと展開する系統に変化は生 じなかった。. 流れの中では,まず読めること,判別できることが優先 される。教育課程審議会答申の中に盛られた「漢字の書 きよりも読みを優先する」との方向性などは,この時流 に対応する典型的な例であろう。この傾向は,今後強ま ることこそあれ弱まることはあるまい。 しかし,読字重視との現状が強まったとしても,人間 が文字を手書きするという習慣・行為が消滅したわけで はない。情報機器等による瞬間文字提示ならば表現上の 困難はあるまいが,手書きにおける課題は残されたまま となる。今後の書写学習において留意すべき事項は,単.
(5) 措き乍指導における「しんにょう」の扱いと基本的学習指導過程. なる「手本」に従った字形模倣の学習を繰り返すのでは なく,文字を書く過程における原理・原則をどのように 導き出し,どう理解させるのかということになろう。求 められているのは日常書写力の向上である。いわゆる「手 本」があれば上手に書けるというのでは,主体的・積極 的な音字・書写活動にはならない。 1題材, 1単元の中 にどれだけの普遍的な要素が詰まっているのか,それを 学習し獲得することによって何が出来るようになるの か.それら一つ一つの事柄を確実に押さえ,学習の成果 を生かしながら,自らの力で書くことが出来るように なったとき,形骸的な手本模倣の学習も,無目的・無感 動な反復練習も書写学習の場から姿を消していくのでは ないかと考える。. 163. ばいいのか。そのような話し合い,考え合いを経由する 中で,文字言語への理解も広がっていくし,注目しよう とする態度も養われていく。その視点で組み立てると, 学習は次のような展開となる。 【実践事例】 「左ハライ」を考える とあるスポーツ新開に「新庄クソ∼正念場」と いう見出しが出ていた。それを中学校一年生の書写 学習の場に持ち込んで, 「左ハライを考える」とい. 4.椙書字形指導の要点 「手本を見て書きなさい」 「手本通りに書きなさい」 とは典型的な「お習字」の例である。 「お習字」という 表現は,いわゆる「習い事」という意味,さらには抑稔. 正念場. 的な意味合いを込めたものとしても用いられる。当然, 「習字」あるいは「習字教育」とも異なる。底流として 流れているのは「習うより慣れろ」という風潮であり, 論理的な分析や考察よりも経験・修練が優先する。具体 的な目標や着眼点を与えず,学習者に50字, 100字の漢 字練習を課すのと同様である。つまりは「習っているう. シート(1). であるという意味を含んでいる。これは,まさしく「お 習字」と同等の学習形態ではないだろうか。 「どうすれ ば書くことが出来るようになるのか」という答えが導き 出せない学習は,空しく時間を浪費するばかりである。 筆順と字形の関係も同様であるが,経過(筆順)と結. 新鹿タン正念場. 新屋ク. ちに上手くなるだろう」という確証のない学習であり, 到達できないのは学習者の未熱さであるという結論をも 導き出す。前段の末尾で, 「模倣」 「無目的」 「無感動」 という表現を用いた。多少,抽象的な表現であるが,い ずれもが「思考力」とは無縁の位置を占める作業的活動. 新庄クソ-. う学習を組み立てた。通常,左ハライの学習であれ ば, 「人」や「左右」という「手本」が与えられ,用・ 運筆の説明がなされる。あるいは左ハライの「ノ」 だけを抽出し,集中的な反復練習が行われる。しか し,ここで論者が準備したのは,次に掲げる(1) - (3.のTPシートである。. 栄(字形)の重要度は常に論議の中心となる。ある時は 結果である字形に至る道筋が筆順であることも忘れ去ら れ,筆順の正誤や字形の優劣にのみ視点が集中する。所 詮は人間による手書きという行為である。類似・近似は 求められるとしても絶対的な同一は不可能である。にも 関わらず,手本との同一,一致が求められ,学習は極め. 正ソ. て微細な点画指導へと陥る。文字言語としての規則性を 守り,伝達という機能を発揮するならば,表現される字 形上の格差は容認されるべきであろう。その格差が否定 されるところに,字形指導の碩直化が生じる。なぜ,そ. シート(2). 口々に「新庄く-ん」 「新庄くん-」と発声する。. の形なのか。なぜ,その形をとらねばならないのか。そ の形をとるためには,どういう技能・技術を身につけれ. であるC棺書体活字でプリントアウトされたシート. 念I km. シート(3). 最初に提示されたシート(1)を見た生徒たちは, しかし,実際はシート(2)の表記「新庄クソ∼」.
(6) 学校数軒芦研究2001,第13巻. 164. (2)で読み間違う生徒はいない。シート(2)と (3)を比較すれば,形態的な格差は理解できる。 僅か3枚のシートであるが, ①尖っている部分が後に書かれた方である。 ②尖っているから線の方向が分かる。 (彭左ハライは文字の読みを助けている。 ④左ハライを尖らせる必要性がある。 という内容が瞬時に理解される。学習は「左ハライ を書く」へと展開するが,生徒たちに迷いはない。 「抜き放って尖らせることが重要」ということは確 実に理解されており,自己批正・相互批正を繰り返 しながら学習を組み立てていくことが出来る。 字形指導とは,形態を整えるという学習に終始する だけでなく,このような原理・原則への理解があって 初めて深まりを見せていく。今後の書写学習において, 欠くことの出来ない学習要素であると考える。 5. 「しんにょう」の特異性の理解と学習の拡大 総括的に言えば, 「しんにょう」は不思議なバランス 感覚で書かれる部首である。そのため,書きにくく形も 整えにくい。右手書字による縦書きで文字生成がなされ た漢字であるから,一般的には均等な間隔で横画が積み 上げられ,文字の中心が明らかなものは形を整えやすい。 しかし, 「しんにょう」および「しんにょう」がつく漢 字は,そのいずれにも属さない。属さないどころか,檀 めてバランスのとりにくい斜画が中心となり,また最終 画までもが斜画という不安定さももっている。 学習で「しんにょう」という名称の由来さえ説明され ない,漢字表記されたこともないというのも珍しい部首 である。実際,接した多くの指導実践の中でも触れられ たのを見聞したことがない。後に掲げる実践で論者が提 示した「しんにょう」の由来は,以下の通りである。 しんにょう 「しんにゆう」という人もいるが, 「しんによ 「之」は「行く」という意味で人間の行動に関 係があるという意味を示す。 「続」は「めぐら せるめぐる」という意味をもち, 「にょう」 と読む。古い字の形では,. 十字路. 足裏形. 登-2 回→k]. 常用漢字の「しんにょう」は(丑の形で書かれる が,常用漢字外のものは②の形となる。この場 合の「しんにょう」は,画数4画となる。ワー プロなどで使われるフォントでは,この変化を 誤解して③の形で印字するものもあるが,これ では間違いである。. OL^ ②随③随 一般に「によう」は「続」という字意のままに 「L字形に取り囲む部首」と理解するとよい。 このような部首への理解は,特異な形態をもつ「しん にょう」を学習者の身近なものへと置き換える作用があ る。つまり,文字言語としての意味的部分への理解であ り,活用の幅を拡大するための試みである。 特に学習で求めるのは,その一時間の学習対象となる 文字を整えて書くことができるようになるというだけで なく,得た学習の成果をどれだけの文字に敷宿し,一般 化して書くことができるようになるかという点であろ う。 「さんずい」や「きへん」, 「くさかんむり」等での 学習の拡大は他の実践例でも数多く報告されているが, 本「しんにょう」においても以下のような書字数の拡大 と学習成果の一般化が図られる。 【小学校学年配当漢字中の「しんにょう」のつく漢字】 2年-・--近道遠通過. 3年-送追進達運遊返 4年---・選達辺連 5年--・-述逆迷造退通過導 6年-・--逮 【中学校で学習する「しんによう」のつく漢字】 遠逸還遇迎遣込遮巡遵 遂随髄逝運漕逮遅逐逓. 迅迭. う」が正しい。漢字で書くと「之続」となる。. という形をとる。 「人間が足を使って道を歩い ていく」という意味に繋がる。. 途逃透退避遍墜 (荏:下線のつく漢字は,部首としては「し んによう」と扱われないが,部分として含む ものとして例示している。) 部首という視点で総数5万字と呼ばれる壮大な漢字群 を考えた際の問題は,所属する漠字数が部首ごとに大き く異なるという点である。ある部首では100字という所 属漢字があるのに対し,別の部首では僅か数文字という 場合もある。この粗密や格差は,単元や題材の設定に大.
(7) 楢書字指導における「しんにょう」の扱いと基本的学習指導過程. きく関わってくる問題であり,ひいては設定される学習 の意義や価値に影響を与えるものであろう。上掲の字数 を総覧すれば, 「しんにょう」の学習価値や意義を改め て言うまでもあるまい。形態的に特異な「しんによう」 ち,日常的な文字言語の活用という点では決して限定さ れた特殊なものでなく,逆に大きな有効性をもっている と言うことができよう。. 6.具体的な学習指導と基本的学習指導過程の構築 実際に論者が実践した学習指導の事例を掲げる。本実 践の題材語句は,学習指導案にも示す通り「建造」の2 字であり,特に「造」の試書と確認によって「しんにょ う」のつく漢字への理解と, 「えんにょう」がつく「建」 への学習の拡大をねらっている。 【学習指導実践例】 国語科書写学習指導案 指導者小竹光夫(兵庫教育大学助教授) 日時平成11年9月27日(第6時限) 学年姫路市立広嶺中学校第1学年 単元名「棺書の字形の構成」 「しんにょう」を整えて書く. d i巷 単元設定の理由 視覚言語として機能する文字において,その形体が 指導の中心となることは,ある意味当然であり,また 仕方のないことであろう。しかし,結果としての整正 さや正確さを求めるあまり,学習指導が結果としての 「作品」を重視する「作品主義」に陥りやすいことも, 大きな問題点として指摘され続けている0本実践で は,自己診断的な学習段階をワークシートによって. 165. 実現し,字形的に整えにくい「しんによう」を書き 確かめながら,整正とした字形に到達することを目 標としている。 「しんにょう」の乾しさは, ①空間のとり方 ②第2画と第3画の接し方 に集約される。つまり,第1画と第2画の閥に適度な 空間をとらないと,第2画が伸び上がった形で書かれ ることとなり,字形を崩すもととなる。さらに,斜画 と斜画が接するという不安定な第2 ・ 3画は,底辺が 平面的になるという字形の歪みを生じさせる。簡単に 言えば「空けて-倒して-斜め下」という用・運筆の 確認と定着が,学習の大部分を占めることになろう。. 7圭一1先に述べたように,本時のワークシート2) (3)は,その碓認と開署解決の経路を示している。 実践を見ていただければ御理解いただけると思う が,本時では「しんにょう」のみを書き,内部の「告」 には触れることはない。学習指導,特に書写の学習指 導においては,限られた時間の中でいかに焦点化す るかが求められるわけであり,意識的に一般化,学 習成果を転移しやすい「しんにょう」のみの定着を 図ることとした。この学習を契機として,小学校学 年別配当漢字1006字中の25字,加えて常用漢字29字 の「しんにょう」の付く漢字への学習の拡大が可能と なるのである。 硬・毛筆の関連指導が提超されて久しいが,未だに 毛筆が主教材として扱われ,硬筆は副次的なものとし て処理されることが多い。本実践においては,この関 連指導を一歩進めた「一体指導」の形を提示し,生活 の中に生きて働く書写力の在り方への-試案とする次 第である。 単元の目標 ①漢字の部首について知り,字形の構成に関心をもつ。 ②部首としての「しんにょう」について理解する。 ③字形の構成原理を理解し,整えて書くことが出来る ようになる。 単元の学習指導計画 本時は特設の研究授業であるため, 1時間のみの扱 いとなる。ただし,これまでの漢字・書写学習の再確 認と今後の発展・拡大を意図しているため,実際には.
(8) 学校教育学研究, 2001,第13巻. 166. 2)漢字習得,活用力---試書(1). 「明日からの日常生活」が第2時にあたると考えて よいだろう。. 3)目標の実現率一一一--・試書2) (4) 4)学習の成果-・・-・---・試書(1)と(5). 本時の学習指導の展開 題材「建造」のうちの「造」を書き確かめる。 目標①漢字の部首について知り,字形の構成に関 心をもつ。. 5)硬筆書写力-・-----試書(5) 学習にまとめる「評価カード」等を用いれば,さらに 生徒の意識や興味・関心を把握することもできよう。た だし,用心すべきは,盛りだくさんで羅列的な学習内容. ②部首としての「しんにょう」について理解 する。. が指摘されるのと同様,あれもこれもと蓄積しようとす るのでは,指導者側の負担は増大するだけである。何を 提出させ,何を評価するのか。換言すれば, 「どんな書. ③字形の構成原理を理解し,整えて書くこと が出来るようになる。 評価 僅か1時間の学習ではあるが,数多くの貴重なデー. 写の力を求めようとしたのか」を明らかにしながら目標 を確立し,他の部分は年間の,あるいは中学校生活を通 した意図的,計画的な学習指導計画の中に位置付けてい. タが提出されている。提出物として何を求めるかに よって,当然,指導者側が扱えるものも違ってくる ので,視点に合わせ柔軟に対応していきたい。一般 的には,次のようなものが例としてあげられよう。 1)日常の書写力----・試書(1). くことが大切である。本時では試書(5)のみの提出 を求め,毛筆で実現できたことが硬筆にも転移してい るかどうかを評価しようとしている。 掲げた実践例における学習指導過程は,次のような項 目順に構成されている。. 学 習 の流 れ 志 向. *-* fi. 鼓能面. ! 学 習穐材 の確縫. 拭き 1. 拭き 部首 漢字探 し. し、 本 時 の r しん. しん に よ う 拭 き 2. 迫 求 と解 決. 〇 本 時 の 学 習 内容 に つ い て 知 る. ○ 部首 に つ い て 確 払. 撮. 域書 3. 迫 求 m 汰. 動. 確 か め る.. 把. 迫 求の 予測. 習 活. 〇本時 の学習席材 を. ー. 目標 の 環 示. 学. に Jt 5 J へ と 患 d L を 向 け る。 ○拭 きでの閉局 点 を. ま とめ. 」 &. 振 り返 り. . ワ ー ク シー ト ( 1 ) へ の 拭 き を蝿 じて 学 習 内 容 へ と導 入 す る. . 習 得 して い る知 織 の 唖 班 と学 習 価 値 へ の 展 望 を凍 示 して お く. . ワ一 , シ一 ト ( 2 ) で の 丸 付 き を引 き 出 す .. 〇 日棟 の 再 確 法 と解. . 挽 JEW に 理 解 が深 ま る l. 斌書 4. 斌書 5 (仕 上 げ). ○ 学 習 を撮 り返 り、 成 果 と して ま とめ る.. 最. と学 習 の 方 向 付 け。. う0 H P 等 で 例 示 す る. h ¥ を限 定 し、 焦 点 化 し た展 開 を一 C 掛 け る。 空 ける→ 倒す→斜 め下 . 必 要 に 応 じ、 示 乾 等 で 徹 底 を ,A)る。. 檀. ft. . 穐 村 椿 句 r建 亀 」 の 抜 示. 明 らか に す る。. 決 の 方 法 を理 解 す る. 練習 批正. 稽尊者 の働 きかけ/ 甘尭点. 発展 Y 活 用の - 般化. 基 本点画. 基 本点 面. ○ 用 材 r建 遁 」 へ の 枯 ぴ付 きに つ い て 理 解 す る. ○ 学 習 を ま とめ る。. . 毛 筆 で の 成 果 の 堵 坊 と合 わ せ、硬 筆 での発展 を図 っ て お く. . 漢 字 の難 易 が 字 形 構 成 と い う野 分 に起 因 す る こ と を、 T P シ ー トの虹 替 え に よ っ て 例 示 す る。 . 学 習 を ま とめ る。.
(9) 椅音字指導における「しんにょう」の扱いと基本的学習指導過程. ①学習題材の確認 ②試書 ③目標の提示 ④追求の予測 ⑤追求と解決 ⑥練習 ⑦批正 ⑧まとめ ⑨振り返り ⑲発展 ⑪活用の一般化 論者は,既に「書写教育における授業研究の視点I 」(小 竹光夫1991学校教育学研究第3巻)において「基本的 学習指導過程とは,学習指導にあたって誰もが踏むべき 道筋を,系統的・段階的に配列したものである。それゆ えに,本基本的学習指導過程を活用した指導実践が,一 定の教育効果を上げることは期待できるものであるが, 指導者側の主体的な学習指導の観点がない場合,当然の 結果としてパターン化し,形骸化していく欠点をも合わ せ考慮しておかなければなるまい。」と述べ,以下のよ うな「書写指導における基本的学習指導過程(試案)」 (一 部のみ抜粋)を例示している。 課蓮の提示 1. 目標の提示 i. 問題点発見の為の試書 i. 目標実現を阻害する問題点の列挙 i. 問題点解決の為の説明 i. 問題点解決の為の目標の提示 i. 問題点解決の為の練習 i. 目標に従った批正 i. 167. 発展」に続いて設定される。読字という点では基本的書 体である棺書も,大量の情報を記録化するという日常書 字・書写活動においては中心的書体とならない。多くは 判別が容易で速書に適する行書に依存することとなる。 それだけに棺書学習を-学習に閉じ込め,学習成果の確 認を行ったとしても,日常書写への拡大は図れない。具 体的にどのような文字への技能や知識の転移が図れるの か,どんな活用が想定されるのかを考えるためにも, ⑲ および⑪の項目を含めた楢書指導における基本的学習指 導過程を構築することが重要であろう。 7.おわりに 平成元年度版学習指導要領では,中学校国語科での書 写の授業時間数は「第1学年は35時間程度,第2学年及 び第3学年は各学年15-20時間」と明示されていた。し かし,現実の教育現場で中学校2 - 3年の書写の授業が 開設されることは少なく,書初めや休暇中の課題で代替 されることが多い。平成10年度版学習指導要領において は,中学校国語科での書写の授業時間数は, 書写の指導に配当する授業時数にたいする割合 は,第1学年は10分の2程度,第2学年及び第3学 年は各学年10分の1程度とすること。 となった。整数化されない学習時間の確保はますます困 難なものとなる。当然,学習指導法の工夫や充実は求め られよう。しかし,課題として考えなければならないの は,限られた授業時間の大部分を棺書指導が占有すると いう問題であろう。 情報化時代の中,どうすれば速く,そして大量の情報 を記録できるかへの問いとして設定された行書学習が, 今のままでは手を付けられぬままに放置されていく。そ れは即ち,書写が日常書写力の育成という課題から轟離 していくことを示している。たとえ槽書が基礎的書体で あるという観念から逃れられないとしても,その学習の 出口部分で成果を発展・拡大し,日常書写力育成へと導 いていくことは,先ずもって必須かつ重要な視点である と考える次第である。冒頭に掲げた書写教育の近代化と は,単なる学習指導法や教材・教具の開発に止まらず, 書写指導者の意識改革そのものでもある。. 学習内容の再確認 i. 清書 i. 学習成果の確認 i. 評価 「棺書の字形の構成--- 『しんによう』を整えて書 く」という本実践においては, 「⑪活用の一般化」が「⑲. 主要引用・参考文献 1. 『書写・書道教育資料第3巻教育課程史』 加藤達成監修昭和59年東京法令出版株式会社 2. 「書写教育における授業研究の視点」 小竹光夫1991年学校教育研究第3巻 兵庫教育大学学校教育センター (2000.7.31受稿, 2000.8.31受理).
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