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変 わる 高 校 教 育 第 9 回 英 語 教 育 ことをめざしています 最 近 になって 突 然 出 てきた 施 策 で はないのです それにもかかわらず 高 校 ではずっと 読 む に 偏 っ た 英 語 教 育 が 行 われてきたの は なぜでしょうか 最 大 の 問 題 は 大 学 入 試

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上智大学 言語教育研究センター

従来の大学入試においても

4技能を高める教育の方が得点は伸びる

——なぜ、近年の高校英語教育では、4技能を総合的に 高める教育が重視されているのでしょうか。  私たちは普段、日本語でコミュニケーションをする時、 場面に応じて、文字を介した「読む」「書く」と、音声に よる「聞く」「話す」の4技能を柔軟に組み合わせて使っ ています。このように実際のコミュニケーションが4技 能を組み合わせて行うものである以上、外国語学習にお いても、4技能をバランスよく高め、それぞれの技能を 組み合わせて使えるようにすることが重要です。  そのため、学習指導要領も、以前から4技能をバラン スよく育てることを目標に掲げています。例えば1960年 に告示された高等学校学習指導要領では、「聞く能力」 「話す能力」「読む能力」「書く能力」「基本的な語法」の 学習が目標として掲げられています。その後の学習指導 要領も現在まで一貫して、4技能をバランスよく育てる

PART

1

4技能をバランスよく高める

高校英語教育への転換

 現在、さまざまな英語教育改革の施策が進行している。一連の施策に通底しているのは、「読む」中心の教育から、 「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能をバランスよく育成する教育への転換だ。なぜ4技能を重視した指導を行う 必要があるのか、高校ではどのような指導が求められるのか。英語教育の第一人者で、文部科学省の英語教育に関す る各種会議の委員でもある上智大学言語教育研究センター長の吉田研作教授に解説していただいた。

吉田研作

教授

概 説

英語教育

第9回

変わる高校教育

 このコーナーでは高校教育の変化を、高校の取り組みや工夫、国 の政策や都道府県の取り組み、さらにそれらの背景にある社会の変 化などを含めて見ていく。  今回のテーマは「英語教育」だ。グローバル化の進行で、英語で コミュニケーションができる力の必要性は高まっているが、文部科学 省調査によると高校生のほとんどは十分な力が身についていない。そ こで文部科学省では、①英語教育の早期化とそれに伴う中学校・高 校の英語教育の高度化、②「読む」中心の教育から、「聞く」「話す」「読 む」「書く」の4技能をバランスよく育てる教育へ、③訳読や文法解説 など教員主導の教育から生徒の言語活動中心の教育へ、などを柱 に改革を進めている。高校でも、現行の学習指導要領に「授業は英 語で行うことを基本とする」という文言が入ったことを契機に授業改善 が進みつつあるが、指導方法に悩む先生も多いのではないだろうか。  そこで今回はこうした改革を行う背景をPART1で解説した後、 PART2・3で都道府県、高校の取り組みを紹介する。 CONTENTS PART 1 概説 ●4技能をバランスよく高める高校英語教育への転換 (上智大学 吉田研作教授) ●近年の英語教育改革 PART 2 都道府県の取り組み ●岐阜県教育委員会 ●大阪府教育委員会 PART 3 高校の取り組み ●宮城県石巻高等学校 ●北海道滝川西高等学校 ●東京都立西高等学校 ……… p24 ……… p28 ……… p31 ……… p34 ……… p37 ……… p40 ……… p43

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の結果は衝撃的でした。4技能それぞれの力を測定した テストですが、スピーキング、ライティングは、CEFR (注2)で最下位レベルの生徒が80%以上と意見を発信した り表現したりする力が弱いことが歴然としています。リ スニングやリーディングもかなり低い得点です<図>——4技能の中で最も時間をかけて指導しているリー ディングの力がついていないのはなぜでしょうか。  日本のリーディング教育は、原文に従って一文ずつ忠 実に訳す逐語訳が中心です。しかし、一文ずつの逐語訳 はできても、文章全体として何を伝えようとしているの かを理解できていない生徒が多いのではないでしょうか。  そもそも、まとまった量の文章を読むためのスキルに しても、一文の中での語のつながりの規則を教えるだけ で、段落単位でどのように構成されているのかまで教え ている高校は少ないように感じます。それでは文章全体 の意味を把握することはできず、限られた時間にまとまっ た量の文章全体の意味を理解するといった、実際の場面 で必要なリーディングの力がつかないのです。 ——その点については、現行課程になって改善されつつ あるのではないでしょうか。トピックセンテンスや接続 詞に注目して、段落単位で意味を理解させるなどの指導 ことをめざしています。最近 になって突然出てきた施策で はないのです。 ——それにもかかわらず、高 校ではずっと「読む」に偏っ た英語教育が行われてきたの は、なぜでしょうか。  最大の問題は大学入試です。 大学入試センター試験(以下、 センター試験)、各大学の個 別試験とも、測っているのは リーディングの力が中心です。 リスニングやライティングが 課されることもありますが配 点はそれほど高くありません。 大学入試でリスニング、ス ピーキング、ライティングの 力が要求されないのなら、その技能を高めるために時間 を割くのは、大学合格を目標にするのであれば効率が悪く、 リーディング主体の教育を行った方がよいと考える教員が 多かったのでしょう。  しかし実は、リーディングに偏らず4技能をバランス 良く高める教育を受けた生徒の方が、リーディングが中 心であるセンター試験の得点が高いという調査結果があ ります。意外かもしれませんが、これは当然のことです。 例えば、文法を単に知識として教わっても、なかなか身 につきません。しかし、習った文法を使って、まとまり のある文章を書いたり、発表で使ってみたり、友達の話 す内容を聞くなど4技能を使った多角的な活動を通して 学ぶと、知識は定着し、応用的に使うこともできるよう になるのです。大学入試の出題に合わせてリーディング 主体の教育を行うよりも、4技能を高める教育を行った 方が、従来の入試問題においても得点は伸びるのです。

生徒はスピーキング、ライティングが苦手

リーディングにも課題

——高校生は、どの程度4技能が身についていますか。  文部科学省「英語教育改善のための英語力調査」(注1) <図>高校生の4技能のスコア分布 (文部科学省「英語教育改善のための英語力調査」(2015 年度)より) (注1)国による4技能型試験のフィージビリティ調査。世界標準である CEFR の AI 〜 B2 のレベルを測定できるよう設計し、結果は得点帯刻みに設定して 分布を把握。初回の 2014 年度調査は旧学習指導要領(1999 年3月告示)で学んだ高校3年生(約7万人)を対象に 2014 年6〜9月に実施。2015 年度調査は4技能をバランスよく教える方針を強化した現行課程で学んだ高校3年生(約9万人)を対象に 2015 年6〜7月に実施。経年比較をす ると、4技能ともやや改善傾向だが、第2期教育振興基本計画(2013 〜 2017)で策定した英語力の目標(高校卒業段階で英検準2級程度〜2級 程度以上(CEFR の A2 〜 B1 に該当)を達成した高校生の割合 50%)にはまだ届いていない。 (注2)CEFR(セファール)…外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠。習熟度の低い方から A1・A2・B1・B2・C1・C2 の6段階。 <読むこと> <聞くこと> <書くこと> <話すこと>

CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合 CEFR 得点 人数 割合

B2 320310 3014 0.1% B2 320 123 0.2% B2 140 0 0.0% B1 14 211 1.2% B1 310 56 2.1% 135 1 A2 13 239 9.8% 300 35 300 62 130 0 12 390 B1 290 41 2.0% 290 77 B1 125 2 0.7% 11 422 280 51 280 90 120 18 10 611 270 73 270 176 115 46 A1 9 748 89.0% 260 122 260 172 110 179 8 905 250 175 250 238 105 288 7 1026 240 250 240 342 A2 100 679 17.2% 6 1168 230 347 230 414 95 726 5 1569 220 503 A2 220 607 24.2% 90 1370 4 1028 A2 210 730 29.9% 210 751 85 1577 3 1601 200 1007 200 1046 80 2130 2 0 190 1365 190 1377 75 3515 1 3918 180 1957 180 1770 70 3563 0 3149 170 2580 170 2241 A1 65 4518 82.1% 平均 4.3 160 3648 160 2835 60 3709 調査対象 16985 150 5063 150 3683 55 4130 0 点 3149 18.5% 140 7144 140 4700 50 3651 A1 130 9963 68.0% A1 130 6111 73.6% 45 2435 120 12791 120 7728 40 3208 110 12821 110 9265 35 2234 100 9486 100 9325 30 2668 90 4891 90 8611 25 2861 80 2038 80 6794 20 3551 70 696 70 4289 15 4621 60 240 60 2594 10 12844 50 105 50 1299 5 0 40 35 40 642 0 14303 30 35 30 331 平均 37.5 20 1 20 144 調査対象 78827 10 0 10 147 0 点 14303 18.1% 0 332 0 529 平均 131.9 平均 120.7 調査対象 78569 調査対象 78569

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例が多くの教科書に掲載されるようになりました。  確かに現行課程の「コミュニケーション英語」では、 多少は段落単位での構造を教えるようになりました。た だし、まだ従来通り、一文ずつの逐語訳しかしない高校 もあり、十分に浸透していないように感じます。改善さ れた教科書を使いこなし、リーディングの力を伸ばす指 導ができる教員が増えるとよいと思います。 ——これまであまり重視されていなかったスピーキング の指導に関してはどのような課題がありますか。  スピーキングの力を伸ばすには、まずは生徒が話す場 面を授業に取り入れることが重要です。ただし授業でい かに話す場面を設けるか、何について話をさせるかといっ た「指導方法」よりも、「評価方法」が難しいという声が 多く聞かれます。評価は、課題を与えて一人ずつ英語で 話をさせ、授業で習った文法が正しく使えているかや、話 した量、教員の問いかけに対応できるかなどを規準にルー ブリックを作成し、それに沿って評価するなどの方法が ありますが、この規準を決めたり、基準に沿って評価を することを難しく感じる教員が多いようです(注3) ——スピーキングやライティングについては、こうした ルーブリックに基づいた評価が必要になります。評価方 法はどうすれば身につけることができますか。  とにかく経験を積むしかありません。とはいえ、ルー ブリックを作成するところから取り組むのはハードルが 高いので、まずは既存のルーブリックを使って評価をし てみるところから始めるのもよいのではないでしょうか。  

教員自身が新聞、ニュース、本などで

リアルな英語に触れる経験を増やす

——今後、生徒の4技能をバランスよく高めるために、教 員はどのようなことに取り組むとよいでしょうか。  やはり、生徒に4技能を使った活動をさせることが大 切です。そのための手立てを3つ紹介します。  1つ目は、教員自身が日常生活で英語を使うようにす ることです。企業に勤務している社会人は、グローバル 化の進行で仕事上の必要性に迫られて、英語を日常的に 使う人も増えています。しかし教員は、教科書を使って 「英語を教える」ことはしていますが、会議で話すのも書 類を書くのも日本語で、実際の生活の中で「英語を使う」 経験が案外少ないのです。以前、中学校・高校の英語科 教員対象の研修会で、英字新聞を読んだり、英語の ニュース番組を見たりしているかを聞いたところあまり 手が挙がらず、学校以外で意識的に英語に触れている教 員もあまり多くないようでした。  こうした教員に特に勧めたいのが、英語の小説を読む ことです。私はかつて、通勤電車の中で、言語学の英語 論文を読むのを日課にしていました。けれども、十数年 前からそれをやめて、代わりに現代ミステリーなどを読 むようにしました。それによって、私の授業は劇的に変 化しました。もともと英語で講義をしていたのですが、堅 苦しい学問的な英語ばかりに接していた時と違い、小説 で多様な日常表現に触れることで、表現が豊かになり、す らすら英語が出てくるようになったのです。  このように教員自身がより自由に英語を使えるように なれば、話す活動への関心が高まって、生徒と英語でや りとりをする場面や、生徒に英語で話をさせる場面が増 えるなど、授業の内容も、生徒の4技能を伸ばせるよう なものに変わってくるのではないでしょうか。

文章の内容を深く理解させることで

生徒の関心を高め、英語力を伸ばす

 2つ目は、リーディングの指導の際に、文章全体の内 容を深く理解させるような指導をすることです。  例えば図版や映像なども含めた多くの関連資料を与え たり、多くの課題を与えて多角的に考えさせたりするな どがあります。こうした多様な取り組みをすると、生徒 は与えた文章への関心を深め、深く理解しようとします。 そうなると授業中に英語で書いたり話したりする内容も 豊かで複雑なものになり、力が伸びていきます。従来の ような逐語訳だけでは読む力しかつきませんが、こうし た指導をすると4技能をバランスよく伸ばせますし、与 えた文章の内容についての知識や思考力も育ちます。 ——外国語と、外国語で書かれた内容を同時に学ぶとい う点は、CLIL(注4) と共通していますね。  上智大学では英語教育にCLILを取り入れていて、さま ざまな学術分野の入門科目を英語で学ぶことができます。 専門的な内容を題材に、英語でのペアワークやディス カッションなどのコミュニケーション活動を多く行うこ とで、英語力を伸ばします。大学でCLILを実施して感じ るのは、教員自身が興味を持っている題材を扱うことが 大事だということです。興味を持っている題材であれば、 扱うべき論点もわかっていますし、幅広い資料や教材も (注3)ルーブリックとは、学習者が何を学習するかを記述した評価規準と、学習者が到達しているレベルを示す評価基準をマトリックス形式で示したもの。 事前に明示した目標に準拠した観点について、何ができればどの段階にあるのか具体的に記述されているところに特徴がある。文中の「基準」「規 準」の使い分けは上記による。 (注4)CLIL(クリル)…内容言語統合型学習。外国語を身につけながら、同時に専門的な内容を学ぶ学習方法。

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持っています。何より熱意を持って内容を学生に伝えよ うとします。そのため、教員採用の際には、英語以外の 専門性を有しているかどうかを重視しています。  今後は高校の英語教員も、英語教育だけでなく、プラ スアルファの専門性を有することが大切になるというの が私の持論です。生徒が本気で考え、それについて英語 で表現したくなるような授業をするためには、中身の濃 い題材を扱う必要があると思うからです。例えば大学時 代に副専攻を積極的に履修したり、卒業後は幅広い分野 の情報に触れるなどして、興味・関心を広げ、授業で深 く扱うことのできる題材を増やしてほしいと思います。 ——高校では、どのような題材を使うとよいでしょうか。  文章の内容について考えたり、話し合ったりするわけ ですから、教員や生徒が関心を持って、楽しく取り組む ことができる題材がよいでしょう。例えば、環境問題に 関心がある教員ならそれについて扱うなどです。生徒の 関心のある題材としては、例えば学習意欲が低い生徒が 多い男子校で、英語で書かれたバイクのパンフレットを 使用したところ、目の色を変えて読もうとしたという話 があります。また「ロミオとジュリエット」も絶大な人 気があります。主人公が同年代ですし、恋の葛藤は思春 期の生徒にとって普遍的なテーマだからでしょう。  また、教材とする文章を選ぶ際には「本物」を与える ことが大切です。例えば、平和について扱った文章とし て、キング牧師のスピーチと、マザー・テレサについて の文章があります。キング牧師のスピーチは、難しい単 語が使用されており、表現も凝っているため、難解です。 一方、マザー・テレサについての文章は、ジャーナリス トが彼女の思いをまとめ直した文章なので、わかりやす く客観的に書かれています。高校生にどちらを面白いと 思うかと問うと、圧倒的にキング牧師の方なのです。自 分で語った「本物」の言葉には迫力があり、生徒にもっ と読みたい、知りたいという気持ちを起こさせます。

生徒が能動的に英語を使う場面を作り

教員が教えすぎないことが大事

 3つ目は、ディベートなどの言語活動を取り入れて、 生徒が能動的に学ぶことができる授業にすることです。 できるだけ教員が教える時間を少なくして、生徒が英語 を使って話す、書くなど4技能を使った多様な活動をす る時間を確保するように努めることが重要です。  例えば、生徒同士で教科書についてのQ&A、ディベー トやディスカッションをさせると、生徒は自分たちなり に表現を考えて、意見を伝えようとします。教員はその 様子を見て、適宜アドバイスをするとよいでしょう。 ——ディベートやディスカッションについては、テーマ を示すだけでは議論の内容が深まりにくいが関連資料を 与えると結論が定まってしまう、といった声もあります。  インターネットなど、多様な情報源がありますから、 生徒が資料探しから行うのがよいでしょう。例えばディ ベートなら、事前に授業当日の立場を指定して、その立 場から根拠などを調べてくるよう指示をします。その上 で授業で議論させるのもよい方法です。  ただし、すべて生徒に任せてしまわずに、生徒が用意 した内容が適切かどうか、事前に教員が確認してアドバ イスをするなど、事前の指導が大切です。 ——ディベートやディスカッションの前段階の指導とし て、ペアワークで話す練習をすることが多いようです。 有効な方法でしょうか。  ディスカッションの練習の1つとして有効です。ただ し、一人が教科書の構文を棒読みして、もう一人がその 構文を使って答えるようなペアワークも目にします。そ れではパターンプラクティスの変形にすぎず、あまり意 味がありません。もちろん習った構文を使うのはよいの ですが、その構文を使って話す内容は、一人ひとり異な る、即興性のあるものにすることが大切です。予想でき ない答えが返ってくるからこそ、相手の話を聞こうとす る姿勢が生まれるからです。ただし、それはなかなか困 難なことでもあります。話す内容がなければ、ペアワー ク自体が成立しないのです。そこで、私がよく行うのが ブレインストーミングです。あるテーマについて、どん な考え方があるか、全員でアイデアを出し合い、板書し ます。それらのアイデアをグルーピングして整理し、こ の部分についてもう少し議論してみよう、と問いかけて ペアワークを行います。こうしてテーマの全体像や課題 が整理されていれば、ペアワークもスムーズに行えます。  このほか、話すことに慣れる取り組みの例としては、毎 時間、その場で与えられた課題について、あるいは日頃 自分が考えていることを、即興で1分間英語で話す活動 を行った高校があります。ペアの生徒は内容を聞きなが ら、何語話したかをカウントするのですが、1年間続け ると、1分間で150語以上話せるようになったそうです。 こうした短時間の取り組みでも続ければ生徒はどんどん 自分の言葉で話せるようになります。  このように、生徒が多くの言語活動を通して、4技能 をバランスよく伸ばせるようにしてほしいと思います。

(5)

PART

1

概 説

高校卒業段階で英検準2級~2級50%の

数値目標を掲げた「第2期教育振興基本計画」

 まず、近年の英語教育改革の大きな流れを見ていく。 近年の英語教育改革の契機となったのが、内閣直属の教 育再生実行会議による「これからの大学教育等の在り方 について(第3次提言)」(2013年5月)である。小学 校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時 間増、教科化、専任教員配置等)、中学校における英語に よる英語授業の実施、初等中等教育を通じた系統的な英 語教育について検討することなどを提言した。  同時期の2013年4月に文部科学省中央教育審議会が 国の総合的な教育振興施策をまとめた「第2期教育振興 基本計画」(2013 ~ 2017)では、グローバル人材には 英語力が不可欠であることから、中学校卒業段階で英検 3級程度以上、高校卒業段階で英検準2級~2級程度以 上の達成割合を50%にするという数値目標が掲げられた。

「英語を使って何ができるようになるか」の

観点からの学習到達目標作成が重要に

 これらを受けて2013年12月に文部科学省が発表した のが新たな英語教育を展開するための具体的な方法をま とめた「グローバル化に対応した英語教育改革実施計 画」だ。小学校での英語教育の拡充強化や、それによっ て高校までにより高度な英語力をつけることを提言した。 また、その実現のために小・中・高で一貫した学習到達 目標を設定するべきであること、小・中・高の各段階で 英語教育を充実させる必要があることも指摘された。  高校英語教育については「幅広い話題について抽象的 な内容を理解できる、英語話者とある程度流暢にやりと りができる能力を養う」「授業を英語で行うとともに、言 語活動を高度化(発表、討論、交渉等)」や、そのための 教員研修、指導用教材の開発を提言している。  さらに、同計画の具体化に向けて、専門的な見地から 検討を行うために、文部科学省の調査研究協力者会議で ある「英語教育の在り方に関する有識者会議」を設けた。 2014年9月に「今後の英語教育の改善・充実方策につ いて 報告 ~グローバル化に対応した英語教育改革の五 つの提言~」を公表している。提言では、中・高の英語 教育に関して、これまでの「文法や語彙等の知識がどれ だけ身についたか」を重視した授業から、「英語を使って 何ができるようになるか」を重視する授業に変えること を求めている。実施計画で掲げている「英語によるコ ミュニケーション能力を確実に養う」という目標達成の ためには、日々の授業で文法の知識などを中心に学ぶの ではなく、例えば「人物についての説明を読んで、その 内容を口頭で要約することができる」などの英語で何が できるかという目標を意識して教える必要があるからだ。 そして、こうした授業へ切り替えるための具体的な手立 てとして、各学校で、4技能に関して「英語を使って何 ができるようになるか」という観点から、生徒に求めら れる学習到達目標(CAN-DO形式)をまとめ、それに 沿って授業をすることを提案した。  また、4技能をバランスよく高めるには、多くの現職 教員が、自分が受けてきた英語教育とは大きく異なる方 法で指導や評価を行うことが求められるようになる。そ

近年の英語教育改革

 近年、国の施策として英語教育改革が進められている背景には、社会の急速なグローバル化がある。国際共通語 である英語力の向上が、日本の将来にとって不可欠と考えられているからだ。しかし現実には、英語に苦手意識を持ち、 外国人とスムーズにコミュニケーションを図ることができない若者が多く、それでは日本の国際競争力を高めることは できない。そこで英語教育の抜本的な改革を行う必要が出てきたのだ。  改革の全体的な方向性としては「小学校英語の早期化・教科化で学習内容を前倒しし、中学校・高校の学習内容 を高度化すること」と「英語4技能(聞く、話す、読む、書く)をバランスよく育て、英語でコミュニケーションができ る力を育てること」が柱になっている。ただし、こうした全体的な方向性はどの事業にも通底しているものの、近年さ まざまな施策が公表され、ややわかりにくくなっているのではないか。そこで、近年の主な英語教育改革に関わる施策 を整理していく。

(6)

れに対応できる教員を養成するための研修の充実が課題 として挙がっている。あわせて習熟度別指導、少人数指 導、ティーム・ティーチングなど、きめ細かな指導を可 能にする環境整備も提言されている。  なお、先述の実施計画、有識者会議で提言された内容 のうち、小・中・高を通じて一貫した目標や身につける べき資質・能力などについては、現在、中央教育審議会 教育課程部会外国語ワーキンググループでさらに議論が 進められている<図>

小・中・高で一貫した目標の設定や

地域のリーダーを育てる教員研修を実施

 ここからは、実施計画を受けて行われている文部科学 省の具体的な取り組みをいくつか紹介する。  2014年度には「英語教育強化地域拠点事業」が始 まった。小学校段階での英語教育の早期化・教科化など を受けて、同じ地域にある小学校・中学校・高校が連携 して、小・中・高を通じて一貫した目標の設定や、その ための指導方法、評価方法の研究などに取り組む。他校 種の教員と連携して研究することで教員が最終的な到達 目標から逆算して各学校種での指導内容を考えることが できるようにすること、研究成果を今後の英語教育の在 り方に関する検討に生かすことなどが狙いだ。  同じく2014年度から、小・中・高の教員・外国語指 導助手を対象に「英語教育推進リーダー中央研修」が始 まった。外部機関(ブリティッシュ・カウンシル)と連 携し、学校種別に行う研修で、地域でリーダーの役割を 果たすことができる英語教員を養成する。研修に参加し た教員は、研修指導者として、英語科教員の研修や授業・ 評価の改善のための指導・助言を行うことが期待されて いる。高校教員向けには、生徒が英語で自分の考えや意 見を話すなどの言語活動を行う方法、言語活動と一体化 した文法指導の方法などについての研修を行い、4技能 をバランスよく育てることのできる教員を増やそうとし ている。  しかし、実施計画に基づき、さまざまな取り組みを進 <図>小・中・高等学校を通じて一貫した目標設定の在り方について (文部科学省 教育課程部会 小学校部会(第4回(2016 年3月 14 日))配布資料より)

(7)

めているにもかかわらず2014年度の高校3年生を対象 とした「英語教育改善のための英語力調査」(p25に詳 細)などで4技能が十分身についていない生徒が多いと いう実態が明らかになった。そこで、2015年6月には 「生徒の英語力向上推進プラン」が策定された。都道府 県が中高生の英語力向上により力を入れるよう働きかけ るものだ。具体的な内容には、「第2期教育振興基本計 画」の国の目標を踏まえて、2015年度末までに、生徒の 英語力についての都道府県ごとの目標を設定・公表する ことを要請している。  また「生徒の英語力向上推進プラン」には、2019年 度から、中学校で英語4技能を測定する「全国的な学力 調査」を新たに導入することも盛り込まれている。中高 生の英語力についての目標設定や結果測定の機会を設け ることで、国および都道府県がPDCAサイクルを構築し て、生徒の英語力向上につなげることをめざしている。

学習指導要領で

4技能をバランスよく伸ばすことを推奨

 上記のほかに、高校の英語教育への影響が大きい文部 科学省の取り組みとして、学習指導要領の改訂がある。 2013年度から施行された高校の学習指導要領において、 英語で最も注目を集めたのは「授業は英語で行うことを 基本とする」という文言が加わったことだ。訳読や文法 の解説・演習などが中心の従来型の授業から、生徒がさ まざまな言語活動を行うことを中心にした授業に変える ことによって、4技能を使いこなして英語でコミュニ ケーションができる生徒を育てようという狙いがある。 教科書も、ペアワークやディベート、ライティングなど の課題が増加したほか、語彙数も増加して高度な言語活 動まで指導できるようになった。さらに、教育目標や授 業内容の変化に伴い、評価もペーパーテストだけでなく、 パフォーマンステスト(注1)を行う必要が出てきた。  この学習指導要領の改訂をきっかけに、少しずつ授業 改善が進行しているが、従来型の指導をする教員も少な くなく、授業改善への意欲も教員によって温度差がある との指摘もある。この点については、研修などに参加し た教員が、リーダーの役割を担って、情報共有や共通認 識の醸成を図ることが期待される。

4技能を測定するために

大学入学者選抜で資格・検定試験を活用

 さらに、大学入学者選抜で資格・検定試験の活用が推 進されていることも大きなトピックだ。「第2期教育振興 基本計画」で、外部検定試験を活用して、生徒の英語4 技能に関する把握・検証を行い、戦略的な英語教育改善 を進める方針が示されたことを皮切りに、「英語教育の在 り方に関する有識者会議」では、各大学のアドミッショ ン・ポリシーとの整合性を前提に、入学者選抜に4技能 を適切に測定する資格・検定試験を活用することが推奨 された。「生徒の英語力向上推進プラン」でも同様の内容 が提言されている。  なぜ資格・検定試験の活用なのか。これまで大学入試 問題はリーディングが中心だったため、高校の指導もそ れに合わせて訳読中心の指導をしてきた。そこで大学入 試問題を変えることで高校の授業を4技能化しようとい うわけだ。しかし各大学で4技能を測定する入試問題を 作成・実施するのは難しいため、資格・検定試験を活用 する方法が検討されているのだ。  一方で、資格・検定試験の活用が広まることによる課 題もある。受験会場が都市部に限られることがあるため 受験機会が少ない地方の生徒が不利になる可能性がある ことなどだ。そこで、2015年3月には文部科学省が「英 語力評価及び入学者選抜における資格・検定試験の活用 促進に関する連絡協議会」で「英語の資格・検定試験の 活用促進に関する行動指針」をまとめた。試験関係団体 には「目的・難易度・作問の妥当性や客観性といった点 を含め、各資格・検定試験によって測られる能力の範囲 を可能な限り明確にするとともに、受験環境、実施場所、 実施時期、受験費用、公平性の担保等に関する情報提供 等を積極的に行うように努める」ことなどを求めている。  TOEFLや英検に加えて、TEAP(注2)を利用した入試も 2015年度から始まるなど、大学入学者選抜で資格・検定 試験を活用する動きが、今後さらに活発化することは確 実視されている。それを受けて、高校の英語教育が4技 能をバランスよく高める方向に変わっていく可能性は高 いといえそうだ。 (注1)パフォーマンステスト…知識やスキルを応用・統合して使いこなすことを求めるテスト。ペーパーテストと併用することでより幅広い資質・能力を 測ることができる。英語科ではスピーチやプレゼンテーション、インタビュー、エッセイライティング、ペアワーク、グループディスカッションな どを評価する。 (注2)TEAP…上智大学と公益財団法人日本英語検定協会が共同で開発した大学教育レベルにふさわしい英語力を測定する4技能型の英語能力判定試験。 2016 年度には 21 大学が採用。

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岐阜県教育委員会

PART

2

都道府県の取り組み

グローバル人材育成のために

英語教育の改善に取り組む

 岐阜県教育委員会では、小学校・中学校・高校の外国 語活動・英語科の共通目標として、「豊かな語学力やコ ミュニケーション能力などを身につけ、さまざまな分野 で活躍できるグローバル人材の育成」を掲げている。  「グローバルな視点で物事を考えたり、英語を使って仕 事をしたりするのは、かつては特定の分野に限られてい ましたが、これからはより多くの人にそうした力が求め られるようになるでしょう」と酒井先生は指摘し、遠藤 先生も「現在、本県の工業高校の卒業生が母校に発行を 依頼する成績証明書は英語版が多くなっています。海外 で働く技術者が既にかなり増えていることを示している と思います」と語る。  このような状況の下、岐阜県教育委員会では英語教育 に関するさまざまな施策を行っている。  その1つが「小・中・高英語教育拠点校区事業」(2014 年度~)だ。これは、岐阜、西濃、美濃、可茂、東濃、飛 騨の6つの地域それぞれに高校1校、中学校1校、小学 校1~2校を指定して、小・中・高が連携して授業研究 を行ったり、小学生から高校3年生まで連続したCAN-DOリストを作成したりする取り組みだ。他校種での指導 方法を知って自校での指導に生かすことや、高校入学時 までに身につける力について共通認識を持った上で各校 種で、何を、どこまで、どのように教えるかについて考 えることなどを狙いとしている。指定された高校6校に は、県教育委員会の指導主事と、英語教育を専門とする 大学教員(アドバイザー)が各1人ずつついて継続した 支援を行っている。

小・中・高で連続したCAN-DOリストを作成

パフォーマンステストも共同で実施

 取り組みの内容は地区によってやや異なるが、例とし て西濃地区(岐阜県立大垣西高校、大垣市立星和中学校、 大垣市立中川小学校、大垣市立小野小学校)の取り組み を見てみよう。西濃地区では、まず2014年度に小・中・ 高で連続したCAN-DOリストを作成した。「小学校・中 学校・高校の教員がそれぞれの授業を見学に行くところ から始めました。例えば高校の先生にとっては、小学校 教員のきめ細かい声かけが参考になったり、中学生がこ こまで話せるなら高校ではもっと高度な課題でもよいか もしれないといった気付きがあったようです。そうして 各校種の実態を共有した上でCAN-DOリストを作成し ました。高校卒業時の到達目標は高校によって異なるた め、中学校から高校1年生の段階を特に考慮し、どの高 校でも参考にできるようにしています」(酒井先生)  2015年度にはCAN-DOリストの内容が児童・生徒の 実態に合っているかを確認するため、全校種が連携して パフォーマンステスト(p30参照)を実施した。小・ 中・高の教員が集まって、各校種の課題とルーブリック (p26参照)を作成した。「『日本の良さを外国の人にPR する』というテーマで行いました。小学生は自分が住む 地域や県の魅力について話す、中学生は日本全体の魅力 について話す、高校生は日本と外国を比較しながら話す というように、徐々に課題が高度になるようにして、各 段階で到達すべき力がついているかを確認しました」(酒 井先生)  このパフォーマンステストの評価は、小学生について は中・高の教員とアドバイザーが、中学生については小・

小・中・高が連携した英語力向上の取り組み

生徒向け・教員向けの支援も充実

 岐阜県では2018 年度までの教育目標をまとめた「第2次岐阜県教育ビジョン」(2014 年度)を策定している。目標 の1つには「グローバル社会で活躍できる人材の育成」を掲げ、英語教育に関わるさまざまな施策を行っている。小・中・ 高が連携した指導方法の研究、生徒の学習意欲を高める各種イベントや教員向け研究会の実施・充実などについて、 岐阜県教育委員会事務局学校支援課課長補佐・指導主事の酒井猛先生と教育研修課専門研修係課長補佐・指導主 事の遠藤正人先生に話を伺った。

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高の教員とアドバイザーが、高校生の評価は小・中の教 員と大垣市教育委員会の指導主事やアドバイザーが行っ た。「知らない大人に向かって話すことで、テストという より、言いたいことを伝える、コミュニケーションをす るという意識が強くなります。教員にとっても他校種の 生徒の力を知ることで自校の授業を見直すよい機会とな ります」(酒井先生)  また、西濃地区では、他校種間の生徒交流も活発に 行っている。下級生に将来の「もっと英語が使える自 分」をイメージさせて学習意欲を高めることなどが狙い だ。例えば、大垣西高校の2年生と星和中学校の3年生 が「日本が世界に誇れるもの」をテーマに、それぞれ自 校で学習した上で高校の体育館に集まり、その場で発表 されたテーマについて英語によるミニディベートを行っ た。中学生・高校生の交ざった4人グループを作り、2 人がディベートをし、もう2人がジャッジをする形式だ。 ジャッジやディベーターは交代しながら行う。「中学生が 高校生に憧れて刺激を受けるのはもちろんですが、高校 生もジャッジの中学生の反応を見てわかっていないよう なら簡単な表現に言い換えながら話すなど、伝える工夫 や楽しさを経験することができる機会になっています」 (酒井先生)

高校生の英語学習への意欲向上

外部検定試験結果から授業改善も

 高校生向けには、英語力を伸ばすための機会を多く設 けている。例えば「高校生英語スピーチコンテスト」で は、大会を行うだけでなく審査の待ち時間を利用して、 「高校生留学促進事業」によって1年間海外の高校に留 学して帰国した生徒に留学経験を英語で語ってもらい、 質疑応答の時間も設けて、参加者の留学意欲を喚起して いる。「岐阜県高校生英語キャンプ」では、複数名のALT が大学等で専攻した学問について各30分~1時間程度 の講義をし、生徒が疑似留学体験ができるよう工夫され ている。生徒の学習意欲を高めるため、ALTには内容や 英語を高校生向けに易しくしないよう依頼している。こ のほか「高校生英語ディベート大会・講習会」なども実 施し、さらに2016年度は「高校生英語プレゼンテー ション大会」を計画している。  高校向けには2013年度から外部検定試験を受験させ る取り組みを進めている。2015年度は16校(約2,200 名)の高校2年生が英語を母語としない世界中の高校生

が多 く受 験 するTOEFL ITP、TOEFL Junior、TOEIC Bridgeなどを受験した。この取り組みは、岐阜県が進め る授業改善の効果を確認する目的もある。「3年前の2年 生は訳読や英語による言語活動を伴わない文法演習の指 導がまだ多く見られていた旧課程、今年の2年生は英語 によるコミュニケーション能力の育成を狙いとした授業 を受けている現行課程の生徒です。比較すると現行課程 の生徒の方が、読解、文法、語法、語彙ともに成績がよ いことがわかりました。CEFRレベルA1層の生徒が少 なくなり、全体の学力が底上げされているのです。英語 での言語活動中心の授業へ改革を進めた効果が着実に出 ていることが確認できました。また世界標準レベルの外 部検定試験を用いることで生徒のグローバル意識を喚起 する効果が生まれ、教員も世界の中での位置を意識した り、他国と比較して弱い部分に注力した授業をするなど の授業改善にもつながっていると思っています。今後は 4技能型の外部検定試験も活用し、4技能をバランスよ く学ぶ大切さを生徒により深く知ってもらう契機にした いと考えています」(酒井先生)

生徒が英語を使う場にもなる、英語研究会の実施

 高校教員に対する支援も手厚い。「地区英語科担当者 会議」は、年に2回、地区ごとに高校の英語科教員が集 まり授業研究を行うものだ。1回目は4月早々に開かれ、 到達目標や評価手法を生徒に伝えるための授業研究を行 う。「授業は年度初めが勝負です。生徒にその年の授業で どんなことができるようになるかをイメージさせて、や る気にさせることが大事です。ただし生徒にCAN-DOリ ストをそのまま見せてもぴんと来ません。そこで1年生 終了時や卒業前に先輩たちがプレゼンテーションをする 映像を見せるなど、到達すべき目標の示し方を研修で学 べるようにしています」(酒井先生)。2回目は秋に開か れ、これまでの授業の成果を発表して学校間で共有する。  6月には「県英語科担当者会議」が開かれる。内容は、 県内全公立高校から英語科教員が必ず1名出席し、午前 中は研究授業を行い、午後は英語教育を専門とする大学 教員が講演する。注目されるのは休み時間の使い方で、 毎年、主催地区の生徒が教員向けに英語でのイベントを 行う。2015年度は研究授業の前に、県立加茂農林高等学 校の生徒が、何十人もの英語科教員の前で、パネルを 使って野菜や草花の栽培方法を英語で説明したり、夕食 の献立を提案しながら野菜の販売をした。また昼休みに

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<写真>生徒が英語でものづくりの説明をする様子 (岐阜県英語科担当者会議(2015 年度)) (岐阜県教育委員会提供) は、県立可児工業高等学校の生徒が、工作器具や実験器 具を持ちこんで、ロボットの形状のキーホルダーや芳香 剤、木製鍋敷きの作り方を説明し、英語科教員がものづ くりに取り組んだ<写真>。作業中、教員はわからない ところを英語で質問し、生徒は英語で答える。「英語科教 員に生徒が英語を使っていきいきと活動している姿を見 せること、生徒に英語を使ってコミュニケーションをす る体験をさせることも目的ですが、それだけではありま せん。このイベントをすることで、主催地区からは英語 科教員だけでなく、技術系科目や管理職の先生も引率な どで来場します。英語教育の改善は、管理職や他教科、 進路担当の先生の理解を得られてこそ可能ですから、こ こで自校の生徒が英語で立派にコミュニケーションをす る姿を見ていただくのは大きな意義があります」(酒井先 生)  毎年12月に開かれる「グローバル人材育成を目指し た高校英語教育改善研究フォーラム」は、その年のテー マについての英語の授業改善に取り組む教員が研究成果 を発表する場である。これは3年前から行っており、 オールイングリッシュによる授業、パフォーマンステス トの実施などの研究テーマを経て、今年は「新教育課程 における筆記テストの見直し」をテーマとした。「パ フォーマンステストで話す力などを測るようになったの はよいのですが、筆記テストは従来型のままで、授業で 培ったコミュニケーションの力が評価できていない高校 が多かったのでこのテーマにしました。初見の文章を出 題して教科書訳を暗記する力でなくきちんと英語を読む 力を測る、和文英訳でなくある場面を示してそこで話す 内容を書かせて文法や語法を活用しながら英語で実際に 書くことができる力を見るなどの提案が出ました」(酒井 先生)

言語活動の指導や、英語力向上のための研修、

海外研修も実施

 このほかにもさまざまな研修を行っている。研修を企 画する遠藤先生は「初任者の先生が『大学4年生で教育 実習に行ったら自分の高校時代の授業とかなり変わって いて驚いた』と言っていたことが象徴的ですが、現行課 程になって英語の授業は、訳読中心ではなく生徒の言語 活動を重視する方向に大きく様変わりしています。先生 たちからは研修の需要が大きく、他の教科と比べると英 語科は飛び抜けて多くの研修を実施しています」と話す。  主な取り組みには、国の「英語教育推進リーダー中央 研修」に参加した教員2名が内容を県内の教員に伝える 研修や、県独自の「英語スピーチ指導者養成講座」など、 教員のニーズの高い、生徒に言語活動をさせて、英語で の発信力を高めるための指導方法を学ぶ講座がある。ま た、基本的に授業は英語で行うなど、教員自身の英語力 がますます必要になっている現状を受けて「英語教師の 英語力向上講座」も行っている。中・高の教員を対象に 4日間行う英語力と授業力を高める研修で、最終日には TOEICを受験する。このほか「国外大学プログラム」 としてオーストラリアのマッコリー大学に中学校6名、 高校4名の教員を4週間派遣している。一般的には大学 で英語指導方法の授業を受けるなどの研修が多いが、岐 阜県では現地の中学校・高校を訪問するプログラムを設 けて「英語で教える」方法について学ぶ点も特徴だ。  今後については、酒井先生は「バックワードデザイ ン(注)に基づいた授業計画の立案」と「ポートフォリオ の活用」を進めたいと話す。「学習目標と、授業内容、指 導方法、評価において一体化が見られず、それぞれの目 的を十分に果たしていないことがあります。そこで年度 初めに、バックワードデザインの考え方に基づき、年間 の学習目標に合わせて全ての定期考査の試験を考え、そ のテストで生徒が得点できることをめざして授業を組み 立てるという方法を提案したいと思っています。ポート フォリオは作成されるようになりましたが、授業改善に 十分役立てられていないため、活用の仕方を研究したい と思います。パフォーマンス課題を音声なども含めて映 像等で記録し、次の先生に引き継いでいけるようにすれ ば、より生徒に合ったきめ細やかな指導ができるのでは ないかと考えています」(酒井先生) (注)バックワードデザイン…ゴールをまず設定し、ゴールを達成したことを測る効果的なテストを作り、そのテストで成果を挙げることができるように内 容や方法を考えて授業を設計する方法。

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PART

2

都道府県の取り組み

大阪府教育委員会

青木浩子先生 池嶋伸晃先生 香月孝治先生 三好由美先生

「授業を変える」「機会を与える」「さらに伸ばす」

「教員を鍛える」の4つの柱からなる英語教育事業

 大阪府の英語力向上の取り組みが動き出したのは「使 える英語プロジェクト事業」(2011 ~ 2013年度)から だ。当時の橋下徹知事が海外視察を重ねる中で、若者の 国際共通語としての英語力向上の必要性を強く意識し、 その対策を指示したことをきっかけに、英語教育改善の ための取り組みが始まった。  こうした背景から、「使える英語プロジェクト事業」 は、事業目標を「国際社会に通用する人材の育成」と 「高校生の英語コミュニケーション能力のさらなる向上」 と定めた。具体的な取り組みは、「①授業を変える」「② 機会を与える」「③さらに伸ばす」「④教員を鍛える」の 4つに整理している。それぞれの内容を見ていこう。  まず「①授業を変える」取り組みとして、教育委員会 は24校を「English Frontier High Schools」に指定し た。実際のコミュニケーションで英語が使えるように、 4技能をバランスよく育てるための指導方法を研究する ことが狙いだ。指定校は3つのグループに分かれており、 G 3(5校)は校内で最も多い英検2級程度の生徒を準 1級程度へ、G 2(9校)は準2級から2級へ、G 1 (10校)は3級を準2級へ伸ばすことを目標とした。対 象生徒や具体的な指導方法などは、各校が自校の状況に 合わせて設定している。さらにG 2、G 3の高校では、 並行して外部機関の講師による特設レッスンも実施し、 TOEFLやTOEIC受験を意識した指導も行った。  また、授業を変えるための環境整備にも力を入れた。 指定校にはネイティブの講師を通常よりも1名ずつ多く 派遣したほか、学習用タブレット端末等を導入して、自 分の発音や表情を録画して確認できるようにした。  「②機会を与える」取り組みは、生徒が英語を使う機会 を得やすくするための支援だ。高校が実施する英語コン テストや、ネイティブの講師等とオールイングリッシュ で体験活動を行うイングリッシュキャンプの費用、海外 研修を引率する教員の旅費など、行事にかかる費用を支 援した。「こうした行事で思うように言葉が出てこない、 伝わらないなど悔しい思いをすることで、生徒にはもっ と話せるようになりたい、もっと勉強したいという意欲 が芽生えますから、できるだけ多くの生徒に機会を与え たいと考えました」(教務グループ主任指導主事 青木浩 子先生)  「③さらに伸ばす」取り組みは、英語に関心がある生徒、 英語が得意でもっと高度な力をつけたい生徒を対象にし た支援だ。「Advanced Class」は、ネイティブの講師が オールイングリッシュで行う授業を土曜日の午後、府内 4カ所で実施するものだ。指定校以外の生徒にも4技能 を育てる機会を、という発想から、府立高校生(2013年 度から私立高校生も可)なら誰でも参加できるようにし た。2011年度は全30回を行い、111名が受講している。 洋書など教科書よりも難しい文章を題材に、生徒同士で 話し合ったり、意見を書くなど4技能をバランスよく伸 ばすことのできる授業が行われた。  「英語に関心のある生徒が府内全域から集まりました。 学年を分けなかったので年下の生徒が流暢に話すのを見 て悔しい思いをしたり、普段の授業と違って英語を話す

知事重点事業で生徒・教員の英語力を向上

TOEFL iBTの出題方式に対応した指導を実施

 大阪府教育委員会では、2011年度より知事 重点事業として高校生の英語コミュニケーショ ン能力の向上に取り組んできた。この事業を 発 展させて、2014 年度からはSuper English Teacher(SET)によるTOEFL iBTの出題方 式に対応した指導などを推進している。さらに、府立高校入試での外部検定試験の活用などの取り組みも動き出して いる。これらの取り組みについて、大阪府教育委員会事務局教育振興室高等学校課に話を伺った。

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<図>大阪府教育委員会の英語教育に関する近年の施策 機会が多いので聞く・話すことへの自信がつくなど、生 徒にとってよい刺激となったようです」(教務グループ主 任指導主事・教務総括 池嶋伸晃先生)  また、TOEFL、TOEICの団体受験を教育委員会主催で 行ったり、2013年度からはTOEFL iBTの過去問題に挑 戦する機会も設けた。「いずれも高校生には難しい試験で すが、海外大学への進学や、留学時に課されることの多 い試験を早期に体験させたり、そうした進路への意欲を 高めるために行いました」(池嶋先生)  「④教員を鍛える」ための英語指導方法の研修も実施 している。教育センター主催の研修のほか、英国の公的 な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル と連携した短期集中の英語指導方法研修も実施した。文 部科学省は2014年度より、ブリティッシュ・カウンシ ルと連携した「英語教育推進リーダー中央研修」を実施 しているが、大阪府ではそれに先んじて独自に研修を行 い、ディベートやプレゼンテーションなどを通して、生 徒に4技能をバランスよく身につけさせるための指導方 法を広めている。  事業終了時には、英検の過去問等を使って生徒の到達 度の確認をするなどして、各校で到達目標が達成できた かの振り返りを行った。「4技能のうち、書くことと話す ことの検証が十分でないことは課題として残りました。 しかし、年に1度実施した、指定校の生徒が英語でプレ ゼンテーションを行う生徒発表会では、回を重ねるごと に生徒たちの英語による発信力が高まっていくことが実 感できました。そのほか公開研究授業や、指定校の連絡 協議会での情報交換からも、教員の指導力や、生徒の英 語力の伸びを感じることができました」(池嶋先生)

TOEFL iBTの出題方式に対応した授業を実施

意欲ある生徒への特訓クラス、経済的支援なども継続

 2014年度からは、「使える英語プロジェクト事業」の 後継として、2つの事業がスタートした<図>。  1つは「骨太の英語力養成事業」だ。指定校17校で 「使える英語プロジェクト事業」の「①授業を変える」 取り組みを発展させ、生徒により高いレベルで4技能を 身につけさせることを主な目的としている。TOEFL iBT の出題方式に対応した授業の実施と、教員向けの研修の 実施が主な内容だ。  TOEFL iBTの出題方式に対応した授業は、高校3年間 で4技能を英語圏の大学で修学できるレベルの生徒を増 やす(3~5年後に各校のSuper English Teacher(SET) の授業を受けた2学級生徒80人中TOEFL iBT80点以上 5~ 14名、60点以上42名以上)ことを目標にしたもの だ。TOEFL iBTの出題を意識した授業を導入している。 「使える英語プロジェクト事業」の主な取り組み「1.授業を変える」を「骨太の英語力養成事業」、 「2.機会を与える」「3.さらに伸ばす」「4.教員を鍛える」を「英語教育推進事業」が受け継いで継続的に英語教育の改善に取り組む 使える英語プロジェクト事業(2011 ~ 2013年度) 〈事業目標〉 ・国際社会に通用する人材の育成 ・高校生の英語コミュニケーション能力のさらなる向上 〈主な取り組み〉 1.授業を変える

・English Frontier High Schools24校を指定

・授業方法の研究(4技能バランスがとれた授業、TOEFL・TOEICなど資格 取得をめざした授業、ネイティブ講師・機器等を効果的に活用した授業) 2.機会を与える ・生徒の海外研修支援(引率教員旅費の助成) ・国内活動支援(国際会議、イングリッシュキャンプなど) 3.さらに伸ばす ・Advanced Class(留学や海外大学進学をめざして英語力の向上を図りたい 生徒向けの特訓クラス)開設 ・TOEFL・TOEIC受験機会の提供 ・TOEFL iBTチャレンジ支援(過去問受験機会の提供) 4.教員を鍛える ・教育センター研修 ・ブリティッシュ・カウンシルによる英語指導方法研修 ・海外研修 骨太の英語力養成事業(2014 ~ 2018年度) 〈事業目標〉 ・高校3年間で英語4技能を英語圏の大学で修学 できるレベルに引き上げる(対象17校) 〈主な取り組み〉

・SET(Super English Teacher)によるTOEFL iBTを意識した授業 ・教員向け研修 英語教育推進事業(2014 ~ 2018年度) 〈事業目標〉 ・英語力の底上げのため、在籍校によらないオー ル大阪の視点で、意欲ある生徒に対する「聞く・ 話す」能力の鍛錬を行うとともに、英語科教員 の指導力を高める 〈主な取り組み〉 ・生徒の海外研修支援(引率教員旅費の助成) ・Advanced Class ・ブリティッシュ・カウンシルによる英語指導  方法研修 (大阪府教育委員会提供資料を元に河合塾で作成)

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TOEFL iBTを基準にしているのは海外大学進学時に課さ れることが多く、コミュニケーションに必要な4技能を バランスよく鍛える必要があるからだ。  指導するSETとはTOEFL iBTスコア100点以上もし くはIELTSスコア7.5以上という英語圏の難関大学院に 進学できる程度の高い英語力を持ち、TOEFL iBTの出題 に対応した指導ができるという要件で集められた特定任 期付職員だ。教員免許非保有者でも適格な人材には特別 免許状を授与して採用している。SETの授業をどの科目 に位置づけるかや、どのコースの生徒を対象にするかな どは、各校が自校の事情に合わせて決めている。授業内 容もSETや高校によって異なっている。  「ただし、授業進行の速さと授業内容の難しさは、どの 授業でも共通です。TOEFL iBTでは質問に論理的に、か つ素早く回答する力が求められますから、そうした力を つけるために、時間を区切ってたくさんの課題を解く形 式の授業が多いです。語彙を増やすために、扱う単語数 も多くなっています」(教務グループ指導主事 香月孝治 先生)  「TOEFLの授業と言うとTOEFL iBTの過去問をどんど ん解かせるような授業をイメージされるかもしれません が、高校1年生には難しすぎます。ですから教科書の文 章について自分の意見をすぐまとめて話す、友達のプレ ゼンテーションをメモを取りながら聞き、概要をまとめ るといった取り組みを通して、少しずつTOEFL iBTに対 応できる英語力を育成しようとしています」(池嶋先生)  こうした授業ができる教員を増やすため、「骨太の英語 力養成事業」には教員向けの支援も含まれている。指定 校ではSETが授業公開や教授法の研修会を行ったり、英 語科教員とのティーム・ティーチング、共同で教材やテ ストの作成等をすることで、指導方法の継承を行ってい るほか、教育委員会による研修もある。教員自身の英語 力と、TOEFL iBTに対応できるような高度な4技能を育 てるための指導力を高めることを目的とした「TOEFL iBTスコアアップセミナー」だ。この研修は事業対象の 17校以外の教員も参加でき、外部講師やSETを招いて行 う。教員自身がグループワークやペアワークで英語を書 いたり話したりする指導を受けたり、複数のライティン グテストの答案用紙を見てどのような観点で採点するの がよいか考えるなど指導方法を学ぶプログラムや、スコ アアップのための学習方法などが盛り込まれている。こ の研修で得たものを各教員が、それぞれの高校に持ち 帰って実践することで、当初からの事業目標である「授 業を変える」ことをめざしている。    一方、「使える英語プロジェクト事業」の「②機会を 与える」「③さらに伸ばす」「④教員を鍛える」の取り組 みを引き継ぐのが「英語教育推進事業」だ。「Advanced Class(意欲ある生徒への特訓クラス)」「教員研修(ブリ ティッシュ・カウンシルによる短期集中研修)」「短期留 学支援事業(生徒への経済的支援)」「生徒の海外研修支 援(引率教員旅費の助成)」で構成されている。支援を継 続して、生徒の英語力・教員の指導力向上をめざす。

府立高校入試の4技能化に着手

中学校の授業改善で、高校の授業内容の高度化を狙う

 さらに、2017年度府立高校入試より、英語学力検査の 改革を行う。文部科学省が大学入試での資格・検定試験 活用を推進して、高校で4技能をバランスよく育てるよ うに働きかけているのと同様に、大阪府では高校入試を 「読む」に偏らないものにすることで、中学校で4技能を バランスよく学ぶように働きかけようとしている。高校 では中学校までに養った4技能を基盤に、より高いレベ ルの4技能を使ったコミュニケーションができるように する。  改革の1点目は外部検定試験の結果の活用だ。活用方 法について、学事グループ主任指導主事・学事総括の三 好由美先生は「府立高校入試の英語において、TOEFL iBTなどの外部検定試験のスコアなどを一定の得点率で 換算し、換算した得点と当日受験した結果の得点とを比 較して、高い方の得点を入試における英語の得点とする ものです」と説明する。  2点目は、英語の入試問題の改革だ。入試日程上、実 施が難しいスピーキングは課さないが、読む・書く・聞 く力をバランスよく測る入試にする。難易度が最も高い 英語の学力検査問題(注)においては、「読む」問題の配点 を約20%減じて50%程度とし、「書く」「聞く」は約 10%増やしてそれぞれ20%、30%程度とする。問題文 (指示文)もすべて英語にするという考えだ。  「将来生徒が進みたい道を決める時に、国内だけでなく 海外の大学や職場も選択肢にできるように、高校でしっ かり英語力を高められるよう、これからも支援していき たいと考えています」(池嶋先生) (注)府立高校入試は 2016 年度入試から、英語の学力検査問題を「基礎的な問題」「標準的な問題」「発展的な問題」の3種類作成し、高校がどの試験を使 うかを選択する仕組みにする。2017 年度入試は「発展的な問題」のみ出題方針を変える。

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宮城県石巻高等学校

言語活動中心の授業を実施

当初は教員・生徒に戸惑いも

 石巻高校英語科では、大学入試のためだけではなく、 社会に出てからも、英語を道具として抵抗感なく使いこ なすことができる生徒の育成を目標としている。そのた め生徒が英語を使う言語活動を多く盛り込んだ英語教育 を行っている。こうした授業に切り替えたのは2011年 度からだ。「宮城県教育委員会の先進的英語教育充実支 援事業の指定校になったこと、英語を自由に使いこなす ことができる生徒の育成に課題を感じていたこと、東日 本大震災の直後で新しいことに挑戦して将来を担う若者 を育てようという気運が高まっていたことなどがきっか けで、授業改善に取り組むことになりました。とはいえ 2011年度は教員1人、2012年度は2人だけの取り組み で、全校で始めたのは2013年度からです」(武田先生)  2012年度から加わった武田先生は「さまざまな場面 で英語を使いこなす生徒を育てるには英語に慣れさせる ことが大事と考えました。全担当科目で授業での教員の 発言を英語に切り替えるとともに、生徒が英語で読み、書 き、話し、聞くといった4技能を多様な形で使う言語活 動を多く行う授業形式にしましたが、教材準備にとても 時間がかかりました。当時は旧課程でしたから、教科書 も生徒が英語で十分な活動ができるような構成にはなっ ていませんでした。そこで毎回3時間くらいかけて生徒 が教科書の内容を踏まえて、英語を書いたり話したりで きるような課題を考えてワークシートを作り、それを 使って授業をしていました。現行課程からはこうした教 材も各社から出ているので活用しています」と語る。  生徒の戸惑いも大きかった。生徒は一文ずつ丁寧に訳 す逐語訳の授業に慣れているため、言語活動中心の授業 だけで大学入試に対応できるか不安、せめて教科書の全 訳を配ってほしい、という声も多かったそうだ。「逐語訳 で目の前の文章だけを完璧に訳すのではなく、英語を読 んだり話したりとさまざまな言語活動を行った方が英語 を使う力はつくし、入試にも対応できると説明しました。 少し経つと生徒も手応えを感じたようで、言語活動を楽 しんでくれるようになりました」(武田先生)  現在は入学直後のオリエンテーションで英語の授業は すべて英語で行うことやその意義を説明している。「最初 はついていけるか不安もあるようですが恥ずかしがらず に積極的に発言する生徒が多いという地域性もあり、慣 れるまでにそれほど時間はかかりません」(武田先生)

導入に時間をかけ、初見で教科書を読む

「コミュニケーション英語」

 では実際の授業の進め方を見てみよう。「コミュニケー ション英語」は教科書の文章を使って4技能をバランス よく育てることを目的とした科目だ。今でも読解中心の 授業をする高校もあるが、石巻高校では内容に応じて、① 予習を求めずに文章が初見の状態で授業に臨ませる、② 導入に時間をかける、③生徒の言語活動を多く盛りこむ などの特徴的な取り組みをしている<表1>。いずれも 教科書の文章を起点に生徒に4技能を多様な形で使わせ て、英語力を総合的に伸ばすことを狙いとしている。  ①は初見の英文を読む力をつけるための取り組みだ。 「大学入試でも、日常生活で英語のホームページを見るな どする場合でも、単語の訳がすべて与えられていたり、辞 書を引きながら一文ずつ丁寧に読むような機会はまずあ りません。細部はわからなくても、文章全体の概要をつ かむ力が必要ですから、予習はせずに授業で初見で読ん で意味をつかむよう伝えています。とはいえ、いきなり

言語活動中心の授業で

4技能をバランスよく育成

 宮城県石巻高等学校では、2011年度から、言語活動中心の英語の授業を行うことで、生徒の4技能を育てている。「コミュ ニケーション英語」では、初見の文章を読ませる、導入に時間をかけて文章のテーマの理解を深める、「英語表現」では、 まず文章の構成について教えるなど、さまざまな工夫が盛り込まれている。こうした授業に切り替えた経緯や、現在の取り組 み、生徒の変化などについて、英語科の初澤晋主任、武田誠先生に話を伺った。

PART

3

高校の取り組み

初澤晋主任 武田誠先生

参照

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