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新刊紹介 歌川光一著『女子のたしなみと日本近代―音楽文化にみる「趣味」の受容』

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Academic year: 2021

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新 刊 紹 介

歌川光一著 

『女子のたしなみと日本近代

  

―音楽文化にみる「趣味」の受容

平野 晶子

本書は,明治後期から大正期における中上流階級女子の たしなみをめぐる言説の変遷を「趣味」の受容との関係や 「趣味」として行われることがらの和洋に着目しながら考 察し,それらの問題と昭和初期に現われた「花嫁修業」と いうイメージの成立過程の関連を明らかにするものである。 第一章では,教育史研究,芸能史研究を概観しながら, 明治後期から大正期の女子の稽古文化のあり方について, 研究として何をどのように把握していくべきかが論じられ る。稽古文化における「趣味」の受容を考察するために, 視点を「稽古」から教習方法や機会にとらわれない「たし なみ」へと転換すること,本書が音楽のたしなみを題材に とり,それをめぐる規範やその変遷を検討するものである ことを述べている。その上で,豊富な資料をもとに詳細で 綿密な検討が行われていく。 第二章では,婦人雑誌や家政・修養書を資料としながら, 家庭婦人の心がけとしての音楽のたしなみについて,当時 隆盛した家庭音楽論における「趣味」の位置,家庭で行わ れる音楽の,邦楽/洋楽のジャンルによる役割の違いにつ いての検討がなされる。第三章では,女子のヴィジュア ル・イメージに着目し,家の娘としての「令嬢」/「少女」 というジェンダー規範の違いによって必要とされるたしな みの対象の異同が明らかにされる。第四章では,理屈上は 「たしなみ」が高じて生業となり得るところを,なぜ「た しなむ程度」にしか習得してはいけないとされたのかにつ いて,女子職業論から論述される。邦楽/洋楽それぞれに 異なる理由によって,女性の職業として不向きであるとい う言説が存在したことが明らかになる。第五章では,行儀 作法としての音楽のたしなみのあり方について,礼法書の 編集方針と音楽のたしなみに関わる記述の関連から考察さ れる。理想像として掲げられる家庭音楽の実践が,身体レ ベルでどのように表現されたかが述べられる。 第六章では以上の考察が女子の音楽のたしなみの変遷と して整理され,今日私たちが抱く「花嫁修業」というイメ ージが,明治後期から大正期の「家庭」という概念の登 場・普及過程で起きた,「趣味」の和洋折衷化と結婚準備 としての修養化によって成立したものであることが明示さ れる。補論として,昭和戦前期における「令嬢」の音楽の 「趣味」の考察から,「花嫁修業」として日本趣味が強調さ れるようになった背景が論じられているのも興味深い。 本書の特徴は,教育学において既に多く論じられてきた 「稽古(事)」の徒弟的な教習方法や教育哲学,すなわち 「芸道」「家元制度」等といった日本特殊論に拠らず,「学 校/家庭/社会(通俗)」教育という教育の分化が未確立 であった近代初期における「趣味」と教育,教養の能力観 としての内在的関連を,「たしなみ」という視点から文化 史的に捉え直そうとした点にある。従来「感興をさそう状 態,おもむき,あじわい」また「ものごとのあじわいを感 じとる力,美的な感覚のもち方。このみ」(『広辞苑』)と いうテイストの意味であった「趣味」が,明治後期から大 正期の中上流階級女子において,婚姻後の夫や舅姑らとの 「趣味の一致」のためにホビーの広さ(量)を強調する能 力観へと変遷を遂げ,それが昭和戦前期に登場した「花嫁 修業」に繋げられていったと結論づけている。近代家族論 や「少女」研究の隆盛を受け,小山静子『良妻賢母という 規範』(勁草書房 1991),今田絵里香『「少女」の社会史』 (勁草書房 2007),稲垣恭子『女学校と女学生』(中公新書 2007)等の形で蓄積されてきた一連の近代日本の女子教育 文化史の知見を,「たしなみ/趣味」,「令嬢」等の新たな キーワードによって編み直すことで,音楽史,芸能史を含 む近代日本の文化史一般に示唆を与えるものとなっている。 本書は著者の博士論文『近代日本における中上流階級女 子のたしなみ像―19 世紀末から 20 世紀初頭東京の音楽文 化に着目して』(東京大学大学院教育学研究科 2016)に, その後執筆の関連論文(『学苑』928 号所収論文を含む), 書きおろしを加え再構成したものとのことである。「日本 における『趣味』の受容の問題が,都市新中間層が百貨店 などで『良い趣味』を購入した,というモノとヒトをめぐ る消費文化論(神野由紀『百貨店で〈趣味〉を買う―大衆 消費文化の近代―』吉川弘文館 2015―引用者)の課題で あるばかりでなく,ヒトの能力観に直接関わる近代教育史 の課題でもある」(本書,p. iii)という視点が,この研究 の背骨となっていることを重視すべきであろう。 (ひらの あきこ  初等教育学科) 学苑・初等教育学科紀要 No. 944 71(2019・6) 2019 年 3 月 20 日発行 勁草書房 四六判 304 頁 定価 3,400 円(本体)

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