Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
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Title
多根形成機構に関する最近の知見
Author(s)
山本, 仁
Journal
歯科学報, 118(2): 87-89
URL
http://hdl.handle.net/10130/4511
Right
Description
―――― カラーアトラス ――――
多根形成機構に関する最近の知見
山
やま本
もと仁
ひとし 東京歯科大学組織・発生学講座カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
歯の発生,つまり上皮の肥厚,歯堤の形成,蕾状
期から鐘状期までの歯の形態形成は上皮組織と間葉
組織間でのシグナルのキャッチボールである上皮-
間葉相互作用によって行われている。筆者がこれま
でに行ってきた歯と歯周組織の再生研究の中に,上
皮組織と間葉組織のキャッチボールの過程で,間葉
組織がそれまでに上皮組織から受けたシグナルを失
わせ,その部位に存在する間葉組織がもともと有し
ている性質を探ろうとしたものがある
1,2)。この方法
(reaggregation 法)を簡単に説明すると,マウスか
ら摘出した下顎第一臼歯歯胚の上皮組織と間葉組織
を分離し,間葉組織のみ細胞を分散し,遠心分離に
より再び凝集させる。この凝集させた間葉組織と元
の上皮組織と結合させるものである(図1)。この結
果,移植先の組織に歯と歯周組織が形成された
1,2)。
しかし実験に使用したマウス下顎第一臼歯は2根を
もつ歯になるのに対し,reaggregation 法により形
成された歯はすべて単根だった(図2)
2)。当初この
歯根数の違いは reaggregation 法を行ったことによ
り生じるものと考えたが,蕾状期歯胚に
reaggrega-tion 法を用いずに腎臓被膜下に移植しても単根の歯
しか形成されない
3)ことから,単根化の原因は
reag-gregation 法の影響ではないことがわかった。一方
過去に行われた鐘状期以降の歯胚の移植実験では,
正常の歯と同様に2根をもつ歯ができることが報告
されているので,多根形成の鍵は蕾状期から鐘状期
の間にあると考えられる。
多根化のメカニズムについては Orban と Mueller
による考え
4)が広く受け入れられている。これは歯
冠形成後に歯頸部の Hertwig 上皮鞘の一部が歯乳
頭方向に増殖して上皮性根間突起を形成し,対向す
る上皮性突起と接触する。上皮性根間突起に面した
歯乳頭細胞が歯頸部から歯乳頭中央に向かって順次
象牙芽細胞に分化し,歯頸側から歯乳頭中央に向
かって象牙質による根間突起(象牙質根間突起)が形
成され,対向する象牙質根間突起が接触,癒合して
多根化が起こるというものである(図3)。しかし
Ooë はヒトの乳歯を観察し,ヒトの臼歯で生じる多
根化の過程はマウスにみられる多根化の過程とは異
なり,歯乳頭の中央に周囲の象牙質形成状態とは関
係せずに「髄下葉」と呼ばれる象牙質の塊が出現
し,これが根分岐部となって多根化が起こることを
報告した
5)。しかしその後,髄下葉についての詳細
な報告はなく,その形成機序については不明であっ
た。近年 Osawa らはヒトと同様に髄下葉を伴った
多根化を示すラット上顎第二臼歯(図3)に着目し,
髄下葉の形成過程を組織学的,免疫組織学的に観察
した
6)。その結果,①髄下葉形成初期に歯乳頭細胞
に象牙芽細胞への分化を思わせる形態学的な変化が
生じていること,②髄下葉を形成する細胞が,抗
pan-keratin(PK)抗体陽性の上皮性根間突起に面し
て分布する歯乳頭細胞から分化した象牙芽細胞(抗
Heat shock protein(Hsp)
27抗 体 に 陽 性)で あ る こ
と,③髄下葉形成には未石灰化領域である象牙前質
が形成されたのち,髄下葉の石灰化が生じること,
を見出した(図4)。歯乳頭あるいは歯髄中に周囲の
象牙質とは関係なく象牙質あるい は 象 牙 質 様 の
構造として形成されるものには象牙質粒や dentin
bridge があるが,これらは上皮組織が関与せずに
形成されるものであり,石灰化物の沈着が最初に生
じ,次いで象牙芽細胞による象牙質形成が起こると
考えられている
7)。前述の Osawa らの観察結果は
象牙質粒や dentin bridge の形成過程とは異なり,
髄下葉は他の部分の象牙質と同様に形成の最初から
歯乳頭から分化した象牙芽細胞によってつくられる
ことを示している。
歯冠形態形成と比較して歯根形態形成に関する研
究は少なく,特に多根歯形成に関する研究は歯の発
生研究の中でも知見が少ない領域である。しかし歯
と歯周組織の再生に関する社会的ニーズが高まって
いる現在,「最も理にかなった再生過程は発生過程
を模倣したもの」という考えのもと,この領域の発
生学的研究を発展させていきたいと考えている。
(本
研究は科研費基盤研究 C(17 K11629)を受けた)
文 献1)Yamamoto H, Kim EJ, Cho SW, Jung HS:Analysis of tooth formation by reaggregated dental mesenchyme from mouse embryo. J Electr Microsc, 52:559-566, 2003.
2)Yamamoto H, Cai J, Cho SW, Kim JY, Jung HS:Peri-odontal tissue formation by reaggregation system in mice. J Hard Tissue Biol, 18:77-82,2009.
3)Higuchi Y, Yamamoto H, Cai J, Suzuki K, Jung HS, Ko-zawa Y:Comparison of the structures of tooth germs transplanted into the subcutaneous tissue or the kidney capsule in mice. Int J Oral-Med Sci, 7:27-34,2008. 4)Orban B, Mueller E:The development of the
bifurca-tion of multirooted teeth. J Am Dent Assoc, 16:297- 319,1929.
5)Ooë T:A propos de la formation de la bifurcation ou tripartition des racinces dans les molaires humaines. Acta Anat, 82:512-524,1972.
6)Osawa E, Shintani S, Yamamoto H:Histological and immunohistochemical observation of the furcation area formation with the subpulpal lobus of rat molar. J Hard Tissue Biol, 26:149-156,2017.
7)Clarke NG:The morphology of the reparative dentine bridge. Oral Surg Oral Med Oral Pathol, 29:746-752, 1970.