共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2) ― 共通実行機能に基づくゲーム課題を用いて ―
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2) ― 共通実行機能に基づくゲーム課題を用いて ―. 五十嵐晴菜・北村 博幸* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学函館校. Instruction for Child with Weaknesses of Common EF(Part2) ― Using Game Tasks based on Common EF ―. IGARASHI Haruna and KITAMURA Hiroyuki* Graduate School of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究では,五十嵐・北村(2018)の研究に続いて,共通実行機能(Common EF)に弱さ がある自閉症スペクトラムの児童に対して,共通実行機能の評価課題に基づいて新たに作成し たゲーム課題を用いて共通実行機能の向上を目指した介入を行い,介入の効果を検討すること を目的とした。その結果,ゲーム課題遂行中の行動の改善と誤答率の低下及び共通実行機能が 関与する更新固有とシフティング固有の評価課題の得点の向上が認められた。このことから, 指導は共通実行機能の向上に影響を与え,さらに共通実行機能が関与する更新固有とシフティ ング固有の機能を向上させたと考えられた。. Ⅰ 問題と目的. 新(Updating)」, 「シフティング(Shifting)」, 「抑 制(Inhibition)」の3つが重要な構成要素である. 学習や行動において,適応的で目的にそった行. としたモデルがある。更新は,ワーキングメモリ. 動や思考を組織化することに必要とされる心理機. 内に保存されている情報を監督し,必要な情報を. 能として実行機能がある(Jurado & Rosselli,. 最新のものとしておく機能である。シフティング. 2007) 。. は,遂行すべき課題をある課題から別の課題に切. 実行機能については,Miyakeら(2000)が複. り替える能力である。抑制は,自動的あるいは優. 数の実行機能課題を実施し,分析の結果から「更. 勢な反応を,必要に応じて,意図的にそして制御. 111.
(3) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 的に抑制する能力をさす。Miyakeら(2000)は,. う知見の蓄積が進んでいる。このことは,実行機. 分析の結果から,この3つの要素が単一のもので. 能の障害の可能性が予想される発達障害児に対す. はなく互いに関連しながらも区別できるものであ. る,実行機能の障害への介入の有効性を示唆して. ることを示唆した。. いるものであると言える(加藤・北村,2014)。. Friedmanら(2008) は,Miyakeら(2000) の. 加藤・北村(2015)は,実行機能の障害の改善. 研究で抽出された3つの要素間に中程度の相関が. により,日常の学習や行動に関わる実態の改善に. あったことから,共通する因子が存在すると考. つながると予測し,実行機能のアセスメントと介. え,Miyakeら(2000)が用いた実行機能課題の. 入が一体化した支援プログラムを開発した。事例. 一部を変更した9つの実行機能課題を用いて新た. を通して検討した結果,このプログラムは,アセ. な分析を試みた。その結果,全ての課題で共通実. スメントと実行機能の改善に向けた介入に用いる. 行機能(Common EF)と相関関係が認められ,. 課題として有効であると報告している。. 共通する因子の存在を明らかにした。また,更新. 知的障害児・者の実行機能について,宮下ら. 能力とシフティング能力は,それぞれの独自の変. (2015)は,知的障害児・者の実行機能の特徴や. 数が示されたが,抑制には独自の変数は示されな. これまで実施されてきた実行機能課題について知. かったとしている。. 見を整理した上で,Miyakeら(2012)の実行機. この結果に基づき,Miyake & Friedman(2012). 能モデル,Friedmanら(2008)の課題に依拠し,. は, 「更新固有(Updating specific)」,「シフティ. IQが軽度から中等度の知的障害児・者を対象と. ン グ 固 有(Shifting specific)」,「 共 通 実 行 機 能. した実行機能アセスメントを開発した。実行機能. (Common EF) 」の要素からなる枠組みを提案. アセスメントを行うことで,個々の児童生徒の実. し た。 こ の 枠 組 み で は,「 更 新 能 力(Updating. 行機能の特徴を把握すること,日常生活の実態と. ability) 」 , 「シフティング能力(Shifting ability)」. 関連させた支援を提案することが可能であるとし. は共通実行機能とそれぞれの固有実行機能によっ. た。また,今後の課題の一つとして,実行機能ア. て構成され, 「抑制能力(Inhibition ability)」は,. セスメントの結果を実際の学習の場での支援に活. 共通実行機能によって成り立っているとされる。. かしていくため,知的障害児・者一人一人の実行. つまり,共通実行機能は,3つの実行機能の能力. 機能の特徴と日常生活における具体的な姿とを結. に必要であり,更に,抑制の鍵として捉えられて. びつけ,多くの事例を通して検証していくことが. いる。. 必要であるとしている。. 発達障害児を対象とした実行機能の研究では,. 以上のことより,実行機能の障害への介入は有. 注意欠陥・多動性障害には実行機能の抑制機能に. 効であると推察される。しかし,実行機能の障害. 障 害 が あ り(Ozonoff & Jensen,1999;Happe. に対し直接的にトレーニングを行う事例は存在す. ら,2006;青木ら,2012),広汎性発達障害には. るが,今まで用いられてきたトレーニング課題は,. 実行機能のセットの転換(シフティング)に障害. 子どもたちの身近なものでなく,誰もが実践でき. が あ る(Ozonoffら,1999;Lissら,2001) と 報. るトレーニングとは言えない。このことから,五. 告されており,発達障害児には,実行機能の障害. 十嵐・北村(2018)は,共通実行機能(Common. がある可能性が指摘されている。しかし,その評. EF)に弱さがある自閉症スペクトラムの児童に. 価方法は確立しておらず,発達障害と実行機能の. 対し,共通実行機能の評価課題であるAntisaccade. 関連についての知見は必ずしも一致していない。. に対応させた「あとだしあっちむいてほい」,. 一方で,医療領域での認知リハビリテーション,. Black White に 対 応 さ せ た「 旗 上 げ ゲ ー ム 」,. 教育領域での認知促進プログラムといった,実行. STOP-ITに対応させた「仲間わけゲーム」の3. 機能の障害は適切な介入によって改善されるとい. つのゲーム課題を作成し,ゲーム課題を用いて実. 112.
(4) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2). 行機能の向上を目指した指導を行い,その効果を. 5.手続き. 検討した。結果,課題遂行中の行動の改善と誤答. ⑴ 実行機能の事前評価及び事後評価. 率の低下,さらに実行機能アセスメントにおける. 実行機能の事前評価及び事後評価は,宮下ら. 評価課題の得点向上という非常に高い効果が示さ. (2015)の知的障害児・者の実行機能アセスメン. れた。一方で,実行機能の事後評価アセスメント. ト課題を用いた。手続きは,宮下ら(2015)と同. の結果より,切り替えに時間がかかること,反応. 様の手順で実施した。. の時間にばらつきがあることが今後の課題として 残され,切り替えの際にかかる時間を減らしてい. ⑵ 指導課題. くことが必要であることが明らかになった。. ゲーム内のみで妨害刺激を設け,妨害刺激を抑. そこで,本研究では,五十嵐・北村(2018)の. 制しながらゲームに取り組むことを求めていた五. 研究で指導を行なった対象児に対し,新たに作成. 十嵐・北村(2018)の手続きに加え,ゲームとは. した3つのゲーム課題を用いて,共通実行機能. 関係のない妨害刺激がある環境でもゲームに集中. (Common EF)の更なる向上を目指した指導を. して取り組むことを求める課題を設定した。. 行い,切り替えに必要とする時間や反応時間のば. ゲームとは関係のない妨害刺激には,時計,音. らつきにも着目して,指導の効果を検討すること. 楽,鉛筆,振り返り用プリントを用意し学校での. を目的とした。. 教科学習に近い環境の中でも集中して課題に取り 組めるようになることを目指した。また,ゲーム. Ⅱ 方 法. 内でも対象児の得意な計算を取り入れ,学校での 教科学習に近い内容とした。. 1.対象児. 対象児は,学習することに対して苦手意識を抱. 小学校通常学級に在籍する6年生の男児1名。. いていたため,ノートやプリントを用いずに,子. 小学校2年生時に自閉症スペクトラムと診断さ. どもの身近で親しみやすく,体を動かすことので. れた。. きる課題も加えた。. 学習課題に対し,注意を向け続けることが苦手. 本研究で用いた課題の概要を表1に,ゲームの. であり,学習課題の遂行に困難さがあることか. ルール及び流れを図1〜図3に示す。. ら,小学校4年生時より,H大学において個別指 導を受けている。. 1)あげあげフラッシュ 図1に示す通り,まず,対象児に「物/青」旗. 2.心理アセスメント. と「動物/赤」旗を持たせる。次に,青か赤の. 認知機能の特徴把握,ゲーム課題の作成及び支. シールが貼られた写真カードを提示する。さらに,. 援方法の検討のために,日本版WISC-Ⅳ(以下,. 特定のブザー音(特定音)の場合は,写真カード. WISC-Ⅳと示す)及び日本版DN-CAS(以下,. の写真が物か動物かを判断させ,写真カードと同. DN-CASと示す)を実施した。. じカテゴリーの写真が貼られた旗をあげさせる。 特定のブザー音以外のブザー音の場合は,写真. 3.時 期. カードに貼られたシールの色と同じ色の旗をあげ. 2016年の10月から2017年1月までの期間に週1. させる。このように,ブザー音を聞いて適切に旗. 回30分程度の指導を行った。. をあげる課題を設定した。. 4.場 所. 2)フラッシュ計算. H大学プレイルーム。. 対象児が得意な計算と,対象児の好きな写真(以. 113.
(5) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 表1 ゲーム課題の概要 あげあげフラッシュ. 提示刺激. 妨害刺激. 反応方法. フラッシュ計算. たまいれ. ・ 「動物」 「物(食べ物を含む) 」 ・数字カードと対象児の好きな の写真カードの中に, 「赤の 動画をうつした写真カードが シール」 「青のシール」が貼 交互になっているフラッシュ られたフラッシュカード カード. ・かご ・玉 ・ボード. ・時計 ・音楽 ・鉛筆 ・振り返り用プリント ・写真やシール ・分類の合図音. ・時計 ・音楽 ・鉛筆 ・振り返り用プリント ・対象児の好きな遊具 ・ボール ・ホワイトボード及びペン. ・時計 ・音楽 ・鉛筆 ・振り返り用プリント ・写真. 特定の音がなったらカードの写 口頭で反応,数字を答える 真が「動物」か「もの」かを判 断し旗を上げて反応する 一方,特定の音以外の音がなっ た 場 合 は, 貼 ら れ た シ ー ル が 「赤」か「青」かを判断し旗を 上げて反応する. 自分の番が来たら玉をかごに入 れる. 1.練習:5試行 1.練習:4試行(四則各1回) 1.ルール説明 2.指導者によるカード提示: 3.加法:数字3つ×3試行 2.練習:1分程度 数字4つ×4試行 3.本番:30秒×5試行 30試行(全試行の50%が動 物・もの分け課題,50%が 3.減法:数字3つ×3試行 試行回数 数字4つ×4試行 色分け課題) 実施の流れ 4.乗法:数字3つ×3試行 数字4つ×4試行 5.除法:数字3つ×3試行 数字4つ×4試行 ◯特定の音がなった場合に「動 ◯白い紙が出てから,適切な答 物」か「もの」かを判断し適 えを言う 切に旗を上げる ×答えを間違える 正誤答基準 ◯特定音以外の音がなった場合 ×白い紙が出る前に答える ○:正答 に「赤」か「青」かを判断し ×:誤答 適切に旗を上げる ×上げる旗を間違える(少しでも 反応をした場合は誤答とする) ※時間がかかっても正答とする. ◯時間内に順番を守って,線か らはみ出さずに玉入れをする ×ボールを4つ以上持つ ×線からはみ出して投げる ×順番を守らずに投げる ×時間を超えて投げる. 下,写真カードと示す)を用いて,妨害刺激であ. 3)たまいれ. る写真カードに気をとられないよう抑制をしなが. 対象児は,これまでの個別指導における指導終. ら計算を行う課題を設定した。. 了後の遊び時間の中で,音のなる遊具で遊ぶこと. 図2に示す通り,対象児には,指導者によって,. が多く見られた。帰宅時間になっても遊びをやめ. 白紙・数字カード・写真カード・数字カード・写. ることができない様子や,強く玉を投げる様子が. 真カード…と提示され,最後の白い紙が提示され. みられたことから,音のなるカゴを用いたたまい. たら数字カードに書かれた数字を計算して答えを. れを,ルールに沿って行う課題を設定した。. 言うことを求めた。計算は,四則計算全て実施し. 図3に示す通り,かごと玉を用いて,ルールの. た。. あるたまいれを行った。30秒間で,順番を守って. 114.
(6) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2). たまいれをすることを求めた。ルールについては,. の手順で指導を行った。自己評価を行いやすくす. ゲームの前に指導者が読み上げ,時間は指導者が. るため,評価の観点をまとめた確認カードを用意. 計測した。. し評価時に教示した。ゲームの前にも,ゲームの 注意点として確認カードを教示した。. ⑶ 指導の手続き. ① 前回の振り返り,確認カードを教示. 加藤・北村(2015)の介入方法を参考に,以下. ② 課題の教示. 図1 あげあげフラッシュ. 図2 フラッシュ計算. 図3 たまいれ. 115.
(7) 五十嵐晴菜・北村 博幸. ③ 確認カードの教示. −84)で「低い(境界域)〜平均の下」の知能水. ④ 課題の実施. 準に分類された。合成得点は,言語理解(VCI). ⑤ 対象児による自己評価(次回の参考になる. が72(90%:68−82) ,知覚推理(PRI)が68(90%:. よう指導者が記録を行った。). 64−79),ワーキングメモリ(WMI)が79(90%: 74−88) ,処理速度(PSI)が115(90%:105−121). ⑷ 達成基準. であった。. あげあげフラッシュ及びフラッシュ計算におい て,誤答率0%が2回連続した場合,事後評価を 行う。各課題6回行った時点で達成基準を満たさ なかった場合は,事後評価に移る。 たまいれは,上記2ゲームに合わせて指導を 行った。 ⑸ 分析方法 1)実行機能の事前評価及び事後評価 宮下ら(2015)を参考に,小学生群の平均値と 図4 WISC-Ⅳの結果. 比較し2標準偏差(SD)以上乖離がある場合は, 指標が持つ意味に対して「低い」または「高い」 の判断をした。また対象児の実態を踏まえ,共通. 指標レベルでのディスクレパシー比較では,. 実行機能に焦点を当てて分析を行った。. PRI<WMI,VCI<PSI,PRI<PSI,WMI<PSI において有意差が認められた。下位検査レベルで. 2)指 導. のディスクレパシー比較では,〔数唱〕<〔語音. 本研究で行う全ての指導をVTRに記録した。. 整列〕において有意差が認められた。プロセス分. あげあげフラッシュ及びフラッシュ計算について. 析については,〔符号〕と〔記号探し〕で有意に. は,課題の誤答率,課題遂行中の不必要行動の頻. 強いと判断された。. 度を算出した。その結果を用いて誤答率と不必要. 〔数唱〕<〔語音整列〕であることから,言語. 行動との関係を明らかにするために,回帰分析に. 的な情報処理が得意と考えられ,〔符号〕と〔記. より相関係数を求め,分析を行なった。. 号探し〕で有意に強いと判断されたことから,写. たまいれについては,ルールに反する行動(①. 真や絵などの視覚的な有意味刺激の処理が苦手で. 玉を4つ以上持つ②玉を高く,または,強く放る. あると推察された。. ③制限時間終了後に玉を放る④線からはみ出して 玉を放る⑤順番を守らずに玉を放る)の特徴及び. ⑵ DN-CAS. 不必要行動について分析をした。. 11歳10ヵ月時に実施したDN-CASの結果を図 5に示す。全検査標準得点は83(90%:78−89). Ⅲ 結 果. で,「平均より低い〜平均の下」の知能水準に分 類された。PASS 標準得点は,プランニングが. 1.心理アセスメント. 104(90%:96−111),同時処理が69(90%:65. ⑴ WISC-Ⅳ. −79),注意が89(90%:82−99),継次処理が85. 11歳9ヵ月時に実施したWISC-Ⅳの結果を図. (90%:79−94)であった。PASS尺度間での比. 4に示す。全検査IQ(FSIQ)は,78(90%:74. 較では,プランニングの標準得点が有意に強く,. 116.
(8) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2). かった。 細かく見ていくと,「一つ一つ集中してやって みよう」の声かけをしたセッションや対象児の学 校が休みの日には,誤答率が低く現れる傾向に あった。 あげあげフラッシュ及びフラッシュ計算の誤答 の推移を図6に示す。 ⑵ 不必要行動及びルールに関わる行動 図5 DN-CASの結果. 各課題遂行中の不必要行動及びルールに反する 行動の頻度を図7に示す。. 同時処理の標準得点が有意に低いと判断された。. 多少の変動はあるものの,回数を重ねることに. このことから,聴覚的・言語的手がかりをもとに. より,減少する傾向にあった。. した情報の処理が比較的得意であると推察された。. フラッシュ計算及び,たまいれについては,最. 下位検査の分析において,実行機能課題として. 終セッションで不必要行動が増加した。. 用いられるストループ課題と非常に類似した,注. ルールに反する行動については,多少の変動は. 意〔表出の制御〕が平均に比べて強いと判断され. あるものの,回数を重ねることにより,減少する. た。このことについては,〔表出の制御〕が,ス. 傾向にあった。中でも,「あっ間違えた」と,順. トループ課題と類似した課題であるものの,スト. 番を守らずに玉を放る様子が多く観察された。. ループ干渉の程度を換算しておらず,注意の能力 を測定するための下位検査として設定されている. ⑶ 誤答率と不必要行動の関係性. ことから,直接的に実行機能の能力を測る課題で. あげあげフラッシュ及びフラッシュ計算の誤答. あるとは言えないと考えられた。. 率と不必要行動との関係をみるため,回帰分析に より相関係数を求め分析を行なった。結果,あげあ. 2.実行機能の事前評価. げフラッシュは「R²(決定係数)=0.7993」であり,. 指導前の12歳4ヶ月時に,事前評価として実施. 誤答率と不必要行動との間に非常に高い正の相関. した実行機能アセスメントの結果では,共通実行. が認められた。フラッシュ計算は「R²=0.5686」で,. 機能の評価課題はBlack Whiteの不一致正反応率. 誤答率と不必要行動との間に高い正の相関が認め. を除いた全ての得点が平均の範囲内であった。. られた。. 更新固有の評価課題はLetter memory,Keep trackの 得 点 率 が, 平 均 の 範 囲 内 で あ っ た。. ⑷ 対象児の自己評価. n-backでは, 平均を1SD以上上回る得点であった。. セッション2回目まで「注意点はない」と述べ. シフティング固有の評価課題は全課題の正反応. ていたことから,セッション3回目以降行動の振. 率が平均の範囲内であった。一方で,セットの転. り返りを促すための言語的な介入を加えた。結果. 換及び反応時間の変動係数が非常に大きく示され. として,対象児が自ら次回の注意点を考え,より. た。. 詳細に注意点を考えることができるようになった。. 3.指導課題の成績の推移. 4.実行機能の事後評価. ⑴ 誤答率. 指導終了後の12歳6ヵ月時に事後評価として実. 6回の指導で達成基準を満たすことができな. 行機能アセスメントを実施した。実行機能の事前. 117.
(9) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 評価と事後評価の比較を表2に示す。 共通実行機能の評価課題であるAntisaccadeで は,事前評価に引き続き定型発達児の平均の範囲 内に収まった。Black Whiteでは,中立正反応率 が90%,不一致正反応率が100%となった。 更新固有の評価課題は,n-backのLv1正反応率 図6−1 あげあげフラッシュの誤答率. を除いた全ての得点が平均の範囲内又は平均を 1SD以 上 上 回 る 結 果 と な っ た。n-backのLv1 (1back)では,ボタンキーを連続して押してし まった箇所があり,正確な判断ができず,正答率 を算出できなかった。 シフティング固有の評価課題は,全ての課題で 正反応率が平均以上の結果を示した。セットの転 換については,多くがマイナスの値を示し,反応. 図6−2 フラッシュ計算の誤答率. 時間の変動係数についても,低い値を示した。. Ⅳ 考 察 1.指導課題の成績の推移 指導の効果として,誤答率の低下と課題遂行中 の行動の改善がみられた。 誤答率及び不必要行動は指導回数を重ねること 図7−1 あげあげフラッシュの不必要行動. で低下及び減少する傾向にあったものの,出現の 頻度にばらつきがあったことから,学習環境が対 象児の課題遂行に影響を及ぼす可能性があると考 えられた。また,プレイルームにおいてゲーム課 題を用いた個別指導という特定の場面において は,誤答率が低下し,不必要行動が減少する可能 性が示唆された。 誤答率と不必要行動の分析からは,あげあげフ ラッシュで,誤答率と不必要行動の関係性が強い. 図7−2 フラッシュ計算の不必要行動. ことが示され,不必要行動を逐次観察しなくて も,不必要行動が誤答率として現れる課題である と言えた。 6回の指導で達成基準を満たすことができな かったことから,本研究で用いた3つのゲーム課 題については,訓練効果があったとは言えない。 しかし,誤答率の低下及び不必要行動の減少とと もに,事後評価において実行機能アセスメントの. 図7−3 たまいれのルールに反する行動. 118. 得点の向上がみられたことから,実行機能の向上.
(10) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2). 表2 実行機能の事前評価及び事後評価 定型発達児 (小学校1~3年生) 事前評価 commonEF. Antisaccade. 正反応率(%). Black White. コンフリクト効果(ms). 事後評価. 平均. 標準偏差. 73.33. 76.67. 78.94. 11.43. 342.95. 243.10. 237.18. 179.10. 中立正反応率(%). 95.00. 90.00. 97.25. 5.12. 不一致正反応率(%). 80.00. 100.00. 92.25. 10.89. STOP-IT. 停止反応時間(ms). 163.26. 30.59. updating. Letter memory. 得点率(%). 77.77. 88.88. 88.38. 16.15. specific. Keep track. 得点率(%). 53.57. 75.00. 67.71. 17.24. n-back. Lv1正反応率(%). (↑)100.00. 0.00. 82.96. 15.79. Lv2正反応率(%). (↑) 87.50. (↑)87.50. 62.09. 18.04. 642.70. −187.67. 139.11. 235.56. 91.18. (↑)97.06. 81.47. 10.78. 0.60. 0.61. 0.39. 0.07. 380.36. −97.90. 164.90. 291.95. 82.35. (↑)91.76. 79.89. 10.80. 0.71. 0.54. 0.41. 0.14. 541.84. −165.62. 151.12. 215.29. 86.76. (↑)94.117. 80.68. 10.13. 0.68. 0.59. 0.42. 0.11. 176.59. −446.31. −106.11. 437.57. 88.24. (↑)100.00. 89.16. 9.18. 0.68. 0.52. 0.06. 0.14. 2292.95. 239.47. 669.48. 771.15. 82.35. 91.18. 86.26. 9.52. 0.72. 0.51. 0.58. 0.14. 904.49. −140.93. 188.52. 433.61. 85.29. 95.59. 87.71. 8.76. 0.70. 0.54. 0.62. 0.12. −824.43. −452.16. −455.78. 247.01. 1833.00. −427.85. 368.37. 236.78. 92.50. (↑)100.00. 87.98. 10.62. 0.96. 0.71. 0.47. 0.11. sifting. Color shape. specific. Lv1 セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数 Lv2 セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数 Total セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数. Category. Lv1. switch. セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数 Lv2 セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数 Total セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数. Number letter. Block1, Block2-Block3(ms) Block3 セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数. 網掛け 平均との差が1SD以内に収まったもの 二重線 2SD以上の差があるもの 下線 1SD以上の差があるもの (↑) 平均を1SD以上上回ったもの. 119.
(11) 五十嵐晴菜・北村 博幸. のために有効な指導である可能性が示された。. Ⅴ 課題と展望. 2.事前評価と事後評価. 本研究では,ゲーム課題の得点向上及びゲーム. 共通実行機能の評価課題は,事前評価と比較し. 課題遂行中の行動の改善,実行機能アセスメント. てBlack Whiteの中立正反応率が減少した。評価. 課題の得点向上という結果が得られた。しかし,. で用いた実行機能アセスメントは,対象児への負. 以下3つの課題が残された。. 担を考慮し,2日に分けて実施しており,Black. 1点目は,ゲーム課題を用いた指導効果につい. Whiteは2日目の最初に行った課題である。2日. てである。本研究では,対象児1名に対し,3つ. 目は対象児の気持ちが高揚している様子であり,. のゲーム課題を用いた指導をしている。また,本. 課題に取り組む姿勢が整っていなかった。このこ. 研究は,五十嵐・北村(2018)に続く研究である. とが得点に影響した可能性が考えられた。. ため,計6つのゲーム課題のうち,どのゲーム課. 更新固有の評価課題は,事前評価と比較して得. 題に指導効果があるのか,どのゲーム課題を用い. 点 率 が 向 上 し, 平 均 を 上 回 る 結 果 と な っ た。. るのが実行機能課題の得点向上につながるのかを. n-backのLv1(1back)では,正答率を算出でき. 明確にすることができていない。今後は,対象児. なかったものの,Lv2(2back)において87.5%と,. を増やして,具体的にどのゲーム課題に指導効果. 事前評価と同様の値を示したことから,n-back. が認められるのかを明確にしていく必要がある。. で必要となる更新能力は維持できていると推察さ. 2点目は,実行機能課題の得点向上と,学習や. れた。. 日常生活における困難さの関係性についてであ. シフティング固有の評価課題は,正反応率が全. る。対象児が抱える実行機能の弱さに起因する学. ての課題で向上した。平均を1SD以上上回る課題. 習場面や日常生活での困難さに対し,ゲーム課題. もあった。セットの転換では,マイナスと示され. を用いた継続的な指導が,どう影響を与えるのか. る課題が多かった。この結果より,切り替えの場. を明確にすることができていない。今後,実行機. 面で,ボタンキーを押すスピードが非常に速いこ. 能課題の得点向上と実行機能の本来の能力との関. とを示しており,切り替えを適切に,かつ,迅速. 係性について明らかにし,実行機能に障害のある. に行うことができるようになったと考えられた。. 子どもたちへの学習や日常生活への支援方法の提. 反応時間の変動係数については,多くの課題で. 案をしていく必要がある。. 「低い」と判断されたことから,対象児は,課題. 3点目は,実行機能アセスメントについてであ. が提示されるまでの時間が短いと,ボタンキーを. る。本研究で実行機能の評価として用いた,宮下. 押す準備が整わず,ボタンキーを押すのに時間が. ら(2015)の実行機能アセスメントには,内容と. かかってしまった可能性が考えられた。. 知的障害児・者の特性とが一部適合しておらず,. これらのことから,ゲーム課題を用いて,共通. 不十分な点があったと指摘されている。今後は,. 実行機能の向上を目指した指導により,実行機能. 実行機能アセスメント(宮下ら,2015)の内容の. アセスメントにおける共通実行機能課題の得点向. 修正を行い,実行機能の特徴を把握するための評. 上,さらに更新固有課題とシフティング固有課題. 価課題として精度を高めていく必要がある。. の得点向上が認められた。このことから,指導は. 同時に,修正した評価課題と,先行研究で用い. 共通実行機能の向上に影響を与え,さらに共通実. られてきた実行機能の能力を把握する課題とを比. 行機能が関与する更新固有とシフティング固有の. 較し,相関関係を見出すことで,実行機能を測定. 機能を向上させるために有効であることが示唆さ. する評価課題としての精度を高めることにつなが. れた。. ると考えられる。. 120.
(12) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導(その2). 引用文献 青木真純・岡崎慎治・前川久男(2012):注意欠陥多動性 障害児における干渉課題遂行中の認知的制御に関する 検討.LD研究21⑷,460-469. Friedman, N.P., Miyake, A., Young, S.E., Defries, J.C., Coley, R.O, Hewitt, J.K.(2008): Individual differences in executive function are almost entirely genetic in orgin. Journal of Experimental Psychology 137⑵, 201225. Happe, F., Booth, R., Charlton, R. & Hughes, C(2006): Executive function deicits in autism spectrum disorders and attention-deficit/hyperactivity disoeder: Examining profiles across domains ad ages. Brain and Cognition 61, 25-39. 五十嵐晴菜・北村博幸(2018):共通実行機能に弱さが認 められる児童に対する指導−共通実行機能に基づく ゲーム課題を用いて−.北海道教育大学紀要.教育科 学編,68⑵.147-159. Jurado, M.B., & Rosselli, M.(2007): The elusive nature. 宮下知子(2015) :知的障害児・者の実行機能アセスメン トの研究.平成27年度北海道教育大学大学院教育学研 究科修士論文. 宮下知子・北村博幸・加藤順也(2015) :知的障害児・者 の実行機能アセスメントの開発.北海道教育大学紀要. 教育科学編,66⑴:65-77. 前川久男・中山健・岡崎慎治(2007) :日本版DN-CAS認 知評価システム 理論と解釈のためのハンドブック. 日本文化科学社.(Nagieri, J, A., & Das, J.P.(1997): Cognitive Assessment System. Riverside Publishing. 日本版KABC-Ⅱ制作委員会(2013) :日本版KABC-Ⅱマ ニュアル,丸善出版,86-88. 日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(2011) :日本版WISC-Ⅳ知 能検査理論・解釈マニュアル,株式会社日本文化科学 社,94. Ozonoff, S., Jensen, J.(1999): Broef report: Specific executivef unction profiles in three neurodevelopmental disorders. Jurnal of Autism and Developmental Disorders 29, 171-177.. of executive functions:a review of our current. (五十嵐晴菜 函館校大学院生). understanding. Neuropsychol Review 17, 213-233.. (北村 博幸 函館校教授) . 加藤元一郎(2009)脳損傷と認知リハビリテーション. 脳神経外科ジャーナル18⑷,277-285. 加藤順也(2014) :発達障害児の実行機能の評価と介入の ための支援プログラムの検討.平成26年度北海道教育 大学大学院教育学研究科修士論文. 加藤順也・北村博幸(2013):実行機能の評価と介入のた めの支援プログラムの開発-小学校に在籍する学習面 及び行動面に著しい困難を示す児童を対象として-. 北海道教育大学紀要.教育科学編,64⑴.365-380. 加藤順也・北村博幸(2015):発達障害児の実行機能の障 害への介入-実行機能の評価と介入が一体化した支援 プログラムを用いて-.北海道教育大学紀要.教育科 学編,66⑴:51-63. Liss, M., Fein, D., Allen, D., Dunn, M., Feinstein, C., Morris, R., Waterhouse, L., & Rapin, I.(2001): Executive functioning in high-functioning children with autism. Jurnal of Child Psychology and Psychiatry 42, 261270. Miyake, A., Friedman, N.P.(2012): The Organization of Individual Differences in Executive Functions: Four General Conulusions. Current in Psychological Science 21⑴, 8-4. Miyake, A., Friedman, N.P., Emerson,M.J., Alexander, H.W., & Howerter, A.(2000): The Unity and Diversity of Executive Functions and Their Contributions to Complex “Frontal Lobe” Tasks: A Ltent Variable Analysis. Journal of Cognitive Psycholgy 41, 49-100.. 121.
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