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へき地・小規模校における特別支援教育体制の構築に関する研究 : 平成20年度~平成22年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書

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(1)Title. へき地・小規模校における特別支援教育体制の構築に関する研究 : 平成 20年度∼平成22年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書. Author(s). 二宮, 信一. Citation Issue Date. 2011-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2400. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) へき地・小規模校における. 特別支援教育体制の構築に関する研究. 課題番号20530871 平成20年度∼平成22年度科学研究費補助金 基盤研究(C). 研究成果報告書. 平成23年3月. 研究代表者 二. 宮 信 一. (北海道教育大学教育学部釧路校 准教授).

(3) 〈はしがき〉. 2007年度より特別支援教育が全国の学校教育現場で全面的に展開されること となった。. 北海道では、約2100校の小中学校の中で、その55%がへき地校であり、そ の多くは小規模校である。そのような地域には、専門的な医療機関、教育相談 機関などの社会資源はなく、また、学校規模からもマンパワーが少ない状況に 置かれている。. 本研究は、そのようなへき地・小規模校における発達障害のある子どもの教 材及び指導法の開発、校内支援体制の構築、地域ネットワーク形成のための調 査・研究を行い、社会資源のほとんどない地域に所在するへき地・小規模校に おける特別支援教育体制の構築のモデルを示し、実践的に検証することであっ た。. 本報告書は、この3年間の調査結果であり、また、その調査の中で見出した り、築き上げたりしてきた素晴らしい教育実践の報告でもある。そこでは、学 校教員、保護者、地域の住民が自分達で築きあげてきた特別支援教育体制の数々 のモデルがあり、結論から言えば、それぞれの地域でそれぞれの地域に見合っ た特別支援教育の体制のデザインをしていく担い手の力量とネットワークの作 られ方が重要であり、それによって体制が構築されているということであった。 本研究の成果が、社会資振の少ないへき地・小規模校の特別支援教育体制構築 の一助になれば幸いである。 なお、本研究は、関係する大学研究者、学校現場の教員の方々をはじめ、関 係自治体の方々、保護者等多くの方々の協力を得て行われました。ここにあら ためて深く感謝申し上げます。 研究代表 二宮信一.

(4) 研究組織 研究代表者 二宮信一. (北海道教育大学釧路校 准教授). 研究分担者 辻 宏子. (元北海道教育大学釧路校 准教授) (現明治学院大学 准教授). 研究協力者 服部健治. (標津町立標津小学校 教諭). 佐々木恵. (下関市立誠意小学校 教諭). 大友浩美. (津別町立津別小学校 教諭). 研究経費 直接経費. 間接経費. 合計. 平成20年度. 700,000円. 210,000円. 910,000円. 平成21年度. 300,000円. 90,000円. 390,000円. 平成22年度. 500,000円. 150,000円. 650,000円. 1,500,000円. 450,000円. 1,950,000円. 総計. 研究発表(学会発表)等 1)佐々木恵、二宮信一 「地域での特別支援教育を支えるものと地域ネットワーク構築の. 課題」、日本LD学会第17回大会、2008年11月23日、発表論文集506∼507p 2)服部健治、佐々木恵、辻宏子、二宮信一 「算数に困難を示す子どもの教材及び指導法」. 日本LD学会第17回大会、2008年11月23日、発表論文集474∼475p 3)二宮信一 「へき地地域における特別支援教育の課題」. 日本教師数青学会第19回研究大会、2009年10月4日、集録なし 4)二宮信一、肥後祥治、宮崎ゆみ子、服部健治、柘植雅義 「社会資源の少ない地域にお ける特別支援教育推進の課題と展望」、日本LD学会第17回大会、自主シンポジウム、 2008年11月24日、発表論文集262∼263p 5)二宮信一、服部健治、佐々木恵、松崎俊明、肥後祥治 「社会資源の少ない地域におけ. る特別支援教育推進の課題と展望(2)」、日本LD学会第18回大会、自主シンポジウ ム、2009年10月11日、発表論文集142∼143p 6)笹山龍太郎、伊東健史、蒲田紀孝、二宮信一、肥後祥治 「離島・へき地における特別 支援教育の現状と課題」、日本特殊教育学会第48回大会、準備委員会企画シンポジウ. ム、2010年9月19日、大会プログラム46p 7)二宮信一、佐々木恵、大友浩美、服部健治、堀口貞子 「社会資源の少ない地域におけ る特別支援教育推進の課題と展望(3)」、日本LD学会第19回大会、自主シンポジウ. ム、2010年10月10日、発表論文集212∼213p.

(5) 平成20∼22年度 科学研究費補助金 基盤研究(C) 課題番号 20530871 「へき地・小規模校における特別支援教育体制の構築に関する研究」 研究成果報告雷. 目次. 1.研究の概要・… … … … …・・・・… … …・. 1. 2.根室管内における特別支援教育の取り組み・・・・・・… … …・. 3. 1)根室管内における特別支援教育の課題と展望・・・ 2)標津町における連携の現状と課題・・・・・・・・ 3)標津町における主体的な参加を目指した関係づくり. 3.山口県下関市豊浦町・豊北町の取り組み… … … … ‥・・・. 20. 4.長崎県における特別支援教育体制の調査… … … … …・・. 25. 5.教材開発及び校内研修・・… … … … … … … ‥. 26. 6.日本LD学会自主シンポジウム報告…・・… …・・… ‥・. 28. 1)社会資源の少ない地域における特別支援教育推進の課題と展望… …. 28. 2)社会資源の少ない地域における特別支援教育推進の課題と展望(2)・・・. 55. 3)社会資源の少ない地域における特別支援教育推進の課題と展望(3)・・・. 88. 7.教員研修及び地域への研修… … …・・… … … …. 124.

(6) 1.研究の概要. 2007年度より特別支援教育が学校教育現場で全面的に展開されることとなったが、北海道で は、約2100校の小中学校の中で、その55%がへき地佼であり、その多くは小規模校である。 そのような地域には、専門的な医療機関、教育相談機関などの社会資源はなく、また、学校規 模からもマンパワーが少ない状況に置かれている。このようなへき地・小規模校における特別 支援教育体制の構築には、特別支援教育に関わる専門機関がない中でも可能な体制のあり方を 検討しなければならない。 そのような中で、へき地・小規模校における特別支援教育の課題を、教科の指導、教員の研 修、地域との連携に着眼し、研究者らが関わりながら、地域で可能な活動について検討し、地 域の方々による実践を試みた。対象は、主として根室管内標津町、羅臼町及び網走管内津別町、 山口県下関市豊浦地区である。それぞれの地域における特別支援教育推進の課題について聞き. 取りを行い、若干の濃淡はあるものの社会的資源の少ないこと、早期療育機関と小学校との繋 がりができつつあること、中学校・高校との繋がりが未整備であることなどの共通の課題が明 らかになった。 保護者間の連携(又は親の会)は、根室市、標津町、中標津町、標茶町、下関市豊浦地区な どでは組織化され、教員との関係もできつつあるが、羅臼町ではその動きがなかった。特別支 援教育コーディネーターの交流は、羅臼町では動きが見られたが、他の地域では、その組織化 の準備段階であった。教科教育については、算数科に注目し、標津小学校における指導法につ いて検討した。. また、長崎県における離島地域の特別支援教育の推進状況について視察・調査を行った。こ こで明らかになったのは、教員人事において計画的な配置を行っていること(30代の中堅教 員を離島に配置している。道東地域で特別支援教育を担っている多くは、若手の教員又は臨時 採用教員である)、特別支援学校の分教室を離島地域で活用しリソースとしていることであっ た。. また、熊本大学教育学部にて研究が進められている「地域に根ざした療育」(以下、CBR =Community−BasedRehabilitation)について研修を行い、道東地域における有力な戦略である ことを確認した。これに基づき、へき地・小規模校における特別支援教育の課題を、教科(算. 数・理科)の指導、教員の研修、教育と福祉及び学校と地域の連携に着目し、CBRの観点で 調査を行った。特別支援教育推進の課題について標津町では聞き取り調査及び教員対象のアク ションリサーチ、教科(理科)教育の大学教員によるモデル授業を行い、羅臼町では幼稚園、 小中高校教員へのアンケート調査及び教育と福祉の連携による特別支援教育プロジェクト会議 への参画、発達支援センターの視察を行った。標茶町では親の会への聞き取り調査、津別町で は、学校と地域の連携の実践について担当教員との情報交換を行った。また、下関市豊浦地区. における保護者の学習会に注目し、調査を行った。 1.

(7) へき地においては、特別支援教育で想定されている専門家や専門機関はなく、地域の関係者 による連携システムによって支援の階層性を構想し、専門家依存の体質からの脱却が求められ ている。また、へき地では、比較的ソーシャル・キャピタルが強い地域が多く、転勤族である 教員が、地域に接近していく方略が必要であることが明らかになってきた。. また、日本LD学会において「社会資源の少ない地域における特別支援教育推進の課題と展 望」と題した自主シンポジウムを3年にわたり行い、道東地域の課題と展望、熊本市、熊本県 八代前の状況について報告・協議、山口県下関市の「とようら・子どもの学びと育ちを考える. 会」の実践報告、釧路工業高等専門学校の取り組み、津別町小学校の取り組みについて報告し、 協議を行った。. 2.

(8) 2.根室管内における特別支援教育の取り組み 1)根室管内における特別支援教育の課題と展望 】‥ はじめに. 根室管内は北海道東部に位置し、根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町の一市四町か らなる。2007年の調査では管内全体の面積は約3,450kmで、これは鳥取県の面積(約3,500k皿) とほぼ同じである。人口は鳥取県の約600,000万人に対して85,000人であり、非常に広域な地 域である一方、人口は大変少ない地域であることが分かる。 根室管内における特別支援教育に関わる主な相談機関としては、教育分野についてはセンタ. ー校としての中標津高等養護学校、根室教育局の特別支援教育専門家チームなどがあるが、広 域な根室管内において十分なものとは言い難い。また、医療分野では発達障害を診断できる機 関は存在しない。このことから、根室管内は特別支援教育に関わる社会資源が極めて少ない地 域であることが理解できよう。. 2.根室管内の学校と地域. 2007年度の根室管内の小・中学校数は、小学校43校(小・中併置校7佼を含む)、中学校 22校、計67校であった。特別支援教育を進める上で、学校規模は校内支援委員会やマンパワ ーの面で重要な差違になってくると考えられることから、これらの学校を複式学級が存在する. 複式校、l学年1学級の単級佼、1学年2学級以上の中規模校の3種類に分けて分析を試みた。 小学校. 中学校. 複式校■単級校せ中規模. 複式校 濃単級校 句中規模. グラフから、小学校では約6割が複式校、中学校では約6割が単級校という構造であり、い わゆるへき地小規模校が多数を占める地域であることが分かる。また、2007年度における1学 級児童生徒数は、全国平均で小学校25.7人、中学校30.2人となっている。根室管内では小学校 19.5人、中学校21.4人であり、全国平均と比較すると、根室管内の小・中学校の1学級平均児 童生徒数は少ないことが分かる。しかし、学校規模ごとの平均児童生徒数を見てみると、以下 のようになる。 3.

(9) この結果から、根室管内は小・中学校ともに複式校及び単級佼の1′、芦級平均児竜生徒数は全. 国平均より少ないが、中規模校においては小学校で全国平均より多く、中学校ではほぼ同じで あることがわかる。. このような複式校、単級校、 弓1規模校が根室管内において. どのような位置的関係にある かを示したものが図1である。 この固から、根室管内では複式 並びに単級の小学校(○)と単. 級の中学校(ロ)が】校ずつ配 [章華コ▲. 置されている場合が多いこと、 さらに少数ではあるが小中併 置校も存在していることが分. かる。また、中規模の小・中学 校は集中しており、これらの地. ●. ●●. ■★ノ■ 、▲●■■. ..↓′ 印..−」. 一了.叫●■. ㌔ ●. l際. ●■. 域が各市町の中心地である。. ●. ●. ■●. 、‖、鱒二「 鴨●. 一方、根室管内の就業熱人口. ¶‘■■ 亡ア. 割合を見てみると第1次産業. ニ、一一’′ ̄− ̄ ̄ ̄. 26.9%、第2次産業18.1%、第. .__._ノ=. 3次産業55.0%となっている。 (2007年現在)これを北海道全体. 無.  ̄. 畢 iサ. 図1根室管内規模別学校分布(2007). の就業別人口割合、第1次産業 7.9%、第2次産業19.4%、第3次産業72.7%と比較すると、根室管内では第1次産業に従事す る人口が非常に高いことが分かる。また、根室管内における第1次産業の内訳は農業66.5%、 林業l.3%、漁業32.2%である。農業はほぼ100%近くが酪農であることから、根室管内では酪 農従事者、次いで漁業従事者が多いことが分かる。そしてこの就業別人口割合を図1の規模別. 分布図と合わせて考えると、根室管内全体の内陸地域は酪農業が、沿岸地域は漁業が中心のコ ミュニティと考えられる。そしてこれらの同業種によるコミュニティには複式校及び単級校が 多い。そして、各市町の中心地域は第3次産業従事者が多いと考えられ、ここに中規模校が集 中している。 4.

(10) 保護者の職業、あるいは一つのコミュニティがどのような職業の保護者によって構成されて いるかは、子どもの生活に大きな影響を与えると考えられる。例えば酪農を営む家庭では、子 ども重要な労働力となる場合がある。酪農業の朝は早く、夜も遅くまで作業が続く。また、漁. 業においても同様で、昆布漁を主とする家庭などでは、夏場は家族総出での仕事となることが ある。このように、親の職業は必然的に子どもの生活リズムに影響し、都市部と違う環境が生. まれる。さらに、管内では同じ職業の家庭がそれぞれのコミュニティを作っていることが多い。 そこでは、地域の結びつきが非常に強い反面、匿身性が低くなる傾向がある。例えば個別的な. 対応の必要があり、校内でその体制を進めたとしても、“障害”ということにネガティブな地 域であればどこの誰に対しての対応なのかがすぐに分かることとなり、うまく進まないケース もあり得るということである。このことは、特別支援教育を進める上で、その地域を巻き込む. 戦略が必要ということを示すものであろう。このように根室管内は、都市部とは違う管内固有 の環境が存在する。特別支援教育を進める際には、このような地域構造を踏まえることが重要 であると考える。 次に特別支援教育においてその専門性の活用が求められている特別支援学級の状況を分析し た。まず、根室管内は広域であるが故に必然的に拠点校方式がとれず、小規模校であっても特. 別支援学級が開設され、2009年現在で設置率が約70%と、全国平均を10%上回るものであっ た。これは、マンパワーという点では利点であると考えられる。しかし、特別支援学級担当者 の経験年数並びに教職経験年数を調査した結果は表1の通りであった。. 表1 根室管内特別支援学級担任経験年数推移 (2003∼2007)(根室管内障害児教育研究会資料より). 年度 H15年度 H16年度 H17年度 H18年度 H二19年度 経験年数 0′、4. 80%. 81%. 79%. 76%. 73%. 5′)9. 12%. 9%. 12%. 15%. 17%. 10′、14. 3%. 5%. 5%. 3%. 3%. 15′、Ⅰ9. 1%. 】%. 0%. 2%. 3%. 20′)24. 2%. 2%. 3%. 2%. 3%. 25∼29. 1%. l%. 1%. l%. 0%. 30年以. 0%. 0%. 0%. 0%. 0%. この表から平成15年から19年の過去5年間において、根室管内の特別支援学級では経験年 数が4年以下の担当者が70∼80%代で推移している。このことから、特別支援学級担当者の専 門性の向上・蓄積という点には課題があることが分かった。. 5.

(11) 3.コーディネーターへのアンケート調査から このような地域構造と特別支援学級担当者の現状を踏まえた上で、根室管内における特別支 援教育推進の課題と可能性を探るべく、小・中学校の特別支援教育コーディネータ∼にアンケ ート調査を行い、それを複式校、単級校、中規模校という学校規模によって分析した結果が以 下の通りであった。. ○特別支援教育についての理解. ほ5複式校. 単級校. 中規模校. ■ ある ■ 少しある 睨 あまりない ■ ない. ○発達障害についての理解. 複式校. 中規模校. ■ ある ■ 少しある 覇 あまりない 書 ない. 6.

(12) ○全体及びチームによる支援体制の構築 複式校. ゴ:ヨ耳In. 44賄. 欝 あまりない 轟 ない. ■ ある ■ 少しある. ○担当者及び学校全体の共通理解・連携. 複式校. ■ ある. 中規模校. 隋 あまりない ■ ない. 1 少しある. ○子どもに関する日常的な情報交換. 複式校. 単級校 6.丁%. 欒 あまりない ■ ない. 書 ある ■ 少しある. 7. 中規模校.

(13) ○特別支援教育に伴う子どもの理解についての意識変化. 複式校. 中規模校. 1:∋.3 単級校. 丁.TO小. ■ ある + 少しある 掃 あまりない ■ ない. まず「特別支援教育についての理解」は複式校で『ある』の割合が高く、中規模校で低い。 また、発達障害についての理解も同様に、複式校で『ある』の割合が高く、中規模校で低い。 さらに最も高い複式校においても『ある』が約19%と、そもそも発達障害に関する基本的な理 解さえ進んでいないことが分かった。次に「チームによる支援体制の構築」についても学校規 模によって差異が見られる。ここでも複式校で『ある』の割合が高く、中規模校では低い。つ. まり、特別支援教育における基本的な理解やシステム構築は、職員数の少ない学校の方が進ん でいる傾向が見て取れる。一方で、「教員間の共通理解・連携」、「子どもに関わる日常的な. 情報交換」では複式校で『ある』の割合が高く、単級校が最も低い結果となった。特別支援教 育という枠組みでの連携も、前提となる日常的な教員間の情報交流が土台となると考えられる。. また、その校内における連携や情報交換は、単級校で『ある』の割合が低いという結果から、 おそらく単級校においては1学年1学級という構造上の問題から、情報公開という点での課 があると推測される。最後に、「子ども理解に伴う意識変化」は『ある』の割合が高い複式校 と中規模校においても約20%であり、ここでも単級校の『ある』の割合は最も低い約13%であ った。. このアンケート調査結果からは、まず学校規模による差異があり、特別支援教育推進のため にはその構造上の課題を踏まえる必要があることが分かった。そして、根室管内における特別 支援教育推進の課題は体制構築ではなく、何よりもまず、特別支援教育に対する教員の意識変 化と、学校が情報を共有し、連携できる組織になることであることが明らかになった。同時に、 前述したへき地地域としての根室管内の環境がすべての子どもの学びと育ちに影響を与えてお. り、現状においてそれはリスクとなっていること、それ故に根室管内における特別支援教育は 「すべての子どもの学びと育ち」という枠組みが」必要であることが浮かび上がった。. 8. 題.

(14) 4.根菜管内における特別支援教育の展望 根室管内における特別支援教育の推進には、教員の意識変化と協働できる学校への改善が必. 要である。これらを実現するためには、何より教員が地域の現状に対する危機感と共感性を持 つことが必要と考える。この危機感と共感性によって教員の内発力が生まれ、学校が外からの 改革ではなく、学校が内発的に発展していく道筋が見いだせるのではないだろうか。内発的発 展は参加を重視する。参加には「手段としての参加」と「目的としての参加」があると考えら. れる。「手段としての参加」は結果を革祝し、予め設定された目標を達成するために人的・社 会的・経済的資源を導入する。この参加の方法をとるかぎり、根室管内における特別支援教育 の推進はきわめて困難であるといわざるを得ない。しかし、過程を重視し、そこに参画する構 成員がプロジェクトや組織の主導権をとり、主体となって参加する「目的としての参加」とい. う視点、すなわち教員が地域の子どもの置かれている状況への危機感と、その地域に対する共 感性を持って主体的、内発的に関わっていくことによって、へき地地域である根室管内の特別 支援教育推進の可敵性を見いだせると考える。子どもや地域の姿が直接的に分かり、地域を巻 き込んだ学校経営が前提である小規模佼の多い根室管内は、むしろ大きな可能性を持つと考え ることができるのではないだろうか。. 9.

(15) 根室管内幼稚園・小・中一高等学校コーディネーターに対するアンケート調査結果(%) 4. 項. 3. 2. 目 沙U. 伊)劫. 紛う. 伊達り). 44.2. 40.9. 14.7. 0.0. 2 コーディネーター自身の特別支援教育についての理解. 46.6. 38.3. 11.6. 3.3. 3 教職員全体の発達障害についての理解. 16.3. 55.7. 26.2. 1.6. 4 コーディネーター自身の発達障害についての理解. 35.5. 50.8. 11.8. 1.6. 5 相談できる専門機関はありますか。. 38.3. 30.0. 20,0. 11.6. 6 外部専門機関との連携はありますか。. 28.3. 28.3. 28.3. 15.0. l. ロ 教職員全体の特別支援教育についての理解. 7 コーディネーターとして校(園)内に相談できる人はいますか。. 44.0. 8 コーディネーターとして校(園)外に相談できる人はいますか。. 35.5. 9 他校(園)のコーディネーターとの連携・交流はありますか。. 19.6. 35.5 27.1 32.7. 13.5 18.6 24,5. 6.7 18.6 22.9. 3.3. 1.6. 10.1. 0.0. 10 1特別支援教育に関する管理職の理解・協力について. 54.2 40.6. 四 特別支援教育に関する同僚の理解・協力について. 54.2. 四 保護者に対して特別支援教育についての周知を行いましたか。. 22.9. 19.6. 0.0. 4.9. 14.7. 80.3. 38.8. 20.3. 9.2. 35.5. 24.5. 32.7. PTA研修など保護者を対象とした特別支援教育に関する研修(予定 13 も含めて)がありますか。. 特別支援教育や園い学校に対する当事者の保護者の理解・協力は 14. 31,4 ありますか。. 特別支援教育や圃・学校に対する周囲の保護者の理解・協力はあ 15. 15.0. 30.1. 43.3. 11.3. りますか。 16 特別支援教育に対する地域の理解・協力はありますか。. 15.0. 33.9. 30.1. 20.7. 幼稚園・保育所と小学校の連携. 28.2. 43.5. 20.5. 7.6. 小学校と中学校の連携. 32.6. 36.9. 28.2. 2.1. 17 学校間連携. 0.0. 中学校と高等学校の連携. 25.4. 18 特別支援教育に関する校内研修は行われていますか。. 10. 40.9 40.6. 45.4 23.7. 13.6 10.1.

(16) 19 支援委員会などの頻度、時間は確保されていますか。. 20.3. 20.3. 38.9. 20 コーディネーターと学級担任との連携はありますか。. 52.8. 30.1. 13.2. 3.7. 2l 支援を要する子どもの担任への協力・サポートはありますか。. 42.5 46.2. 5.5. 5.5. 11.3. 7.5. 5.4. 2.7. 20.3. 支援を必要としている子どもへ具体的な対応がスタートしていま 22. 52.8. 28.3. すか。. 子どもへの支援に関して通常学級担任と特別支援学級担任との連 23. 54.0 37.8 携はありますか。. 24 個別の支援計画を活用していますか。. 20.0. 32.5. 22.5. 25.0. 発達障害のある子どもを理解する上で教職員の意識変化がありま 25. 19.5. 65.8. 12.1. 2.4. 19.0. 64.2. 11.9. 4.7. 30.9. 45.2. 19.0. 4.7. 29.2. 56.0. 12,1. 2.4. 2.3. 2.3. したか。. 特別支援教育に伴って、一人ひとりの子どもの理解に関する教職 26. 員の意識変化がありましたか。 学校(園)全体やチームによる子どもへの支援体制が構築されて 27 いますか。 支援をする場合、関係する担当者や学校(圃)全体の共通理解・ 28. 連携はうまくなされていますか。 職場において、子どもに関する情報交換は日常的に行われている 29. 59.5 35.7 と思いますか。. 特別支援教育に伴って当事者の子どもへの指導に変化がありまし 30. 30.0. 42.5. 20.0. 7,5. 20.4. 45.4. 29.5. 4.5. たか。 特別支援教育に伴って学校(園)全体の子どもへの指導に変化が 31 ありましたか。 学校(園)内外で特別支援教育体制による何らかの変化を感じま 32. 7.1 すか。. 33 コーディネーター研修は役に立ちましたか。. 34.2. 44.7. 18.4. 2.6.

(17) 2)標津町における連携の現状と課題∼CBR、Network、Knotworking. 1.はじめに. 根室管内の標津町は、面積624.49kdのうち森林面積が69%を占め、人口約5,800人、主に漁. 業と酪農を基幹産業とする町である。療育・教育機関としては児童デイサービスセンター、公 立幼稚園2園、保育園4圃(へき地保育園を含む)、小学校2校、中学校2校、小中併置校2 校、高等学校1校が設置されている。 根室管内の地域構造分析を行った結果、管内の地域特性として「社会資源の少なさ」「距離 的不便さ(広域性)」「経済的問題」ということが浮かび上がった。これまでの特別支援教育 においては、専門家や専門機関との連携を中心的な課題とする傾向があった。すなわち、連携. の前提は専門家や専門機関であった。従って、根室管内並びに標津町の地域特性は特別支援教 育推進の困難さと結びつけて考えられてきた。しかしながら、そこには「専門家への依存」と いう事柄が存在していたのではないだろうか。このことが前提である限り、標津町のような社 会資源の少ない地域において特別支援教育を推進することは非常に困難なものとして受け止め. られる。社会資源の少ない地域で特別支援教育を推進していくためには、「専門家への依存」 という構造の中で構築された従来型のシステムではなく、それぞれの現場において「自分たち. にできること」を整理し、自らの力量を高めていくという発想が必要だと考える。さらにまた、 数は少ないながらも存在する社会資源の活用、すなわち地域のネットワーク形成にも課題があ ったのではないかと考えられる。. 2.標津町での取り組み. 標津町では、専門家に過度に依存しない新たなシステム、そして同時に地域の資源を活用す るためのネットワーク形成の構築をCBRの哲学や方法論を参考にしながら取り組んでいる。具. 体的には標津小学校において、校内の授業改善、児童デイサービスセンター・幼稚園・保育園 の就学前機関との連携、中学校区クラスターでの連携、保護者ネットワークなど、支援の階層 を作りながら、それぞれの段階において「やるべきこと」と「やれること」を整理しながら取 り組むとともに、お互いの顔が見える関係作りを目指している。 1)標津小学校校内研修. 標津小学校は全校児童275名(2009年度)、学級数13、1年生並びに5年生が1クラス、2 年・3年・4年・6年生がそれぞれ2クラス、特別支援学級3クラスの規模である。今年度は 「すべての子どもの学びと育ちの保障」のため、研修部を中心に授業改善に取り組んでいる。 具体的にはまず、全クラス年2回の授業公開を行った。これは、子どもの学びや育ち、その経. 過を全職員で学び合うためである。授業公開の負担を減らすため、指導案をA4版1枚+座席 表程度と簡略化し、その中に指導に際して配慮の必要な児童への支援方法を記入する形式とし. た。授業後の研究協議では協議の視点を「子どもの学び」に置き、目の前の子どもの学びを前 12.

(18) 提とした授業改善のための意見交換を試みている。また、このような研修においては一人一人 の児童理解が重要であるとの認識から、外部講師を招いた「子ども理解」の研修を行った。一一. 方で、標津町の教員の多くが比較的経験年数が浅く、モデルになる授業という点では課題が残 る。今後は、経験の少なさを補える校内研修の仕組みつくりが課題となるであろう。 2)就学前機関との連携. 小学校のコーディネーターが幼稚園における特別支援教育についての園内研修に参加し、「子 ども」理解を共有し、その上で継続的に園訪問をしながら日常の保育の中でどのように対応し て行くべきかを相談できる関係作りを行っている。このことは同時に子どもの受け入れ先/ト学 校として貴重な情報交換にもなっている。また、保育園に対しても、従来から行われていた児 童デイサービス職員による巡回に小学校コーディネーターが同行する事によって、日常的な連 携と具体的な支援方法の共有を進めているところである。さらに標津町の児童デイサービスセ. ンターは、特に就学前段階における重要な機関の一つであり、従来から保健福祉との緊密な連 携の上で機能していた。小学校としても児童デイサービスセンター、さらには町福祉関係者と の連携を積極的に行っている。 3)生徒指導総合連携推進事業. 生徒指導総合連携推進事業は、「児童生徒の問題行動等の未然防止、早期発見早期解決及び 健全育成に向け、標津中学校区をモデル地区として学校・家庭・地域住民及び関係機関等の児 童生徒指導におけるネットワーク化を図る」ことを目的とした事業である。この組織内に設置 されている実務者会議には、教育委員会、標津幼稚園園長、標津小学校教頭・コーディネータ. ー・指導部部長、標津中学校校長・コーディネーター、標津高校指導部長兼コーディネーター が参画している。当初は生徒指導上の事例報告が多かったが、回を委ねる中で話題が学力問題 を含めた標津町の子どもの学びや育ちに関わるものへと広がり、中学校区クラスターとしての 貴重な情報交流の場となっている。. 課題は指定事業後のビジョンをどのようにデザインするの. かということであろう。すなわり、参画するメンバーが有用性を感じる会議体となることが重 要ではないだろうか。また、中学校区クラスターと考えたとき、保育園の参画が必要となって くると考えられる。 4)適正就学推進委員会第2専門委員会 適正就学推進委員会第2専門委員会は、「特別な教育的処遇措置を必要とするケースは、随 時であるとともに緊急性を要する場合もあることから、特別な体制で行うことが必要である」. ことから、2do9年度に標津町の就学指導に関わる組織(適正就学推進委員会)内に設置された。 この組織は流動的なメンバー構成で、教育関係者のみならず町内外福祉関係者なども参加して いる。また、随時開催可能であり、町内の課題解決型の組織としての性格を有していると考え られる。 5)保護者ネットワークの取り組み 標津小学校特別支援学級在籍児童の保護者が中心となり、基本的に月1回、主に日中に標津 13.

(19) 小学校において保護者同士の集まりを行っている。この集まりには、標津小学校保護者にとど まらず、町内や近隣の町からの参加もあるが、保護者ネットワークによる「子育て支援」の一 つと位置づけられており、様々な話題や情報を交流する保護者同士の学びの場となっている。 また、随時教員や関係者も参加し、保護者と交流することで関係者にとっても重要な学びの場 となっている。. 3.Knotworking(結び目づくり). このような階層は自然に生まれるものではもちろんないであろう。また一方で、システムは 情築されただけではうまく機能しないことが多い。必要なことは、地域に支援の階層を生み出 すためのつながりを生み出しつつ、それを機能・継続させるためにシステム化させていくこと であろう。そのための方法として、Knotworking(Y.Engestr6m2008)という概念に着目したい。. Knotworkingは「結び目づくり」と訳され、Engestr6mはその特徴を次のように整理している。 ・人と人とのつながりを創発していく水平的な活動形態。 ・互いに隔たった存在に瞬時に「結び目」を結い、社会的亀裂を横断する。. ・要求される課題ごと、その場その場で、コラボレーションの関係を替えていく。 ・新たなポジションや組織の中心を創設する必要がない。 ・CollaborativelntentionalityCapital(協働志向資本)の創造。 標津町では時に偶発的に起こる様々なケースに対して、Knotworking的な集まりを戦略的に行 うことによって課題解決を図ると同時に、様々な立場の関係者の出会いを生みだす試みを行っ ている。 その出会いをネットワーク形成の土台とすることで、偶発的な集まりが必然の事柄に. なっていくのではないかと考えている。ただ、Engestr6mはKnotworkingをそれぞれの役割が明 確であり、かつ専門的知識を有していると考えられる医療従事者を例に説明している。しかし、 標津町では専門家という立場の者だけがKnotworkingをするわけではない。そのため、この Knotworkingによる集まりを力量形成の場としても捉え直す必要があると考えられる。. 4.おわりに. 標津町では、上述したような支援の階層やKnotworkingの中で、「やるべきこと」「できる こと」を整理しながら、協働や役割分担を経験し、その重要性を理解しながら「できること」. を拡大させたいと考えている。. さらに、このようなしくみを、参加する者の主体形成の場とし. ても捉えている。 高度な専門性を有する機関が必要であることは言うまでもない。しかしながら、そのような 専門機関につなげる以前にやるべきこと、やれることもまた存在するはずである。地域に資源 の少ないへき地においては、すべてを専門機関に依存するのではなく、自らの力量形成を前提 としながら、支援の階層性によって吸収できる課題を吸収し、困難な課題は別の階層や町内の 機関につなげながら、必要な部分について専門機関と連携していくということを考えて行くこ 14.

(20) とが重要ではないだろうか。. 標津町はコンパクトな町である。社会資源の少ない地域においては、むしろこのコンパクト さが可能性につながると考えている。概略した標津町の支援の階層を基本にしながら、さらに 他の関係者・関係機関とも随時“顔の見える連携”を行いながら、子どもの学びと育ちを支え 合える地域づくりへと発展させて行ければと考えている。. 15.

(21) 3)標津町における主体的な参加を目指した関係づくり. 1.社会資源の少ない地域における特別支援教育のデザイン. 標津町は、北海道の東部、根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町の一市四町からなる 根室管内の町である。面積は624.49kd(東京23区とほぼ同じ)、このうち森林面積が69%(429.2 血)を占め、人口約5,800人、主に漁業と酪農を基幹産業としている。. この根室管内及び標津町には、特別支援教育推進に際する構造的な問題として、特別支援教 育に関わる資源の少なさ、既存の社会資源を利用するための経済的・距離的な問題、さらに数 は少ないながらも存在する社会資讃京を活用するための連携に関わる問題があったと考えられ る。このことから、根室管内において特別支援教育を推進していくためには、社会資源の少な. さを補うための方法論が必要であり、また、少ない資源を活用するためのネットワーク形成の 在り方を再考しなければならない。つまり、根室管内の特別支援教育推進のためには、この2 つの課題を踏まえた上で、固有のデザインをする必要があると思われる。. まず、社会資源の少なさを補うための方法論としてCBR(Community−Based Rehabilitation) に着目して検討したい。次にネッ. トワーク形成の課題であるが、根室管内全体としての広域性. はあるものの、それぞれのコミュニティは比較的コンパクトであり、また人的な結びつきも強 い傾向にある。この利点と可能性に着目すると同時に、「つながること」が持つ意味や価値を ソーシャル・キャピタルという概念に着目して整理したい。この2つの枠組みを用いながら、 社会資源の少ない地域における特別支援教育のデザインと今後の展望を考えたい。. 2.特別支援教育とCBR(地域に根ざした療育) CBR(Community−BasedRehabilitation:地域に根ざした療育)は療育サービスの一形態であり、 同時に療育サービス提供の哲学でもある。これまで、日本で行われてきた療育はIBR(施設中 心型)が主流となっていたと考えられる。このIBRは専門機関などにおいて専門性の高いサー. ビスを受けることができる半面、コストが高く、サービスを受けられる対象者が限定されると いう側面があった。従来の特別支援教育において構築されてきた専門機関との連携は、この1BR 的な発想の下で行われて来たのではないだろうか。これに対してCBRは療育を必要とする対象 者が生活する地域で行われ、地域のニーズに合わせて展開される。さらに、地域の人々が支援 者として関わることを特徴としている。このようなCBRの哲学と方法は、社会資源の少ない地 域における特別支援教育推進にとって非常に有効な概念だと考える。 CBRを参考にしながら地域において特別支援教育を進める場合には、対象者のニーズ、地域 のニーズの把握はもちろんのこと、特に支援者に求められる力景を整理する必要があるだろう。. まず、支援者には保護者、保育士、教師、保健師、行政職など、様々な立場がある。したが って、それぞれの立場によって求められる力量は違うはずである。必ずしも全ての立場で非常 に高い発達障害等に関する専門性を求められるわけではないのではないだろうか。束要なこと 16.

(22) は、それぞれの立場にとって必要となる力量を整理し、理解していくことであろう。また、子 どものニーズには対応が困難なものから、比較的容易に対応が可能と判断できるものまで様々. なレベルが考えられる。このレベルは子どもの状態が規定しているのではなく、対応する者や 組織の力量によって規定されると考えられる。ここに、力最が高まることによって、困難と感 じていたケースが困難でなくなる可能性を見いだすことができる。このことから、CBRによっ て特別支援教育を進める上で重要な点は、単に「特別支援教育」や「発達障害」に関する一般 的な知識の必要性ではなく、目の前の子どもの学びと育ちに対するそれぞれの立場で求められ. る役割を整理した上で、求められる力量を規定し、力量形成を行っていくということであろう と考えられる。そのためには、「それぞれの立場」による支援の階層が必要となってくる。そ. の一つの事例が、下の図1に示した標津町における取り組みである。. 速脾推進宰耗 か−一平滑携. 愕揮小芋粍棺閂i折檻 保・幼h一小連携・. 児童デイ}小連携 保護苫ネットワ・一一. ウ. 図1 標津町における支援の階層. このような支援の階層を作り、それぞれの立場で力量形成をしながら支援の質を拡大しつつ、 その時々の課題や役割によって次の階層に委ねていけるシステムが必要ではないかと考える。. 3.「つながること」による新たな資源 社会資源の少ない地域において求められるネットワークとはどのようなものであろうか。ま. ず、資源の少ない地域ではネットワークによって持続可能な支援を生み出すとともに、そのネ ットワークによって関係者の力最形成を図る必要がある。しかし、従来の特別支援教育におい ては「発達障害」を基軸としたネットワーク形成が重視されてきた。このような視点でのネッ. トワークは、社会資源の少ない地域では前提として困難なものとなるだろうし、非常に限定的 なものとなるだろう。さらに、障害に対する捉え方がネガティブな地域においては、ネットワ. ーク自体が地域において孤立したものとなる危険性も生じる。このように考えたとき、社会資 源の少ない地域において必要とされるのは、発達障害に限定したものではなく、広く子どもの 学びと育ちを基軸にした多様なネットワーク形成であると考えられる。この多様なネットワー. 17.

(23) ク形成とは、すなわち学校や地域の中に新たな「つながり」を作り出す試みに他ならない。 R.D.Putnam(1993)はソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という概念を提唱し、「人々 の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる『信頼』『互酬性の 規範』『ネットワーク」]といった社会組織の特徴」と定義している。つまり、「つながること」 は新たな関係性を構築することであり、すなわちそれは地域のソーシャル・キャピタルを高め ることであると考えられる。このことによって地域に「新たな関係」という資源を創出してい. くことができると考える。そして、この多様な「つながり」を積極的に生み出していくために、 先に述べたKnotworking(Y.Engestr6m2008)を行いながら、課題解決のできるネットワークヘ とつなげていくことが重要ではないだろうか。. 4.地域におけるキーパーソンの必要性 これまで述べてきたような支援の階層やネットワーク形成、Knotworkingは、有機的に機能す. る必要があることは言うまでもない。そのためには、やはり一人ひとりの主体的な参加が鍵に なるだろう。しかし、ただ単に主体性を求めたとしても、それが実際に個人や組織の主体性の. 高まりや活動の活性化に結びつくことは難しいだろう。主体的な参加のためには、参加者が主 体となれる媒介が必要ではないだろうか。すなわち、目的、メンバー構成、システムなどによ. って、集団に対する“集合的な最近按発達領域”(co11ectivezoneofproximaldevelopment)を設 定していく必要がある。このように考えたとき、CBRによって作られた支援の階層は、主体的. な参加のためのシステムとも位置付けられる。つまり、役割や立場によって形成される支援の 階層は、課題や課題解決のための方法などのベクトルを共有しやすいのである。そしてまた、 主体的な参加によって個人及び組織のエンパワーメントが促進され、そのことが個人並びに組 織による支援の質の向上へと寄与していくという循環の可能性が考えられるのである。 このように考えたとき、やはり地域の課題解決のための仕組みを戦略的に進めるキーパーソ. ンが必要となる。そして、そのキーパーソンとしての教員に求められる新たな専門性が浮かび 上がるのではないだろうか。資源は資源と認識した時に資源になる。教員は、異動が前提の職. 業であるが、それは、異動するものとして外からのまなざしで地域資源と地域課題とを客観的 に捉えることのできる存在ともいえる。同時に、地域に従来からあるネットワークの編み目に 積極的に入り込むことで、自らを地域における資源の一つすることも可能である。これらを積 極的に進める中で、それぞれの地域における歴史や文化を尊重しながら、その時々の地域課題 を踏まえたネットワークの形成や拡充、あるいは従来の資源を違う側面からとらえることによ る再資源化を行う役割を担っていく必要があるのではないだろうか。. 5.社会資源の少ない地域における特別支援教育推進の展望 社会資源の少ない地域において特別支援教育を推進するためには、第一に地域構造の分析と それを踏まえたグランドデザインであろう。このグランドデザインは、資源の少なさを克服す 18.

(24) るためのCBRと、すべての子どもの学びと育ちを基軸にしたインクルージョンに置くべきでは ないかと考える。そして、地域に従来からある資源を積極的に活用しながら、積極的な再デザ インによって新たな資源化をし、同時に地域に子どもの学びや育ちに関わる多様な大人なの結. びつきを形成していくことが重要となる。そして、この多様な“大人の結びつき”をもう一度 ネットワークすることで、地域の中の持続的・発展的な形でソーシャル・キャピタルを醸成し ていくことが有効な方法論の一つではないかと考える。. これからの学校は、上述してきたように、地域に「子どもの学びと育ち」を基軸にしたソー シャル・キャピタルを醸成していくことによる地域力、あるいは地域の教育力の向上に積極的. に寄与していくことが重要であると考える。地域の教育力が向上することは、社会資源の少な い地域において特別支援教育を進める上で非常に大きな力となるだろう。さらに地域に子ども. の育ちや学びに対する関心と、子どもたちを地域で育む教育力があってはじめて、実際的なイ ンクルージョンの可能性を見出すことができるのではないだろうか。このように考えると、社 会資源の少ない地域における特別支援教育は、「地域づくり」「地域育て」に帰着するのでは. ないだろうか。異動する者として外からの眼差しを持つ教員が、さらにはそれぞれの学校が、 地域に対する役割を再認識することによって、地域の人々と一緒になって地域を作り、地域を 育てていくことが、社会資源の少ない地域における特別支援教育にとっての大きな展望になる と考えるのである。. 19.

(25) 3.山口県下関市豊浦町・豊北町の取り組み. 1.はじめに. 「とようら・こどもの学びと育ちを考える会」が活動をしている山口県下関市豊浦町と豊北. 町は、本州の最西端にある山口県下関市の北部海岸沿いにある。2005(平成17)年2月に、こ の紫浦町と豊北町を含む旧豊浦郡4町と旧下関市が合併し新しい下関市となった。. 豊浦町と豊北町を合わせた面積は243knfで市全体の1/3を占めているが、人口は市全体の 1割程度(約3万人)である。また、農浦町から市の中心部までは約26km(車で50分程度)、 同じく豊北町からは約45km(車で90分程度)である。 本会は、そのような環境にある場所で10人程のメンバーで活動をしている会である。. 2.設立の経緯. 本会は、下関市豊浦町及び豊北町において、様々な立場で子どもに関わる人の「顔の見える 連携」を構築することを目指して、2008(平成20)年10月に設立した。連携構築の場を新市 全域ではなく、「豊浦町と豊北町」とした理由は、合併前のコミュニティをもとにしているか らである。すなわち、合併前は、豊浦町内の特別支援学級が集まって交流をしていたからであ. る。もう一つの理由として、合併後は豊浦町内と豊北町内の支援学級が集まって交流するよう になったということがある。要は、子どもたちが学び育っていく地域−より身近なところ−で 顔の見える連携を構築することを目指したのである。 また、設立の背景としては、筆者(佐々木)が北海道釧路市における保護者・専門家・教員の 立場を越えたつながりを学ぶ機会を得たということがある。そのようなっながりを是非我が地 域でも作りたいという思いがあった。. 3.見えてきた課題 実際に活動を始めてみて見えてきたこととして、「保護者同士、教員同士が、地域の中でつ. ながっていない」ということがある。 保護者についていえば、豊浦町・豊北町にある特別支援学級の交流の際、保護者同士が顔を 合わせることはあったが、それが我が子のことについて語り合う関係を作り出す機会とはなっ. ていなかったのである。保護者の話によると、それまでは、「00ちゃんのお母さん」、「● ●ちゃんのお父さん」ということぐらいしか分からず、会えば会釈くらいはするがそれ以上の 関係にはなかなかなれない、他校の保護者とはなおさら関係を作っていくことが難しいという. 状況だったそうである。そこで、2009年夏の交流会から、保護者同士が顔を合わせ、情報交換 する場をプログラムの中に設定するようにした。このように、教員が意図的に保護者をつなぐ 場を設けたことにより、その後の交流会においても、他校の保護者とも親しく話をしている様 子をみることができるようになってきた。このことから、「保護者支援」をしていくにあたっ 20.

(26) ては、保護者への教育相談というような個別的な支援のみならず、親同士が支え合う場や機会 を作ることも必要なのではないかと考える。 次に教員についてであるが、2005(平成17)年の市町合併のため、豊浦町の小学校教員で組 織されていた教育研究会が旧市内の教育研究会に組み込まれたことにより、町内に勤務する教. 員同士が顔見知りになり、つながりを作り出していた場がなくなってしまったのである。それ までの豊浦町の教育研究会では、町内の小学校の同学年担任が年に3回程度集まり、授業研究. や情報交換を行っていたことから、お互いに顔見知りになり、その集まりがつながりを作り出 す機会となっていた。しかし、下関市の教育研究会は教科等、分掌ごとの部会であり、広域で. あるため部会に所属している人数も多い。顔見知りになったり、つながりを作り出したりする ことが難しくなっている。. このような中で、子どもに関わる人たちの「顔の見える連携」を作り出すことは、なかなか 難しいという状況であるが、保護者に関しては、月1回のペースで開催される例会を通して、. 保護者同士のつながりが強くなってきており、少しずつではあるが、つながりが広がってきて いる。. 4.2008∼2009年の活動. これまでの活動は表lの通りである。2008(平成20)年8月に会の立ち上げを呼びかける講 演会を開催し、その2ケ月後から例会(学習会)を開催した。はじめの2回の例会は保護者と 教員が同じ場で学んでいたが、その後、保護者と教員それぞれの課題やニーズの違いから部会 を分けて、それぞれに例会を開催するようになった。2009(平成21)年度の活動は、保護者例 会の方が圧倒的に開催回数が多く、2010(平成22)年度は教員例会は開催していない。. 表1 立ち上げから2009年12月までの活動 2008. 8 会の立上げ呼びかけ講演会(講師 二宮信一氏) 2008.10. 例会. 2008.11. 例会. 2008.12 保護者例会(保護者部会と教員部会に分かれる) 2009. 2 拡大例会(両部会合同) 2009. 3 保護者例会 2009. 5 保護者例会 2009. 6 教員例会、保護者例会 2009. 7 保護者例会 21.

(27) 2009. 9 保護者例会、教員例会 2009.10 保護者例会 2009.11 保護者例会 2009.12 二宮氏との懇談会. 保護者例会が開催されるようになってから約1年の間、保護者例会の話題は担任や学校への 不満が続いた。その1年を振り返ってみると、以下の三つの時期に分けられるのではないかと 考える。. 一つ目は、我が子への指導や学級経営に関する愚痴を出し合っていた時期である。これは例 会に参加することで、課題を受け止め、共感してくれる仲間の存在を得たからできたことなの ではないかと考える。二つ目は、担任や学校への間接的・直接的交渉をするためにはどうした らいいかを話していた時期である。これは、仲間と共に行動を起こすことができるようになっ てきたということだと考える。三つ目は、その交渉がうまくいかなくて行き詰まった時期であ る。この時期の例会では、保護者の焦りやうまくいかないもどかしさ、「誰かに何とかしてほ しい」という思いがひしひしと伝わってきていた。. この三つ目の時期に、二宮氏との懇談会を設定した。テーマは「保護者の抱える課題の解決 に向けて∼協働へのヒント∼」というものであったが、二宮氏から親の会の有りようについて、 助成金をもらうことについて、. 青年期の課題についての諦を聞き、そこでの学びから、「子ど. もたちのための活動をとにかくやってみよう。」「自分たちにできることを始めよう。」とい うことを保護者同士で話し合ったという。これに関して、のちに会長を引き受けてもらうこと になる保護者Aさんが、懇談会後に筆者に送ってくださった感想メールの中で、「今、まさに. 抱えている問題点についてのお諸に、一筋の光が見えた気がしました。」と述べておられるよ うに、この懇談会をきっかけとして、保護者の意識が変わってきたと感じている。. 5.2010年の活動. 懇談会以降の活動は表2の通りである。生活に生かせる活動をぜひやりたいということで、 次の例会のときに早速調理実習の計画を立てた。その後の例会では、実習についての役割分担 をしたり、材料の買い出しに行くスーパーの下見に行ったりして調理実習に向けての準備をし、 5月に調理実習を行った。また、8月には運動遊びとして体を動かすプログラムと、教員向けに 二宮氏の講演会を開催した。. 表2 2010年1月以降の活動 2010. 1. 保護者例会(子ども対象の活動一調理実習−の計画) 22.

(28) 2010. 3 保護者例会(調理実習の役割分担) 2010.. 4. 買い物のための下見、打ち合わせ. 2010.. 5. 調理実習実施. 2010. 6 調理実習反省、次回活動(運動あそび)の計画 2010. 7 助成金についての報告、運動あそびの打合せ 8 運動遊び実施、二宮氏講演会. 2010.. 2010.10. 運動遊び・講演会反省、次回活動の計画. 6.保護者の意識の変容 懇談会以降の会の活動を振り返ってみると、会の有りようが「告発型」から「実践型」へと 変わったといえるのではないかと考える。 自立に向けての子育て実践として調理実習や運動遊びを行い、学習会や講演会の企画として 我が子が在籍している学校の校長が特別支援学校で就労の担当経験があるということから、就 労に関する話をしてほしいと申し入れ、それを学校行事の中で実現させた。また、教員向けの. 講演会を企画し、自分たちの住んでいる豊浦・豊北地区の小中学校には全て、案内を発送した いということで、それを実行した。. これらは、この会が地域の教育力向上のための地域の資源として、活動する会となったとい うことだといえよう。 もう一つは、会が社会化されたということがいえると考える。山口県ひとづくり財団の研究・ 研修助成事業の助成金を受けたことで、個人の思いで動く会ではなく、地域にとって、子ども. たちにとって必要なことを行う団体へとなっていったといえるであろう。また、助成金を申請 するにあたって会の代表や規約を決めたこと、講演会の案内を発送するにあたって、会の代表 者として保護者の名前を記載した文書をつけたことにより、「00ちやんの子育てを通して地 域の教育を考える一人の大人」として存在するようになったといえるのではないかと考える。. このような会の変化は、ユネスコの学習権宣言にもあるように、「なりゆきまかせの客体」 から「自らの歴史をつくる主体」へと保護者が成長していったということが、その背景にある と考える。愚痴を出し続けた1年間という時間も、保護者がそのように成長し、自分たちで動 き出すために必要な時間だったといえよう。. 7.地域に新しい資源を作り出していく上で必要なものとは 本会の活動を振り返り、「地域に新しい資源を作り出していく上で必要なものとは何か」を 考えてみる。. 23.

(29) この会には、障害種にこだわらず、障害のある子どもを育てている保護者(特別支援学級に 在籍している子どもの保護者)が集まっているのであるが、それは「障害種で集まろうとして も、地域柄、人数が少ない」ということ、「旧市内の親の会へ顔を出すには、物理的■心理的 な距離がある」ということ、「顔見知りの人がいる会だから顔を出しやすい」ということが背. 景にあると思われる。そのようにして集まった保護者の意識の変化と、サポートする人がいた ことで、この会が地域の資源へとなっていったのではないかと考える。 整理すると以下の通りである。. ①できるだけ現場に近いところでやるということ(問題解決を丸投げしないで、自分に近い ところでやるということ). ②子どもの生活する地域でなければ意味がないということ(1CFモデルで考えたとき、地 域の人たちが受け入れてくれる環境を作るということ) ③「熟するには時間が必要」ということ ④専門家に過度に依存するのではなく、必要な時に必要なだけ活用するということ. また、専門家(サポートする人)も、地域の支援者(保護者)のエンパワーメントを意識す ることが必要なのではないかと考える。. 24.

(30) 4.長崎県における特別支援教育体制の調査. 2009年2月17日から23日にわたって、離島が多く、そのために道東と同じくへき地・小規 模校を多く抱える長崎県における特別支援教育体制構築の調査を実施した。 長崎県は、面積が約4,100kI丘、人口は約1,433,849人で、海岸線の長さが北海道に次ぐ日本 第2位の県である。島の数は595、その内有人島は73となっている。. 長崎県では、平成19年度からの特別支援教育の実施に先だって、平成16年度から平成20 年度の5カ年計画で「障害のある子どもの教育推進計画」を進めており、①盲、聾、養護学校 の適正配置、②学校規模の適正化、③しま地区における障害のある子の教育の充実という3点. の施策に取り組んでいた。特に、③しま地区における障害のある子の教育の充実については、 社会資源の少なさがその背景にあるという点で道東と共通しており、参考となるものであった。. しま地区における障害のある子の教育の充実のための具体的な取り組みとしては、まず、訪 問教育の充実が上げられる。これは、それまで週平均2.5回行われていた養護学校による訪問. 教育を週3回に引き上げ、しま地区に対するより定期的な支援体制を構築したものである。さ らに、この訪問教育の中で、しま地区の特別支援学級(実施当時は特殊学級)の児童生徒への 支援、担当者への研修、養護学校教員との合同研修会の実施なども合わせて行っていた。この. 取り組みは、単に訪問教育の対象となっている児童生徒の支援ということにとどまらず、戦略 的な地域支援の一例であると考えられる。さらに、しま地区の高等学校に特別支援学校の分教 室を設置し、障害のある子どもの教育のセンター的な機能を持たせる取り組みもなされていた。. 次に長崎県の人事交流システムでは、教員経験の中で、必ずしま地区において勤務すること が暗黙の了解事項となっており、多くは教職経験が10年程度の者が対象となっている。そして、 平均4年程度をしま地区での勤務を経験した後、再び異動するということであった。また採用. 時に、教職経験の中で特別支援学級を担当することも前提とされていた。加えて長崎市などは、 特別支援学級担当者の人事を、原則6年以上は特別支援学級を担当させないというシステムに よって行っていた。また、例え特別支援教育を専攻してきた者であっても、初任者には特別支 援学級を担当させないということも行われていた。これは、保護者との対応に対して、初任者. では難しいとの判断からということであった。その他、異種間交流として小学校と中学校間、 義務校(小・中学校)と特別支援学校間の人事交流が行われていた。これは、2年間が原貝りで あるが、本人の希望により延長も考慮される。特にしま地区では、この義務校と特別支援学校. 間の人事交流によって、特別支援学校を経験した教員が以前の職場に戻り、その島の特別支援 学級の中核を担いながら、島における研修会の講師を務めるなどしていた。このような長崎県 における意図的・戦略的な人事システムは、道東においても参考になる点が多くあった。. 25.

(31) 5.教材開発及び校内研修. 1)教材開発. 2007年度より特別支援教育がスタートし、それぞれの学校においては、発達障害のある子ど もを中心として支援が始められた。しかし、特別支援教育の体制整備が進む一方で、多くの課 題も浮かび上がってきている。特に、教科指導面における教材・指導のヒントが、現場の教員 には情報として少なく、苦慮している実態がある。昨今、通常学級には、発達障害のみならず、. 軽度の知的障害のある子どもが在籍している。また、通級指導教室の対象としてLD、ADHD のある子どもも加わり、益々、教科指導面における教材・指導法の開発が求められてくる。こ. うした状況の中で算数科に着目し、数概念の獲得に困難を示し、算数の学習に抵抗の強い子ど もの教材として、「数」に親しむ、操作する等の学習が積み上がるようにストーリー性のある 絵本を作成した。 ○算数教材絵本『ぐ−くんとなかまたち」]作成意図. 小学校学習指導要領第2章第3節算数の、第1学年の内容A「数と計算」には、「ものの個 数を数えることなどの活動を通して、数の意味について理解し、数を用いることができるよう にする」ことをねらいとして、5つの項目が挙げられている。その中の「エ.一つの数をほか. の数の和や差としてみるなど、ほかの数と関係付けてみること」という項目に着目し、検定教 科書6冊を比較検討した。. 各教科吾ともに「いくつといくつ」という単元名で、第1学年の初期(5月下旬頃)に5∼ 10の合成・分解についての指導が設定されている。これらの数の合成・分解は、その後に. する加法・減法の基礎となる重要な内容であるが、各教科書会社の示す指導時数モデルでは、 決して多くの時間を割いているわけではない。また、児童が「活動を通して、数の意味につい て理解し、数を用いることができるようにする」ために、おはじきやサイコロ、数字カード等. を使い、ゲーム形式で指導展開がされていることから、児童は楽しんでこれらの学習に取り組 むことができる反面、ただのゲームとして終わってしまいがちで、5∼10を合成・分解する力. をその授業の中だけで定着させることは困難なことが窺われた。特に、算数に困難を示す子ど もには、その単元の学習が終了した後も、授業前後の少しの時間や朝学習の時間、宿題などを 使って、継続的に練習する時間を確保し定着させていくことが必要であると思われる。 そこで、そのような子どもたちが具体的にイメージできることを助け、実際に操作して、自. 分の力で課題を解決しながら、合成・分解の力が定着できることをねらいとして、「絵本」の 作成を試みた。読み手となる子どもが数概念の獲得に困難を示す児童であると想定し、合成・ 分解する数は「5」とした。後に10の合成・分解を学習することになるのであるが、その前の. 段階で基礎になる数が「5」であると考えたからである。つまり、具体・半具体物で6∼10の 合成・分解をイメージするとき、5のかたまりを見つけることで理解が早く進むこと、10の合 成・分解においても5のかたまりをまず見つけて、残りの5を合成・分解していくことから、 26.

(32) まずは「5」の合成・分解をしっかりと定着させる必要があると考えた。 また、1年生の初期段階での使用が基本であること、計算を芳▲手とする児童は、自分の指を 使って答えを出すことが多いということから、. 絵本を読み進めていく際に、実際に自分の指を 使って考えることができるように、またイメー ジしやすく印象に残りやすいようにと考え、指 (手)で作ることのできる形からデザインした キャラクター(写真右)を考案した。. J′. ● (. 数概念の成立は、数詞一数字一具体物の三項. /つ. もつ. 関係の成立が前提であると考えられるが、この 三項関係の成立が不安定な状態の子どもにとって、親しみやすい教材の開発が必要であると思 われる。今回作成した算数教材絵本では「おはじき」を活用した「操作する」という作業とキ ャラクター及び絵本形式のストーリー性が「興味・関心の持続」に役立っていると考えられる。. この教材を活用した実践においても、ストーリー性があることで物語に馴染み、自ら取り組ん でいく様子が報告された。このことは、複式学級における「わたりとずらし」において有効に 活用できる可能性が示されている。また、「算数」ということのみで抵抗を示す子どもに、ダ イレクトな教材で取り組むのではなく、絵本という手法を用いたことが有効であったことも示 されたと考えられる。絵本は、子どもにとって一度読んで終了するものではない。この教材開. 発を通して、子どもの実態に合わせた指導の工夫が必要であることが示されていると考える。. 2)校内研修. 根室管内においては、特別支援教育に関わる専門機関などがほとんど存在しないという地域 事情がある。また、学校規模によっては、マンパワーにも限界があるのが現実である。一方、. そのような地理的条件故に、学習面や行動面などを始めとする、子どもの学びや育ちに対して、 学校が地域における唯一の専門機関であることも多い。このことを踏まえたとき、管内におけ る特別支援教育は発達障害のある子どもの対応のみならず、すべての子どもの学びと育ちの保 証という枠組みが必要とされる。つまり根室管内の特別支援教育推進において必要とされるの. は、単に1対1のような個別の対応のみならず、通常学級における多様な子どもの存在を前提 にし、一人ひとりの子ども理解に立脚した授業改善だと考えられる。 根室管内標津町立標津小学校では、2008年度から子ども理解と授業改善の校内研修に取り組. んだ。具体的には、外部講師を招いて子どもを理解するための多様な視点についての研修を行 った。そしてそれを元に全クラスの公開授業と、その際の指導案の簡略化(A4版l枚+座席表)、 授業後の研究協議を「子どもの学び」という視点にシフトさせる試みを行った。このような校. 内研修は、子ども理解並びに授業改善に対する協働の取り組みであり、根室管内の特別支援教 育推進における土台となるものと考える。 27.

参照

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