厚生労働省指定小児がん拠点病院に設置されている 学校種と教育課程の実際 ─特別支援学校(病弱)
に焦点をあてて─
著者 滝川 国芳
著者別名 Takigawa Kuniyoshi
雑誌名 東洋大学文学部紀要. 教育学科編
号 42
ページ 51‑58
発行年 2016
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00008626/
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*たきがわ くによし 東洋大学文学部教育学科
Ⅰ.問題と目的
厚生労働省(2016)の平成27年人口動態統計月 報年計(概数)の概況によると, 5 歳から14歳ま での死因の第 1 位は,悪性新生物(小児がん)で ある。2012年 6 月,がん対策基本法に基づき,閣 議決定された「がん対策推進基本計画」において は,小児がん対策として,医療機関や療育・教育 環境の整備,相談支援や情報提供の充実などが求 められている。厚生労働省は2013年 2 月に,全国 を 7 ブロックに分け,15の医療機関を「小児がん 拠点病院」として指定を行った。
このことをうけて文部科学省は,2013年 3 月に
「病気療養児の教育の充実について(通知)」を発 出し,市町村や都道府県を越えて小児がん拠点病 院に入院する病気療養児の教育のおける留意点を 明記した。その中で,入院中の病気療養児の交流 及び共同学習について充実を図ること,後期中等
教育を受ける病気療養児について,入退院に伴う 編入学・転入学等の手続きが円滑に行われるよう 適切に対応すること,病院を退院後も通学が困難 な病気療養児の教育環境の整備を図ること,訪問 教育やICT等を活用した効果的な指導方法の工夫 を行うこと等を求めている。
学校の教育活動は,学校の教育課程によって位 置づけられている。小学校学習指導要領第 1 章総 則には,「各学校においては,教育基本法および 学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示す ところに従い,児童の人間として調和のとれた育 成を目指し,地域や学校の実態および児童の心身 の発達の段階や特性を十分考慮して,適切な教育 課程を編成するものとし,これらの掲げる目標を 達成する教育を行うものとする。」と記されてい る。中学校学習指導要領,高等部学習指導要領,
特別支援学校学習指導要領にも同様の内容が記さ れている。各学校が学習指導要領を基準とする学
厚生労働省指定小児がん拠点病院に設置されている 学校種と教育課程の実際
─特別支援学校(病弱)に焦点をあてて─
滝 川 国 芳
*本研究は,厚生労働省指定小児がん拠点病院(以下,小児がん拠点病院)に隣接または 病院内に設置されている学校の学校種を踏まえた上で,特別支援学校(病弱)の教育課程 について把握し,教育課程の実際と課題について検討することを目的とする。厚生労働省 が2013年に指定した小児がん拠点病院に設置されている2016年度の学校種を確認した上 で, 5 病院に隣接する特別支援学校(病弱)の小・中学校学習指導要領の該当学年に準ず る教育課程を検討の対象とした。入院する小児がんの児童生徒の教育を行う学校種は,小・
中学校病弱・身体虚弱特別支援学級,小・中学校分校,特別支援学校(病弱)本校,特別 支援学校(病弱)分教室であり,小児がんの児童生徒が転校することとなる学校種は拠点 病院によって異なっていた。また,高等部が設置されていたのは 1 拠点病院のみであった。
教育課程について,特別支援学校(病弱)うち,本校においては,小学部,中学部のすべ ての学年において標準総授業時数を上回っていた。自立活動の授業時数は,学校ごとに異 なっていた。学校の在籍期間が個々の病状により異なる小児がんの児童生徒を対象に教育 活動を行うための教育課程の編成に際しては,各校のより一層の主体性が求められること を確認した。
キーワード:病弱教育 教育課程 特別支援学校(病弱) 小児がん拠点病院
「東洋大学文学部紀要」第70集 教育学科編 XLII(2016年度)
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2 .教育課程の調査対象:小児がん拠点病院のう ち 5 病院に隣接する特別支援学校(病弱)。
3 .教育課程の調査期間:2016年 9 月〜10月。
4 .教育課程の調査方法:対象とした学校長宛て に,本研究にかかる調査協力の依頼文書を発出 し,学校を所管する教育委員会に届け出ている 2016年度教育課程のうち,小児がん拠点病院に 入院する児童生徒を対象に編成した教育課程一 覧の写しの郵送を依頼し,全対象校から教育課 程を得た。
Ⅲ.結果
1 .小児がん拠点病院に設置されている学校種に ついて
表 1 は,小児がん拠点病院と隣接または病院内 に設置されている学校の一覧である。入院する小 児がんの児童生徒の教育を行う学校種は,小・中 学校病弱・身体虚弱特別支援学級,小・中学校分 校,特別支援学校(病弱)本校,特別支援学校(病 弱)分教室であり,小児がん拠点病院に入院する 児童生徒が転校することとなる学校種は病院に よって異なっている。
表 2 は,学年・学部ごとの学校種の数を示して いる。小学 1 年〜 6 年,中学 1 年〜 3 年ともに,
特別支援学校分教室の設置が最も多く, 8 校で あった。高校 1 年〜 3 年の入院生徒を対象として 学校が設置されているのは, 1 校のみであった。
2 .小児がん拠点病院に設置された特別支援学校
(病弱)の教育課程
表 3 は,小児がん拠点病院に入院する児童生徒 を対象とする特別支援学校(病弱)中学部の2016 年度教育課程を示している。中学校に準ずる教育 課程を編成しているため,すべての学校において 中学校の標準の授業時数を定めた学校教育法施行 規則別表第 2 の授業時数も示している。
総授業時数は,本校が設置されているA校,B 校がすべての学年において標準総授業時数を上 回っていた。分教室が設置されているD校,E校 がすべての学年において標準総授業時数と同一,
C校は,下回っていた。自立活動は,特別支援学 校学習指導要領にのみの領域であるため,別表第 2 には表記がないが,すべての学校において年間 35単位時間(週 1 単位時間相当)以上の授業時数 を確保している。B校は,第 1 学年が68時間,第 校の教育計画である教育課程を編成し,児童生徒
の教育を担当する教員が,授業計画を立て,授業 等において教育活動が営まれる。
小児がんをはじめとする疾患のため継続して医 療や生活上の管理が必要な児童生徒を教育の対象 とする特別支援学校(病弱)における教育課程の 基準は,特別支援学校幼稚部教育要領,特別支援 学校小学部・中学部学習指導要領,特別支援学校 高等部学習指導要領である。特に,各教科につい ては,小学校,中学校,高等学校それぞれの学習 指導要領の各教科に準ずるものとされている。ま た,自立活動の領域も必ず教育課程に位置づけら れなければならない。武田(2016)が,小児がん の児童生徒の子どもたちが,自分の病気の説明を し,合理的配慮を受けることができるようセルフ ケアの力を高めていくことが大切であると述べて いるように,病弱児の自立活動における最大の目 的は,自己管理能力を高めることである。具体的 には,自らの健康状態の維持・改善等に必要な知 識や技能の習得すること,健康状態の維持・改善 等に必要な態度や習慣の育成すること,そのため の心理的安定や意欲の向上を目指すことである。
医療の進歩等によって,小児がん等の病気療養 児は,入院期間の短期化や短期間で入退院を繰り 返す頻回化が顕著となっている。このことによっ て,病気療養児は,小・中学校と病院にある学校 との転出入を繰り返すことになる。小学校や中学 校の教育課程で学んでいた児童生徒が,小児がん 等の疾患によって入院することとなり,それまで の教育課程が可能な限り継続した教育課程を編成 している病院にある学校に転校することが,連続 性のある学びを確保することとなる。
以上のことから本研究では,厚生労働省指定小 児がん拠点病院(以下,小児がん拠点病院)に隣 接または病院内に設置されている学校の学校種を 踏まえた上で,特別支援学校(病弱)の教育課程 について把握し,教育課程の実際と課題について 検討することを目的とする。
Ⅱ.方法
1 .小児がん拠点病院に設置されている学校種:
全国病弱虚弱教育研究連盟平成27年度施設調査 により設置されている学校名,学校種を抽出し,
教育委員会と学校のホームページにより,2016 年度の設置状況について確認した。
表 1 小児がん拠点病院に設置されている学校の一覧
都道府県名 医療機関名 小学校
特別支援学校小学部
中学校 特別支援学校中学部
高等学校 特別支援学校高等部
1 北海道 北海道大学病院 札幌市立幌北小学校
分校
札幌市立北辰中学校
分校 ─────
2 宮城県 東北大学病院 仙台市立木町通小学校
特別支援学級
仙台市立第二中学校
特別支援学級 ─────
3 埼玉県 埼玉県立小児医療センター 埼玉県立岩槻特別支援学校 本校
埼玉県立岩槻特別支援学校
本校 ─────
4 東京都 独立行政法人
国立成育医療研究センター 東京都立光明特別支援学校
分教室 東京都立光明特別支援学校
分教室 東京都立光明特別支援学校
分教室
5 東京都 東京都立小児総合医療センター 東京都立武蔵台学園 分教室
東京都立武蔵台学園
分教室 ─────
6 神奈川県 地方独立行政法人神奈川県立病院機 構神奈川県立こども医療センター
神奈川県立横浜南養護学校 本校
神奈川県立横浜南養護学校
本校 ─────
7 愛知県 名古屋大学医学部附属病院 愛知県立大府特別支援学校 分教室
愛知県立大府特別支援学校
分教室 ─────
8 三重県 三重大学医学部附属病院 三重県立緑が丘特別支援学校
訪問による教育 三重県立緑が丘特別支援学校
訪問による教育 ─────
9 京都府 京都大学医学部附属病院 京都市立桃陽支援学校 分教室
京都市立桃陽支援学校
分教室 ─────
10 京都府 京都府立医科大学附属病院 京都市立桃陽支援学校 分教室
京都市立桃陽支援学校
分教室 ─────
11 大阪府 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター
大阪府立羽曳野支援学校 分教室
大阪府立羽曳野支援学校
分教室 ─────
12 大阪府 大阪市立総合医療センター 大阪府立光陽支援学校 分教室
大阪府立光陽支援学校
分教室 ─────
13 兵庫県 兵庫県立こども病院 神戸市立友生支援学校
分教室
神戸市立友生支援学校
分教室 ─────
14 広島県 広島大学病院 広島市立比治山小学校
特別支援学級
広島市立段原中学校
特別支援学級 ─────
15 福岡県 九州大学病院 福岡市立千代小学校
特別支援学級
福岡市立千代中学校
特別支援学級 ─────
表 2 学年・学部ごとの学校種の数
特別支援学校本校 特別支援学校
分教室 特別支援学校
訪問による指導 小学校・中学校
特別支援学級 小学校・中学校
分校 計
小学 1 年〜
小学 6 年 2 8 1 3 1 15
中学 1 年〜
中学 3 年 2 8 1 3 1 15
高校 1 年〜
高校 3 年 0 1 0 1
「東洋大学文学部紀要」第70集 教育学科編 XLII(2016年度)
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表 3 小児がん拠点病院に入院する児童生徒を対象とする特別支援学校(病弱)中学部の2016年度教育課程
学校教育法施行規則別 表第 2
(第73条関係)
A校
本校 B校
本校 C校
分教室 D校
分教室 E校
分教室
国語 第 1 学年 140 148 140 123 140 140
第 2 学年 140 148 140 123 140 140
第 3 学年 140 108 105 123 105 105
社会 第 1 学年 105 111 105 123 105 105
第 2 学年 105 111 195 123 105 105
第 3 学年 105 143 139 123 140 140
数学 第 1 学年 140 148 140 105 140 140
第 2 学年 140 148 195 105 105 105
第 3 学年 140 143 139 105 140 140
理科 第 1 学年 105 111 105 123 104 105
第 2 学年 105 111 140 123 140 140
第 3 学年 105 143 139 123 140 140
音楽 第 1 学年 45 37 35 35 45 45
第 2 学年 35 37 35 35 35 35
第 3 学年 35 36 35 35 35 35
美術 第 1 学年 45 37 35 35 45 45
第 2 学年 35 37 35 35 35 35
第 3 学年 35 36 35 35 35 35
保健体育 第 1 学年 105 111 70 35 70 70
第 2 学年 105 111 70 35 70 70
第 3 学年 105 108 70 35 70 70
技術・家庭 第 1 学年 70 74 70 35 70 70
第 2 学年 70 74 70 35 70 70
第 3 学年 70 36 35 35 35 35
外国語活動 第 1 学年 140 148 140 123 140 140
第 2 学年 140 148 140 123 140 140
第 3 学年 140 143 139 123 140 140
道徳 第 1 学年 35 37 35 35 35 35
第 2 学年 35 37 35 35 35 35
第 3 学年 35 36 35 35 35 35
総合的な
学習の時間 第 1 学年 50 37 49 35 50 50
第 2 学年 70 37 49 35 70 70
第 3 学年 70 36 48 35 70 70
特別活動 第 1 学年 35 55 35 35 35 35
第 2 学年 35 55 35 35 35 35
第 3 学年 35 54 35 35 35 35
自立活動 第 1 学年 37 68 35 35 35
第 2 学年 37 49 35 35 35
第 3 学年 36 48 35 35 35
総授業時数 第 1 学年 1015 1091 1026 877 1015 1015
第 2 学年 1015 1091 1026 877 1015 1015
第 3 学年 1015 1058 1022 877 1015 1015
表 4 小児がん拠点病院に入院する児童生徒を対象とする特別支援学校(病弱)小学部の2016年度教育課程
学校教育法 施行規則別
(第51条関係)表第 1
A校本校 B校
本校 C校
分教室 D校
分教室 E校
分教室
国語 第 1 学年 306 265 320 210 304 306
第 2 学年 315 266 320 210 315 315
第 3 学年 245 268 244 210 245 245
第 4 学年 245 268 245 210 245 245
第 5 学年 175 191 188 210 175 175
第 6 学年 175 184 183 210 175 175
社会 第 3 学年 70 115 75 70 70 70
第 4 学年 90 76 94 70 90 90
第 5 学年 100 96 94 70 100 100
第 6 学年 105 92 92 70 105 105
算数 第 1 学年 136 151 132 175 136 136
第 2 学年 175 190 170 175 175 175
第 3 学年 175 153 169 175 175 175
第 4 学年 175 192 188 175 175 175
第 5 学年 175 191 188 175 175 175
第 6 学年 175 184 183 175 175 175
理科 第 3 学年 90 76 94 70 90 90
第 4 学年 105 76 113 70 105 105
第 5 学年 105 115 113 70 105 105
第 6 学年 105 110 110 70 105 105
生活 第 1 学年 102 113 113 70 88 102
第 2 学年 105 114 113 70 90 105
音楽 第 1 学年 68 76 75 35 58 68
第 2 学年 70 76 75 35 60 70
第 3 学年 60 38 56 70 50 60
第 4 学年 60 38 565 70 50 60
第 5 学年 50 38 56 70 45 50
第 6 学年 50 37 55 70 45 50
図画工作 第 1 学年 68 76 75 70 58 68
第 2 学年 70 76 75 70 60 70
第 3 学年 60 76 75 70 50 60
第 4 学年 60 76 56 70 50 60
第 5 学年 50 38 56 70 45 50
第 6 学年 50 37 55 70 45 50
家庭 第 5 学年 60 38 56 35 45 60
第 6 学年 55 37 55 35 40 55
体育 第 1 学年 102 76 75 35 68 68
第 2 学年 105 76 75 35 70 70
第 3 学年 105 76 75 35 70 70
第 4 学年 105 76 75 35 70 70
第 5 学年 90 76 75 35 60 35
第 6 学年 90 74 73 35 60 35
道徳 第 1 学年 34 38 38 35 34 34
第 2 学年 35 38 38 35 35 35
第 3 学年 35 38 38 35 35 35
第 4 学年 35 38 38 35 35 35
第 5 学年 35 38 38 35 35 35
第 6 学年 35 37 37 35 35 35
外国語活動 第 5 学年 35 23 38 35 35 35
第 6 学年 35 22 37 35 35 35
総合的な学習の時間 第 3 学年 70 38 75 35 55 70
第 4 学年 70 38 75 35 55 70
第 5 学年 70 38 38 35 55 70
第 6 学年 70 37 37 35 55 70
特別活動 第 1 学年 34 60 57 35 34 34
第 2 学年 35 60 57 35 35 35
第 3 学年 35 62 56 35 35 35
第 4 学年 35 62 56 35 35 35
第 5 学年 35 58 56 35 35 35
第 6 学年 35 55 55 35 35 35
自立活動 第 1 学年 151 57 35 70 34
第 2 学年 151 57 35 70 35
第 3 学年 153 56 70 70 35
第 4 学年 153 56 70 70 35
第 5 学年 153 56 35 70 35
第 6 学年 147 55 35 70 35
総授業時数 第 1 学年 850 1006 942 700 850 850
第 2 学年 910 1047 980 700 910 910
第 3 学年 945 1093 1014 875 945 945
第 4 学年 980 1093 1054 875 980 980
第 5 学年 980 1093 1054 910 980 980
第 6 学年 980 1053 1026 910 980 980
「東洋大学文学部紀要」第70集 教育学科編 XLII(2016年度)
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病院に入院して特別支援学級に転校する小児がん 児童生徒の増加に対応していくためには,学級数 の増加,特別支援教育支援員の配置を検討する必 要がある。特に,教科担任制が基本となる中学校 において,特別支援学級を担当する教員は, 1 学 級あたり 1 人であり,すべての教科において教科 担任による授業を行うためには,特別支援学級を 設置する中学校長のマネージメントが重要とな る。将来的には,2012年 4 月に大阪市総合医療セ ンター内に設置されていた大阪市立都島小学校病 弱・身体虚弱特別支援学級,大阪市立都島中学校 病弱・身体虚弱特別支援学級が大阪市立光陽特別 支援学校(2016年度からは,大阪府立光陽支援学 校)に移管したように,特別支援学校への移管を 一考することも必要であろう。この場合には,政 令指定都市教育委員会所管から県教育委員会特別 支援学校所管への移管となるため,関係者間の理 解と調整が不可欠となる。
特別支援学校分教室においても,拠点病院に入 院する小児がんの児童生徒数の増加に対応するた め,本校の在籍児童生徒数の増減を鑑みながら本 校教員と分教室担当教員との流動的な年度途中で の教員配置,可能な限りの教員加配等を行うこと が望まれる。
高校生の小児がん患者への教育を行う学校は,
独立行政法人国立成育医療研究センター内に,東 京都立光明特別支援学校分教室が設置されている のみであったことから,拠点病院に入院する高校 生の小児がん患者への学校教育の在り方が大きな 課題となっていることが明らかとなった。
2 .小児がん拠点病院に設置された特別支援学校
(病弱)の教育課程
教育課程は,学校の教育目標,教育内容,授業 時数の 3 つを要素とする学校の年間教育計画とし て位置づくものである。今回は,教育課程を得た 対象校における,小・中学校学習指導要領の該当 学年に準ずる教育課程について検討した。
小児がんの児童生徒は,入院期間の短期化,頻 回化により,特別支援学校(病弱)と前籍校との 転出入を繰り返し,特別支援学校(病弱)の在籍 期間が 2 週間未満であることも少なくない。小・
中学校,高等学校,特別支援学校(視覚障害)(聴 覚障害)(肢体不自由)(知的障害)は,年間を通 して在籍する児童生徒を対象とする教育課程を編 2 学年が49時間,第 3 学年が49時間と他校と比し
てより多くの授業時数を確保している。保健体育 は,A校のみが標準授業時数を上回っているが,
他の 4 校は,標準授業時数の2/3以下の授業時数 であった。
表 4 は,小児がん拠点病院に入院する児童生徒 を対象とする特別支援学校(病弱)小学部の2016 年度教育課程を示している。表 3 同様に,学校教 育法施行規則別表第 1 の授業時数も示している。
総授業時数は,本校が設置されているA校,B 校がすべての学年において標準総授業時数を上 回っていた。分教室が設置されているD校,E校 がすべての学年において標準総授業時数と同一,
C校は,下回っていた。自立活動は,すべての学 校において年間35(第 1 学年は年間34)単位時間
(週 1 単位時間相当)以上の授業時数を確保して いる。A校は,第 1 学年が151時間,第 2 学年が 151時間,第 3 , 4 , 5 学年が153時間,第 6 学年 が147時間と他校と比してより多くの授業時数を 確保している。体育は,全校が標準授業時数を大 きく下回る授業時数であった。
Ⅳ.考察
1 .小児がん拠点病院に隣接または病院内に設置 されている学校種
小児がん拠点病院15病院のうち,11病院には特 別支援学校, 4 病院には,小・中学校の特別支援 学級が設置されていた。小児がん拠点病院の指定 がなされる以前は,小児がんの患者数は他の疾患 に比して多くないにもかかわらず,全国約200の 医療機関で治療を受けており,治療経験等が分散 していた。そこで,適切な医療提供,診断と治療 に関する正確な情報提供と相談支援体制,療育環 境や教育環境の整備等の体制を整えるために,厚 生労働省は小児がん拠点病院を指定した。このこ とから,指定後は,小児がん拠点病院に小児がん の児童生徒が集中的に入院することになり,小児 がん拠点病院に隣接または病院内に設置されてい る学校に転校して教育を受けることになると考え られる。東北大学病院,広島大学病院,九州大学 病院には,小・中学校の病弱・身体虚弱特別支援 学級が設置されている。公立義務教育諸学校の学 級編制及び教職員定数の標準に関する法律に定め られた小・中学校特別支援学級の 1 学級の児童・
生徒の数は 8 人であるため,今後,小児がん拠点
導によって,可能な限りの授業時数を確保するこ とを前提に,標準授業時数には満たないものの教 育課程を編成していると考える。
複数の医療機関にそれぞれ分教室を設置してい る特別支援学校中学部においては,X分教室に国 語・理科の免許を有する教員 2 人,Y分教室に英 語・数学の免許を有する教員 2 人,Z分教室に社 会科の免許を有する教員 1 人を配置し,それぞれ の教員が,他の分教室を巡回指導する指導体制に よって,全分教室において 5 科目の専門教科の授 業時数を確保するようにしていた。また,中学部 の美術,音楽,技術・家庭,保健体育については,
本校教員による各分教室への巡回指導を行ってい た。これら管理職のマネージメントによる指導体 制によって,全分教室において中学校学習指導要 領の各教科の全ての教科の授業時数を確保してい た。
3 .最後に
教育課程を編成する際には,児童生徒の教育 ニーズを把握した上で,学級編成や活動ごとの小 集団等の教育集団の編成,教職員の適切な校内配 置,安全で実用性のある教室の配置,施設・設備 の整備等が求められる。病気の子どもへの日々の 授業などの教育活動は,必ず各学校が編成した教 育課程に沿って行われる。特別支援学校(病弱)
での教育課程の編成の際,領域,教科の授業時数 を定めるに当たっては,児童生徒の過度の負担と ならないよう病状や生活規制等について考慮する ことが重要である。そして,教育課程を実際の授 業へと展開する際に必要となるものが,個別の指 導計画である。
個別の指導計画は,子供一人一人の病気の状態 等に応じたきめ細やかな指導が行えるよう,学校 における教育課程や指導計画等を踏まえて,より 具体的に子どもの教育ニーズに対応して,指導目 標や指導内容・方法について示したものである。
そして,個別の指導計画を作成することによって,
実践を踏まえた評価内容が明確化し,指導の改善 に活かすことができる。そのため,個別の指導計 画は必要に応じて修正されるべきものである。
入退院を繰り返す小児がんの児童生徒にとっ て,個別の指導計画は,前籍校との教育の連続性 と保つための有力なツールである。そこで,退院 による転校の際には,個別の指導計画の引き継ぎ 成するのに対して,特別支援学校(病弱)の教育
課程は,在籍期間が短い傾向にある児童生徒を対 象として編成する。そして,学校の年間教育計画 である教育課程によって,年度途中で転入し転出 する小児がんの児童生徒の教育活動を実施する。
それゆえ,前籍校の教育課程と連続性のある教育 課程を編成して,授業時数の確保,指導内容の精 選等に努めることが重要である。つまり,特別支 援学校(病弱)の教育課程は,学校の年間教育計 画という性格を維持しつつも,実際には,在籍す る児童生徒の入院前の小・中学校での学習状況を 踏まえて作成する個別の指導計画により教育活動 を行うことになる。
小・中学校学習指導要領の該当学年に準ずる教 育課程を特別支援学校において編成する際には,
自立活動の授業時数を確保しなければならない。
そのため,小・中学校の標準総授業時数を確保し つつ,各教科,特別活動,総合的な学習の時間等 の自立活動以外の領域の授業時数を自立活動に割 り振る必要が生じる。中学部ではB校,小学部で はA校が,他校に比べて自立活動の年間授業時数 を多く設けていた。このことは,医療との密接な 連携を必要とする病弱教育における自立活動の授 業時数の設定において,それぞれの小児がん拠点 病院の医療関係者の治療方針等も踏まえた上で,
各校の主体性をより一層発揮し特色ある教育活動 の展開が可能となることを示している。
対象校の特別支援学校(病弱)うち,本校にお いては,小学部,中学部のすべての学年において 標準総授業時数を上回っていた。これは,教員配 置,教科専任教員の確保等の人的環境,教室配置 の柔軟さ,理科室,家庭科室,図工室・美術室等 の特別教室や体育館,グラウンド等の物的環境が 整っていることによるものと考える。一方,分教 室は,多くの場合,小児病棟(小児科病棟の場合 もある)の中や病棟入口前に教室を確保している ことが多い。また,限られた教室空間の中で,す べての教育活動を展開せざるを得ない。そのため,
体育の授業時数が標準授業時数より少ない傾向で あったと考える。C校分教室は,年間総授業時数 が標準総授業時数を下回っていた。これは,年間 を通して転出入が絶えず,在籍児童生徒数の増減 が激しい分教室においては,分教室配属の専任教 員のみでの指導時間の確保が困難となる。そこで,
一部の教科においては,本校教員の訪問による指
「東洋大学文学部紀要」第70集 教育学科編 XLII(2016年度)
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れた特別支援学校 5 校の教育課程について,考察 を行った。今後は,小児がん拠点病院に設置され た特別支援学校の訪問による指導,小・中学校特 別支援学級,小・中学校分校の教育課程と指導体 制について検証を行い,小児がんの児童生徒が,
これまで以上に十分な学校教育受けることを可能 となるための方略を探っていきたい。
文献
1 )厚生労働省(2013)小児がん拠点病院の指定について.
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002v0nz.html
(2016年11月 1 日閲覧)
2 )厚生労働省(2016)平成27年人口動態統計月報年計(概数)
の概況.
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/
nengai15/dl/gaikyou27.pdf
(2016年11月 1 日閲覧)
3 )武田鉄郎・張雪・武田陽子・岡田弘美・櫻井育穂・丸 光 惠(2016)小児がんの児童生徒の教育的対応と教員の困難感 に関する研究:小児がん拠点病院内教育機関を対象に.和歌 山大学教育学部紀要.教育科学,66,27-34.
4 )文部科学省(2013)小学校学習指導要領第 1 章総則,13- 17.
5 )文部科学省(2013)病気療養児の教育の充実について(通知).
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1332049.htm
(2016年11月 1 日閲覧)
と継続を前籍校の教員に期待する。
2016年 4 月に,障害を理由とする差別の解消の 推進に関する法律が施行された。この法律は,障 害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的 な事項や,国の行政機関,地方公共団体等及び民 間事業者における障害を理由とする差別を解消す るための措置などについて定めることによって,
すべての国民が障害の有無によって分け隔てられ ることなく,相互に人格と個性を尊重し合いなが ら共生する社会の実現につなげることを目的とし ている。また,この法律でいう障害とは,身体障 害,知的障害,精神障害(発達障害を含む),そ の他の心身の機能障害(難病に起因する障害を含 む)に起因するものだけではなく,社会における 様々な障壁と相対することによって生じる者も含 まれる。このことから,入院や自宅療養によって,
十分な学校教育を受けることが困難となる病気療 養児もこの法律の対象者となる。病気の小児がん の児童生徒が病気療養期間であっても,病状に合 わせた適切な学校教育を行うことが重要であり,
そのことを実現するための教育課程の編成が求め られる。
本研究においては,小児がん拠点病院に設置さ