NDICニュース No.42号でお知らせした-福岡西方沖地震から5年-九州の自然災害を考 える災害調査報告会&市民フォーラムが、平成22年3月19日開催されました。一般市民 の方々含め約 150 名にお出で頂き、当時の状況や現在の復興に至るまでの様々な過程の報 告があり、参加者も熱心に耳を傾けていました。
第2部市民フォーラム パネラーへの質疑応答 第1部 災害調査報告 司会の安福規之教授
九州の自然を考える
ふぉーら 災害調査報告会&市民フォーラムフォーラム報告
当時の体験を語る 細江四男美氏
パネラーを紹介する善センター長
熱心に聞き入る参加者
平成 21 年 7 月豪雨による防府土砂
山口大学 大学院 羽田野 袈裟義
1.緒論
平成21年7月21日に豪雨により防府市 の佐波川支流沿いの至る所で土砂災害が発 生し、14名の死者を出した。今回の災害の 特徴として、土砂災害は花崗岩が風化した マサ土の地域に集中し、被害は土石流が谷 口の緩勾配部に達して巨礫が堆積した後の 土砂流による埋没・生き埋めによるもので あったこと、10 分間雨量 8mm を超える雨 が断続的に降り 6 時間雨量が 200mm を超 えたこと、などが挙げられる。
本稿では、調査結果1)、2) の概要を報告す ると共に、この調査を通して認識された土 砂災害減災のための方策をいくつか提言す る。
2.主な土砂災害の概要
今回の土砂災害発生の分布状況を図-1に 示す。図では崩壊や土石流の流下部を手書 きでなぞって示している。また、河川や渓 流に設置された堰堤を太い短い線で示す。
主な被災地は佐波川水系の下流部から順に 国道262号筋(剣川筋)、石原地区、真尾(ま なお)地区、奈美地区である。これらの地 区では過去に土石流や土砂災害が発生して いる。
国道262号筋の剣川では流入する多くの 支渓流で崩壊や土石流で発生した大量の土 砂が流入し、剣川や国道262号や剣川沿い の田畑などの低所を土砂流として流れた。
この一帯で4名の死者が出た。剣川本川の 砂防堰堤20(図-1参照)の下流で流入する 多くの支渓流で崩壊や土石流が発生して大 規模な土砂流が流れた。また、図でも確認
されるが、いくつかの渓流で砂防堰堤や治 山堰堤が土石流の流下を止めている3)
石原地区では普明寺川に流入する3支渓 流で大規模な土石流が発生し、緩勾配部に 達して土砂流を構成した土砂が一帯に堆積 した。写真-1 に石原地区の被害の状況を示 す。この一帯で2名の死者が出た。地元の 人はこの日の 11 時台に大きな地響きを聞 いており、これが土石流の流下とみられる。
。
真尾地区では、上田南川で発生した土石 流が谷から扇状地に出た所で巨礫が堆積し た後、土砂流として流下した土砂が特別養 護老人ホームに流入し、1 階にいた 7 名の 入所者が犠牲になった。老人ホームの災害 は7月21日の12時半頃であったが、土石 流の発生時刻は地元の人が大きな地響きを 聞いた 11 時半頃とみられる。写真-2 と 3 には、老人ホーム上流の巨礫の堆積と老人 ホーム内部の土砂堆積の様子を示す。もし 老人ホームの 1階を入所者が利用できない 空間にしていたならば、今回の惨事は防げ たであろう。
3.降雨特性
今回の降雨を 10 分間雨量と累加雨量の 経時変化を図-2に示す。文献4)
また、今回の防府と山口の降雨について 種々の時間の最大雨量(確率年)を示すと、
防府では、1時間63.5 mm (20.5年)、3時間 126.0mm(48.7 年)、6 時間 220.0mm (245.9 年)、日雨量275mm(82.6年)でいずれも確率 年の高い稀な豪雨であり、特に6時間最大 雨量の確率年の突出ぶりが目につく。
によると、
10分間雨量7mm以上、時間雨量40~50mm 以上で土石流が発生する。今回の豪雨では、
7月21日の5時30分から12時までの間に 10 分間雨量 8mm 以上が真尾で 18 回、防 府で12回、山口で14回起こっている。
次に、最近の最大雨量について述べる。
今回の防府の日雨量最大値は1950年以降
災害の概要と土砂災害対策の提言
図-1 土砂災害発生分布状況5)
図-2 10分間雨量と累加雨量の時間変化 (防府:気象庁)
写真-1 石原地区の被害の状況
写真-2 老人ホーム上流の巨礫の堆積
写真-3 老人ホーム内部の土砂堆積
第1位である。日雨量の最大値(1950年 以降第1位である。日雨量の最大値(1950 年以降)では、上位10位以内に1990年以 降が5回、2000年以降2回、の1時間雨量 の最大値(1976 年以降)では、上位 10 位 以内に1990年以降が8回、2000年以降が4 回と、近年は強烈な雨が多くなっている。
4.土砂災害の減災・防災の方策 (1) アクティブセイフティー
土砂災害ではまず、降雨への認識が重要 である。天気予報での雲の動き、西方地域 の天気、視覚情報では雲の色の濃さ、上流 山岳地帯の上空の雲、西の空の雲などであ る。また、24時間雨量、1時間雨量、10分 間雨量に対する一定の目安である。地形・
地質では、急傾斜地、扇状地、マサ土、シ ラスなどは土砂災害の発生しやすい地形・
地質である、との認識と警戒である。
また、その土地の過去の災害の伝承、地 名の由来、古くからの農家の人の情報、低 価格の土地への疑問、地元出身の土木技術 者の情報も有用情報である。
防災施設への認識として、砂防ダム、治 山ダム、擁壁などは強雨時に土砂災害が発 生しやすい危険箇所であるとの信号である。
これを一般の人に周知するのは土木技術者 の責務であろう。
(2) 建物1階の使用制限
今回の老人ホームの災害は、要援護者施 設の入所者の生活空間の設定に対して大き な課題を投げかけた。このような施設は、
地価の安いところを求めて建設されるが、
そのような場所は災害が起こりやすい場所 であることが多い。土砂災害や浸水災害が 発生しやすい土地にある要援護者施設では、
1 階を入所者の生活空間や居住空間から外 す6)
また、1 階を生活空間や居住空間から除 外する方策は、木曽三川下流部の水屋と類 似の発想であるが、平成 22年7月16日に 広島県庄原市で 3 時間に 170mm を超える 豪雨があるなど、今後は梅雨期にいつどこ でこのような豪雨があってもおかしくない 状況であり、また近い将来に大地震による 津波が発生する可能性が高いことを考える と、莫大な資産が集中する都市部の低平地 における建築物の1階の使用制限を視野に 入れた基準の見直しが必要と考えられる。
また、これは低平地で なくても都市部で
「谷」などの地名がつく場所の豪雨対策とし て必要であろう。これは、被害が甚大で復 旧に多額を要し、また損害保険が対応でき ず、国費を投入せざるを得ない事態が十分 考えられるからである。
ように建築基準を改正することを視 野に入れて検討すべきであろう。直近の対 策としては、このような配慮をした施設を
国や自治体が優良施設として公表すること が考えられる。
(3) 防災行政の実質化
担当者の責任追及に関心が向かいがちな 社会において行政の避難指示が硬直化しや すいことは防災行政の大きな課題であるが、
それ以外に防災行政の弱点がある。
最も重大な問題として、現在国でも自治 体でも防災を担当する部署の権限なるポス トに防災に関係する自然現象や防災方法の 知識を持たない職員が配置される場合が多 い。このような状況では、担当者は上から の指示を伝えるのが精いっぱいで、災害が どのようにして生じ、今後はどこがどのよ うに危険になるかを納得した上で指示を出 すことができない。このような状態を改善 し、防災を実質化することが急務といえる。
(4) 砂防ダム管理の提案
今回の災害では、その上流に貯まった土 砂礫を除去していた砂防ダムや治山ダムで は被害が明らかに軽減された。このことか ら、土砂堆積用ダムに貯まった土砂礫を日 頃から除去すること施策が有効である。こ
れを計画的に行えば、直接的な防災と防災 施設新設の経費節減に加え、中山間地の雇 用創出、雇用・現金収入の均等配分化(地 域的、期間的)、現地住民の活きた防災教育、
建設材料の確保、下流の河床低下防止など で大きなメリットがある。
現在の砂防ダム上流部の土砂礫堆積の考 え方は次のようである7) 、8)
しかし、今回の災害調査の結果
。土石流が発生 して砂防ダム上流に堆積する場合、図-4の 洪水勾配のラインまで土砂礫が堆積しうる とし、土石流発生で溜まった土砂礫の細砂 分はその後の中小洪水で砂防ダム下流に流 され、堆積状態は平衡勾配に近づくと想定 されている。
9)
土石流が起きてから何度か中小洪水が来 襲した後には、砂防ダム・治山ダム上流に 堆積した砂礫は流水で洗われているので骨 材にも利用できる。計画的な除石は防災だ けでなく経済性の点でも有利であることは 本節冒頭で述べた通りである。
、砂防 ダムや治山ダム上流で水通しよりある程度 高くまで堆積した状態では、ダム上流の表 層は石礫主体で細砂分は下流へと流されて いる。一方、ダム上流の堆積高さが水通し より低い場合、ダム上流の表層は細砂で覆 われている状況が目に付いた。このことは、
粘着力が小さいマサ土を対象とする場合、
平時から砂防ダム上流の堆積状態を砂防ダ ムの水通し高さより多少低くなるように除 石管理することが必要であることを示唆し ている。砂防ダム・治山ダム上流の河床高 の望ましい状態として図-5を考えることが できる。
5.結語
以上、平成21年7月の豪雨により山口県 防府市で発生した土石流による災害の調査 結果の概要を報告する共に、土砂災害減災 の方策をいくつか提言した。
図-4 砂防ダム上流部の堆積の考え方
図-5 砂防ダム上流の望ましい堆積状態
本稿は、(社)土木学会の調査団(団長、
羽田野袈裟義)による調査、山口大学工学 部社会建設工学科による調査、科学研究費 補助金特別促進研究「2009年7月中国・九 州北部の豪雨による水・土砂災害発生と防 災対策に関する研究」(代表者、羽田野袈裟 義)による。これらの調査研究では、山口県 砂防課、国土交通省山口河川国道事務所、
気象庁、山口大学農学部山本晴彦教授、山 口大学大学評価室鈴木素之准教授には種々 の資料提供やご教示の御助力を賜った。こ こに記して深甚の謝意を表します。
参考文献
1)羽田野袈裟義ほか:2009年7月中国・九 州北部の豪雨による水・土砂災害発生と防 災対策に関する研究、第46回自然災害科学 総合シンポジウム講演論文集、pp.23-33、 2009.
2)山口大学工学部社会建設工学科:平成21 年7月21日山口豪雨災害調査報告書(速報 版)、2009.
3)アジア航業(株):現地調査参考資料 航 空レーザー計測による土砂移動量解析結果、
航空写真、2009.
堤体
調節量 平衡勾配 現河床
洪水勾配
堤体
堆積面
現河床
4)芦田和男、高橋保、道上正規:河川の土 砂災害と対策、森北出版、p.73、1983.
5)国際航業(株):平成21年7月21日山口 県豪雨垂直写真判読図(速報版)、2009 6) 森山聡之:第5回土砂災害に関するシン
ポジウム、討議、2010.
7)国土交通省 国土技術政策総合研究所:砂 防基本計画策定指針(土石流・流木対策 編)解説、国土技術政策総合研究所資料、
2007.
8)鮭川登ほか:河川工 学、鹿島出版会、
pp.149-151、1991.
9)羽田野袈裟義、小田善丈、種浦圭輔、朝 位孝二:2009年7月の豪雨による防府の 土砂災害と土砂災害対策について、第 5 回土砂災害に関するシンポジウム論文集、
pp.93-98、2010.
九州地方整備局における災害時の
国土交通省九州地方整備局 奥野 博史
1.はじめに
九州地方は、地形、地質、気象などの自 然的条件から、台風、豪雨、豪雪、洪水、
土砂災害、地震、津波・高潮、火山噴火な どによる災害が発生しやすい国土となって おり、毎年のように、これらの災害により 多くの尊い人命・財産が失われている。
地域社会における防災対策は、地方自治 体(市町村、都道府県)、防災関係機関等 によって取り組まれているが、市町村(特 に規模が小さい市町村)においては、独立 した防災の専門組織がない状況であり、非 常時に迅速に対応できる専門知識、専門能 力を備えた職員が少ない、行政境界をまた がる災害に対する情報共有や連携体制が構 築されていない、消防団員数の減少・構成 員の高年齢化など、早期避難や応急対策等 の迅速・的確な対応が困難な状況にある。
一方、「国は、国土並びに国民の生命、
身体及び財産を災害から保護する使命を有 することにかんがみ、組織及び機能のすべ てをあげて防災に関し万全の措置を講ずる 責務を有する」(災対法第三条第1項、国 の責務)とあり、関係機関等と連携して、
災害対応に万全を期すことが国の役割とし て求められている。
そこで、地方自治体の対応能力を超える ような大規模災害の場合には、災害対応の 専門知識、専門能力を有する国が積極的に 減災・防災対応を支援し、九州全体の総合 的な防災対応能力の向上を図ることは地方 整備局の重要な役割と考えている。
こららを踏まえて、地方自治体との災害 時の連携・支援体制の充実、強化を図って
TEC-DOCTOR(学識者、整備局職員)による被災 調査 国道498号【佐賀県伊万里市】
おり、これらの取り組みについて事例紹介 する。
2.地方自治体との連携・支援について (1)技術支援
1) TEC-DOCTOR派遣
専門的な知識や高度な技術力を有する学 識経験者や整備局職員を派遣し、緊急的な 対応(施設等が災害等により損傷した場合 の調査・復旧方法、適切な災害復旧工法の 選定、道路施設の機能保全に必要な対策お よび管理計画等)について技術指導・助言 を施設等の管理者に対して行っている。今 年は伊万里市の道路法面崩落箇所等に派遣 している。
2) TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)派遣
TEC-FORCE は、大規模自然災害が発生
し、または発生する恐れがある場合におい て、被災地方自治体が行う災害応急対策に 対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施 することを目的としている。
実施内容は、被災状況調査、被災箇所に 対する高度な技術指導および応急対策立案 等に加え、地方自治体が行う被害報告や災 害復旧事業の申請に必要な被災調査や資料 の作成支援等を実施している。また、事前 に人員・資機材の派遣体制を整備し、平時 に隊員のスキルアップのための講習会・訓 練を行うなど、早期の応急復旧が可能とな
地方自治体支援について
TEC-FORCE被災状況調査班
(土砂災害危険箇所調査支援)
TEC-FORCE高度技術指導班
(応急工法技術支援)
るよう支援体制の充実を図っている。
「平成21年7月中国・九州北部豪雨」に おいて、山口県の被災地応急復旧支援のた めの緊急災害派遣隊(砂防支援班)として、
技術職員2名を派遣している。
3)リエゾン派遣
地方自治体と緊密な協力体制のもと、迅 速かつ円滑な災害緊急対策及び災害支援の 実施に資することを目的として、県庁災害 対策本部等にリエゾン(現地情報連絡班)
を派遣している。リエゾンの活動内容は、
被害・避難等の情報収集、直轄管理施設の
被害・広域な被害等の情報提供、TEC-FORCE、
災害対策用機械等の派 遣調整を行ってい
る。リエゾン派遣職員は予め選定し、リエ ゾン要員は、派遣マニュアルを日頃より準 備しておくことで、より迅速で適切な情報 提供や支援調整を行うようにしている。
平成22年7月出水時には、福岡県、福岡 市、北九州市へ6名派遣している。
(2)情報共有・提供
九州地方整備局の光回線等を用いた大容 量通信網による防災情報共有プラットホームを構 築中であり、各機関の施設管理情報や被災 地からの情報を集約し、地方自治体、防災 関係機関とリアルタイムでの情報共有を行 うことで地域防災力強化を図っている。
また、被災現地のリアルタイム映像(ヘ リ、地上)を見ながら、テレビ会議システ ムを用いた遠隔防災会議を地方自治体首長 らと行い、被災状況把握や応急対策検討の 支援を行っている。
(3)現地画像伝送システム
土砂災害、堤防決壊、道路法面崩壊など、
多様な形態の災害に対して避難警戒や災害 復旧を迅速・的確に対応するためには、被 災地の状況をできる限り正確にリアルタイ ムで把握する事が極めて重要である。そこ で、整備局が現在有しているカメラ、パソ コン、機材等のICT(情報通信技術)を 活用して、災害現場の状況がリアルタイム で伝送される現地画像伝送システムの構築 に取り組んでいる。
情報共有・提供
現地画像伝送システムは、移動型と据置型 の2通りあり、移動型はヘリコプター、情 報収集車、ビデオカメラ、携帯電話(テレ ビ電話機能利用)等の映像を管内ネットワ ークやインターネット等により、災害対応 関係機関等に伝送するものであり、現地に 撮影箇所等を指示しながらリアルタイムで 現場の状況を確認できる。
据置型は、固定型監視カメラ(衛星伝送 利用)や遠隔制御型監視カメラを災害現場 等に据え置き、県、市等の関係者へも映像
を提供するものである(図-1)(図-2)。 (4)災害対策用機械の派遣
管内の県及び市町村に対して、整備局が 所有する災害対策用機械の機能、活用事例 や要請手順等の説明を実施し、災害時には 災害対策機械の派遣とともに人員を派遣し 適切な配置や操作の指導を行っている。
今年の梅雨期にKu-SAT(衛星小型画像
図-2 鹿児島県南大隅町における土砂災害 箇所の監視支援(平成22年7月~)
(県庁、地域振興局、役場において監視)
伝送装置)2カ所、照明車2カ所、ロボQ
(簡易遠隔操縦装置)1 カ所、配置や操作 指導のための整備局職員とともに派遣して いる。
図-1 災害箇所の映像を常時監視、自治体等へも 映像を提供
平成21年7月中国・九州北部豪雨時の連携・支援
(福岡県那珂川町、佐賀県佐賀市)
3.おわりに
局所的 な豪 雨に よる突 発的な 河川 氾濫 や、大規模な地すべりなど、地方自治体の 対応能力を超えた災害 が多発してきてい る。被災した地方自治体に対して、国土交 通省及び関係団体等が有する資機材、マン パワー、ノウハウ等を活用した支援の重要 性は、ますます高まるものとみられる。防 災情報共有化および画像伝送システムの整 備・活用、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE) の体制強化など、地方自治体との連携・支 援体制を進め、九州の総合的な防災対応能 力の向上に努めていきたいと考えている。
豪雨と土砂災害 -地盤系技術・研究者の真価が問われるとき-
九州大学大学院工学研究院 安福 規之
九州は、台風や梅雨末期集中豪雨の常襲地域で、過去に多くの土砂災害が発生し、行方不明・
死者の数は過去10年間で全国比率の約40%を占め、絶対数は激減しているものの九州地区が 全国に占める割合は増加傾向にある。また、近年は全国的に集中豪雨が増加し、特に局地的な 集中豪雨が斜面災害の誘因となっている。昨年の7月、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」
と気象庁により命名された豪雨によって福岡・山口を中心として多くの土砂災害が発生し、各 地に甚大な被害を引き起こしたことは記憶に新しい。
この土砂災害の学術的な調査を通して、いくつかの重要な事項が指摘されている1)
しかしながら、対策を必要とする危険個所は九州内においてさえも膨大な数に上り、経年変 化による斜面の劣化等を踏まえると、その数は増えることはあっても減ることは無いと考えら れる。このため、内閣府の“死者ゼロを目指して”を掲げた目標の達成には、今後とも、土砂 災害の定量的予測精度を高め、その結果から優先順位を付けて被害を最小限に留めるための技 術的対応を地道に進めることが重要であり、それとともに、「施設整備」、「警戒避難」、「土地 利用制限」を踏まえた政策がバランス良く推進される必要があろう。
。ひとつ は、崩壊の発生時期と斜面勾配には関係性が認められたことである。このことは、斜面勾配と 崩壊の発生時期および地域の地形・地質特性を、例えばGISの様な情報ツールを用いて、整理 するだけでも、崩壊の予測の精度が現状よりも高まることを示唆しよう。また、土砂災害の定 量的な予知・予測技術を深化させる上で崩壊メカニズムを追求するための地道な研究の重要性 についても実証的に言及されている。さらに、被害事例の検証から、砂防堰堤などの防災施設 の有無が保全対象に与える影響は歴然としており、ハード対策の有効性についても再確認され ている。
それには、行政・住民の役割分担や両者の活動内容の質が大きく関与する。すなわち公助(行 政)、共助(地域コミュニティー)、自助(住民個人)の三者が一体となった防災活動が必須で ある。つまり、行政には、住民に向けた情報伝達(避難勧告など)を「早く」、「易い言葉で」、
「直接的に」一人一人に語りかける工夫がより一層必要であり、住民は地域リーダーを決め、
自主防災の活発な活動を行うことが肝要と思われる。自主防災活動には、地域に即した防災マ ップを行政・住民一体となって作成することと、住民の”我が家は大丈夫!”等の根拠のない 過信を是正するための講習会なども有効であろう。この防災マップや講習会は、発生する災害 に対する意識・認識が共通である町内会単位が理想である。一方、斜面災害に関与する地盤系 研究者・技術者は,降雨情報のみで地域の地盤情報(地盤物性や地形など)が十分に考慮され ていない現在の「土砂災害警戒情報」に取って代わる地盤情報を加えた精度の高い“降雨と崩 壊の関係”に関する解析手法、降雨量の情報を反映して危険度合いを表現したリアルタイム広 域防災マップや行政・住民の共同作業で作成する地域密着型防災マップに資する質の高い地盤 工学的な情報の提供、崩壊を予測するリアルタイムモニタリングシステムの構築等に対して積 極的な技術開発に努め、主体的に社会とかかわっていくことが求められよう。
近い将来、防災・減災に向けた細密な降雨観測予測体制として、100m範囲で降雨情報の提 供が可能になることが期待されている。このような環境が整えば、降雨情報と地盤情報を組み 合わせて、個々の斜面ごとにどの程度の降雨であれば危険なのかを適切に情報発信するための 技術が意味をもち、重要となる。地盤系技術者や研究者の真価が直接的に問われるときは、そ んなに遠くないのである。現状をしっかりと認識し、来たるときに備えたいものである。
参考文献1)平成21年7月九州北部豪雨による土砂災害調査報告書、2010年3月、(社)地盤工学会
巻頭言
(専門:建設デザイン部門 地盤学講座)
2009 年 7 月福岡都市圏における豪雨 災害の特性と行政機関、住民の対応
九州大学大学院工学研究院 橋本 晴行 九州大学大学院工学府 内村 圭佑・斉藤 美咲
1.はじめに
2009年7月24日から26日にかけて、総 雨量が最大 613mmもの豪雨が福岡都市圏 を中心に九州北部を襲い、福岡県全体で、
死者 10 名、床上浸水 1,371 棟、床下浸水 3,851棟、崖くずれ1,115件におよぶ甚大な 被害が発生した1)。著者らは、災害直後よ り、福岡都市圏および飯塚市の被災地を訪 問し、行政機関や被災住民に聞き取り調査 を実施してきた。本研究は、その災害時に おける行政機関の対応および被災住民の避 難行動や災害に対する意識について調査し たものである2、3、4)。
2.2009年7月24~26日豪雨の概要
図-1 は、福岡都市圏の主要河川流域(福 岡都市圏流域と総称する)及び飯塚市にお ける3日間の総雨量を観測点ごとに示した ものである。那珂川、御笠川、多々良川流 域の各地および飯塚市において総雨量は 500mmを超えた。
2)
図-2は、7月24日から26日までの降雨 の時間変化の一例(気象庁篠栗観測点)と、
福岡都市圏及び飯塚市における被害状況を 示している。個々の災害は比較的小規模で あったが、被災地は広範囲に数多く発生し た。また小規模な水路でも、一度氾濫すれ ば危険である。
まず、気象庁は、7月24日17時09分、
福岡地方に大雨・洪水警報を発表した。次 に、17 時10 分には土砂災害警戒情報を発 表した。その後ただちに17時20分頃から集
中豪雨が発生した。瑞梅寺川、樋井川、御笠 川、宇美川、多々良川流域の各地において、
さらに飯塚市において、連続降雨総量は 200mを超え、最大時間雨量も90mm/hを超 えた。25日は小康状態が続き、26日未明(4 時頃)から再び集中豪雨が発生した。那珂川
図-1 福岡都市圏流域及び飯塚市に おける7月24日~26日までの総雨量
図-2 7月24~26日における篠栗町の降雨と 福岡都市圏における主な被害状況
日付 25日
時刻 18時 19 20 21 22 1~2 8 9 10 11 12
24日 26日
大 野 城 市 に て 九 州 自 動 車 道 走 行 中 に 崩 壊 に よ り 二 名 死 亡 多々良川
篠 栗 町 山 手 公 民 館 周 辺 で 河 川 氾 濫
軽 自 動 車 が 道 路 上 の 氾 濫 流 に 流 さ れ、 用 水 路 に 転 落 し て 1 名 死 亡 前原市
那珂川町 各 所 で 冠 水
各 所 で 河 川 氾 濫
・ 那 珂 川 町 役 場 浸 その他
宇 美 川 流 域 で 河 岸 侵 食 に よ り 家 屋 流 出 片
島 周 辺 が 冠 水 用 水 路 の 深 み に 足 を 取 ら た か、 一 名 死 亡
崩 壊 に よ り 家 屋 全 壊
. 2 名 死 亡
山 手 公 民 館 周 辺 で 河 川 氾 濫 福
岡 市 東 区 の 須 恵 川 で 河 川 氾 濫 樋 井 川
・ 宇 美 川 各 所 で 河 川 氾 濫
飯塚
福 岡 空 港
・ 福 岡 市 中 央 区 今 泉 そ の 他 多 く の 地 点 で 冠 水
篠栗(気象)
0 20 40 60 80 100 120
0 100 200 300 400 500 600
7/24 7/24 7/25 7/25 7/26 7/26 7/27
時間雨量(mm/h) 累積雨量(mm)
0:00 12:00 0:00
0:00 12:00 12:00 0:00
(金) (土) (日)
r(mm/hour) R(mm)
流域において連続降雨総量約300mm、最大時
間雨量77mm/h、御笠川流域では連続降雨総
量約200mm、最大時間雨量65mm/hを記録 した。
図-3は、7月24日の降雨及び水位の時間 変化の一例を示したものである。樋井川、
宇美川、多々良川流域では24日に洪水氾濫 が発生しており、この水位のピーク付近で 氾濫したものと考えられる。大雨洪水警報 発表からピークまでは、早い所で2時間21 分、遅い所で3時間31分しかなかった。
3.行政機関の対応
図-4は、24日の福岡都市圏における避難 勧告・指示対象者数の推移を示す。図-3と 比較すると、避難勧告の発令が河川水位の ピーク付近に集中していることが分かる。
ピーク時刻と比べると、発令時刻は早い所 で1時間10分前、遅い所ではピーク時刻の 55分後であった。
4)
今回の災害時における行政機関の対応を 調べるため、2010年2月から3月にかけて、
福岡都市圏の 17 の市町村に対して複数選 択方式によるアンケート調査を実施した。
避難勧告の発令を実施した市町村(N=11 市町村)に対して、その判断の根拠につい て尋ねたところ(図-5)、河川水位の危険水 位突破が判断基準のひとつとされたが、い くつの地区では、浸水や土砂崩れが確認さ れてからの発令となった。このように災害 現象の確認後に避難勧告が発令されるなど、
発令の遅れが見られた。結果として、福岡 都市圏の避難勧告・指示の発令が19時過ぎ から 20 時半にかけて集中することとなり
(図-4)、災害の発生とほぼ同じ時期となっ た(図-2)。
避難勧告・指示の伝達手段は、屋外放送 (広報車含む)や消防団、コミュニティのリ ーダーによる呼びかけ、報道機関への発表 など複数の伝達手段が用いられていた(図
8 9 10 11 12 13
14 0
50 100 150 200 250 300
H (m) r (mm/h)
Time
12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 24:00 福岡(気象)
19:00 21:40
18:30
22:20 樋井川ピーク 那珂川ピーク 宇美川ピーク 多々良川ピーク 氾濫危険水位
氾濫注意水位
下日佐橋水位
0 20000 40000 60000 80000 100000
累加対象者数 人
Time
12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 24:0
図-4 7月24日の福岡都市圏における 避難勧告・指示対象者数の推移
図-6 避難勧告・指示の伝達手段
5 6 2
1 3
4 0
0 0
0 2 4 6 8
その他 土砂崩れが確認された 土砂災害の前兆が確認された 県の土砂災害警戒情報の発表 浸水が確認された 河川の水位がはんらん危険水位を突破した 河川の水位がはんらん注意水位を突破した 降り始めからの(連続)総雨量が基準を越えた 時間雨量が基準を越えた
件 避難勧告はどの様な判断で発令しましたか?(N=11)
(複数回答)
図-5 避難勧告・指示の判断の根拠
3 2
5 4 3 3
5 0
5
9
0 2 4 6 8 10
その他 ホームページで公表 報道機関へ公表 防災無線による連絡 屋外設置のスピーカーからの放送 屋外設置のサイレン 広報車の巡回 その他地域リーダーを通じて住民へ連絡 自治会長,組長を通じて住民へ連絡 消防団員あるいは消防署員による呼びかけ
件 避難準備情報,避難勧告などの住民への伝達方法(N=11)
(複数回答)
図-3 7月24日の降雨・水位の時間変化
-6)。しかしながら、後述のように、多く の住民には避難勧告・指示の情報が届い ていなかった。仮に避難勧告・指示の情 報が住民に伝わったとしても、その頃は、
河川水位はピークに達し、一部で河川氾 濫が起きていた。勧告通りの避難が逆に 危険であるという状況であった。
4.被災住民の対応
福岡都市圏及び飯塚市の浸水被害にあ った地域住民を対象として、2009年7月 29日から12月24日にかけて聞き取り調 査を行った。調査対象数は N=33 件であっ た。ここに、調査対象住民の42%が床下浸 水、58%が床上浸水の被災者であった。
3),4)
図-7 は、調査対象住民の居住地区に市町 村から避難勧告発令があったどうか調べた ものである。調査対象住民の43%が浸水の 進行中に、18%が浸水の終了後にそれぞれ 発令されている。そして39%の住民は浸水 したにもかかわらず、避難勧告発令がなか った。豪雨時における被害想定、被災地の 確認および避難勧告発令のタイミングの難 しさが分かる。
図-8 は、被災住民の避難行動に関する聞 き取り調査結果を示したものである。
住民に対して実際に避難の呼びかけがあ ったかどうか質問したところ、住民の27%
は呼びかけがあったが、73%は無かったと 回答した。事前・事後にかかわらず、調査 対象住民の61%に避難勧告が発令されたに もかかわらず、実際に呼びかけを受けたの はその半分であった。放送があった様だが 雨音で聞こえなかったという住民も数名い た。呼び掛けがあったと答えた住民の内、
区長・町内会長からが最も多く、次いで隣 近所からであった。この様に地域コミュニ ティ内からの呼び掛けが多かった。
実際に避難した人は21%で、避難した理 由として、隣近所や消防団からの呼びかけ
があったことや、浸水があったこと等が挙 がった。一方、避難しなかった人は73%で、
その理由としては、自宅の二階に避難すれ ば大丈夫だと思った、避難するほど危険に なるとは思わなかった、避難するほうが危 険であると判断したことなどであった。
水害情報をテレビ・ラジオやインターネ ットなどを通して取ったかどうか尋ねたと ころ(図-9)、過半数の住民が情報を取って いなかった。その理由は、時間的余裕がな かったことと、停電等が挙げられた。住民 の多くが、浸水が発生して初めて自分自身 の置かれた状況を理解するが、情報収集ま で自分自身で行うには至らなかった。
一方、約20%の住民がテレビ・ラジオから 災害情報を取っていた。テレビは普及率が 高く、つけていれば情報が流れてくるため、
災害等の情報を得るのに有効である。
水害時のハザードマップの利用状況につ いての質問では、利用したと回答した人は おらず、利用しなかったが知っていた住民 は18%、知らなかったという住民は79%だ った。ハザードマップを知っていた人も、
実際にどう使えばよいのか分からない、ま たは役に立たないという人が多かった。
過去の防災訓練の参加状況について尋ね たところ、76%が参加しておらず、参加し た人は24%であった。防災訓練はあるが、
災害前に避 難勧告あり
0%
災害発生中 に避難勧告
あり 43%
災害後に避 難勧告あり
18%
避難勧告なし 39%
対象住民に対する避難勧告の有無 (N=33)
図-7 市町村から住民への避難勧告発令の有無
水害についての訓練は行われてい ない所が多かった。また、隣近所 単位での防災訓練でなければ意味 がないといった意見もあった。
過去に水害を経験し、かつ地域 の繋がりが強い地域はコミュニテ ィ単位で避難を行っていた。しか し、過去に水害の経験があった住 民でさえも、事前に車を避難させ たが、その間に道路が浸水し、自 宅に帰ることが困難になった例も あった。水害時の状況を的確に判 断するのは困難であると言える。
5.おわりに
今回の豪雨被害は広範囲に数多 く発生した。また急激な豪雨のた め水位上昇が早く、災害対応の時 間が非常に短かった。結果として、
災害の進行中に避難勧告発令が集 中した。また、避難勧告の発令が あった地区で、避難の呼びかけを 受けなかった被災住民がかなりい た。伝達手段としてテレビ,ラジ オなどの活用も考える必要がある。
急激な豪雨の場合、行政機関の
対応が遅れる場合もある。個人レベルで的 確な状況判断を下すのも困難である。地域 レベルにおいて「空振り」覚悟で「早めの 避難」を呼びかけ合うなど、コミュニティ 単位の防災も考えるべきである。
最後に、本研究に際しては、福岡県、福 岡市、那珂川町、篠栗町、飯塚市総務課な どから災害に関する種々の資料を提供いた だいた。聞き取り調査においては多くの住 民の方々にご協力をいただいた。本研究は、
一部、科学研究費(20510176)の補助のもと に実施した。また河川環境管理財団平成22 年度河川整備基金の助成を受けた。ここに 記して謝意を表します。
参考文献
1)消防庁:平成21年7月中国・九州北部 豪雨について(第23報)、2009.
2)橋本晴行、齊藤美咲:2009 年7月福岡 都市圏流域において発生した豪雨災害(速 報)、第8回都市水害に関するシンポジウム 講演論文集、土木学会西部支部、9-14、2009.
3)齊藤美咲、橋本晴行、内村圭佑:2009 年7月福岡都市圏における豪雨災害の特性 と住民の対応、自然災害研究協議会西部地 区部会報・論文集、34号、73-76、2010.
4)橋本晴行:2009 年7 月九州北部豪雨災 害、第6回福岡県防災講演会、福岡県・地 域防災研究会、11-30、2010.
1
6 3 2 2
7 1
1 2 1
0 2 4 6 8
雨が弱くなってきたため 自宅の2階,マンションの上の階なので十分だと思った 避難する方が危険だと判断した 水がすぐに引いたから 家財等の移動作業が忙しかったため 避難する程危険になると思わなかった 避難誘導・土嚢積み等を行っていたため 自宅(店舗)が心配だったため 帰宅した 未回答
件 避難しなかった理由(N=24)
(複数回答)
呼びかけあり 呼びかけなし 27%
73%
避難の呼び掛けがあったか(N=33)
9 2
3 1
3 1
20
0 5 10 15 20 25
テレビ・ラジオ インターネット 携帯電話 区長・町内会長 隣近所 家族・親戚 取っていない
件 水害に関する情報
図-8 住民の避難行動に関する聞き取り調査結果
図-9 住民の災害情報収集に関する聞き取り調査結果
2009 年 7 月山口災害に見る防災
長崎大学 高橋 和雄
1.はじめに
2009 年7月 21 日の山口県豪雨災害で、
防府市を中心に土砂災害が頻発し、特別養 護老人ホーム・ライフケア高砂で死者7人 を始め、14人の人的被害が発生した。被害 が大きかった防府市では大雨警報や土砂災 害警戒情報等の気象警報等は受け取ってい たが、避難勧告発表や住民の自主避難に結 びつかなかった。土砂災害防止法によって 都府県が指定した土砂災害警戒区域等のデ ータに基づいて、市町村による土砂災害ハ ザードマップの作成や土砂災害警戒情報の 避難勧告基準への採用が迅速に進まない状 況下での災害発生であった。本報告では、
防府市を中心として今回の災害の防災対策 に関わる課題と土砂災害に関する防災シス テム改善方策を提言する。
2.7月21日の災害対応
図-1にAMeDAS防府市の降水量の防府 市の災害を示す。 21日早朝に大雨警報が 発表され、7時から雨が強くなり、7時40 分に土砂災害警戒情報が防府市に発表され た。防府市内では、あちこちで浸水等の被
害が出始め、市役所は市民からの800件に 達する電話通報への対応と現地確認等の情 報収集に追われ始めた。昼間に発生した集 中豪雨に対して、市役所の職員は揃ってい たが、災害時の役割分担が徹底しておらず、
通常の窓口業務サービスも継続したため、
地域防災計画に基づく一連の災害対応が取 れなかった。窓口業務の職員には災害対策 本部の決定事項等の提供はなく、市民対応 に混乱が生じた。現地確認のために職員を 派遣したが、職員が出払い本部詰めの管理 職まで出動し、災害対策本部に詰める職員 が少なくなった。災害対策本部が機能しな い状況で土石流災害が発生した。
表-1に示すように12時頃に国道262号勝 坂、奈美、真尾地区等で土石流が相次いで 発生し、市内で14人が被災した。被害発生 後から救出活動が始まったが、国道 262号 上勝坂地区では 救助に向かった消防車両 3台が一般の車とともに流され、消防隊員 13人が一時行方不明となったが、全員が車 から脱出した。特別養護老人ホーム・ライ フケア高砂では、上田南川から発生した土 表-1 7月21日の災害の発生・対応の記録
時間 内 容
04:10 防府市に大雨警報発表
07:40 防府市に土砂災害警戒情報発表
08:08 山口県内全域に洪水警報発表
08:30 防府市災害対策本部設置
10:00 山口県災害対策本部設置
11:56 防府市国道262号上勝坂付近で土石流発生
12:08 国道262号上勝坂付近で救助に向かった消防隊員
13人が鉄砲水で流され、一時、行方不明
12:14 防府市奈美で土石流発生
12:15 防府市真尾(ライフケア高砂)で土石流発生
12:15 防府市真尾大歳地区で土石流発生
12:28 山口県防災ヘリ「きらら」出動要請(防府市消防局)
13:02 「きらら」、国道262号上勝坂付近にて救助活動開始
14:10 防府市右田上地区に避難勧告発表(防府市)
14:12 山口県災害派遣医療チーム(DMAT)が防府市内で
活動開始
15:40 北九州市ヘリ,ライフケア高砂にて救助活動開始
15:49 福岡市ヘリ、防府市奈美にて救助活動開始
16:10 防府市勝坂・神里地区に避難勧告発表(防府市)
16:20 陸上自衛隊第13飛行隊ヘリ,ライフケア高砂にて
救助活動開始
17:20 防府市真尾大歳地区に避難勧告発表(防府市)
23:37 洪水注意報に切り替え
システムの課題と見直しの提言
0 10 20 30 40 50 60 70
4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 時間 時間雨量
(mm/h)
0 50 100 150 200 250 300 累積降水量
(mm) 降水量(mm)
累積雨量(mm)
4:18大雨 警報発表
7:40 土砂災害警戒情報発表
12時前後
上勝坂・奈美・真尾の 3箇所で土石流発生
14:10 右田地区に 避難勧告発令
図-1 7月21日の防府市の降水量
石流によって、建物内1階に大量の水と土 砂が流入し、高齢者7人が被災した。
陸路での救出活動や偵察、情報収集は道 路の寸断等で無理で、また危険であるため、
山口県や周辺の自治体のヘリコプターが出 動した。市役所から避難勧告が発表された のは、災害発生後であった。災害発生後は、
山口県危機管理部門によって陸上自衛隊、
DMATの出動要請、道路啓開用の重機の手配 等がなされた。
表-2に山口県西部・中部の警報の発表と 避難情報の発表状況を示す。 下関市が避難 準備情報を発表した。下関市の土砂災害に 関する避難勧告基準を表-3に示す。土砂災 害警戒情報発表時に、山口県土砂災害警戒 判定メッシュ情報レベルや積算雨量等から なる避難基準を定め、かつメッシュ内の地 区名がわかるように地域防災計画に記載 しているので、避難準備情報が発表でき た。また、土砂災害ハザードマップも作 成済みであった。これに対して、防府市 では、土砂災害ハザードマップが未作成 で、地域防災計画には避難勧告基準に具 体的な数値が記載されていなかった。ま た、土砂災害危険区域が防府市内に587 箇所もあったが、地域を特定するメッシ ュ情報を活用していなかった。
3.7月22 日以降の災害対応
21日の時点で防府市に災害救助法が適 用され、22日から本格的な救助捜索活動が 開始された。広域的な緊急応援隊等の支援 に加えて、日本レスキュー協会(救助犬)や 九州救助犬協会が風水害の救助救出活動に 本格的に加わった。また、国土交通省緊急 対策派遣隊(TEC FORCE)が活動を開始し た。24日16時24分に防府地域に大雨警報 が発表され、17時00分に洪水警報、18時 25分に土砂災害警戒情報が発表された。防 府市では、13時10分と16時40分に避難
勧告等が78地区、12,275世帯、28,338人(人 口の25%)に発令された。
4. 災害対策の特徴
災害発生後の主として行政の対応につい て、特徴的なことがらをまとめる。
①防府市では、電話等による市民からの通 報、確認作業に追われ、組織的な災害対応 は出来なかった。
②土砂崩壊による道路の決壊等によって、
陸路による偵察活動、救助活動が困難だっ たため、ヘリコプターによる広域航空消防
表-2 7月21日の山口県西部・中部の警報の 発表と避難情報の発表(山口県とりまとめ)
市 町
大 雨 警 報 情 報
土砂 災害 警戒 情報
避 難 準 備 情 報
避難 勧告
避難 指示
下関市 6:28 8:10 8:35 11:30
宇部市 6:28 8:10 12:55
山 陽 小
野田市 6:28 8:10
山口市 4:18 7:40 9:28
防府市 4:28 7:40 14:10
周南市 4:28 7:40 下松市 4:28 7:40
表-3 下関市の避難勧告等の判断基準 (土砂災害警戒情報による基準)
分 類 内 容 避難準備
情報
土砂災害警戒判定メッシュ情報により 約
2時間後に「レベル 3(発表基準超過)」 に
到達すると予想される時
避難勧告
現在の降雨指標値が土砂災害警戒判定 メッシュ情報「レベル3(発表基準超過)」 に達し,土砂災害の前兆現象が発生した 時
隣 害 害
応援が、愛媛県、広島県、北九州市、福岡 市等から得られた。山口県災害派遣医療チ ーム(DMAT)の人員の輸送、孤立地区住民 の救出、上空偵察、物資輸送に大きな役割 を果たした。
③DMATが県災害対策本部の派遣要請によ り防府市に3チーム17人出動した。右田地 区での負傷者の手当て、搬送とライフケア 高砂での被災者への救助活動に当たった。
④災害情報の伝達、交通情報、ライフライ ンの復旧を、最近増えたコミュニティFM、
ケーブルテレビが従来のテレビ・ラジオと ともに災害報道をきめ細かく伝えた情報系 のインターネットにアクセスが集中したた め、通信速度の低下で情報収集が遅くなっ た。
⑤現在では、気象台が発表する土砂災害警 戒情報に加えて、これを補完する各種の情 報が提供されている。気象庁防災情報提供 システム(行政専用Webサイト)の土砂災 害警戒判定メッシュ情報(2時間先雨量予 測、5キロメッシュ)と山口県土砂災害警戒 情報システム(行政用)の土砂災害降雨危険 度分布図・雨量判定図(3 時間先雨量予測、
1キロメッシュ)がある。降雨については民 間のウェーザーニューズ水防対策支援サー ビスや九州防災ポータルサイト(国土交通 省九州地方整備局HP)等も活用できる。こ れらを下関市が活用した。
⑥TEC FORCE が二次災害防止、防災施設 の緊急点検をした。また、危機管理部門が 土木部門に重機を手配するなどの土砂災害 時の応急活動に庁内の連携が動き出した。
⑦避難所の運営は、新潟県中越地震の教訓 を活かした取組みがなされ、エコノミーク ラス症候群等への対応が適切になされた。
ボランティアが家屋内の堆積土砂撤去に貢 献をした。
⑧復旧や生活支援に関する情報の共有や提 供には課題を残した。河川やえん堤等の管
理者が県なのか市なのか不明な点や生活支 援の窓口が不明といった声が、ヒアリング 調査から判明した。土砂災害のように被災 集落が点在する場合は、被災者の組織化も 無理である。
⑨山口県から国の直轄事業による土石流対 策事業の要望が提出され、直轄砂防災害関 連緊急工事が、上田南川、剣川、奈美川等 の5河川等で実施された。技術力及び財政 力を勘案すると妥当な取組みで、国と県の 連携した防災事業が始まった。
5.提言
今回の豪雨災害への行政の対応等から次 のような提言が出来る。
(1)土砂災害降雨危険度の併用 土砂災害 危険箇所は膨大な数に上り、土砂災害警戒 情報のみで避難の判断をすることは無理で ある。土砂災害ハザードマップの作成、危 険箇所の巡回、地域住民からの通報等で、
避難勧告等の区域を判断するとともに、土 砂災害警戒情報を補足する砂防部門が提供 する地域の詳細な土砂災害降雨危険度を活 用することが現実的であると判断される。
(2)災害対策と通常の窓口業務 土砂災害 や浸水は地域の限定した箇所に発生するた め、通常の生活を送っている市民も多い。
災害が勤務時間帯に発生した場合に行政サ ービスと災害対応の役割分担、優先業務を 決めておく必要がある。また、災害対応の 業務内容(情報収集、情報伝達、情報確認、
広報等)も明確にすべきである。
(3)消防関係者・報道関係者等の安全管理 国道262号上勝坂地区における救助活動時 の消防隊員の土石流による一時行方不明、
取材陣の危険地区への立入りなどの安全管 理の課題がある。1991年雲仙普賢岳の火砕 流1)、2003年水俣市の土石流災害2)のよう な死傷に至らなかったが、被災のおそれが あった。救助体制が整えば、土石流安全対
策チームによる現場管理が可能であるが、
初動期の対策、土砂災害に関する職員の教 育が望まれる。自然災害による被災が減少 すると、経験不足から対応能力が低下する ことも懸念される。
(4)土砂災害防止法による土砂災害警戒区 域等の指定と地域防災計画との連携 都道 府県が土砂災害警戒区域を指定した後の土 砂災害ハザードマップ、避難計画等の作成、
住民の自主避難に対する情報提供は市町村 の役割になるが、一連の業務として連携や 引継ぎが機能していない側面もある。都道 府県の砂防部門は市町村がハザードマップ を作成しやすいように、作成して渡してい るつもりだが、受け取った地域防災を管轄 する防災担当の総務では作成は簡単でない。
災害発生後は、災害対策本部に対策が一元 化されるが、通常業務では縦割りの役割分 担で、住民対応は防災部門、福祉施設対応 は福祉部門、河川やがけ等は土木部門とな っている。専門性が求められる土砂災害に ついては、危険地の指定から警戒避難対策 まで一連の業務として位置づける必要があ る。
(5)土砂災害の警戒・対策に専門家の活用 河川氾濫の水位情報のような明確な指標に 比べて、土砂災害発生予測には目に見える 指標はなく、見逃しや的中しないこともあ りうる。現在取り組まれている前兆現象等 に着目した地域住民の取組みは有効と思わ れる。火山噴火時の研究者の助言、国土交 通省による洪水時の市町村への情報提供と 助言等が減災に寄与している。また、土砂 災害発生後は、TEC FORCEや大学の研究 者を派遣するTEC DOCTORの活用が始ま った。地域に在住する地盤関係の研究者が、
日頃から市町村内の危険箇所を把握し、市 町村の担当者と顔の見える関係を築き、災 害の発生のおそれがあるときに助言を行う システムも検討すべきである。
(6)防災施設の有効性の定量的評価 防災
施設の整備効果は、災害時にどの程度機能 したかで評価される。被害の原因究明とと もに、被害軽減効果を評価していくことも 必要で、定量的な減災効果説明が必要であ
る。防災施設の整備の費用対効果に結びつ けるべきである。
(7)建設業の活用 災害発生の初動期を担 う消防部門は、土砂災害に対して道路啓開 や倒壊家屋を安全に撤去する重機を保有し ていない。さらに、土砂災害の前兆現象や 二次災害に関する知識が少ないので、災害 出動中の被災のおそれがある。さらに、地 方都市では高齢化・過疎化が進展し、災害 時要援護者の避難を支援する人材が地域に 居ないことが課題となっている。この問題 を解決する方策の一つは、災害復旧の段階 からではなく、災害予防や災害応急の段階 から建設業を活用することである。すなわ ち、災害時要援護者の避難に建設業が保有 している工事用車両の活用や災害発生時の 人命救助段階における建設機械の活用等を 行うことが可能である。建設業は市町村内 に拠点を持ち、資機材に加えて地域精通度 や専門的知識があるので、災害発生のおそ れの段階から活用できるポテンシャルをも つ。災害対策基本法の枠組みを見直し、建 設業を活用するシステムを検討して欲しい
(図-2)。
災害予防
(平時)
災害応急対策
(発災時) 災害復旧対策
(復旧時)
新規提案 実績有
・斜面・崖の点検
(民地)
・孤立集落対策
・食料の備蓄
・ライフラインの点検
・災害時要援護者の避難
・倒壊家屋からの人命救 助
・道路啓開
・重機の提供
図-2 建設業の活用ステージ
(8)被災地と行政の信頼関係の構築 著者 が実施した住民アンケート調査の結果等に よれば、被災地の住民の災害対策に関する 行政の対応に対する評価は高くない。地域 の復興に当たっては、両者の信頼関係と協 力体制が不可欠であるが、残念ながら信頼 関係が構築されていない。地域のリーダー の発掘やアドバイザーの派遣等の支援が必 要と思われる。
6.まとめ
内閣府の自然災害による犠牲者をゼロに する取組みに代表されるように近年の自然 災害による死者は減少してきており、解決 すべき課題も見えている。自然災害による 犠牲者の半数以上の55%を占める風水害対 策は、他の災害よりも難しいことが知られ ている。土砂災害危険地の防災工事の進捗 率が20数%で、対策工事が進む見通しが立
たないこと、土砂災害の予知・予測に限界 があることなどであろう。したがって、ハ ード対策に加えて、土砂災害防止法に代表 されるソフト対策の充実、公助・共助・自 助の連携された取組みがなされているが、
今回の災害では生かされたとはいえない。
組織等の連携等を進め、実効性がある防災 対策を実現する時期で、地域に存在する大 学はその役割を果たすべきと考える。
参考文献
1) 高橋和雄主査: 1990-1995雲仙普賢岳噴 火災害報告書、内閣府中央防災会議災害教 訓の継承に関する専門調査会、全213頁、
2007.3.
2) 高橋和雄,河野祐次,中村聖三:2003 年7月水俣市土石流災害時における住民の 行動・判断に関する調査、自然災害科学、
Vol.24、No.1、pp.33-48、2005.