情報工学専攻 1/4 金森 寛
移動効用を考慮した駅構内における人間の歩行シミュレーション
Simulation Model for Behavior of a Pedestrian in a Train Station Based on Utility Theory
情報工学専攻 金 森 寛
KANAMORI Hiroshi1. はじめに
2000
年
2月,高齢者や身障者が交通機関を使いやす くなるように関連施設の整備を促す交通バリアフリー 法案が制定され,駅構内にエスカレータやエレベータ の設置が義務付けられた.一方,大都市圏の鉄道駅の 利用客による混雑は激しく,エスカレータの設置が混 雑により拍車をかけているという面もある.本研究で は,性,年齢といった属性別に駅構内の施設に対する 移動効用を考え,電車を降りて改札口へ向かう乗客の 移動を動的な流れとしてとらえ,構内歩行シミュレー ションモデルを構築する.そして,利用者属性による 移動施設の評価を考える.
2. 歩行ネットワークモデル
シミュレーションの対象とした都営三田線巣鴨駅を 例として歩行ネットワークモデルを説明する.
2.1.
都営三田線巣鴨駅について
巣鴨駅は
JR山手線と都営三田線が乗り入れている.
都営三田線巣鴨駅は,地下
2階にホームがあり,改札 は
3ヶ所,地上への出口は
4ヶ所ある.また,
JR山手 線への乗り換え客が非常に多いことが知られている.
エスカレータが併設された階段は
5ヶ所あり,
1ヶ所 のみ一人乗りのエスカレータである.
2.2.
鉄道駅の歩行ネットワークの概要
2.2.1.
歩行者属性の設定
本モデルでは,歩行者の属性に性と年齢を用いた.
性は男女の
2種類,年齢は
9種類考慮し,それぞれの 組み合わせにより,
18種類の属性の歩行者を表現する.2.2.2.
移動ネットワークの構築[1]
歩行シミュレーションでは,人間が歩行可能な空間 を定義する必要がある.図
2は都営三田線巣鴨駅の移 動ネットワークである.ネットワークのサイズは,ノ ードが
146,リンクが207である.
図
2巣鴨駅の移動ネットワーク
2.2.3.ソースとシンク
ネットワーク・フローのソース(出発点)は,三田 線車両の各扉である.1 車両に
4つの扉があり,三田 線の車両編成は
6両編成であるので,
24ヵ所がソース となる.シンク(目的点)は,地上への出口,あるい は他路線への乗換の改札である.
2.2.4.
リンクの種類
鉄道駅構内における歩行者の移動を表すための移動 ネットワークは,通路リンク,改札リンク,階段リン ク,エスカレータ歩行(ESW)リンク,エスカレータ静 止(ESS)リンクによって構成される.改札リンクは自動
JR山手線
改札口(地下
1階)
ホーム(地下
2階)
図
1 都営三田線巣鴨駅の平面図情報工学専攻 2/4 金森 寛
改札リンクと有人改札リンクの
2種類がある.
ESWリ ンクはエスカレータを歩いて移動する人を表現するた めのリンクで,ESS リンクはエスカレータに立ち止ま って移動する人を表現するためのリンクである.全て のリンクに移動コストが設定されており,コストは属 性ごとに異なる.また,経路の効用は,リンクの効用 の和である.
通路リンクは通過する人間による混雑の影響を受け ないものとし,そのコストは一定とした.一方,通路 リンク以外のリンクは待ち行列が生成され,混雑によ る影響が存在する.待ち行列を表現するために,通路 リンク以外には待ち行列を内生したリンクを用いる.
3. 利用客の乗車行動
3.1.利用客の定義と抽出
都営地下鉄三田線西高島平駅から同線西巣鴨駅まで の間の駅から,下り方面(目黒方面)行き列車に乗車 し,巣鴨駅で下車する人間を,利用客として定義する.
3.1.1.
利用データ
利用客の抽出には,平成
12年大都市交通センサスの 定期券データを利用した.
3.1.2. 利用客の抽出
大都市交通センサスに収録されている,乗車時刻,
鉄道利用方法(乗車駅コード・降車駅コード)を用い て降車人数を調べた.対象駅間において都営三田線下 り方面行き列車に乗車する人数は
72,235人で,そのう ち巣鴨駅で降車する人数は
13,987人である.
3.1.3.
利用客の目的地設定
利用客が,巣鴨駅に到着後,どの地上出口を利用す るか決定する.決定には,大都市交通センサスに収録 されている,勤務地・就学地ゾーンコード,鉄道利用 回数,鉄道利用方法,鉄道駅からの利用交通手段の情 報を利用した.鉄道利用回数・鉄道利用方法から,都 営三田線巣鴨駅が勤務地・就学地の最寄鉄道駅である か調べる.最寄駅でないならば,
JR山手線に乗り換え る出口を利用者の目的地とする.最寄駅ならば,勤務 地・就学地ゾーンコードを調べ,各コードが対応する 出口を利用者の目的地とする.
3.2.
利用客の乗車位置決定問題
3.2.1.利用する列車の決定
利用者が利用する列車は,大都市交通センサスの乗 車時刻の項目と,平成
12年
9月に改正された都営三田 線の時刻表とを利用して決定した.ここで利用者は,
乗車時刻の直後に到着する列車に乗車すると仮定した.
3.2.2.
乗車する位置の推定
利用者が乗車する扉を推定する.前提として,利用 者は通勤・通学客であるため,降車駅の構造はすべて 既知であるとする.また,乗車駅では列車のいずれの 扉にも乗車可能とする.
利用者の乗車位置の選択は,降車駅における階段や エスカレータなどの移動施設の位置が強い影響を与え ることが知られている
[2].そこで,利用者は降車駅の 移動施設に近い扉への乗車を望むと仮定する.また,
途中駅で車両を移動しないものとする.
利用者が乗車するとき,各扉には利用者の利得(効 用)が存在する.ある乗車駅
aにおける扉
iに乗るとき の効用
Uiaは
⎟⎟⎠
⎞
⎜⎜⎝
⎛
−
⋅ ⋅
⎟−
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛ × −
−
= a
i a best i
a
i X
N X U i
SPEED CAP .
λ µ 0
5
とした.
Nbestは利用者の降車駅の移動施設に最も近い 扉の番号を示す.また,
Xiは扉
iに乗車している人数 を,
CAPは1つの扉を利用できる人数(容量)を,
SPEED
は利用客の歩行速度をそれぞれ表す.
λ, µは 混雑不効用のパラメータであり,
λ=0.22,µ=3.5と する.各扉の効用を算出し,効用理論に基づいて乗客 を配分した結果が図
3である.
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23
扉番号
人数[人]
巣鴨以降の駅で下車する利用者 巣鴨駅で下車する利用者
図3 乗客の車両配分例
情報工学専攻 3/4 金森 寛
4. 移動効用の推定
効用を決定するパラメータは,斎藤[3]が算出した結 果を用いる.
リンクを通過するときに加わる効用は,水平な通路 の移動効用
UF,エスカレータを歩いて移動する(エス カレータ歩行)効用
UESW,エスカレータに立ち止まっ て移動する(エスカレータ静止移動)効用
UESS,階段 を歩いて移動する効用
USTWである.それぞれの効用値 を求める式は以下のように定めた.
(
移動距離 属性別歩行速度
)×
−
= 5.066 UF
( )
運動の非効率
所要時間
+ − ××
−
= 12.21 7.552 UESW
( )
( )
運動の非効率
所要時間
×
− +
×
− +
=
552 7 21
12 354 6
. .
ESS . U
( )
運動の非効率
所要時間
+ − ××
−
= 12.21 7.552 USTW
5. シミュレーション
5.1.前提
・利用者は通勤・通学者であるため,駅の構造は既知 であり,迷うことはない.
・利用者は常に,ある瞬間における自身にとって最も 効用(利得)の大きい経路を選択する.
・
1つ の 扉 あ た り の 降 車 す る 人 の 流 率 は
1.7[人 扉・秒
]とする.
・平坦な通路において,混雑は生じないものとする.
つまり交通容量は無限大とする.
・フローには属性別の歩行速度があり,各リンクの所 要時間は速度を用いて計算する.
・フローがソースから出現する順番は,所与である.
5.2.
歩行者の移動アルゴリズム
動的利用者配分問題における,他人の影響を考慮し ない
Flow-Independentのアルゴリズムと,先に移動 する人の影響を考慮した
Flow-Dependentのアルゴリ ズムの考え方を基とした.ここでは
Flow-Dependentの場合のアルゴリズムのみ示す.
( )m k
Cij,
: 時間帯m
,リンク
( )i,jにおける
k番目の フローまで考慮した旅行時間
( )t k
Xij,
: 時間帯m
,リンク
( )i,jにおける
k番目の フローまで考慮した待ち行列人数
µij :
待ち行列リンクの最大流出量[人]
∆t :
時間帯の幅
[s].t :
現在時刻[s]
n : OD
ペアの数
STEP1
現在時刻を初期化し,
t=0とする.また,
∆tは
∆t<minCij( )0,0となるように設定する.
STEP2
時刻
tにおける各リンクの交通量を求め,旅
行時間
Cij( )t,0と待ち行列人数
Xij( )t,0を更新する.
1
=
k
とする.
STEP3
旅行時間
Cij( )t,k,待ち行列人数
Xij( )t,kを用いて,
目的地
dを持つフロー
fkd,
k=1,2,L,nが 存在するノード/リンク(現在地)から目的 地まで,効用が最大となる経路を,Dijkstra 法により決定する.また最大効用経路の通過 するリンクの順番を保持する.
STEP4 STEP3
で保持したリンクの順番に沿ってフ
ロー
fkuvを流す. このとき,
∆t時間後に
fkuvが 存在するリンク/ノードを現在地として更新 し,現在地に
fkuvを留める.
STEP5 旅行時間Cij( )t,k
,待ち行列人数
Xij( )t,kを更新する.
STEP6 k=n
ならば
STEP7へ,そうでなければ
1+
=k
k
として
STEP3へ戻る.
STEP7
移動を開始する時刻に関して,フローの順番
をソートする.
STEP8
対象とする時間のシミュレーションが完了し
たら終了する.そうでなければ,
t=t+∆tと して,
STEP2へ戻る.
5.3.
シミュレーションの設定
シミュレーションは, 午前7時46分を基準に行った.
同刻巣鴨駅着の列車からの降車客と,午前
7時
50分同 駅着の列車からの降車客を対象とした.また,アルゴ リズムにおける時間帯の幅
∆tは
1秒に設定した.
5.4.
シミュレーション結果の可視化
MicroAVS7.0
を用いて,シミュレーション結果を可 視化した(図
4).
図4 可視化したシミュレーション結果
情報工学専攻 4/4 金森 寛
5.5.
移動施設別の利用人数
図
5から図
7にシミュレーション結果より得られた エスカレータ静止,エスカレータ歩行,階段歩行の利 用人数を示す.
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
10代 20〜24歳
25〜29歳 30代
40代 50代
60〜64歳 65〜69歳
70歳以 上
人数[人]
男性 女性
図5 エスカレータ静止の利用人数
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
10代 20〜24歳
25〜29歳 30代
40代 50代
60〜64歳 65〜69歳
70歳以上
人数[人]
男性 女性
図
6エスカレータ歩行の利用人数
0 100 200 300 400 500 600 700
10代 20〜2
4歳 25〜2
9歳 30代 40代
50代 60〜6
4歳 65〜6
9歳 70歳以上
人数[人]
男性 女性
図7 階段歩行の利用人数
5.6.待ち行列人数の推移
シミュレーションによって得られた待ち行列人数を 評価する.
図
8から図
10はある移動施設のエスカレータ静止
(ESS),エスカレータ歩行(ESW),階段歩行(STW)の経路において生成された待ち行列人数の推移を示す.経 過時間は,午前
7時
46分を基準としている.
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 100 200 300 400 500 600 700 800
待ち人数[人]
経過時間[秒]
0 5 10 15 20 25 30 35
0 100 200 300 400 500 600 700 800
待ち人数[人]
経過時間[秒]
図8
ESSの待ち人数 図
9 ESWの待ち人数
0 5 10 15 20 25
0 100 200 300 400 500 600 700 800
待ち人数[人]
経過時間[秒]
図
10STW
の待ち人数
6. まとめ
本研究は,駅構内にエスカレータやエレベータが設 置された際の利用者の行動を予測し,混雑を定量的に 予測した.その結果,移動施設や改札の適切な設置を 考える有用な情報を得た.
謝辞
都営地下鉄三田線巣鴨駅の実地調査をお許しくださ った東京都交通局および巣鴨駅職員の皆様に感謝いた します.
参考文献
[1]
伊理 正夫(監修) ,腰塚 武志(編集)他
: 計算幾何学と地理情報システム【第 2 版】 .共立出版,東京,
1983.
[2]河合 邦治,青木 俊幸,大戸 広道,都築 知人,古賀 和 博 : 鉄道駅における旅客流動に関する研究 その
9 乗車位置選択の利用者意識調査. 日本建築学会大会学術講演梗概集,
pp.847-848,Sep. 1999.
[3]
斎藤 正俊,谷下 雅義,鹿島 茂
:鉄道駅における利用者 の行動モデルの改良. 日本都市計画学会 (投稿予定) ,
2004.[4]