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静岡県立大学(University of Shizuoka)

2011年8月15日受付 2012年9月10日採用

原  著

授乳期の乳腺炎診断アセスメントツールの開発

—信頼性と妥当性の検討—

Development of an assessment tool to identify lactation mastitis

—Evaluation of validity and reliability—

長 田 知恵子(Chieko OSADA)

* 抄  録 目 的  本研究の目的は,「授乳期の乳腺炎診断アセスメントツール」を開発し,その信頼性と妥当性を検討す ることである。 方 法  本研究の「授乳期の乳腺炎診断アセスメントツール(ATLM)」は,既存研究(長田,2010)と文献検討 を基盤とし,母乳育児支援の専門家による内容妥当性を検討した後,予備的な研究を行った。その結果 を基に,本研究では検討項目を16として調査を実施した。本研究の調査対象は,乳腺炎以外の乳房疾 患既往者は除外とし,乳汁生成Ⅲ期(産後9日目以降母乳育児終了まで)の母子277組,乳房数554とし た。調査は,母乳育児相談室等の計4ヵ所で,2010年4月∼11月に調査を行った。調査内容は,調査協 力施設に来院した母子に質問紙への記載と体温測定を依頼した。担当助産師には,通常ケア後,開発中 のATLMとLATCH(LATCH assessment tool)への記載を依頼した。対象の母親には,さらに,調査1週 間以降に,その後の状態を問う質問紙への回答を依頼した。本研究は,大学の倫理審査で承認後に行った。 結 果  主因子法,プロマックス回転の結果,ツールは12項目3因子であり,各因子は【乳汁のうっ滞を観る ポイント】【乳汁の産生を観るポイント】【子どもによる乳汁の排出を観るポイント】と命名した。併存妥 当性としてLATCHとの相関はr=­0.525であり,医療介入についての予測的中度は96.9%であったこと から基準関連妥当性が確認できた。またツール全体のα係数は0.820で(下位因子:0.859,0.803,0.818), 評定者間一致は0.490∼0.852で概ね確認できた。ツール合計得点における医療介入のカットオフポイン トは32で,感度98.0%特異度87.5%となった。このうち,第2因子より第1因子が高値であること,第1 因子の合計得点が11以上であることも必須要件とした。 結 論  本研究のツールは,妥当性および信頼性について確認できた。今後,臨床において,新人あるいは若 手助産師の教育教材および母乳育児支援の際の判断基準の1つとしての貢献が可能である。 キーワード:乳腺炎,乳汁分泌,アセスメントツール,妥当性,信頼性

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Abstract Objectives

To develop an Assessment Tool that identifies Lactational Mastitis (ATLM) for lactating mothers and to exam-ine its reliability and validity.

Methods

The original "ATLM" was developed based on a descriptive study and a comprehensive review of the literature. After receiving examination on the content validity by the experts who are supporting lactating mothers, we made a preliminary study of ATLM. Based on the results, the present study was conducted, with 16 examination items. The subjects, from whom the lactating mothers with the previous history of breast disease except mastitis were ex-cluded, were 277 pairs of mothers and child, with 554 breasts, during the III stage of lactation. The survey was con-ducted at 4 institutions in total such as the lactation and child-care center, etc. from April to November, 2010. The survey consisted of filling in the questionnaire for the mothers and children who visited to the survey-cooperating institutions, and measuring their body temperatures. The midwives were asked to fill in the ATLM and LATCH which are being developed. Additionally, 1 week after the survey, the mothers were asked to reply to another ques-tionnaire inquiring of their conditions.

Results

Exploratory factor analysis by principal factor analysis with promax rotation was conducted. The following three factors comprised of 12 items were finally extracted: (1) "Status of milk, (2)" "Production of milk," and "(3) Drainage of milk." A confirmatory factor analysis was conducted by analyzing covariance structures and the hypoth-esized statistical model was found to fit the actual data. The reliability of the scale was confirmed by a Cronbach alpha's internal consistency reliability coefficient of 0.820 (0.803-0.859 for subscales) and an inter-rater reliability coefficient of 0.490-0.852. The criterion-related validity was confirmed by concurrent validity. The coefficient was r=-0.525** and predictive validity was confirmed with a predictive value of 96.9%. The cut-off point for referral to a phy-sician was 32 points. The sensitivity at this point was 98.0% and the specificity was 87.5%. In addition, the 1st factor scored 11 points higher than the 2nd factor.

Conclusion

The above findings indicate that the "ATLM" is sufficiently valid to improve the quality of identifying lactational mastitis.

Keyword: mastitis, lactation, assessment tool, reliability, validity

Ⅰ.は じ め に

 母乳育児支援を目的として設置,開業している母乳 外来や母乳育児相談室を,授乳期の母子が受診する主 な理由は,乳汁分泌に対する不安や子どもの体重増加 不良の他,乳頭痛や乳腺炎などの乳房トラブルがあ る(厚生労働省,2010)。その乳房トラブルのなかでも 乳腺炎は,授乳期であればいつでも起こり得る可能性 があり(菊谷・土橋・篠原,2007),授乳期,なかでも 乳汁生成Ⅲ期の母子を対象に母乳育児支援をしている 看護者にとって支援する機会は少なくない。この乳腺 炎は,乳汁が乳房内にうっ滞すること以外に原因は解 明されていないが,そのまま放置すると乳腺膿瘍とな り外科的処置が必要となったり,患部が自壊するばか りでなく,それらに伴う母親の不快感や苦痛は大きい。 さらに子どもにとっても適切な授乳ができないことは 水分の補給や栄養摂取ができないことであり,その影 響は多大である。このような乳腺炎に対し,その病態 に応じた適切な治療が重要であり(高塚・相原,2002), 母乳育児支援をしている看護者にとって最も判断力が 問われる(武市,2009)。しかし,これまでは,看護者 個々の経験に基づきケア介入の判断が行われてきた。 事実,子どもの哺乳行動に焦点を当てているアセスメ ントツールはあるものの,乳汁の産生や分泌状態に ついて定量化して客観的判断ができるツールの開発は 行われていない(長田,2010)。前述したように,乳腺 炎の原因は乳房内に乳汁がうっ滞することであり,哺 乳行動だけでは,ケア介入を見極めるのは困難であり, 乳房内の乳汁のうっ滞等の分泌状況を診るツールが必 要と考える。  そこで,本研究の目的は,授乳期の乳腺炎に対し, 適切な時期に看護者による支援の必要性を判断するた めの基準となるアセスメントツールを作成し,その信 頼性と妥当性を検討することである。判断基準を明確 にすることは,ケア介入の時期や判断,方向性だけで なく他部門との連携体制の必要性を示す根拠となり得

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体温計を用いて測定(各約1分)した。使用した体温計 は,温度精度 0.1℃のテルモ社製電子体温計C202と した。

〈LATCH(LATCH assessment tool, 以 下LATCHと す る。)〉

 LATCHは,Jensen D., Wallace S., & Kelsay P(1994) によって開発された母乳育児行動を診るためにアメリ カで開発されたツールで,母親あるいは看護者によっ て,母子の母乳育児行動を5項目(吸着,嚥下音,乳 頭のタイプ,快適な授乳,抱き方)3段階評価(0,1,2; 得点範囲0∼10)で測定するツールである。母乳育児 が良好なほど得点が高値を示すよう構成されている。 3.協力助産師および対象者,対象施設 1 ) 協力助産師の条件  調査に協力を依頼した助産師の条件は,以下とした。 ・乳汁生成Ⅲ期の母乳育児支援歴が8年以上 ・母乳育児支援の際,乳房診断を触診でも行っている ・調査時にも支援を行っている 2 ) 対象条件  対象施設に支援を求めた乳汁生成Ⅲ期(分娩後9日 以降母乳育児終了まで)の母子とした。母乳育児をや める相談や支援を求めて来院したケースおよび乳腺炎 以外の乳房疾患既往のあるケース(豊胸術を受けてい る方も含む)は除外した。 3 ) 対象施設  本研究の調査施設は,総合病院内にある母乳外来1 ヵ所,地域で開業している母乳育児相談室1ヵ所,乳 腺外科のクリニック1ヵ所,育児支援センター1ヵ所 の計4ヵ所とした。 4 ) サンプル数の算出と標本の割り当て方法  本研究のサンプル数は,アセスメントツールの項目 数16のほか,対象母子への基本情報用の質問紙およ び助産師の経験や助産診断,医療介入の有無も合わせ, 計50項目であることから,その5倍である母子250組 程度がサンプル数として必要である(石井,2005)。さ らに,既存研究(長田・堀内,2010)の最終有効回答率 95.6%を参考にした結果,本研究におけるサンプル数 は対象母子260組,対象乳房数520とした。  標本割り当てには,同数割り当て,比例割り当て, ネイマン割り当てがある(菅,2007)。本研究の場合, ると考える。

Ⅱ.研究デザイン

 本研究は,「授乳期の乳腺炎診断アセスメントツー ル」の信頼性と妥当性の検討をする量的探索的研究で ある。

Ⅲ.方   法

1.用語の定義 乳汁生成Ⅲ期  乳汁生成は,乳汁の産生機序からⅠ∼Ⅲ期に分類さ れる(Riordan, 2005)。このうち,乳汁生成Ⅲ期とは, 分娩後9日以降から母乳育児終了までの期間で,乳汁 産生はいかに母親の乳房内にある乳汁を飲み取ったか (オートクリンコントロール)によって,乳汁産生量 が決まる時期である。 2.調査に用いる測定用具 1 ) 授乳期の乳腺炎診断アセスメントツール(Assess-ment Tool to Identify Lactational Mastitis,以下ATLM とする)の開発過程  母乳育児に関するアセスメントツールは,哺乳行動 に焦点を当てているものが多く,乳汁分泌の視点から 構成されている日本語によるツールの開発はされてい ない(長田,2010)。母乳育児支援を専門とするベテラ ン助産師6名へのインタビューより得た調査結果(長田, 2009)と文献検討を基盤とし, 授乳期の乳房診断アセ スメントツール の原案を作成した。それを,母乳育 児支援を行っている臨床助産師5名の協力を得て,45 組の母子を対象として項目精選の調査を行い,最終的 に16項目5段階評価(得点範囲:16∼80)から構成さ れる 授乳期の乳房診断アセスメントツール を作成 した(長田・堀内,2010)。本研究では,このツールを 用いて医師への照会が必要な 重症な乳腺炎 を見極 めるツール,すなわち 授乳期の乳腺炎診断アセスメ ントツール の信頼性と妥当性を検討する。 2 ) 妥当性のための測定用具 〈体温計〉  乳腺炎は炎症性の疾患であることから,本研究では, 炎症5徴候の1つである母親の体温を測定した。測定 方法は,母親にとって負担のない時に母親の両腋窩で

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医療介入の必要な母子が来院する施設は施設ごとに差 があることから同数割り付けは不向きである。また母 集団の各層について推定したい項目の標準偏差が予測 できる場合に用いられるネイマン割り付けも,既存の 調査がないことから適切とは言い難い。そこで,本研 究の標本割り当ては,各層の構成比に合わせてサンプ ル数を設定する比例割り当てとし,既存研究における 医療介入が行われるケースの発症率2.2%を考慮し(長 田・堀内,2010),各対象施設のサンプル数の割合を 算出した。  以上,本研究においてサンプル数とその割り当て は,母乳外来や母乳育児相談室がN=220程度(N=60∼ 70/1施設),保健センターや乳腺外科(医療介入が必 要なケース)が各N=20程度の総計N=260程度とした。 4.調査手順 1 ) プレテストとして,母子30組に対して,本研究 と同様に以下のような手順で行った。 2 ) 本調査は,調査施設に来院した母子に研究趣旨や 方法を説明し,同意後に質問紙への記載および体温 測定を対象母子全てに依頼した。 3 ) 通常ケア後に,担当助産師に本研究用ツールと併 存妥当性用のツールLATCHへの記載を,母子ごと に依頼した。 4 ) 対象の母親には,調査1週間以降に,郵送あるい は電話で,その後の経過についての質問紙の回答を 依頼した。 5.倫理的配慮 1 ) 研究への参加は対象者および協力者の自由意思に 基づくものであり,研究に不参加や途中で協力を辞 退する場合でも不利益を生じないことを説明した。 2 ) 母子の状態が急性期で研究参加が難しい場合は, 担当助産師と相談し研究対象としなかった。また, 途中あるいは調査終了後,対象である母子に不利益 が生じた場合は,担当助産師あるいは担当医師にそ の旨を報告および相談することとした。 3 ) 対象者に対する秘密保持として,施設名や個人名 は特定されないようデータ処理した。 4 ) 記載されたツールや質問紙はファイルに整理し, 鍵のかかる場所に保管し,研究が終了次第,破棄す ることとした。 5 ) 研究成果の公表をする際は,研究によって得た個 人および施設の情報は,特定されないように処理し, 研究目的以外に用いないことを説明した。 6 ) 対象施設内にある倫理審査委員会および大学の倫 理審査委員会の承諾を得て行った。(聖路加看護大 学倫理審査委員会承認番号:09-091) 6.分析方法

 分析は,AMOS ・SPSS17.0J for Windowsの統計ソ フトを用いて,以下のような方法で行った。 1 ) 項目分析  項目内容の偏りや,複数の被調査者共通している項 目は,回答しにくい内容であったり,項目自体に何ら かの欠陥がある可能性がある(小塩・西口,2009)。そ のため,天井効果や床効果,欠損値について検討した。  また,項目間の関係性を確認するため,各項目間で 相関係数を算出し検討した。次に,有意差のない項目 や,群間での差が著明でない項目の削除をするかを検 討するため,上位̶下位分析(GP分析)を行った。さ らに,項目とツールの得点との相関が低い項目(r< 0.2)は,全体のツールの得点の傾向と関係がなく異質 であると考えられる(柳井・緒方,2007)。そのため, 項目̶合計点数(IT相関)の分析を行った。 2 ) 妥当性の分析  妥当性の検討として,調査に先駆け,回答の容易 度,文章表現,整合性および所要時間の適切性(負担 度,項目数)等の検討を対象助産師に確認し,内容的 妥当性を確保した。  構成概念妥当性は,確認的因子分析と因子構造の確 認により検討した。確認的因子分析では,共分散構造 分析による概念モデル,乳腺炎の医療介入について検 証した。  一方,基準関連妥当性としては,併存妥当性と予測 妥当性を用いた。併存妥当性では,母乳育児行動を診 るためのアセスメントツールであるLATCHを用いて 相関係数から検討した。また,予測妥当性としては, 担当助産師により,乳汁がうっ滞している状態である と診断された母子のうち,医療介入の必要状態につい て予測できるか否かを2項ロジスティック回帰分析で 検討した。なお,本研究ツールでは,得点が高いもの ほど医療介入が必要となるように得点を設定した。さ らに,乳腺炎で医療介入の必要があるにもかかわらず, 医療介入の必要がないと見誤る頻度が低いか(感度), あるいは乳腺炎で医療介入の必要のない人を必要であ ると見誤る頻度が低いか(特異度)を検証し,本研究 ツールの合計点数において,医療介入の必要な点をカ

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ットオフポイントとして算出した。 3 ) 信頼性の分析  同一人物の乳房の状態といえども授乳期の乳房は 刻々と変化するという特徴があることから,再テスト 法,すなわち安定性の確認は行えない。そのため,本 研究では,同質性をCronbach's α係数から検討し,同 等性は評定者間信頼であるκ係数から信頼性を検討し た。

Ⅳ.結   果

1.協力助産師と対象者の概要 1 ) 協力助産師  調査協力した助産師は,乳汁生成Ⅲ期の母乳育児支 援歴9年が1名,16年が2名の計3名であった。 2 ) 対象母子  対象母子は277組であり,助産師の診断対象となっ た乳房は554であった。質問紙の最終回収数は255(回 収率92.1%)であった。  対象の母親は,22∼46歳(平均33.0歳),初産婦214 名で,経産婦61名であった。調査時の母親の訴えは, 「母乳の分泌不全(28.5%)」,次いで「乳房内にシコリ ができた(16.1%)」,「乳房痛(13.9%)」などであった。 助産師による診断は,「問題なし(23.6%)」「乳汁の分 泌不全(22.6%)」「乳汁のうっ滞(18.8%)」「分泌不足感 (6.7%)」「乳腺炎(6.0%)」「乳腺膿瘍(4.3%)」などであ った。医療介入となった者は25名(9.0%)だった。こ のうち薬剤処方となった者が3名,外科的処置および 薬剤処方となった者は22名であった。これら医療介 入の行われた産後の日数は,19日から1年2ヵ月であ った。今回の調査時に 医療介入したケース で高熱 (38.5℃以上)だったのは3.8%で, 医療介入しなかっ たケース では1.5%であった。X2検定の結果,医療介 入したケースとしなかったケースでの,調査時の高 熱に有意差はなく(p<0.05),医療介入と調査時の高 熱に関係があるとはいえない。また医療介入したケー スとしなかったケースの「調査時の発熱(37.0℃以上)」 や「調査時に37.5℃以上の発熱」もX2検定したところ 有意差はなく(p<0.05),医療介入と調査時の高熱に 関係があるとはいえないという結果が得られた。  「医療介入」となったケース25名のうち,病院に子 どもを連れて来院したのは17名(68.0%)であり,8名 (32.0%)は,母親のみが来院した。 対象の児は,男児146名(52.7%)と女児126名(45.5%), 調査時の月齢は生後9日∼1歳11カ月(平均4.8カ月) であった。 2.記述統計と項目分析(表1)  本研究ツールの16項目において,天井効果およ びフロア効果を示す項目はなかった。IT分析の結果, ツール合計点と「G 乳汁への混入」の相関係数はr= 0.168であり,「M 頭痛」との相関係数もr=0.168であ った(p=0.001)。 3.妥当性の検討(表2・3) 1 ) 構成概念妥当性  構成概念妥当性として因子構造を確認するため,前 述した2項目(「G 乳汁への混入」「M 頭痛」)を削除し た14項目について主成分分析および因子分析を行い, 検討した。  まず主成分分析では,固有値1以上の主成分として 3主成分を抽出した。第1成分の寄与率は34.6%,第2 成分は20.8%,第3成分は12.7%であった。以上より, 本研究ツールは3因子構造を有すると解釈できた。  次いで,因子分析ではプロマックス回転を用いた主 因子法により探索的因子分析を行った。その結果,「F  乳汁の濃淡」は,第1因子が0.355であり第2因子が 0.400というように,2つの因子それぞれに0.3以上の 因子負荷量があったため削除した。また「C 乳頭の柔 軟性」と「D 乳頭の伸展性」について,各項目を除外し て検討した結果,ほとんど因子負荷量が変わらないこ とから,共分散構造分析のモデル適合度が高い「C 乳 頭の柔軟性」を採択することとした。その結果,固有 値1以上の因子として3因子が抽出された。第1因子の 寄与率は31.284%,第2因子の寄与率は17.9%,第3因 子の寄与率は9.2%であった。以上の結果,本研究ツー ルは,12項目3因子という構造を確認した。  各因子の解釈は,第1因子は「H 乳汁の分泌状態」「J 硬結の有無」「K 硬結部位の発赤」「L 乳房痛」から構成 されていることから,乳房内に乳汁が貯留した状態を 表していると考え,第1因子を【乳房内における乳汁 のうっ滞状況】と命名した。第2因子は,「A 乳房の弾 力性」「B 乳房の可動性」「C 乳頭の柔軟性」「E 乳汁の 粘調性」「I 射乳の状態」から構成され,乳房内の乳汁 の状態を表していることから,【乳房内における乳汁 の産生状況】と命名した。第3因子は,「N 哺乳意欲」「O

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表1 項目分析の結果 (N=554) 項     目 項目間相関 I−T分析 M±SD (削除を決定した分析方法)削除項目 A 乳房の弾力性が全くない ­.006∼.606** .535** 1.53 .981 B 乳房の可動性が全くない ­.013∼.606** .603** 1.73 1.110 C 乳頭の柔軟性が全くない ­.010∼.952** .648** 1.41 .985 D 乳頭の伸展性が全くない ­.023∼.952** .667** 1.43 1.003 (共分散構造分析) E 乳汁はドロドロである(粘調性が高い) .077∼.549** .642** 2.05 1.279 F 全ての排乳口で,異なる色の乳汁が排出する(濃淡が著明である) .142∼.542** .628** 1.44 .866 (因子分析) G 乳汁に膿あるいは血液のみが排出する ­.010∼.241** .168** 1.01 .165 (IT分析) H 乳管が閉塞し,乳汁の分泌が全くない .085*∼.695** .662** 1.61 .992 I 射乳は全くない .026∼.549** .707** 2.19 1.335 J 見た目で硬結がわかる ­.006∼.822** .492** 2.12 1.411 K 硬結部の発赤は集結している .037∼.822** .576** 1.55 .866 L 母親に尋ねなくても,母親の表情から乳房痛があることがわかる .021∼.626** .424** 1.29 .697 M 母親に尋ねなくても,母親の表情から頭痛があることがわかる ­.013∼.300** .168** 1.07 .340 (IT分析) N 子どもは激しく授乳(直接母乳)を嫌がる ­.016∼.587** .450** 1.22 .731 O 子どもは全く吸着しない ­.013∼.681** .619** 1.61 .995 P 子どもは全く吸啜しない ­.068∼.681** .505** 1.53 .836 (**p<0.05) 表2 因子分析と信頼性分析の結果 項目 α=.820 因子負荷量 第1因子 第2因子 第3因子 第1因子 【乳房内における乳汁のうっ滞状況】(4項目) α=.859 K J H L 硬結部位の発赤は集結している 見た目で硬結がわかる 乳管が閉塞し,乳汁の分泌が全くない 母親に尋ねなくても,母親の表情から乳房痛があることがわかる .943 .896 .747 .680 ­.012 ­.110 .155 ­.019 ­.033 .000 .028 ­.048 第2因子 【乳房内における乳汁の産生状況】(5項目) α=.803 A B E I C 乳房の弾力性が全くない 乳房の可動性が全くない 乳汁はドロドロである(粘調性が高い) 射乳は全くない 乳頭の柔軟性が全くない ­.083 ­.090 .096 .133 .010 .832 .796 .575 .566 .537 ­.172 ­.029 .036 .163 .131 第3因子 【子どもの哺乳による乳汁の排出状況を】(3項目) α=.818 O P N 子どもは全く吸着しない 子どもは全く吸啜しない 子どもは激しく授乳(直母)を嫌がる .010 ­.063 ­.011 .047 ­.015 ­.051 .832 .819 .720 回転後の因子負荷量 2.977 2.901 2.624 (主因子法 斜交プロマックス回転) 表3 因子間の相関 因 子 第1因子 第2因子 第3因子 第1因子 1.000 .239 .241 第2因子 .239 1.000 .474 第3因子 .241 .474 1.000

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吸着状況」「P 吸啜状況」という,子どもが授乳するこ とで乳房内から乳汁が取り除かれる状況をみる項目か ら構成されていることから【子どもの哺乳による乳汁 の排出状況】と命名した。  なお,【乳房内における乳汁のうっ滞状況】は【乳汁 うっ滞】,【乳房内における乳汁の産生状況】は【乳汁産 生】,【子どもの哺乳による乳汁の排出状況】は【乳汁排 出】と,以下略す。  また前述した探索的因子分析で得られた結果につい て検討するため,確認的因子分析として,共分散構造 分析による検証を行った。モデルには,探索的因子分 析で抽出された3因子と12項目を用いた。分析の結果, 適 合 度 はCFI=0.939,RMSEA=0.099,AIC=405.844で あった。RMSEAは0.05を超えてはいるものの0.1以下 であり,CFIは0.9を超えていることから,概ね探索的 因子分析を支持する結果を得られた。 2 ) 基準関連妥当性  併存妥当性の確認として,「吸着」「乳汁の嚥下音」 「乳頭のタイプ」「快適な授乳」「抱き方」の5項目から母 乳育児行動をみるツールであるLATCHとの相関を算 出した。その結果,LATCHと「L 乳房痛」とはr=­ 0.006というように,項目間では相関係数が低い項目 もあった。しかし,ツールの合計得点とLATCHの合 計得点ではr=­0.525というように,中程度の負の 相関が得られた(p<0.001)。  また予測妥当性の検証方法として,「医療介入の有 無」を従属変数として,2項ロジスティック回帰分析を 行った。その結果,判別的中度は96.9%であり,Hos-merとLemeshowの検定でも有意確率が1.000であるこ とから,回帰式は適合し,予測精度も比較的高いとい う結果を得た。 4.信頼性の検討(表2) 1 ) 同質性(内的整合性)  同質性は,α係数で算出した。その結果,ツール全 体のCronbach's αは0.820であった。因子ごとのα係 数では,第1因子である【乳汁うっ滞】は0.859,第2因 子の【乳汁産生】は0.803,第3因子の【乳汁排出】は0.818 であり,いずれも内的整合性の高さを確認できた。 2 ) 同等性(評定者間信頼性)  ツールの各項目におけるκ係数は,対象助産師Aと B,AとCで算出した。その結果,0.490∼0.852(p< 0.000)で,対馬(2009)によると"moderate"あるいは, "almost perfect"であるという結果を得られた。  以上,同等性のうち「B 乳房の可動性(0.514)や「E 乳汁の粘調性(0.490)」が低いことから,本研究の信頼 性は一部の項目を除き概ね支持された。 5.カットオフポイントの設定(表4・5)  本研究ツールは,乳腺炎のケースのうち,医療介入 が必要かどうかを見極めるアセスメントツールとして 開発した。そのため,実践で用いるためには具体的 なカットオフポイントの設定が必須である。そこで, ROC曲線を用いて分析した。  ツールの合計得点を用いて「医療介入」を見極める カットオフポイントを31.5にすると感度100%,特異 度86.4%で,32.5にすると感度96.0%,特異度88.5%で あった。本研究ツールの合計得点は整数であることか ら,カットオフポイントを31にすると感度100%,特 異度85.4%で,32にすると感度98.0%,特異度87.5% となった。  また本研究ツールは,スクリーニングではなく確定 診断を目的としていることから,感度より特異度が高 いほうを重視するため,カットオフポイントは32と した。 6.実測値からみたツールの検討(表6-1・2・3)  前述したカットオフポイントについて,本研究の実 測値を用いて検証した。その結果,ツール合計点数を, 32にすると感度100.0%,特異度87.5%であった。医 療介入の必要なケースを見落とすことはないが,医 療介入の不必要な66ケースを医療介入が必要である と見誤る可能性が高い。この66ケースの主な診断名 は,「乳汁のうっ滞」が25,「乳腺炎」が20,「分泌不全」 が10であった。このうち,「乳汁のうっ滞」と「乳腺 表4 ツール合計得点からみたROC曲線の領域積 面積 標準誤差a 漸近有意確率b 漸近95%信頼区間 下限 上限 .946 .011 .000 .924 .968 表5 ツール合計得点と感度・特異度 ツール合計得点 感度(%) 特異度(%) 平均 31 100.0 85.4 92.7 32 98.0 87.5 92.7 ☆ 33 94.0 89.0 91.5 ☆:カットオフポイント値

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炎」の第1因子および第2因子の平均値の構成は,乳房 の状態が悪化するにつれ第1因子の平均値が高くなり, 第2因子の平均値は低くなる傾向があった。一方「分 泌不全」は,第1因子と比較して第2因子の平均値は高 値であった。つまり,合計得点が高く,カットオフポ イントの32を超えたとしても必ずしも医療介入が必 要な「重症な乳腺炎」とは限らない。そこで,「乳腺炎」 や「分泌不全」と「重症な乳腺炎」の識別ができるかを 検討した結果,第1因子の合計得点11をカットオフポ イントにすると,感度94.0%であり,特異度は94.3%で, 12をカットオフポイントにすると,感度88.0%,特異 度96.4%となる。そのため本研究ツールは,この感度 と特異度の合計がもっとも高い11点を,医療介入の 必要な乳腺炎を鑑別する際の必須要件とした。  以上より,本研究で得られた結果を考慮し, 授乳期 の乳腺炎診断アセスメントツール の概要を表7に示す。

Ⅴ.考   察

1.妥当性と信頼性の検討 1 ) 妥当性の検討  母乳育児支援では,用語の統一に問題があると指摘 されている(土江田,2008)。そのため,個々の施設や, 助産師間において用語の違いによるツールの回答への 影響が否めない。そこで本研究ツールは,母乳育児支 援に携わる助産師なら誰もが使用できる汎用性のある ツールにするため,調査に先駆けてスーパーバイズを 受けた。専門家等による意見をツールに反映すること で,より項目や設問が洗練されたことから,内容的妥 当性が確保できたと思われる。  また,本研究ツールは,12項目3因子から構成され ていることが調査の結果,確認できた。抽出されたそ れぞれの因子は,【乳汁産生】【乳汁排出】【乳汁うっ滞】 表6-1 カットオフポイント32で医療介入しなかったケース 主訴 人数 乳汁のうっ滞 乳腺炎 分泌不全 白斑 不適切な授乳(母親の誤解) 不慣れな授乳 吸着困難(母側の原因) 吸着困難(児側の原因) その他 25 20 10 1 4 1 1 2 2 計 66 表6-2 カットオフポイントと実測値 医 療 介 入 あり なし ツール合計点 (カットオフポイント:32,感度100.0%,特異度87.5%) 32以上 25 66 91 31以下 0 460 460 計 25 526 551 表6-3 カットオフポイント32で医療介入しなかったケースの因子別の平均値 平  均  値 第1因子 (範囲:4-20) (範囲:5-25)第2因子 (範囲:3-15)第3因子 (範囲:12-60)ツール合計 乳汁のうっ滞 N=25 9.3 15.8 5.2 36.8 乳腺炎 N=20 12.7 13.4 5.7 39.6 *重症な乳腺炎(薬剤) N= 3 14.7 12.3 3.0 35.7 *重症な乳腺炎(切開) N=22 15.7 13.3 6.1 42.7 分泌不全 N=10 4.9 19.7 8.0 39.8 (*:66ケースに含まれていないが,参考値として記載する)

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であった。授乳期の乳房は,母乳の分泌,すなわち乳 汁の産生,排出に関わる組織である(松原,2003)。さ らに,乳汁が適切に乳房外に排出されず,乳房内に貯 留することにより乳房トラブルを引き起こす原因とな る(WHO, 2010)。したがって,今回抽出された3因子 は,乳汁の分泌を産生,排出,うっ滞という視点から 捉えていることとなることから,授乳期における乳汁 分泌の生理学的な視点からみても因子の説明ができる と考え,構成概念妥当性が得られたと思われる。基準 関連妥当性は,併存妥当性とロジスティック回帰分析 で検討した。その結果,併存妥当性として,LATCH の合計得点と本研究ツールの合計得点とは,中程度の 負の相関(r=­0.525)が得られた。LATCHは,前述 したように,母乳育児行動を5項目から診るツールで, 母乳育児が良好なほど,高値を示すよう構成されてい る。一方,本研究のツールは,状態が良好なほど低値 を示すよう構成している。したがって,本研究ツー ルとLATCHとでは,負の相関が得られていることか ら,併存的な妥当性は得られたと考える。ロジスティ ック回帰分析では,判別的中度が96.9%であり,検定 (HosmerとLemeshow)の結果から,回帰式は適合し, 予測精度も比較的高かった。しかし,この項目の中で, 「H 乳管の閉塞」は,有意確率が0.986であることから, 本来なら除外して再解析が必要なのかもしれない。し かし対馬(2009)は,専門的視点で必要な場合は変数 を残しても良いと指摘している。「H 乳管閉塞」は,従 属変数を「乳腺炎」にした場合の有意確率は0.000であ ることから,「医療介入」としては除外項目であっても, 「乳腺炎」で母乳育児支援を求める母子へのケアをす る助産師にとって必要な観察項目であると考える。そ のため,本研究のツール項目からは除外せず,1項目 として残した。しかし,今後さらなる検証が必要であ ると考える。  また,今回,乳腺炎は,圧痛,熱感,腫脹あるく さび形をした乳房の病変で,38.5℃以上の発熱,悪寒, インフルエンザ様の身体の痛みおよび全身症状を伴う という乳腺炎の定義のもと,体温測定も行った。しか し,X2検定の結果,38.5℃以上だけでなく,37.5℃以上, 37.0℃以上のいずれの場合も有意差はなく,関連性が 示されなかった。これは,乳腺炎には感染性と非感染 性によるものがあり(社団法人日本助産師会 母乳育児 支援ガイドライン検討委員会,2011),必ずしも発熱 が伴うとは限らないためと考えられる。  以上,内容的妥当性および構成概念妥当性,基準関 連妥当性の検討の結果,本研究ツールの妥当性は支持 されたと考える。 2 ) 信頼性の検討  本研究ツールの信頼性は,同質性としてCronbach's のα係数を,同等性として評定者間一致を用いて検証 した。信頼性の検討には,再現性を用いるのがよいと いわれている(対馬,2009)。しかし,授乳期の乳房の 状態は変化するものであり,再現性の検討はできない。 そこでCronbach's α係数を算出したところ,ツール 表7 授乳期の乳腺炎診断アセスメントツールの概要 測定する特性 乳汁生成Ⅲ期の母子における医療介入を必要とする乳腺炎の鑑別 特性の定義  乳房内に乳汁がうっ滞し,母子のセルフケアおよび看護者による支援だけではうっ滞が解除されない乳腺炎 なお,このツールでは,授乳中の乳房の乳汁うっ滞を硬結としており,悪性および良性腫 瘍などの乳腺疾患の鑑別を目的としていません。 使用者の範囲 (看護者) 以下の条件を満たした母乳育児支援を行っている看護者 ・乳汁生成Ⅲ期の母子の母乳育児支援に携わる ・母乳育児支援の際に, 乳房の状態を視・触診する 対象者の範囲 (母子) ・乳汁生成Ⅲ期(出産後9日目以降) ・母子を1組としていますが, 母親のみでも可です。 〈除外条件〉 ・乳房疾患の既往がある方(但し,乳腺炎既往の方は可) ・豊胸術をしている方 カットオフポイント 12項目(範囲12-60)の合計点数が32をカットオフポイントとしています。 (感度98.0%,特異度87.5%) 〈医師への照会を行うにあたり〉 *【乳房内における乳汁の産生状況】より【乳房内における乳汁うっ滞の状況】の値が高い。 *【乳房内における乳汁うっ滞の状況】の合計点数が11以上である。 以上の場合は,重症な乳腺炎である可能性があることから,医師への照会を検討しましょう。

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全体のCronbach's α=0.820,因子ごとでは第1因子の α=0.859,第2因子のα=0.803,第3因子のα=0.818で あった。小塩・西口(2009)によると,Cronbach's α 係数が0.7あるいは0.8以上であれば,尺度の内的整合 性(同質性)が高いと判断される。本研究のツールの 同質性は,この基準値とされる0.7を超えていること から,今回の調査での信頼性は検証できたと考える。  また,2人の助産師によって同じ対象を診る評定者 間一致の検討では,κ係数は0.490∼0.852というよう に,一部の項目を除いては高い一致がみられた。特に, 第1因子の【乳汁うっ滞】を構成する項目(H・J・K・L) では,0.661∼0.781であり,対馬(2009)の判定基準で は substantial であることから,評定者2名での一致 が高いことが明らかになった。  以上,同質性および同等性の検討により,本研究の ツールの信頼性は概ね確保できたと考える。 2.臨床的有用性の検討  感度と特異度は同じ検査の中では二律背反の関係に ある(松原,2005)。つまり,感度を高めると,乳腺炎 で医療介入が必要なケースを見落とすことなく医師へ 照会することができる。しかし,その場合,医療介入 の必要がないケースでさえも照会してしまう恐れがあ る。一方,特異度を高めると,乳腺炎で医療介入が必 要でないケースを不必要に照会することは少なくなる が,真に医療介入が必要なケースを見落とす可能性が 高くなる。この二律背反にある感度と特異度のどちら を重視するかは一律には決められない。重大な疾患で あるほど,疾患発見後の介入の利益が高いほど特異度 を犠牲にして高い感度が求められる。逆に精密検査の 負担が大きい疾患や,介入の効果が不確実な場合,高 い特異度が求められる(松原,2005)。授乳期の乳腺炎 の診断方法は,超音波検査や細菌学的検査がある(菊 谷ら,2007)。超音波検査は,X線検査と違い,検査 対象者が被曝せず,痛みも伴わない上に,妊娠中から 胎児の成長を診るために行われていることから,母親 にとっても馴染みのある検査であり,そのため超音波 検査による心身の侵襲は少ないだろう。しかし,妊娠 中と異なり幼い子どもを連れて病院へ行くには,母親 にとって負担は大きいことも考えられる。今回の調査 でも,「医療介入」となったケース25組のうち,17組が 病院に子どもを連れて来院し診察中は,実母や夫など の付き添い者が子どもの世話をしていた。またそれ以 外の8組は,子どもを実母に預けるなど工夫をし,母 親のみが来院していた。授乳中は乳房のみを診るので はなく,母子やその家族,周囲の環境など,対象とな る母子の日々の暮らしを診ることが大切である(長田, 2009)。そのため,乳腺炎という疾患だけを診るので はなく,その母子を取り巻く環境までをも考慮する必 要がある。したがって,侵襲の少ない超音波検査とは いえ,不必要な検査を受ける機会はできるだけ少ない ほうが,授乳中の母子にとっては重要である。そのた め,必ずしもスクリーニングのように感度の高いカッ トオフポイントを設定する必要はない。むしろ,確定 診断として特異度が高いカットオフポイントを設定す るほうが臨床的に有用的であると考える。 3.研究の限界と今後の課題  本研究の併存妥当性は,母乳育児行動を診るための ツールであるLATCHを用いて検討した。その結果,2 つのツールは、状態の良し悪しの項目が逆転している ことから,妥当性の検討は相関値ではなく正負ならび に有意水準で検証した。本来なら,妥当性の検証のた めには,相関係数の値から適切性を検討することが, より正確である。しかし,開発ツールと併存妥当性用 のツールとの相関値の適切性を見極める具体的数値, すなわち基準値が示されている資料等はなく,併存妥 当性の検証は今後の課題であると考える。  また,本研究の調査協力した助産師3名は,母乳育 児支援歴9年以上で,重症な乳腺炎や分泌不全などを 観てきている経験者である。本来アセスメントツール は,経験者が使用するというより,乳汁生成Ⅲ期の母 乳育児支援経験の浅いあるいは全く授乳期の乳房診断 をしたことがない看護者が使用することが多いと思わ れる。しかし,今回の調査では,助産師の経験による 違いについては調査していないことから,ツールの適 切性や有用性は不明である。したがって,すぐにこの ツールを臨床で用いることは難しい。今後は,母乳育 児支援の経験年数による相違も調査し,経験者だけで なく,誰もが使用できるよう汎用可能なツールである ことを示すような検討も必要である。

Ⅵ.結   論

 本研究では,授乳期の母子を対象とした「授乳期の 乳腺炎診断アセスメントツール̶ATLM̶」を作成し, 554の乳房において,その信頼性と妥当性の検討を行 った。

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1 . 「H 乳管閉塞」「J 硬結の有無」「K 硬結部位の発赤」 「L 乳房痛」の第1因子である【乳房内における乳汁 のうっ滞状況】と,「A 乳房の弾力性」「B 乳房の可動 性」「C 乳頭の柔軟性」「E 乳汁の粘調性」「I 射乳」の 第2因子である【乳房内における乳汁の産生状況】と, 「N 哺乳意欲」「O 吸着状態」「P 吸啜状態」の第3因子 である【子どもの哺乳による乳汁の排出状況】という, 12項目3因子より構成された。 2 . 信頼性は,α係数は0.803∼0.859であり,評定者 間一致としてのκ係数は0.490∼0.852であることか ら,信頼性は概ね確認できた。 3 . 基準関連妥当性として,母子の母乳育児行動を 診る既存のアセスメントツールであるLATCHとの 相関で検討した結果,r=­0.525という中程度の負 の相関が得られた。予測妥当性として,医療介入 が必要な乳腺炎を見極める判別的中率は96.9%(p< 0.05)だった。さらに,共分散構造分析を行ったと ころ,CFI=0.892となり,構成概念妥当性妥当性を 概ね支持する結果を得た。 4 . 「医療介入」を見極めるカットオフポイントは, 感度98.0%,特異度87.5%の32とした。さらに,第 2因子の【乳房内における乳汁の産生状況】より第1 因子である【乳房内における乳汁のうっ滞状況】の ほうが高値であること,第1因子の合計得点が11以 上であることも,医師への照会が必要な重症な乳腺 炎を見極める要件とした。  以上の結果,本研究ツールは,信頼性および妥当性 について確認できた。今後,臨床での実用化や現任教 育への貢献が可能である。 謝 辞  本研究にご協力いただきました母乳育児中のお母様 やお子様,助産師の皆様方に心より感謝申し上げます。 また,研究をご指導下さいました聖路加看護大学の堀 内成子教授,菱沼典子教授ならびに柳井晴夫教授に深 く感謝いたします。さらに日本赤十字看護大学の井村 真澄教授には,母乳育児支援のエキスパートとしての お立場よりご指導をいただき,深謝しております。  なお,本研究は,2010年度,日本助産学会の学術奨 励研究として,助成金を受けて行った。  本研究は,2010年度聖路加看護大学大学院博士論文 の一部に,加筆修正したものである。 引用文献 石井秀宗(2005).統計分析のここが知りたい.44-66.東京: 文光堂.

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参照

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