• 検索結果がありません。

がん患者における周術期の口腔ケアについて

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "がん患者における周術期の口腔ケアについて"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

がん患者における周術期の口腔ケアについて

著者

渡辺 孝章

雑誌名

鶴見大学紀要. 第3部, 保育・歯科衛生編

50

ページ

49-52

発行年

2013-03

URL

http://doi.org/10.24791/00000095

(2)

1、はじめに  直近の人口動態調査(平成23年)によると、死因の第1 位は悪性新生物、第2位は心疾患、そして第3位には脳血管 疾患に代わって「肺炎」が浮上したことが分かった。日本 人の「三大死因」の順序が53年ぶりに変わったことになる1)  厚生労働省では高齢者の肺炎の増加がその要因と考えて いる。高齢者の肺炎の傾向では、70歳を越えると死亡率が 急増し、80歳以上で特に高くなっている。高齢者の肺炎の 最大の原因は「誤嚥性肺炎」であり、実際に高齢者の肺か ら多くの歯周病原細菌が分離されている2)。ゆえに、口腔 衛生の重要性がはっきり示されている。また、依然として 死因の第1位である「がん」の治療は外科処置、放射線に よる局所療法および全身療法として抗がん剤による化学療 法がある。表1にがん患者の治療法を示す。がん化学療法 および放射線療法がその大半を占める。  抗がん剤治療はがんの種類を問わず、口腔内に障害をも たらす危険がある。特に、頭頸部がんや消化器のがんなど に高い頻度で口腔粘膜炎が発症する。さらに、呼吸器がん では骨髄抑制の抗がん剤が投与され、それにともない白血 *〒230−8501 横浜市鶴見区鶴見2−1−3 鶴見大学短期大学部歯科衛生科

Department of Dental Hygiene, Tsurumi University of Junior College, 2−1−3 Tsurumi, Tsurumi-Ku, Yokohama 230− 8501, Japan. 球減少が生じ歯周病の悪化を招く、ゆえに周術期における 「口腔衛生」は非常に重要となる。  本年策定された「次期がん対策推進基本計画」の骨子に は、がん治療に歯科と連携して治療を行なうことが明文化 された。また、2012年4月の診療報酬改定で「周術期口腔 機能管理」が新設され、歯科治療のニーズがますます拡大 することになった。つまり医科での術後管理に対して保険 が適応となり、肺炎や創部感染などの予防の一部を歯科が 受け持つ、歯科と医科との連携が実現されたことは非常に 画期的なことである。  今回、周術期の保健指導、患者自身によるセルフケアお よび歯科医師、歯科衛生士によるプロフェッショナルによ る口腔ケアの重要性について考察することとした。 2、周術期に口腔清掃が必要な理由  口腔内細菌は約700種類、1mg 中に1億個を超える密度、 そしてバイオフィルの形状で抵抗性を持って生息している。 種々の治療の中で、抗がん剤治療や放射線治療により、さ らに感染しやすい環境下では真菌が増殖、口腔粘膜炎が発 表1 がん患者の治療法 日本歯科医師会 「手術前患者を対象とした口腔ケア」より         

がん患者における周術期の口腔ケアについて

Perioperative oral care in cancer patient

渡辺 孝章

(3)

鶴見大学紀要 第50号 第3部 症し、齲蝕の多発、歯周病も重症になりやすくなる。これ らを予防するためには、がん治療をはじめる前から口腔清 掃をセルフケアおよびプロフェッショナルケアを通して確 立しなければならない。 3、がん治療にともなう口腔内の合併症とは 1)口腔粘膜疾患 (1)抗がん剤投与による口内炎  4~5日経過後鉱口腔粘膜に腫脹が表れ、表面が滑沢化 する。7日以降、粘膜表面が発赤、粘膜剥離、潰瘍が形 成される。10日目以降、潰瘍の痛みが最も強い時期を迎 えるが、徐々に軽減し3週~4週目に治癒する。その機序 は、抗がん剤の副作用により、粘膜が直接破壊され、生 理的な turn over が阻害されることによる。また、10日 目~14日目に白血球減少による局所感染が出現し2次性 の口内炎を発現する。  口腔粘膜炎の発症頻度が高い抗がん剤では、抗生物質 であるブレオマイシン、植物アルカロイドのイリノテカ ン、代謝拮抗剤のシタラビン、アルキル剤のシクロフォ スファミドなどがあげられる。 (2)放射線治療による口内炎  放射線治療は少ない放射線を毎日、6週~7週間照射す る。そのため、2~3月間、口腔粘膜炎が持続する。2週 目から粘膜が熱を持った感覚が表れ、発赤と粘膜の一部 が剥離し潰瘍が形成される。6週以降、症状が強くなり、 7週目には疼痛が最も強くなる。その発生機序としては、 口腔粘膜の再生障害であり、活性酸素やサイトカインの 関与が考えられる。また、唾液の分泌量の低下、口腔乾 燥症、白血球減少による二次感染が指摘されている。摂 食障害による栄養障害なども関与している3) 2)口腔乾燥  抗がん剤投与、放射線治療により唾液の分泌量の減少お よび質が変化し口腔乾燥が発症する。特に、頭頸部の照射 により唾液腺自体が破壊される。唾液の減少は自浄作用、 抗菌作用の働きを阻害し様々な障害を招く。 3)口腔カンジダ症  口腔乾燥症に伴い、カンジダ症が合併することがある。 真菌である Candida による日和見感染であり、偽膜を形成 する疾患である。紅斑性カンジダ症では舌乳頭の萎縮を主 な徴候として、疼痛や灼熱感などの自覚症状を発現する。 軽症例では口腔ケアで改善されるが、保湿ケアと義歯装着 者では誘発因子である義歯の管理を充分行なうことが重要 である。治療薬は抗真菌薬であるアンホテリシンBで含嗽、 イトラコナゾールを塗布、ミコナゾールゲルを含嗽後内服 薬として投与する4) 4)齲蝕、歯周病  唾液腺障害により自浄作用、免疫作用、pH 緩衝作用、 図1 がん治療開始前の所見 図2 がん治療開始後 6根菅処置 図3  7歯頸部齲蝕により抜髄処置 図4 術後の所見

(4)

再石灰化作用の低下により短期間で急激な歯の脱灰が進 む。放射線治療により歯を喪失する97%は齲蝕が原因とす る報告がある5)  唾液の減少により歯周病の感染リスクは増大する。歯周 病原細菌の増加により歯周病が急速に進行する。放射腺治 療後の患者の70.3%にアタッチメントロスが生じるという 報告がある6)  症例66歳男性 (図1~図4)左側顎下腺悪性腫瘍のため に顎下腺切除。短期間(6ヶ月間)に2次齲蝕および歯頸 部齲蝕により抜髄および根菅治療を行なった症例を提示す る。小唾液腺、大唾液腺に障害のために、口腔乾燥は咽頭 部に達する。唾液の持つ作用が全て失われるため、口腔内 は酸性に傾き、歯頸部齲蝕が多発し下顎左側7番を抜髄す るに至った。   5)味覚障害  味覚や臭覚などの受容器の障害が惹起することがある。 一般的には可逆的な変化である。口腔乾燥や不衛生および 亜鉛の欠乏が増悪因子とされている。  頭頸部放射線治療後、55~88%に味覚障害が認められ、 除々に回復するが部分的には1~2年持続したという報告が ある。長期観察した患者の1/3に味覚の不快感を訴えたと している7) 4、周術期にともなう全身の合併症とは  全身麻酔を伴う外科手術では、ほとんどの症例で人工呼 吸のための気管内挿管を行なう。この際、口腔内の細菌が 肺炎などの合併症を引起こす。また、挿管にともなう創面 からの感染が引き起こされる。特に、頭頸部がんと食道が んの全身麻酔下における外科療法では細菌が多い環境下に ある口腔内と頸部の清潔部位が隣接し術後の合併症が発症 し易いとされている。図5に人工呼吸器を装着した患者の肺 炎リスクの機序を示す。細菌はチュ−ブを介して肺に侵入 し増加する。死亡率の高い人工呼吸器関連性(VAP)肺炎 を発症させる。 5、周術期の口腔ケア  表2にがん患者の周術期の口腔ケアの位置付けを示す。 手術前後のセルフケアが重要となるが、歯科医師、歯科衛 生士が行なう専門的歯面清掃はセルフケアの不備を補い、 口腔衛生状態をさらに良好に保つ手段として確率すべき療 法である。 1)ブラッシングによるプラークコントロール  口腔ケアはブラッシングが中心となる、軟毛の歯ブラシ を使用、抗菌剤の配合し、香料および発泡剤は少ない歯磨 剤を使用する。なお、軟毛歯ブラシは硬毛歯ブラシに比べ プラーク除去効果が劣るため、より時間を掛けて磨くこと を指導する。義歯装着者に対しては、義歯用ブラシを使用 する。義歯清掃は時間よりも清掃技術が影響するため、義 歯洗浄剤などを使用し清潔な状態を保つように指導する8) 2)口腔内保湿  含嗽による保湿は水1リットルに9g の食塩を混ぜた生理 食塩水を使用する。または、市販のスプレー式保湿剤を口 腔内に噴霧する。ジェル式保湿剤を適量、舌表面にのせ舌 を使って口全体に薄く延ばすように動かす。保湿洗口剤を 口に含み、含嗽する。含嗽はいずれも30秒ほどブクブクう がいを行なう。 3)鎮痛薬を使用  口内炎や口腔乾燥により、強い痛みがある場合は鎮痛薬 を使用する。また、直接患部にキシロカイン®ゼリーなどの 局所麻酔薬を塗布する。 図5 人工呼吸器を付けた患者の 肺炎リスクを示した図 オーラルヘルスと全身の健康 P&G 社編より 表2 手術患者の流れ 日本歯科医師会 「手術前患者を対象とした口腔ケア」より  

(5)

6、おわりに  がん治療法も多技にわたり、外科療法と化学療法および 放射線療法と日々進歩を遂げている。しかし、その治療法 は同時に正常な細胞にも悪影響を与える副作用が生じる。 合併症が一番初めに出現するのは口腔内であり口腔粘膜、 唾液腺に障害をもたらす。  合併症は直接摂食障害に繋がり、栄養障害による体力の 低下を招くことになる。さらに、唾液の減少、清掃状態の 不良により齲蝕および歯周病の急速な進行を引き起こし、 さらに誤嚥性肺炎や敗血症により全身的にも重篤な状況と なる。口腔内細菌に起因した合併症は術後経過を左右する ことになる。  食道がん手術を受けて術後 ICU へ入る予定の患者に対 し、術前に歯科を受診してもらいプラーク除去によりプラー クフリーの状態にすることで、術後肺炎の発症を21%から 4.1%に低下させることに成功している。このことは、いか に周術期のプラークコントロールが重要性を示している9)  がん治療を行なう医師、病院との連携し入院前から退院 後の患者の口腔ケアを管理することは確実に術後経過を良 好に導くものと考えられる。  口腔内のプラークコントロールを考える上で、歯面清掃 の他に、舌清掃についても考慮しなければならない。歯面 に付着するプラークの細菌凝集程度は湿重量1mg あたり2 ×108個程度であり10)、また、舌苔の細菌数をリアルタイム PCR 法(Polymerase Chain Reaction)で行った研究では 1mg あたり1×1010個であったとの報告があり11)、相当数の 細菌が生息していることになる。また、偏性嫌気性菌であ る Tannerella forsythia が歯周炎に罹患していない成人およ び若年者から高頻度に検出されたという報告されている。 さらに、Porphyromonas gingivalis や Treponema deticola につ いても低頻度ながら成人および若年者から高頻度に検出さ れたとの報告がある12)。重度の歯周炎患者の深い歯周ポケッ トからこれら Red Complex と呼ばれる細菌が検出されるこ とから、舌苔は重要な供給源となる棲息地と考えられる。 厚い舌苔の深部は嫌気域と考えられるため、1日1度程度の 舌清掃は必要と思われる。  ブラッシングに関しても、患者自身で口腔ケアを行なう ことが望ましいが、介護や補助を必要とする患者には電動 歯歯ブラシを使用しての介助磨きが有効である13)  周術期には全身へもダメージに加え、患者自身の気力の 低下しなどの精神的ダメージから、化学療法、放射腺療法 の延期や中止せざるおえないなど、生死に関わる時期でも ある。口腔ケアの充実と治療に関わるリスク因子を一つ一 つ排除することにより合併症をなくし、QOL の質を上げる ことにより患者の治癒能力も向上すると思われる。 参考文献 1)広多 勤:日本人の三大死因、日本歯科医師会雑誌、No7, VOL65, 27, 2012.

2)Okuda K, et al. Involvement of periodontopathic biofilm in respiratory infections. J periodontal, 76:2154, 2005. 3)狩野太郎:Ⅱがん患者の苦痛症状と緩和ケア口内炎、嚥下

困難、看護技術52(10):1067−1074. 2006.

4)中川洋一:チェアサイド・介護で役立つ口腔粘膜疾患アト ラス、クインテッセンス出版、東京、2006.

5)Epstein JB, Van Meij EH, Lunn R, et al.:Effect of compliance with fluoride application on caries risk in patients after radiation therapy for head and neck cancer. Oral Sugery Oral Medicine Oral Pathology. 82:268−275. 1996.

6)Marques MA. Dib LL:Periodontal changes in patient undergoing radiotherapy. J Periodontol Sep, 75(9):1178− 1187. 2004.

7)Maria Grazia Redda et al:diotherapy-induced taste impairment. Cancer Treatment Reviews. 32, 541−547. 2006. 8)大月峰子:全部床義歯におけるデンチャープラーク付着の 評価法に関する研究、鶴見歯学17:349−370, 1996. 9)河田尚子、岸本裕充 他:食道癌術後肺炎予防のためのオー ラルマネジメント、日本口腔感染症学会雑誌、17(1)、31− 34、2010. 10)米満正美、小林清吾、宮崎秀夫、川口陽子、鶴本昭久偏: 新予防歯科学 第4版、医歯薬出版、東京.2010. 11)岸 光男、高橋雅洋、岸 香代、晴山婦美子、田村光平、 阿部晶子他:口腔ケアの評価指標と real-time PCR によ る舌苔中細菌数との関係.口腔衛生会誌、56:665−672, 2006.

12)Kishi, M., Kimura, S., Ohara, et al:Oral malodor and periodontalpathic microorganisms in tongue coat of periodontally healthy subjects, Dentistry in Japan, 38:24− 28, 2002.

13)小澤晶子、渡辺孝章他:介助磨きにおける電動歯ブラシの 応用−毛先の運動が異なる電動歯ブラシのプラーク除去効 果、日本障害者歯科学会誌 24(1) 7−13, 2003.

参照

関連したドキュメント

【研究の背景と目的】

20 ◆歯周病と糖尿病

医療費・資源の節約と規定している.これはまさしく口 腔がん検診のめざす所で,早期口腔がんの発見により生

歯・口の発育 :首が座って座位がとれるようになる

医療に携わっている「あなた」。歯のう蝕(むし歯)の治療がどの様に行われているかご存じですか? 歯周病

23.患者の口腔粘膜障害予防に対するセルフケア能力向 上に向けた取り組み 藤田 弥生, 堀越真奈美, 茂木真由美 山根 正之, 川俣 綾, 小野

2010

ら 12) が報告している。これらによると,歯周病の重症 度は口腔関連 QOL に関連していると考えられる。 日本においては Yamane ら