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GLM 教育セミナー

4GLM 教育セミナー: BSC 演習の総括

SWOT 分析,クロス分析を中心として~

日本大学商学部

髙 橋 淑 郎

はじめに

今回のセミナーでは,通常 2 日間かける講習内 容を,実質 6 時間で行うという強行軍で行ったが,

確実に目的に近づいたと実感した.このセミナー は,検査室で BSC を利用する前提となる BSC の 作成のプロセスや基本的な考え方を修得していた だくことを目的としている.各チームにファシリ テーターを 1 名配置し,スムーズに議論が進むよ うに準備した.そこで中心となった最初のハード

ルは SWOT 分析,クロス分析である.これらの

ポイントを整理して示した後で,参加したチーム の中で 1 チームを選んでケースとして分析した.

1SWOT

分析とは

SWOT 分析(Strengths and Weakness and Oppor- tunities and Threats Analysis,組織の強みと弱み,

外部環境の機会と脅威の分析)とは,組織内部の 強みと弱みを外部の機会と脅威にマッチさせるた めの戦略展開技法である.

ミンツバーグ(Mintzberk)の戦略論の分析に従 えば,10 の学派のうちデザイン・スクール学派

が SWOT 分析を重要視するものである.SWOT

分析の手法は,セルズニック(『組織とリーダー シップ』,1957)やチャンドラー(『経営戦略と組

織』,1962 年)までにさかのぼることができると

いう(Mintzberg, et al. 1998, 斉藤嘉則監訳 1999, p.26).その後,ハーバード大学のアンドリュー

ス(Andrews)に代表されるアプローチであるが,

『ビジネス・ポリシー:テキストとケース』によ って,瞬く間に,SWOT 分析は,世界に広まった.

特にアンドリュースは 1982 年にポーターと共 著で『ビジネス・ポリシー:テキストとケース第 5 版』に改訂している.そこでは外的環境の検討 で,ポーターの業界分析,即ち,ポジショニン グ・アプローチの一部が引用されてきたことを考 えると,戦略策定で SWOT 分析から考えることが ハーバード流の考え方になじみ深いものと判断す るが,この書籍では,戦略を形成する具体的な記 述はほとんどないことからすると,BSC(Balanced

Scorecard)でキャプランらが,戦略に関して簡単

に記述してあることに通じるものがあると感じら れる.これは,単にキャプランが管理会計の専門 家であり戦略など経営の専門家でないことだけと いうことからは判断できないと思われる.

SWOT 分析は,広く環境を分析することを基

礎として,組織の内部の能力である組織の強み・

弱みと外部環境の機会・脅威を調和させ,適合さ せて戦略を形成することを行う道具である.した がって,BSC を作成する時の基本スタンスとし て,現在の組織の「立ち位置」を定めるというこ とであり,組織の戦略,内部組織の強みや弱みと 同時に,外部の可能性との間の適合性を見ようと するものである.

この SWOT 分析から出発するデザイン・スク

ールは,思考から行動を独立させて,戦略形成を 学習プロセスとしてではなく,コンセプト構想プ ロセスと位置づけている(Mintzberg, et al. 1998, 斉藤嘉則監訳 1999, p.35).すなわち,戦略の形成 を意図的に,計画的に行うプロセスとして捉えて おり,その責任を経営トップに委ねることで,戦 略と実行を明確にすることである.

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この一連のプロセスの中で,組織の強みと弱み を見極めることで示されるが,BSC においても 戦略は,本来,コンセプトとして所与のものとし て扱っていることでも,その関係性がわかる.ま た,デザイン・スクールの大きな欠点として,戦 略の策定と実行を分けてしまっていることがある (Mintzberg, et al. 1998, 斉藤嘉則監訳 1999, p.38).

すなわち,実行からフィードバックされる様々な 情報をもとにした創発戦略などの展開やトップ以 外のメンバーの関与ができないことが弱点と考え られる.つまり,組織と戦略を統合して考えるシ ステムとして見ることはできるが,その実行に関 しては不明な点が多いのである.

戦略は策定と実行がワンセットであり,戦略策 定だけを考え,実行は別の問題と考えると実際の 経営には障害が起こることがわかる.BSC では,

その問題を克服することができる.キャプランら は「戦略マップとスコアカードはワンセット」と いう趣旨の説明が 2002 年から強くなり,戦略の 失敗は策定にあるのではなく実行にあるというこ とを克服することを示した.すなわち,ハーバー ド大学流のケースメソッドの弱みである科学とし て戦略を作るだけから,現場経験を積んだ実行力 を加味することで,長年世界のトップを走ってき たハーバード大学流の戦略論に修正をかけて,依 然としてトップランナーでいることを目指したと もいえる.

2SWOT

分析の考え方(表

1

)

方法としては,4色の大判のポスト・イットを 用意し,例えば,強みを青,弱みを黄色,機会を 緑,脅威をピンクとして,マジックペンで大きな 字で思いつくことを書くことにする.さらに,記 入する言葉は「体言止は避ける」ことが,議論を 活発にする.すなわち,書かれたポスト・イット を他の人が読んでも書いた人の真意や意味が分か るようにすることが必要だからである.

a.組織の内部資源の分析:組織の内部の強み,

弱み

自院でコントロール可能な内部資源を分析し,

経営戦略,サービス特性,マーケットシェア,コ ストの優位性,人的資源,リーダーシップなど多 岐にわたる資源を分析することである.外部環境 における魅力的な機会を発見し,外部の機会を成 功に導く能力を組織は持たなければならない.し たがって,自院の内部の強み,弱みを客観的に,

定期的に見ることが必要になる.「強み」とは,

経済価値や競争優位な状況を作り出す経営資源の 中でも特に,組織の持つ無形資産の有機的結合を 考えることに他ならない.「弱み」とは,その組 織の持つ「強み」がもたらす経済価値の実現を困 難にする経営資源と無形資産の有機的結合といえ る.その時の注意すべき項目は,

①競合する他の病院(組織)との相対的な比較 をすること.

②すべての要因が事業の成功に重要な要因で はないこと.同じ,「弱み」でも事業にとって重 要である場合は,すぐに改善に取り組む必要があ るが,そうでない場合は,迅速な対応は必要ない 場合もあること.これは,「強み」にも同種のこ とがいえる.

③組織の資源は有限であるので,「弱み」に ばかり目がいって,それの改善ばかりに集中して いる間に「強み」が相対的に低下し,弱くなって しまう危険性があること.

最近は,病院など医療施設のコアとなる機能以 外はアウトソーシングしようという病院も増えて きた.したがって,それらのアウトソーシングも 内部資源として考慮する必要がある.

ここでの基本的発想は,根拠を明確にして無形 資産をうまく描き出すことである.

b.外部環境の分析:外部環境の機会と脅威 病院経営に影響を与える脅威・機会を抽出する ことである.ここでの注意点は,自分ではコント ロールできない状況を考えることである.また,

「機会」とは,病院が競争上の位置や経済成果や 社会性かを向上させることのできるチャンスのこ とをいう.「脅威」とは,病院の経済成果や社会 成果の向上にマイナスの作用を与えるピンチのこ とと考えると分かりやすい.病院の外部での外部

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表1 SWOT 分析の重要な考慮すべき事項例 内 部

強み 弱み

他の医療施設に優越する能力は? 明確な戦略がない?

適切な資金の源泉は? 競争上の地位が低下していないか?

競争にたる技術は? 設備の陳腐化はいか?

顧客の良いイメージは? なぜ標準以下の収益性なのか?

自院はその領域のリーダー? 院長の管理能力不足?

事業別戦略は考えられているか? 理事長の経営能力不足?

規模の経済性は? 主要な医療技術や能力の不足?

協力は競争圧力から隔離されている? 戦略策定の能力不足?

自前,独自の技術は? 戦略実行の能力不足?

コストの優位性は? 内部経営問題の悩みは?

競争上の優位性は? 競争圧力に弱い?

サービスの革新能力は? 新技術,サービス導入の遅れ?

有能な経営者か? 診療科と地域のミスマッチ?

事務職の能力は? 顧客のイメージが弱い?

医師の能力は? 競争上の不利は?

職員のやる気は? 平均以下のマーケティング力?

その他 資金力不足?

外 部

機会 脅威

市場の早い成長 既存の市場へ新規の参入者?

規模よりも専門性を重視する患者増 必ずしも大規模病院が好まれなくなってきて いる傾向

ライバル間の安定・安心感 市場成長の低下

経済成長 逆行的な政府政策

診療材料などの納入価格の変化 競争圧力の増大

規制緩和 景気動向とその影響

顧客が医療情報を多くもって動く 顧客の交渉力の増加 顧客の医療への関心が高い 連携相手とのパワー関係

顧客のニーズの多様化 診療報酬改定の影響 診療報酬改定の影響

人口の減少

(出所)Certo(1989): Principles of Modern Management, p.144, Allyn and Bacon を参考に加筆・修正

環境は,業界の外から病院に影響を与えるマクロ 的な経済的,技術的,政治的,法的,社会的,文 化的なマクロ環境要因分析と顧客,競争病院,取 引業者などのミクロ的環境要因分析がある.

ある外的要因が,ある病院には機会となり,別 の病院では脅威となる.すなわち,他院の機会が,

必ずしも自院の機会とはならないのである.また,

それらの機会の規模・大きさも異なるので注意が 求められる.また,ある機会が,同じ病院の脅威 になることもある.例えば,政府の規制改革で,

株式会社の病院が認められたとしよう.これは多 くの病院にとって脅威になると感じられているが,

見方を変えれば,自院の非営利性を強く打ち出す

ことで特定医療法人や公益法人のような名実共に 非営利性の強い病院は,人間の本来持つ医療に対 する非営利性への期待を前面に出していけるチャ ンスになるであろうし,資力のある病院は,現在 もっている MS 法人を改組して株式会社で病院を 経営できるようにして対抗できる場合もある.こ のように機会と脅威は二面性を持つものである.

以上で分かるように,SWOT 分析は,外部環 境と内部資源との適応をうまく行うことで,組織 は成功するという考えに立脚している.

自分たちの強みを考える場合,他の医療施設に 優越する能力は何かということを考えた時に,例 えば,最初からこの技術は優秀であるということ

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を断定して考えるのではなく,この技術がいかに 社会のニーズに合致しているかを客観的に考える ことが最初に求められる.

自動車産業で考えてみる.ある企業の優れた点 は大型エンジンのスポーツカー作りが強みとする と,その企業の売上げ比率が,スポーツカー,レ クレーショナル・ビークルで 60%以上を占めて いるとする.一方,その当時の社会の動向・興 味・嗜好が,大型エンジンを積んだスポーツタイ プの車ではなく,環境に配慮した中型・小型のエ コ対策車であったとする.その時,その企業の大 型エンジンの技術は,強みではなく,弱みになる と考えることができる.

あるいは,外的環境をどのように判断するかと いうことも簡単にはできない.例えば,病院の近 隣の開業医のレベルが高いという事実があった場 合,それを病院の外来の脅威と捉えるのか,機会 と捉えるのか,意見が分かれることもある.その 場合は,関係する事実を積み上げて議論を徹底的 に行う必要がある.

ここではあくまでも自院の内部の分析,外部の 環境を別々に分析するのであって,内部の分析に 外部の脅威や機会を入れ込むことはしない,また,

外部の分析に内部の分析を入れ込まないことが注 意事項になる.

さらに外的環境分析では,すべてを網羅的に洗 い出すだけでなく,何がどのような影響を病院に 与えるかを考えることが重要となる.

SWOT 分析を実際に行う場合,S・W・O・T を 別々に,順番に出し合っていくのか.4 つ(SWOT) あるいは 2 つ(S・W と O・T)をいっぺんに出し 合っていくのかは,どちらが良いというものでな いが,経験的には,SWOT を S・W と O・T のセ ットで考えていくことも実際には,効率的である ことが多い.原則は,S・W・O・T 順に行うが,

S を考えているときに,W や T が思い浮かぶこ とも多い.したがって,4 色のポスト・イットを 各自に用意し,原則,チームごとに,S・W・

O・T 順に時間をきめて考えていくが,思いつい た も の は ,S・W・O・T に あ わ せ た色の ポ ス

ト・イットに書き残し,順番が来るまでストック しておくと忘れない.

皆で考えることが基本であるので,しゃべらな い人がいた場合は,ファシリテーターが固有名詞 でその人を呼んで,「○○さん,この点はどのよ うに判断しますか」などと議論に参加させる配慮 が必要となる.基本は,皆で自由に話し合う,意 見を出して「お互いの気づき」を出させることに ある.

さらに,毎日積極的に自病院の強みや弱み(多 くは弱みを考えやすい)を考えている職員が多い 場合は,SWOT 分析は,あたり前のことである ので,何で今さらという思いがある.そのような 場合は,ファクト・データを積極的に示すことで,

議論に納得性を求めることも必要である.また,

反対に,SWOT 分析を行う時に人員が揃えられ ないので,他の場所で違う職種に SWOT 分析を やらせた結果を使用しようというような場合,フ ァクト・データでないので,また自分が参加して いないので,組織内で反発を受ける場合がある.

そのような場合は,アンケート調査等のデータを 提供するということが安定した作業につながる.

以上からわかるように,事実をもとに議論する こと.議論は自由に発言することが重要で,職位 によるパワーで相手に制限をかけないこと.他の 人の発言をすぐに否定しないこと.客観的に事象 を見ること.外部と内部の違いを明確に線引きす る努力をすること.他の人の意見を尊重すること などを意識しながらすすめる必要がある.ただし,

リーダーシップや人的資源などは客観的データを 用いることができない場合があるが,その場合は,

できるだけこのようなことがあったという事実を 評価しながら考えていくことが重要で,SWOT 分析をお茶のみ会議にしないことが重要である.

特に,部門で行う時は要注意である.

c.戦略を策定する上での SWOT 分析の根拠 を考える

SWOT 分析は,組織が置かれている様々な状 況を網羅しながら分析することを基本姿勢にして いる.つまり,組織が利用可能な,すべての財務

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データ,非財務データを見ようとすることを習慣 づける.

これらの行為から,組織のミッションを達成す るために,ビジョンを達成する可能性をいかに高 めるかということに主眼を多くといえる.

外部分析では,分析する人により,普段の生活 の中で外部環境を意識していない人も組織には 多々存在する.例えば,病院で,現場で働く医師 や看護師は,ほとんど病院の外部環境を積極的に 理解しようという行動は院内では少ない.しかし,

管理職として病院の経営について少しでも参加し て い る と い う 意 識 が あ る と ま っ た く 異 な っ た

SWOT 分析になる.その時,通常の業界構成を

考え,サプライヤー,競争相手,顧客,職員,職 能団体,業界団体などの環境を考慮することや,

業界および病院が置かれている社会的環境,技術 的環境,経済的環境,医療制度などを入れ込む一 般的環境(Fleisher, et al. 2002, 菅澤善男訳 2005,

p.103.)などによって,セグメンテーションするこ

とが多い.

内部分析では,病院の場合,職員はよく内情を 知っていることが多い.ただ,それが根拠を伴わ

ないことも多く,きちんとした,根拠を踏まえて 分析することが重要になる.SWOT 分析を行う 者は,病院の現状を正しく,客観的にレビューし,

コスト,経営資源,能力,組織内部の問題を調査 する(Fleisher, et al. 2002, 菅澤善男訳 2005, p.103.) ことから始める.

dSWOT の把握(図1)

SWOT 分析で,階層,職種の異なる職員が自 由に意見を言いながら,ポストイットを整理して,

内部の強み・弱み,外部の機会・脅威を明確にし ていくという SWOT 分析プロセスが,職員の変 化の第一歩となる.つまり,SWOT 分析の参加 者は,皆,病院のビジョン達成に重要と思われる ことに直接的に,潜在的に関与する要因を理解し,

対応し乗り越えようという気構えができるのであ る.

ただ,SWOT 分析は単純に行うことができる ので,便利ではあるが,その作業の中で複雑なも のを見失う場合があることも理解して行う必要が ある.すなわち,項目間の関係性の理解の限界も あるということである.

SWOT 分析は戦略を策定する時に,バランスよ

図1 内部の強み,弱み,外部の脅威,機会の把握 (出所)髙橋淑郎と渡辺明良により作成

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図2 SWOT 分析からクロス(マトリックス)分析へ (出所)髙橋淑郎と渡辺明良により作成

く考えることが難しいけれども,戦略策定上重要 な 4 つの要素を自院で明確にすることができる.

しかし,実際にそれらを特定しようとする時に,

基準が明確になっていないことは,組織の能力や 個人の関心あるいは能力によって変化することに なるという事実を明確に意識して利用すべきであ ろう.例えば「専門性の高い医師が多い」「コメ ディカルの専門性と協調性が高い」というような 強みは,本当に病院がそれらを強みと思ってよい であろうか,「区内の人口増加」「競合する大規 模病院がない」というような機会が,本当に機会 なのであろうか.事実であるデータの積み上げで 考えることが望まれる.

すなわち,本来は,SWOT 分析では,戦略を 形成する時,あるいは,戦略を検討する時に,そ の戦略がどのように①自院の強みを活用し,②弱 みを回避し克服するか,③機会を捉え,④脅威を 無力化しえるかという質問をすればよいかという ことを明確にしてくれる(Barney 2002, 岡田正大 訳, 基本編 2003, p.50.).それに応えるのが,そ

の後に行うクロス(マトリックス)分析(図1,2 参 照)である.

e.クロス(マトリックス)分析(図2)

強み,弱み,機会,脅威がまとまったら,それ ぞれの関連性についてクロス分析(マトリックス) を用いて検討していく.強みと機会では,当院の 強みで取り組める機会の創出,つまり,積極的攻 勢戦略が考えられる.「自院の強みで取り組める 新たな機会を作り出す」ことである.

同様に,弱みと機会では,当院の弱点を克服し て強みに転換し,機会を逃さない,弱点克服・転 換戦略である.強みと脅威では,当院の強みで脅 威を回避,または事業機会の創出する差別化戦略 である.弱みと脅威では,当院の弱みと脅威で最 悪の事態を招かない対策として,業務改善または 撤退戦略の 4 つのカテゴリーによってやらねばな らない経営課題が抽出される.

この段階で,経営課題のビジョン達成のための 重要度を考える.この作業は必ずやらなければな らない.すなわち,経営課題を戦略目標に転換す

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る際に,あるいは,ビジョンとの整合性やビジョ ン追求の優先度などを経営課題として考えながら,

戦略目標に落とし込んでいくからである.ここで の 注 意 点 は ,SWOT 分 析 で , 過 去 か ら 現 在 の 様々な分析を行い,クロス分析では,それを受け て,現在から将来に向けての経営課題を見出して いくことのスタンスの違いを参加者が理解するこ とである.

SWOT 分析は,過去と現在を分析しているも

のである.それらを踏まえて,将来どうしたいと うことを経営課題として見出していくことがクロ ス分析であることを意識して思考することが重要 となる.ここで,1 つ問題が出る.それは,通常 の経営者であれば,例えば現在の脅威(あるいは 機会)に対して,過去から現在までの自院の強み と弱みを同時に考え,将来行いたいことに対し,

最小の投資で最大の効果を得ようとする.したが って,「脅威-強み」,「脅威-弱み」で同じ経 営課題をポスト・イットに書いて,別々のマトリ ックスに入れてしまうことがある.確かに,現実 の経営者の発想はそうであろう.しかし,経営の ことをこれまで考えてこなかった,あるいは,自 分の部門あるいは職能集団のことしか考えない部 分最適思考をする職員が多くを占める場合,一緒 に議論する場合は,経営者流の考え方は難しいも のになる.現場の職員も納得して理解して行うに は,まずは,「脅威-強み」,「脅威-弱み」で 異なった経営課題を考えることが求められるが,

経営課題としての表現が同じになった場合は,ど ちらか一方を採択する必要がある.同じ経営課題 が,別のマトリックスに入ることはないと言う原 則を尊重し,自院の「強み」か「弱み」か,より強 い方,より重要な方を採用するということを行う.

f.SWOT 分析の限界

これまで SWOT 分析の BSC 作成段階での使用 価値を述べてきたが,SWOT 分析にも限界があ る.それは外的環境での脅威と機会,内部の弱み と強みの区別を正確に行うことが難しいことであ る.すなわち,強み,弱み,機会,脅威という 4 つの要因を恣意的に分類せざるを得ない状況とい

うのは,それらの 4 つの要因の関係性を価値判断 した後にどんなに注意深く 4 つを分類してもあま り役立たない.それよりも内部と外部の 2 分類の ほうが重要であるという考えもあるが,本書では,

恣意的分類という考えではなく,現状の,その時 点の判断でかまわないと考え,4 つの区分をすべ きと考える.すなわち,どのような方策を使って も将来は完全には把握できないのであるから,現 時点での判断としての判断基準で考えることで十 分役立つと考える.

gSWOT 分析で職員が変化

実際に,SWOT 分析からクロス分析まで行っ ていく過程で,次第に職員が,能動的になってい くことがわかる.これは SWOT 分析やクロス分 析で同じ言葉,すなわち,これまで行いたいが行 えなかったこと,普段から考えていたが実行でき なかったことなどが繰り返し出現し,様々な人か ら同じように表現されることで,外的環境や内部 の状況を事実とともに客観的に理解し,次第に受 身ではなく,主体的に考えて動くように変化して くる.これが BSC の戦略マップやスコアカード の作成とその成果につながっていく大きな原動力 になる.

h.SWOT 分析とクロス分析のまとめ

SWOT 分析の経験から次のような実践的ポイ

ントが確認された.内部と外部の区分は経験して 慣れていくもので,最初から厳密に区分すること は難しい.また,外部の脅威と機会も,ミドル以 下の職員は普段から考えていないことが多いので,

考えてもらうような動機付けが必要になる.

さらには,抽出した項目が,どの程度おおくく りなものであるか,項目の大小,あるいは具体的,

抽象的と区分されるが,これも経験的に収斂して いく.また,あくまでも SWOT 分析は過去と現在 のみを考えていることを意識しておく必要がある.

クロス分析では,SWOT 分析で考えた過去と,

現在を踏まえて,今後,近い将来どうする.どう したいかを示すものである.そして,「強みと機 会で何ができる」「何がしたい」と考えると理解 しやすい.また,クロス分析で出てきた経営課題

(8)
(9)

を重要度や緊急度で区分し,重要なもの,緊急性 の高いものから解決していく方策を考えることが 望まれる.その経営課題を考え抜くことが,戦略 目標を浮かび上がらせてくることになる.

さて,部門で BSC を作成する時に注意しなけ ればならない点がある.それはいくつかの施設を 擁する法人の場合,あるいは組織が大きい場合,

法人全体の BSC がないと,部門で,SWOT 分析 からクロス分析で過去から現在までの現状把握を して,経営課題から戦略目標を考える時に,部門 での新規分野への取り組みについて,法人全体の 方向性が不明確なため,十分に検討できないとい うことが生じることである.これらを総合して考 えると,部門から BSC に入っていくことは,組 織のミッション,ビジョンが浸透の成否,上位レ ベルの BSC の有無によってかなり影響を受ける ことがわかる.

3 .第 4

チームの作成した

BSC

の検討 a.SWOT 分析,クロス分析

2 に示したように,SWOT の再度検討すべき 事柄を太字で示した.すなわち,内部組織の「強 み」や「弱み」が「機会」「脅威」に入り込んで いる.このあたりはもう少し整理する必要もある が,経験を積むことでかなり改善される.

SWOT 分析で表現している文言をもう少し工 夫し,具体的なほうが,皆にわかりやすく議論も 深まる可能性が高くなる.例えば「良好なコミュ ニケーション」では具体的な場面が創造できない ので,「各部門と検査科との業務上の意思疎通が うまくいっている」といった表現であれば,その 後「これって本当に強み?」といった議論につな ぐことができる.

b.戦略目標の選定

一般的な地方都市の大学病院を想定して作った ものなので,ここでも文言が抽象的になっている.

「○○の強化」「○○の充実」といった表現は使 い勝手がよいので,良く使用することが多いので あるが,その後,具体的なプランを考える時には,

もう少し具体的な表現のほうがイメージしやすく

なる.例えば「接遇研修」⇒「検査技師の患者応 対の接遇を向上させる」いったようにすればわか りやすくなる.

c.戦略マップ

短時間での作業であったので十分に議論を深め ることができなかったが,一応,戦略マップの形 を作ることはできた.顧客の視点に「紹介患者の 増加」という項目がのっているが,これは財務の 視点に移したほうがよい.

d.スコアカード 特にコメントなし.

全体的に「仮想の大学病院」を想定した BSC 作りであったのでどうしても議論が一般的になり がちであった.そのため完成した BSC も現実的

な BSC と比較すると抽象的なものとなったが,

短時間で BSC 的な発想と手法を学んでいただく ことはできたのではないかと考える.自分の病院 で作られる際には,「現実的な話」になるので,

より「リアル」な BSC になる.

4 .結 語

今回のように,組織のある部門・部署が BSC を作成する場合,注意しなければならないのは,

組織全体の方向性との調和である.すなわち,病 院などの医療組織は,サブシステムが変われば,

関係する他のサブシステムも影響を受ける.した がって,全体最適を目指さない閉鎖的な部門の BSC は作成してはならないのである.組織全体 の中での検査部という認識が,BSC 作成・運用 時に常に必要である.

文 献

1) Craig S Fleisher, Badette E Bensoussan. Strategic and Competitive Analysis. Pearson Education;

2002.(菅原善男 ほか訳. 戦略と競争分析, コロ

ナ社; 2005.)

2) Henry Mintzberg, Bruce Ahlstrand, Joseph Lampel.

Strategy Safari Simon and Schuster; 1998.(斎藤嘉 則 ほか訳. 戦略 サファリ, 東 洋経済新 報社; 2003.)

3) Michael E Porter. Competitive Strategy. Free Press; 1980.

(10)

4) Michael E Porter. Competitive Strategy. Free Press; 1985.

5) Barney, JB. Gaining and Sustaining Competitive Advantage, 2nd Ed., Pearson, 2002. (岡田正大訳

『企業戦略論:競争優位の構築と持続』下巻,

ダイヤモンド社, 2003).

6) Thomas H Davenport, Laurence Pausak. Working Knowledge. Harvard Business School Press; 1998.

(梅本勝博 訳. ワーキングナレッジ 知を活かす 経営, 生産性出版; 2002.)

7) 髙橋淑郎編著. 医療経営のバランスト・スコア

カード, 生産性出版; 2004a.

8) 髙橋淑郎. バランスト・スコアカード導入で日

本の病院は変わる. 週刊エコノミスト4/6, 2004b.

p.52-5.

9) 髙橋淑郎. バランスト・スコアカードの基本概

念と医療経営, 医療バランスト・スコアカード 研究 Vol 1.1, 2004c. p.1-9.

10) 髙橋淑郎監修. 日本能率協会総合研究所編 病院 価値を高めるバランスト・スコアカード, メデ ィカル・パブリケーションズ; 2005.

11) 髙橋淑郎. バランスト・スコアカード導入の効 果的なステップ, 看護展望 Vol.31 No.4, 2006.

p.26-39.

12) 髙橋淑郎. 続可能な医療システムに向けたバラ ンスト・スコアカードの新しい利用方法と課題, 会計学研究(日本大学商学部会計学研究所), 第 21号, 2007. p.41-64.

13) Takahashi T. Hospital Management and The Bal- anced Scorecard for Healthcare in Japan, 情報科 学研究〈日本大学商学部情報科学研究所〉第17 号, 2008. p.55-75.

参照

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