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オホーツク海南西部の海氷勢力と沿岸の気象条件   

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北海道の雪氷  No.282009

Copyright ○C 2009  (社)  日本雪氷学会 - 77 -

知床半島ウトロを中心とした 

オホーツク海南西部の海氷勢力と沿岸の気象条件   

小杉知史,高橋修平,堀 彰(北見工業大学) 

 

1.はじめに 

知床半島は北半球で最南端の海氷接岸地域である.これは

2005

7

月にユネスコ世 界自然遺産に登録されるにあたり大きな理由であったわけであるが,近年の地球温暖 化によってオホーツク海に浮かぶ海氷の量は減少し,これらの知床半島への接岸時期 も遅れる傾向が出ているため,知床の自然環境の変化が懸念されている.

知床半島は海氷をせき止めていると言われている.オホーツク海北西部で生成され た海氷は東樺太海流によって南方へ流され,知床半島の西岸に接岸する.ここで海氷 は溜められるため,温暖化による影響は大きいものと考えられる.そのため,本研究 ではオホーツク海南西部における海氷データを海上保安庁により作成されている海氷 速報図から作成し,まずはこの海氷データを用いて

1995-2009

年の年平均の海氷勢力 を比較した.そして北海道沿岸の

4

地点(枝幸,紋別,網走及びウトロ)による海氷 勢力の比較及び気温との関係,海氷が消失する際の気象条件について,知床半島ウト ロを中心に報告する.

2.海氷データ 

海上保安庁で作成されている海氷速報図から海氷勢力 を求め,海氷の基礎データとして使用した.海氷速報図 はオホーツク海南西部における海氷密接度を

0-10

で示 し,海上保安庁のデータだけでなく気象庁や

JAXA

など のデータを集積した図となっており,北海道沿岸部の海 氷密接度を得ることが出来る.

この海氷速報図から北緯

43-47

度,東経

141-146

度内 に

60

点のポイントを取り,各点における海氷密接度を 日々積算することによって

1995-2009

年の

1-3

月におけ る海氷勢力を求めた.図

1

は求められた海氷勢力を図示 したものであり,例として

2009

年のものを示した.こ

の図の海氷密接度は

0-1

で示しており,密接度が

1

であった日数をカラーで示してい る.海氷は,樺太の東に沿って流れ南下し,その後方向を南東に変えて知床半島に向 かう様に流れていくことがわかる.そのため

海氷は知床半島沿岸に溜められ,接岸日数が 多くなる.

2

に求められた各年の海氷勢力を年毎の 平均値をまとめた.オホーツク海南西部に流 れる海氷勢力を平均すると,

1995-2001

年に かけては増加傾向にあるが

2003-2009

年は 反対に減少傾向にあることがわかる.

141.0 141.5 142.0 142.5 143.0 143.5 144.0 144.5 145.0 145.5 146.0

図1.20 0 9年の 海氷勢 力図 .  海氷密接 度が1で あった 日 数を示 し てい る . 

図2.19 9 5 -2 0 0 9年のオ ホ ーツ ク海南西 部に おける 海氷勢 力の平 均値 .

U t o r o E s a s h i

M o n b e t s u A b a s h i r i

0 20 40 60 80

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

Accumlated Ice Concentration (day)

0 30 60 90

(2)

北海道の雪氷  No.282009

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3.海氷勢力の地域分布と気温 

海氷勢力をオホーツク海北海道沿岸部の

4

地点

(

北から枝幸,紋別,網走及びウトロ

)

で比較する.

3

に,それぞれの地点における沿岸地点,半径

40km

内及び半径

80km

内の

3

種類の海氷勢力を示 す.沿岸地点の海氷勢力は,各地点の

1

点の海氷 密接度を積算したものであり,半径

40km

内の海 氷勢力は,各地点から沖合い

40km

までの海氷密 接度の平均である.半径

80km

内の海氷勢力も同 様とした.

3

種類の海氷勢力全てにおいて,枝幸から紋別,網走,ウトロとオホーツク海沿岸 を北から南へ向かうに従って大きくなっており,枝幸,紋別及び網走においては沖合 いを含めると大きくなるが,ウトロにおいては反対に沿岸地点だけの海氷勢力が沖合 いを含めたものより大きくなっている.これらから,知床半島では海氷をせき止めて いることがいえる.

4

は各沿岸地点の海氷勢力と

1-3

月の平均気温を年毎にプロットして出来た相関 図である.各地点の相関係数はウトロ:

-0.88

,網走:

-0.89

,紋別:

-0.81

,枝幸:

-0.75

とどの地点も有意な相関関係にあり,平均気温の上昇と海氷勢力の減少の関係が認め られる.網走,紋別及び枝幸の平均気温と海氷勢力は青田他(

1993

)が良い相関が取 れたことを示しているが,海氷がせき止められるウトロに関しても同様の結果が得ら れた.

4

のウトロにおける近似線を延長すると,海 氷勢力が

0

となるとする年の

1-3

月平均気温は

-0.8

℃となる(網走では

-1.4

℃,紋別では

-2.0

℃,

枝幸では

-2.6

℃となる).平年の

1-3

月平均気温が

-4.9

℃ であ るこ とか ら

4.1

℃気 温が 上昇 し た場合 は海氷が接岸しなくなることが予測出来る.また

2009

年の

1-3

月平均気温が

-3.1

℃であることから,

今年の気温から

2.3

℃上昇した場合である.

青田(

2002

)は網走,紋別及び枝幸の

3

地点年 間平均気温が

1930-2000

年平均から

4

℃上昇する と沿岸の海水は結氷しないと予測した.また,北 海道オホーツク海沿岸の海氷の面積が大きいと

2

3

月の旬平均気温は低下すること(青田・植松,

1989

),さらに

1988

年に関し,オ ホーツク海沿岸に海氷が接岸すると沿岸地域の気温が最大

5

℃低下したこと(中村,

1996

)から海氷が接岸すると気温が低下するといえるため,海氷接岸と気温の関係は 相互に影響しているのは明確である.しかしこれらは小さなスケールでの影響である.

スケールを大きくするとオホーツク海の海氷面積は前年秋の北西部の熱収支に依存す る(

Ohshima et al.,2006

).

本研究ではウトロで

4.1

℃気温が上昇した場合に海氷が接岸しなくなると説明した

(網走で

3.1

℃,紋別で

2.5

℃,枝幸で

2.1

℃).これは青田(

2002

)の結果に近いデー タが得られたといえるだろう.

0 10 20 30 40 50 60 70 80

-8 -6 -4 -2 0

Jan.-Mar. Mean Temperature (℃)

Accumlated Ice Concentration at Coast day

図3.19 9 5 -2 0 0 9年の海 氷勢力 の地域分 布 . 各地点の 海氷勢 力は ,左か ら沿 岸地点 , 半径4 0k m内, 半径8 0k m内.

図4.19 9 5 -2 0 0 9年のオ ホ ーツ ク海沿岸 の4 地点( 枝幸 ,紋 別 ,網走 及び ウ ト ロ) の沿 岸地点に お ける海氷 勢力 と各地 点にお け

1 -3月平均 気温の 相関図 .

地点名の 横に示 す数 値は相 関係 数を示 し ,それそ れ近似線 を引 いた .

U t o r o:- 0 . 8 8 A b a s h i r i:- 0 . 8 9 M o n b e t s u

- 0 . 8 1

E s a s h i - 0 . 7 5

- 0 . 8 - 1 . 4 - 2 . 0℃

- 2 . 6℃

N = 1 5 0

20 40 60

Esashi Monbetsu Abashiri Utoro Accumlated Ice Concentration (day)

Coast R=40(km)

R=80(km)

(3)

北海道の雪氷  No.282009

Copyright ○C 2009  (社)  日本雪氷学会 - 79 -

4.海氷の消失と気象条件 

海 氷 が 接 岸 す る 条 件 は ほ と ん ど の 年 で 北 西 か ら の卓越 した 風によ るも のであ る. そのた め, 本章 では海氷が消失する条件について述べる.

1

1995-2009

年ウトロにおける海氷が消失

した際 の気 象条件 及び それら をパ ターン 分け した 結果を まと めた. 本研 究では 気温 の上昇 が影 響し て消失 した 場合を 融解 型とし ,気 温の上 昇が なく 南東ま たは 南西の 卓越 した風 が影 響して 消失 した 場合を 風型 とし, 風が 吹いて いた 場合に も気 温の 上昇が起こっていれば融解型とした.

こ れ ら 融 解 型 も し く は 風 型 を 年 毎 に 当 て は め て

いくと,

1998-2003

年は融解型であり,それ以降は

風型の年が多い傾向にある.この傾向は近年の海氷 の減少によるものだと考え,図

5

に,

1995-2009

年 の各 年 のウ ト ロに お い て海 氷 が消 失 した 日 と オホ ーツ ク 海南 西 部に お け る海 氷 勢力 と の関 係 を 示し た

.

さらにこの図にウトロにおける海氷の消失が風 型であるのか融解型であるのかを示す.

風型の年は海氷が比較的早くなくなる年であり,

オホーツク海南西部の海氷勢力自体が小さい年で

ある.海氷が密接していないため風によって流されやすいのではないかと予測する.

また融解型の年は海氷が長い間接岸しており,海氷勢力が大きい.そのため風だけ 流されず気温の上昇による融解が伴った海氷消失になる傾向にある.よってオホーツ ク海南西部における海氷勢力が

40day

以下である年は,気温が上昇していなくても風 の強い日に海氷が消失してしまう可能性があると予測出来る(風型).また反対に海氷

勢力が

40day

以上である年は,気温が上昇するまで海氷が消失しない(融解型).

この融解型について,海氷面の熱収支計算を行った.顕熱に関しては成瀬他

(1970)

, 潜熱に関しては小島

(1969)

,長波放射熱に関しては

Kondo(1967)

による経験式を用い た.これらの式に与えた数値は,海氷の表面温度は

273.15K

,表面の水蒸気圧は

6.11hPa

, 海氷面のアルベドを変数として

α =0.3(

水の溜まっている状態

)

から

0.65(

積雪の無い状 態

)

を入れ,その他はウトロにおけるアメダスデータを用いた.但し日射量及び雲量に 関しては網走におけるそれらと日照時間の関係から導かれる近似式から求め,水蒸気 圧に関しては網走における気温及び相対湿度の関係から導かれる近似式から,網走に おける相対湿度とウトロにおける

気温を用いて求めたデータを使用 した.

また,海 氷の融 解は表 面だけで はなく底面及び側面についても考 えられるが,季節や海氷面積縮小 による海水温の変化及び流速の変 化は微小であるため,コンスタン

0 50 100 150 200 250

3/6 3/16 3/26 4/5 4/15

融解熱量 QMMJm-2

0 20 40 60 80 融解水量 Qmeltcmw 0

10 20 30 40 50 60 70

2/1 3/2 3/31 4/30

Sea Ice Disappearing Day

Accumlated Ice Concentration day

W i n d T yp e Te m p T yp e

図5.19 9 5 -2 0 0 9年の ウト ロに お ける 海氷消失 日とオ ホ ーツ ク海南 西 部にお ける 海氷勢力 . 四角は風 型 ,菱は融 解型 .

図6.20 0 8年の ウ トロに お ける融 解熱量及 び融 解水量 . 左に融解 熱量QM(M J・m- 2) , 右 に融解水 量Qm e l t(c m・w) .

α= 0 . 3

α= 0 . 6 5 α= 0 . 6 α= 0 . 5 α= 0 . 4

1.ウ トロ にお ける 海氷の 消失 条件と

消失パ ター ン.

消失条件 消失パターン

1995 High Temp + SE wind 融解型

1996 SE wind + SW wind 風型

1997 SW wind 風型

1998 High Temp + SW wind 融解型 1999 High Temp + SE wind 融解型 2000 High Temp + SE wind + SW wind 融解型

2001 High Temp 融解型

2002 High Temp + SW wind 融解型 2003 High Temp + SW wind 融解型

2004 SW wind 風型

2005 High Temp 融解型

2006 SE wind 風型

2007 SW wind 風型

2008 High Temp 融解型

2009 SE wind + SW wind 風型

(4)

北海道の雪氷  No.282009

Copyright ○C 2009  (社)  日本雪氷学会 - 80 -

トに影響していると仮定した.図

6

の融解熱量

Q

Mは,顕熱,潜熱,長波放射熱及び 短波放射熱の和であり,それらを

80kcal

kg

- 1 で除算することにより融解水量

Q

m e l t

を求めた.図

6

2008

年ウトロにおける融解水量を積算した図である.オホーツク 海 の 平 均 海 氷 厚 は

40-50c m

で あ る の で , 海 氷 の 側 面 及 び 底 面 の 融 解 を 考 慮 す る と

α =0.5

の場合に現場でおおむね融解されたと説明出来る.

5.まとめ 

①海氷勢力はオホーツク海北海道沿岸を南下するに従って大きくなり,知床半島ウト ロで最も大きい.

②ウトロでの海氷勢力は半径

40km

内や半径

80km

内よりも沿岸地点で大きい.これ らより,知床半島が海氷をせき止め,ウトロ沿岸の海氷接岸日数が多いと言える.

③ウトロの

1-3

月平均気温が平年より

4.1

℃上昇した場合は,ウトロに海氷が接岸し なくなる年である可能性がある.

④海氷消失パターンには次の 2 通りがある.

「風型」:海氷の少ない年であり,気温が上昇する前の比較的早い段階で風に流さ れて消失する.

「融解型」:海氷が多い年であり,海氷が長い間接岸し,気温が上昇すると融解し 消失する.熱収支計算によって現場で融解することが説明出来たと考える.

 

参考文献  

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小 杉 知 史 ・ 高 橋 修 平 ・堀彰 ,2008: 知 床 半 島 に お け る 海 氷 勢 力 と 気 象 条件の 関 係 . 寒 地 技 術 論文・報告集,24,258 - 262.

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