長距離選手の疾走能力に関する基礎的研究 : スパートに伴う外側広筋の筋電位伝導速度の変化
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(2) 目 次. 第1章 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ..●●”● 1 第2章 実験1(静的条件下と動的条件下における筋電位伝導速度の比較) ・・ 第1節 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第1項 被験者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2項被験筋 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第3項電極の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ’・● 第4項測定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第5項筋電位の記録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第6項データ処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ”●”● 第1項静的条件下での筋電位伝導速度 ・・・・・・・・・・・・・… 第2項動的条件下での筋電位伝導速度 ・・・・・・・・・・・・・… 第3節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ’.’ 第1項静的条件下での筋電位伝導速度について ・・・・・・・・・… 第2項動的条件下での筋電位伝導速度について ・・・・・・・・・… 第3項静的条件下と動的条件下での筋電位伝導速度の比較 ・・・・… 第4項筋電位伝導速度を変化させた因子について ・・・・・・・・… 第4節 要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 3 3 3 3 3 4 5 5 6 6 8 9 9 9. 第3章 実験丑(スパートに伴う筋電位伝導速度の変化) ・・・・・・・・… 第1節 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 12 12 12 12 12 13 13 13 15 22 22. 第1項被験者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2項被三筋 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第3項測定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第4項筋電位の記録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第5項動作の記録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第6項データ処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第3節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第1項神経支配帯の分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2項筋電位伝導速度の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第4節 要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 第4章 総括. 。’。。…. @ 。・… 。・。・。・・・・・・・・・… . 10 10 11. 22 26 27. 文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 28 謝辞.
(3) 第1章 緒 言 ヒトの基本的な動作の一つである「走」の中で,短距離走においては「これまで長年に わたって名スプリンターは,生まれるものであって,つくられるものではないといわれて きた」(金原5)).天野ら1)は,4歳児に30m全力疾走を行わせ,疾走能力の高い子供と 低い子供の差異を検討し,疾走能力の高い子供は低い子供に比べ,加速から最高速度の発 揮およびその維持の状態が猪飼ら7)による一流スプリンターの速度曲線に類似しているこ. とを報告している.また,短距離走における走速度は,速筋性線維の割合に関係している と言われ,Costill et al.2)は腓腹筋のバイオプシーから,筋線維組成は短距離走者では長. 距離走者よりも速筋性線維のパーセンテージが多いことを報告している.. 近年,長距離走の場合にも記録の短縮と共にスプリントが要求されるようになり,マラ ソン競技においてもトラック競技から転向する傾向にある.長距離走の場合,どの時点で スパートをかけ他の走者を引き離し,勝利へと導くかは戦術上大変重要である.そのため には,スプリント能力を有しているランナーの方が,自分のタイミングでスパートをかけ,. 引き離せるという点で大変有利である.また,このことは基本的には,中距離走者の場合 にも該当するものと考えられる.. この点に関しては有酸素八筋持久力に加え,前述のごとく筋線維に占める速筋性線維の パーセンテージが多いことが条件となる.筋線維の特性に関して,Masudaet al.7)は筋の. 機能特性に起因すると思われる筋電位伝導速度を表面筋電図から計測する方法を考案して いる.宮田ら10)は,各種スポーツ競技選手の外側広筋における等素性収縮中の筋電位伝 導速度を計測し,短距離走者が最も速かったことを報告している.佐渡山16)は,外側広. 筋において最大筋力の50%の水準を疲労に至るまで維持したときの筋電位伝導速度は, 平均でおよそ5%低下し,最大筋力発揮時の筋電位伝導速度と最大耐久時間との間に負の 相関関係が認められ,筋電位伝導速度の変化が筋疲労のよい指標となることを明らかにし ている.. しかしながら,これらの筋電位伝導速度に関する報告は,いずれも静的(static)な条件. 下における計測であり,実際の運動のほとんどは動的(dynamic)な条件下で行われるもの ある.そこで,山口19)は,動的条件下の等張性筋収縮の運動として走運動に着目し,全 力疾走中の筋電位伝導速度の変化をトレッドミルを用いて計測した.その結果,走速度の. 一1一.
(4) 増大に伴って筋電位伝導速度は増加し,速度の逓減,すなわち筋疲労に伴って筋電位伝導 速度が低下することを指摘している.加えて走運動面に計測された筋電位伝導速度の最高 値は,各被験:者ともに走運動前に計測された静的条件下でのその値より高かったことを報 告している.. 山口19)の結果は著者の知る限り,動的条件下での最初の報告であるが,走動作1サイ クルにおける全部位の筋電位伝導速度を計測したものである.今後,より詳細な検討のた めには,関節の屈曲伸展に伴う筋長の変化が筋電位に及ぼす影響を考慮する必要がある.. 斉藤ら17)は,上腕二頭筋を被験筋とし等尺性筋収縮をおこない,筋長の変化にともなう 電極と神経支配帯との位置関係を調べ,肘関節角度が大きくなるにつれて,すなわち筋長 の増加に伴い,個人差はあるものの神経支配帯が遠位側に移動することを明らかにしてい る.さらに,筋と電極の位置関係についてRoy et al.’5)は,表面電極と神経支配帯や腱と. の相対的位置により,表面筋電図波形や筋電位伝導速度の見かけ上の推定値が変化すると 報告している.Morimoto 11)は,ヒトの内側広筋を用いて,膝関節角度変化にともなう筋 長の増加により,筋電位伝導速度の低下が起こると報告している.. 動的条件下における面長の変化と神経支配帯との位置関係について,小田13)は表面筋. 電位を多チャンネル同時に導出できるarray電極を用いて,静的条件下と比較しながら筋 電位伝導速度の測定法に関する詳細な検討を試みている. 走運動に関して,花山3)は小田13)と同様の電極を用いて,膝関節角度変化にともなう. 電極と神経支配帯の位置関係を把握しながら,短距離疾走中の疾走速度と筋電位伝導速度 の関係,速度低減に伴う筋電位伝導速度の変化について山口19)の報告を基により詳細な 計測を試みている.. 長距走においても,疾走速度と筋電位伝導速度の関係,スパート時の速度増加に伴う筋 電位伝導速度の変化を把握することは,個々の選手の疾走能力の基礎的指標となるものと. 考えられる.そこで,本研究では,先ず,実験1として,小田13)と同様の方法で基礎的 研究として関節角度を規定して静的条件下と動的条件下における筋電位伝導速度の比較検 討を行った.次に,実験Hとして,花山3)と同様の方法で長距離選手と比較検討のために 中距離選手を用いて,速筋性線維の動作への参画が要求されると考えられるスパート動作 時の筋電位伝導速度を計測することにより筋組成の面から速筋性線維の動作への参画の様 態にって検討した.. 一2一.
(5) 第2章 実験1(静的条件下と動的条件下における筋電位伝導速度の比較). 第1節 方 法. 第1項 被験者 被験者は筋収縮の面から,瞬発的能力と持久的能力の両面が要求されるバスケッオボー ルを専門競技とする成人男子年男子1名を用いた.. 第2項 被験筋 これまでの歩行,走,及び山口19),小田13),花山3),Masuda et al.7)の筋電図的研究を. 参考に,安定した相似波形を得ることでき,脚伸展の主働筋である外側広筋(右脚)を選 んだ。. 第3項電極の構成 表面筋電位の導出には,直径1mm,長さ10mmのステンレス線を,厚さ3mmのゴムの プレート上に5mm間隔で,10本平行に配列した研究室自作のArray電極を用いた.(図1 参照). 瞬㈱. 1國1 壌。卜垂. ac巨 3c陛. 暴鵬麟1.. 4C卜f. 1・・. 蓉。卜圭. ¥. 6G縛 7c卜華. 8C陛. gc卜1. 図1電極図. 画3・.
(6) 第4項 測定方法 測定にはCybex I(Lumex製)を用いた.最初にSadoyama et al.14)の報告結果と比較する. ため,椅座位で膝関節を90度屈曲位(膝関節伸展角度0度と示す)に固定し,伸展方向 に,最大随意収縮による等尺性収縮を約2秒間行わせた.その後,膝関節伸展角度90度 まで,10度毎に角度を増加させた.(図2参照)加えて,角速度300./sec..において動的. な膝関節伸展動作を等速性収縮で5秒間全力で連続して行わせた.なお,静的・動的とも 測定する動作においては各試技全てにCybex∬からトルクカーブを計測し筋の収縮強度の 指標とした.疲労の影響が出ないように試技間は充分な休息をはさんだ.. 図2 実験イメージ. ・4・.
(7) 第5項 筋電位の記録 外側広筋からの表面筋電位の導出には,上記Array電極を使用し,皮膚双極誘導法で行 った.導出された筋電位変化は生体増幅器で増幅後,14チャンネルデータレコーダ(TEAC 製XR−510)を用い19cm/sec.のテープ走行速度で記録した.この際,筋電位の伝播の様相が. 確認できるように,筋放電パターンをオシロスコープでモニタしながら,電極の中央部が 神経筋接合部と重なり合うように貼付した.また近位側の信号波形に相似した遠位側の信 号波形が得られるように電極位置を調節した.生体増幅器の感度は0.5mm/0.5mv,時定数 は0.003秒,高域遮断周波数は100Hzを選んだ.. 第6項データ処理 データレコーダに記録された9チャンネルの筋電位変化を,パーソナルコンピュータ (NEC製 PC−9821AP)に装着されたADコンバータにより,(1・0データ機製 PIO− 9045)によりAID変換後,花山3)が作成したプログラムにより波形の伝播を描写させた.. これらのことから,各膝関節伸展角度において,波形から目視により神経支配帯の位置 を特定し,佐渡山16)の方法を参考に,静的・動的いずれも神経支配帯から筋電位の導出. チャンネルが,たえず等距離になるように近位側と遠位側の2つのデータ処理チャンネル を決定した.. 二つの測定チャンネルの決定後,その筋電位変化,Cybex■からのトルクカーブ,およ. び3CCDビデオカメラ(ソニー製VX1)からのシグナルパルスの電位変化の計4チャン ネルを,9チャンネルの筋電位変化を取り込んだ時と同様にAID変換した.次に花山3)・ 小田13)が作成したプログラムにより電位がゼロレベルを通過する時点を計測するゼロク ロス法6)を用いて伝動速度を計算させた.筋電位伝導速度は,近位側と遠位側の二つの電. 位変化における時間差を計測し,電極間距離(5mm)からコンピュータのディスプレイ上 で算出した.この算出を各試技について行った.. 静的筋収縮条件下ではトルクが最大に達し,安定した相似波形の得られている地点か ら算出した.データ数に応じて,0.5秒間から1秒間における筋電位伝導速度の平均値を その関節伸展角度における平均筋電位伝導速度とした.. 動的筋収縮条件下においては3回の膝関節伸展動作で10度毎に得られた数値を平均値 で表した.. ・5冒.
(8) 第2節 結 果 第1項 静的条件下での筋電位伝導速度. 図3は上述した方法により計測した10度毎の静的条件下での筋電位筋電位伝導速度を 示している.また,図4は同時点でのトルク値を示している.筋電位筋電位伝導速度の最 高値は膝関節角度80度の時点で出現し,53m/sec.であった. Cybex豆からのトルクの最高. 値は膝関節進展開始時の0度から10度の問にみられ,筋電位伝導速度の最高値出現時期 とは一致しなかった.. 5.5. 5 遡 癬 運4.5 鯉 塩. 4. 3.5. 0. 10. 20 30 40 50 60. 膝関節伸展角度. 図3 静的条件下における筋電位筋電位伝導速度. ・6・. 70. 80 Sub.K」. 90.
(9) 200. 150. 心. =ミ100 ⊥. 50. 0 0. 10. 20. 70. 30 40 50 60. 90. 80. 膝関節伸展角度 Sub.K.1. 伸展角度. 0. 伝導速度. 4.9. トルク. 190. 10. 4. 190. 20. 4.9. 148. 30. 3.9. 132. 40. 4. 120. 50. 4.7. 85. 60. 4.7. 80. 図4 静的条件下におけるトルク. 薗7・. 70. 5. 70. 80. 5.3. 48. 90. 5」. 42.
(10) 第2項動的条件下での筋電位伝導速度 図5は膝関節進展角度0度から膝関節進展角度90度までの動的条件下における筋電位 筋電位伝導速度の変化を示している.10度毎の正確なトルク値は計測不能であったが,. 最高値は34Nであった.筋電位筋電位伝導速度の最高値は膝関節角度10度から20度の時 点で出現し,6.1m/sec.であった.. 6,5. 6 也≦5、5. 蝦. 緋 5 垣 週4,5. 鯉. 塩 4 3、5. 3. 20. 10. 30. 40 50 60. 70. 80. 90. 膝関節伸展角度 Sub. K」. 関節角度. 伝導速度. 10. 5」. 20. 6.1. 30. 3.6. 40. 50. 5.4. 3.3. 60. 70. 5.3. 図5 動的条件下における筋電位筋電位伝導速度. ・8」. 5」. 80. 4.5. 90. 5.5.
(11) 第3節 考 察 第1項 静的条件下における筋電位伝導速度について 静的条件下における筋電位筋電位伝導速度の最高値は膝関節角度80度の時点で出現し, 5.3m/sec.であった. Cybex 1工からのトルクの最高値は膝関節進展開始時の0度から10度の. 間にみられ,筋電位伝導速度の最高値出現時期とは一致しなかった.. 静的条件下の場合,10度毎の膝関節伸展動作はいずれの場合も最大努力下で行われて おり,外側広筋を支配する全ての運動単位が動員されているものと考えられる.このこと から,膝関節角度の変化による筋電位伝導速度の変化は,筋線維長の変化による張力の影 響と,α運動ニューロンからの放電頻度の調整によるところが大きいと思われる.実際に 視察による観察では,平均筋電位伝導速度が速い区間は,単位時間あたりに含まれる,個 々の筋電位伝導速度が速い成分の数が多い傾向にあった.このように,今回の実験では最 大筋力発揮と筋電位伝導速度の最高値出現時期に差異が観察されたが,この点については, 今後,詳細な検討が必要とされるところである.. 第2項 動的条件下における筋電位伝導速度について. 動的条件下における筋電位筋電位伝導速度の最高値は膝関節角度10度から20度の時点 で出現し,6.1m/sec.であった.この場合, Cybex IIからの正確な10ど毎のトルク値は計測. できなかったが,膝関節伸展動作中の最高値は24Nであり,静的条件下におけるトルク の最大値との比較した場合,大きな差異が観察された.トルク値に関しては,角速度300 度という動的な運動速度が,速度負荷として影響を与えたことが推測される.すなわち,. 筋の収縮速度と,発揮筋力という面から角速度300度という動的な運動速度では十分な筋 力発揮をできなかったものと考えられる.. 動的条件下での筋電位伝導速度の変化は,筋線維長の変化に伴う張力の影響もさること ながら,波形を観察する限り,運動単位の動員様式による影響が大きいと思われる.一回 忌膝関節伸展動作が約0.3秒という短時間に行われるため,10度毎の筋電位伝導速度の算 出では,再現性の少ないことも考えられた.. 昌9一.
(12) 第3項 静的条件下と動的条件下での筋電位伝導速度の比較 静的・動的条件下における筋電位筋電位伝導速度の最高値を比較すると,静的条件下の 場合5.3m/sec.,動的条件下の場合は6.1m!sec.であり,動的な条件下における筋電位筋電位. 伝導速度の方が速い傾向を示した.また両条件下において,最高値を記録する膝関節伸展. 角度は静的条件下の場合,膝関節角度80度の時点で出現し,動的条件下の場合は膝関節 角度10度から20度の時点で出現していた.動的な条件下における筋電位筋電位伝導速度 が静的な条件下を上回ったことは,山口19)の報告と一致するものである.また,最高値 を示す膝関節角度が異なることは,競技に対する適性,筋疲労,運動単位の動員様式を推 察するためには,実際の運動場面での筋電位筋電位伝導速度の計測の必要性を強く示唆す るものであった.. 第4項 筋電位伝導速度を変化させた因子について 斎藤ら’7>の筋電位スペクトルの解析では,筋長の増加に伴い神経支配帯が移動するた め,電極との相対的な位置関係により平均周波数が低下した.そのため,これと符合して 筋電位筋電位伝導速度も低下する可能性があることを示唆している.. 電極の位置を規定した今回の実験で,静的・動的ともに,膝関節伸展角度によって筋電 位筋電位伝導速度の変化が起こったことは,電極と神経支配帯の位置の関係を除いても, 生理的な理由によって筋電位筋電位伝導速度の変化が起こり得ることを示している.特に, 筋長の増加による張力の影響と,運動単位の動員の様式による影響とが考えられる.. 本研究では,いずれの試技も最大随意収縮によって行わせた.静的条件下の,膝関節伸 展動作において筋電位の波形から観察したところ,全ての運動単位が動員していることが 推測された.このことから,膝関節角度の変化による筋電位筋電位伝導速度の変化は,筋 線維長の変化による張力の影響と,α運動ニューロンからの放電頻度の調整によるところ が大きいと思われる.. 今回の実験においては,被験者が1名である故,個体間差を検討するまでには至らなか った.それ故,今後,動作様式や計測方高等に実験条件をより厳しく規定し,被験者数を 増やしてのより詳細な検討が必要とされる,加えて,筋電位筋電位伝導速度に影響を与え る様々な因子についての,多方面からの検討も必要とされる.. 顧10・.
(13) 第4節 要 約 動的条件下における筋電位筋電位伝導速度を測定することにより,実際の動作における 筋の局所的疲労,運動単位の動員様式を,定時的に推察することが可能となると考えられ る.しかし,これまでに行われてきた動的条件下における筋電位筋電位伝導速度の測定法 は,電極と神経支配帯の位置関係について十分な規定がなされていなかった.従って本研 究では多チャンネルの表面電極を使用し,神経支配帯と筋電位の導出電極とめ距離を常に 一定に保って筋電位筋電位伝導速度を測定した.. 被験者にはバスケットボール競技歴を有する成人男子1名を用いた.被験筋には外側広 筋を用いた.. 静的条件下では,椅座位で膝関節を90度屈曲位(膝関節伸展角度0度と示す)に固定 し,伸展方向に最大随意収縮による等尺性収縮を2秒間行わせた.その後,膝関節伸展角. 度90度まで10度毎に角度を増加させ,同様に筋電位筋電位伝導速度を測定した.動的条 件下では,角速度300./sec..において膝関節伸展動作を等速性収縮で,5秒間全力で連続. して行わせた.両条件下ともトルクカーブを同時に記録した. その結果,筋電位筋電位伝導速度の最高値は,静的条件下の場合5.3m/sec.,動的条件下 の場合は6.1m/sec.であった.また両条件下において,最高値を記録する膝関節伸展角度は. 静的条件下の場合,膝関節角度80度の時点で出現し,動的条件下の場合は膝関節角度10 度から20度の時点で出現していた.動的な条件下における筋電位筋電位伝導速度が静的 な条件下を上回ったことは,山口19)の報告と一致するものである.また,最高値を示す 膝関節角度が異なることは,競技に対する適性,筋疲労,運動単位の動員様式を推察する ためには,実際の運動場面での筋電位筋電位伝導速度の計測の必要性を強く示唆するもの であった.. 今回の実験では神経支配帯と電極の位置を規定して筋電位筋電位伝導速度の測定を行っ た.しかし,実際の動作における筋電位筋電位伝導速度から信頼できる情報を得るために はより厳しい実験条件の規定,被験者数の増加を行うことが必要となる.また筋電位筋電 位伝導速度に影響を与える様々な因子についての多方面からの検討も必要とさる.. ・11腫.
(14) 第3章 実験ll(スパートに伴う筋電位伝導速度の変化). 第1節 方 法 第1項 被験者 被験者は,長距離選手として平成9年度兵庫県高等学校陸上競技大会5000m優勝者, 比較対照の中距離選手として同陸上競技大会1500m優勝の男子高校生2名を選んだ.. 第2項 被験筋 被験筋は実験1と同様,外側広筋(右脚)を選んだ.. 第3項 測定方法 走運動は,自力走行可能なトレッドミル(Senoh製BG9020ウォーラン)上を,静止状態 から約5秒間軽くJogさせ,走行ベルトに装着されたローラーに慣性を与えてからスター トし,約3.2∼3.5m/sec.のペースでの走行を3分間行わせた後.全力での疾走すなわちスパ. ートを10秒間継続して行わせた.その際被験者の安全を考慮してトレッドミルに備え 付けられた手摺りを軽く持たせた.(図6参照). 図6実験風景 第4項 筋電位の記録. 一12一.
(15) 外側広筋からの表面筋電位の導出・記録は実験1と同様の方法で行った.. 第5項動作の記録 走運動中の動作記録は,電子シャッター付き3CCDビデオカメラ(ソニー製VX1)を使 用し,被験者の右側面より電子シャッター速度500f/sec.で撮影・録画した.また,走速度. 算出のために走行面の移動状態をトレッドミルの後方からビデオカメラ(ナショナル製 NV−M90)を用い電子シャッター速度2000f/sec.で撮影・録画した.この際、ビデオシンク. ロナイザー(オステック製VS−01)によりビデオ画像のフィールド毎の数値をビデオ画 面上にスーパーインポーズさせた.また、ビデオ映像特殊装置により動作映像と走速度計 測用とを合成させた.. 走運動中の左右脚の接地期と離地期を区分し,さらに接地期を踵着床期,全足底着床期,. 踵離床期の3区間に分けるため足底部を工夫した研究室自作のフットコンタクトスイッチ を使用し,バゾグラムを記録した.また,膝関節の外側部に研究室自作のエレクトロ・ゴ ニオメーターを貼付し,膝関節の屈曲・伸展動作の電位変化を連続して記録した.. 第6項データ処理 データレコーダに記録された筋電位変化,右フットコンタクトスイッチのバゾグラム,. およびビデオ画像からのシグナルパルスの電位変化を,パーソナルコンピュータ(NEC. 製PC.9821AP)に装着されたAIDコンバータ(1・0データ機製PIO−9045)によりA/D 変換後,花山3)自作のプログラムにより計算させ,データは光磁気ディスクに保存した. 筋電位筋電位伝導速度は,花山3)・小田’3)自作のプログラムにより2つの信号の時間差. を計測し,電極間距離(5皿m)から算出した.時間差の計測は信号がゼロレベルを通過す る時点を計測するゼロクロス法6)を採用した.なお,計測された筋電位筋電位伝導速度は,1. 秒間毎に得られた測定値の平均を,その1秒間の筋電位筋電位伝導速度とした. 走速度は,トレッドミルのローラー板上にマークされたポイントの移動距離とビデオ画. 像から1秒間毎のシグナルパルスより計算し,1秒間毎の平均値で表した. なお,図7に実験構成図ならびにデータ処理構成図を示した.. 13一.
(16) 1多用途脳灘託:; ク㌔評 ”〃. 筋活動電位 外部動作. 舐“欄… @瀟 膝i関節電気角度計. @ ↓際溢盈三黙 ↓. フットコンタクトススイッチ. ビデオカメラ ビデオシンクロナイ. ビデオ ,ノ果装置 (合成画像). ○. 、ビデオレコー・ダ. コンピユ・一タ. _↓_. X−Yプ嶽ッタ. 経蕊xズ忌認盛1. 図7実験構成図ならびにデータ処理構成図. 一14一.
(17) 第2節 結 果 今回被験筋として用いた外側広筋は,大腿骨と脛骨に起始・停止する膝関節伸展の一 関節筋であり,歩行運動において,岡14)は着地前に出現する放電は着地時の衝撃をあら かじめ予測した中枢プログラミングによるものとしている.着地前,膝関節は伸展されて おり外側広筋は筋の収縮様式としては短縮性収縮を行っている.また,着地後、膝関節は 着地時の負荷補償のため屈曲されており伸張性収縮を行っている.伸張性収縮時は同筋の 筋紡錘繊維からアルファー運動ニューロンプールへの促通性入力,すなわち,脊髄レベル からの混入も考えられる.. 直立二足歩行を起源とする走運動においても歩行運動と同様の筋系・神経系への参画様 式が要求されるものと考えられる.それ故,今回は放電を着地前と着地後に大別し,筋電 位伝導速度の計測を行った.. 計測時には,前述のごとく関節の角度変化に伴うアレー電極と神経支配帯との位置関係. を把握する必要がある.図9,10は今回用いた2名の被験者の走運動着地前後のアレー電. 極からの筋電図を示している.その内,図9は長距離走者,図10は比較検討のために用 いた中距離走者のものである.図9の場合,着地前後,筋電位の伝搬波形は5CH(チャンネル). から1CHは,ほぼ相似波形を示しており,アレー電極の中央部(6CH)から遠ざかるに. 従い時相を遅らせて出現している.7CHから9CHも5CHから1CHと正負を逆転させた 伝搬波形を示しており,この場合もアレー電極の中央部から遠ざかるに従い時相を遅らせ. て出現している.このことは,この場合,6CH付近に神経筋接合部が分布しているもの と考えられる.図10の場合も筋電位の伝搬波形は図9の場合と類似した出現傾向が観察 された.それ故,神経筋接合部より遠位側(膝関節部)で比較的安定した相似波形が観察. される二計測点(3CHと2CH)より筋電位伝導速度の計測を行った.. 図11は長距離走者のペース走からスパート走までの走速度変化,着地前の筋電位伝導 速度変化(MFCV−1:Muscle Fiber Condaction Verocity),着地後の筋電位伝導速度(MSCV−2). 変化を示している.走速度は走開始後10秒毎の時点での1秒間計測時のm/sec.を示して. いる.筋電位伝導速度は走開始後10秒毎の時点での1秒間における計測可能な相似波形 の平均値を示している.走速度はペース走開始よりスパート直前の170秒後まで3.Om/sec. から3.5m/sec.の問を推移し,スパート時は4.3m/sec.であった. MFCV−1はペース走時, 3.8m/sec.から5.2m/sec.の間を推移し,スパート時は6.6m/sec.と走行中の最高値を示した.. 一15一.
(18) MFCV−2はペース走時4.2m/sec.から6.4m/sec.と増減し,スパート時は5.7m/sec.であった.. 図12は図11と同時点でのスパート前後10秒間の走速度変化,筋電位伝導速度変化を示 している.走速度は1秒毎のm/sec.を示している.筋電位伝導速度は1秒毎の計測可能な 相似波形の平均値を示している.スパート時,MFCV−1は7.6m/sec.と走行中の最高値を示 した.MFCV−2も7.3m/sec.の数値が観察された.. 図13は図14の長距離走者の場合と同様、中距離i走者のペース走からスパート走までの. 走速度変化,筋電位伝導速度変化を示している.この場合,走速度はペース走開始20秒 後から140秒後まで3.4m/sec.から3.5m/sec.の間を推移し安定した走行を示している.そ. の後,スパート前の160秒後にかけて3.8m/sec.と増加し,スパート直前の170秒後に 3.4m/sec.となり,180秒後のスパート時には4.6m/sec.と増加した.筋電位伝導速度の内 MFCV4はペース走時3.1m/sec.から5.8m/sec.の問を大きく増減し,スパート時は5.5m/sec. であった.MFCV−2はペース走時3.9m/sec.から6.9m/sec.と土曽減し,スパート時は8.2m/sec.. と走行中の最高値を示した.図15は図14と同時点でのスパート前後10秒間の走速度変 化,筋電位伝導速度変化を示している.走速度は1秒毎のm/sec.を示している.筋電位伝. 導速度は1秒毎の計測可能な相似波形の平均値を示している.最高走速度を示したスパー ト時,MFCV−2は最高値を示したが, MFCV−1はスパート後の速度低減前に7.4コ口sec.走行 中の最高値を示した.同時点でMFCV−2も8.1m/sec.と最高値に近い値を示した.. このように,両被験者ともスパート時の走速度増加に伴い筋電位伝導速度の増加が認め. られたが,筋電位伝導速度の最大値は長距離走者の場合には着地前(MFCV−1)に,中距 離走者の場合には着地後(MFCV−2)に出現していた.. 走速度に関しても,長距離走者の場合にはペース走時の10秒毎の増減の巾も大きく,平 均速度は3.26m/sec.を示していたのに対し,中距離走者の場合には,ペース走時3.4m/sec. から3.5m/sec.前後の安定した走行を示し,平均速度も3.47m/sec.であり長距離走者に比し. 高い数値を示した.また,スパート時の最高走速度も長距離走者が4.2m/sec.であったの に対し,中距離走者は4.6m/sec.と高かった。. 一16一.
(19) 1CH. 2CH 3CH 4CH 5CH 6CH 7CH 8CH gCH 電気角廃1 援触スイッチ. ↑ 着地 ト.→. 10msec. SU8∼AMε 田S闘ANO. 図9 長距離走者の着地前後の9チャンネル筋電位伝搬波形. 1CH. 2CH 3CH 4CH 5CH 6CH 7CH 8CH gCH 電気触計 接触スイッチ ↑. 巷地. H lOmsec SU8 “A麟ε KA耀Al. 図10 中距離走者の着地前後の9チャンネル筋電位伝搬波形. 一17一.
(20) 7 黒 ◇. 6 饗㌻. 含陶. ◇ o玉 。. 05. Q◇、. ℃臨㍉’. 顎㍉◇. ¢ ◇. 避. 命. Y ノ B ◇ 。噸へ. ∈4. 翻. 3. 2. 3. 1. M黙一1. 2. 9 11 13 15 17 19 8 10 12 14 16 18. 5 7. 4 6. MFGV−2. time(x10sec). ゆ. 走速度. SubS.H. 一. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 醗FCV−1. 4.4. 4.9. 52. 5.3. 4.7. 3.8. 4.6. 5.2. 4.9. 3.9. 4.1. 4. 5. 4.5. 3.8. 4. 43. 6.6. 4.6. MFCV−2. 5」. 5」. 5」. 4.5. 5.4. 5.1. 6.4. 5.8. 4.4. 4.7. 4.4. 4.8. 4.2. 4.2. 5.4. 4.3. 4.7. 5.7. 5.5. 走速度. 3. 3.3. 3』. 3.2. 3.3. 3.1. 3.2. 3.3. 3.4. 3.2. 3.2. 3.5. 3.4. 3.3. 3.3. 3.4. 3.3. 4.2. 4.3. 図11長距離走者のペース走からスパート時までの走速度変化,筋電位伝導速度変化. 18一.
(21) 8 亀、. 7. 汽. 6. ㌔翻. S㌃. 貸. 会. ◇. ¢. o_、. ◇. 05 8. 》,岬』』. 命. ◇ う. 16. ◇. 舎. . 、. ∈4 3 2. 1. i. MFcv−11 MFcv−2 2 な. 3. 19 5 7 9 11 13 15 17 8 10 12 14 16 18 20 4 6. ぬり ア. time(2分51秒から). 走速度. 中. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. Sub S.H. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. MFCV−1. 3.3. 2.8. 5.4. 3.9. 3.3. 5」. 3.9. 6.1. 7.6. 6.6. 5.8. 5.9. 5. 3.7. 5.7. 5.5. 6. 4.4. 4.5. 4.6. 酬FCVr2. 5.3. 4.7. 6」. 5.3. 5.2. 6. 4.6. 7.3. 6.9. 5.8. 5.7. 4.7. 4.1. 6.7. 5.5. 6. 5.7. 6.3. 5.9. 5.5. 走速度. 3.4. 3.1. 3.2. 3.2. 3.2. 3.1. 3.2. 3.6. 3.7. 4.2. 4.1. 4. 4.2. 4.2. 4.3. 4.1. 4.1. 4. 3.6. 2.1. 図12 図11と同時点でのスパート前後10秒間の走速度変化,筋電位伝導速度変化. 一19.
(22) 9一. u一一一一一一一一一一一}一一一『一一一一「 ◇. 8. 7 ◇◇ ◇. 6 $. 奏. ㌧’. ζ憩〉. ミ. 丸 ㌔. £し. ∈ 5. ◇・、1令.、、. イ} 占く、. 講. iア. 騨濡冒届. 1ン義‘.」 b. 4. 粍. 3. 2 3. MFCV−1. .2. 善 MFCV−2. 5 7 4 6. 19 18. 16. 8 10 12 14 . time(x10sec). SubY.K. 走速度. 噸 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. MFCV−1. 5.3. 5.1. 5.1. 3.6. 3」. 3.6. 3.5. 4.9. 6.3. 4.7. 6. 5.7. 5.2. 5.8. 5.2. 4.4. 4.2. 5.5. 5. MFGV−2. 5.1. 4.6. 53. 3.9. 5.3. 5.1. 4.9. 5.2. 5.5. 48. 6.3. 6.1. 5.9. 6.1. 5.6. 5.2. 5.4. 8.2. 5.7. 走達度. 3.3. 3.4. 3.5. 3.4. 3.4. 3.4. 3.5. 3.5. 3.5. 3.5. 3.5. 3.4. 3.4. 3.5. 3.6. 3.8. 3.4. 4.6. 4.5. 図13 中距離走者のペース走からスパート時までの走速度変化,着地前の筋電位伝導速度変化. 一20一.
(23) 9. ◇. 8. ◇. ㌦掛㍉. 3. 癒∼ 壽気 ㍉ 停. φ、. 7 蒔. @㍉. ミ. ∼. 命. ` 年載男. @ ∼㍉瓢 ■㍉毛. ◇. @毛◇. 6. ◇. 八 rら4. 崇. 手φ. ◇. 3. ミ5. や. ∈i. ◇ ◇. 4. 3 2. 1. 1. MFCV−1 1 3 5. M識.2 2 4 6 三訂. 1. 7 9 11 13 15 17 8 10 12 14 16. 19 18 20. time(2分51秒から). Sub Y.K. 十 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 麟FOV−1. 4.2. 4.9. 5.5. 5.2. 5.4. 59. 4β. 5.8. 4.5. 5.5. 4.6. 6.8. 6.5. 6.5. 5. ア.4. 6.4. 6.2. 4.7. 5. 図FCV−2. 6.5. 6.3. 4.2. 5.1. 4.5. 7.6. 6.9. 5.3. 5.9. 8.2. 5.7. 74. 6.8. 6.5. 6.2. 8.1. 7.9. 7.7. 6.2. 5.7. 走連度. 3.3. 3.2. 3.1. 3.2. 3.2. 3.2. 3.2. 3.3. 3.5. 4.6. 3.9. 4. 3.9. 3.9. 3.9. 3.9. 3.5. 3.4. 3.2. 2.1. 図14 図13と同時点でのスパート前後10秒間の走速度変化,筋電位伝導速度変化. 一21.
(24) 第3節 考 察 第1項 神経支配帯の分布 本研究では,先ず,筋電位伝導速度の計測に最も信頼性のある2チャンネルを選択する ために,array電極を用いて運動に伴う神経支配帯の位置関係を検討した.. これまで,表面筋電図によって神経支配帯の位置や分布を推定した報告は,増田ら8>に よる格子状温点表面電極を用い上腕二頭筋を被験筋とし神経支配帯の分布の位置を推定し たもの,斉藤ら17)によるarray電極を用い上腕二頭筋を被験:筋とし,任意の肘関節角度に. おける神経支配帯の位置を推定したものがある.斉藤ら17)の報告は,上腕二頭筋におい て等尺性収縮を行い,肘関節角度の伸展すなわち応長が増加するにつれて神経支配帯も,. 必ずしも直線的ではないが同じ傾向で移動するというものであった.小田13>は,動的条. 件下のサイベックスHを用いた等速性収縮では,ほとんどの被験者の膝関節角度90度か ら180度にかけての膝関節伸展運動で,伸展に伴って遠位側から近位側へ移動すると報告 している.花山3)は全力疾走中における神経支配帯の位置関係について検討し,心地期に. おいて,膝関節が最大屈曲から伸展するにつれて神経支配帯の位置は,初めの位置から徐 々に遠位側へ移動し,その後再び近位側へ戻るということを報告している.その他,動的 条件下での,外側広筋における神経支配帯の位置を推定した報告は著者の猟書した範囲で は見当たらなかった.. 今回,走運動中9チャンネル同時に導出した表面筋電図の伝播パターンから,視察によ り着地前後の神経支配帯の位置を推定した.その結果,図9,10に示されたごとく,2名の 被験者とも類似した伝播パターンが観察された.すなわち,着地前後,筋電位の伝搬波形 は5CH(チャンネル)から1CHは,ほぼ相似波形を示しており,アレー電極の中央部(6CH)か. ら遠ざかるに従い時相を遅らせて出現しており,7CHから9CHも5CHから1CHと正負 を逆転させた相似波形を出現させていた.また,着地前後,膝関節に貼付された電気角度 計からの角度変化曲線はほぼ水平位を示しており,この間,関節の角度変化が少ない意味. するものである.それ故,面長の変化も少なく,神経筋接合部は6CH付近に分布してい るものと推察される.. 第2項筋電位伝導速度の変化 走運動中の筋電位伝導速度に関しては,長距離走者および比較検討のために用いた中距. 一22一.
(25) 離走者ともスパート時に筋電位伝導速度の増加が認められたが,筋電位伝導速度の最大値 は長距離走者の場合には7.3m/sec.であったのに対し,中距離走者の場合には,8.2m/sec.で. あった.また,その出現時期も長距離走者の場合には着地前(MFCV−2)であったのに対 し,中距離走者の場合には着地後(MFCV−2)であった.スパート時の筋電位伝導速度の 増加は,筋収縮力が急速に増大され,筋電位伝導速度の速い大きな運動単位が次々に参画 を始めたために,筋肉全体として筋電位伝導速度が上昇したものと考えられる.この場合,. 上述のごとく,被験者間で最大値の出現時期に差異が観察された.花山3)の短距離疾走中 の外側広筋からの筋電位伝導速度に関する報告では,陸上競技の走運動を専門とする者と. 走運動を専門としない剣道選手とでは,疾走1サイクル中の筋放電様相に差異が認められ るものの,筋電位伝導速度の最大値は,いずれの場合も着地前の出現を報告している.ま た,Nardone et al.12)は伸張性収縮時に高閾値運動単位の選択的な活動参加を観察し,低. 閾値の運動単位に対する何らかの抑制機構の介在を推察したが,和田ら18)は短縮性収縮 時にも発現することを報告している.今回の実験では,自走式トレッドミルを用いたため 着地時に走行ベルトがたわみ衝撃を吸収してしまうため,膝関節の角度変化曲線が示して いるごとく膝関節への負荷補償がさほど要求されず,筋の伸張による筋紡錘を介しての脊 髄レベルでの促通性入力の混入が少なかったものと推測される.それ故,個体間差がみら れ,筋電位伝導速度の最大値が長距離走者の場合には着地前に出現したのに対し,中距離 走者の場合には着地後出現したものと考えられる.しかしながら,この点に関しては今後 詳細な検討が必要とされるところである.. 斎藤ら17)の筋電位スペクトルの解析では,筋長の増加に伴い神経支配帯が移動するた. め,電極との相対的な位置関係により平均周波数が低下した.そのため,これと符合して 伝導速度も低下する可能性があることを示唆している.. 今回の実験では,着地前後,上述したごとき神経支配帯の分布状態,膝関節角度変化か ら考慮して,運動単位の動員の様式による影響とが考えられる.一般的には運動単位の動 員様式は支配下の筋線維単収縮張力の順に秩序正しく動員される.このように収縮張力が 小さく,疲労しにくい筋線維を支配しているα運動ニューロン(神経細胞体が小さく,動 員閾値が低い)から順次動員される一般法則を「サイズの原理」(Henneman et aL)と称して. いる.一般的に,最大随意収縮の60%以上の筋収縮で,全ての運動単位の動員が考えてよ い.しかし軽度の負荷による急速な筋収縮では,高閾値運動単位のみの選択的な動員が生 じることも報告されている.また,ネコのジャンプ時における選択的な高閾値運動単位の. 一23一.
(26) 動員と,それに伴う低閾値運動単位の抑制が報告されている.急速な動作では遅筋線維の 筋収縮に対する貢献度は少ないのみでなく,速筋の収縮速度をも鈍くさせる可能性がある ことから,選択的な遅筋の抑制を行い,機能的有利条件を作り出していることが推察され る.. 次に,被験者間にみられたスパート時の筋電位伝導速度の差異について検討する.両 被験者ともペース走時の筋電位伝導速度から判断して,スパート時,明らかに収縮速度の. 速い筋線維の動作への参画が考えられる.180秒間のペース走時,平均速度から,長距離 走者は約587m(3.26mx180),中距離走者は約625m(3.47mx180)走ったことになり, 専門種目の点から考慮しても,長距離走者の方が中距離走者より筋疲労を起こしていると は考え難く,筋電位伝導速度の差異は,本来,両被験者の有している筋収縮速度の差とし て差し支えのないものと考えられる.すなわち,筋組成の面からは中距離走者の方がより 速い膝関節伸展動作が可能となり,接地期,足関節の底屈筋群により得られた前方への推 力を忌地期,より素速く,より前方へ伝達するためには有利である.それ故,スパート時 の両被験者の走速度の差は膝関節伸展速度,すなわち,筋電位伝導速度の差異が大きく関 与しているものと考えられる.. 筋電位伝導速度の速い遅いは,スパート時短時間に相手を引き離すことに寄与するもの であり,仮に,今回の被験者が同時点で10秒間のスパートをかけた場合,長距離走者は42m. ∼43m,中距離走者は45m∼46m前進することになる.実際には,スパートをかけられ た場合,スパート動作に遅れて追従することになり,この差はもっと大きくなるものと考 えられる.それ故,筋組成の面からスパート時に要求されるものは速筋性線維の収縮速度 であり,これを最も簡便に把握できる方法として筋電位伝導速度の計測があげられる.. そのような観点から,今回,長距離選手および比較検討としての中距離選手を対象にス. パート時の筋組成の参画の様態について検討したが,被験者が少数(2名)である故,個 体内高,個体間差を一般化するまでには至らなかった.速筋性線維に対するトレーニング 効果が明確でない現時点において,筋電位伝導速度の計測は,走競技の選手発掘・能力把 握等の観点から速筋性線維の収縮速度を把握する方法として,今後詳細な検討を加えるこ とにより有効な手段となりうるものと考えられる.しかしながら,これらの計測には,計 測機器と研究室レベルでの計測的手法が要求されるものであり,小・中・高等学校等の学 校教育現場での直接,筋電位伝導速度の計測法の一般化は難しい.それ故,研究機関と学 校教育現場サイドとの共同研究が望まれるところである.また,学校教育現場サイドとし. 一24一.
(27) ては,筋電位伝導速度を反映した体力測定法等の開発も必要とされる. 一25一.
(28) 第4節 要 約 自力走行可能なトレッドミルを用いて,疾走速度と筋電位伝導速度の関係,スパート時 の速度増加に伴う筋電位伝導速度の変化について走動作着地前後の収縮特性から2部位に. 大別し検討を行った.その湯島電位伝導速度の変化から,運動単位の参画様式の検討も 行った.. 被験者には,長距離選手として平成9年度兵庫県高等学校陸上競技大会5000m優勝者, 比較対照の中距離選手として同陸上競技大会1500m優勝の男子高校生2名を用いた. 被験筋として右脚の外側広筋を選んだ.走運動はトレッドミル上で約3.2∼3.5m/sec.のペー. スでの走行を3分間行わせた後.全力での疾走すなわちスパートを10秒間継続して行わ せた.着地前後をMFCV−1(着地時の負荷に呼応するための着地直前の放電),MFCV−2(着. 地後の負荷補償ならびに伸展のための放電)に大別し,各々の放電での筋電位伝導速度を 計測した.. 結果は次の通りである.. (1)着地前後の外側広筋における神経支配帯の位置の変化は,2名の被験者とも伝搬 波形からは観察されず,着地前後,膝関節に貼付された電気角度計の角度変化曲線から筋 長の変化は少ないものと考えられた.. (2)2名の被験者とも筋電位伝導速度の最高値はスパート時に計測され,この時期, 速筋性線維の動作への参画が考えられた.. (3)筋電位伝導速度の最高値は中距離走者の方が速かった.また,スパート時の疾走 速度も中距離走者の方が速かった.筋電位伝導速度の差異は,本来,両被験者の有してい る筋収縮速度の差として考えられた.. (4)筋電位伝導速度の最高値は長距離i走者の場合,MFCV−1に,中距離走者の場合,. MFCV−2に出現した.今回の実験では,自走式トレッドミルを用いたため着地時に走行ベ ルトがたわみ衝撃を吸収してしまうため,膝関節への負荷補償がさほど要求されないもの と考えられたが,この点に関しては今後詳細な検討が必要とされる.. (5)筋電位伝導速度の計測は,走競技の選手発掘・能力把握等の観点から速筋性線維 の収縮速度を把握する方法として,今後詳細な検討を加えることにより有効な手段となり うるものと考えられた.しかしながら,学校教育現場への直接の導入は難しく,研究機関 との共同研究や,筋電位伝導速度を反映した体力測定法等の開発も必要とされる.. 一26一.
(29) 第4章 総 括 実験1として行った膝関節角度を規定しての静的条件下と動的条件下における筋電位伝 導速度の計測結果は,動的な条件下における筋電位筋電位伝導速度の最高値が静的な条件 下を上回った.また,最高値を示す膝関節角度も両条件下で異なった.このことは,競技 に対する適性,筋疲労,運動単位の動員様式を推察するためには,実際の運動場面での筋 電位筋電位伝導速度の計測の必要性を強く示唆するものであった.. 実験Hとして行った長距離選手と比較検討のために中距離選手を用いてのペース走から スパート動作時の筋電位伝導速度の計測結果は,両被験者ともスパート時に筋電位伝導速 度の増加が認められた.これは,筋収縮力が急速に増大され,筋電位伝導速度の速い大き. な運動単位が次々に参画を始めたために,筋肉全体として速度が上昇したものであり,速 筋性線維の動作への参画が考えられた.しかしながら,その最高値は,中距離選手の方が 高かった.このことは,実験条件,専門種目等の点から考慮しても,長距離走者の方が中. 距離走者より筋疲労を起こしているとは考え難く,筋電位伝導速度の差異は,本来,両被 験者の有している筋収縮速度の差として考えられた.. 今回の実験では,実験1・実験Hとも被験者が少数である故,個体色差,個体間差を一 般化するまでには至らなかったが,速筋性線維に対するトレーニング効果が明確でない現 時点において,筋電位伝導速度の計測は,走競技の選手発掘・能力把握等の観点から速筋 性線維の収縮速度を把握する方法として,今後詳細な検討を加えることにより有効な手段 となりうるものと考えられた.しかしながら,これらの計測には,計測機器と研究室レベ ルでの計測的手法が要求されるものであり,小・中・高等学校等の学校教育現場での直接,. 筋電位伝導速度の計測法の一般化は難しい.それ故,研究機関と学校教育現場サイドとの 共同研究が望まれるところである.また,学校教育現場サイドとしては,筋電位伝導速度 を反映した体力測定法等の開発も必要とされる.. 一27一.
(30) 文 献 1) 天野義裕・水谷四郎・星川保(1983)4歳児の走について. 日本バイオメカニクス 学会編 身体運動の科学IV一スポーツのバイオメカニクスー.杏林書院:pp.1−14 2)Costill, D.L, J. Daniels, W. Evans, WJ. Fink, G. Krahenbuhl and B.Saltin(1976). Skeletalmuscle enzymes and fiber composition in male and fbmale track athletes. J. Appl.. Physiol. 40:149−154. 3) 花山光利(1998)短距離走における外側広筋の筋電位伝導速度に関する研究一筋疲労 に伴う速度逓減時の変化一.兵庫教育大学学校教育学部卒業論文 4) 猪飼道夫・芝山秀太郎・石井喜八(1963)疾走能力の分析一短距離走のキネシ馬面ジ 一一.体育学研究 7(3):59−70. 5)金原勇(1971)ランニング・フォーム.体育の科学 21(2):102−106 6) Masuda, T.,Miyano, H. and Sadoyama, T.(1982)The measurement of muscle fiber conduction velocity using a gradient threshold zero−crossing method. IEEE Trans Biomed. Eng.10:673−678 7) Masuda, T.,Miyano, H. and Sadoyama, T.(1985)The position of innervation zones in the. bicepsbrachii investigated by surface electromyography. IEEE Trans Biomed Eng.32:36−42. 8) 増田正・佐渡山亜兵(1988)格子状表面電極によって測定した神経筋接合部の配置. バイオメカニズム 9:35−42. 9) 増田正・佐渡山民兵・白石恵(1992)筋収縮力と筋線維伝導速度.バイオメカニズム 11 :205−211. 10)宮田浩文・角直樹・佐渡山乳臭・増田正・勝・田茂(1989)各種スポーツ選手の外側広 筋における活動電位伝導速度.臨床スポーツ医学 6(12):1371.1376 11)Morimoto, S.(1986)Effect of length change in muscle fibers conduction velocity in human motor units. Jap. J. Physiol.36:773−782. 12)Nardone,A.,Romano, C and Schieppati, M.(1989)Selective recruitment of high−threshold human motor units during voluntary isotonic lengthening of active muscles. J.Physiol.409. :451−471. 13)小田俊明(1998)動的筋収縮条件下における筋電位伝導速度測定法に関する研究.兵. 庫教育大学学校教育学部卒業論文 14)岡秀郎(1983)正常歩行中の下肢筋活動様式に関する筋電図学的研究.関西医科大学 雑誌.36(1):131−152. 一28一.
(31) 15)Roy, SH.,De Luca, CJ. and Sc㎞eider,工(1986)Effects of electrode location on myoelectric. conduction velocity and median frequency estimates. J Appl Physiol 61:1510−1517. 16)佐渡山亜兵(1991)静的筋疲労の指標としての筋線維伝導速度.人間工学 27(2): 97−102. 17)斎藤健治・岡田守彦・佐渡山亜兵・増田正(1996)筋長増加にともなう表面筋電図の 徐波化とその機構脳波と筋電図 24(5):317−324 18)和田寿博・田巻弘之・西薗秀嗣・倉田博・芝山秀太郎(1996)短縮性および伸張性収 縮速度制御時におけるヒト単一運動単位の活動様式.体育学研究 40:371−380. 19)山口尊司(1995)動作ならびに筋電図による短距離走の基礎的研究一筋疲労に伴う筋 電位伝導速度の変化一.兵庫教育大学大学院学位論文. 一29一.
(32) 謝 辞. 本稿を終わるにあたり、終始懇篤な御指導御校閲を賜りました兵庫教育大学の岡 秀郎 教授に深甚なる謝意を捧げます.. また、本研究での実験に御理解、御協力をいただいた兵庫県立社高校陸上競技部監督、 長谷川雅清先生、社高校陸上競技部久野君、河合君のみなさんに心から感謝いたします.. さらに、実験の補助ならびにデータの整理に際し、労を借しまぬ御協力をいただいた本 講座院生の市谷浩一郎氏、ならびに学部生の花山光利君、小田俊明君に深く感謝いたしま す。. 最後になりましたが、2年間に亘る長期研修の機会を与えて下さいました兵庫県教育委 員会ならびに明石市教育委員会および明石市立望海中学校、澤井昭校長はじめ諸先生方に 心から感謝申しあげます.. この兵庫教育大学でのご指導を肝に銘じ、誠心誠意教職に励み、皆様の御厚情に報いる 決意でございます、. 平成10年3月吉日. 本城勝次.
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