北畜会報 41 : 63-66, 1999
ウシ乳蛋白質の免疫化学的定量条件の検討
渡 漣 竜 也 ・ 平 山 博 樹 * ・ 横
j賓 道 成 東京農業大学生物産業学部,網走市 099-2422 *o嚇新薬開発研究所,恵庭市 061-1405E
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by immunochemical method
Tatsuya WATANABE
,
*Hiroki HIRAYAMA and Michinari YOKOHAMALaboratory of Animal Resources, Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture,
196 Yasaka, Abashiri-shi 099-2422 * N ew Drug Development Reserch Center Inc.
452-1 Toiso
,
Eniwa-shi 061-1405 キーワード:モノクローナル抗体,カゼイン, βーラクトグロプリン, ELISA Key words: monoclonal antibody, casein,β-lactoglobulin, ELISA要
議句 ウシ主要乳蛋白質には遺伝的多型が存在することが 知られている.この遺伝的多型と生産形質との関連性 が報告され,蛋白質の遺伝的多型をマーカーとした育 種選抜が有用であると考えられる.そこで著者らは, 遺伝的多型と乳蛋白質成分量との関連をさらに検索す るため,乳蛋白質に対するモノクローナル抗体(mAb) を26種類 [αS1ーカゼイン (Cn) 2株, β-Cn7株,
x-Cn 7株および β-ラクトグ、ロプリン (Lg) 10株]作製 した.ついで,これらを用いたELISA法により高感度 の免疫化学的定量法を確立することを目的として,定 量時のpH条件の違いによる測定値の変化を調べた. その結果, αS1-Cn1株, β-Cn3株, x-Cn 2株および β-Lg4株 で 産 生 さ れ たmAbで そ れ ぞ れpH8.2, 8.2-8.6, 6.6および8.2の条件下で最も反応性が高 くなり,これらのmAbは免疫化学的定量に用いるの に有用であった.また同一乳蛋白質を認識したmAb でも,その産生細胞株の違いによって最適反応を示す pHが異なるものも認められた.一方,抗β-Lg抗体産 生 株 に お い て はβ-LgA
の 遺 伝 的 形 質 を 認 識 す る mAbが得られた.緒 亘
牛乳中には良質な蛋白供給源となるカゼイン (Cn) および乳清蛋白質が含まれており,これらの利用は チーズやヨーグルトのような食品分野のみならず工業 受 理 1999年 2月22日 用など多岐にわたっている.さらに乳蛋白質の生理活 性など潜在的機能に関する研究も進められており,今 後利用の拡大が予想される(中江, 1988;上野川ら, 1994) . 一方,牛乳中の主要蛋白質成分である α'S1-Cn, β-Cn, x-Cnおよびβ-ラクトグロプリン (Lg)には,遺 伝的多型が存在することが知られており,これまでの 研究でこの多型と乳量もしくは乳蛋白率などとの関連 が報告され(GIBSON,1990; MARZIALI and NG-KWAI-HANG, 1986; NG-KWAI-HANGe
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.
, 1984),生産性 の向上ための一手段としての育種選抜に,乳蛋白質遺 伝子をマーカーとした方法が有用であると考えられ る.著者らは各乳蛋白質問の遺伝的多型とその成分量 との関係を明らかにするため,ウシ乳蛋白質に対する モノクローナル抗体(mAb)を作製し(横演ら, 1966), これらを用いて免疫化学的定量を行ったが(平山と横 演, 1997),測定条件を改善する事でさらに高感度に検 出できると思われた.そこで本論文では,免疫化学的 定量条件を確立するため, ELISA法(酵素標識第2抗 体を用いた固相法)でのpH条件による抗原抗体反応 への影響を調べた.材料および方法
供試乳は,前報(平山と横漬, 1997) と同じく網走 管内卯原内地区の酪農家17戸より採集して処理した 脱脂乳を用いた.これらはあらかじめ尿素加等電点電 気泳動法(横演と平山, 1996)により αS1-Cn,β-Cn, x-Cnおよびβ-Lgについてそれらの遺伝的多型の判 別を行った.また,用いたmAbは,抗αS1-Cn2株,-63-渡漣竜也・平山博樹・横j賓道成 抗β-Cn7株,抗}(-Cn7株 お よ び 抗β-Lg10株 の 培 養上清を用いた.また培養上清中のmAbの活性は, SDSを含む12.5%ポリアクリルアミドゲ、ル電気泳動 法を併用したウエスタンプロッテイングアッセイで確 認した;なお,各mAbはそれぞれの力価によって 4-8倍に希釈して用いた. ELISA法および標準曲線の作成は,基本的に平山と 横 演 (1997)の方法に従った.mAbの抗原抗体反応の pH依存性を検索する試験には,抗体希釈と洗浄に用 いたTBS-TのpHを5.0-9.8の間で13段階に調製 して用いた.また,乳サンプルは上記の供試乳の中か ら7例[No.1;αSl-Cη
B/C
,β-CnA2/
A3
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およびβ-LgB/B
,No.2 ;それぞれB/B
,Al/A¥ A/
B
およびA/B
,No.3 ;B/C
,A3/B
,A/B
およびB/
B
, No.4;B/B
,A2/A2
,A/B
およびA/B
,No.5;B/B
,A2/A2
,A/A
および、B/B
,No.6;B/B
,Al/
B
,A/B
および、A/A
,No.7;B/B
,Al/A2
,A/A
および
A/B]
,および任意に個体別脱脂乳を混合したサ ンプル(混合脱脂乳)を用いた. 定 量 に 供 す る 事 が で き る と 思 わ れ た 10種 のmAb を使用して,倍数希釈された標品を用いて反応性を調 べ,回帰式を算出し,標準曲線を作成した.この標準 曲線を用いて任意に選択した個体別脱脂乳20例 の 乳 蛋白質含量を算出し,その平均値を求めた.結果および考察
はじめに, 4 - 8倍に希釈した培養上清中の抗体と 拾抗的に結合することのできる抗原希釈率を検索する ため,倍数希釈した混合脱脂乳を抗原として,反応性 を測定した.その結果,明確な発色が認められた 18種 のmAbで,それぞれ16-32,000倍希釈の間で吸光度 が最高となった.図1はBβ-Lgs2株の培養上清を用 い,倍数希釈した脱脂乳との反応性を示したものであ る.このmAbの場合, 16,000倍希釈において反応性 のピークが認められた.このょっに反応ピークが認め られた脱脂乳希釈率を各mAbに対する最適脱脂乳希 釈率とした(表1). ウエスタンプロッテイングアッセイではいずれの mAbでも各抗原成分に反応を示していたが, ELISA 法では反応を示さなかったmAbが4種認められた. 表1 各mAbに対する最適脱脂乳希釈倍率と最適pH mAb産生細胞株 mAb希釈倍率 発色時間(分)*1 最適脱脂乳希釈倍率 最適pH 備 考 Bα-Cn1 X4 30x
2,000 *3 Cα-Cn2 X8 15 X16,000 8.2 Bβ-Cn1x
8 30 X200 *3 Bβ-Cn2x
8 *2 Bβ-Cns3x
8 30x
1, 600 8.6 Cβ-Cn1x
8 30x
32,000 *3 Cβ-Cn3x
8 30x
32,000 *3 Cβ-Cn4x
8 30x
16,000 8.2 Cβ-Cns5x
8 30x
32,000 8.2 Bx-Cn1x
8 30 X16 *3 Bx-Cns3x
8 30x
32,000 6.6 Cx-Cn1x
8 *2 Cx-Cn2x
8 *2 Cx-Cn3x
8 30x
32.000 *3 Cx-Cns4x
8 30x
32,000 キ3 Cx-Cns5x
8 15x
32,000 6.6 Bβ-Lgs1x
8 *2 Bβ-Lgs2 X8 30x
16,000 8.2 Bβ-Lgs3x
8 30x
16, 000 *3 Bβ-Lgs5x
8 30x
16,000 8.2 Bβ-Lgs7x
8 30x
16,000 8.2 Bβ-Lgs8x
8 30x
16,000 *3 Cβ-Lg1x
4 30 X16 *3 Cβ-Lgs2x
8 30x
16,000 8.2 Cβ-Lgs3x
8 30x
32,000 *3 Cβ-Lgs4x
8 30 X16 *3 * 1 AP基質溶液を入れてから十十分分なな発発色色がが得見らられるまでの時間 * 2 脱脂乳希釈倍率決定時に れなかったもの * 3 最適pHが認められなかったもの -64これらは以下の実験には用いなかった. 次に,抗原抗体反応に及ぼすpHの影響を調べた結 果,抗αSl-CnmAbでは 1種,抗 β-CnmAbでは 3 種,抗x-CnmAbでは 2種および、抗 β-LgmAbでは 4種で抗原サンプル NO.1-7および混合脱脂乳とも に 特 定pHで 反 応 が ピ ー ク を 示 し た ( そ れ ぞ 、 れ pH 8.2, pH 8.2-8.6, pH 6.6および、 pH8.2). この ようなmAbは免疫化学的手法を用いた定量に有用で あると思われた.図2は Bβ-Lgs2株の産生 mAbの 反応を示したものであるが,供試抗原サンプルの全て においてpH8.2で反応がピークを示した.このピー ク時のpHを各 mAbの最適 pHとした.一方, mAb によっては抗原により反応性が異なっていたために, 最 適pHが決定されなかったものが認められた. 表2に各 mAbの回帰式と相関係数および検出値を 示した.今回算出された検出値は, pHを考慮しない場 合(平山と横演, 1997) と比較すると, α'Sl-Cnを除き 2.3-1,600倍の感度の上昇が認められた. pHの影響を調べる試験において, mAb間で反応性 が極めて類似したものが認められた.図3および図4 はCx-Cn3および Cx-Cns4株の産生 mAb反応性の pH依存性を示したものである.また Bβ-Lgs2,Bβ-Lgs 7および Cβ-Bβ-Lgs2,Bβ-Lgs2株 産 生 mAb間においても同 乳蛋白の免疫学的定量条件の検討 様の反応性が認められた. 抗原によって最大反応ピークを示すpHが異なって いたmAbの中には, Cx-Cn 3, Cx-Cns 4および Bβ-Lgs 3のように供試乳サンプルを反応性の違いから 2-3種類に分類できたものが認められた.例えば Bβ-Lgs3産生 mAbでは, 3種類の抗原サンプル群に 分類できた(図5).この mAbでは pH8.2において吸 9.8 Bβ一Lgs2株培養上清による反応の pH依存性 発色時間;30分 ---<>一混合脱脂乳--o-No.l-I::s.
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No.2ー トNo.3 一 栄 一No.4-0-NO.5→
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-No.6一 一 一NO.7 9.4 9.0 8.6 8.2 6.6 7.0 7.4 7.8 pH 6.2 1.4 0 5.0 5.4 5.8 1.2 0.2 図2i
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二二二二万
9.8 Cx-Cn 3株培養上清による反応の pH依存性 発色時間;30分 ---<>一混合脱脂乳--0-No.l-I::s.ー
NO.2ー トNO.3 ー 米 -NO.4-0-NO.5ー 斗-No.6一一-No.7 9.4 9.0 8.6 6.6 7.0 7.4 7.8 8.2 pH 図3 COONF 凹 × Bβ-Lgs 2株培養上清と倍数希釈された 脱脂乳との反応性 発色時間;30分 0 0 0 ω 凶 N ×。 。 。 ∞
NF × o 0 o 0 o 0 N てr 0') t.O x x 脱脂乳希釈倍率 o o o m w F X 000 ∞ × 図1 最適pHによる乳蛋白質の回帰式とそのmAbの検出値 表2 検 出 値 (mg/ml):tS.E. 相関係数 回帰式 抗体産生株(発色時間)最適pH CαCn2 (15min) pH8. 2 (0.7234土7.34)X 10-3 Bβ-Cns3 (30min) pH8. 6 Cβ-Cn4 (30min) pH8. 2 CβCns5 (30min) pH8. 2 (0.0439土2.32)X 10-3 (0.4061士1.15)X 10-2 (0.9476:t2.23) X10-2 r=0.9803 r=0.9797 r=0.9793 r=0.9748 Y=O. 2229+24 .1076X Y=0.1559+ 10.1372X Y=0.1089+33.2138X Y=O .1414十36.1450X (4.6271:t7.40) X 10-2 (0.1926:t1. 45)x
10-2 r=0.9481 r=0.9567 Y=0.1901十7.3531X Y=O .2409+29. 7931X Bx-Cns3 (30min) pH6. 6 Cx-Cns5 (15min) pH6. 6 (0 .1383:t1.13)x
10-2 (0.0920士9.69)X10-3 (0.1322士1.90) X 10-2 (0.1902:t1.43) X10-2 r=0.9629 r=0.9761 r二 0.9864 r=0.9819 Y=0.2107+28.3553X Y=0.1028+22.6439X Y二 0.0529+ 19. 2044X Y=0.0692十18.3322X Bβ-Lgs2 (30min) pH8.2 Bβ-Lgs5 (30min) pH8.2 BβLgs7 (30min) pH8. 2 CβLgs2 (30min) pH8.2-65-渡遁竜也・平山博樹・横j賓道成 0.8 ~ u ~ ~ u w ~ n ~ u ~ u u pH 図4 Cx一Cns4株培養上清による反応の pH依存性 発色時間;30分 --<>一混合脱指乳-D--NO.l----fr-No.2
-←
No.3 ー 米 一NO.4--0--NO.5→
-
-No.6 一一←-No.7 E u、 0.6 主0.3 襲 唾 ~ u ~ ~ u w ~ n ~ u ~ u u pH 図 5 8β一L
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3株培養上清による反応の pH依存性 発色時間;30分 --<>一混合脱指乳-D--No.l----I:s.ーNo.2→←
NO.3 ー 米 一No.4--0--No.5→
-
-No.6一一一NO.7 光度の高い群からβ-LgA/A
型,次いでA/B
型の群,B/B
型の群となっていたため, β-LgA
の遺伝的形質 を認識しているmAbと確認できた. 文 献 GIBSON,J
, P (1990) Is there profit in a protein gene. HolsteinJ
ournal, 12: 29. 平山博樹・横演道成 (1997) ウシ乳蛋白質の免疫化学 的定量.北畜会報, 39:11-14. 上 野 川 修 一 ・ 菅 野 長 右 エ 門 ・ 細 野 明 義 編 (1994) ミ ルクのサイエンス.第1版.全国農協乳業プラント 協会.東京.MARZIALI, A. S. and K.
F
.
NG胃KWAI-HANG(1986)Effects of milk composition and genetic polymor-phism on coagulation properties of m
i
1
k.J
.
Dairy Sci., 69: 1793-1798.中江利孝 (1988) 牛乳・乳製品.第 10版. 241-244. 養賢堂.東京.
NG-KWAI・HANG.K. F, J.K. HAYES, J.E. MOXLEY, and H. G. MONARDES (1984) Association of genetic variants of casein and m