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理科
科学的な思考力を高める理科学習
-メタ認知を生かした力学の授業づくり- -滋賀の水環境との共存を考える単元「びわ湖と私」のカリキュラム作成と教材開発- 澤田一彦・保木康宏 本論の要旨 自然を客観的に認識させるとき,互いに矛盾するイメージと比較・検討させて,相対的に妥当なもの 。 , を生徒自身の判断で選び取らせなければならない さらにその論理を確かめるための観察・実験を経て 正しい科学概念が形成されるといえる。比較・検討させる過程において,現象的世界から本質的世界へ と向かう帰納的推論を働かさせたり,本質的世界から現象的世界へ向かう演繹的推論を働かさせたりす ることが重要である。生徒の認識様式を新しい認識様式に転換する際には 「視点の移動」による情報の, 変化を仕組む 「視点の移動」とは,学習者に関わるもの,理科教材に関わるもの,指導方法に関わるも。 のなどに分類できる。学習者に関わるものとは,認識・評価・表現それぞれの場面で生徒自身が納得す る方を選ぶ操作であり,理科教材に関わるものとは,異なる2つの科学の見方を自由に切りかえて考え る操作である。指導方法に関わるものとは,発達段階によって異なり,自己の視点から他者の視点に移 動する能力の発達にあわせて,教師と生徒,生徒と生徒,自問自答,先人との対話など,主観的な視点 から客観的な視点に移動する操作である。これらの理論を適用した2つの実践研究を行った。 理論と実践の融合,科学的思考力,帰納的推論,演繹的推論,視点の移動,メタ認知 キーワード 1.理論 私たちは生徒の既存の認識様式を新しい認識様式 に転換することがいかに難しいか経験してきてい る。それは教師が生徒に予想や仮説を立てさせるこ となく,教師の引いたレールの上を走らせ,準備周 到な観察・実験によって教科書と同じ結果を導き出 し 「わかったか」と念を押してきた結果である。, また,生徒が理科で学習したことの価値に気づか ないまま,応用の利かない暗記であると決めつけて いる場面に出くわすことがある。それは教師が生徒 に授業で明らかになったものを活用させることな く,新しい認識様式の有用性を感じさせてこなかっ た結果である。 これに対して,東田充弘*1は,観察しても直接感 覚器でとらえることのできない概念について,生徒 自身の生き生きとしたイメージを生成させることが 必要であるとしている。客観的な認識に近づく手段 として,互いに矛盾する友達のイメージと比較・検 討させて,相対的に妥当なものを生徒自身の判断で 選び取らせなければならない。さらにその論理を確 かめるための観察・実験を経て正しい科学概念が形 成される。仮説形成の過程と,観察・実験の結果を 考察させる過程で,教師には現象的世界から本質的 世界へと向かう帰納的推論を働かせるような支援が 必要となる。また,本質的世界から現象的世界へと いう演繹的な順序で学習させる支援が有効である。 つまり,習得した知識を使う場面(=活用)を授業 中に意図的に設ける必要がある 「どのような場面。 で,どのような知識を使えばよいのか」を学ばせる が大切である。 新学習指導要領*2には,科学的な思考力・表現力 等の育成の観点から,観察・実験の結果を分析して 解釈する学習活動,科学的な概念を使用して考えた り説明したりするなどの学習活動などを充実させる ことがあげられている。これらは東田*1および本校 理科教育が推進してきたもの*3*4*5と同じものであ り,まとめると第1図のようになる。 第1図 科学的な思考力を高める2.実践 科学的な思考力を高めるための学習指導の実証研 究を進めてきた結果を,第1図に則って検討する。 (1)導入の過程に関して じっくりと無心に観察することが大切だとか,見 せればわかるという考え方によって,生徒に目的意 識を持たせないまま観察・実験を行わせた後に多く のことを考察させるのではなく,生徒に疑問を持た せて観察・実験を行わせ,見過ごしていた大切なも のに気づかせる。つまり,課題意識を明確にするた めに「帰納的推論」を中心とした過程を,授業の開 始に仕組み,学習課題を生徒の共通の目的とする。 学習課題は挨拶のようなものではなく,ただ示せば よいというものではない。その時間にぎりぎり何を 学ばせたいかという学習内容の縮図である。授業で は,学習課題を黒板の青い枠に示し,最終的な授業 のまとめを赤い枠の中に示す。1時間に1つだけの 課題を解決するという制約で,豊かな学びを保障す るため,その内容を以下のように吟味する。 ①学習課題を手応え十分にする。 どのような方法で学習課題をつくればよいか。生 徒に問題意識を持たせるには,その問題が生徒にと って解決可能であり,しかも適度に難しくなければ ならない。難しすぎても易しすぎても問題とならな い。一問一答の質問にならないように,生徒がどの ような予想をするのか,学びをイメージしながら作 成する。 ②学習課題をクイズにしない。 生徒にとってその課題が解決のめどが立てられな いような内容であれば,問題意識を持ち続けること はできない。課題が生徒の素朴概念とかけ離れすぎ ないように作成する。 ③学習課題を生徒から生み出す。 学習課題は生徒が「調べてみたいな,できたらい いな」という強烈な動機に支えられて授業の最後ま で首尾一貫として流れ続ける意識だといえる。した がって,教師が示すのではなく,生徒の問題意識と 多くの事象の検討から自発的に生み出されるように 設定する(第2図 。) ④学習課題で単元構成を行う。 生徒にとって挑戦しがいのある課題であっても, 単元全体で段階的に理解がすすんでいくような課題 の配列が必要である。つまり,単元全体でどのよう な力をつけさせたいのかを明らかにしてから各時間 の課題を作成する。 第2図 学習課題の形成過程 (2)仮説形成<討論>の過程に関して 自分の考えをはっきりさせる仮説形成の場は,あ くまで個人単位にする。予想をたてる上で,他の人 の意見を参考にすることは奨励すべきことである が,予想を班で考えさせるのは避ける。なぜなら, 班では意見が集約され,貴重な個々の考えが失われ てしまう。ひとりひとりの意見を全体に反映させて から,集約していくつかのグループにまとめ,全体 で討論にうつるようにする。 , 。 意見を集約した後であれば 班討議も可能である その場合は,班で時計回りにひとりずつ,自分が賛 成する意見について理由をつけて班員に説明し,そ の後,班の話し合いをもとにして,自分の意見をも う一度まとめさせる。安易にすべてを班に任せるこ とは,代表者に多大な責任を強いることになる。む しろ,班は,自信がなくてみんなの前では発表でき ない生徒も自分の意見を述べることのできる場であ り,発表の自信をつけていく場であるととらえる。 他者の意見を吟味する過程は,生徒の視点の切り かえに不可欠であるため,さらに討論を深めるため に,教師からの視点の切りかえを促す言葉がけなど のゆさぶりも必要である。討論後に,どの意見に賛 成か,自分の見方を確認させることが大切である。 そのために,以下の点に留意する。 ①接続詞を補足する。 討論は,現象的世界から本質的世界へと向かう帰 納的推論を働かさせたり,本質的世界から現象的世 界へ向かう演繹的推論が一番活発に働く場面といえ る。そのために,生徒の発言の「接続詞」を重視す る。帰納的推論を促すために,〝つまり〟,演繹的 推論を促すために〝例えば〟という問いかけを,積 極的に行うようにする。 ②発表者を明確にする。 人の意見をきちんと最後まで聞く姿勢が大切であ る。最後までと同様に始めから聞く姿勢も大事であ る。自分の意見を他の人に伝えるときは,挙手して から起立して発言する姿勢を尊重する。なぜなら, 互いの顔が見える場合は不要であるが,大勢で話し 合いをするときには,今誰が発言しているのか注目
させる必要があるからである。人前に出て発言する ことを,照れくさいものだと教師が決めつけること , 。 は 話し合いを楽しむことを始めから否定している もちろん,教師が発言している生徒の意見を一番よ く聞いていることが大切である。 ③最小限で話す。 教師は静かなことが不安になってついつい話して しまう。そのとき2つの失敗をしてしまう。一つめ は,質問が理解されているか不安になって,何度も 言葉を換えてしまうときである。一字一句でも言葉 が変わると,新たな質問となり,生徒から見れば, 考え始めたことがふりだしに戻るので,考えること 自体が面倒になってしまう。二つめは,十分に理解 されているか不安になって,念を押して何度も話し ているときである。一度で聞き取る習慣が失われて いくと,生徒から見れば,聞かなくてもよいことに なってしまう。 教師が細心の注意をはらって生徒に伝える言葉よ りも,たどたどしい発表であっても,生徒の言葉の 方がきちんと生徒に伝わっている。発言している生 徒の話をしっかり聞いて,全体に広がっていくこと を楽しみとする。 (3)観察・実験の過程に関して 観察・実験は,討論で問題になったことを解決す るためにおこなう。班実験の場合は3~4人でなくて はならない。なぜなら,5人以上では観察・実験に かかわれない生徒が出てくるからである。観察・実 験はすべて生徒が行うのではなく,教師が行う方が 望ましい場合がある。どちらにするかは,観察・実 験方法に習熟させるねらいがあるかどうか,生徒実 験によって適切な結果が確認できるかどうかで決め る。観察・実験に関して次の点に留意する。 ○観察や実験が始まると生徒は夢中になる。こうな ると,新しい指示は徹底しない。観察や実験が円滑 かつ安全に行われているか全体が見える場所に立 ち,支援や指導が必要な場所にさっと移動できるよ うにする。 ○作業の精度を予定させるために,終了時刻の目安 をきちんと伝えておく。 ○早く終わった班が意欲を失わないように,他の班 を待つ間の作業を指示しておく。 討論によって謎が深まるほど,生徒は驚くほど手 際よく観察・実験をおこなう。このような学びの姿 を大切にする。 (4)考察とまとめの過程に関して 観察・実験でわかった事実を点になぞらえると, 法則はそれらの点を結んだ線であるから,生徒が内 面に問いかけ納得したものをすべて出し合えばよい といえる。多くの生徒を指名して,生徒が感じたこ , 。 とを丁寧にまとめていく中で 共通点に気づかせる , 「 」 その際に シンキングツールの 比較・対象シート や「ベン図」等を利用して,多くの点を集めて線に する帰納的推論を働かせる支援を行う。 (5)まとめを活用する過程に関して 授業で明らかになったものを使って,新しいこと を考えるときに法則の有効性が明らかになるといえ る。そこで,授業の終末に「演繹的推論」を中心と する過程を仕組む。 生徒が獲得した科学的な概念を使用して考えたり 説明したりする例として,いくつかの類題を検証し たり,短時間の課題研究やものづくりを行う。 1 東田充弘,滋賀大学教育学部,理科共同研究者. * 2 中学校学習指導要領,文部科学省,2007告示. * 3 科学的な思考力を高める理科学習-「原子,分子 * の見える化学変化の学習 「視点の移動を生かした」 力学教材の開発」の実践より-,澤田一彦・保木 康宏,滋賀大教育学部附属中学校研究紀要49, 2007. *4 科学的な思考力を高める理科学習-「郷土の自然 災害調査の手引き『近江の自然調査法』の作成と 実証授業の研究 「天動説的宇宙観と地動説的宇宙」 観を結びつける地球儀教材の開発」-,澤田一彦 ・保木康宏,滋賀大学教育学部附属中学校研究紀 要50,2008. *5 科学的な思考力を高める理科学習-「郷土愛を育 『 』 てる水環境教材 プランクトン・ザ・ムービー の作成と実証授業の研究 「状態変化と化学変化の」 単元におけるミクロとマクロの視点移動の研究」 -,澤田一彦・保木康宏,滋賀大学教育学部附属 中学校研究紀要51,2009.
4.実践事例1「メタ認知を生かした力学の授業づ くり」の実践より 澤田一彦 (1)はじめに ビデオやICレコーダーで収録して,授業を振り返 ると,生徒の理解力の高さに驚くことがある。分か りにくい授業を自省し,それぞれの授業を比較する と,生徒の学びを阻害しているものは,次にあげる ような教師の習性ではないだろうか。 ①基礎学力という大義名分で,復習や説明に終始す る習性 かみくだいて説明することに快感をおぼえてい る。授業の始まりに前時の復習をだらだらとおこな うのは親切なように見えて,実は自己満足でしかな い。授業の始まりは,生徒にとって,新鮮な気持ち で,これから学ぼうとすることへの期待が高まると きなのに・・・である 「この時間で,こんなことが分。 」,「 」 かったら楽しいだろうな 不思議だな何故だろう という予感を抱かせるような導入をおこないたい。 「こんなに分かりやすく説明したぞ」と,説明に終 始する授業は,理解力ばかりで発想や考察を必要と しない。授業のまとめまでが一目でわかるワークシ ートも含む。理科の学力を狭くとらえていることか ら起こる大きな間違いだといえる。 ②おもしろ実験で一人芝居が好きな習性 注目されることが大好きで,おもしろ実験に満足 している。情熱にあふれ生徒は大喜びである。しか し,その実験に何の意味があるのだろうか。そこま で準備するのなら,もうひと工夫して単元に位置づ けたい。見せれば分かるというような安易な観察・ 実験の導入は,次は何をしてくれるのだろうという 受け身な生徒を育てることになり,生徒の考える場 を奪っているといえる。内面的な葛藤を起こさせる 動機づけなしに,生徒の内面を変えることができな いであろう。 ③観察・実験をお預けにする習性 実験したいという生徒の気持ちを逆手にとって, 「実験するために,これをせよ」としきりたがる。 あるいは,実験中に生徒が何となく動いていること に満足して 「~について調べてみよう」と形式的, に目的を示し 「させればわかる」という観察実験, の方法では,理科の内容をしっかりとつかませるこ とはできないといえる。生徒が知りたいなと感じさ せることと,授業のねらいとを近づけていくことな , ,「 」 しには 実験すれども何も分からず 理科が好き 「 」 。 ではなく 操作が好き ということになりかねない これでは,理科の授業をしていても,教師が指示す る作業でしかない授業になってしまう。 (2)研究仮説 メタ認知機能を生かした授業設計によって,生 徒の学び合いを深めることができるであろう。 (3)仮説設定の理由 生徒の学びを阻害しているものに,教師の習性が あげられるが,それも含めて,教師が授業を常に外 から授業を見るという姿勢が欠けているのではない だろうか。 授業を「場」と「思考」ととらえると 「場」に, は,空間的(時間的)なものと対人関係的なものが あり 「思考」には,生徒の意識と自然認識がある, 。 「 」 「 」 , といえる これらの 場 と 思考 のそれぞれを 常に自分の外から見て,自分を含めて場面に応じた 適切な行動することによって 「場」と「思考」を, 統制したいと考える(第3図 。) 第3図 教師のメタ認知 (4 「場」に関するメタ認知) 生徒のつまずきから,教師の話し方や聞き方に問 題がないかと謙虚に反省すると,次のようなことを 意識する必要があることに気づく。 ①聞き疲れない話し方はどのようなものだろうか。 ・言葉・表情・声の調子を工夫する。 ・はじめに話のあらすじを示す。つまり微細なこ とにこだわらない。 ・1文を短くする。 ・文頭の使い方を意識する。 ・大きな声でゆっくり,はきはき話す。 ②わかりやすい質問はどのようなものだろうか。 ・ 何が分かったか 「どんなことが分かったか」「 」 というような答えにくい発問はしない。 。 ③わかりやすい説明はどのようなものだろうか ・日常語句と科学的用語の違いを意識し,言葉の 使い方に細心の注意を払う。 ・説明すべきことはきちんと伝える。
生徒が授業の進行に慣れることは,テンポよく意 識の切り替えを行うために大切である。今は何をす る場面なのか,次に何をするかの見通しが立てられ るからである。生徒が主体性を持って授業に取り組 むうえでこのようなセルフモニタリングが必要とな る。15分区切りで①予想と討論,②観察・実験,③ 考察と発展というフローチャートに基づき,セルフ モニタリングが図られやすいように配慮する。 また 「自分の考え ・ 分かったこと」などのカ, 」「 ードや,青枠・赤枠による「学習課題 ・ 授業のま」「 とめ」を明示した板書の区分により,行動を促す文 字情報を準備する。 学習の部分的困難への対応として,話し合う,読 む,書く,体験するなどの多様な活動を通して,生 徒の習得場面の複線化を行うように配慮する。 (5 「思考」に関するメタ認知) ①力学における自然認識に関するもの 「Bにはたらかせる力」から「Bが受ける力」へ 日常的な力の概念は,押したり引いたりする能動 的な動作の中で培われてきた。そのため,力をはた らかせると物体が動き,はたらかせるのをやめると 止まることや,力をはたらかせると物体が変形し, はたらかせるのをやめるともとに戻るという「日常 経験をそのまま法則化」したものが,生徒の共通し た概念となっている。そのため,離れた場所にある 物体にどのような力が加わっているかを判断するこ とができず,しかも,力と運動,力と変形の関係を つかみ損ねてしまっている。これらの原因として, 力が目に見えないために,力を自分が力を出してい るという感覚と,物体そのものにどのような変化が あるかを結びつけることが,生徒にとって困難であ るからだと説明されてきた。 実は,力の学習で最も難しいことは,力が目に見 えないからだけではなく,力を能動的にとらえるこ とから受動的にとらえることへの視点の移動が困難 であることである。つまり,力とは,もっているも のでも,与えるものでもなく,受けるものなのであ る。アリストテレス的な力学観の最大の誤りは,結 局,車引きの力学に例えられるように,自分が出す 力のみが力であると考えたことにある。アリストテ レス的な能動的力学観を克服して,いかにしてガリ レイ・ニュートン的な受動的力学観を形成するかと いう問題は,古くてかつ新しい重要な課題だといえ る 「AがBに力をはたらかせる」ではなく 「BがAか。 , ら力を受ける」への視点の移動が必要である。新学 習指導要領でもアリストテレス的な力学観の影響を 受けて「 Aが)Bに力をはたらかせる」と,着目し( た物体がBであるにもかかわらず,主語をAにおき, Bは客体として記述されている。すなわち,与える 側の論理に立ちながら,受ける側の論理を教えよう , , 。 とする無理が 今なお この表現に集約されている アリストテレス的な力学観がガリレイ・ニュートン 的力学観をいかに形成させるかという単元構成がき わめて重要である。 ①力学における生徒の意識に関するもの 「手を離した直後のボールに働く力を書く」とい う内容の質問紙調査を行ったところ,静かに手を離 したときと真上に投げたときの力の様子に違いがあ った。また 「手を離した直後のボールに働く力を, 書く」よりも「手を離した直後のボールが受ける力 を書く」方が正答率が高いものの 「力はボールが, 持っているもの」という回答が多かった。これらの ことから,自分から離れた場所にある物体がどのよ うな力を受けているかを,日常体験だけで判断する ことは難しいといえる。力学的にとらえる「受動的 な力」と日常生活で身についてきた「能動的な力」 の共通点と相違点について,さまざまな見方を検討 する必要がある。 生徒は,同じものを見ても興味や関心によってそ れぞれ違うものを見てしまうことから,全体で目的 意識を同じにすることが大切であること,予想をし ていないと正しい結論を導き出すことができないこ とから,仮説形成が必要であることを重視して,十 分な交流や討論を行わせる必要がある。 予想と考察は,モデルや文章で表現させる。この ことにより,思考を深めさせる原因として次のよう なことが考えられる。 a.授業を受け身的でなく,能動的に参加するよう になる。 b.自分の考えをかくという作業を通して,より思 考が深まる。 c.自分の予想を基に,他の考えとの違いが明らか になる。 a~cを通して,生徒自身が納得する方を選ぶ操 作を行わせる。また,挙手によってどの意見に賛成 か,自分の見方と友達の見方を確認させることを重 視する。 他者の意見を吟味する過程は,生徒の視点の切り かえに不可欠である。この過程で,相手がどのよう に考えているかをふまえて自分の意見を述べるよう になる。これは生徒のメタ認知であり,このような 討論を仕組むために,教師からの視点の切りかえを 促す言葉がけや意外性のある結論などのゆさぶりが 必要である。
(6)メタ認知を生かした授業設計 教師の省察を促すために,以前より授業記録が行 われてきた。実際に授業の様子を,テープやビデオ で記録すると,生徒の言葉が教師の言葉よりもよく 伝わっていることや,下手な説明に対する生徒の理 解力の高いことに驚かされる。支援の技術を高めた いときには,授業記録のテープおこしが一番の近道 になる。その記録を通信にまとめて,生徒の発言を その授業中だけの発言ではなく,その後も残る発言 として認めていくことができる。教科通信は,授業 後にもその発言内容について考えたりできるので, 生徒の思考を深めるのに有効な手段である。授業記 録の振り返りに基づく通信の発行は,いわば強制的 に教師のメタ認知を促すものといえる。 , , 一方で 授業後に教師のメタ認知を促すのでなく 授業前に教師のメタ認知を生かす方法はないだろう か。 その解決策として,教師が授業中に様々な指導を 行っていることについて,それぞれの指導の意図を 「支援の意図」として,学習指導案に特別な欄を設 けて記述することを考えた 「支援の意図」の記述。 は授業を外から見るメタ認知に他ならない。 (7)授業の実際 ①単元 力の働き ②単元の目標 物体が力を受けるとその物体が変形したり動き始 めたり,運動の様子が変わったりすることを見いだ すとともに,力は大きさと向きによって表されるこ とを理解する(第4図 。) 第4図 単元の学習内容 ③単元の学習計画 第1次 力による現象 1時間 第2次 力の大きさの測り方 1時間 第3次 力の表し方 1時間 第4次 物体が受ける力 本時1/2 第5次 重さと質量の違い 1時間 ④本時の目標 物体が受ける力をもとにして運動や形の変化を推 論し,実験を通して確かめる。 ⑤本時の評価規準 関心・意欲:右側の物体がどちらに動くか説明しよ うとしている。 科学的思考:物体が受ける力をもとにして動きを推 論しようとしている。 技能・表現:ばねののびを測定し,上下方向の力の 大きさを比較しようとしている。 知識・理解:定滑車では,左右の物体が同じ重さな らば,どの位置にあっても動かないと考 えている。 ⑥本時の基礎的・基本的な知識,技能 知識 a.力を受ける側に注目した力の現象の理解 ・物体が力を受けたかどうかは 変形するか運動 静, ( 止)の様子が変化するかによって判断できること。 b.重力についての理解 ・筋肉の感覚からはなれて,離れた場所にある物体 が受ける力を意識できること。 c.バネの性質に関する理解 ・力の大きさはバネののびで調べることができるこ とを理解していること。 技能 a.力の作図に関して , , , , ・力には 大きさ 向き 作用点という要素があり 力を大きさと向きの矢印を用いて表すことができる こと。 b.測定値の処理の仕方に関して ・誤差の扱いやグラフ化など,測定値の適正な処理 ができること。 ⑦本時に関して知識や技能が活用された姿 ・生徒の経験における素朴概念から,物体が力を受 けると力が大きい方に動き出すことを推論できるこ と(第5図 。) ・2力の大きさを比較するためにバネののびを使う 方法を利用できること。 第5図 仮説を生き生きと説明する生徒
(8 「支援の意図」欄から見えてきたもの) 「支援の意図」は,学習指導案の作成の段階から 行う教師のメタ認知にあたる。この欄に記載される 内容を整理することによって,教師が授業をどのよ うに捉えてるかを知ることができそうである。これ らを一般化すると,どのようにメタ認知を生かして 授業づくりを行っているのかを整理することができ
る。以上の作業を授業の過程に分けて整理したもの が次に示す①~③である。 ①導入に際して ・意外性がある観察実験・興味を引く内容などの提 示により,集中力を高めさせる。 ・生徒に自由な意見を聞いたり,十分に手に取らせ て考えやすくさせる。 ・生徒のつぶやきを取り上げて,見当がつかない生 徒に解決の見通しを持たせる。 ②展開に際して ・課題が分かりやすいように青枠をつくらせ,ノー トにきちんと書かせる。 ・考える時間は5分などと伝え,どの程度の作業を すればよいのか見通しを持たせる。 ・今までの経験から考えられることや突拍子もない 考えはないかなど困っている生徒に声をかける。 ・正答を求めず,自分の予想を持てたということを 尊重する。 ・ なぜこう書いたの」と問いつめず 「説明して」「 , というはたらきかけをしながら,生徒の考えをつか む。 ・はやく書けた生徒から黒板に書かせ,書き終わっ たら説明できるようにしておくことを指示する。 ・まだ自分の考えがまとまらない生徒はこれからの 発表で,誰に賛成できるか友達の意見をしっかり聞 くように促す。 ・発表者には最後に「もう一度説明してほしい人」 と付け加えさせる。教師は生徒の発言を繰り返さな い。 ・うまく発表者の考えが伝わったら拍手するように 促す。 ・他の考え方をした人がいないか確かめ,同じ考え があれば合体させる。 ・挙手させて,自分の立場をはっきりさせるように 促す。 ・予想分布をとり,それぞれの立場から質問や意見 を述べさせる。 ・意見が固まってきたところで,教師側から生徒の 考えに揺さぶりをかける質問をする。 ・友だちの意見をまとめさせ,実験に移る前に,最 終的な自分の立場を明らかにするように挙手させ て,観察実験で調べることをもう一度意識させる。 ・観察実験をおこなう際の危ないこと(留意点)を しっかりと伝える。 ・観察・実験中は生徒の思考に任せ,中断しないよ 。 , 。 うに配慮する 観察実験中は 余計な説明はしない ・全体が見える場所に立ち,危険な操作や間違った 操作がないか点検する。 ③まとめに際して ・観察・実験が終了した生徒に,確かになったこと を自分の言葉でまとめさせる。 , , ・多くの生徒を指名し 実験で確かになったことを それぞれの生徒の言葉で発表させる。教師は発言を 繰り返さない。 ・生徒の言葉を取り上げながら,赤枠に本時の課題 に対するまとめを板書し,生徒はノートに,まとめ を赤枠で記入させる。 ・類似の事象,地域の素材や身近な現象等について 考えさせ,まとめたことを活用させる。 (9)終わりに 生徒が本当に楽しみにしているのは 「科学がわ, かる喜びを生み出す観察実験」である。内面に問い かけつつも,さまざまな考え方を検討できる活気の 。 , ある授業である このような授業を経験した生徒は 見れども見えてなかった自然像に気づいたり,その 世界を動かしている本質的な世界さえ語れるように なる。このような生徒の学びを目指し,次のような 授業づくりを提案する。 学習指導案に「支援の意図」欄を設け 「授業と, 観察・実験の関係を見直し,生徒の書く活動を大切 にして,生徒の考えにゆさぶりをかけて,教師が学 びを支援しながら科学の基礎・基本を習得させ,「つ まり」と「例えば」と推論させる活動の中で,学ぶ 実感を感じさせること」である。もちろん,その作 業には,方向を誤らないための羅針盤が不可欠であ る。教師同士の経験の交流から,メタ認知を生かし た授業づくりに,次の5つの羅針盤が必要であると 確信している。 実験や観察をおこない,生徒の持っている知識, ① 概念,イメージの誤謬,半わかりを明らかにしてい けば,生徒の思考を深めることができる。 実験や観察をおこない,的確な指示,考える観点 ② を絞らせるような具体的な発問をすれば思考を深め ることができる。 実験や観察をおこない,予想をモデルや文章でか ③ かせていけば,生徒の思考を深めることができる。 生徒が考えを交流したり,練りあう場を設けるこ ④ とによって,問題意識が高められて,学習内容が正 しく定着する。 学習内容を焦点化すれば,授業のねらいが明確に ⑤ なり,適切な支援ができる。 (澤田 一彦) 参考文献 メタ認知:学習力を支える高次認知機能, 三宮真智子編著(2008)北大路書房
5.実践事例2「滋賀の水環境との共存を考え る単元「びわ湖と私」のカリキュラム作成 と教材開発」の実践より 保木康宏 (1)はじめに ひとつの流行ともいえる昨今の環境ブームにと もない,「エコ(eco)」や「省エネ」といった言 葉と出会う機会は非常に多い。子どもたちの意識の 中にも「省エネしなくては!」というような漠然と した環境問題への実践意識ばかりが先行している ように感じる。しかし,このような実践力は自らの 判断で行っているものではないので,全く応用の利 かないものである。環境教育において,私たちが未 来を担う子どもたちにつけさせなくてはならない 力は,応用の利かない実践力ではなく,自分たちの おかれている状況を客観的に正しく理解し(メタ認 知的知識),自らの意思で判断,行動ができる力で あると考える。 環境学習を進めるにあたっては,いきなり地球規 模の問題に目を向けるのではなく,まずは身近な題 材を例にとりながら少しずつ広い世界へと目を向 けさせてやることも大切であると考える。 滋賀県は日本最大の面積を持ち,世界有数の歴史 を持つ琵琶湖を抱え,富栄養化や固定の低酸素化と いった問題に直面している。しかし,上下水道の整 備に伴い,飲み水や生活排水と琵琶湖とのつながり が見えにくくなり,子どもたちの琵琶湖に対する意 識や愛着は薄れつつある。そこで,子どもたちにと って本来一番身近な存在であるはずの琵琶湖に愛 着を感じ,琵琶湖と共存するために必要なことを考 えられるような学習について研究を進めた。 (2)環境の学習が抱える問題 「環境の学習」といえば,科学的な内容がわかり にくいうえに,「情勢はだんだん悪くなっていく」 という話が多い。そのため,たいていの場合重苦し い雰囲気になる。これまでのような学習の流れには, 生徒が生態系を学ぶことと環境保全について考え ることにつながりがないために,環境保全の学習が 説教になって,「ああやっぱり環境問題を解決でき そうにない」と感じてしまう。それは,生態系を学 習するための観察実験と環境調査とでは全く別の 対象を扱い,それぞれ違う方法でおこなっていたか らである。2つの学習の間には直接の接点がなく, それが障害となって,自然と人間とのかかわり方に ついて相互に見たり考えたりできるような学習に なっていないのが現状である。 滋賀県は琵琶湖を抱えるその土地柄,学校現場に おいての水環境に関する学習は関心が高く,実践例 も多い。しかし,琵琶湖の水質調査を行うだけの実 践がほとんどである。未来を担う子どもたちが,琵 琶湖の水環境の保全を生態系という視点から見つ め,より深まりのある環境学習を行えるような工夫 が必要であると考える。 (3)学習指導要領より 3年生で学習する大きな単元に「生物と人間」が ある。(本校使用の教育出版社の教科書では「生物 と地球環境」)学習指導要領には「自然環境を調べ, 自然界における生物相互の関係や自然界のつり合 いについて理解させるとともに,自然と人間のかか わり方について認識を深め,自然環境の保全と科学 技術の利用の在り方について科学的に考察し,判断 する態度を養う」とある。これは,自然界における 生物相互のつながりを食物網や物質の循環からと らえた後,地域環境に目を向け,環境調査や過去の 事例をもとに,生物相互のつながりを乱す要因がさ まざまなところにあることを見出させることが大 きなねらいである。先にも述べたように,ここで気 をつけなければならないのは,生物相互のつながり と地域の環境を扱う題材につながりが見られない と,単に環境調査で終わってしまうことになり, 自然と人間とのかかわり方について相互に見たり 考えたりできない学習で終わってしまう。「守るべ き」環境がそこにあり,「守りたい」と思える自分 に気づくことが大切である。そのうえで,自分たち に何ができるのか,自分たちは何をすべきなのかを 考え,判断できるような単元構成,題材選定が必要 である。 (4)研究の概要 理科の学習単元のひとつに「生物どうしのつなが り」がある。この単元では,自然界を物質の循環と いう視点からとらえている。環境問題を考えるうえ で,炭素,窒素に注目することはとても大切である。
しかし,水環境の学習を進めていくうえで,炭素, 窒素だけでは十分とはいえない。日本最大の面積を 持ち,世界有数の歴史を持つ琵琶湖は,今,富栄養 化という問題を抱えている。琵琶湖を調査した科学 者は,植物プランクトンなどの生物の成長は最も不 足する要素によって成長が制限されること(最小律 の原則)に注目し,3大養分のうち,窒素は大気と の間で自由に出入りすることができ,カリウムは水 中では不足することはなく,リンは気体になれず水 を介してのみ移動できることを指摘した。リンは植 物の3大養分のひとつであり,しかもリンの検出が 環境調査の指標にもなりうる。琵琶湖水中の栄養塩 濃度を調べたところ,リンが一番不足がちであり, 大気中から雨などに溶けて供給されることはほと んどない。つまり,琵琶湖においてはリンが植物プ ランクトンの制限要素であり,人間社会から供給さ れているリンを抑制することこそ,生態系の変化・ 富栄養化の進行をくい止める唯一の方法である。今 もなお,県民運動によって支えられている富栄養化 防止条例やヨシ群落保全条例は,リンの動態を注視 した科学の法則に則って環境保全をすすめている 世界でも数少ない成功例のひとつである。 そこで,本研究では既存の単元「生物どうしのつ ながり」の中で扱う食物連鎖や物質の循環を琵琶湖 を中心とした視点から取り上げ,さらにその中に生 態系におけるリンの循環を調べる実験や,日常生活 の中から放出されるリンを検出する簡易な調査方 法を取り入れる。これは,自然と人間とのかかわり 方について相互に見たり考えたりするうえで,これ までの問題点を解決するものである。リンを中心に 据える学習は,琵琶湖のような湖沼の富栄養化の問 題のみならず,河川や海などの水質汚濁の問題を抱 えるすべての地域において,生態系を学習したり, 自然と人間のかかわり方を考えたりするうえで道 を広げるものである。 (5)単元構成について 単元の構成については,以下の5点を大切に検討 した。 ①琵琶湖に住む生物の多様性を理解する。 琵琶湖の環境を考える上で,琵琶湖がはぐくむ豊 かな自然が,そこに生息する生物の多様性を生み出 していることに気づかせる(写真1)。その際,目 には見えない小さな世界にも目を向けさせるため に,プランクトンの観察も取り入れることにした。 写真1:琵琶湖に住む魚たち (琵琶湖博物館発行のポスターより) ②生物相互のつながりがあることを理解する。 食物連鎖や生態系の学習を行うにあたり,琵琶湖 を題材にしたものを取り扱い,琵琶湖に生息する生 物どうしがお互いにつながりあっていることに気 づかせることをねらいとする。 ③人と琵琶湖,人と生物のつながりを理解する。 人も琵琶湖の自然の恩恵を受けている生物の一 種であること,琵琶湖に生息する生物と人が相互に つながりあっていることを理解させる。その中で, 生物のつながりとともに,物質の循環の視点からも お互いのつながりを理解させる。 ④琵琶湖の抱える環境問題について理解する。 琵琶湖が抱える環境問題について,ミニ実験を通 して理解させ,その原因が人の生活に由来している ことに気づかせる。 ⑤琵琶湖と私たちの暮らしについて考える。 自然界のつりあいが崩れる例(環境問題)を学ぶ
ことで,「人間はやたらと自然に手を加えてはいけ ない。先の先までよく考えて行動しなければならな い」ということに気づかせる。また,これから次の 一歩をどのように踏み出せばよいかを考えさせる。 (6)単元構成および授業のようす ①琵琶湖の生物の多様性 第1次 琵琶湖には何種類ぐらいの魚がいるのだ ろうか。 ・琵琶湖に住む魚の種類について知る。 ・魚以外にもたくさんの生物が生息していること を知る。 ・琵琶湖にしか生息していない種(固有種)が存在 することを知る。 第2次 琵琶湖にはどのようなプランクトンがい るのだろうか。 ・琵琶湖のプランクトンの概略を知る。 ・プランクトンの顕微鏡観察を行う。 ・コンピュータによるムービー作成を行う。*1 (写真2) ・ムービーの発表と意見交流を行う。 写真2:プランクトンのムービー作成のようす ②生物相互のつながり 第3次 動物の食べ物をたどってみよう。生物はど んなつながりを持っているのだろうか。 ・アフリカのサバンナを例に,琵琶湖の生物モデル を食う,食われるの関係で結ぶ。 ・ビデオ「ミクロの生態系」*2を視聴する。 ・生物のつながりについて気づいたことを話し 合う。 ・植物が食物連鎖の出発点で,食物連鎖は1本 以上でつながっていることを理解する。 ・動物の食べ物をたどると植物にいきつくことを理 解する。 第4次 なぜ,植物はこんなにたくさん食べられて もいなくならないのだろうか。 ・1匹のビワコオオナマズが生きるために何kg の 植物プランクトンが必要か計算する。 ・植物がいなくならない理由を考え,話し合う。 ・高次消費者ほど個体数が少なくなる生物量ピラ ミッドを理解する。 ・生物濃縮のしくみを理解する。 ・食物連鎖は,食べる生物よりも食べられる生物 が圧倒的に多いことを理解する。(ピラミッド) 第5次 一匹のフナの産卵数はおよそ4万個~8 万個である。このうち親になれるのは何匹 だろうか。 ・一匹のフナの卵の数え方を知り,手分けして 数える。 ・このうち,生き残って親になれるのは何匹く らいか予想して話し合う。 ・何世代に渡ってフナの数が増えすぎたり減り すぎたりしないことから結局1匹の親から は1匹の子どもしか生き残れないことを理 解する。 ・肉食動物のビワコオオナマズも子どものうち は補食されることを知る。 第6次 土の中の小動物は,どのようなものを食べ て生きているのだろうか。 ・土中の小動物が多い場所を相談して決め,腐葉土 ごと採取しておく。 ・小動物をピンセットで白いバットに集めたり,ツ ルグレン装置で集めて名前を調べる。 ・ダンゴムシは緑の葉っぱを食べないのか予想して 話し合う。 ・ダンゴムシが緑の葉っぱに見向きもしないで枯れ 葉だけをかじる様子を観察する。 ・琵琶湖で同じようなはたらきをしている生物は いるとすればどこにいるか考える。 ・おもに枯れ葉や死体などを食べて土壌をつくり 出していることを理解する。
第7次 土壌の中に残された有機物を食べている 目に見えない微生物がいる。微生物が生 きている証拠をつかむにはどのような方 法があるだろうか。 ・落ち葉などを取り除いた土壌には,まだ有機物 がふくまれているか予想する。 ・土壌を焼くと炭素が残り,さらに砂や泥だけに なってしまう様子を観察する。 ・微生物が生きている証拠となりそうなことを考 える。 ・枯れ葉などのエサを与えると,微生物が食べて いく様子を観察する。 ・デンプンが土壌の微生物によって分解されたこ とを確認する。 ・土壌の中の微生物が呼吸して二酸化炭素などが 生じたことを確認する。 ・リンの濃度をくらべ,無機リンが生じたことを 確認し,水中の分解者の存在も知る。 ・できたものは植物の養分(無機物)であること を理解する。 第8次 肉食動物がいなくなると草食動物は住み やすくなるだろうか。 ・生まれ変わるなら肉食動物か草食動物かどちら がよいか自由な意見を出す。 ・肉食動物がいなくなると草食動物が住みやすく なるか予想し,話し合う。 ・草食動物を保護するため,肉食動物を殺した結 末を知る。 ・生物がひとつでもいなくなってしまうと,つり あいがくずれてしまうことを理解する。 ③人と琵琶湖,人と生物のつながり 第9次 田畑で育て る作物に肥 料を与えない と 年々成長が悪くなっていくのはなぜだろ うか。 ・どのようなものに植物の肥料(リン)が含まれ ているか確かめる。 ・野生植物を例にして,生産者,消費者,分解者 を物質循環(リン)で結ぶ。 ・田畑の作物に肥料を与えないと,いい作物が実 らなくなっていくのはなぜか考える。 ・田畑で育てる作物を例にして,生産者,消費者, 分解者を物質循環(リン)で結ぶ。 ・世界経済の南北問題によって生産物を輸出し,土 地が痩せて作物が育たなくなった話や漁獲高を 増やすために湖沼に堆肥を投入している話を聞 く。 ・魚を育てる森とはどういうことなのか考える。 ④琵琶湖と環境問題・⑤琵琶湖と私たちの暮らし 第10 次 生活排水など養分のあるものを琵琶湖に たれながすと生物の数はどうなるだろう か。 ・物質循環で,養分を増やすと生産者,消費者,分 解者の数は増えるか減るか予想する。 ・醤油,たれ,牛乳などを1滴たらし,プランクト ンの増殖実験をおこなう。 ・顕微鏡で観察し,ほんの少しの養分で生物が爆発 的に増えることを知る。 ・琵琶湖の透明度の低下,赤潮やアオコの発生につ いて知る。 第6図:家庭排水による水の濁りの変化 第 11 次 生活排水など養分をもっとたれながすと, 他の生物が増えるだろうか。 ・養分(リン)を増やすと生物がもっと増えるか 考え,話し合う。 ・養分を入れすぎたプランクトンの増殖実験では, 水が腐敗している様子を観察する。 ・微生物が増えすぎて無酸素状態となり,有毒物が 発生している様子を観察する。 ・リンはろ過や蒸留によって水中から取りのぞく ことができないことを確かめる。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 お 茶 J a p a n e se t e a 洗 剤 W a sh d et e rg e n t し ょ う ゆ S o y s a u c e 石 け ん S o a p ポ カ リ ス ウ ェ ッ ト S po rt d ri n k ア タ ッ ク S y n th e ti c d e te rg e n t お茶 Japanese tea 洗剤 Wash detergent しょうゆ Soy sauce 石けん Soap ポカリスウェット Sport drink アタック Synthetic detergent
第12 次 琵琶湖を富栄養化させている原因はどこ にあるのだろう。 ・家の近くの小川のリンの水質調査をおこないそ の結果を持ち寄る。 ・琵琶湖の水質を1(空色)として,0.8 以下を 青色,1.2~2 を黄色,それ以上を赤色で環境地図 を作成する。(濃度に換算せず,電気抵抗値をそ のままあつかうと手軽)(写真3) ・黄色や赤色があるのはどのような場所か考える。 ・川の下流などで水が少しだけきれいになってい るはなぜか話し合う。(浄化作用) ・滋賀県でヨシが保護されている理由を知る。 ・自然界には養分(リンなど)を吸収するような 浄化作用があることを理解する。 写真3:自作比色計による水質(電気抵抗値)の 測定 第13 次 琵琶湖とともに暮らしてきた人々の暮ら しには,どのような工夫がされているだ ろう。 ・私たちの生活で使っている水はどこからきて, どこへ行くのかを考え,話し合う。 ・昔は水をどのように使っていたかを予想する。 ・NHK スペシャル「里山2」を視聴する。 ・古の暮らしに見つけた生活の工夫を交流する。 ・琵琶湖と共に暮らしていくために自分たちに何 ができるかを考え,発表する。 (7)成果と課題 本実践を終えた後,簡単なアンケートを行ったと ころ,およそ7割の生徒が「琵琶湖の環境問題につ いて関心が高まった」と答えた。ミニ琵琶湖や低酸 素化の実験を行ったことで,自分たちの生活が琵琶 湖の環境に与える影響をより身近に感じ取ったよ うで,「たった1滴の排水が,あんなにも水質を変 化させるとは思わなかった」,「琵琶湖の環境悪化さ せる一人になる可能性があることが分かった」など の意見を持つ生徒が見られた。 また,生物相互のつながりやその多様性について, 琵琶湖を題材として扱ったことについて,「琵琶湖 の中にあんなにたくさんの魚やプランクトンがい るとは思わなかった」,「琵琶湖の中の生物がお互い につながりあって生きていることが分かった」,「外 来魚などが問題になっているが,私たちの生活の影 響によってもたくさんの生物に影響が出ることが 分かった」,「自分たち以外にもたくさんの生物が生 きていることを改めて感じた」などといった意見が 多く見られ,「琵琶湖」とい環境が生徒にとって「守 りたい」と感じる自然の1つになったのではないか と感じる。 環境教育の多くが応用の利かない実践や目的や 背景が見えにくい環境調査で終わってしまってい る現状である。本実践が,子どもたちにとって応用 の利かない実践を押し付けるのではなく,自ら判断 し,次の一歩を踏み出すきっかけとなればと思う。 この実践を通して身につけさせたい力は,評価が 難しく,子どもたちの中にどのように根付いている かが十分に把握できない。子どもたちが将来,滋賀 を担う存在になったときに,この実践の持つ意味が 問われるのだろう。 滋賀の環境教育を考えるにあたり,水環境だけを 考えるのでは不十分である。今後,さらに深まりの ある環境教育を目指して,森林,里山,土壌,田 園・・・いろいろな要素へつながる環境教育のプロ グラムを開発していきたい。 (保木 康宏) *1 吉田瞳(2007)発展的なプランクトン学習の企画・検 討とそこで用いる映像教材の制作,滋賀大学大学院修 士論文. *2 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター(旧琵琶湖研究所) 所蔵