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天体の距離決定の地上模擬実験

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Academic year: 2021

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2017 年度卒業論文

天体の距離決定の地上模擬実験

明星大学理工学部総合理工学科物理学系

天文研究室

13S1-061 中山佳穂里

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要旨

卒業研究を行うにあたり、教職に就いたとき役に立つ研究内容にしようと考えていた。そ こで井上一先生が行う、地上で行える天体までの距離の測定の模擬実験を手伝うことにし た。中学3 年で学ぶ天体分野に生かせる内容の実験をテーマにした。 照度計を用い2種類の実験方法から主系列フィット法の測定方法の原理を検証する。

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目次

はじめに

第1章 距離の測定

1-1 宇宙における距離の測定方法

1-2 実験について

第2章 実験

2-1 実験器具

2-2 実験内容

2-3 実験結果

第3章 考察

第4章 子どもを楽しませるためには

謝辞

参考文献

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はじめに

距離の測定は天文分野において基本とされているが、現在小学校中学校で学ぶことはな い。明星大学理工学部では夏休みに小中学生向けに自然科学体験教室を開催している。そこ に参加する子どもたちに天文学における距離の測定について知ってもらい、今後学ぶ天体 分野へ興味関心をつなげられるようにしたいと考える。

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第1章 距離の測定

1-1 宇宙における距離の測定方法

・宇宙の距離はしご 宇宙では天体までの距離は莫大な範囲に広がっているため、天体の距離、また天体の種類 に応じて異なった観測方法が用いられている。近傍の天体の距離をもとに、遠方へと測定方 法を変えながら段階的に距離を求める。この方法を「宇宙の距離はしご」という。 ステップ1:太陽までの距離(天文単位) 地球から太陽までの距離を「1天文単位(1AU)」という。ケプラーの第 3 法則「惑星の 公転周期の2 乗は、惑星の軌道長半径の 3 乗に比例する」を用いる。惑星の公転周期が分 かれば、惑星の軌道半径が天文単位で求められる。また、惑星と地球との距離も天文単位で 求めることができる。 惑星までの距離は水星、金星、火星に対してはレーダー法による観測が行われている。こ れは天体に電波を発信し、その反射波を受信して、電波の往復時間から天体までの距離を測 定する方法である。さらに惑星探査機を使った距離測定も行われている。惑星の軌道半径と 地球の軌道半径との差を求めるためには、距離測定時の惑星の正確な位置情報も必要であ る。これらの方法により、地球と太陽の距離である1 天文単位(1AU)は精度よく求められて いる。注1:1AU = 1.49597870 × 108𝑘𝑚

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6 ステップ2:太陽系近傍の星までの距離 星までの距離を直接求める方法として、もっとも信頼のおけるのが年周視差を用いて求 める方法である。この方法の原理は「三角測量」である。物体が遠方にあるほど視差は小さ くなっていく。互いの距離が既知の 2 地点から物体が見える角度を測定すれば、三角関数 を用いて距離が求められる。 星の視差を求める為には、地球の公転を利用し求められている。異なった時期毎に星の変 動位置を測定していくと、星を見る位置が一般に楕円を描いて変動していく。この楕円の長 半径に相当する角度が「年周視差」である。 年周視差は地球の公転軌道の距離、つまり1 天文単位を見込む角度である。年周視差が 1 秒角になる距離を「1 パーセク(1pc)」と定義されている。注 2:1pc=3.09 × 1013𝑘𝑚 図1 三角測量の原理 山上企画 天文情報いろいろ http://yamagamiplanning.sakura.ne.jp/guide/texts/measuredistance/trigonometry より引用

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7 ステップ3:近傍銀河の距離決定 年周視差法で測れないほど遠方にある星は、標準光源法で測る。 3-1.分光視差法 主系列星の距離を分光視差法などで距離を測定し、その星の絶対等級を定める。主系列星 には絶対等級と星の色、スペクトル型に密接な関係がある。スペクトル型を測定することで 星の絶対等級を推定し、見かけの等級と比較して距離を求める方法のこと。 図2 HR 図 明星大学卒業論文 2013 年「散開星団までの距離」より引用 3-2.セファイド変光星を用いた標準光源法 数時間から約100 日程度の周期で規則的に明るさを変化させるセファイドという種の変 光星では、変光の周期と平均的な絶対等級との間に相関関係がある。年周視差が測定できる 近傍のセファイド変光星より、見かけの明るさと絶対等級が得られる。これにより、変光周 期に対応する絶対等級がわかり、遠方の銀河にあるセファイド変光星を観測することがで きればその銀河までの距離が得られる。この方法により、現在は約30 個の近傍銀河の距離 がセファイドで決められている。

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8 ステップ4:遠方銀河までの距離 セファイド変光星が見えないほど遠くにある銀河に対しては、セファイドよりもっと明 るい天体を標準光源として用いる。例として、球状星団、惑星状星雲、新星、超新星などで ある。 図3 宇宙の距離はしご 星空が好き、猫も好き 宇宙物理学 宇宙の距離はしご http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=861 より引用 上の図のように、宇宙は莫大な大きさであるため、近傍の距離から遠方につなげていくこと で距離を決定している。

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1-2 実験について

今回実験を2種類、主に主系列フィット法について実験を行った。 実験1…距離と明るさの関係 光源が単位時間あたりに放射するエネルギーを「光度(L)」とし、単位は J/s=w とする。 次に光源から一定距離離れた場所で単位面積あたり、単位時間あたりに通過する放射エネ ルギーを「放射強度」とし、単位をJ/s/𝑚2=w/𝑚2とする。 光度L の光源から距離 D の場所で受ける放射強度 F は、光源からの放射が等方的ならば 以下の式のようになる。 F = 𝐿 4𝜋𝐷2 𝐿(光度)、𝐹(放射光度)、𝐷(距離) (1.2.1) ここで4π𝐷2は光源を中心とする半径D の球の表面積である。 この式より、距離が遠くなると暗くなることを実験によって証明する。 実験2…分光器を用いた分光視差法 星の絶対等級M は、光源である星から 10 パーセクの距離で測定した放射強度𝐹10𝑝𝑐を用 いて以下のように表せる。 M = −2.5(log10𝐹10𝑝𝑐− log10𝐹0,10𝑝𝑐) (1.2.2) ここで𝐹0,10𝑝𝑐は、絶対等級0 等の星の距離 10 パーセクでの放射強度とする。観測してい る星の光度をL、絶対等級 0 等の星の光度を𝐿0とすると、(1.2.1)式を(1.2.2)式に代入する。 M = −2.5 (log10[ 𝐿 4𝜋(10𝑝𝑐)2] − log10[ 𝐿0 4𝜋(10𝑝𝑐)2]) (1.2.3) (1.2.3)式を変形する。 M = −2.5 log10 𝐿 𝐿0 (1.2.4) これより、図1 の縦軸である絶対等級の値は星の光度の対数になっていることがわかる。 今回の実験では星の光度を「電源が供給した電力」とし、スペクトル型を簡易分光器で測 定する。 白熱電球からの照度を測定し、簡易分光器でスペクトルを測定できれば、白熱電球にどの くらいの電圧がかかっているか推定でき、白熱電球の光度から距離を求めることができる。

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第2章 実験

2-1 実験器具

・定電圧電源 ・照度計 図4 図 5 ・電球 図6 ・手作り分光器 教材提供:宇宙教育指導者向け教材検討 WG (http://edu.jaxa.jp/materialDB/downloadfile/79044.pdf) 図7

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2-2 実験内容

2-2-1 距離と明るさの関係

電球を100V 一般電源で点灯させ、同じ高さに照度計を置く。一定間隔で照度計を光源か ら離し、距離と照度計の値を記録した。同時に、直接光以外の散乱光の影響を調べるため、 遮光の板を光路上に置き、照度を測定した。 (1.2.1)式をもとに結果をグラフ化した。 照度計の正面が電球に向くよう、目測で調節し た。 遮光は、簡便性を重視し、図8 のような簡易暗 室を用いた。 図8

2-2-2 簡易分光器を用いた分光視差法

電球を定電圧電源に繋ぎ、電圧を変えそのときの電流、照度計に表示されている値を記録 した。電圧を変化させたとき、電球の色の変化を簡易分光器で観測し撮影した。スペクトル 線の違いをステライメージからグラフ化した。 ある電圧のとき分光器においてどのようなスペクトルを描いているのか観測し、定めた 電圧における明るさを絶対等級としてH-R 図を作成した。 光源と照度計の距離は1m に固定し、遮光は 上記同様の簡易暗室を用いた。 図9

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2-3 実験結果

2-3-1 距離と明るさの関係

実験の結果は以下のようになった。 ・2016 年 10 月 4 日 距離(m) 照度(lx) 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目 1m 42 36.9 35.9 35.5 2m 10.2 9.7 9.5 9.4 3m 4.6 4.1 4.2 4.3 図10 この日は測定値にばらつきが見られた。白熱電球からの光が周りの暗幕で反射され、照度 計に至る値が気になった為、次回の測定では遮光板を設置したとき、しないときの照度を測 定し、その差を出してみた。 1 10 100 1 10 照 度 ( lx ) 距離[m]

距離と明るさの関係

1回目 2回目 3回目 4回目 累乗 (1回目) 累乗 (2回目) 累乗 (3回目) 累乗 (4回目)

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13 ・2016 年 10 月 11 日 距離(m) 照度(lx) ① 遮光なし ② 遮光あり ① -② 1 回目 2 回目 1 回目 2 回目 1 回目 2 回目 0.5 132 126 1.8 1.9 130.2 124.1 1.0 34.1 32.6 1.2 1.3 32.9 31.3 1.5 15.6 15.1 0.7 0.8 14.9 14.3 2.0 8.8 8.5 0.4 0.4 8.4 8.1 2.5 5.6 5.4 0.2 0.2 5.4 5.2 3.0 3.8 3.7 0.1 0.2 3.7 3.5 図11 緑で書かれた線は距離の2 乗に逆比例するときの傾きを示したものである。 測定された結果より、照度が距離の二乗に逆比例して減少していってることが確認でき た。 1 10 100 1000 0.1 1 10 照度 (l x) 距離[m]

距離と明るさの関係

1回目 2回目 累乗 (1回目) 累乗 (2回目)

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2-3-2 簡易分光器を用いた分光視差法

実験の結果は以下のようになった。 ・2016 年 10 月 4 日 明るさ(lx) 電圧(V) 電流(A) 電圧×電流(W) 4.3 59.99 0.290 17.40 2.8 54.99 0.277 15.23 1.8 50.00 0.264 13.20 1.0 45.00 0.252 11.34 0.6 40.00 0.236 9.44 図12 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 0 5 10 15 20 明 る さ (lx電流×電圧(W)

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15 ・2016 年 11 月 29 日 明るさ(lx) 電圧(V) 電流(A) 電圧×電流(W) 4.0 59.99 0.290 17.40 1.7 49.99 0.263 13.15 0.6 39.99 0.236 9.44 0.2 30.00 0.206 6.18 0.1 20.00 0.172 3.44 図13 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 0 5 10 15 20 明 る さ (l x) 電圧×電流(W)

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16 ・簡易分光器による電球のスペクトルとプロファイル ※1…60V、1/125 秒、F4.0 ※2…50V、1/125 秒、F4.0 ※3…40V、1/125 秒、F4.0 ※4…30V、1/125 秒、F4.0 図 14 ・上のプロファイルを用いた簡易的なHR 図 図 15 縦軸を電圧としているが、電球の絶対的な明るさとする。横軸は色の比率である。 ※1 ※2 ※3 ※4

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17 ・電球のようす ・60V ・50V 図16 1/125 秒、F2.5 図 17 1/125 秒、F2.5 ・40V ・30V 図 18 1/125 秒、F2.5 図 19 1/125 秒、F2.5 ・20V 図20 1/125 秒、F2.5

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第3章 考察

3-1 距離と明るさの関係

実験において、明るさが距離の 2 乗に逆比例することが確認できた。電球に供給されて いる電力の値を光度(絶対等級)とみなすことで、絶対等級と見かけの等級の関係を導き出す ことができた。

3-2 簡易分光器を用いた分光視差法

電圧を下げたとき、電球が暗くなり、また色が赤くなっていく様子が見てとれた。簡易分 光器ら得られたスペクトルのプロファイルから、青寄りの強度が赤寄りの強度より大きく 落ちていっていることが確認できる。相対的に赤っぽくなることが確認できた。 また、電力の変化に比べ照度の値が急激に減っている。これは照度計が感じる波長域が図 21 で示されているような限られたものになっているためであったと考えた。照度計の感度 のない赤外線の波長の光が多くなったため、照度計の値が急激に減少したと考えられる。 図 21

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第4章 子どもを楽しませるためには

「距離と明るさの関係」については、子どもと同様の実験を行い、グラフを作成させる。 照度計を適当な位置に置き、そのときの照度と作成したグラフから電球と照度計の距離を 求める。自分の作成したグラフから結果を得られるということで達成感を得られ、興味関心 に繋がると考える。 次に「簡易分光器を用いた分光視差法」では、宇宙には様々な色・温度の星が存在するが、 すべての星を等距離に置いた場合どのような結果が得られるかを確認させる。このとき電 圧を変化させることで主系列星の星を再現していることを説明することで理解が深まると 考える。電圧を下げ、自分の目で赤に変化することを確認した後、簡易分光器でも赤寄りに 変化することを確認する。簡易分光器でのスペクトルを撮り、そのときの照度計の値、電圧・ 電流の値と一緒に記録する。電流×電圧、照度計の値をグラフ化する。照度計から得られた スペクトルで絶対等級がわかることを説明し、適当な電圧に変化させ作成したグラフから 照度を求める。 天体分野は観測対象が大きすぎるため実際に体験する機会があまりない。実際に体験さ せることが重要であると考える。2つの実験から、身近に見られる星との距離がどのように 求められているか知ることができ、天文分野への興味関心に繋がると考える。

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謝辞

今回、自分の考えていた目的が果たせたとともに、机上で行える実験の幅広さを実感でき ました。本研究においてお世話になりました、井上先生、小野寺先生、日比野先生、津田さ ん、本当にありがとうございました。

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参考文献

・「散開星団までの距離」明星大学卒業論文 10S1-010 大枝克弥 10S1-004 阿久津貴晃 ・日本評論社 現在の天文学 Ⅰ.人類の住む宇宙 ・星空が好き、猫も好き 宇宙物理学 宇宙の距離はしご http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=861 ・JAXA 簡易分光器 http://edu.jaxa.jp/materialDB/downloadfile/79044.pdf

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