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人間学:短大生へのアプローチ
市 沢 正 則
Introducing Philosophical Concepts to Japanese College Students
Masanori IchizawaThisarticleexplainshowlintroducedtoJapaneseCollegeStudents,"Philosophical Anthropology,"arelativelynew courseatJapanesecolleges.
大学の科 目 としては比較的新 しい科 目である 「人 間学」 を短大生 に授業でいかにアプ ローチ す るか、授業のすすめかた、取 り扱 った主 な内容、学生 (1997年度幼児教育科 1年生 の- クラ
ス6
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名)の反応 を紹介 し、考察 を加 えた。 目 次 Ⅰ. はじめに ⅠⅠ.授業のすす めかた ⅠⅠⅠ.授業の内容 と学生の反応 1.人間学 をは じめるにあた り 1)
「人間 を考 える教育」 について2
)人間学 を学ぶ ことについて 3)真理 を知 るための 4つの質問4)
「自分」 とは何 か2.
人間 を3
つの観点か ら考 える 1)宇宙 の中での人間の位置 2)地球 に存在 してい る ものの中での人 間の位置 a.存在物 のハ イアラキー b.こころ 3)環境 ・人 との交わ りの中での人間(
『風 の旅』 を中心 に) a.幸せ b. 失 うとい うこと C.優越感 と劣等感 d.詩集 よ り e.ただ一 つ必要 な もの f.母親 g.妻 h. 『風 の旅』 を終 えて i.愛 ⅠⅤ.まとめⅠ. はじめに
「人間 とは何か」 は古 くか ら問われている 質問である。古代 ギ リシャのデル フォイ神殿 の扉 には 「汝 自身 を知れ」 と記 され、懐疑論 者 モ ンテーニ ュは 「世 の中の最大 の事柄 は自 己 自身 を知 ることである」 と語 っている。 こ の人間の 「自己 自身 についての知識 」が人間 学 と言 われ るよ うになった。1歴史 的 に は人間学 (anthropology)と総称 され る学問 は次 の3分野 に分かれて発展 して きた :1) 自然 人類学 (naturalanthropology)-人間 を動物 学 の一側面か ら考察 し、特 に人体 の研究 を解 明 す る 自然 科 学 :2)文 化 人 類 学(cultural anthropology)-原始 ・未 開社 会 の実態調査 か ら、異文化理解 を共通 目標 に社会文化生活 の広範 な研究 をす る人文科学 ;3)哲学的人 間学(philosophicalanthropology)-人 間 の 全体 を理論的に考察 しようとす る理性 の学、 課題 は 「人間 とは何 か」。2哲学的人 間学 の考 察 は古代 ギ リシャでは悲劇 で、中世 において は神学 (神論 ・人間論 ・終末論) の一部 とし て扱われた。近代 になって、 デカル トの説 く 心身二元論 (人間 は機械 であ り、 その中に不 死 の魂が宿 る)か ら、心理学 (心 の学)へ と 向 き、現代 においては、宇宙 にお ける人間の 位置 を考察する ことによ り、人間の存在 を全 体 的 に考察す る学問 として扱われてい る。 カ ン トによる と3、哲学の全分野 は四つの問いに 要約 され る :1)私 は何 を知 ることがで きる か ;2)私 は何 をなすべ きか ;3)私 は何 を 望 む ことが許 され るか ;4)人間 とは何か。 第1の問 いは形而上学が、第 2は道徳が、第 3は宗教 が、第 4は人間学が答 える とし、最 初 の3つの問いは最後の問いに関連 してい る か ら、結局、 これ らすべてを人間学 とみなす ことがで きる、 と述べている。 本 学 の共通 教 育 科 目の講 義概 要 にお け る 「人間学」 の 目標 は次の ように記述 されてい る。「人間性 の包括 的 な理解一人間性 とは、人 が持 つ動物、感情 的側面か ら宗教的側面 まで を も含 む人間全体 をさす。 この前提 をもとに、 複数の側面 を持 つ人 間性 を、心理、哲学、神 学か らのアプローチ を通 して理解 す る
。
」
4
ゆ えに、本学での人間学 は上述 の第3の哲学的 人 間学 に属す る。 で は、 この人 間学(
9
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分授業1
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回) を短大1
年生 に どの ようにアプローチすべ きか。初 年度 は、哲学的人間学が歴史的 にた どったプ ロセスを講義す るなかで、 さまざ まな問題 を 学生 に提起 し、学生 同士が意見 を交 えるとい う計画で授業 に臨 んだ。筆者が学生 ・教員 と して米国の大学で20年間経験 した授業形態で ある。最初 の授業 での宿題 として 『風 の旅』
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を読 み、印象 に残 った詩 について次 の授業 で 感想 を発表 して もらう予定だった。 しか し、 授業ではだれ も挙手せず、一人 に指名 したが 何 の反応 もない。 「読 んで きましたか」と尋ね る と、 うなず いた。
「一言で もいいですか ら、 感想 を言 って くだ さい」 と促 したが、 しば し の沈黙。『
「よか った」で も 「お もしろか った」 で もいいですか ら』と言 うと、小 さな声で「よ か ったです」 と答 えて くれた。他 の学生 も同 じような反応で あった。小 中高校時代 さまざ まな理 由で人前 で 自分 の意見 をほ とん ど述べ ないで きた、 また は、 その ような トレーニ ン グをされず にきた学生 に突然65名の学生の前 で意見 を言わせ るのは残酷であった ように思 う。 自分 の意見、感想 も言 って くれないので あ るか ら議論 どころで はない。 その ときの心 境 としてはふ くらました風船が突然 しぼんで市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ しまったのに似 ている。 その後、学生 には意 見 は聞かず、講義形式 で教科書 『新人間学』6 に したが って授業 を進 めていった。歴史的 な 流れ、難解 な概念 を講義形式で授業 を進 めて い くこと、 それ を学生が90分椅子 にすわ り続 けて聴 くことは容易 な ことではないだろう。 学生か らの無記名の授業評価 は 「熱心 に教 え ているのは分か るが、空回 り」、「内容が難 し す ぎる」 とあった。 ある学生 は漢字 を見ただ けで も、耳慣 なれ ない言葉 を聞いただけで も、 難 しい と感 じ、耳 ・目が 自然 にふ さがってい くとい う。 当然、学生の学問 に対 す る学 びの 姿勢 ・動機 ・興味 ・今 までの教育的環境等 も 問題 にな るだ ろうが、難解 な概念 であれ ばそ れ をいか に学ぶ者 に分か りやす く説明す るか が、教員 の役 目なのであるか ら、教授法、内 容 に改良が必要である と痛感 した。 そ して、 授業 を重ね る度 に、多 くの学生 は感受性 に富 み、一 つの事柄 について もさまざまな思 い を 抱 き、創造性が あ り、素暗 しい表現力 を持 っ ている ことに筆者 自身が気がついた。本稿 は その後 の3年間で授業形態 ・内容 に修正 を加 え
、 4
年度 目になされた授業 の主 な内容、 そ れ についての- クラスの学生 の反応、課題 に ついての返答 をまとめ、考察 を加 えた もので ある。Ⅰ
Ⅰ
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授業の進 め方
授業 の内容 は日常生活 の具体的な事柄 か ら ユニバ ーサルな概念へ と話 しを進 めてい った。 例 えば、「人間 とは何か」とい う問題 は人間の 一人で ある 「自分、 このユニー クな自分 とは 何か」 とうい う質問か ら出発 した。学生 には 授 業 で新 た に学 んだ こ と ・印象 に残 った こ と ・感 じた こと ・質問 をノー トに とるように 71 指導 し、授業 の最後 の10分程 で配布用紙 に書 かせ提 出 させた。授業後 それ を共通項 目に分 け、次 回の授業 当初 に匿名で何名かの もの を 読 み、必要 な時 は筆者が コメン トを し、質問 に答 えた。 この授業形態 についての学生 の反 応 は良好 で、「そ う考 えていたの は自分 だ け じ ゃなか ったんだ」、「こんなふ うに考 えること もで きるのか」 と、今 まで開 けなか った クラ スメイ トの考 えを知 ることによ り、 なにか し らの安堵 を感 じた ようだ。 クラスに よって差 はあるが、多 くの学生 は吐 き出す ように自分 の意見 を正直 に述べて くれた。一人 で もそ う す る と、他 の学生 も素直 に自分 の意見 を書 き 始 める。 あ る学生 は 「この組 のみんなが先生 だ」 と、で きるだ けクラスメー トの考 えをノ ー トに とるように心が けてい る と、感想 に書 いていた。Ⅰ
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授業の内容 と学生の反応
1.
人間学 をは じめるにあた り 1)
「人 間 を考 える教育」 について 日本 の教育 において社会生活 を営 むために 必 要 な教育、専門職 につ くための教育 は多 く な されて きた。 しか し、人間だれで も共通 に 持 ってい る職業 「人間職 (人 間 として生 きる 職業)
」のための教育 はあ ま りなされ て は こな か ったので はないだ ろ うか。最初 の授業 で「あ なた は どの ような教育 を受 け、 それ について どう感 じていたのか」 を学生 に問 い、 レポー トの課題 として書かせた。 結果 は肯定的 ・否定的 な意見 に分 かれた。 前者 としては、教育 は 「将来 の職業 に就 くま での過程」、「勉強 だ けでな く、集 団生活 の中 での人間関係、 どう生 きるか を学 んだ」 と考 える学生が多か った。例 えば、「当 り前 の ことを当 り前 にで きるように」、「お互 いが助 け合 い、協力す ることの大切 さ、思 いや り、朕、 挨拶、礼儀」な どであった。具体的 には、 「気 付 き」の時間 (毎朝5分間) にごみを拾 い、 掲示物 を直 し、「掃除 をす ることか ら物 の大切 さ」を学 び、「困 っている人や友達が悩 んでい るの を見 つけて助 けてあげる心」も育 ち、「人 の優 しさ」 を知 った。 また、強制的訓練 だ っ たが、 スキーの仕方な どもよ く覚 えてお り、 「苦手 だ った ものが続 け る うち に得 意 に な り」、 自分 にプラスにな った もの も多 くあ っ た、 と考 えている。 否定的な見解 を学生 の言葉 を引用 して要約 す る と次の ようになる :個人的な感情がない 団体 の大 きな枠の中で、強制的 ・機械 的 に型 には まった教 え方で、常 に受 け身で、考 える 時間が ないほ ど一方的 に、 テス ト・受験 とい う目先 の 目標 のためだ けに勉強 していた。「横 一列 に並べて形 を整 える、みんな同 じでなけ れ ばいけない もの」、「人 と人 とを計 る物差 し」 を教育 と考 えていた ようだ。結果 として、「自 分 のためにな らない、生 きてい くのに必要 じ ゃない ような ことを学 ばされ」、「無駄 な もの が多かった」。「今 までの教育 は表面 を磨 くも の、学力面の知識 を伸 ばす もの。心 について は何 を教 えて もらったのか思い浮かばない。 勉強がで きるとい うだ けで 自動的 に先生 に信 用 され る」。 多 くの学生が持 つ教育観 としては、「この世 界で生 きてい くために必要な一般的な教養 を 身 につ けるための もの。幼稚園で は集団の中 での生 き方、小 ・中では生活 に必要 な知識 (国 語 ・数学 ・理科--)、高校 では大学受験 に必 要な知識」であった ようだ。 つ ぎに、「真の教育 とは どうあるべ きか」を 学生 に考 えて もらうため、 このタイ トル を第 2回目の課題 とした。「だれが、だれ に、どの ような環境 で、 どの ように、何 のために、何 をす るのか」 とい う形式で各学生の言葉 を使 って まとめた ものが次の ものである。 だれが ? :情熱 ある教師が だれ に ? :生徒一人 ひ とりに どの ように ? :人 間的感情 を込 めて、生徒 と 先生 とい う関係で はな く、対等の人間 として 物事 を考 え、互 いに影響 を与 えなが ら 何 のために ? :1)受験 のためではな く、個 人が成長 し、豊かな人間 にな り、社会 を発展 させ るために;2)善悪 の判 断がで きるよう になるな ど、人間 として生 きるために必要 な 知識 を学ぶために;3)人生 で大切 な ものを 見つけるために;4)他人 を気づか う心、 自 分 の心 を育 て/磨 き、人間性 を伸 ばすために (「トイ レのス リッパ を脱 ぐ際、次の人が履 き やすい ように脱 ぐ」な ど);4)自分で考 え ら れ るよ うになるために(「本や資料 のみではな く、 クラス全員の意見や体験 を聞 いた り、実 験 をしてみた り、散歩 しなが らの授業 を通 し て」):
5)
視野 を広 げ、得意分野 を見つ け、 自分 の個性 ・能力 ・真理 な どを引 き出すため に 何 をす る ? :一生懸命頑張 ることを教 える、 手助 けをす る、環境 を作 る。 上述 の課題提 出後 に、「教育」の英語 の語源 を説明 した。 「教育」 は 「education」 と訳 さ れ、動詞の「educate」の語源 はラテ ン語で「引 き出す」である。で は何 を引 き出すのか。 ソ クラテスによる と、我々 は生 まれて来 ると同 時 に ものを忘れ るので、 それ を思い出 させ る ことが必要である。故 に、教育 は助産婦の よ うに胎児 を引 き出すのを補助 す る役 目、すな わ ち、人がすでに持 ってい る もの を引 き出す の を手助 けす る、 また は、 その ような環境 を市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ 与 えてや る ことである。すで に学生 の何人 か は、 ソクラテスの説 く教育 の本髄 を捉 えてい た。次 に、医者、農民、教師の職業での共通 点 を指摘 した。 それぞれの対 象物 として医者 には患者、農民 には農作物、教師 には学習者 がい る。医者 は患者 にで きるだ け健康 にな り、 医者 にかか らず に生 きていけるようにア ドバ イスをし、必要 に応 じて薬 を与 える。農民 は 農作物が成長 す るように必要 な肥料 を与 え、 害虫、災害 か ら守 り育 ててい く。教師 は生徒 が将来独 り立 ちで きるように必要 な知識、 ア ドバ イス を与 える。 とい うことは、各職業者 はそれぞれの対象物がそ うあるべ き姿 にな り、 独 自に生 きていけるように守 り育 ててい く、 その人独 自の花 を咲かせ る環境 をつ くること だ ろう。 ここで問題 となるのは、子供、人間 がそ うあるべ き姿 とは どうい うことか、人間 とは何 なのか を考 えなけれ ばな らない。人間 学の核心 に触れ る問いか けであ る。 教育全体 についての学生 の見解 はさまざま であった。 自分が受 けた教育 は「強制だった」 とい う意見 に対 して、「社会で共 に暮 らしてい く以上、秩序やルール はお互 い守 らなけれ ば な らない。 そのルール を守 る ことが強制 的だ と感 じるのか」、「高校 の先生 はある委員長 の ポス トを私 に押 し付 けた。 なんていやな奴 だ と、最初 は目の仇 にしていたが、人前で話 す ことが苦手 な私 に、 そんな ことをさせ ようと した先生 も勇気が いただ ろうし、私の ことを 信 じていて くれたか らなんだ と後 で実感 した。 先生 は個性 を引 き出 して くれたわ けだ。私 に とっての教育 は今 まで受 けて きた こと全 てだ。 全部が真 の教育かわか らないが、無駄 な こと はなか った」 と、強制 も時 と場合 によって必 要ではないのか とい う意見があった。 そ こで 「賢者 は愚者か ら学 び、愚者 は賢者か らも学 73 ばない」とい う蔵言 を紹介す る と、結局 は「自 分が どの ように事柄 を受 け止 めるのかが大切 なんだ」 と理解 す る学生 もいた。 しか し、正 直 に 「強制 」 と答 えた学生 に感心 し、 自分 は 「いい事 しか書 いてない。 もっ と今 の教育 の 本 当の姿 を見付 け出せ ば良か った」 とい う意 見 もあった。 「教育 は引 き出す こと」 な らば、 自分が本 当の教育 を受 けて きたのか と疑 問 に 感 じる学生 もいる。「みんな と同 じことを して い るのが正 しい とい う考 えの もとで生 きて き たせ いか、 そ うす ることで、 自分 も安心す る ようになって しまった」、今 までなに もの も引 き出 して こなかった 自分が 「生徒 ・学生 でな くなった ときに自分 の中にあ る もの を引 き出 すの は自分 自身 なのだか ら、今後 は自分 に責 任 が あ る」 と自覚 した学生 もいる。 「考 える」 とい うことについて、 ある学生 は自分 を悲観す る。「友達が様 々 に考 え、感 じ てい るの は、いろいろな もの を考 えなが ら教 育 されて きたか らだ ろう。私 はただ人 の真似 や言われた ことしか して こなか ったか ら、考 える力 も書 く力 も無 くここにい る。」 しか し、 これか らが大切 だ とす る学生 もい る。「自分が 大 き くな り、中学、高校へ進 むにつれて、考 えることが な くなって きた。 それ は考 えて考 えて言 った言葉や行動が否定 され、反対 され る ことが多か ったせ いなのだ と思 った。考 え るよ りも人 を真似 て行動 した方が はめ られ る ことが多 く、 自分 のなかで も 『深 く考 えて は い けない』 とい う思 いが根付 いてい った。で もこの授業 で、考 えることが決 して悪 い こと で はないのだ と言われた気 が してほっ とした。 『引 き出す』立場 になれ ように しっか り考 え ようと思 う。」 今年度、初 めて教育 についての課題 を与 え たが、 この段階で理解 して もらいたか ったひ
とつが、次の学生の言葉である
。「
『教育』 に ついて、 とい うただそれだ けの題材 について も、一人 ひ とり全 く違 う考 え方や感 じ方が あ り、別 の人間の考 えについて考 えることによ って、 どん どん広が っていけるのか と、 とて も面 白い と思 った。」 ここで、「小 さな男 の子」を読 ませて、学生 に人 を教育す る とい うことは どうい うことか を再 び考 えさせ た。以 下 は物 語 の概 要 で あ る。7 小 さな男の子 の学校 は大 きいが、外 か らす ぐ教室 に入れ る ドアがある。先生が 絵 を描 くように言 うと、 その子 は絵 が好 きで何で も描 けるので、す ぐ描 こうとす る と、「ち ょっ と待 ちなさい」と先生。生 徒全員が用意で きたの を確かめて、「今 日 はお花 の絵」 と指示。男の子 は色 とりど りの花 を描 きだ したが、すか さず、先生、 「お手本 を描 きますか らね」。翌 日 も粘土 細工 で先生 のお手本通 りに作 らされ、 そ の子 は待 つ こと、観察す ること、真似 る ことを覚 え、 自分 の好 きな ものは作 ろう とは思わな くなった。 その子 は新 しい学 校 に入 った。前の学校 よ り大 き く、外 か ら教室 にす ぐに入れ る ドアがなか った。 先生が絵 を描 くように言 うが、先生 の指 示 を じっ と待 った。先生が 「どうして絵 を描 かないの」と尋ね る と、「何 を どの色 で どう描 けばいいの ?」と男の子。 「好 き な ように描 けばいいの。 もし同 じ色 で同 じ絵 をどの子 も描 いた ら、見分 けがつか ないわ。」その子 は この新 しい学校 が大好 きになった。 この物語 を読 んで、 ほ とん どの学生 は子 ど もの個性 を無視す る最初 の教師 に対 して批判 した。 「恐 ろしい。個性 が いか されていない。 粘土細工、絵 を書 く、 これだけ聞 くと、保育 の積極的 な良い活動 をしているように聞 こえ るけれ ど、や り方一 つで こうも変わ って しま うのか」、「外 か らす ぐ入 れ る ドアがついてい る教室 の先生 は、子 どもを教育 してい く上 で 一番大切 な "考 える力" を身 につ けさせ るの を忘れて しまってい る。 お手本 は大切 か もし れないが、充分 に考 える力 の身 について きた 子 どもに下手 にお手本 をみせて しまっては子 どもが考 えたアイデ ィアが台な しになって し まう」。この著者が意図す る ところを学生 は捉 えた。 しか し、数名 の学生 はがある程度 の強 制 、お手本 も大切 で はないか との指摘 をした。「
『これが したい、 あれが描 きたい』と自分 の 考 えを持 ってい る子、何 か ち ょっ とした 『き っか け』が必要 な子 もい る。子供一人 ひ とり 個性 を持 っているのだか ら、良い所 を伸 ば し、 引 き出 してあげ、 その子 に合 った教育 を して い くことが良い。」別 の学生 は先生 と生徒、両 方の立場 か ら見 て結論 を出 した。「最初 の先生 は悪気が あってお手本 なんて もの を使 ったの で はないか もしれない。心配症 か無知かでお 手本がな くては駄 目だ と思 ったのか、 それ と も自分 の思 い通 りにや らせ たかったのかはわ か らない。結果的 には男 の子 の個性 を奪 って しまった ことにはかわ りないだろうが。」後述 の2学生 の指摘 に対 して、多 くの学生 は驚 き、 その ような考 え方 もあ るのか と、 ある学生 は 「自分 の狭 い見方 を反省」 した と述べていた。2
)人 間学 を学ぶ ことについて 「人 間学」 とい う高校 まで になか った科 目 を短大1年 の春学期 に履修 す る学生 は どの よ うな気持 ちで受講 してい るのだろうか。以下市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ は3回 目の授業後 に書かれた ものである。人 間学 とい う言葉 を初 めて聞いて、「どんな事 を 学ぶのだろ うと不安だ」、「堅苦 し くて、嫌 な 感 じ」、「とて も難 しそ う」 とい う感想が代表 的な ものであった。 しか し、実際 に受 けてみ て、人間学 は 「まず考 える もの」、「人間学 を 学 んだ ら 『人間 -自分』が少 しわかるような 気 さえす る」、「楽 しそ うな授業 に変わ って き たので、 もっ と好 きになれた ら (5分の休憩 に ピンポ ンパ ン体操 如 きの もの を取 りいれ た)」、「今 まで学 んで きた こととは全 く違 う触 れた ことのない範囲、 しか し、私たちの身近 な もの」、「自分の心 を成長 させ るもの、ただ 『覚 えてお きなさい』 とい うもので はな く、 違 う角度か ら見 る方法 もある とわか った。 こ うい うことを学ぶのは初 めてで、 どまどった け ど、 しっか り学んでい きたい」 と期待 を寄 せていた。 「人間 としての職業」 については、
「
『自分が人 間である』とは当 り前の こと、社 会 に出て仕事 をす ることだ けが職業 と思 って いた。 けれ ど、人間 とい うことも職業だ とい うことに気づ くことがで きた。今 まで当 り前 だ と思 って過 ごして きた ものの中に も、 その ような ことがた くさんある と思 う。 いろい ろ な ことを考 えることがで きそ うな人間学 は、 今 までの考 え方 に も影響 しそ うだ。 これか ら の 自分 の考 え方や物 の見方が広がればいい と 思 う」。 受講前 には人間学 は、 自分 とか け離れてい る問題 について考 えなければな らない難 しい 学問 とい うのが多 くの学生 の認識 であった。 その既成概 念 を くず して、 自分 の生活 と密接 に関係す る学問、 自分 自身 について知 る こと である と学生 に理解 させ る点 おいては、初期 の導入 の仕方、内容 は適切 であった と評価 し た い。 75 3)真実 を知 るための4つの質問 人間 とは何 か、 自分 とは何 か、 とい う質問 を考 える前 に、 ア リス トテ レスの真理 を知 る た めの4つの質 問8を紹 介 した :形相 因 (名 前 - これ は何か);目的因 (目的 -何 のために あるのか):質料 因 (構成物 -何 でで きてい る のか):動力 因 (創作 着 -だれ がつ くった の か)。これ らに答 え られれ ば、ものの真理、本 質 を知 ることがで きる とい う。以下 は子供 が 親 にす るだ ろう質問 に置 き換 えた ものである。 椅子 について 子供 :これ何 ? 親 :椅子。 子供 :何す るの ? 親 :座 るの。 子供 :何 でで きて るの ? 親 :木。 子供 :だれ作 ったの ? 演 :大工 さん。 木 について 子供 :これ何 ? 親 :木。 子供 :何す るの ? 親 :実がなった り、椅子 を作 った り、 ほかの 動物が生 きる為 の場所 を提供 した り、酸 素 を作 り出 した り、--子供 :何でで きてい るの ? 親 :さまざ まな細胞 か らで きて-・・・ 子供 :だれが木 を作 ったの ? 親 :ええ と、 自然 に--・ 大工 さんについて 子供 :この人 だれ ? 鶴 :人間、 いや、大工 さん。 子供 :どうして ここにい るの ? 親 :お まえの椅子 を作 りにきたんだ よ。子供 :何 でで きてい るの ? 読 : 皮 と肉 と骨。 子供 :大工 さんはだれが作 ったの ? 撹 :ええ と、大工 さんのお母 さんのお腹 の中 か ら。 上述 の 4つの質 問 を手 引 きに学 生 に は 「自 分」、「人間」 について当てはめて考 えて もら った。「物質だ と名前や 目的、作 り主 な どす ぐ 答 え られ るけ ど、人 間 は何 のた め に い るの か ?と問われ る と考 えさせ られた」、「どうし て も何 のために自分が存在 しているのか分か らなか った」、「私 は どうして存在 しているの か を唆味 に しか考 えず、存在す るのが当 り前 だ と思 っていた。小 さかった頃 はいろいろな 事 について疑問 を持 ち、考 えていたが」等、 突然 の 「自分」 についての質問 に多 くの学生 は戸惑 った。
4)
「自分」 とは何 か 次 に、「自分」について時間 をか けて考察 し て もらうために、「自分 とは何か」をレポー ト の課題 として書かせたが、主 に次の3つのタ イプに分かれた。 1. 自分 を否定的 に考 える学生 : 「消極的」、 「自分 を認 めた くない自分」、「単純 な思考 回路 を持 った生 き物」、「腺病 な人間」 な ど と否定的 に考 える学生が多かったo「自分一 人 で は何 もで きない。家族や友達 に守 られ てや っ と生 きて きた。私 は弱 い人間だ。た たかれた ら、す ぐに くずれて しまう。 たん すや机 につか まってやっ と立 てる赤 ちゃん の ような人間。 しか し、早 く一人 で歩 ける よ うに、今 まで支 えて くれた人々 を今度 は 自分 が支 えてあげ られ る くらい強 くな りた い」 と、今の自分か ら脱皮 したい とい う願 望 も持 っている。 この学生 の レポー トには 「弱 いか ら強 く、知 らないか ら知 っている ようにみせたい人間が 自分 は弱 い人 間だ と 悟 った とき、 その人 はは じめて強 くなった ので はないか」 との コメ ン トをした。 2.使命感 を感 じる学生 :なにか しらの使命 を もっているので はないか、 そ うあってほ しい と考 える学生 はかな りい る。「この世 で 生 きてい るのは自分が何かのために必要 と され ているか らだ と思 う。だれ に も必要 と されなけれ ば、 自分が 自分 でな くなって し まうような気がす る」、「人 は誰 で もその人 に しか果たせ ない使命 を もって生 まれて く る。私 の使命 は保母 さんになること、他 に も自分が しなけれ ばな らない ことはた くさ んある と思 う」 な ど。 3.存在意義 について模索す る学生 : 「自分 は何 のためにいるのか」 な ど、 自分 の存在 意義 を模索 してい る学生 もいる。「自分 は何 かの指令 を与 え られて この世 に生 まれて き たのか、疑問 ばか りが生 まれ る」、「何 のた めに生 きているのかわか らない。誰 かの役 に立 ってい るのか ? 誰 か のため に 自分 が 存在 で きるのな ら、 そ うい う人生 を送 りた い」、「私の事 を必要 として くれ る人 なんか いない。 そ う考 える と、 自分 とい う存在が わか らな くなる」。この ように、自分 はだれ か に必要 とされてい るのか不安 になる学生 もいるが、「高3の卒業時 に友達か ら『一緒 に過 ごした時間 は とて も楽 し く、 あたたか い ものだった』 とい うメ ッセージを もらい、 何 もしな くて も、だだ一緒 にい るだ けで、 だれかの何 かの役 に立 つ時がある」 と自分 の存在 その ものに意義があるのだ と解釈 し た学生 もいる。 ア リス トテ レスの 4つの質問 にあて はめ市 沢 :人 間学 :短 大 生 へ の ア プ ロー チ て考 えた学生 は自分 を次の ように考 える。「自 分 は何だ ろ う :人間か ら生 まれ、育 て られ、 一生 を人間 として存在す る ;何 でで きている のか :水、肉、理性 ;だれ によってつ くられ たのか : 神様 は本 当に存在す るのか、自分 は 見 た ことが ないのでなん とも言 えないが、 目 に見 えない ことで も信 じて見たい。 だか ら、 自分の作 り主 は神で はないか ;自分 は何 のた めに存在す るのか :はか りしれ ない大 きな世 界 に、たった一つ、 自分 とい う人間がい る。 ちっぽけで、 とて も重要 な存在 だ とは思 えな い。 こんな小 さいのによ く存在 で きると思 う。 しか し、人間同士の関わ りは もちろんの こと、 木、虫 な ど小 さい もの、弱 い ものを助 ける こ 77 ともで きる。 自分 は感情、理性 を もち、 それ に伴 った行動がで きるのだか ら当然であ る。 すべての もの を愛す るために存在 す る。 どん な小 さな存在 だ として も。」 2.人間 を3つの観点か ら考 える 1)宇宙 の中での人間の位置 無限 に広が るように思 える宇宙空間 と時間。 この中に存在 している人 間、 自分 は どの よう な位置 にあるのか。宇宙誕生か ら現在 まで を 1年 とす る と、 1月1日に宇宙が生 まれ、地 球 の誕生が9月中旬、人類誕生 は12月31日午 後10時30分 にな る とい う。 これ を "宇宙歴"9 の図 を使 って説明 した。 (図1) 1月 1日 9月中旬 12月31Ej 12月31tl
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22:30 24:00早
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地球の誕生 人類の誕生 現在 図 1 宇宙歴 この図 を見 る と人類 の歴史 はほんの一瞬 に 過 ぎず、 また一人 の人間の一生 は何 と些細 な ものであるかが想像 で きる。 その ような 自分 の存在意義 を問 うこと自体 に意義があるのか と、学生の反応 には悲壮感 があった。「人間 は 他 の動物 よ りも発達 して偉大 な ようだが、宇 宙 と比べ る と、 ちっぽけな生 き物 にしかす ぎ ず、人間なんか偉大で もなんで もないように 思 えて きた。 そ う考 える と、今 自分が この世 に存在 しな くて も世界 は何 も変わ らない。 な んだか、悲 し くなって きた。」また、逆 に 「人 間の存在 は宇宙全体 でみ る とほんの小 さな存 在 で しか ないが、私たちは毎 日考 え、 ものの 本質 を知 るために質問 し続 けてい る。 そんな 小 さな存在 で も理性 を使 って、 自分がなぜ こ こに存在 し、何 を しよう としているのか、何 をしなけれ ばな らないのか を考 える必要が あ る と思 った。 そ してた くさんの ことを学 び、 自分 の可能性 を引 き出 して行 きたい」 と、積 極的 に人 間の神秘性 を解明 しようとす る学生 もいる。 2)地球 に存在 してい る ものの中での人間 の位置 a.存在物のハ イアラキー 西洋 の伝統的 な形而上学 的見地か ら存在物のハ イ ア ラキー を紹 介 す る こ とに よ り、鉱 だ けにある と思われている特殊 な働 きを考 え 物 ・植物 ・動物 ・人間 にある共通点 と、人間 た。 (図
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思考 感覚 生殖 存在 図2 鉱物 ・植物 ・動物 ・人間の共通図 次 に動物 と人間の違 いを 「行動 と行為」 と い う観点か ら説明 した。行動 は動物 と人 間 に 共通 し、記憶、分析、模倣、感情 を伴 うが、 本能 のお もむ くままに、力 とセ ックスによっ て秩序づ けられ る。行為 は人間 にだ けあ り、 真善美 を理想 に持 ち、人生の意味 ・価値 ・自 由を求 めつつ も責任、決断が ともな う。10 理性 は人間だ けが所持 している と推測 され るが、 その人間の行動 に疑問 を感 じる学生が 多 くい る。「一番頂点 にい る もの として、もっ と尊敬 され るような生 き方 をしな くてはいけ ない。最近生 まれた生命 なのに、大切 な地球 を破壊 している。人間 にだけ理性がある とい う考 えは間違 っているように思 えて きて しま う」、「犯 罪 な どが増 え、理 性 が な い人 もい る」、「人間 は他 の もの よ り優 れているのだろ うか。"半分天使 で、半分動物 である"とい う 言葉 は とて も考 え深 い」。人間の存在理 由 とし て 「他 の鉱物や動物 にはで きない ことをす る 義務 が あるのではないか」 と考 えさせ られ る コメン トもあった。 「地球上 には これ以外 に自然 と呼べ る もの はないのだ ろうか」 と、超 自然界 の存在 を問 う学生、 また、死後 の世界 に も目を向 ける学 生 もいた。「この世 は ものが有 るか無 いかの ど ち らかだ とい うが、物体 とは目に見 える もの だ けを指 すのだろうか。超 自然現象である幽 霊 な どの存在 は本 当にあ るのか。 目に見 える ものだ けを有 とす ることはで きない と思 う。 酸素 な どの気体 は目に見 える もので はないが、 存在 している。死 んで しまった らどうなるの か。体 は この世 か ら消 えて しまうが、意識や 感情 は どうなって しまうのか。天国 に行 って、 第2の人生 を送 るのか。 そ うした ら人間の存 在 は永遠 な もの になって しまう。人間 は どこ か ら来 て、最終的 に どうな るのか。
」この学生 の質問 については胎児が母親 の子宮 で育 ち、 誕生 までの過程 を使 って説明 した。 もし、胎 児 に思考能力があるとすれ ば、「この狭 く暗 い 子宮 の中で どうして自分 には手足や 目があ る のだ ろう」 と考 えるので はないか。 しか し、 子宮の中で母親が どの ような栄養 を とるか に よって、胎児の様々な器官の健全 な発育度 に 差が生 じ、誕生後 の生活 に影響 を及 ぼす。子 宮 は水 の世界であ り、胎児 に とって この空気 の世界 (超 自然界) に誕生 して くることは水 の世界か らの離別 であ る。次 に この世界 への 誕生後、赤子が成長す る過程 で人間 に特有 な 理性、善悪 を判断す る思考能力 と呼 ばれ る も のが発達す る。思考で きる人間 は今度 は 「な ぜ 自分が思考で きるのか」 を問 うこともで き る。 この空気 の世界か ら離別 した ときに、胎 児の肉体 の器官が空気 の世界で必要であるよ うに、次の世界で この理性 、思考能力 を必要市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ とす るか もしれない とい う類推 もで きる。 と 言 うことは、健全 な思考、理性 を発育 させ る ことが必要 なので はないだ ろうか。 では 「理 性」 とは何か ? b.こころ 伝統的な西洋思想で は人間 に特有 な もの と して理性 をあげているが、 この意味 は広 い領 域 に及ぶ。 日本語 の 「こころ」 もこの理性 の 中に含 まれ る。 しか し、「こころ」の解釈 もま た、人 によって違 う。「こころ」とは何か ?こ の質問 に対 して、 どんな教育 を受 けたか によ って、答 えが違 う とい う。11理科 系の教育 を 受 けた人 は 「記憶」 と答 えた人 が大半、文化 系 は 「考 える こと」、医学 ・心理学系 は 「記憶
」
や「感情」、 コンピューター系 は「記憶 と分析」
をあげる。学生 に統計 を話 さず に 「こころ と は何 か」 を書 いて もらった結果、大半が 「考 えること」、「感情 」と答 えた。 ここで、 『ここ ろのチキ ンスープ』の第2章 「自分 を見 つ け る」 の中にあ る話 (金 の仏像) を読 んだ。下 記が要約 であ る。121
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年バ ンコクの高速道路建設で、寺 に納 め られていた巨大 な粘土 の仏像 をク レー ンで吊 り上 げ始 めた ところ、ひびが 入 った。雨 も降 り出 し、寺 の管長 は作業 を中止 させ、おお きな布 をかぶせた。 そ の夜 ひび割れか ら金色 の光 が漏れていた ので、粘土の表面 をのみ と金づちで剥が してい くと、神々 しい金無垢 の仏像 が現 われた。 タイが シャム と呼 ばれていた こ ろ、 ビルマ軍が侵略 を企 てた際、 この仏 像 を略奪か ら守 るため、僧侶 たちは外側 を粘土で塗 り固めたが、全員 ビルマ軍 に 殺害 され、 この秘密 はあ きらかにされな 79 か った。人間 はみな、 この仏像 と同 じ殻 を持 ってい る。恐怖 か ら身 を守 るため、 多 くが 2歳か ら 9歳 ごろまで に殻 を作 っ て、「本 当の 自分」をおおい隠 しして しま う。 あの管長 がのみ と金づ ちで殻 を破 っ た ように、私 たち も 「本 当の 自分」 を も う一度 さ ぐりあてな けれ ばな らない。 多 くの学生 は自分 もや は りこころの殻 を持 っている と考 えている。「目上 の人 や初対面 の 人 の前だ とお とな し くて、 いい子 な自分 を作 り上 げて しまう」、「人間 は不思議 な もの を持 ってい るんだな。 こころは大切 な ものだか ら、 カラで守 ってい るんだ」。しか し、その心 の殻 が全部 むけた らどうなるのだ ろ うと心配 もす る。「赤 ちゃんに戻 って しまいそ うな気が して 怖 い」、「自分 の殻 を破 る ことは とて も恐 ろ し い。弱 い、悪 い人間だか らか もしれ ない」。同 時 に、で きることな ら、 その殻 をこわ したい とも考 える。「人 に嫌 われた くない、自分 を も っ とよ く見せたい、 そ う思 うたびに殻 が少 し ずつ厚 くなってい くのか もしれ ない。 もしそ うだ とした ら、私 の心 は とて も厚 い殻 で覆わ れていることにな る。 これか ら少 しずつで も その殻 を くず していけた らと思 う。」 我々の体 はお風 呂に入 り、 シャワー を浴 び て も、浴槽か ら出た瞬間 に垢がつ く。 こころ の場合 も同 じことが言 えるか もしれ ない。 ド イツの宗教改革者ル ター は手 を洗 って も洗 っ て も、 自分 の汚 さが見 えて くる と言 う。殻 を やぶ るためには どうした らいいのか。 この質 問 は、 こころの垢 は何 で洗 い流すのか、 とい う質問 に も置 き変 え らるだ ろ う。学生 の返答 は様 々であった。「人 と出会 うことによって、 自分 の内面 は磨 かれてい く」、「信頼 で きる人 間関係。『この人 な ら私 を分 か って くれ る、裏切 った りしない』 と信頼 で きる人 の前で な ら、 自分 を隠 し守 るた めに作 った殻 をはがせ るか もしれ ない」、 「心 の水 を持 て るかが大切 だ。 その水 は友達、親 か らもらうわ けで もない、 自分 で手 にす る ものだ」、「心 の レンズ を磨 い て、本 質 を見極 め られ るよ うな 目をつ くる。 哲学 を極 めて、真理 に目覚 めた人 は、 それが レンズ を磨 くク T)ナ一 になったのか もしれ な い。何 で磨 くか は人 それ ぞれ」、 「涙 で流す。 自分 の殻 を破 るた め には、人間 は自分 の本質 のすべ て を他人 に さ らけだ きな くて はいけな い。他人 にさ らけだす ことはけ して楽 しい こ とで はな く、つ ら く、涙 がで る と思 う。 だか ら人 間 は自分 の涙 で そっ と心 を洗 い流 す」。 ここで 「涙」 とい う言葉 が使 われ たが、 し ば ら くの間、 この 「涙」 についての論争が起 こった (レポー トの上 で はあるが)
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「私 は よ く涙 を流す。弱 い証拠 だ と思 っていたが、 ク ラス メー トの話 (心 のあか を流すの は涙、流 す分 だ け自分 の こ とを知 る ことが で きる。 そ の水 が枯 れて しまう と、人 は死 んで しまうの で はないか) を聞 き、涙 を流 す ことが恥 ずか しか った 自分 か ら、流せ る自分 に誇 りを持 と う と思 った」、「涙 を流す と気持 ちが楽 にな る。 自分 自身 で作 った心 の殻 を流 せ るか らな の か」、 「涙 を流 して人 は強 くな る とい う考 えを 聞 いて、 ドキ ッ とした。私 も涙 を流す ことは 弱 い証拠 、人 に泣 き顔 なんて見せ ちゃいけな いんだ と思 っていた けれ ど、泣 くの は弱 いか らで はな く、強 くな るための涙が そ こにあ る か らだ と思 った」、 「友達 に涙 の大安 売 りを し てい る と言われ て、 シ ョックを受 けた。素直 に涙 を流 して も弱 い ことで はない と思 えたの は、 ボラ ンテ ィアで出会 った保母 さん に感情 が豊 かだ とい う証拠 よ と言われ て、気持 ちが 楽 になった時 だ った」、「泣 くことは恥 ずか し い こ とで はない、 と言 っていた人 が い るが、 本 当 にその通 りだ。私 も友達 関係 で 悩む こと だ らけ。 そんな時 いて もた って もい られ な く な り、涙が 出て くるが、私 はお もいっ き り泣 いて、乾 ききった心 に水 をあげ る」。 しか し、同 じ涙 に も下心が あ る とい う指摘 もあ った。「涙 には種類 が あ る。泣 いてス ッキ リす るカラを破 る涙 、 もうひ とつ は、人 をだ ます、泣 けば どうにか して もらえる、 とい う 下心 か ら くる涙。涙 は きれいで、周 りの人 に 影響 を与 えやすいか ら、人 の前 で は必 要 な時 に しか見せ てはい けない」、「私 も泣 き虫 だ っ たが、人 に 『泣 けばす むんですか』 と言 われ た。確 か に泣 けば、誰 かが同情 して くれ る と い う気持 ち も裏 にあ った。失敗 した ら、 い じ め られた ら、怒 られた ら泣 く、 こうい う時 に 泣 くの は言 いたい ことも言わ ない、ただの 『ず るい』 になって しまう。感動 して泣 く良 い涙、 心 を洗 い流 して くれ る涙 とは心 の中で流す涙 だ と思 う」。 次 に、聖 ア ウグスチ ヌスが説 く 「心 の 目」 とい う概念 を紹介 した。我々人 間 には知覚 す 知覚 す る主体 知覚作用 知覚 され る対 象物 知覚 す る為 に必 要 な源泉 体 の 目 見 る 物体 (木 、花 ) 太陽 頭 の 目 理解 す る 科学的真理 (2+2=4) 法則 (物理 .数学的) 善悪 イデア (道徳 ) 図3市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ る主体 としての肉体 の 目があ り、「見 る」とい う作用で物体 を知覚す る。 そのためには光が 必要である。肉体 の 目 と同 じように、ある概 念 を理解 す る 「頭 の 目」、 そ して、「頭の 目」 で も理解 で きない 「心 の 目」があ るのではな いか とい う考 えである。 (図3) これ についての学生 の反応 は次 の ような も のである。「心 の 目は一人 ひ とりが違 うので、 これ を育 て るの は周 りの人 で はな く、 自分 自 身。 自分 で自分 を見直 した りしない と心の 目 は育 たない と思 った」、「頭 の 目 と心 の目は作 用が似 ていて、私 はそれ らを間違 って使 って いることがある。人か ら相談 された とき、心 の 目で理解 しなけれ ばいけないの に、 うわべ の頭 の 目で理解 しようとす る。 その人の身 に なって考 えてあげない とどんな事 を言 ってあ げた らいいのか心 の 目は教 えて くれ ない」、 「人間 は頭 の 目で理解 していて も、心の目で 受 け入れ ることがで きない時が ある。分か っ ていて も出来 ない、 しない。 自分 自身 にい ら ついた りして しまう。 それで も対 象物 は存在 しているのだか ら、 この3つの 日をしっか り コン トロール しな ければいけない」、「今 日ま で、講義や人 の意見 を聞 いて、 自分 で も色々 考 えようとして きた。で もそのたびに 『他 の 人 は こんなに沢 山、様々 な ことを考 えてい る んだ、 こんなに色々見つ けているんだ』 と思 い、固定的な決 ま りきった考 え方 しかで きな い自分が さらにわか らな くなって きた。 ち ょ っ と前 まで は 『昔 は もっ と柔軟 な考 え方がで きていたのに』 と思 っていた けれ ど、それ は 過去の 自分 を美化 しているだ けなのではない か、 と思いはじめて、 自分 の 「あか」 をお と す とか、「心の 目」とかい う以前 に、今 までの 自分 について、 もっ とわか らない部分が思 い 浮かんで きた」。 ト1
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)環境 ・人 との交わ りの中での人間(
『風 の旅』 を中心 に) 4回 目以降の授業 は、教科書 として使 用 し た星野冨広氏 の詩画集、 『風 の旅.』を中心 に進 めた。 この詩画集 には人間が持 つ様々 な側面 (生死 、愛憎、幸 ・不幸、健康、美醜等)が 記 されてい る。各学生 には自分 の生 き方 ・価 値観 と著者 の もの とを対比 す ることによ り、 自分 とい う人間 を探究 してほ しかった。 a.
「幸せ」 とは ? 『風 の旅』 の 「は じめに」 の章 で星野氏 は 次 の ように書 いている。13 私 は少年 の頃、 この山をち ょっぴ り憎 ん でい ました。父母 の ように土 に まみれ狭 い畑 をか きまわ しなが ら送 る山の生活 が、 堪 えられなか ったのです。お金や地位 な ど、一見 しあわせ そ うに見 える ものが、 山の向 こうにあるように思 っていたのか もしれ ませ ん。 「いつか--、 きっ といつか--・」 なんて思 いなが ら、山 を見上 げていたの をおぼえてい ます。 その 「いつか」が、 とんで もない方法でや って来たの は、大 学 を卒業 した年 長六月で した。 この文章 を学生 に読 ませた後 に、各 自の「し あわせ」 とは何 か を書 かせた。学生が考 える 「しあわせ」 を要約 す る とつ ぎの ようにな る。 1) 自分 ばか りでな く、家族 ・友人 ・周 りの 人が健康 である;2)家族 ・友人 と仲良 く暮 らす;3)自分 の人生 には 目標 は もつが、 あ ま り多 くは望 まない :4)何事 もな く無事 に 暮 らせ るような平 凡な生活がで きる;5)今 をあるが ままに生 きる。14「幸せ」 とは 「め ぐりあわせがいい こと」、 「運命」 と辞書 には定義 されている。星野氏 は中学教員 として赴任 した2ヵ月後 に体操 ク ラブの指導中墜落。手足が不 自由にな り健康 が奪われた。 それ によ り、 目標 であった体育 の教師の職 も着任後 にす ぐに断念。普通 の平 凡 な生活 もで きな くなった。介抱 す る年老 い た母業削こむか っては 「くそばばあ、俺 なんか どうなったっていいんだ。産 んで くれなけ り やよかったんだ」 と罵倒 す るな ど、家族 との 関係 に も悩 んだ。 そ して、毎 日のあ るが まま の生活 は首か ら下が全身麻痔 の車椅子の生活 である。 しか し、 この ような状況 の もとで も 星野氏 は 「いつか・--、 きっ といつか」の 「幸 せ」 に出会 った とい う。 それ は 「何 もの に も 代 えられないすぼ らしい出会 いだ と思 ってい る」と記 している。「人間学」の授業 を進 め る 上 で、 『風 の旅』は学生 に とって 「幸せ とは何 か」 を考 える素晴 しい導 きとな った。 b.失 うとい うこと 「失 うとい うことと、与 え られ る とい うこ とは とな り同士 なのか もしれ ない」15 と星野 氏 は述べ る。人 のために自分 の もの を失 う場 合、相手 がなにか しらの もの を得 る。席取 り をす ることによって、 自分 は席 を得 るが、相 手 は失 う。 自分が席 を譲 ることによって、相 手 はそれ を得 る。別 な例 では、音楽 を聴 くこ とか ら自分で作 曲す るまでの ことを考 えてみ る。 ラジオで心 をゆきぶ るような音楽 を聴 き、 その曲のCDを購入す る。 お金 は失 うが、満 足感 を得 ることがで きる。今度 は自分でその 曲 を弾 きたい と思 い、ギター を買い、時間 を か け練習す る。 自分 の時間 は失 うが、それ に もまして曲 を弾 ける満足感 は素略 しい ものだ ろ う。究極的 にはこの世 には自分 の肉体 ・精 神 を犠牲 に して まで も、得 る ものがあるか と い う間 に も発展す る。 下記 は 「失 うことと、与 えられ ることは と な り同士」 とは どうい うことか とい う質問 に、 学生が答 えた ものである。「別 に親 しくない、 孤立 していた クラスメー トを事故 でな くした。 後 になって、彼女 のいい ところ もいっぱい知 り、失 ってか らは じめて もっ と早 く彼女 を知 ってあげれ ばよか った とクラス全員で後悔 し た。 その後 クラスメー トみんなの仲が良 くな り、人 を思 いや るようになった。 ひ とりの人 を失 う、失 った ものが大 きかった分、私たち の得た ものは とて も大 きか った」、「高校 の時、 中学の同級生 をバ イクの事故で亡 くした。 そ の後、別 れ る時、友人 には心か ら 『気 をつけ てね』 と言 えるようになった。 これ も失 って 与 えられた ことなのか」。 病気 になった ときに健康 であることの素暗 しさがわか る、また、「自分が下宿す ることに よって家族 のあ りがたみがわか る」 ように、 失 った時 に初 めてその価値 に気がつ くときが ある。 しか し、 もの を失 う前 にその大切 さに 気付 きたい、 自分 に与 えられてい る もの を慎 重 に吟味 したい とい う学生 も何人 かいた。「失 って初 めて気づ くよ り、存在 している時か ら 大切 さを感 じていたい。今大切 と思 っている ものが、本 当 に大切 なのか、失 って も大切 だ と思 えるか。失 ってか ら気づいた ものが本 当 に大切 なのか。私 に とってその ものは何 んだ ろう」 と自問す る。別 の学生 は祖母 を亡 くし て初 めて祖母が与 えられた と感 じた。「おばあ ちゃんのすべてが失われてか ら一気 に飛び込 んで きた。私 には失 うことと与 え られ ること、 そ して後悔 もまた隣 り合せだ と思 った。失 っ ては じめて後悔 す る。人間 はなぜ失 う前 に気 づ けないのか
。
」
市 沢 :人間学 :短大生へのアプロ-チ 「失 うことは こわ くない」 とい う学生 に勇 気づ け られた学生 もいる。「失 うことが恐 ろ し く、 自分への シ ョックを極力抑 えようとす る 分、与 えられた ものに対 して100%喜ぶ ことも で きなか った。で も、何 か を失わなけれ ば与 え られ る ことも少 ないのな ら、与 えられ るも のに対 して心か ら喜ぶ ことがで きるのか もし れ ない」、「失 うことが 怖 く、失 った とい うこ とを認 めることもくや し く、新 しい何か を素 直 に受 け入れ ることがで きなか った。 これか らは失 うことを怖 が らず にいたい。何か を失 った 自分 も認 めてあげたい。 そ した ら、 こん どは新 しい何 か、失 った もの よ りももっ と大 きい もの を手 にいれ ることがで きるので はな いか」。 C.イ憂越感 と劣等感 星野氏 は自分 はいかに人 に世話 になって生 きて きたか を強 く認識 す るようになった。病 院生活以前 は 「自分 の力 だ けで生 きてい る と 錯覚」 し、優越感 ・劣等感 を持 って、生 きて きた とい う。 お金 さえ出せ ば食べ物が買 える。 しか し、 その食べ物、農作物 ・魚介類 ・畜産 物 も人 が時間 をか けて栽培 ・捕獲 ・飼育 した ものであ り、 また、 その もの 自体 自然か ら与 え られた ものである。生 まれ る と同時 に我々 は人 に助 けられ成長す る。青年期 に独 り立 ち して自分 の体 を資本 に仕事 を見つ ける。 しか し、 その体 も自分が作 りだ した ものではない。 自分 の体型 ・性格 ・能力 ・家庭環境 について もしか り。 ある程度 の努力 によって、 自分 に 備 わ っている能力 に磨 きをか ける、体力 を維 持 す ることは可能 であるが、生 まれつ き与 え られた ものについて劣等感 や優越感 を持 つ と い うことは、無駄 な ことではないか。逆 に、 自分が現在 ある姿、持 ってい るもの、 自分 を 83 生 か して くれてい るものに感謝 すべ きで はな いのか。借 りたアパー ト・下宿 の部屋 の こと を考 えてみ る。間取 りは どうか、窓が い くつ あって、 そ こか らは陽が差 し込 むか、押入 は 広 いか は自分が どうす ることも出来 ない こと で ある。 いったん借 りて しまえば、 その部屋 を管理 す る責任があ る。部屋 の状態 に不満 を 持 つ変わ りに、部屋 を掃除 し、 きれ いにす る、 部屋 が明 る くな るようにカーテ ンの色 を考 え るな どしたほ うが建設的だ ろう
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名 の学生 の反応 を記述 す る。 「私 もよ く『人 はで きるの に、私 はなんでで きないんだ ろう』 と思 うこ とが あ る。 で きない と決 めつ けてチ ャレンジ す る前 か らあ きらめているような今 の 自分。 星野 さんは私がみつ けられ ない大切 な ことを 知 ってい るんだ と思 った。 それ は手足 の 自由 よ りもっ と幸せ な ものなの か もしれ ない」、 「で きない ことに対 して も感謝 しよう。 自分 にで きない ことが あることを感謝 したい。 図 工 ので きない私の考 え方が変わ った」。 d.詩集 よ り 第 1回 目の授 業 で「
『風 の旅』 の詩 集 を読 み、一番印象 に残 った詩 について感想 を書 く」 とい う課題 を与 えた。以下 はい くつかの詩 を 選 び、課題 として書 いた学生 の感想、 また は、 4回 目以降 の授業で それぞれの詩 について取 り扱 った際 に、授業後 の感想 として書 かれた ものであ る。 はな しょうぷ :黒 い土 に根 を張 り/ どぶ水 を 吸 って/ なぜ きれいに咲 けるのだ ろ う/私 は /大ぜ いの人 の愛 の中にいて/ なぜ み に くい ことばか り/考 えているのだ ろう/1
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●私 は両親、先生方、友達 に囲 まれ、何 の不 満 もな く生活で きるのは幸せな ことなの に、 "今 日はつ まらなか った" と思 う目が ある。誰 かが つ まらな くして いるわ けで はない。 自分 が つ まらない と、 み に くい方 に考 える だ けだ。心身 ともに健康 な私 が、星野 さん に こんな ことを問 いか け られ て、す ご く恥 ずか し くなった。大勢 の愛 にか こまれ て、 私 は幸 せ。今度 は私 が周 りの人 を幸せ に し た い。 ●人 に傷 つ け られた り、苦労 した人 の方が何 も知 らず に生 きて きた人 よ りも優 し く、人 を思 いや る事 がで きる と思 う。 どぶ水 を吸 い、苦労 しなが ら生活 していて も、 いつか は きれ いな花 が咲 くんだ と思 う。人 も同 じ で、 みな心 に花 を持 ってい る。 その花 を咲 かせ ようとして生 きてい る気が して きた。 なの はな :私 の首 の よ うに/茎 が簡単 に折 れ て しまった/ しか し菜 の花 はそ こか ら芽 をだ し/花 を咲 かせ た/私 もこの花 と/同 じ水 を 飲 んでい る/同 じ光 を/受 けてい る/強 い茎 にな ろ う
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●生 き物 は弱 くて、 もろいが、壊 れ て しまっ た後 が大切 なのだ と思 う。挫折、堕落 して も、が んばって はいあが ろ うと努力 すれ ば いいのだ。姿、形 は違 って も、 この詩 にあ るよ うに、同 じ空気、水 、光 を浴 びて生活 を してい る。 はい上 が るチ ャンス も平等 に あ る。 このチ ャンス を無駄 に してはい けな い。必 ず、 自分 自身 をなん らかの形 で助 け て くれ る ものが あ るので はないか。星野 さ んの場 合菜 の花 だ ったのか もしれ ない。 自 然 の中 にあるや さ しさ と力強 い仲間が い る とい うことを教 えて くれた。 ●私 な ら折 れた らその まま枯れ て しまいそ う な花 になって しまうだ ろ う。人 間 も花 と同 じように、 くじけて もまたそ こか ら立 ち直 って見事 な花 を咲かせ るように頑 張 る こと が大切 だ と思 った。元気 が ない とき、何 か に失敗 して しまった時 に このエ ッセイ を思 い出せ ば くよ くよ しないで頑 張れ る気 がす る。 しおん :ほん とうの ことな ら/多 くの吉葉 は / い らない/野 の草 が/風 にゆれ るように/ 小 さな し ぐさに も/輝 きが あ る/1
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●私 は物 質的 な もの を量 に よって心 を満 た そ うと生 きて きた。私 た ち は自分 を認 め られ たいが た めに何 か 目立 つ ことを必要以上 に 求 めて しまいが ちだが、量 よ り質が大切 な のだな と思 った。 これ か らは質 の良 い もの を求 め、人格 的 に自分 自身、磨 かれたい。 まむ し ぐさ :ひ とたた きでおれ て しまう/か よわ い茎 だか ら/神様 はそ こに/毒蛇 の模様 をえが き/花 をか ま くびに似 せ て/折 りに来 る者の手 よ り/護 ってい る/やがて秋 には/ 見 か けの悪 い この草 も/真紅 の実 を結ぶだ ろ う/すべ て神 さ まのな さる こと/わた しも/ この身 をよろ こんで い よ う/1
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●私 は悲観 的 に物事 を考 えて しまう。「あの子 は細 くて可愛 いの に どうして 自分 はみ に く いんだ ろ う。 あのアパ ー トは新 し くて、 き れ いなの になぜ 自分 のアパ ー トはポ ロっち いんだ ろ う。」自分 で は価値 が ない、 ダメな もの と決 めつ けて も、 それ ぞれ必要 とされ て存在 してい るのだ と思 った。 自分が太 っ てい るの も、 まわ りか ら 「心 が暖 かそ う」、 アパ ー トが ポロっちいの も、 これか ら先 ど んな苦 しい環境 に立 た され て も大丈夫 な よ うに若 い うちか ら良 い環境 で楽 ばか りして いる子 になって しまわ ない ように神 さまが 与 えて下 さった こ となのだ と思 った。今、 独 り暮 らしを始 めた ばか り。毎 日が 忙 し く、 ゆ とりの な くなった水 の枯 れた心 の花 に沢 山のお水 を注 いで もらった気 になった。 ど くだみ :お まえを大切 に/摘 んでい く人 が市沢 :人間学 :短大生へのアプローチ いた/臭 い といわれ/ きらわれ者 のお まえだ けれ ど/道 の隅で/歩 く人 の足許 を見上 げ/ ひっそ りと生 きていた/ いつかお まえを必要 とす る人が/現われ るの を待 っていたかの よ うに/ お まえの花 / 白い十字 架 に似 て いた
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この詩の朗読後、星野氏 の次のエ ッセイを 読 んだ。「わた しが元気 だった ころ、か らだの 不 自由な人 を見れ ば、かわいそうだ とか、気 味がわ るい とさえ思 った ことが、ずいぶんあ りました。 しか し、 自分が車椅子 にのるよう になって、 は じめてわかった ことなのですが、 か らだが不 自由な自分 を、不幸だ とも、いや だ とも思わないのです。 --不 自由な人 を見 て、す ぐに不幸 をきめつ けて しまったのは、 わた しの心の まず しさで した。だか ら、 ドタ ダ ミを見た とき、わた しは思い ました。"自分 の まず しい心で、花 を見 てはいけない"と。」21 ●私 は目立 つ こ とな くひっそ り生 きて きた。 私 の存在 を必要 として くれ る人 がいるんだ ろうか、 この場 か らいな くなって も、 どれ ほ どの人が気づいて くれ るんだ ろうと思 っ ていたか ら、 ど くだみに似 てい るん じゃな いか。 けれ ど、私 は どくだみの ようにきれ いな花 を咲かせているのか不安 になった。 「不 自由な人 を見 て、す ぐに不幸 と決 めつ けて しまったのは、私の心の まず しさで し た」 とい う文 に ドキっ とした。私 は今 まで そ う思 っていたので心が貧 しか ったんだ。 不 自由 と不幸 はまった く別 の ものだ とい う ことを教 え られた。 ●かわいそ う、大変 とか思 って障害者 を見て しまう。友達 の こともそ う見 ている ときが あるのか もしれ ない。心配 しているつ もり が、 その人 に とっては、ただの同情 に思 え て しまう。貧 しい心で はな く、いい心で人 85 を見 てい きたい。 そのために自分 自身 を も っ と成長 させ、感性や心 を豊か に してい き たい。 らん :む らが って咲 いている と/楽 しそ うで / ひ とつひ とつの花 は/淋 しい顔 を している /お まえも/人 間 に似 てい るなあ/2
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●周 りに友達がい る時 はい ろんな ことがで き る気 がす るが、 いざ一人 になった時 は何 も で きない 自分 に自信がない。 そんな私 の事 を書 いてい るみたいでズキズキ きた。 自分 も自信が もて るような生 き方 をしていかな けれ ば と思 った。 ●自分 が何 か をや る とき、選 ぶ とき、周 りの 人 と同 じであ る となぜか安心 して満足す る。 少 しで も違 うとなん とな く落 ち着 かな くて、 不安 になって くる。「自分 な りの生 き方」は 私 の 目標 であ り、夢であ る。 それ は どうい う生 き方であろ う。す こしで も短大生活 の 中で見つ けるこ とがで きれ ば と思 う。 ●友達 と一緒 には しゃいでい るとき、家族 と 一 日の出来事 をお喋 りしている とき、楽 し くて、「生 きてい るんだな」 と実感 で きる。 夜 中、 ひ とりばっちに気がつ くと、 ぼー っ と無表情 で力 な く存在す る。昼間の 自分 に 比 べた ら、寂 しげ.や っぱ り人間 は一人 じ ゃ生 きていけないんだ。考 えや気持 ちを交 換 で きる相手がいて こそ人 は輝 いてい ける のだ。 e. だだ一 つ必要 な もの たんばぽ :いつだ ったか/ きみたちが空 を と んで行 くの を/見 た よ/風 に吹かれて/ただ 一つの もの を持 って/旅す る姿が/ うれ し く てな らなか った よ/人間だ って どうして も必 要 な ものは/ただ一 つ/私 も余分 な もの を捨 てれ ば/空が とべ るような気が した よ/2
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この詩 を読 んだ後、学生 に目を閉 じさせ、 手 は後 ろに組 ませ、口が さけない、耳が聞 え ない と仮定 して、「自分 に とって どうして も必 要 な もの、ただ一 つは何か」 を考 えさせた。 7分程、 その状態の ままにさせたが、 どの ぐ らいの時間 目を閉 じた ままにす るか はあえて 知 らせなかった。「自分 の ことを知 っている人 が いないのは とて も不安 だ。周 りの人 の中に 自分が溶 け込 んでいる今の状態が とて も大切 な ものに思 えた」 とい うように 「人」が 自分 に とって必要な もの と答 える学生が多か った。 しか し、「最初 は『これで は一人 で は何 もで き ないLDと、 自分以外の人の存在が必要だ と思 ったが、一人の世界 に入 り込 み、 自分が今考 えていること、や った ことな どが どん どん思 いだ されて、 目を開 けた ときに 『そ うだ、 こ こは教室だ、講義 の途 中だ』 と思 い出 した。 もし、 自分が 目が見 えず、耳 も聞 こえず、動 けな くなった ら、ひたす ら自分 の ことだ けを 考 え続 けるだろ う」 と、人間 に とってただ一 つの必要な もの は、「考 える頭」と答 えた学生 もいる。また、ユニー クな反応 として、「今 自 分が持 っていない ものを追 い求 めてい くこと も大切 だ けれ ども、 自分 の力で は どうしよう もない生 まれつ き備わ った ものは 『自分の個 性』 として大切 に してい くこと、 あ りの まま の 自分 を受 け入れてい くこと」が必要である と考 える学生 もいた。他 の学生 は 「心」 と答 える。「確かに私 は目 ・耳 ・口 ・身体 ともに何 も不 自由がない。障害者の方 は何 か に障害 を 持 っているが、外見的な ものであ る。人間 に その人 な りの心が存在 すれば、心の 目、耳、 口で十分 だ と思 う。大切 な ものは内面 なのだ か ら