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渡 辺 康 志

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(1)

GISソフトを利用した空間分布の復元

一 戦 没 者 名 簿 よ り −

45

渡 辺 康 志

は じ め に

近年、自然条件や社会条件を分析する手法としてGIS(地理情報システム)を利用するこ とが可能になり、さらに地域の詳細情報がデジタルマップで入手が可能となった。このシステ ムでは、地理情報(位置・図形情報)を使ったデータ編集や統計処理を行うことが可能であ り、環境研究、行政、ビジネスなどの分野で広く応用されている。

今回、具志頭村戦没者名簿の死亡地住所(字レベル)から、その空間的分布を復元する過 程、さらにデーターベース機能や主題図作成機能を利用した分析の方法を紹介する。

1.使用データ

(1)背景デジタルマップ

国土地理院数値地図CD‑ROM版より以下のデジタル地図を利用した。

①1/2500数値地図より作成した町丁目・字界:読谷・石川以南中南部(以下『中南部字 白図』)

②琉球列島1/25000白地図:1/25000レベルで市町村境界が入った白地図(以下、「沖 縄本島白図』)

これらは、市町村領域の位置・連続情報を数値データとして提供しているだけであるので、

プログラムを作成して、GIS用データに変換した。また、戦前の沖縄本島の状況を利用する ため、琉球諸島地形図集成(柏書房1999)の沖縄本島部分の地形図をスキャナーで読み込み、

さらに、GISで背景図として利用するため位置座標を設定した。この地図集は、大正・昭和 初期において、参謀本部陸地測量部によって測図、作成された琉球諸島の2,500分の1地形図

と50,000分の1地形図を収録したものである。(以下、「沖縄古地形図』)

(2)戦没者名簿

沖縄県は、本邦唯一の地上戦が行われた地域であり、特に沖縄本島南部は狭い領域で多数住 民が死亡した。これらの戦没者名簿は出身市町村ごとにまとめられている。

このデータ(「平和の礎」データ)には、沖縄戦で亡くなられた一人一人の氏名や様々な個 人情報が入力されている。ただし、沖縄県出身者については、沖縄戦が昭和6年(1931年)の 満州事変に始まる15年戦争の帰結であることから、昭和6年9月から昭和20年(1945年)9月 まで間に、県内外において戦争が原因で亡くなられた方々をはじめ、次の場合についても刻銘 の対象となっている。

①空襲や徴用船、疎開船、引揚げ船の遭難などにより亡くなられた方

(2)

GISソフトを利用した空間分布の復元 46

②退去命令や疎開によるマラリア文は栄養失調などにより稚くなられた方

③戦争が原因で終戦後、おおむね1年以内に亡くなられた方々

(沖縄県庁ホームページより抜粋)

今回は、具志頭村立資料館にて保有する具志頭村出身者のデータを使用した。

データはExcell表形式データであり(表‑1)、そのデータベースの項目は34項目("整理番 刻銘板NO""列NO'':$行NQ""地域コード 市町村コード 番地 フリガ 性別 生誕年号 生西暦年 生年 生月 生日 死亡地域 死亡地市町村

死番地 死准年号 死西暦年 死年 死月 死日 軍隊コード 身分コード 身分 参加内 船舶コード 戦没コード 戦没詳細 備考")、データ数は2699個より なる。

表一1具志頭村戦没者一覧表(一部)

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(3)

GISソフトを利用した空間分布の復元 47

具志頭村戦没者名簿より、 死亡地域 項目での戦没者数集計結果を表−2に示す。今回は 沖縄県(特に沖縄本島)における空間復元を目的としているため、 死亡地域 が沖縄県であ るデータ2,163件のみを抽出し、使用した。(以下、『具志頭村戦没者名簿』と呼ぶ。)

死 亡 地 域 沖 縄 県

日本国内(沖縄県を除く)

イ ン ド ネ シ ア サ イ パ ン

オ 諸 島

フ イ ピ ン

表 − 2 死 亡 地 域 別 戦 没 者 数 集 計 表

戦 没 者 数 死 亡 地 域 戦 没 者 数

2.163 南 洋 諸 島 65

14 40

3 ソ ビ エ ト 4

81 そ の 他 4

10 183

132

(3)GIS概要と使用ソフト

従来から多量の情報を保存・検索・分析する機能はデータベースによって提供されていた が、取り扱えた情報は文字・数値など帳票にされたデータのみであった。これに対して、GI

s(地理情報システム)は、位置情報をも同時に取り扱うことができるデータベースである。

GISの機能は、情報の入力・保存、情報の解析、情報の出力の大きく3種類に分類する事が できる。

①情報の入力・保存GISでは、位置情報を地球座標で管理し、観測データを位置・図形 情報(ポイント、ライン、ポリゴン)とともに保存する。また、地形図や空中写真もラスター データとして、位置情報を付加して保存することができる。

②情報の解析従来のデータベースと同様に、ある情報について検索することができるが、

さらに空間的な検索を行うことができる。縮尺の異なる複数の図面から得られた情報でも、複 数の図面を重ね合わせ表示し、また、入力した地図の情報から、面積や距離などの計測を、関 数を使って行うことができる。入力された様々な情報の中から一部の情報だけをとりだしてラ ンク付けや統計処理を行い、色分けやグラフを位置づけた地図(主題図)を作成することがで きる。

③情報の出力分析した結果や重ね合わせ図面を平面図などとして、画面や紙に出力する事 ができる。このとき、地図では何枚かに分割される領域でも連続いた図面として扱うことや一 部分の領域だけを表示することもできる。

今回は、データ解析GISソフトとして、MaplnfOProfessional6.O(MaplnfoCorporation) を使用した。

(4)

48 GISソフトを利用した空間分布の復元

2.空間分布

具志頭村戦没者名簿から戦没地の空間分布を復元するために、GISソフトの ジオコー という機能を使用する。 ジオコード とは、属性情報として地名を持った地図に、名簿 中の地名を表す項目をキーに、各データを地図上に配置していくという機能である。今回は、

具志頭村戦没者名簿より、沖縄本島内の空間分布と、特に戦没者の集中する本島南部地域の空 間分布を復元する。

2 − 1 . 旧 市 町 村 に よ る 分 布 図

具志頭村戦没者名簿中の戦没位置を表す 死亡地市町村"、 字"、 死番地 の項目のうち、

死亡地市町村 は現在の市町村名で、 死番地 は戦前の市町村名で記入されている。

沖縄県では、戦後の市町村合併で、その範囲が広がった市町村(糸満市・名護市など)や、

逆に分村によって細分された市町村(北谷・中城など)が見られる。

具志頭村戦没者名簿の戦没地を現在の市町村のみ、或いは旧市町村のみで、空間分布を復元

した場合、地域によってはできるだけ狭い範囲で戦没地を復元することに不都合を生じる。例 えば、糸満市域の場合、旧町村地域を使用した方が、戦没地の分布を狭い範囲に表現でき、ま た、旧北谷村や旧中城村、旧大里村においては、現在の町村域の方が場所を狭い範囲で特定で きることとなる。以上の理由により、旧市町村区域と現在の市町村区域を併用し、できるだけ 沖縄本島が細分されるように組み合わせて、エリア図を編集した(以下、「沖縄本島細分 図』)。実際の作業は、沖縄古地形図と沖縄白地図を重ね合わせ、旧市町村境界を使って、沖縄 白地図を細分する作業を行った。戦没地の市町村レベルの空間復元は、具志頭村戦没者名簿と この沖縄本島細分図を使って復元した。

ジオコードは具志頭村戦没者名簿の死番地(旧住所記入、表−1参照)を使用して行うこと となるが、その表記の仕方は、同一箇所と推定される場合でも複数の表現がとられている。死 番地データの種類をグループ化して表示すると364種類あることが判明した。その一部を表一 3に示すが、同じ場所を示す住所が複数の形式で表現された状況が読みとれる。このように、

同一地域に複数の地名を使っている場合、死番地を使ってジオコードすることはできない(死 番地と地域名の1対1対応が崩れている)。そこで、死番地から沖縄本島細分図の地名を推定 し 、 死 亡 地 域 と い う 項 目 を 新 設 し 、 読 替 表 を 作 成 し た 。 ( 表 − 3 の 死 番 地 と 死 亡 地 域 項 目 参

データベース機能を利用すると、具志頭村戦没者名簿と読替表の死番地をキーに、具志頭村 戦没者名簿に死亡地域データを追加する事ができる。こうして編集した具志頭村戦没者名簿の 死亡地域をキーにジオコードを行って分布図を作成した(図−1)。作成された各点は属性値 として、戦没者個人情報を持っており、検索や主題図作成において、その属性値を利用できる

(表一1具志頭村戦没者一覧表の横1列の情報)。このデータを以下、『市町村別戦没者名簿』

と呼ぶ。

(5)

GISソフトを利用した空間分布の復元 49

表 − 3 死 番 地 一 覧 表

死 亡 地 市 町 村 字 死 番 地 死 亡 地 域 字 名 区 分 糸 満 市

糸満市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市 糸 満 市

武武屋地屋屋城喜福地屋

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喜 屋 武 喜屋武 喜屋武 喜 屋 武 喜屋武 喜屋武 喜屋武 喜屋武 喜屋武 兼 城 兼 城 兼 城

喜 屋 武 喜屋武 喜屋武 喜屋武 山 城 喜屋武 福 地 福 地 福 地 座 波 照 屋 照 屋

2−2.沖縄本島南部、字名による分布図

戦没者の多い糸満市、具志頭村、東風平町、玉城村について、字レベルの空間分布復元を試 みた。分布図作成の背景図形データは1/2500数値地図より作成した町丁目・字界図を使用し た。2−1と同様に、具志頭村戦没者名簿の死番地より、字名区分(表−3参照)を与えてジ オコードし、分布図を作成した(図−2)。このデータも、GISソフト上では、各点が属性 値として、戦没者個人情報を持っている。このデータを以下、『字別戦没者名簿」と呼ぶ。

(6)

GISソフトを利用した空間分布の復元

50

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字別戦没者分布 図 − 2

(8)

52 GISソフトを利用した空間分布の復元

3.主題図分析

市町村別戦没者分布図と字別戦没者分布図に対し、データの検索・抽出機能及び主題図作成 機能を使って、種々の主題図を作成し、分析の手法を例示する。

3−1.時間・空間分析

具志頭村戦没者名簿中の戦没時期を特定できる項目は、 死亡年号"、 死西暦年"、 死年"、

死月"、 死日 以上の5項目である。そこで、戦没地の時間的変化を調べるため、市町村別 戦没者分布図の 死西暦年 死月 を使って、米軍上陸後の時期から戦闘終了までの期間 を1945年4月、1945年5月、1945年6月と1ケ月ごとに区分し、さらに戦闘終了後1945年7月 以降について、合計4つの期間で市町村別戦没者分布図からデータを抽出し、それぞれの分布 図を作成した。(図−3)

戦闘の進行に伴い、戦没者の集中する地域が変化移動する状況が読みとれる。

3−2.出身字別分析

戦没者出身字別の戦没地分析のため、字別戦没者分布図の 字コード を使って、データを 抽出し、それぞれの分布図を作成した。データを作成したものは、戦没者数が多い新城、港 川、後原、具志頭の4字出身者とした。(図−4)なお、図中の矢印と字名は各字の位置を表 す。分析結果より、後原や港川では居住字より離れた地点で戦没した人が多く、新城や具志頭 では居住字で戦没した人が多いことが判明した。

GISソフトでは、図形(字ポリゴン)を使って、ポイントなどを集計することが可能であ る。今回は、字別戦没者分布図を使って各字範囲内の戦没者数を集計し、グラフ化した(図一

5)。さらに出身字別にその割合を算出し、構成比を円グラフで表した(図−6)。

地域ごとに戦没した人々の出身字が異なる状況が読み取れる。

3−3.年齢性別分布

具志頭村戦没者名簿では、 性別"、 生誕年号"、 生西暦年"、 生年"、 生月"、 生日 な ど性別と年齢を推定できる項目が含まれている。そこで、 性別"、 生誕年号 を使って、戦 闘や軍役に参加した可能性の高い15歳から50歳までの男性と、戦闘に直接参加しなかったと考 えられる15歳未満50歳以上男性及び女性の2グループに分け、市町村別戦没者分布からデータ を抽出し、それぞれの分布図を作成した。(図−7)15歳〜50歳男性の分布では、首里・与那 原地区に集中がみられ、女性及び15歳未満・50歳以上の分布では、喜屋武付近及び久志地域に 特徴的に分布し、その分布に明らかな差が読みとれる。

(9)

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1945年4月 1945年5月

1945年6月 1945年7月以降

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戦 没 者 時 間 ・ 空 間 分 布 図 図 − 3

(10)

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後原出身者分布

出身地別戦没地分布図 図 − 4

(11)

GISソフトを利用した空間分布の復元 55

図 − 5 字 別 戦 没 者 数

図 − 6 出 身 地 別 戦 没 者 構 成 図

(12)

GISソフトを利用した空間分布の復元

56

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図 − 7 年 齢 性 別 戦 没 者 分 布 図

(13)

GISソフトを利用した空間分布の復元 57

4 . ま と め と 戦 没 者 G I S

具志頭村戦没者名簿の戦没地などの位置情報を表す地名から空間分布の復元を試み、その データからGISの諸機能を利用して、種々の分析ができることを示した。今回は、私自身の 沖縄戦に対する知識が不足していることから、その分析結果から社会的・歴史的考察検討は行 わなかった。今後、これらのデータ分析手法を利用すれば、沖縄戦の悲惨な状況を詳細に分析

し、後に伝える資料を作成することが可能である。

前項までの戦没者データや分析さらに各種図面は、図−8に示すようなGISソフト上での 各データのレイヤー管理によって、分析・表示を行っている。各図形(戦没者ポイント、字界 ポリゴン)の位置情報は、緯度経度を使った地球座標で与えられている。このように作成され たGIS上のデータは、同様の座標系で座標位置を指定された地図と同時に表示することが可 能である。

戦 没 者 ボ イ ン ト

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字 界 ポ リ ゴ ン 市 町 村 ポ リ ゴ ン 沖縄1/2.5万地形図 沖縄古地図(ラスター)

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図 − 8 レ イ ヤ ー 概 念 図

そこで、戦前の沖縄本島部分の地形図をスキャナーで読み込み位置座標を設定した沖縄古地 図を戦没者ポイントデータの背景図として利用した。(図−9)

図中の赤点が戦没者であり、各戦没者を指示する事で各点の属性値(戦没者の個人情報)を 表示し、さらに戦没者の氏名などからその戦没者ポイントを検索表示することも可能である。

今回は戦没者ポイントを字レベルで決定したが、今後、背景図を沖縄古地図に入れ換え、各 戦没地ポイントを1/25000地形図レベルで決定することも可能である。また、背景の地図を 現在の地形図(同様に座標設定が必要)と入れ換えることで、そのポイントが現在どこに位置 するかを知ることもできる。

(14)

GISソフトを利用した空間分布の復元

58

整 理 蕾 這

銘 板 N C 列 N C 行 N C

雫息 蜂。騨 癖悪輔

蕊望蕊篭鐵蕊

z,

k …

ノダ

図 − 9 沖 縄 古 地 図 ・ 戦 没 者 分 布 図

あ と が き

今回の研究に当たり、具志頭村戦没者名簿の提供で、具志頭村立歴史民族資料館の玉城氏に は格別の配慮をいただきました。御礼申し上げます。

また、一時的に多数の亡くなられた方々のデータが私のコンピューター中に存在し、その戦 没地点を復元する作業の中で、この一人一人が悲惨な状況の中で亡くなっていったことを思う とき、胸を締め付けられる思いをいたしました。先の大戦で亡くなられた方々のご冥福をお祈 りいたします。

なお、カラーによる出力図を以下のホームページにて公開いたします。

http://isweb20.infoseek.cojp/area/okinawaw/

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